「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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宇宙兵器のMSを地上でまともに運用できるのか、という話


第23話 MSの地上運用について

モビルスーツを地上兵器として運用することができるか。

 

可能かどうかを問えば、可能ではあるらしい。

 

そもそも「モビルスーツとは宇宙用の建設機械である」というジオニック社の設計思想から、ある程度のロバスト性と剛性は設計段階でかなりの確保されているし採用試験項目の中で1G環境下でも作動すること、とあるため地球上で動かすことは可能だろう。

また、それだけの強度がなければAMBACを利用した高機動戦闘時に数Gから10G近くまでパイロットによって振り回されることに機体が耐えられない。

 

だが、動作することと戦闘で使い物になるかは、全く別の話である。

 

地上ではモビルスーツは歩行することはできても飛び回ることができない。のそのそと歩く背の高い人型のモビルスーツは単なる的に過ぎないのではないだろうか。

 

「一応、背部スラスターを吹かしてジャンプすることは可能です」とシュミット氏は抗弁する。

 

「それをすると、着地の際にかなりの衝撃が脚部にかかるのでは」

 

「・・・そこも改修のポイントではあります」

 

他にどういった改修を考えているのか、シュミット氏から聞き取ったところによると

センサー類の入れ替え。大気圏内の運用を前提として各種光学センサーや対地・対物・対人センサーの導入。

各種スラスターの類の統廃合。宇宙空間戦闘を前提とした各所のスラスターを廃しジャンプ力向上のため背部スラスター出力の強化。

関節装置の強化。ジャンプによる着地や長時間の負荷と駆動に耐えるため関節装置の強化と入れ替え。

携帯火器類の改修。対戦艦を前提とした弾薬類を戦車や戦闘機に換装できるよう口径や発射速度を改良。

操縦及び火器管制システムソフトのアップデート、等が検討されているらしい。

 

「・・・まったく別物だな。もはやMS06とは言えないのでは」

 

「そうなります。コードは別名が与えられる予定です。設計と製造の連中は大慌てです」

 

シュミット氏はため息をついた後、意外に力強い視線を向けてきた。

 

「ですが!地球に残ったアースノイド達に我がジオニック社のモビルスーツの威力を見せつけるチャンスでもあります!現場の連中は張り切っていますよ」

 

◇ ◇ ◇

 

シュミット氏が帰ると、新しい情報を元にまた検討の続きである。

 

「ジオニック社はかなり前向きですね。頼もしいことです」

 

「現場の士気は高いだろうね」

 

ジオン公国のスペースノイド達からすれば「スペースノイドの自治権を求める正当な戦争」が今やコロニー虐殺事件を契機として「スペースノイドの生存をかけた正義の戦争」へと変質したのだから、士気が低い筈がない。

まったく連邦も悪手をうったものだ。

 

ふと、アランは何かの違和感を覚えたが、秘書に呼びかけられて目下の課題に集中するため頭脳を働かせなくてはならなくなった。

 

「モビルスーツ単体で地上でも何とかなることはわかった。けれど、それは兵器として戦闘で使い物になることを意味しない。このあたりは君の方が詳しいのじゃないか?」

 

士官学校を出ている秘書は、無知な生徒のために基本から講義してくれる。

 

「そうですね。まだ人類の歴史が地上に限定されていた頃には、新兵器が戦闘で役立たなかった事例は山ほどあります。例えば大砲という兵器を例にとりますと攻城戦では役だっても機動力の不足から野戦では役立たない、という時代が長く続きました。また野戦で活用できるようになっても、泥濘で身動きが取れなくなり放棄された事例も枚挙に暇がありません」

 

「なるほど」

 

「兵器は、火力、機動力、防御力のバランスがとれて初めて戦闘で役立ちます。モビルスーツも、その例外ではありません」

 

「MS06は、そうすると、どう評価できるのかな」

 

「そうですね。MS06は、宇宙戦艦の装甲を無効化するだけ火力が高く、宇宙戦艦よりも機動力が高く、宇宙戦艦の防御兵装よりも防御力が高かったのです。活躍できたのは当然といえます」

 

「なるほど。これが地上で戦うとどうなるんだろう?例えば戦車とか、飛行機と戦うとか」

 

「連邦の戦車となると・・・61式ですね。火力面では問題になりませんね。MS06の携帯火器で十分に撃破可能でしょう。接近戦に持ち込めば上面装甲を攻撃することも可能ですから、より容易でしょうね。機動力をとってみれば、走行スピードでは互角、ジャンプできるだけMS06が有利。防御力でもMS06の超硬スチールなら連邦の61式の主砲にも数発は十分に耐えるでしょう。何十発も受けてしまってはわかりませんが」

 

「一対一で戦えれば、そうなるかも」

 

実際の戦争が一対一の兵器で行われるとは限らない。

連邦の武器は圧倒的な国力を背景にした生産力である。戦車が1台撃破される間に10台作ればいい、をやれるだけの工業基盤がある。

 

「飛行戦力については」

 

連邦の国力に関する指摘は無視して秘書は続けた。

 

「ミノフスキー粒子の登場により誘導兵器の類による遠距離攻撃は、ほぼ無効化されています。ですから超高高度からのピンポイント爆撃によりモビルスーツを撃破することは不可能です。それに通常の戦闘機が携帯する小型ミサイルではMS06の装甲を破壊することは困難です」

 

「なるほど。そもそも連邦の現在の航空攻撃では火力が足りないのか」

 

「もちろん、連邦も航空機に装備する対MS爆弾等を開発するでしょう。ですがMSを破壊するためには命中させる必要があり、となれば航空機もモビルスーツを視界に入れるまで接近せざるを得ません。MS06は有視界戦闘となれば反撃も可能ですし、対宇宙戦闘機を想定したFCSがありますから撃破は可能ではないでしょうか」

 

「これも一対一なら対応できる、ということか」

 

いずれジオン公国でも大気圏内の戦闘機を開発しなければならないだろうが、当初はMS06のみでも少数であれば対応が可能に思える。

 

何よりも「ジオンの兵器は連邦の戦車や戦闘機と戦うことを想定しているが、連邦の兵器はジオンのモビルスーツと戦うことを想定していない」のが大きい。

多少の攻撃をものともしない全長18メートルの巨人兵器がジャンプをしながら近づいてくれば、それだけで兵士の士気は崩壊するのではないだろうか。

 

いわばモビルスーツ万能論。理論のどこかに何かを見落としている気はするが、軍事に素養のないアランでは穴が指摘できない。

地球侵攻に対するギレン総帥の自信は、このあたりから来ているのか、とアランは想像する。




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