無事に勉強会の発足が認められて1週間。
PDA経由でアナウンスされた勉強会の参加人数は上々だった。
各学年で10人弱のメンバーが集まることとなった。
久遠の提案通り、初回の勉強会実施に先立って、各学年代表の打ち合わせが実施されたらしい。
らしいというのは、久遠としては会議に参加せず、決定事項に沿って勉強会を進めるつもりであったためである。
久遠の知り合いとしては、議長に吹雪、参加者に亮、法子、楓という面々が出ていたらしい。
「いやー、大変だったんだよ」
「何がですか?」
初回の講習で何をやるかを報告に来てくれた吹雪が珍しく愚痴るので、久遠は聞き返す。
普段人前でこういった弱みを見せるタイプでないだけに、気になるのである。
「初回からね、『なんで俺たちがZ組の意見を聞かなくっちゃいけないんだ!!』って荒れたんだよ」
「初っ端からですか」
「うん、あれは3年の綾小路と1年の……確か取巻君だったかな?その二人がZ組の代表が出した意見に対して悉く反対したんだよ」
「取巻……知らないなぁ……誰だろ?」
「知らない?よく万丈目君と一緒にいる子だけど」
「……………………………ああ、あいつですか」
うろ覚えではあるが、何となく思いだした。
歓迎会の時にぽつねんとしていた久遠に話しかけてくれた、Z組生徒を押しのけた生徒である。
当然ではあるが、久遠としてはあまり良い印象を持っていない
「ま、その辺は亮と石原さんがうまいことたしなめてくれたんだけどね」
「参加権を放棄した身で言うのもなんですが、そういうの繰り返すようだったら代表変えてくださいね」
「そこは僕からも言っておいたよ。」
「ありがとうございます。それで、結局1回目のテーマは何になったんですか?」
「それがね……」
----------------------------------------
「はーい、それじゃあ第一回の勉強会を始めるよー」
空き教室の一角を借り、第一回の勉強会が開かれる。
基本的に勉強会は参加必須というわけではなく、その時その時に都合がいい学生が集まる仕組みにしてある。
そのため、開催規模が大きくならない程度なら、こうして空き教室で実施するし、規模が大きくなるようだったらもっと大きな場所、たとえば講堂や体育館などを借りて行うようになっている。
これらの調整などは全て吹雪と
何気に、この男はプロである久遠よりも人気者なのかもしれない。
……久遠帝がほとんどメディアに露出しないのも一因だろうが。
「今回のテーマは『弱点克服』なんだけど……どうやって進めようか?」
「弱点なんて人それぞれ違うんですから、まずはデュエルしてみたらいいと思いますよ」
「……ふつうだね」
「そりゃデュエルの勉強会なんですからデュエルしないと。で、なるべく別ランクの人とやってください。で、勝ったら負けた方に何か一つでもアドバイスしてあげてください。」
「ふむ……普段と違うランクの人とやるのか……でもそれじゃ僕らの勉強にならないんじゃない?」
「なので、5連勝した人には僕が挑みます」
「え?久遠君参加しないの?」
「全体のデュエルを見たいんで、最初は見学に回ります。こんなの持ってきたので」
そう言って、久遠が取りだしたのはタブレットの様なもの
勉強会に参加していた亮が不思議そうに覗き込む
「ん?何だそれは」
「KC社から借りてきたデュエルディスクのロガー(記録取り機)の試作品です。これなら複数のデュエル手早く追えるので、個別に気になるところをアドバイスできるかな、と」
「ふむ……ある程度の人数がいるのだから久遠が個別に見るより全体を見てもらった方がいいか」
「まぁ基本的には対戦相手に指摘してもらえると思うんですけど……見落としはあるでしょうから」
「それは俺たち上級生へのプレッシャーだな」
「ええ、それを狙ってますから。しかし、本当はアカデミアのあるべき姿ってこうだと思うんですが、なぜか同格とばかりデュエルさせようとしますね」
「同格と戦って得るものも結構あるがな」
「程度問題ですよ。それが馴れ合いになっては意味がないです」
「それはそうだな……ところで……」
亮が久遠の後ろを覗き込む。そこには1つの段ボール箱。
「それは?」
「これですか?カードです」
「何?こんな大量にか?」
「地方に飛ぶことも結構多いんですが、そこのカードショップで面白そうなカード見つけると買って、それを主軸にしたデッキ作るようになったんです。こいつらはまだそれに組みこめてないので、どっかで使ってやりたいな―と思ってて、今日有効活用してくれそうな人がいればトレードするかあげてもいいかなと思ってます。」
「これ、結構な値段するんじゃないか?」
