カンピオーネ〜神の息子〜   作:大大魔王

17 / 19
どうも大大魔王です。
最新話をどうぞ。


第十五話

清秋院の手を引きながら一郎は林の中を走る。スサノオたちの言葉で頭がパンクしてしまった一郎は攻撃を放つと同時に小屋を飛び出したのだ。相変わらず雨が降り注いでいるが一郎の術がまだ持続しているらしく二人ともまったく濡れていない。

一郎は清秋院と共に幽世に降り立った場所まで戻るとようやく立ち止まった。

 

「ふぅ何なんだよアイツら。人の事からかいやがって」

 

先程の会話を思い出して一郎は溜息をついた。まさかあのような会話が始まるとは思ってもみなかったのだ。彼はこれまで女っ気のない生活を送っていたので彼女は勿論いたことはない、一郎と誰かが付き合っているという噂も流れたことだって一度もない。仲の良い女性は0に近いため友人からも女性関係についてからかわれたことが一度もないのでこの手の話は一郎が最も苦手とする部類だった。

 

「あ、あの村沢さん大丈夫?」

「ん?ああ、大丈夫だ。からかわれたせいで少し動揺しただけって、ああ手ずっと握りっぱなしだったな悪い……」

「ふふっいや、恵那は大丈夫だよ」

 

一郎は清秋院に声をかけられることによって自分が清秋院と手を繋ぎっぱなしだったことに気が付き慌てて手を放す。それを見ていた清秋院は慌てる一郎が何だか可笑しくてクスリと笑った。

 

「それで一郎さんどうするの?戻るにはおじいちゃまの助けが必要なんだけど」

「いいやアイツの力は借りん。何だか借りたら負けたような気がするし」

 

一郎はそう言うと一本の枝を召喚した。清秋院はそれが何なのか見当がつかないがそれは以前、一郎がマーリンから貰った幽世と現世を繋ぐために必要な触媒でこれを地面に突き刺し呪力を流し込むと二つを繋ぐ小さな池のような物が出現する。現世で使った場合はマーリンたちのいるあの湖にしか行けないが幽世からならどこで実行しても村沢家に繋がる。

一郎は枝を地面に突き刺し呪力を流し込む。そうすると突き出した場所から水が沸いてきて最終的には小さな池を形成した。

 

「それじゃ行くぞ清秋院」

 

一郎は池に飛び込む。清秋院は一郎の突然の行為に驚いたが徐々に小さくなっていく池を見て慌てて飛び込む。池の中の水は澄んでいて清秋院は一郎の背中を追いかけながら池の底に向かって泳ぐ。気が付くと光っている部分が視認出来た。一郎がそこに向かって泳ぐので清秋院もそれに倣う。光はどんどん大きくなり気が付くと水面に出ていた。池から出ると目の前には村沢家がある。清秋院は他の者から村沢一郎は奇怪な術をよく使うと聞いていたがまさか幽世と現世を繋ぐ門を作れるとまでは思っていなかったので驚いていた。実際はあの枝のおかげなのだが。

一郎はそんな清秋院の驚きに気が付かずに彼女に近づく。

 

「ちょっと失礼」

 

一郎は清秋院の服の裾を掴む。次の瞬間、池のせいで濡れた清秋院が一気に乾いた。一郎は乾いたことを確認すると地面に刺さっている枝を引き抜く。そうするとあったはずの池が一瞬で霧散した。

 

「それで清秋院はこれからどうするんだ?俺は家に戻るんだけど」

「恵那も一旦、帰るよ。でもすぐに会いに行くからね」

 

笑顔で言う清秋院を見て一郎は目を逸らす。このままでは清秋院と”そういう仲”になることを認めてしましそうになったからだ。じゃあまたねと言って去って行く。一郎も無意識に挨拶をしていたが言い忘れていたことを思い出して呼びとめる。

 

「清秋院、今度、家に来る時はちゃんとインターホンを押すんだぞ。そうしないとまた同じ目にあうからな」

「うん、わかった気を付けるよ」

 

一郎の言葉に嬉しそうに手をあげながら清秋院は答える。一郎はそれを見ると最後まで見送ることもなく家に戻って行った。ただ、また清秋院が来る事を想定して物を言う一郎が清秋院と良い仲になるのはそう遠くない未来なのかもしれない。

 

 

翌日

 

 

