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TURN 7(EP)
天上院吹雪【獣戦士族】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》(攻6000)、羊トークン(守0)×3 《不屈闘士レイレイ》(攻2300)
- 魔・罠 伏1
丸藤亮【サイバー・ドラゴン】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター《サイバー・フェニックス》(守1600)
- 魔・罠 伏2
藤原優介(TP)【天使軸光属性】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター《ジェルエンデュオ》
- 魔・罠 伏1 《天空の聖域》
久遠帝【風軸スターダストドラゴン/バスター】
- LP 4000
- 手札 1(レッドアイズダークネスメタル)
- モンスター《スターダスト・ドラゴン》《スターダスト・ドラゴン/バスター》
- 魔・罠 伏1(くず鉄のかかし)
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「俺のターン、ドロー」
場は制圧できてきているものの、攻め手に移るには少々手札の数が心もとない。
このターンは引き次第だが攻めの布陣をより万全にするべきだろう。
「俺は魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドローする。俺は《嵐征竜-テンペスト》《ドラグニティ-ファランクス》《ドラグニティ-ドゥクス》《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》、《スターダスト・ドラゴン》の5体を選択、スターダストとヴァジュランダはエクストラデッキに戻るが、他はデッキに戻る。そして2枚ドロー。」
よし、まだ動ける。が、これは後でも問題ない。
「バトル!」
「待った、バトルフェイズ前に罠発動《威圧する咆哮》このターン、攻撃宣言を封じる」
丸藤先輩の防御策、フリーチェーンの有用なカード、しかし1手遅かった。
「バスターの効果を発動、生贄に捧げることで魔法、罠、モンスター効果を無効にします。これは破壊に限定されません、よって咆哮は無効になり、破壊されます」
「なんだと!?」
「改めてバトル!俺はスターダストで天上院先輩のレイレイに攻撃!シューティングソニック!」
「罠発動!《聖なるバリア-ミラーフォース-》、相手が攻撃宣言してきたとき、攻撃表示モンスターを破壊する」
「スターダストの効果発動、生贄に捧げることで破壊効果を無効にする」
「しかし、生贄に捧げることによって攻撃は中断される。そのモンスターの特徴がわかってきたよ。効果無効化は確かに強いけど、一旦フィールドを離れる必要があるってことはそれだけ攻め手としては中途半端になるみたいだね」
まああれだけ効果を発動してればその辺が見えてきても仕方ない。
しかし、攻略できるかというとそれは別問題
「メイン2、俺は手札の《風征竜-ライトニング》の効果を発動、手札のこのモンスターとドラゴン族、もしくは風属性モンスターを墓地に捨て、デッキから《嵐征竜-テンペスト》を特殊召喚します。俺は最初のターンに手札に加えた《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を捨て、テンペストを特殊召喚。既にメインフェイズ2なので関係ないですが、この効果で特殊召喚されたテンペストは攻撃できません。」
「なぜそんなモンスターをいまさら?」
「こうするためです。さらに魔法カード《七星の宝刀》を発動、手札、またはフィールドのレベル7のモンスターを除外し、2枚ドローします。テンペストを除外し、2枚ドロー」
これで手札は2枚
「除外された《嵐征竜-テンペスト》の効果発動、このカードが除外されたとき、デッキから風属性のドラゴン族を手札に加えます。俺は《真紅眼の飛竜》を手札に加えます。」
ここから、手札を整える
「速攻魔法、《超再生能力》発動、このカードを発動したターン、手札から捨てた、もしくはフィールドから生贄に捧げたドラゴン族モンスターの数だけ、ドローします。」
「なんだと?」
「ただし、ドローするのはエンドフェイズです。カードを1枚伏せて、エンドフェイズ、《超再生能力》の効果発動。このターン、俺はライトニングの効果で手札から2枚、フィールドからスターダストとバスターを生贄に捧げています。よって、4枚ドロー。」
手札が一気に増え、5枚になる。しかしまだまだ止まらない
