遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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頂は高く、纏わる悪意は厚く、異端は遠く(前篇)

「さて、対3年生の作戦会議を始めようか」

「ちょっと待てっ!!俺のデュエルを全スルーしてるんじゃない!!」

「だからそれは悪かったって」

 

2年生戦シングル1は万丈目の勝利で終わった。

相手の瓶田先輩は『タートル・亀』の名のモンスターを集めた【亀】デッキ。

攻撃力の打点で万丈目が序盤押していたが、中盤に《亀の誓い》から《クラブタートル》を出されてじり貧に。

何とか最後は《炎獄魔人ヘル・バーナー》で逆転した形で勝利となっている。

正直ギリギリ極まりないと思ったが、本人いわく余裕だったらしい。

 

そうして、2対1で2年生戦は1年生の勝利。

今は休憩時間を利用した再度打ち合わせ時間となっている。

そこで、3年生戦のルールが変わったことと、久遠が出場しないことを万丈目に説明した。

万丈目は「天上院君とタッグを組むチャンスが……」と言っていたが、既に決まったことである。

 

「で、誰が何戦目に出る?」

 

万丈目の問いかけから話題はオーダーの話になっていく。

 

「うーん、どこでだれが出てくるかわからない以上、どれに出ても同じだと思うわ。」

「別に相手のデッキがわかってるわけでもないんだし、単純に強い順でいいんじゃないかな?」

「天上院君はお兄さんとデュエルしたいとかはないのかい?」

「久しぶりだし、そういう感情がないわけでもないんだけど…。」

「あの先輩のことだから目立ちたがるから一番最初に出てきそうな気がするな」

 

楓の予想は当たらずとも遠からずだと思う。

多分あの人は最初に出てくる。割と高確率で。

 

「そういえば、対戦相手のことを全然調べてなかったね」

「ああ、それなら調べておいたぞ」

「万丈目君が?どうやって?」

「デュエルが始まる前の歓迎会で色々情報集めしていたからな」

「(その割には参加人数とか間違っていたけどなぁ…。)」

 

思うだけにしておく。どうせ話が脱線するだけだし。

 

「で、3年生の特待生だが3名いるらしい。まずは天上院君のお兄さん、『吹雪王子(ブリザードプリンス)』天上院吹雪。実際には獣戦士デッキとかドラゴンデッキの使い手らしいが、名前とあのマスクでそう呼ばれてるらしい。もう一人は『大教皇』藤原優介、光属性中心のプレイングからそう言われてるらしい。最後は『皇帝(カイザー)』丸藤亮。あの『サイバー流』の正統後継者候補だって話だ。使ってるのは当然サイバードラゴンを中心とする機械族デッキだと。」

「……長い説明ご苦労」

「うむ!」

 

なぜか無駄に得意げだ。

 

「で、結局オーダーはどうする?今の万丈目の話だと特に相性云々はないみたいだが。」

「私はできるなら兄さんと勝負してみたいわ」

「私は…どっちでもいいや」

「できれば、俺はカイザーに挑みたい。学年トップを打倒せるなんてこんなチャンスが早々に巡ってくるとは思わなかった」

「カイザーは…やっぱ3人目だよね」

「決まりだな」

 

対三年生オーダー

   S3 天上院明日香

   S2 神倉楓

   S1 万丈目準

 

これで三年生に挑む。

願わくば、懸念は杞憂であってほしい、そう思う久遠だった。

 

 

 

----------------------------------------------------

 

 

「そこまでっ、勝者、藤原優介」

「ば…ばかな……この俺が…この俺がここまで圧倒されるなんて……」

 

 

大歓声が会場を包む。この瞬間、1年生代表対3年生の勝負は全ての試合で決着を迎えた。

結論から言うと3年生の実力は圧倒的の一言に尽きた。

 

