仮面の理   作:アルパカ度数38%

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7章11話

 

 

 

1.

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 肩で息をしながら、セカンドは眼下の光景を見渡す。

クラナガンの廃棄区画、ウォルターの記憶にとってもなじみ深いそこは、今や死の大地と化していた。

セカンドによって放たれた殺傷設定直射弾により、ウォルターが墜ちていったそこはがらんどうの建物から、破壊され尽くした廃墟へと変身を遂げていたのだ。

 

「俺は……勝った、オリジナルに。ウォルター・カウンタックに!」

 

 確かめるように口にして、それでもセカンドはその言葉に確信を持てなかった。

トーレが手を出した事もあるが、それ以上に、記憶が叫ぶからだ。

あれは、ウォルター・カウンタックだ。

真に次元世界最強の魔導師だ。

――あれはまだ、立ち向かってくる。

 

 そう確信した瞬間、セカンドは脊椎に液体窒素を流し込まれたかのような感覚を抱いた。

震え、神経という神経が凍り付き、微量の動きでさえも砕け粉々になってしまいそうな恐怖。

息をゆっくりと吐き、落ち着こうとしてみせるも、不可能であった。

 

「ぁ……あぁぁぁあっ!」

 

 叫び、セカンドは掌を上空に。

数秒で千を超える直射弾を宙に浮かべ、ウォルターの墜ちたであろう辺りへと振り下ろす。

それは、白い雨に例えるのが最も近かっただろうか。

最後の理性でナンバーズに当たるかもしれない、と非殺傷設定を選びこそしたものの、一撃一撃がSランク魔導師の砲撃魔法に匹敵する魔法が、大地を蹂躙する。

 

 しばらくして、肩で息をしながらセカンドは直射弾の雨を止める。

魔力煙が漂う中、セカンドは油断せずにダーインスレイヴを構えたままに、ゆっくりと下りて行く。

地上に足を降ろしても、ウォルターの姿は見えない。

常識的に考えて、セカンドの最大威力の剣技をたたき込んだ後、有り余るほどの追撃を打ち込んだのだ、ウォルターは既に墜ちているだろう。

シックスセンスは疲労により半ば機能を失っており、最早遠方にあればウォルターの魔力波形を捉える事すら叶わない。

だが、セカンドの霊感がその耳に囁くのだ。

 

 ――まだ、ウォルターは負けていない、と。

 

 恐怖に、セカンドは身震いした。

己の人格の基礎が、崩れ落ちて行くのを感じた。

それでも必死の虚勢で、震える両膝をどうにか立たせたままに、深呼吸をする。

このまま直射弾を乱射していた所で、勝てるとは限らない。

しかしセカンドは、ウォルターに勝たねばならない。

ならば取り得る方法は、一つしか思い浮かばなかった。

 

「セカンドっ!」

「兄様っ!」

 

 浮かんだ方法を実行しようとするより早く、チンクとノーヴェの声。

 

「全く、お前の腕前なら私たち姉妹を避ける事など朝飯前なのだろうが、肝が冷えたぞ……。あまり、姉に心配をかけさせるな」

「ったく、タイプ・ゼロもどっか行っちゃうしさ……。って、兄様?」

 

 買いかぶりの台詞だった。

セカンドはむしろ、今の台詞に姉妹に直射弾が当たっていなかった事を知り、安堵すら憶える。

するとノーヴェの疑問詞と共に、2人は心配気な表情を驚愕に変えた。

どうしたのか、と内心首を傾げるセカンドに、慌てチンク。

 

「せ、セカンド……。泣いて、いるのか?」

「え?」

 

 言われ、セカンドは手を顔にやった。

確かにその両目からは、暖かい液体が零れだしている。

それも、流量からして、今流れ出した物ではない。

つまり、これはウォルターに怯えて流れ出した、恐怖の涙。

 

 恥辱に、セカンドは震えた。

体の芯からこみ上げてくる、暴力的な衝動。

憎悪、憤怒、そういった感情に置換され、衝動はセカンドの中を暴れ回った。

歯噛み。

チンクとノーヴェに答える事すらせず、セカンドはウォルターを倒す為に飛び始める。

 

「あ、こらっ、恥ずかしいからって逃げるな!」

「いや、チンク姉、凄い顔してたし、そーゆーんじゃないんじゃ……」

 

 チンクを抱えながらウイングロードでノーヴェが追って来るのを、無視しながら。

 

 ――目指すは、ゆりかご。

ウォルターとの最終決戦の地となる場所。

 

 

 

2.