「全部売っても小学生の小遣いくらいですね。ステータス低かったり、効果が強いと思われないせいか安売りになってるのを基本的に狙ってるので。」
「そうか……何かいいのあったら交換してくれ」
「いいですよ」
「そろそろいいかい?亮、久遠くん」
「あ、ごめんなさい。こっちは準備できてます」
「ああ、すまん。」
「それじゃ、みんな。準備できたみたいだ。始めようか?」
----------------------------------------
勉強会としてはある程度実施する意義があったように思える。
「えーっと、《リビングデッドの呼び声》を使うタイミングがおかしいです。折角リクルーターが墓地にいるんで、前のターンのダイレクトアタックの時に使えばダメージも少なかったと思いますよ」
「どういうことだ?」
「このターンに生贄にするために《荒野の女戦士》を蘇生したんですよね?だったら前のターンのダイレクトアタック時に蘇生して倒されると、ダメージが1100減って、リクルートするんで結局生贄用のモンスターはいることになります。結局そっちの方が得なんですよ」
「なるほどな……」
「表側守備表示で召喚する意味がない場合、裏守備の方がいいですよ。守備力高いモンスターなら反射ダメージも見込めますし」
「表側守備がいいのはどういうモンスターなの?」
「基本的に表表示にしておきたいモンスターです。神倉のディフェンダーなんかは召喚時にカウンターを乗せるんで、表の方がいいです。逆にリバース効果モンスターを表側表示とかはあり得ないですね」
といった、初級者に対するプレイングミスの矯正をしたり。
「石原先輩の場合、黄泉帝だからどうしても守勢が弱くなるんですよね……フリーチェーンだけだとどうしても限られますし……。基本的に除去は帝に頼るんで《大寒波》とかもありかもです。」
「なるほど」
「自分の魔法、罠が使えなくなるのが嫌われてか高くないですしね。狙い目かもしれません」
「久遠くん持ってる?」
「ありますよー。持ってきてるんで後でトレードしましょうか」
「前から言ってるけど、デッキシナジーなさすぎじゃない?《地獄の番熊》を【チェスデーモン】でもないのに入れるってどうなのさ?」
「む…しかしだな……」
「たまにそういうプロとも決闘するけど、あんまり成績残せる人多くないよ」
「しかし、響プロは同じ名前ので結果を残してるじゃないか」
「紅葉さんかよ。あれは
「違いがよくわからんが……」
「たとえば《ヒーローシグナル》は『E・HERO』を特殊召喚するカードみたいに対象がカテゴリーになってんだよ。そこで守勢なら守備力重視のモンスターを出したり、手札が足りなければドロー効果モンスターを出したりって選択肢ができて柔軟に戦えるんだよ。お前の地獄デッキで『地獄』とか『ヘル』を参照するカードってないだろ?だからカードが個別個別になってて柔軟に戦えないんだよ」
というデッキ構築論の話に移ったり。
「楓、1キルしてんな。なんでお前そのデッキで1キルばっかできんだよ。相手の実力見れないだろうが」
「亮さんもです。なんで初手にサイドラ3体にパワボンが居るんですか」
といういまひとつ勉強会の趣旨を理解しているのかどうかわからないメンバーも居たりだったが、ぼちぼち盛況だった。
久遠以外にも、亮、吹雪、優介、楓など実力が高いメンバーが相手に助言することもあり、有意義だったといえよう。
ときどき、Y組とZ組の間で小競り合いがあったようだが、これは小さいうちに吹雪がなだめてくれた。
こればかりは下級生の久遠ではどうにもならないことなので、有りがたい限りである。
----------------------------------------
「
「はい?」
「お付き合いを、お願いいたします」
一瞬場が凍りついたような気がする。
ついでに、亮さんと決闘させている楓の方から何かよくわからないプレッシャーを感じる。
楓としてはリベンジマッチなので気合が入っているのだろう
……たぶん。
「紫さん、5連勝したんですね」
「はい」
「おっけーです。やりましょうか。そういえば歓迎会では紫さんと決闘してませんでしたね」
「法子さんと周子さんの決闘を見て、私めも一度お手合わせをお願いしたいと思っておりました」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
それなら…と、自分のデッキをデュエルディスクに挿入する。以前使おうとして使わなかったあのデッキである。
準備を進めていると、そこに、吹雪さんがやってきた。
「いやー、せっかく4連勝までいったのに負けちゃったよ。藤原におしいところまで迫ったのになあ」
「ギリギリだったね。僕は次の相手が神倉さんだからまた大変だけど。」