初戦、天上院明日香 VS 天上院吹雪

こちらの想定通り、吹雪を初戦の相手と予想したとおりになった。

相手は序盤から高攻撃力のモンスターを並べ、明日香は防戦一方、途中から《激昂のミノタウロス》を出され、ライフを削られ始める。

起死回生の《サイバーブレイダー》も攻撃の瞬間、《月の書》で処理され、返しのターンに撃破され決着した。

 

 

2戦目、神倉楓 VS 丸藤亮

予想とは外れてここで出てきたのは『皇帝(カイザー)』丸藤亮。序盤は楓がラッシュで丸藤を追いこもうとする。しかしながら《サイバー・ヴァリー》を始めとるする防御策をなかなか突破できない。

それでもサイバードラゴン2体を混黒で除外する検討を見せるが、次元融合からのパワーボンドに加え、リミッター解除で攻撃力16000のサイバーエンドで1ショットを決められ負け。ライフを残り600まで削るが、内2000はコスト、しかも10000近いオーバーキルを食らってしまえば、完敗と言うしかないだろう。

 

3戦目 万丈目準 VS 藤原優介

このデュエルにおいて序盤押していたのは万丈目、《地獄の暴走召喚》を交えた展開によって序盤アタッカーを多く並べていた。

しかし、相手が何とか出した攻撃力2800の《ギルフォード・ザ・ライトニング》に攻撃力アップ含めて3000まで膨らんだ《炎獄魔人ヘル・バーナー》にアタックしたはいいが、相手の切り札《オネスト》で迎撃される。返しのターンに直接攻撃をくらい、敗退した。

 

「………………………」

「………………………」

「……………………くっ!」

 

明日香も、楓も、万丈目でさえも、誰一人言葉を発せずにいる。

2年生戦である程度の健闘をしたのもあったのだろう、あわよくば3年生にも一矢報いることができるのではないかという思いもあったのだろう。

しかしながら、結果としては完敗。くらいつくことすら許されなかった。

 

「カイザー!カイザー!カイザー!カイザー!」

「王子!王子!王子!王子!」

「教皇!教皇!教皇!教皇!」

「カイザー!カイザー!カイザー!カイザー!」

「王子!王子!王子!王子!」

「教皇!教皇!教皇!教皇!」

 

在校生の大歓声が会場を覆っている。

その空気は先ほど久遠が予想した通りのもの。

在校生による新入生への洗礼、上位学年の力を新入生に見せつけ、学生生活における格付けを作る。

結果的に3人はそのための見せしめになったことになる。

 

 

 

 

 

こうしてアカデミアの階級制度は保たれる。

上級生は下級生を見下し。

上位階級の生徒は下位の生徒を見下す。

これまでと何一つ変わらない流れが秩序として保たれる。

 

―それでも…………。

 

求めたものは何だったのか。

『異端』になって、プロに進む以外の道をもたなくて。

そんな中必死に走って来て、

歪ながらも、『学年』や『階級』の枠に当てはめようとする場所。

そんな場所にたどり着いた。

歪でも、まともではなくとも。久遠が求めてやまなかった『普通』がここにある。

 

――それでも………。

 

自分の待遇にも問題はない。

上級生に負けてきたのはこれまでの慣習通り。

特待生であれば、上級生から見下されることもほとんどないと言っていいだろう。

それは2年生の特待生がほとんど責められていなかった事実からも明らかだ。

自分や、楓達は安寧の地にいることができる。

 

―――それでも……。

 

何も問題はないではないか。

この歪さを正すようになんて、社長から依頼されてはいない。

それに、ここで全てをぶち壊すように動いてしまったらどうなる。

ほぼ確実に、久遠にとっての平穏すらぶち壊しになる。

今、耐えればいいだけだ。それだけの話。

 

――――それでも…。

 

最上級性の特待生には罪はない。

彼らは何も知らないままにデュエルをしたまで。

彼らに今更挑むことはただの憂さ晴らしにしかならない。

 

―――――それでも

 

