「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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ちょっと短いのですが、区切りがよいので。
続きは今夜中にあげます。


第4話 1月3日「開戦」

宇宙歴0079年1月3日

 

「我がジオン公国は卑劣なる地球連邦政府に対し宣戦を布告。両政府は戦争状態に突入せり」

 

ズム・シティの各所に設けられた映像装置やスピーカーからは、繰り返し同じ内容のニュースが流され続けていた。

もう何度目かもわからない放送になるが、そのたびに顔を紅潮させた市民たちは「スペースノイド独立万歳!ジーク・ジオン!」と拳を振り上げた。

 

「・・・くそっ!"我らが忠勇なる兵士諸君"や"軍神ドズル閣下率いる宇宙攻撃軍公国艦隊の活躍"は要らん、地球の状態はどうなってるんだ!」

 

アランは苛立ちのあまり画面に拳を叩きつけるのを辛うじて自制した。

遠距離通信は戦争中のため当然のように軍の統制下で封鎖されており、さりとて外出は実質的な軟禁状態にあるので不可能となれば、垂れ流される戦争報道ニュースを追いかけるぐらいしかやることがない。

 

だが報道ニュースといいながら、内容は稚拙なプロパガンダでしかなかった。

独裁国家はジャーナリズムによる批判を許容しない。

 

結果として国営放送は「我が軍の新兵器にかかれば連邦軍の宇宙戦艦など鎧袖一触である」とか「他のサイドの市民がジオン公国の決起と機を同じくして立ち上がる可能性は」などサイド3の外の事情やコロニー経済の実態を知っているものからすれば噴飯ものの内容を大真面目に語る出来の悪いコメディードラマの様相を呈していた。

 

そんな酷い放送だとわかっていても、少しでも地球の事情が伺えるのではないか、と目を皿のようにしてアランは画面を眺め続けていた。

 

状況が変わったのは夜中になってからだ。

ローカルニュースが続々とジオン公国軍の勝報を流し始めたのだ。

 

「キシリア中将閣下率いる戦略防衛軍月方面艦隊は地球連邦軍月面艦隊を撃滅し月面都市グラナダの占領に成功せり!」

「同時に突撃機動軍艦隊により地球連邦軍艦隊を撃滅!サイド1、サイド2、サイド4の解放と現政権の降伏を確認した模様!我が軍の勝利、大勝利です!!大勝利です!!今夜、人類の歴史が変わりました!地球の時代は終わります!これからは宇宙移民達の時代です!スペースノイド万歳!ジーク・ジオン!!」

原稿を読み上げる男性のアナウンサーは感極まったのか涙を流し最後はかすれ声になっていた。

 

勝利の報に興奮したのはアナウンサーだけではなかった。戦時中で夜間外出禁止令が出ているというのに感情を爆発させた多くの市民達が、先日は新年を祝ったばかりの大通りに飛び出して「スペースノイド万歳!ジーク・ジオン!」「地球連邦政府を倒せ!スペースノイド万歳!」と拳を振り上げ行進を始めた。

警備兵達も群衆と肩を組んで国家を歌い、通りを練り歩いた。

ジオン国民は積年の復讐を果たした勝利の美酒に酔いしれていた。

 

「初戦は勝てるだろうさ。初戦はな」

 

一方で、アランは、そうした群衆の興奮とは無縁だった。

彼は地球に長くいたために連邦政府の腐敗も上層部の無能もよくよく知り抜いていたし、地球連邦軍がどれだけ戦争に対して油断していたのかも知っていた。

だから戦争の序盤にジオン軍が勝利を挙げることは、なんら不思議ではなかった。

 

ジオンにとっての正念場はここからだ、とアランは見ている。

 

地球連邦軍が各サイドに置いているのは小規模な警備部隊に過ぎない。

本命の宇宙艦隊は、ほとんど無傷で残っているはずだ。

今は混乱しているだろうが、数日、おそらく1週間以内に体制を立て直して決戦を挑んでくるだろう。

 

そうなれば、数に劣るジオン軍艦隊の敗けだ。

 

「この戦争は1週間で終わる」

 

ジオンが負ければこの境遇からも解放されるだろう。

一刻も早くビクトリアに会いたい。

 

外の喧騒から切り離されたホテルの一室に軟禁されたアランの胸に去来するのは、赤毛の美しい婚約者の姿だけだった。




組織、新兵器、予算の問題を扱っているため以降は固有名詞が増えてきます。
また、各種設定資料になかったり相互に矛盾する内容があった場合には話を分かりやすくするために、敢えて無視する場合もあります。予めご了承ください。



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