「ドローカードに2枚目の《超再生能力》があったので、速攻魔法《超再生能力》発動。そして4枚ドロー。さらに速攻魔法《手札断札》お互いのプレイヤーはカードを2枚墓地に送り、2枚ドローします。丸藤先輩は手札が2枚以下ですが、他の2名が2枚以上持っているので効果は成立します。天上院先輩、藤原先輩、どうぞ」
吹雪さんと藤原先輩がドローする。丸藤先輩は効果の対象にならないため、ここでは何もしない。
「最後に速攻魔法、《サイクロン》を発動、天上院先輩の《団結の力》を破壊します」
団結の力が破壊される。唯一スターダストたちを制圧できる可能性があった装備魔法が破壊される。そして、これ以降はバスターがその展開を許さない。
「エンドフェイズはまだ終わっていません。断札の効果で墓地に送った《真紅眼の飛竜》の効果発動、通常召喚をしていないターン、このモンスターをゲームから除外することで、墓地の『レッドアイズ』と名のつくモンスターを蘇生します。俺はライトニングの効果で墓地に捨てたレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを蘇生します。」
《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》Lv10/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400
墓地から蘇生される黒く光る真紅目の龍。
天上院先輩がなぜか複雑そうな顔をしている。
このモンスターに思い入れでもあるのだろうか。
…と、今はデュエルに集中だ。
「最後に効果で生贄に捧げたスターダストとバスターを復活させて、ターンエンドです」
攻め手としては中途半端だったが、手札と場はより強固になった。
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TURN 8(EP)
天上院吹雪【獣戦士族】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》(攻2000)、羊トークン(守0)×3 《不屈闘士レイレイ》(攻2300)
- 魔・罠
丸藤亮【サイバー・ドラゴン】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター《サイバー・フェニックス》(守1600)
- 魔・罠 伏1
藤原優介【天使軸光属性】
- LP 4000
- 手札 2
- モンスター《ジェルエンデュオ》
- 魔・罠 伏1 《天空の聖域》
久遠帝(TP)【風軸スターダストドラゴン/バスター】
- LP 4000
- 手札 6
- モンスター《スターダスト・ドラゴン》(攻2500)《スターダスト・ドラゴン/バスター》(攻3000)《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》(攻2800)
- 魔・罠 伏2
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「僕のターン……ドローだ」
吹雪さんはすっかり意気消沈してしまったようである。
仕方がないといえば仕方がない。
破壊効果を含めれば2回、そうでなくても最低1回は効果を完全にシャットアウトされるモンスターがさっきから場を完全に制圧しきっている。
率直に、攻略の手段が見つからないのだろう
「僕はパンサーウォーリアーとレイレイを守備表示に変更、カードを3枚伏せてターンエンド」
ターンは丸藤先輩へと渡る。
「俺のターン、ドロー」
同じく、既に顔はすぐれない丸藤先輩。
融合戦術のサイバードラゴンにおいて、高攻撃力を出す手段はパワーボンドかリミッター解除の2通り。
効果無効にするバスターがいる以上、両方をそろえなければ、ダメージを見込むことができない。
それゆえに、丸藤先輩も打つ手がないのだろう
「俺はサイバージラフを守備表示で召喚、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」
特に動きはないまま、ターンは藤原先輩へ。
「僕のターン、ドロー」
手札は3枚、強引に動けば動ける手札枚数だが、どうするのだろうか
「よし、ここは賭けだ。僕は魔法カード、《死者蘇生》を発動」
「バスターで無効化します」
「僕は伏せていた装備魔法、《自律行動ユニット》を発動、1500ライフを払い、相手の墓地からモンスターを1体蘇生する。僕は…」
一瞬こちらをちらりと見る藤原先輩
こちらの墓地から有用なモンスターが引き出せると思ったか。
しかし、すぐ味方の方へ視線を移す