エリカが草薙に周りの目を気にせずに甘えリリアナはそれを羨ましそうに見ながらも説得力のない説教を並べる。そしてそれに三バカが一郎の周りで妬む。そんなもう慣れてしまったいつもの光景を見ていた。ただ一郎は草薙に説教を始めない万理谷に若干の違和感を覚えていたが別にいつも怒っているような人ではないなと思い気に留めなかった。だがいつもとは違うことが一つあった一郎と草薙の机の中に一通の手紙が入っていた。三バカは草薙の机の中に手紙が入っていると分かるとラブレターだと言って暴走しそうになったが一郎の机の中にも同じような手紙が入っていると分かると何だ普通の手紙かと言い鎮静化してしまった。何とも悲しい信頼である。これがもしラブレターであったら半殺しになる覚悟で自慢してやろうと息巻いて手紙の封を切る一郎だがそこには簡潔に『本日の授業終了後、茶室にまで来られたし』と達筆な文字で書かれていた。一郎はまぁ当たり前かと悲しい納得をしながら紙を丸めてゴミ箱に投げる。草薙の方を見ると草薙は溜息をつきながら手紙を一郎に見せた。そこには一郎と同じ内容の物があった。

 

「これどういう事か分かるか?一郎」

「分かるわけないだろ。まぁ果たし状かなとは思ったんだが二人の立ち位置を考えるとなぁ」

「果たし状って」

 

草薙はどこのドラマの話だと思いながらもう一度、手紙を眺める。一郎はまだ自分がカンピオーネだという事を隠しながらフリーの魔術師として活動していた頃、何度か果たし状が送られてきた事があり、その度に送り主と戦っていた。一郎に果たし状が送られてきていたのは恐らく世界で活躍する魔術師である一郎を倒して名声を得たいという者かただ単純に強い者と戦いたいという者の二つに分かれるだろう。結果は勿論、全員瞬殺で終わった。ただ、一郎もその時は面倒にも思わず戦っていた。戦う者の中には有名な者もいたためその者に勝利することによって自分の名前が世に知られ仕事が増えたからだ。ただ、今となってはカンピオーネだということが露見したため世界中に名を轟かせることになったので戦う意味がなくなってしまった。

 

「まぁそんな訳で今日は俺はさっさと帰るからな」

「おい一緒に行かないのか?」

「面倒事になりそうだからな。心配ならお前の所の騎士様に付いて来てもらえ」

 

一郎は鞄を右肩にかけると教室を出て行った。草薙はてっきり一郎も来るものだと思っていたので彼の言う面倒事が起こったらどうしようかと思いながら頭をかく。そしてもう一度、手紙を見た

 

「それにしてもこの清秋院恵那って誰だ?」

 

手紙の結びに書いてある名前をみて草薙は呟いた。一郎は勿論そのことには気が付いていない。

 

一郎は家に帰ると何の気なしにテレビを点ける。テレビの中でニュースキャスターが現在、雷によって半壊した東京タワーは順調に修理されてきていると聞きとりやすい声で告げる。そのニュースを見て一郎は微妙な顔をしながら別のチャンネルに変えた。少し時間は早いが夕食を作ろうと思い一郎はエプロンを身につける。その時、携帯が鳴り始めた。一郎は急いで電話に出る。

 

「はい、もしもし」

「私だ」

 

いや名乗れよと一郎は言いたくなったが自分の旧知であるリリアナ・クラニチャ―ルの声を聞いて止めた。

以前、彼女には自分のメールアドレスと電話番号も教えていたのだが正直、彼女は電話をかけてこないだろうと一郎は的外れな予想をしていたので少し驚いた。

 

「何だよ?草薙の落とし方とかは俺にも分からんから教えてやれんぞ」

「そういう事じゃない!!今日、草薙護堂に手紙が来たのだが貴方のところにも?」

「ああ、きたぞ。あの色気のない手紙だろ」

「その事なんだが…」

 

リリアナは今日、一郎が帰った後、茶室で起こった出来事を話し始めた。

茶室には清秋院がいて草薙と話をし、その時にそこにいた万理谷に発破をかけ草薙とただならぬ関係になるかもしれないというとんでもない発言をさせたらしい。あのお堅い人にそこまでの発言をさせたのかと一郎はある種の尊敬の念を清秋院に送る。そしてその後、エリカが茶室に出現し彼女と共にどこかへ行ってしまったらしい。会った瞬間、戦闘開始にならなかっただけでもマシかと一郎は安堵した。

 

「それで何でそんな話をしたんだ?」

「清秋院恵那は貴方の愛人だと言っていたのだが」

「いやぁ……違うんだが」

 

一郎の言うとおり正確には愛人ではなくそのような関係になりにきただ。ただ、そのような事を清秋院を一郎の愛人だと勘違いしている彼女に言えば説教が始まると思い小声にした。