 

コツ……コツ……と、

大歓声の響く中静かに足音がなる。

本来ならば聞きとることのできない音。

しかしながら会場のだれしもが、聞きとることができないはずの音を聞き取る。

それに気づいたものが、徐々に、徐々に増え。

それに反比例するように歓声は鎮まる。

それは、一人の人間の存在感。

デュエルが終了し、1年と3年の代表選手が集うフィールドに静かに歩く人間の存在感だった。

 

 

久遠帝

 

最年少でプロ入りし、種族リーグ限定の参加ながら未だ負けなく、最多同時王者の称号をもつデュエリスト。

未だ参加していないものの、共通リーグやアメリカリーグを始めとする上位リーグに参加すれば、数年で環境を変えるとも噂されるデュエリスト。

数年もすれば、新たな『伝説』に名を連ねるともいわれる異端児。

その異端児が、青の制服を纏い、静かに、静かに壇上へと歩みを進めていた。

 

 

静かに、ゆっくりとデュエル場の中央に立つ久遠帝

壇上に立つ、3人の3年生も。

久遠帝の正体を知る、楓も、明日香も、万丈目でさえも。

若干12歳に過ぎない少年の存在感に気圧される。

少年の、言葉を待たざるを得ない空気にされてしまっている。

 

 

帝は健闘した同級生に一瞬顔を向ける。

 

天上院明日香を

――そんな不安そうな顔をするな。きっと、少しでも事態は好転するから。

 

万丈目準を

――そんな悔しそうな顔するな。まだ……お前はこれからさ。

 

神倉楓を

――そんなに悲しそうな眼をするな。大丈夫だから……俺は……。

 

三者三様の表情を、笑顔で受け止めてやる。

一瞬の邂逅。もう、それだけで十分だ。

今向かいあうべきは、アカデミアそのもの。

 

 

そうして、久遠帝は静かに言葉を紡ぎ始める。

 

「壇上の代表選手の先輩方、そしてギャラリーの諸先輩方に教職員の皆様方、本日はこのような歓迎の場を催していただき、誠にありがとうございます。」

 

それは、プロの試合に立つ久遠帝そのもの。

彼を偽物と疑うものは、誰もいない。

 

「新入生代表といたしまして、僭越ながら私、久遠帝が御礼を申し上げます。」

 

久遠帝が1年の頂点に立つことを示すことで、上級生の階級本位の制度を打ち壊す一手とする。

偶像として、盾となるために、その存在を示す。

故に、久遠はここで正体を隠さない。

特待生しか持たない青の制服を纏い、この場に残る全ての特待生が居る今。

久遠帝の正体は自明となる。

それが久遠の覚悟、想定する中で最も安い代償。それが『普通』を捨てること。

 

 

しかしながら。

 

「久遠プロ、ご挨拶ありがとうございます。名高い久遠プロから挨拶いただけるとは光栄の極み。さて、せっかく不敗のプロにご指導いただける機会を得たわけですので、ここでエキシビジョンマッチを行いたいと思います。3年生特待生の丸藤君、藤原君、天上院君、以上3名とのデュエルです。」

 

校長の発言に再度湧き上がる大歓声。

アカデミアの悪意は、『久遠帝』すら殺しにかかる

立場をフルに利用し、それすらも武器にする狡猾さ。

それでも、ここに久遠帝として立った以上は引くことは許されない

 

「ええ、構いません。ルールはシングル3戦ですか?」

「いえ、学生相手にプロに対して対等では歯が立ちません。ここは特殊ルールをお願いしたいと思いますね」

 

特待生を率いておいてよく言う。感情の奥でそう思う。

それでも、立った以上はどんなルールでも受けなくてはならない。

 

「彼らは非常に強そうですが……そういうことでしたらお受けいたします。ルールはどうしますか?」

「4名によるバトルロイヤルでどうでしょうか」

「わかりました、いいでしょう。お受けいたします」

「それでは開始は5分後、3年生の先攻でスタートします。」

 

