「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
数日の後、ルウムから戻った戦士達の凱旋パレードが、ズム・シティのメインストリートで行われた。
装飾された装甲車に座乗するドズル将軍を先頭に、大勝利の立役者となったモビルスーツ乗り達が、その愛機である鉄の巨人を駆って行進する。
いったい狭いサイドのどこからこれだけの人が集まったのか、数十万人が大通りを行進する若き英雄達をひと目見ようと集まり、新兵器のモビルスーツを見上げては、その力強い姿に感嘆のため息を漏らし、若い娘達は贔屓のパイロット達に黄色い声援を送った。
ジオン公国国民達の熱狂は、ギレン総帥による「人類の革新者たるスペースノイドが歴史の必然として勝利する」という国父ジオン・ズム・ダイクンの一節を引用しての演説により、最高潮に達した。
そうした騒動を横目に、アランはギレン総帥の連絡官を通じ面会の申し込みと一定の条件が満たされれば次期主力モビルスーツ選定計画への参加を了承する、と打診した。
「その条件とは何ですか?」と連絡官に問われたアランは「早急な地球への渡航と選定計画終了後には婚約者を伴ってサイド6への移住を許可すること」と簡潔に答えた。
何よりも優先されるのは、まずはビクトリアを探すために地球へ渡ることである。
地球と戦争状態の現在、民間人として現地に赴くことは不可能に近い。
であれば、ザビ家の身分でも何でも使って任務として派遣される用事を作れば良い。
そして、ビクトリアを見つけたあとのことも、アランは考えなければならない。
地球とジオンで戦争が起きてしまったからには、これまでのように自由に地球で安逸に暮らすことはできないだろう。
ザビ家の一員という己の血筋は、全てのアースノイドの敵となったのだから。
しかし地球の自由な暮らしを知ってしまった今、常に監視を受けるサイド3で生きるのは嫌だった。
できることなら政治と離れて、以前と同じように静かに暮らしていたい。
中立地帯を宣言したサイド6なら、サイド3よりは落ち着いた生活が送れるはずだ。
だが、ビクトリアは地球の敵となった自分についてきてくれるだろうか。
まして、住み慣れた地球を離れ、遥か遠くのコロニーへ移り住むなどということを了承してくれるだろうか。
アランは、不安を振り払うように癖っ毛を片手でかき回した。
全ては、ビクトリアが生きていることを確認してからだ。
生きてさえいてくれれば、その後のことは、そのとき考えればいいのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
意外なことに、数日後にすんなりと独裁者との面会を取り付けることができた。
迎えの高級電気自動車に乗り、前回訪問と同じく正門から執務室までに5回の検問と3回のボディチェックを受ける。
初回訪問時は何と神経質な男だ、と軽蔑する気分もあったのだが、あの時はまさに戦争計画が大詰めの段階だったのだから厳しくて当然である。
全ての証拠が開戦の兆候を示していたというのに、それに全く気づけなかった己が平和ボケした間抜けだったということだ。
案内に従って扉を開けると、壁面がガラス張りの執務室で独裁者は前回と同じように己が統治する小さな箱庭と、そこで蠢く群衆を眺めていた。
「総帥、この度の戦勝、おめでとうございます」
「地球に行きたいそうだな。女か」
独裁者は人の話を遮るのが好きらしい。
「はい。婚約者がいます。連絡が取れないので地球へ探しに行く許可をいただきたいのです」
「少し待て。この戦争はもう終わりだ。まもなく連邦政府と条約を結ぶことになる。そうすれば地球との定期便も回復する」
「わかりました。そして移住の件は」
「サイド3は嫌か」
「私は仕事を引き受けるからには、公平にやるつもりです。おそらくは、キシリア閣下にもドズル閣下にも嫌われる結果となるでしょう。仕事を終えた後の自身と彼女の身の安全が保障されないのであれば、お引き受けできません」
「・・・良かろう。文書はホテルに届けさせる。以上だ」
返答までの数秒間、天才的な頭脳を誇る独裁者の脳裏どのような計算が働いたのか。
ほんの数秒であったが、自分にとっては永遠とも思える時間だった。
他にも訴えたいことはあったが、戦争中の独裁者で、今や宇宙一の権力を握る男が「以上だ」と言えば話はそこで終わりなのである。
おとなしくホテルに戻るしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日から、ホテルの会議室が事務所になった。
突貫工事で回線を引いて情報機器が運びこまれ、優雅な装飾が施された壁面には無粋な映像機器が設置された。
そして全ての資料が紙で届いた。
「紙、か。こんなにも大量の紙を見るのは企業買収の契約書を交わしたとき以来だよ」
「紙は強固な媒体です。何より、ハッキングを受けることがありませんから」
アランのぼやきに生真面目に返したのは、総帥から「秘書として」派遣されてきたマリーという女性士官である。
黒い髪をアップにした小柄で外見の魅力的な女性ではあったが、十中八九、いや十中十、監視兼スパイであろう。
正直なところ、女性秘書という存在はセクハラ疑惑などをでっち上げられるもとであるし、何かあればビクトリアへの脅迫材料に使われることは明らかなので迷惑だった。
だが、独裁者の好意に対し迷惑だ、と訴えることはできない。
仕方なく、そのまま秘書として勤めてもらうことになる。
婚約者の安否は確認できず、独裁者との口約束で危険な仕事を引き受け、要求した資料は原始的媒体で寄越され、秘書はスパイ。
前途多難な船出だった。
地球への渡航許可は、まだ降りそうもない。
明日も明後日も書きますよ!
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