「僕は亮の墓地からプロトサイバーを特殊召喚、ジェルエンデュオと生贄に捧げて、《ギルフォード・ザ・ライトニング》を生贄召喚!!ターンエンドだ。」
無理してこれを立たせるということは、『あれ』を握っていることは確実か。
まずはその決戦の前に
「エンドフェイス、永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動、墓地の《マテリアルドラゴン》を蘇生します」
「やっぱり伏せはそれか。亮の墓地からモンスターを特殊召喚してよかった。しかし…マテリアルドラゴン?」
「手札断札のもう一枚の捨て札です。そして、バスターを攻撃表示で特殊召喚、ターンが移ります」
そして、ターンは久遠へ移る。
「俺のターン、ドロー」
相手フィールドを一瞥する。
天上院先輩、丸藤先輩のフィールドに合わせて5枚の伏せカードと7体の守備モンスター。
藤原先輩のフィールドはモンスターこそ1体のみだが、よりによってレベル8の光属性戦士族。
崩すなら、前者の方が見返りが大きい。
「俺は魔法カード、《大寒波》を発動」
「大寒波だと!?」
「くっ…まずいね」
「効果はご存知の様で。次の俺のドローフェイズまで全員魔法、罠の発動およびセットが封じられます。」
「なんということだ……」
驚愕する丸藤先輩。
これでこちらも次のターンまでくず鉄のかかしを使うことはできないが相手の5枚の伏せカードを一時的に封じた。
この隙を逃す手は、ない。
「俺はファランクスを通常召喚、そして、レベル6のマテリアルドラゴンにレベル2のファランクスをチューニング、天地鳴動の力を見ろ。シンクロ召喚!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!」
2体の龍のシンクロにより現れたのは赤き悪魔の名を冠する龍。
圧倒的な暴力によって、この場を蹂躙せんが為に舞い降りる。
既に場に立つスターダストと肩を並べるように。
「レッドデーモンズは攻撃表示です。俺はさらにダークネスメタルの効果発動、墓地のドラゴン族モンスターを一体蘇生する。俺はシンクロの素材に使用したマテリアルドラゴンを蘇生。攻撃表示。」
これでフィールドには5体のドラゴンが並び立った。
「バトル!レッド・デーモンズで天上院先輩のレイレイを攻撃!アブソリュートパワーフォース!」
「吹雪のモンスターを攻撃だと!?」
「プレイミスだね!このターンに亮を攻撃してれば1人は倒せたのに」
破壊されるレイレイ
相手はプレイミスだと思っているようだが、そんなことはない。
「ミスじゃありませんよ。レッドデーモンズの効果発動、レッドデーモンズが守備モンスターを攻撃した場合、そのダメージ計算後に相手の守備モンスターをすべて破壊する。」
「なんだと!!?」
「なんだって!?」
「場にいる守備表示モンスターは天上院先輩のパンサーウォーリアー、3体の羊トークン、丸藤先輩のサイバー・フェニックスとサイバー・ジラフ。全て破壊です。デモン・メテオ!」
戦う意思をもたない存在をレッドデーモンズは許容しない。
その力によって、7体のモンスターが一瞬にして葬られる。
「これで天上院先輩と丸藤先輩のフィールドは空になりました。スターダストとバスターで天上院先輩を攻撃、シューティングソニック、アサルト・ソニック・バーン」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
天上院吹雪:LP 4000 → 1500 → -1500
「さらにレッドアイズ、マテリアルで丸藤先輩を攻撃」
「ここまでとは……ぐわぁぁぁぁっ!!」
丸藤亮:LP 4000 → 1200 → -1200
「ターンエンド。」
2人は撃破した。残るは、藤原先輩のみ。
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TURN 12(EP)
天上院吹雪【獣戦士族】(敗退)
- LP 0
丸藤亮【サイバー・ドラゴン】(敗退)
- LP 0
藤原優介【天使軸光属性】
- LP 4000
- 手札 1
- モンスター《ギルフォード・ザ・ライトニング》
- 魔・罠 《天空の聖域》
- 墓地
- 除外
久遠帝(TP)【???】
- LP 4000
- 手札 5
- モンスター
《スターダスト・ドラゴン》(攻2500)
《スターダスト・ドラゴン/バスター》(攻3000)
《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》(攻2800)
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》(攻3000)