校長はあくまで自分たちに有利な布陣を崩さない。強引に、手を進めてくる。

あまりの強引さに、当の3年生が若干戸惑っているようにすら見えてくる。

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

それでも引かない。

勝っても、負けても、進む道は苦難。

そんな戦いを全て覚悟で受け止めて、打ち返す。

覚悟の源は、一つの想い。

 

 

―――――それでも

 

それでも、理性ではわかっていても、こんな理不尽は許されない。

相対するが理不尽ならば、こちらが持つは『異端』の能力。

不幸にして、その力をもってしまったから。

助けられることがわかってしまっていたから。

それを使うべきは、今。

代償は、理解している。失うものはわかっていても。失うことはわかっていても。

それでも、引き下がれないものがある。

 

 

------------------------------------------------

 

 

デュエルフィールドの中央へ向かう。

 

「久遠プロ……挑むなら正々堂々挑みたかったが……それはまた別の機会にさせてもらおうと思う。今は、ただ、プロから一つでも学びとらせてもらう」

「うん、本当ならきちんと挑みたかった……。それでも、決まった勝負は全力で行かせてもらうよ」

「そうだね、僕らは上級生だけど挑戦者だ。全力で行かなきゃ失礼だ」

 

特待生は本当にまっすぐだ。

しかし、久遠としては彼らに対しても少しながら言いたいことがある

 

「正直、俺も君達とは純粋な力比べを楽しんでみたかった。ただ…君達は代表の責任というものの自覚があまりにも欠けている」

 

この空気を異常と思わない、もしくは思っていても正そうとしない。

組織の先頭に立つものは、組織を正しく導く必要がある。

中学生に何を求めるのかといえばそれまでだが、少なくとも久遠はその覚悟を既に持っている。

 

「このデュエルと…その先の久遠帝の生き方をもって、それを示す。だから、このデュエルは、『久遠帝』としての全力を見せてやる」

 

 

負け戦が、始まる。

「「「「デュエル!!!!」」」」

 

 

エキシビジョン戦

  天上院吹雪

    VS

   丸藤亮

    VS

  藤原優介

    VS

   久遠帝

 

バトルロイヤルルール

 

----------------------------------------

TURN 1(MP)

 

天上院吹雪(TP)【獣戦士族】

    - LP 4000

    - 手札 6

 

丸藤亮【サイバー・ドラゴン】

    - LP 4000

    - 手札 5

 

藤原優介【天使軸光属性】

    - LP 4000

    - 手札 6

 

久遠帝【???】

    - LP 4000

    - 手札 5

----------------------------------------

 

「僕のターン、ドロー」

 

天上院吹雪のターンでデュエルがスタートする。

バトルロイヤルルールでは1ターン目は攻撃をすることはできない、そのため久遠の攻撃ができるターンは8ターン目ということになる。

それまで1度自分のターンを回すだけで守りきるタクティクスが必要になる。

 

「僕は、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》を攻撃表示で召喚するよ」

 

  《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》Lv4/地属性/獣戦士族/攻2000/守1600

 

デメリット持ちだが、攻撃力は下級の標準を超えるモンスターが現れる。

攻撃するのに制限はあるが、初ターンの壁としては優秀なモンスターだろう

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

まずは盤石といったところか。

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

続いて丸藤亮のターン、先のデュエルではサイバーエンドからのワンショットを見せてきたが、バトルロイヤルでどう動いてくるか。

 

「相手フィールドにモンスターが存在し、自分のフィールドにモンスターが存在しないときにこのモンスターは特殊召喚できる。俺は《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

  《サイバー・ドラゴン》Lv5/光属性/機械族/攻2100/守1600

 