 

「ん?今、違うというような言葉が聞こえたが?」

「あ!!あー何だか電波が悪いな。声が良く聞こえないわー」

 

そう言いながら一郎は電話を切り電源をオフにした。溜息を吐きながら今度こそ夕食を作り始めようとした時、今度は家のインターホンが鳴る。誰が来たのかとドアを開ける。そこには清秋院恵那の姿があった。

 

「こんにちは村沢さん。今度は言われたとおりインターホンを押して来たよ」

「お、おう」

 

すぐに家に来るとは思わなかったので驚きながらも一郎は清秋院を観察する。外傷はなし、服にも目立った乱れはない。一郎はエリカと出て行った後、戦闘をしたのではと思っていたのだがそんな事はなかったようだ。

一郎は清秋院を追い返すわけにはいかず家に迎え入れる。

 

「村沢さんもしかしてご飯作ってる途中だった?」

「ああ、そうだけど。食べて行くか?」

「え?良いの?」

 

清秋院は一郎の言葉に目を輝かせる。村沢家は家族以外の者に夕食を振舞えなくなるほど困窮してはいない。今、働きに出ている宗司は勿論、フリーの魔術師として活躍する一郎も高給取りなためむしろ裕福なほうだ。

一郎は今日の夕食はトマトパスタにしようと思っていたがメニューを変え味噌汁にご飯、出汁巻き卵それに加え焼き魚と和食に変える。あまり理由はないが強いて言うなら清秋院は洋食よりも和食の方が好きそうだからだ。

その後、完成した料理を並べ清秋院と食卓を並ぶ。

 

「んー美味しいよ村沢さん。普段はこんなん食べられないから」

「食べられないって?」

「ほら恵那には神がかりが」

「ああ」

 

清秋院にそこまで言われて一郎はあることを思い出した。降臨術を使うためには素質が必要なのは勿論のことだが俗気が溜まりすぎると使用出来なくなるため街に長居できない。そう言う素質を持っていた先人達は皆、山や森に籠って生活していたらしい。

 

「清秋院って料理は出来ないのか?」

「鶏の血抜きとか魚を捌いたりは出来るんだけどね。祐里みたいに上手くは出来ないなぁ」

 

あははと清秋院は苦笑いをするが一郎はそちらの方が凄いのではと思う。魚を捌くのが難しいのは勿論のこと一郎は鶏の血抜きなんてことは出来ないし万理谷ももちろん出来ないだろう。大和撫子然とした野生児かと一郎は呟く。

 

「でも村沢さんもお料理出来た方が良いよね?」

「ま、まぁ出来た方が良いんじゃないか」

 

話の雲行きが怪しくなり始めたので一郎は大きく咳払いをするとあからさまに話題を変える。

 

「話は変わるけど今日は何で俺と草薙を茶室に呼ぼうとしたんだ?」

「ああ、そのことなんだけど。ひどいよー村沢さん手紙の結びにもちゃんと恵那の名前書いておいたのに」

 

そう言いながら清秋院は頬を膨らせて可愛らしくいじける。その顔にみとれながら一郎は何故行かなかったのかを清秋院に話す。その理由を聞いて彼女は苦笑した。

 

「果たし状が送られてくるなんて村沢さんも大変だね」

「まぁそのお陰で仕事も増えたんだけどな。まぁその話はいいとして茶室を出て行った後、エリカと話したんだよな」

「うん。そうだよ、それと出来れば戦いたかったんだけど天叢雲剣を出した瞬間、祐里に勘付かれちゃって」

 

その話を聞いて一郎は頭を抱えた。先程、戦っていないことを確認して安堵したが実際には戦えなかっただけだ。それにエリカも無茶をすると一郎は思う。彼女は赤銅黒十字の大騎士筆頭として紅き悪魔の称号を受け取ったそれはもう凄腕の騎士だがさすがに相手が降臨術持ちだと分が悪い。ほんの少しとはいえ神の力を貸与されるのだ。ただの人間が敵うはずがない。清秋院の剣に気が付いていないという事も考えられるがエリカに限ってそれはないだろう。天叢雲剣の本体を見たのだ詳しい名称までもが分からずともそれが自分の持っている魔剣よりも性質が悪いと分かるはずだ。

 

「でも今度、戦おうってエリカさんと約束したよ」

「へ?」

「だから今度、戦おうって約束したんだ。細かい日程とかは決まってないけど」

 