 

 

 

「う……」

 

 短い呻き声に、スバルは喜色を露わにした。

目前の男が目を瞬き、ぼんやりとした表情でスバルの顔を捉える。

感情が溢れ、思わずスバルは地面を蹴った。

 

「ウォル兄っ!」

「こら、抱きつくなっての!」

 

 が、それも隣のティアナによって阻止。

ぐぇぇ、と蛙のような声を漏らすスバルに、目を瞬くウォルター。

眠そうに頭を振ると、ゆっくりと起き上がろうとする。

 

「って、痛っ!」

「あ、ウォルターさん無理しないでっ!」

 

 叫び、ギンガがウォルターに肩を貸す。

遅れ呻いていたスバルもウォルターに寄り、そのもう片方の肩を支えた。

近くで座り込んでいたザフィーラが、固い声。

 

「ようやく起きたか」

「っていうか、何で起きられるんですか……」

 

 続くシャマルの呆れ声に、辺りを警戒していた様子のエリオとキャロが戻ってくる。

瞑目したまま瓦礫に背を預けるシグナムを含め、全員に視線を行き渡らせ、ウォルターは目を見開いた。

恐らくは、シャマルの回復魔法の光が向かう先の、傷ついたリニスを見て。

 

「って、リニス!? うぐ……!」

「ウォル兄!」

「あぁもう、無理しないでくださいっ、連れて行きますから!」

「す、すまん……」

 

 痛みに顔を引きつらせるウォルターを、スバルとギンガはリニスの前に連れて行った。

そこで膝をつかせると、痛みに顔をしかめつつも、ウォルターはゆっくりと掌をリニスの額にやる。

温度に安堵したのだろう、僅かに緩やかな溜息。

 

「……僕がセカンドに負けて、あれからどうなったんだ?」

「うん、その後セカンドが、追撃して、ウォル兄が地面に落ちちゃって……」

「私たち全員で守りに来た所に、セカンドが馬鹿みたいな量の直射弾を撃ってきたんです」

 

 ティアナの台詞に、思わずスバルは背筋を寒くする。

人格改変ウォルターに比類しうる程の、直射弾の雨。

非殺傷と見て取れる物だったが、それでもスバルは死を覚悟すらしたものであった。

 

「全員で最大の防御魔法を発動したが、それでも大して持たなくてな」

「そこに、ウォルターさんに追いついたリニスさんが……」

 

 ギンガの台詞に、スバルを含め、全員の視線がリニスへ。

ウォルターは危機感に従いリニスを置いて先行しており、リニスはタイミング良く戦闘局面に追いついた形となる。

傷つき、呼吸も細い彼女に、この場にいる全員が守られたのだ。

 

「僕たち、リニスさんに守られる事しかできなくて……」

「リニスさん、山ほどのカートリッジを使って、もの凄い防御魔法を使ってみせて。守り切ってくれたけど、代わりに、倒れちゃって……」

 

 ウォルターは、視線をシャマルに。

頷き、シャマルは柔らかな口調で告げる。

 

「大丈夫、魔力を一気に使い過ぎただけで、命に別状はないし、後遺症も残らないわ。ただ、数日は意識が戻らないでしょうね……」

「そうか……」

 

 告げ、ウォルターは再び視線をリニスへ。

スバルが羨むほどの柔らかで暖かな表情で、その額を撫でて見せた。

 

「何時も君には……、とても、とても世話になる」

 

 慈しみに溢れたその表情は、こんな時だと言うのにスバルの胸が高鳴ってしまう程で。

思わず、スバルは支えるウォルターの肉体に僅かに体を寄せた。

気付いているのかいないのか、変わらぬ顔色のウォルターへ、シグナム。

 

「で、どうするのだ? ウォルター」

「うん。シャマル、少しでいい、僕にも回復魔法をかけてくれないか? ……決着を付けなくちゃならない相手が、言わなくちゃいけない事ができた相手が居るんだ」

「……はぁ、分かりましたよ。さっきはリニスさん優先で応急処理だけはしましたが、本格的な回復をさせてもらいます。数分、じっとしていてください」

 

 視線を向けられ、スバルとギンガはウォルターをなるべく平らな場所に横たわらせた。

次いでシャマルが、その両手に緑色の魔力光を輝かせ、ウォルターの胸に置く。

シャマルの顔色が、変わった。

 

「ウォルター君、貴方……!」

「分かっている。だからこそ、さ」

 

 理解できない内容ながら、明らかに真剣な内容に、スバルは疑問詞を視線で向けた。

遅れ、ウォルターは全員に向け告げる。

 

「ちょっと、怪我の度合いが酷くてね。驚かせちゃったみたいだ。……でも、僕は……」

 

 眼を細め、見開いた。

たったそれだけで、スバルの心に炎が灯った。

その黒曜石の瞳に孕まれた熱量は、業火と呼ぶのも生ぬるい程。

見るだけで血潮が熱くなり、心臓が高鳴り、全身に根拠の無い自信と確信が満ちるぐらいだ。

 

「――必ず。セカンドに、勝ってみせる」

 

 爆発的な、炎。

臓腑の奥深くにあった暗い感情が、その燃料となり燃え尽きて行く。

心の奥にあった湿った腐りそうな部分が、乾き、晴れやかで健康的な物へと変わって行く。

今までよりも一層力強い炎であった。

 

