「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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第9話 親鳥と雛

普段は閑静な高級ホテルのロビーに、まるで大企業か官公庁の受付であるかのように待機する大勢の軍人と官僚達。

ある種異様な光景にホテルの従業員達も困惑している様子が伺える。

 

一方で、目の前の光景に動じていない様子の秘書に、アランは小声で相談する。

 

「情報はやっぱり企業から漏れたんだろうね」

 

「でしょうね。政府発注の仕事は、政府機関との連携が必須です。そういうもの、と思っていただければ」

 

マリーの答えに、アランは不満を漏らした。

 

「情報は最高機密じゃなかったのか?」

 

「最高機密だから、ですよ。最初のレクチャーは彼らにとって最大のチャンスなんです」

 

「チャンスって何の?賄賂とか?」

 

「違います。アランさんのような右も左も分からない素人にレクチャーすることは、価値観を刷り込むのと同じ意味を持つんです。価値判断を自分たちの基準に寄せられれば、次期主力モビルスーツの選定でも有利になりますよね?」

 

「それで、ああやって親切に教育してあげようと集団で待ち構えてるのか」

 

「教育というよりは、ある種の洗脳ですね」

 

「ぞっとしないね」

 

「情報戦の基本です」

 

なぜか少し誇らしげに胸をはったマリーに、アランはぼやいた。

 

「じゃあ、なおさら今日のところは官僚と軍人さんにはお帰り願わないとな。これは総帥も手を焼くわけだ」

 

「他人事みたいに・・・それでどうします?」

 

「うーん・・・企業の人だけ呼んできてくれないかな。ジオニック社とツィマッド社だっけ」

 

「この状態で手をあげると思いますか?それに情報戦と言いましたよね?軍や官僚の人が詐称する可能性もありますよ?」

 

「こっちで指示した人に声だけかけてくれればいいから。たぶん、あの人とあの人。あとはこちらでやるよ」

 

マリーが「はあ・・・」と半信半疑で指差された人物に声をかけにいくのを確認してから、アランはロビーの大階段に数段登った。

そうして全員に姿を晒すと共に、両の手の掌を打ち合わせて注意を引く。

 

ざわめく軍人と官僚の群れからの刺すような視線を全身に感じつつ、スーツ姿のアランはにこやかに呼び掛けた。

 

「皆さん!私はアランといいます。そう、皆さんが関心ある事柄の責任者です。本日は、お集まりいただいたところに大変申し訳ありませんが、連絡に手違いがあったようで・・・後日改めて訪問させていただきます。それと別途レクチャーいただく日を設けますので、所属と連絡先をいただけますでしょうか?皆さんの熱心な仕事ぶりは、必ず総帥に報告させていただきます!」

 

階段上のアランがゆっくりと視線を動かして一人一人の顔を確認するように見回すと、軍人と官僚の群れは揃って視線を逸らした。

やがて、ぼそぼそと内輪で相談をしたかと思うと、くるりと向きを変えてそのままホテルのロビーから波が引くように去っていく。

 

ホテルのロビーが、普段の静けさを取り戻すのには数分とかからなかった。

あとには、秘書のマリーと、困惑したスーツ姿の男2人だけが残された。

 

「ほら、いなくなった」

 

笑顔で階段から降りてきたアランを、呆れた表情のマリーが出迎えた。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「ええと、私はアランです。自己紹介は・・・必要ないですよね。ご存じでしょうから。あなたは・・・ジオニック社の方?」

 

「ええ。シュミットです」

 

ずんぐりした体格の黒スーツの男によろしく、と握手をしてから、もう1人の細身のグレーのスーツの男に向き直る。

 

「そして・・・あなたがツィマッド社の方」

 

「はい。トビアスといいます。ドクター.トビアス」

 

こちらへどうぞ、と先頭に立って会議室へと案内するアランに小走りで追い付いてきたマリーが耳うちしてくる。

 

「お見事です。ですが嫌われますよ、ああいうの」

 

「どちらにしても嫌われるさ。それよりさっさと仕事を終わらせて地球にいきたいんだ。邪魔する連中は敵だ」

 

小さく溜め息をついて、マリーは疑問に思っていたことを尋ねた。

 

「それにしても、なぜあの2人がそうだとわかったんです?資料に写真がありましたか?」

 

「いや、あったかもしれないけど、あの資料の山からは到底見つけられないよ。例え見つけても、憶えていられない。他に憶えることも沢山あったしね」

 

「じゃあなぜ?どういう理由で指示したんですか?」

 

「あの中でいちばん偉そうじゃない人を探したんだ。ちょうどいい具合に派閥で2つに別れていてくれたしね」

 

「はあ・・・」と納得できない顔のマリーにアンリは種を明かした。

 

「軍人さんの中に民間の人がいると目立つよ。私は民間人だから同類はわかるのさ。その逆の話なら、君にも覚えがあるだろう?」

 

「たしかに。民間人の中に軍人がいると、すぐにわかります」

 

「そういうことさ。種がわかってみれば何てこともないだろう?それより、2人にコーヒーを淹れてくれないか。旨いやつをね」

 

先に行くマリーに準備の時間を与えるため、アランは案内の足を緩めた。




今日中に続きが書けるか・・・

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