「僕は石原の妹さんか……。そうそう、久遠くん、どうせなら紬さんのデュエルみんなの前でやってよ。うまいプレイングがこうだってのを見てもらうのも勉強じゃない?解説してくれるとなおうれしいけど」
やはり上位陣は3連勝くらいは軽くやってくるので、途中から上位陣のデュエルに組みかえてみた。
序盤のデュエルでいろいろアドバイスを受けた人がそれを気にしながら試すのはやはり同格同士で試す方がいいかもしれないという考えもある。
よって後半戦はX組同士、Y組同士という風に組みかえてみた。
これでだれるようだったらまたシャッフルが必要だろうが、とりあえずはうまくいっている様子だ。
しかし自分のデュエルを見せて解説するか。なるほど、そういう教え方もある。
そこは思い至らなかったと反省し。
「いいですよ。紫さんはどうですか?」
「構いません、僭越ながら教育係の助手を務めさせていただきます」
しばらく周囲のデュエルが終わるのを待つ。
あらかた終わったのを確認し、お互いに相対しデュエルディスクを構える。
「「デュエル!」」
----------------------------------------
TURN 1
紬紫(TP)【除去ガジェット】
- LP 4000
- 手札 6
鷹城久遠【サイカリガジェ】
- LP 4000
- 手札 5
----------------------------------------
「私めの番です。札を引きます」
あいかわらず調子が狂うといえば調子が狂う言い方。しかしこれは狙ってというわけではないらしい。
知りあってわかったが、普段もどちらかというとカタカナ言葉を発言するのが苦手そうであった。
歓迎会の時の吹雪さんの紹介にもあったが、全体的に日本風な印象がそれに違和感を与えない。
デュエルのシチュエーションにおいてのみ違和感があるが。
「私めは緑の歯車を攻撃表示で召喚いたします。」
《グリーン・ガジェット》 Lv4/地属性/機械族/攻1400/守600
現れる《グリーン・ガジェット》。対明日香戦でも披露していたが、完璧な除去ガジェット型らしい。
久遠のサイカリ型より除去特化には強い傾向があるが、展開力でそれを迎え撃つ。
「歯車の効果です。召喚に成功したとき、山札より赤の歯車を手札に加えます。」
グリーン・ガジェットの効果により手札に加えられる《レッド・ガジェット》。これで紫さんは実質手札消費なしでモンスターを展開できたことになる。
「そして札を2枚伏せ、私めの手番を終了いたします」
初ターンの配置は上々らしい。
きちんと後続を備えたままに、迎撃態勢も整えてある。
さて、崩しにかかるのは難儀だが。
「俺のターン、ドロー。」
手札を確認する。
相手の迎撃の選択肢次第だが、うまくいけばガジェットのつながりを断ち切れるかもしれない。
「俺は《サイバー・ドラゴン》を手札から特殊召喚。このモンスターは相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できる」
《サイバー・ドラゴン》Lv5/光属性/機械族/攻2100/守1600
亮さんのデッキにも採用されている機械竜。相手フィールドにモンスターが居るだけで特殊召喚できる展開力は十分魅力だ。
「この瞬間、罠を発動いたします。《激流葬》。モンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚したとき発動でき、フィールド上のモンスターを全て破壊いたします。」
いきなり攻撃力2000超えのモンスターが出てきたので焦ったか、サイバードラゴンが特殊召喚効果だということを忘れていたか、せっかく全体除去を積んでいたのにこのタイミングで使ってしまったようである。
お互いのフィールドのモンスター、サイバードラゴンとグリーンガジェットが破壊される。
「サイバードラゴンは破壊されますが、このターン、俺は通常召喚をまだ行っていません。《死霊騎士デスカリバー・ナイト》を通常召喚、攻撃表示です」
《死霊騎士デスカリバー・ナイト》Lv4/闇属性/悪魔族/攻1900/守1800
現れる黒色の騎士を前に、ここでようやく紫さんはミスに気付いた様子。
ではあるのだが、特に焦りは見えない。
つまり、もう一枚のカードで迎撃は可能であるということ。
召喚してなお発動してこないということは………。
「速攻魔法、《サイクロン》。もう一枚の伏せカードを破壊します」
「うっ……」
ここでようやく紫さんの顔に余裕がなくなる。
破壊されたのは、《聖なるバリア-ミラーフォース-》予想通り攻撃反応罠だった。
「これで紫さんのフィールドは空です。バトル!デスカリバーナイトでダイレクトアタック!」
「くぅぅっ……意識が……」