《マテリアルドラゴン》《攻2400》
- 魔・罠
伏1(くず鉄のかかし)
《リビングデッドの呼び声》(対象:なし)
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「僕のターン……ドロー。」
さて、手札はあの1枚にドローカード。大寒波の影響下なのでこの場を有効にできるカードが引ける可能性は低い。
希望を見出すなら、アレに…《オネスト》にかけるしかないはず。
くず鉄のかかしが封じられてる今を好機とみてくれればいいが。
「僕は……バトルだっ!!ギルフォードでスターダストドラゴン/バスターを攻撃!ライトニング・クラッシュ・ソード」
最後の賭けに出てきた。
その意気やよし。
「僕はダメージステップで手札の《オネスト》の効果を発動する!このカードを墓地に送ることで、相手モンスターの攻撃力を自分のレベル7以上の戦士族の攻撃力に加える。これにより、ギルフォードの攻撃力は5800だ!!」
「スターダストドラゴン/バスターの効果。生贄に捧げることで相手のモンスター効果を無効にします。ダメージステップでも、手札誘発でも、バスターは超えられません。」
切り札の効果は無効にされる。
後に残るは光の戦士が一人。すでにダメージステップにまで突入しているため、攻撃対象こそいなくなったものの、巻き戻しは発生しない。
「僕は…………ターンエンドだ」
完全に折れてしまったか。ならば、決着をつけよう
「エンドフェイズにバスターを攻撃表示で特殊召喚、そして俺のターン、ドロー。バトル!レッドデーモンズでギルフォードを攻撃!」
「くっ…ギルフォード…」
藤原優介:LP 4000 → 3800
「終わりです。全モンスターでダイレクトアタック!」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
藤原優介:LP 3800 → 800 → -1700 → -4500 → -7900
実質3対1のバトルロイヤルデュエルはこうして、決着する
勝者 久遠帝
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新入生歓迎デュエルでエキシビジョンデュエルとして行われたとてつもないデュエルが決着した。
ダメージを与えるチャンスこそあったものの、結果的には久遠帝の圧勝劇が終わった。
つい先ほどの1年生戦で1年生を圧倒した3年生主席を3人相手取ってである。
そして、デュエルの中で現れた何体ものシンクロモンスター。
観客たちはこのデュエルに完全に魅了されていた
大歓声が場を包む。
単純なまでに明確に、新入生が力を示した。
在校生達からすれば、それは認められないことのはずなのに。
――ぱちぱちぱち
しばらく続いた歓声がようやくおさまってきた後、静かながらに聞こえてくる拍手の音。
その拍手を行っているのは、校長先生
「すばらしいデュエルでした。3年生の主席3名を相手にしてダメージを全く受けないでこれをいなすプレイング、プロの名に恥じないものでした。久遠帝プロ、いや、新入生鷹城久遠くん」
「ありがとうございます」
校長は笑顔をうかべて言葉を続ける。
表向きには柔和に、相対する久遠にとっては限りなく醜悪に見える笑顔で
「さて、本校はアカデミアとして、学年をまたいだランキング制度を採用しており、そのトップ生は学校の代表として対外試合に出ることもあります。しかしながらそこに現役プロが立つというのは教育機関のありようとしていかがなものかと思います。とはいえ貴方の実力は明らかです。そこで、本年度より3年間、特別措置としてランキング制度に『番外』のランクを設け、鷹城君にはそこに立ってもらおうかと思います。」
これが、負け戦の正体。
3年生とのデュエルで敗北すれば、「3年生が1年生に勝った」という事実は変わらず、今の制度の形は守られる。合わせて久遠自身も3年より弱いとレッテルをはりつけられる。
久遠が勝ったとしても、「現役プロ」という肩書とその実力を盾に久遠を「特別」の枠に当てはめることで久遠自身を1年生から切り離し、下剋上の足がかりにできなくさせる。
久遠としてはどちらを取っても「普通」ではいられなくなる選択肢。
それでも
「…光栄です。ありがたくお話をお受けいたします」
それを敢えて受けてやる。
それでも、1年生に見せてやりたかった。
プロであることを公開したのはただ場に1石を投じたのみ。
本当の目的はデュエルで「1年生でもここまでやれるんだ」ということをプレイングで見せたかった。
同い年でもこれだけやれるんだ。
今はこんなだけど、お前たちも頑張れば今の悪習はぶっ壊せる。