現れたのはサイバー流の象徴ともいうべき機械竜。当然のように初ターンに展開してくる。

しかもバトルロイヤルルールの特徴をうまく突いてくる。

味方の天上院を「相手フィールド」とすることでサイバードラゴンの特殊召喚条件を満たしてきた。

 

「続いて、《サイバー・フェニックス》を守備表示で通常召喚、さらにカードを2枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

  《サイバー・フェニックス》Lv4/炎属性/機械族/攻1200/守1600

 

こちらも盤石な展開を広げてきたようだ。初ターンの展開としてはまずまずである。

 

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

先のデュエルで天使軸の光属性を操ってきた藤原優介。先のデュエルでは序盤には守りを重ねてくる様子だったが……。

 

「僕は《ジェルエンデュオ》を守備表示で召喚、そしてフィールド魔法《天空の聖域》を発動!カードを1枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

  《ジェルエンデュオ》星4/光属性/天使族/攻1700/守 0

 

このデュエルでも固めてきた。

天空の聖域を張ることで戦闘ダメージを抑え、ダメージを受けない限り戦闘破壊されないジェルエンデュオで場を固める。

さて、これはこれで厄介だ。

 

 

「俺のターン…ドロー」

 

手札は……悪くない。これなら、守り抜くことは何とかできるだろう。

しかし、久遠としては久遠帝としてデュエルをするには確認することがある。

 

「校長」

「なんですか?」

「今更ながらの確認ですが、私は『久遠帝』としてのデュエルをこの場で行ってよいということでいいんですね?」

「もちろんですとも。あなたの力のすべてを我々にご教示ください」

「わかりました、わざわざすみません。」

「いえいえ」

 

言質は取った。

ならば、久遠帝としての全開を、時代に存在しない異端を。

華々しく披露してやろうではないか

 

「俺は手札の《嵐征竜-テンペスト》の効果を発動。このカードと風属性モンスターを墓地に捨て、デッキからドラゴン族モンスターを手札に加える。俺は《ドラグニティ-ファランクス》とテンペストを捨て、デッキから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を手札に加える」

 

さて、墓地の準備は整った。ここから守勢を整えていく。

「俺はさらに《ドラグニティ-ドゥクス》を通常召喚し、効果発動。ドゥクスが召喚されたとき、このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下の「ドラグニティ」と名のついたドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。俺は先ほどテンペストの効果で捨てたファランクスをドゥクスに装備。」

 

「モンスターを装備するモンスター…」

「サクリファイス以外では始めてみる…」

「何か効果があるだろうか?」

 

「ま。見ててください。装備カード扱いになっているファランクスの効果を発動。装備扱いになっているこのカードをモンスターとして特殊召喚する」

 

「モンスターが2体…攻撃力は高くないが…」

 

「ええ、そうです、でもこっからが久遠帝のデュエルです。見ててください、俺は自分フィールドに存在するLV4のドゥクスにLV2のチューナーモンスター、ファランクスをチューニング!」

 

「「「チューニング!!?」」」

 

「チューナーとその他のモンスターを墓地に送ることでエクストラデッキ…融合デッキから新たのモンスターを特殊召喚する『シンクロ召喚』です。行きます、シンクロ召喚!《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》」

 

  《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200

 

現れたのは橙色の龍に乗った騎士。

ソリッドビジョンに浮かび上がった白い枠のカードからモンスターが現れると、会場はざわめいて行く。

無理もないといえば無理もない、白枠のモンスターなど、見たことがないのだから。

 

「シンクロ……すごいね」

「うん。でも攻撃力は1900、僕らのモンスターなら超えられない数値じゃない」

 

すでに超える気満々の様だ。

それでこそだ。それでこそ…この先を見せる価値がある。

 

「シンクロ召喚に成功したヴァジュランダの効果発動、シンクロ召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル3以下の「ドラグニティ」と名のついたドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。」

「それじゃ……まさか」

「ええ、お察しの通り。ファランクスを装備して効果発動、ファランクスを特殊召喚します。」

「モンスターとチューナーがまた………」

「ええ、Lv6のヴァジュランダにLV2のファランクスをチューニング!シンクロ召喚!《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