紬紫:LP 4000 → 2100
「カードを2枚伏せ、ターンエンド」
先制パンチは食らわせた。次の1手次第で相手は崩れる。
----------------------------------------
TURN 2(EP)
紬紫【除去ガジェット】
- LP 2100
- 手札 4
《レッド・ガジェット》
鷹城久遠(TP)【サイカリガジェ】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター
《死霊騎士デスカリバー・ナイト》
- 魔・罠
伏2
----------------------------------------
「私めの番です。札を引きます」
さて、変わって紫さんのターン。紫さんにとって一番厄介なのは久遠のフィールドに立つデスカリバー・ナイトのはず。これをガジェット召喚までに除去できないと次の後続を引っ張ってこれなくなる。
「私は……赤の歯車を召喚いたします。そして、効果発動しますが……」
「ええ、俺のフィールド上のデスカリバーナイトの効果発動、モンスター効果が発動したとき、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げ、その効果モンスターの発動と効果を無効にし、そのモンスターを破壊します。これは強制効果になります。レッドガジェットの効果を無効にして破壊します」
これが最優先でデスカリバーナイトを除去しないといけなかった理由。
ガジェットの強みであるサーチをなくして展開を止めてしまうこと。
ここで耐える手段がないと相手はじり貧になるはず
「私は、魔法を発動したします。《光の御封剣》。これにより、これより3ターンの間貴方様の攻撃を封じさせていただきます。」
「リバースカードオープン、罠発動《砂塵の大竜巻》相手フィールドのカードを破壊します《光の御封剣》を破壊、カードは伏せません」
敢えてこのタイミングで破壊する。
モンスターが居ない現状、こうして守備の決め手を即座に切れば……
「う……私めは札を3枚伏せ、終了いたします。」
さらに守勢を固めるため、手札を全部守勢に回すはず。
「俺のターン、ドロー。俺は手札から《大嵐》を発動します」
そして、それがこちらの思うつぼ。
こちらも除去ガジェットベースで組んでいるのに、手札に来たのが魔法、罠除去ばかりだったために、こういう手段を取るしかなかった。
結果的には良い方向に転がってくれたが、一種の賭けであることは否定できない。
「なんと……私めは伏せ札を開きます。《リビングデッドの呼び声》、これにより墓地よりモンスタアを一体特殊召喚いたします。私めは赤の歯車を選択いたします。」
蘇生されるレッド・ガジェット。
このタイミングで蘇生する意味はないカードだが?
『あのルール』を間違えているのだろうか?
「大嵐の効果が適用されます。お互いのフィールドの魔法、罠カードが全て破壊されます」
こちらのフィールドの伏せは《奈落の落とし穴》。【ガジェット】で攻撃力1500以上はあまり召喚されないので、半分くらいブラフになっていた。相手の手札が0の今、すぐに必要になるカードではないため、ここは諦める。それより相手の3枚のカードをこの場で破壊できることの方が重要である。
破壊されたのはリビングデッド、《収縮》、《炸裂装甲》の3枚。まずまずの成果である。
「リビングデッドが破壊されたことにより《レッド・ガジェット》も破壊されます」
「しかしながら、歯車を特殊召喚したことにより効果が発動いたします」
「あー……すみません。タイミングを逃してます。後で説明しますが、効果は発動しません」
「??……よくは解りませんが、そうなのですか?……確かに、ディスクが反応しておりませんね。」
『タイミングを逃す』の説明が後で必要だ。
さておき、今は目の前のデュエルに集中しないといけない。
「俺は、《イエロー・ガジェット》を攻撃表示で通常召喚、効果でグリーンを手札に加えてバトル!イエローでダイレクトアタック!」
「ううっ……」
紬紫:LP 2100 → 900
「ターンエンド」
----------------------------------------
TURN 4(EP)
紬紫【除去ガジェット】
- LP 900
- 手札 0
- モンスター
- 魔・罠
鷹城久遠(TP)【サイカリガジェ】
- LP 4000
- 手札 1
《グリーン・ガジェット》
- モンスター
《イエロー・ガジェット》(攻1200)
- 魔・罠
----------------------------------------
「私めの番です、引きます」
起死回生の一手は出るか?