「……シャマル、リニスを頼めるかな?」

「……えぇ」

「シグナム、ザフィーラ、ナンバーズの相手を任せていいかい? 多分、セカンドと一緒にゆりかごに戻っているだろう」

「うむ」

「分かった」

「スバル、ギンガ、情けない話だけど、僕をゆりかごまで連れて行ってくれるかい? なけなしの体力を温存したくてね。そこからはザフィーラと共に頼む」

「当然っ!」

「任せてくださいっ!」

「エリオ、キャロ、君たちは無防備に近くなる僕ら3人の護衛を頼む。我が儘ばかり言ってすまないが、頼まれてくれるかい?」

「勿論ですよ!」

「必ず、成し遂げて見せます!」

「ティアナ、援護に関して君は僕を超えた。君なら6人を指揮して、残るナンバーズ2体を倒せるだろう」

「承知……しましたっ!」

 

 頷く面々に、ウォルターもまた頷き、視線を空に。

恐ろしい程に燃えさかるその瞳を細め、告げた。

 

「それじゃあ、僕の回復が終わり次第、出発しよう」

 

 告げるウォルターに、燃えさかる内心を秘め、スバルを含めた面々が頷く。

煌めく陽光が、輝きを増したかのように思えた。

 

 

 

3.

 

 

 

「お前達なんか、ママじゃないっ!」

 

 ゆりかご最深部、王座の間にて。

怒号と共に、ヴィヴィオが掌を振り払った。

瞬間、超弩級の砲撃が放射状に発射、なのは、フェイト、はやてへと襲い来る。

咄嗟になのはが防御に、そこに隠れはやてが高速詠唱で小規模攻撃魔法を発動。

辛うじて相殺した魔力煙に紛れ、フェイトが死神の鎌を振るうも、ヴィヴィオは容易くそれを察知し防御してみせた。

 

「ぐっ、強いっ!?」

「分かっては居たけど……!」

 

 悲鳴を上げながら、フェイトは再びの高速機動で距離をとり、その残像をヴィヴィオの一撃が貫く。

冷や汗をかくなのはを尻目に、口惜しげに、はやて。

 

「一応私たち3人がかりでまともにやれば互角かやや優勢、ウォルター君ほどぶっ飛んではおらんけど……。ヴィヴィオ相手っちゅーと、やりづらくてしゃーないな」

「うん……」

 

 視線を交わし、言葉無き会話。

3人が頷くと、フェイトが前に、ユニゾンしたはやてが防御魔法で安全域を、なのはがその杖先に魔力を集め始めた。

 

(あら、エースオブエースさんの砲撃が頼みぃ? でも、この娘を倒したぐらいで、私たちの”教育”が解けると思ってるのかしらぁ?)

(くくく、私たちの”教育”は強烈だからねぇ。おや? 教育したとなると、私はヴィヴィオ君のパパとなるのかね? くくくくく……)

 

 苛つく会話に3人揃って舌打ち、視線を凍らせつつ、向ける相手はヴィヴィオのままで。

それに気付くでもなく、歯を噛みしめ魔力を練るヴィヴィオ。

 

「大丈夫や、ヴィヴィオちゃん。貴方のママ達は、世界一強いママ達やからな」

「ママと一緒に帰ろう? 機動六課に」

「ううん……帰してみせるっ!」

 

 咆哮と共に、なのはが杖先に強大な魔力を集め終えた。

それを切欠にフェイトが飛び出し空中を高速飛行し、ヴィヴィオの広範囲砲撃を避けつつ、隙を作ってみせる。

同時、なのはは杖先を壁に。

靴裏で地面を踏みしめ、表れた円形魔方陣で固定してみせた。

 

(は?)

(直線上……まさか壁抜き!?)

 

 隠匿念話の奥で叫ぶ2人を尻目に、なのはは叫ぶ。

 

「捉えた……!」

『ディバインバスター』

 

 杖先から、桜色の洪水があふれ出した。

発射された砲撃はゆりかごの壁を貫通、悲鳴をあげながら逃げようとするクアットロを貫き、そのままその奥のスカリエッティへ。

しかし隣にいたウーノが咄嗟にスカリエッティを突き飛ばし、スカリエッティに砲撃は当たらない。

舌打ち、次弾を放とうとするなのはだが、それよりも早くスカリエッティの体を円形魔方陣が包む。

しまった、となのはが歯噛みした瞬間、転送魔法が発動。

スカリエッティが消え去る。

 

「ぐっ、逃したっ!?」

「いいや、あの短時間じゃあここに来るのが限界だったさ」

 

 声は、ヴィヴィオの隣からした。

なのはが振り向くと、ヴィヴィオの隣には白衣を翻した狂気の科学者、スカリエッティが立っている。

 