清秋院の爆弾発言に一郎はむせる。それを見て清秋院は大丈夫と言いながら一郎の背中をさする。一郎は天叢雲剣の事を悟った彼女なら戦う約束などしないと思っていたが予想外だった。ただ、よくよく考えてみたらエリカの行動は正しいと言える。清秋院がここに来た目的は一郎の嫁または愛人になること。そしてもう一つは草薙の周りにいる万理谷以外の日本人ではないリリアナとエリカを追い出すことだ。聡い彼女はその事に勘付いたもしくは事前に情報を仕入れていたのだろう。草薙に惚れこんでいる彼女がそれに抵抗するのは自明の理だ。やり方としてはリリアナと共闘して相手を潰してしまうのが最善策だが彼女は生粋の騎士だ。相手がまつろわぬ神やカンピオーネ、神獣ならともかく人間相手なら一対一で相手をしようとするはずだ。

 

「はぁ。なぁ清秋院その戦う時、俺も呼べよ」

「良いけど、どうして?」

「心配だからだ」

 

一郎の言葉に清秋院は照れながら笑う。だが一郎は清秋院の思っているような意味で言ったのではない。降臨術が使える清秋院に全くとは言わないがあまり心配はしていない。心配しているのはこの戦いでエリカが負けて草薙が激昂しないかどうかだ。一郎は以前、聞いた話を思い出す。地相学をしていた男が草薙たちにちょっかいをかけた。その際、エリカがどうやら負傷したらしくそれに怒った草薙が何のためらいもなく権能を使い様々な物を破壊したようだ。この話を聞く限り草薙は身内が倒されれば必ず怒ると一郎は考える。これが一対一の戦いだからと言って笑顔で許すのなら良いのだがもし激昂して攻撃を清秋院にしようとするのならば自分が出張らなければならない。一郎は自分に力があるのに目の前で半殺しにされそうな少女を放っておけるほど畜生な男ではなかった。ただ、一郎が戦うとしたら確実に命を削り合う戦いになることは必至だ。最強の《鋼》の話など問題事がある今、無用な戦いは避けたい。そこで一郎はもし危なくなったら自分が戦いを強制的に止めれば良いと考えた。一郎の力量ならば彼女たちを止めるなど造作もない事だ。

 

「うん分かった。決まったら教えるね」

 

清秋院が頷く姿を見て一郎はこれで最悪の展開だけは回避できると安心する。その後、食事を終えた一郎と清秋院は共に食器を洗い、彼女は素直に家に帰った。

 

翌日、草薙護堂誘拐作戦に同行しろと言う名波、高木、反町に一郎は面倒な事が起こりそうと言う理由で一郎は初め断っていたがアップルパイ2個で買収された。変装用にと三人は紙袋に穴を二つ開けたものを被る一郎はなぜかタイガーマスクを渡されたのでそれを被った。作戦は簡単な物で一人になった草薙を後ろから襲い麻袋を頭に被せ四人の中で一番、身体が大きい高木が草薙を担ぎ誰もいない教室に連れて行くというものだった。一郎は言われたとおりに三人に付いて教室に入った。教室の中では尋問が行われる。一郎はその光景を見ながら椅子に座る。座っている場所はちょうど窓からの日差しが当たり心地よい。その気持ち良さに一郎はうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。だが、そのまどろみも一瞬で終わる。誰も来ないはずの教室のドアが勢いよく開け放たれリリアナが入って来たのだ。ドアが急に開いた音によって一郎は現実の世界に引き戻される。起きたばかりで事情が理解できない一郎は何事だと涎を拭いながら三バカとリリアナの話に耳を傾ける。どうやらこの異端審問会から草薙を解放しろとリリアナが乗り込んできたらしかった。ここで介入しても面倒なだけだと思い一郎は椅子に座りなおし様子を見守る。三バカとリリアナによる言い負かし合いが始まったが解放しないなら武力行使をすると言うリリアナに三バカは焦る。一郎は面白いことになってきたと思いながらその光景を携帯のカメラで撮影する。その時だったリリアナの武力行使宣言を受けた三バカは叫ぶ。

 

「こうなっては仕方あるまい!!出番だタイガーマスク!!」

「は?」

 

突然の呼びだしに戸惑いながらもアップルパイで買収されているので素直に従う。三バカは謀らずともアップルパイ2個と言う安価でカンピオーネという人類最強の用心棒を雇うことに成功していた。立ちはだかるタイガーマスクもとい一郎にリリアナはたじろぐ。ちなみにタイガーマスクの正体は草薙やリリアナも分かっていた。変装が雑すぎるので当たり前のことなのだが。

 