  《スターダスト・ドラゴン》星8/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

 

遥か未来か、異世界か。

久遠は知る由もないが、一つの可能性として存在しえる、しかしながらこの時代に存在しない星屑の龍がフィールドを羽ばたく。

 

フィールドのみならず、観客席も含めて、静寂が包みこむ。

声一つ出ることのないフィールドで、星屑の龍を従えたデュエリストを、皆静かに見つめていた

一様に、想いは一つ。

これが……久遠帝。

 

 

「カードを3枚セット、エンドです」

「さすがはプロ……盤石な布陣だね」

「3体1ですからね。手抜きなんかしてる場合じゃないですよ。シンクロ含めて最初から全力です」

「なら僕も全開だ。エンドフェイズにリバースカード、速攻魔法《スケープゴート》、攻守0の羊トークンを守備表示で4体特殊召喚するよ」

 

エンドフェイズに羊トークンが4体天上院先輩のフィールドに並ぶ。

パンサーウォーリアーの生贄要因も含んでるのだろうが…それ以外にも意味があるような気がする。

 

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TURN 4(EP)

 

天上院吹雪【獣戦士族】

    - LP 4000

    - 手札 3

    - モンスター 《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》(攻2000)、羊トークン(守0)×4

    - 魔・罠  伏1

 

丸藤亮(TP)【サイバー・ドラゴン】

    - LP 4000

    - 手札 2

    - モンスター《サイバー・ドラゴン》(攻2100)、《サイバー・フェニックス》(守1600)

    - 魔・罠 伏2

 

藤原優介【天使軸光属性】

    - LP 4000

    - 手札 3

    - モンスター《ジェルエンデュオ》

    - 魔・罠 伏1 《天空の聖域》

 

久遠帝【シンクロ召喚】

    - LP 4000

    - 手札 1(レッドアイズダークネスメタルドラゴン)

    - モンスター《スターダスト・ドラゴン》

    - 魔・罠 伏3

----------------------------------------

 

「僕のターン、ドロー。」

 

バトルロイヤル2準目。そろえぞれがフィールドを整え、ここからが攻勢に回ることができるターンとなる。

 

「僕はパンサーウォーリアーに装備魔法《団結の力》を発動、このカードを装備したモンスターは僕のフィールドのモンスター1体に付き800ポイント攻撃力がアップする、これにより、攻撃力は6000にアップ」

 

並んだ羊トークンから力を受けたパンサーウォーリアーが力を増して行く。

その力は圧倒的。攻撃を受ければ一瞬で瀕死レベルまでライフが持っていかれる。

 

「バトル、パンサーウォーリアーでスターダストドラゴンを攻撃!そして攻撃にあたって羊トークンを1対生贄に捧げる。攻撃力は5200に下がるが、それでも十分!」

「攻撃宣言時、リバースカード、《くず鉄のかかし》を発動。相手の攻撃を無効にします」

 

罠が開くと共に、ぼろぼろのかかしが現れてパンサーウォーリアーの強大な攻撃を受け止める。

 

「さすがに防御策は整えてるんだね」

「ええ。さらに攻撃を無効にした後、再びこのカードをセットします」

「何度も使える罠だって!!?それじゃいつまでも攻撃できないじゃないか」

「このターンにセットされた扱いになるので防げるのは1ターンに1度ですけどね。自分のターンまで長いんで繰り返し守れる手段が要るんですよ。」

「なるほど、考えてるんだね。バトルを終了、僕は《不屈闘士レイレイ》を攻撃表示で召喚してターンエンドだ。」

 

  《不屈闘士レイレイ》Lv4/地属性/獣戦士族/攻2300/守 0

  《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》Lv4/地属性/獣戦士族/攻2000/守1600

         →攻6000/守5600

 