「……一撃では、倒せなかったけど。ヴィヴィオの洗脳は、解いてもらうよ?」

「ヴィヴィオ一人で私たち3人相手に互角だったんだ、貴方という足手纏いアリでは相手にならないよ」

「さぁ、年貢の納め所や 、スカリエッティっ!」

 

 いきり立つ3人を尻目に、スカリエッティは口元を歪め、嘲笑を漏らした。

髪をかき上げ、見下ろす角度で告げる。

 

「さぁて、確かに私たちが不利だが……、それは2対3に限った事ではないかね?」

「何を……」

 

 瞬間、轟音。

王座の間の扉が圧壊、そこから3条の閃光が飛び込んできた。

一つは銀糸の髪を流すナンバーズ、チンク。

一つは赤銅色の髪を振るわせるナンバーズ、ノーヴェ。

そして一つは、漆黒の髪に黒曜石の瞳を宿す男――。

 

「ウォル……いや、セカンド!?」

 

 悲鳴をあげるなのはに、セカンドの剣が突きつけられた。

遅れ、チンクの刃がはやてに、ノーヴェの拳がフェイトに突きつけられる。

セカンドがこの場にいる事が示す事実に、3人は一瞬硬直、その隙を突かれたのだ。

まさか、と呟くはやて。

 

「まさか、ウォルター君が……負けた?」

「そうだ、俺が、俺が、オリジナルを……!」

「あぁ、UD-265なら今ここに向かっているよ」

 

 スカリエッティの言葉に、セカンドが顔色を憤怒のそれに変える。

遅れなのはとフェイトが安堵の溜息をつき、はやては己を恥じ入った様子であった。

それを尻目に、勝利の余裕からか、スカリエッティ。

 

「う~ん、セカンド。君は何故、このまま高町なのはを切り捨てない? 非殺傷設定で気絶させてもいいが……」

「黙れ……」

「あぁ、そうか、簡単だ! UD-265……君の言う、オリジナルウォルターに勝てないからだ! だから、人質を取ろうと言うのかね?」

「黙れ……!」

「そりゃあそうだ、さっきは人格を取り戻したUD-265に、トーレの援護が無ければ確実に負けていたのだからねぇっ!」

「黙れぇっ!」

 

 ぎらついた目で叫ぶセカンドに、くくっとスカリエッティは喉を鳴らして見せた。

慌て、残るナンバーズの2人が言う。

 

「ちょ、ドクター、なんでセカンドの事煽ってるんだよ!」

「そ、そうです。何にせよ、先ほどセカンドはウォルターに勝ったんですよ?」

「ふむ……」

 

 呟き、スカリエッティは顎に手をやり、思案顔に。

数秒、明後日にやっていた視線をセカンドに戻し、告げる。

 

「セカンド、君の感想はどうだい? 君は、ハッキリとUD-265に……ウォルターに勝てたと、そう言えるのかい?」

「お、俺は……」

 

 言葉を紡げないセカンドに、これ以上無いほどに楽しそうに、スカリエッティ。

 

「勝てたと、そう言えないとねぇ。君の心は、次元世界最強の魔導師だからこそ成り立っている人格だ。つまり、強さで負ければ、君は自動的に精神でも負ける。――勝てたと言えなければ。それは、君がオリジナルのデッドコピーに過ぎないと、その証明になるのではないかね?」

 

 セカンドが悪鬼の如き表情になり、チンクとノーヴェが何かを告げようとした、正にその瞬間であった。

靴裏が地面を叩く、複数の音。

冷静さを取り戻したセカンドが、視線を入り口へ。

やがて足音は近づき、その場に姿を現す。

 

「セカンドっ!」

 

 咆哮と共に、ウォルター達が姿を現した。

 

 

 

4.

 

 

 

 状況は切迫していた。

セカンド達3人はなのは達3人に刃と拳を突きつけており、スカリエッティは狂気の笑みを浮かべ、ヴィヴィオは無表情で僕を見ながら突っ立っているだけ。

こちらはエリオとキャロ、ザフィーラの3人でゆりかご正面で待ち構えていたルーテシアとおびただしい数のガジェットを相手にしている。

故に、最深部に足を踏み入れたのは、僕、シグナム、スバル、ギンガ、ティアナの5人のみ。

この場面で頼りになるのは、たったの一人である。

 

(ティアナ、君一人で何人まで助けられる?)

(……辛うじて、2人。確実に行くなら、1人が限界です)

 

 矢張り、か。

ティアナの神がかった透明化時間差直射弾の命中率は、実は結構外しており、外れていたのが誰にも認識されていなかっただけだと言う。

それを加味しても尋常ではない神業なのだが、この悪条件下で射撃を成功させるような奇跡は期待できないという事だ。

何せ、ティアナは既に銃口を下げた姿をセカンドらに見せている。

つまり姿勢を変えずに銃口のある位置から跳ね上げるようにして撃つ、デバイスの補助機能無しの直射弾でなければ気付かれずに撃てない。

加えセカンドらはティアナの時間差魔法にまで気付いているかは兎も角、透明化直射弾には気付いているだろう。

となれば、今最大限に警戒されているのはティアナだ。

ならば、僕のすべき事は。

 

(ティアナ、僕が隙を作って銃口をあげる時間を作る。それならどうだ?)