――だから……がんばれ。
そして……
そこに、久遠はいなくたっていい。
久遠帝として場に現れた時から、それはもう諦めたから。
「番外の制服はじきに送ります。」
「わかりました」
「それでは、これにて新入生歓迎会を、閉幕としたいと思います。新入生のみなさんには、今後のご活躍を期待いたします」
――宴は終わり、異端はまた独り
退場していく新入生、在校生を久遠はぼーっと見ていた。
皆、先のデュエルのことを話しながら出ていく。
「(何か、変えることができたのかな)」
今、このようになってしまってなお、後悔はある。
一旦引き下がって、改めて久遠自身が先頭に立って学年の壁を壊して行く選択肢もあったはずだ。
でも、その道にはもう戻れない。
……戻ることは、許されない。
「久遠プロ」
後ろから不意に声をかけられる。
振り返ると、3年の特待生達である、丸藤亮、天上院吹雪、藤原優介。
「先ほどはありがとうございました。プロのデュエルを実際に体感できる機会を得ることができて、非常に勉強になりました」
とは藤原優介。真面目そうである。
「大型のドラゴンを連打するタクティクスや圧倒的な制圧力など観客を魅了するデュエルにワクワクしました。」
とは天上院吹雪。本人の性格も含めて魅せるデュエルが大好きなのだろう。大型ドラゴンを並べたりする派手なデュエルに意識が行っている。
「今回のデュエルではあまり食らいつくことができませんでした。機会があればぜひリベンジさせてください」
とは丸藤亮。サイバー流だけに、自分の実力を発揮できなかったことが悔やんでいるのかもしれない。
「久遠プロはやめてください、敬語もです。吹雪さん、丸藤先輩、藤原先輩。プロ活動してる時ならいざ知らず、今はただの下級生です。俺のことを知ってる同級生にも普通に接してもらっています。」
「そうか……しかしプロに先輩と呼ばれるのもなんだかむずがゆい」
「そうだね」
「僕は明日香のお友達だってのもあって名前で呼んでもらってるよ、ついでに久遠くんと読んでる」
「じゃあ僕たちもそうしようか」
「そうだな。では俺は久遠と」
「解りました、亮さん、優介さんですね。」
「ああ、よろしく、久遠」
「ええ、よろしくお願いいたします」
やはり、最初に睨んでいた通り、特待生の人間はあまり階級制度に対して特権意識をもっていないように見える。デュエルに対する姿勢で解っていたことではあるが。
「そういえば……」
と、吹雪が思い出したように話をつなげる
「デュエルの前に、僕たちが『代表の自覚に欠けている』って言われたけど、あれはどういう意味?」
「あ、それは僕も気になった。」
「ああ、それはですね……」
そうして、久遠は3人の特待生に伝える。
この歓迎会の目的を。
校長が何を狙っていたかを。
「あくまで俺の主観です。でもただの歓迎会に校長がここまで出てくることなどを踏まえると、そんなに的外れになっていないのではないかと思います。」
「そうか……」
「厄介なのは、これは特待生が抑えるように命じても解決にはならないということです。それは結局、『上からの抑えつけ』に過ぎないからです。抑えつけるなと抑えつけてしまう。それでは言ってることとやってることが違うって話になってしまいます。」
「じゃあどうすればいいんだろう?」
「重要なのは全てに公平であること、寄ってくる取り巻きを特別視しないで、下級生と言って後回しにしてやらないで、挑むものを挑戦者となめてかからないで、公平な立場を示してやる必要があります。」
「うん、言うのは簡単だけどなかなか難しいね」
「そうですね、でも心がけですよ。少しずつ、少しずつでいいんです。」
「ああ、参考にさせてもらおう」
「まぁ、1年生にも矯正しないといけないのがいますがね」
「ああ、彼だね」
「悪いやつではないんで、あとはきっかけだけだと思ってます。」
そうして、3人も退出しようとする
久遠としては、この上級生たちなら、変わってくれると期待している。
「今度はデュエルの話を聞かせてほしいね」
「俺も色々勉強させてもらいたいんで、またその内お願いします」
「ああ、こちらこそ」
そうして3人の情勢が退出するのを見度とけてから、静かに、部屋から出ようとする。
新入生たちとは別の方向から。
「久遠……」
呟いたのは……誰だったか。
その声に返すことなく、久遠は静かに講堂から立ち去った。
波乱の儀式は終わり、学徒は日常に溶け込んでいく。
ただ一人をその輪から外して。
覚悟故の有り様、それゆえに孤高の少年は己の分をわきまえる
突如現れる転機、その手を出しだすのは……。
次回「異端の日常」
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