「村沢一郎、私は騎士として草薙護堂をお救いしなければならない。邪魔すると言うのなら例え相手が貴方だとしても私は臆さない!!」

「村沢一郎じゃないタイガーマスクだ!それにな例えお前が100人いたとしても瞬殺できるからな。それでも牙を剥くと言うのならかかってこいや!!」

 

二人とも若干芝居がかっているのはこの雰囲気に飲まれているせいだ。三バカも雰囲気に飲まれており生唾を飲み込みながら一挙一動を見落とさないようにじっと見つめている。唯一、冷静な草薙はやっぱりあの二人って仲良いよなーと思いながら現実逃避を始めていた。そんなときまた教室のドアが開く。また開くのかよと心の中で思いながら一郎は誰が来るのかと注視する。

 

「こんにちはー」

「お邪魔します」

 

入室したのは清秋院と万理谷だった。入って来た人物、特に清秋院を見て一郎は固まる。清秋院が勘違いされそうなことを言ってそれを三バカに聞かれると困るからだ。囚われの草薙はこの光景を見て上手くいけば仲間が増えるとニヤニヤと意地汚く笑う。

 

「おーっとタイガーマスクちょっと用事思い出しちゃったなー」

「あっ村沢さんってえっ何?」

 

一郎は白々しいウソをつきながら清秋院の腕を掴むと大急ぎで教室を出る。清秋院はタイガーマスクを被った一郎に腕を掴まれ教室から連れ出されたので困惑した。一郎は誰も来ないであろう場所を見つけるとマスクを脱ぐ。

 

「色々ツッコみたい所はあるけど後から聞くとしてこれだけは最初に聞きたい何しに来た?」

「村沢さんと恵那、王様と祐里でダブルデートをしたいなって思って」

「王様って草薙のことか。それは良いとして本気にそれだけのために来たのか?」

「うん善は急げって言うしね」

 

清秋院の言葉に一郎は頭を痛める。彼女がこの学校に侵入してくることは前回の件で分かっていたのでこういう事が起こることも予想が出来るのだが一郎はまさか清秋院が直接、学校に来てデートの申し込みをしようとは夢にも思っていなかった。急いで清秋院を教室から連れ出して正解だったと一郎は思った。名波、高木、反町の三名は一郎の行動に疑問を覚えたであろうがそれだけだ。デートの話を聞かれるよりはマシだ。もし聞かれたらと思うと一郎はゾッとする。自分も草薙と同じような目に会うのだ。あの三人はバカだが行動力が桁外れなバカだ。一郎は経験上から行動力のあるバカが一番、怖いと言う事を理解していた。だがいくら買収されたと言っても自分もそのバカの仲間入りをしていることに一郎は気がつかなかった。

 

「デートはまぁ良いとして言う場所は考えてくれよ。あれじゃあ命がいくつあっても足らないぞ」

「それは大丈夫だよ。村沢さんを相手にできるのは神殺しか神様ぐらいだから」

 

清秋院の言葉に一郎は自分の言いたいことが伝わっていないということが分かり、もう一度言おうとしたが少し考えて止めた。もし次もこのようなことが起こったとしても自分が止めれば良いだけだからだ。最終手段として魔術を使うという手もある。とりあえず彼女を校外に連れ出そうとする。その時だった。

 

「うおおおお」

 

高木が雄叫びをあげながら荒縄でぐるぐる巻きにされている草薙を担ぎながら二人の横を走り抜け階段を駆け上って行った。よっぽど必死だったのか一郎と清秋院には気がつかなかったようだ。何事だとそれを追いかけるリリアナや万理谷の後ろを清秋院と共に走る。予定では草薙に死刑を宣告した後、プロレス技を時間の許す限りかけるつもりだった。

階段を上り屋上に到着するとそこには荒縄をほどかれた草薙と気絶した高木それとエリカの姿があった。

 

「あら?皆、遅かったわね」

「あーやられてしまったか高木よ」

 

ここで何があったか何となく察した一郎は面倒なことにならないうちにマスクを被りなおすと高木を担ぎ駆け足で屋上を飛び出した。後ろの方で何か自分を呼ぶ声が聞こえたが気にせず高木を保健室に担ぎこんだ。保健室にいた教師には怪訝な目で見られたが適当な理由で切り抜けて帰宅した。その後、清秋院からのメールに決闘の日程が決まり、その前にやりたいことがあるので早めに待ち合わせがしたいとあったので一郎は特に用事もないので了解とだけ返信を送った。

これが波乱の幕開けだとは一郎は知る由もなかった。




次の更新は少し遅めになりそうです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。