(隙と、時間……。この距離なら、3人とも助けてみせます!)

(よし、良い返事だっ!)

 

 内心の喜色を表に出さぬまま、得意の仮面表情で覆い隠す僕。

口を開き、告げる。

 

「やれやれ……凍り付いちゃったよ。人質? どういう風の吹き回しだい?」

「黙れ……! 俺は、お前に負けちゃあならないんだ!」

 

 血走った目で告げるセカンドに、僕は思わず眼を細めた。

目前にいるのは、かつての僕がなり得た姿であった。

かつての僕が、精神の平衡を欠く前にコピーに敗北したならば、似たような醜態をさらしていたに違い無い。

だから。

だからこそ。

 

「何故だ?」

 

 問う。

分かりきった問いを、それでも告げる。

 

「俺は! 次元世界最強の魔導師だからだ! そうでなければ、俺は生きている価値が無い! だって俺は、自分の信念を貫かねばならないんだ! 自分の信念に気付いていない奴らに気付かせていかなきゃならないんだ! お前のような紛い物とは違う、本物の信念をだ! その為には、力が、次元世界最強の力が要る!」

「……なぁ、僕が紛い物かどうかは置いておいてさ」

 

 突く。

セカンドの心の、決定的な矛盾を突く。

 

「お前のように、最強じゃなければ、信念を貫けないのなら。お前が言う自分の信念に気付いていない奴らに、自分の信念に気付かせてやったとして。どうやってそいつらは、信念を貫けるんだ?」

「…………」

 

 愕然と、セカンドは目を見開いた。

けれど僕は、言葉を止めない。

心の刃を、止めない。

 

「もし世界中で信念を貫けるのがお前だけだとしよう。ならお前は、言えるのか? 僕の記憶にある、アティアリアのプレマシー。再生の雫事件の時、両親の為に、信念の為に命を賭して敵に立ち向かって死んでいったあの子に。お前は信念を貫けていない、と」

「それ、は……」

 

 セカンドは、震え始めた。

揺れる切っ先がなのはの肌を傷つけそうになるのに怒りが沸くが、必死で抑え、続ける。

 

「そうでないのなら、君は自分の心の弱さを認められないだけの、弱虫で。弱虫じゃないと言い張るのなら、その程度の事にすら気付いていなかった事になる」

「……気付いていなかったのなら、何なんだ!」

「お前は、気付いていない」

 

 セカンドは、眉をひそめた。

構わず僕は続け、口を開く。

 

「お前の本当の信念は、その口にする通りの事なのか? 僕の仮面が口にしていた事と、同じ内容なのか? 自分の信念に気付いていない奴らに、本当の信念を気付かせる事なのか?」

「そ、そうだ……」

「なら当然、どうやって気付かせるのか、気付いた人々にどうやって信念を貫いてもらうのか、考えた筈だ。……そこまで考えて、どうして自分しか信念を貫けないような考えが浮かぶんだ?」

「それは……」

「真剣に考えていないからだ。つまり……」

 

 一息溜めて。

告げる。

 

「お前こそが、自分の信念に気付かず、目を逸らしている人間なんだ」

 

 驚愕に、セカンドは顔を歪めた。

涙をすら蓄え、叫ぶ。

 

「違う! お前のような紛い物の嘘つきに、そんな事を言われる筋合いは無いっ! 俺は、お前の記憶を持っているから分かる。お前はUD-182の遺志を継ぐと決めてから、全ては仮面の自分が決めた事だ、自分の所為じゃないと責任逃れをしながら生きてきた。選択をしながらもその責任から逃げ続けてきた、卑怯者だ! そんな奴に……そんな奴に!」

 

 言いたい事も言えたし、もう十分僕に意識を惹きつけられただろう。

確信と共に、僕はティルヴィングを構え、告げた。

 

「だろうね。少なくとも、僕は卑怯者だ。……そうだろう!?」

 

 同時、準備していた魔力でコートの前ボタンを一気に外す。

露わになるアンダーアーマーの横で僕はコートをはためかせ、マントのように翻らせた。

かつて、テレビを見ていたヴィヴィオを決めた合図。

“マント、ふわふわってさせる!”

“……俺のはコートな?”

“でねー、そうしたら、私がずがーってする!”