序盤に複数除去のカードはことごとく使ってしまっていたが……。
「私めは札を1枚伏せ、終了いたします」
伏せられる1枚のカード、しかしあれは起死回生の1枚でないと久遠は睨む
故にここで何も考える必要はなく、ただ攻めればいい
「俺のターン、《グリーン・ガジェット》を召喚、攻撃表示。効果でレッドをサーチ、バトル。イエローでダイレクトアタック」
「伏せ札を開きます。《炸裂装甲》これにより、モンスタアを破壊」
「俺の場にはグリーンが残ってます、続いてダイレクトアタック!」
紬紫:LP 900 → -500
「私めの負けでございます」
勝者 鷹城久遠
----------------------------------------
「お疲れ様でした」
「久遠様、ありがとうございました」
デュエルが終わった後の反省会を紫さんとする。
激流葬のタイミングや御封剣発動の考え方など。
その中で、話題に出たのは『タイミングを逃す』について
「あの時、大嵐にチェーンする形でリビングデッドを発動させてましたけど、ガジェットの特性上それでは無駄になってしまうんです」
「何故でしょうか」
「ガジェットの効果は全て『~~した時、~~できる』という効果なんですが、これはちょっといいかえると、『~~した時、他になにも起こらなければ~~してもいい』っていう意味なんです。」
「つまりは……歯車を特殊召喚したときにまだ大嵐の効果が残っていたため、できなくなってしまった、というわけですか?」
「ええ、そうなります。楓、ちょっと来てくれ」
「何?」
ギャラリーとしてデュエルを見ていた楓がこちらにやってくる。
ちなみに、直前にやっていた亮さんとのデュエルはまたも惜敗だったらしい。
「ディメンションマジックと混沌の黒魔術師を使うときに破壊効果は使う?」
「……タイミングの話?」
「ご明察」
さすが戦術家。こちらの意図をきちんと読み取ってくれる。
「ディメンションマジックで混黒を出すときは墓地に欲しい魔法があるときは破壊効果は使わないわ。墓地の魔法回収なくても倒せるときは破壊効果の方を使う。でも相手の効果にチェーンして発動するときは破壊効果一択よ」
「あんがと。さて、ディメンションマジックは手札の魔法使いを特殊召喚して、相手のモンスターを破壊する効果です。で、混黒の効果はガジェットと同じく、召喚した『とき』、墓地の魔法を回収『できる』効果です。」
「つまり、特殊召喚した後に破壊効果を挟むと先ほど久遠様がおっしゃっていた『他になにも起こらなければ』に引っ掛かるわけですね」
「そう、つまり1枚のカードでも二つ以上の効果を続けて行う場合にも気をつけなくてはならないということですね。ちなみにチェーンの下りはさっきのリビングデッドと大嵐に似てます。ディメンション使っても、そのあとに別のカードが発動するのがわかってるのでどの道回収効果が使えないので破壊一択となるわけです。」
「なるほど、よくわかりました」
「タイミングを逃すは結構紛らわしいので、みんなも注意してださい」
そんな感じで反省会は終わる。
それと同時に
「いやー、お疲れ様。いいデュエルだったねぇ。しかし久遠くんの牙城を崩すのはなかなか大変だ。」
「たまたまですよ。今回もまかり間違えば負けてたかもしれませんし」
「しかし、これなら交流戦もいい線まで行けるかもしれないねぇ」
交流戦?
「何ですか?交流戦って」
「ああ、1年生は知らないのか。年に1回、アメリカアカデミアの代表がウチに交流戦を行いに来るんだよ。」
「そんなに大規模に来るんですか?」
「例年3~4人くらいだね。去年は3人だった。だから同数の代表を選抜して代表戦を行うんだよ」
「こっちの選抜は?」
「同数だね。上位から順番に選ばれるけど、直前に一度ランキング戦が行われる。」
「そうですか」
そういう話なら仕方ないか。
元々自分が出るわけにもいかなかったのだろう。
ならば、せめて。
ここにいる人達に少しでもチャンスが与えられるように、頑張っていこう。
「……交流戦………。」
早速ワクワクしている奴もいることだし。
----------------------------------------
次の週、交流戦の開催が公示された。
1週後の定期考査終了時点での学内総合ランキング上位16人による選抜トーナメントが開催される。
開催される交流戦
高みを目指す者は、己の力を試すために立ち上がり
ステージに立てない者は、次こそはと志を新たにする。
次回「交流戦開始」