再び攻撃力が6000に戻るパンサーウォーリアー。

現在の守勢のままでは、打ち崩す術はそう多くないのだが…くず鉄のかかしのおかげで、攻め入られることにもなりにくくはなっている。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

さて、攻撃禁止のこの布陣をどう攻めてくるだろうか。

 

「俺は《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚。さらに、速攻魔法《フォトン・ジェネレーター・ユニット》サイバードラゴンとサイバードラゴン扱いになっているプロトサイバーを生贄に《サイバー・レーザー・ドラゴン》をデッキから特殊召喚!!」

 

モンスター除去に努めて藤原先輩につなぐ方針らしい……のだろうか。

 

「そしてサイバーレーザーの効果を発動、このモンスターよりも攻撃力が高いモンスターを破壊できる。俺は、スターダストを選択!」

「すみません、それは悪手です。スターダストの効果を発動、フィールド上のカードを破壊する効果が発動したとき、このカードを生贄に捧げることで破壊効果を無効にして破壊する。サイバーレーザーは破壊されます。」

 

「破壊無効効果だと!?」

 

破壊されるサイバーレーザー。不明なカードを相手にしたため仕方ないといえば仕方ないが、これは丸藤先輩にとっては致命的なアドバンテージのロス。

これをリカバリーできるのか。

 

「む……こちらも破壊されるか。しかし、スターダストはフィールドを結果的に離れた。ここでフェニックスで攻撃しても無駄か…俺はターンエンドだ。」

 

最低限、藤原先輩につないだと思っているんだろうが……それだけでスターダストをわざわざ展開するわけがない。

 

「エンドフェイズ、破壊無効効果発動のために生贄に捧げたスターダストは墓地から特殊召喚されます。」

「なんだと!!?」

「だから、繰り返し守る手段です。初ターンにスターダストをわざわざ出したのはこういう理由ですよ。」

「……っ!」

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

さて、これでこちらの布陣は攻撃封じと効果破壊をそれぞれ1度防ぐ布陣と割れた。

それを踏まえて、先輩方はどう動くか。

久遠が想像した通りの実力なら、必ずそれを超えてくる。

 

「まず僕は、魔法カード《地割れ》、久遠プロを相手に設定し、スターダストを破壊!」

「スターダストの効果を発動、フィールド上のカードを破壊する効果が発動したとき、このカードを生贄に捧げることで破壊効果を無効にして破壊します。」

「よし、これで効果破壊に対して今は無防備だ。僕は魔法カード《大嵐》を発動!」

 

そして、超えてきたがために、新たな罠にひっかかる

 

「それも想定済みです。罠発動、《スターライト・ロード》!フィールドの複数のカードを破壊するカードが発動したとき、その効果を無効にして破壊する。」

「なんだって!!?まだ防御カードを…」

「さらに、効果を無効にした後、エクストラデッキからスターダストを特殊召喚します」

「新たなスターダストだって!!?」

「このスターダストは正規の召喚でないため、墓地に行くと戻ってきませんが…こういう使い方もあります。リバースカード、罠発動《バスターモード》を発動!自分フィールド上のシンクロモンスターを生贄に、デッキから同名モンスターに『/バスター』と名づけられたモンスターを特殊召喚します。来い!《スターダスト・ドラゴン/バスター》」

 

 

現れたのはスターダストの進化した姿の一つ。

その威圧感は、スターダストを抑えて余りある。

 

「僕はターンエンドだ」

「エンドフェイズ、地割れを無効にしたスターダストが墓地より特殊召喚される。」

 

さて、長い守勢は凌いで、これで攻勢の布陣も整った。

反撃はここからだ。

 

 




圧倒的な窮地から始まる殲滅戦。

久遠帝はそれすら乗り越えて進む。

その先に待ち受けるは、ただの孤立


次回「頂は高く、纏わる悪意は厚く、異端ははるか遠く(後篇)」






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