その通りの仕草に、ヴィヴィオが目を見開いた。

呆気にとられるセカンドの後ろ、スカリエッティの隣でずっと僕を見つめていた彼女に向かい、叫ぶ。

 

「セカンドを!」

「――うん!」

 

 直後、聖王ヴィヴィオの精密な高速砲撃魔法が、セカンドのみを打ち抜いた。

肺の中の空気を漏らしながら吹っ飛ぶ彼に、悲鳴を挙げチンクとノーヴェが視線をやる。

つまり、人質から2人の視線が外れる。

瞬間、神がかり的な精度の早撃ちが、2人の刃と腕を打ち抜いた。

突きつけた武器を無くした瞬間、ノーヴェは相対していたフェイトが、チンクは超速度で近づいていたシグナムが攻撃。

距離を空けさせ、こちらに飛んできたヴィヴィオと共に、全員でセカンド達と相対する。

 

「ば、馬鹿なっ!?」

「一瞬で……、でも、陛下はドクターが操っていたんじゃ!?」

 

 悲鳴をあげるナンバーズを尻目に、僕は肩をすくめ、余裕の笑みを浮かべたままのスカリエッティへ視線を。

 

「いいや、ヴィヴィオを操っていたのは、クアットロとかいう眼鏡だろ? スカリエッティ、あんたは制御権を持っていなかった筈だ。わざわざヴィヴィオの隣に転移してきたのも、近くじゃないと洗脳状態を維持すらできなかったからだろうさ」

「ほう? どうしてそう思ったんだい?」

「糞忌々しい事に、”家”からの付き合いのあんたの思考には慣れてきていてね。あんたが主導権を握っていれば、僕が着く前にセカンドを言葉責めにしながらヴィヴィオにも負けさせ、その上で消耗している僕を、操り人形にしたセカンドとヴィヴィオで潰す。何か小芝居の一つでも混ぜるだろうかな? それぐらいはしただろうさ」

「ふひゃはははは! 正解で困るなぁ!」

 

 奇声をあげるスカリエッティ。

事実、かなり消耗している上に精神的に動揺しているセカンドは、不意打ちを連続して喰らえばヴィヴィオにも負ける可能性が高い。

そこで僕以外への敗北、もしくはその予感で精神崩壊しかけたセカンドに暗示をかけ、元々同族嫌悪で嫌っている僕を殺させる事ぐらいは訳無いだろう。

残りはヴィヴィオとセカンドで平らげ、最後にはゆりかごで全てを支配し笑う、スカリエッティはそれぐらいはやる男だ。

分かってしまう自分が物悲しいのが泣けてくる。

 

 そんな会話の端で、なのはとフェイトが寄り添うヴィヴィオが膝を突いた。

恐らく限界なのだろう彼女に、セカンドへの警戒を解かぬまま一言。

 

「なのは、フェイト、退いてくれ。魔力でヴィヴィオの中のレリックを摘出する」

「え? でもこの凄い魔力、スターライトブレイカーとかブラスター3レベルの魔法じゃないと……」

 

 疑問詞を浮かべるなのはを尻目に、断空一閃。

多少の衝撃はあっただろうが、上手くヴィヴィオからレリックを摘出する事に成功する。

呆気にとられるなのはを尻目に、僕は肩をすくめた。

 

「シックスセンスの希少技能を持つ僕が何度か目で見ているんだ、手打ちの断空一閃であんまり痛みも無く摘出できたよ。まぁ、医者に診て貰わないとその後の経過までは分からないけど」

「あ、ありがとう、ウォルター君!」

「わ、私からも、ありがとうウォルター!」

「どーも」

 

 肩をすくめながら、僕はそれどころではなくセカンドの居る場所に視線を固定させていた。

凄絶な悪寒。

瞬間、僕は高速移動魔法を発動、セカンドの居場所へと突っ込み剣を振るっていた。

金属音、ティルヴィングとダーインスレイヴ、黄金の巨剣と白銀の巨剣とが噛み合う。

 

「おぉぉおぉっ!」

「がぁぁぁぁっ!」

 

 怒号が噛み合い、互いの圧倒的魔力が空間を軋ませた。

一合、五合、十合、瞬く間に五十合。

金閃と銀閃が絡み合い、金属音の嵐を響かせる。

 

「みんな! 僕とセカンドとの戦いには、手を出さないでくれ! この戦いだけは……一対一で決めたいんだ!」

「こっちもだ! てめぇら、手ぇ出すなよ! オリジナルは……、俺が仕留める!」

 互いの咆哮に、互いの仲間達はどうやら示し合わせたようであった。

戦力的に六課有利と見るが、戦況を把握する余裕などある筈も無く、僕はセカンドとの剣戟を続ける。

 

「何故だ!」

 

セカンドは、叫んだ。

 

「お前は、俺たちは、ずっと独りだった筈だ。独りであるべきで、独りでありたく、独りでなければならなかった。誰も信じず、仮面を被って誰もを欺き続けてきたお前も。孤高を目指すが故に、俺も! なのに何故、お前はあんなに簡単にヴィヴィオを、ティアナを信じた!」

「教えられたからだ」

 

 告げ、残る精神力の全てを賭しながらティルヴィングを振るう。

受けるダーインスレイヴ。

金剛石の如き硬さの防御であったが、辛うじて崩し、かすり傷を与える。

 

