「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
続きは今夜中に!
0079年1月17日
1週間後、アランの懸念は最悪の形で結実した。
照明を落とした薄暗いホテルの部屋で、そこだけバックライトで明るい映像装置から、興奮で上擦ったアナウンサーの耳ざわりな声が状況を伝えてくる。
「・・・ご覧ください!ルウムの英雄達の勇姿を!この若者達の一人一人が英雄です!我がジオン軍の新兵器モビルスーツを駆り、連邦の巨大宇宙戦艦に立ち向かい、そして撃沈した現代の騎士です!スペースノイドの守護者!」
映像装置では、予め軍部によって撮影されたらしきモビルスーツを駆るパイロット達のドキュメンタリー風プロモーション・ビデオが流されている。
「「サイドで暮らす全てのスペースノイド達の暮らしを守るため、立ち上がらずにはいられませんでした。私はジオンの旗の下、自らの義務を果たせたことを誇りに思います」」
映像で喋る金髪の爽やかな容貌の若者に会わせて、アランは口を動かした。
その若者は、生来の視力が弱いというハンディに負けずモビルスーツのパイロットを志し、ルウム戦役ではただ一機で5隻の宇宙戦艦を沈めたという。
あり得ない。まったく馬鹿馬鹿しい。
朝から流され続けたニュースという名のプロパガンダ映像は何度目になるだろうか。
内容をすっかり覚えてしまった。
アランの毒づきに関係なく、映像とアナウンサーの解説は続いていく。
「そして彼らを率いたのは軍神ドズル・ザビ閣下!ドズル閣下は連邦軍の物量に怖れることなく逆に全軍を鼓舞、そして自らもモビルスーツに搭乗し、騎士達を率いて3倍の戦艦群に突撃を敢行されたということです!」
映像には、猛将と表現するのがピッタリの顔に大きな傷のある魁偉な容貌の巨大な体躯を誇る男が写っていた。
ザビ家の次男にして宇宙攻撃軍司令官ドズル・ザビである。
「そんなわけあるか」
旧世紀の中世欧州じゃあるまいし。どこの世界に全軍の指揮を放り出して突撃する将軍がいるというのか。
もっとも、危険地帯で指揮をとり続けたというのは嘘ではないだろう。
数で圧倒的に劣るジオン軍宇宙艦隊に安全地帯など存在しなかったはずだ。
そして・・・たしかにジオン軍は勝利したのだ。
それも3倍の数の連邦軍宇宙艦隊を相手にして、うち80%を撃沈するという人類史上希に見る大勝利を挙げた、とジオンは戦果を喧伝していた。
地球連邦軍の残存艦隊は散り散りになり、一部は宇宙に浮かぶ岩塊のルナツー要塞へ逃げ込んだという。
当初、アランはそのニュースを信じなかった。
遮るもののない広大な宇宙空間における宇宙戦闘艦同士の戦闘は、およそ兵器の射程距離とFCSの性能で決する。そこに技量や根性の入り込む余地はない。
戦争は良い装備を数多く揃えた方が勝つ、ある種の数学の計算式に過ぎない、とアランは信じていたし、それが連邦軍、ひいては地球で教育を受けた者の常識というものであった。
だが、その疑い深いアランをして連邦の敗北とジオンの勝利を信じさせる確かな証拠がある。
「では紹介しましょう!現代の三騎士!黒い三連星の異名を持つエースパイロット!連邦軍旗艦を撃沈し、卑怯にも戦場から逃げ出そうとした敵司令官を捕らえたルウム戦役の最大の功労者!オルテガ・ガイア・マッシュの三名です!」
黒い宇宙服に身を包んだ精悍な男達と並び、少し焦げた跡のある連邦の軍服に身をつつんだ白く豊かな髭をした俯き加減の将校が映像装置に写し出される。
「まさか・・・」
何度見ても信じらない映像だ。
軍事に疎いアランでも知っている。
その将校こそ、地球連邦軍宇宙艦隊司令官ヨハン・イブラヒム・レビル将軍その人だった。
もう疑いの余地はない。
ジオンが勝利し、連邦は敗北したのだ。