「僕は、独りじゃあない。さっきも言ったが、僕は一人じゃあ簡単な答え一つ得る事ができなかった。僕の今までの人生が、間違っていなかったんだって事を。沢山の人とこの魂を交わし合ってきたからこそ、僕はここまで辿り着けたんだ」

「馬鹿な、一体どんな奴が、お前なんかと!」

 

 黄金の剣閃は、白銀の剣閃を僅かながらに押していた。

前に進む僕に、セカンドは少しずつ後ろに下がっているのが現状である。

とは言え現状を決する程の差では無い、慎重を心がけつつ剣を振るう。

 

「なぁ、少し話は変わるが。何で僕が、君と互角以上に戦えていると思う?」

「は? ……知らねぇよ」

 

 甘い銀閃。

しかしその裏に潜む罠を見抜き、僕は半身に避け進む事を選択せず、ティルヴィングで弾く事を選択した。

緩く握った手が手刀の突きの形を取ろうとしていた事を遅れ視認、緩い握りの剣はより大きく弾かれる。

その隙に潜り込み、軽い当たりがセカンドに魔力ダメージの痕を残していった。

 

「――ティルヴィングが、こいつが命がけで時間を稼いでくれたからだ」

 

 動揺に、僅かにセカンドが目を見開く。

 

「分かるか、こいつは、ティルヴィングは、自分が致命的に主の害になっていると、そしてその解決手段が自死しかないと知るやいなや、人格データを削除した」

「それは……でも……」

「その即断が、僕に時間をくれた」

 

 当たり前だが。

ティルヴィングからのデータ提供がある限り、僕がいくら鍛えてもセカンドにフィードバックが行ってしまうため、僕は永遠にセカンドに勝てなかっただろう。

 

「その時間で、僕は沢山の事を学んだ。戦闘に関しては僕らの上を行く、人格改変時の肉体の動き。君の動きを憶え、咀嚼し、血肉にする事。自分を肯定できるようになった、精神的変化。どれも、ティルヴィングが稼いでくれた時間のお陰で、自分だけの物にする事ができたんだ」

「ば、馬鹿な、それ言えば、お前の経験を俺は持っているのに、俺の経験をお前は持っていなかったんだ。俺の経験の方が、ティルヴィングが稼いだ時間よりも、ずっと長い時間……」

「密度が違う」

 

 ばっさりと、言葉の上でも切り捨てた。

たじろぐセカンド。

 

「自分の信念にすら気付いていない君とは、一分一秒の密度が違う。君が生まれて何年、もしかしたら何ヶ月か、どれぐらいなのかは知らない。けれどどれだけあろうとも、今僕が君と戦えている事が、事実を示していると思わないかい?」

「ふざ……けるなぁっ!」

 

 怒号と共に、セカンドの剣に激しさが増す。

しかしその筋は粗雑。

冷静さを意識する僕の剣に巻き取られ、容易くセカンドは傷を増やして行った。

 

「なぁ、沢山の人の心が、僕に力をくれた。だから僕も、君に言いたい事があるんだ」

「何をだ!」

 

 踏み込み。

大上段の斬撃を、セカンドの這い上がる斬撃が迎え撃つ。

やや僕有利に、鍔迫り合いの姿勢になりながら、僕は叫んだ。

 

「お前は、独りじゃない!」

 

 セカンドは、愕然としたような表情を見せた。

力こそは緩まなかった物の、気迫が薄れ、僕の剣がセカンドの剣を押しのけ、そのまま返す刃で魔力ダメージを与える。

たたらを踏むセカンドに踏み込み、横薙ぎの一閃。

しかし今度はダーインスレイヴの防御が間に合い、防がれる。

 

「なぁ、君が僕にさっき勝ったのは、誰のお陰だ!? ナンバーズの娘のお陰だろう! 機動六課に襲撃して、人格改変時の僕と相対した時、どれだけ仲間に心配されていたんだ! 今だって、チンクとノーヴェ、2人ともどれだけ君のことを気にしている事か!」

「……う、五月蠅い、黙れ!」

 

 跳ね上がる銀閃を打ち落とし、翻った金閃がセカンドを襲う。

しかしセカンドも然る者、低い姿勢で避け、地を這うような剣戟が振るわれた。

殺傷設定のそれを避けはするも、返す刃で軽傷を負う僕。

 

「自分の信念を、自分で見つけられない時。自分の信念だった筈の物を、見失ったとき。友達は、家族は、それをもう一度探す手伝いになってくれる筈だ! もう一度、周りを見てみるんだ!」

「馬鹿な、お前の言う事なんか信じられるかよ!」

 

 叫び、強引に剣を振るうセカンドに、僕は顎近くを薄く裂かれる。

裂傷自体は小さいが、与えられた衝撃は大きく、脳が揺れた。

気合いと狂戦士の鎧でその隙は最小限に止めるも、脳の感覚が衰えるのはやむを得ない。

それでも、僕には告げなければならない言葉があった。

 

「俺は、お前から全てを奪おうとした男だぞ!? 最強の座も! 精神の平衡も! 英雄の名も! 全部、全て! なのにお前は、何で俺なんかを気にするんだ!?」

 

 それでも、泣きながら剣を振るうセカンドに、伝えなければならない事があるから。

 

「なぁ。僕と君、同じ遺伝子から出来ているだろう?」

「……あぁ」

「肉体年齢、同じだろう?」

「……あぁ」

「記憶でさえ、ある程度は共有しているじゃあないか」

「……あぁ」

 

 だから。

僕は、思うのだ。

 

「それならまるで……、僕たちは双子の兄弟じゃないか」

 

 セカンドの、唇が震えた。

 

「同じ苦しみを抱える弟を見て……、放っておけるほど、僕は器用な男じゃあない」

 

 告げ、僕はティルヴィングを大上段に構える。

精神を集中。

全身全霊を賭す構えを取り、告げた。

 

「お前の、助けになりたいんだ」

 

 

 

5.

 

 

 

 スカリエッティ達を捕縛し終えたなのは達は、既に戦いを終えていた。

意識を残すチンクとノーヴェと共に、ウォルターとセカンドの激戦を観ているのみ。

 

 とてもきれいな、戦いだった。

互いに満身創痍ながら、それでも聖王ヴィヴィオを超える戦闘能力は圧倒的。

金と銀の閃光が彩る超弩級の剣戟は、なのは達の目にすら確かには捉えられぬ程だ。

その激烈さは万人の胸を打ち、心に響き渡るかのようであった。

スカリエッティでさえも無言で見惚れていると言えば、その激しさは分かりやすいだろう。

 

 そして今、ウォルターの魂は、その生涯で最大の輝きを見せていた。

他者にその言葉を響かせる熱量は、最早炎の領域を超えてさえいる。

それはまるで、その魔力色が示すかのように、炎がその領域を超える白炎の如く。

 

 ――太陽のようだ、と誰かが言った。

なのはは、その通りだ、と思った。

 

 今、2人の超戦士達は互いの剣を大上段に構えている。

黄金の巨剣を構える、黒衣の男。

白銀の巨剣を構える、白衣の男。

対照的な色彩なのに、鏡映しの姿勢であった。

 

 蒸し暑い気温だが、刺すように鋭い空気だった。

観る者でさえ分かる程に鋭い空気だ、相対する2人の精神がどれほどに威圧し合っているのか、手に取るように理解できる。

血潮が燃えたぎる、凄まじい光景であった。

 

 音は、低く響くゆりかごの駆動音のみ。

2人の汗は奇妙な程に引いており、汗による不調は全く存在しない。

それでいて、2人はどこまでも有機的な輝きに満ちていた。

見えない呼吸、しかしその血肉は筋肉の緊張どころか心臓の鼓動音すら誤魔化しつつ、表裏の分からぬ欺き合いに徹している。

無機物には無い、活き活きとした感覚がそこにはあった。

 

 どれほど時間が経ったのか。

なのはには、数時間にも思える時間が経過した瞬間である。

 

 ――金と銀の閃光が走った。

 

 金属音は、無い。

振り抜いた姿勢で場所を入れ替えた、ウォルターとセカンド。

刹那遅れ、セカンドがデバイスを投げ出し、その場に倒れた。

 

 魔力ダメージが限界に達したのである。

どうやら意識はあるようだが、動く事もままならないほどにリンカーコアが傷つき、魔力も尽きかけのようだ。

 

 やった、と思い、なのはは視線をウォルターへ。

外傷は、無い。

――完全勝利。

その文字が過ぎるなのはを尻目に、ウォルターは中腰から立ち上がる。

振り返り、セカンドに向け、小さく口を開いた。

 

 ――ごぼ、とその口から血が溢れた。

 

 え、と誰かの口から疑問詞が零れる。

それを無視してウォルターは剣を投げ出しその場に倒れ、動かなくなった。

凍り付いたかのように、誰一人動けない。

そんな中、なのはの脳裏にはかつて盗み聞いた、ウォルターとリニスとの会話が思い起こされていた。

 

 “はは……、俺の寿命は40歳まで持たないかもしれない、か”

“そうは言っても、このままのペースで戦い、傷つき続けたらの事じゃあないですか”

“つまり、実際の寿命はもっと短いって事だろ。成長し強くなるに連れ、戦うペースは上がっていくんだからな”

 

 あれからウォルターは、どれだけの激戦と負傷、そして回復を見せてきたのか。

それを思えば、現状を指し示す言葉は、一つしか無い。

 

 ――ついに来たのだ、ウォルターの肉体の寿命が。

 

 固まるなのはの体を尻目に。

凍てついた現実は、目前にあった。

 

 

 

 

 




次回、最終回。
なるべく早く書きます……。

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