「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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だいぶ間隔があいてしまいすみません。ここ数日は花粉が飛んでおりませんので書けました


第19話 南極条約

人に話をするときは相手の目を見ろ。

 

両親には、そうやって教わってきた。

だが、いくら話しても話の通じない相手には、どこを見て話せばいいのだ?

 

「それではアランさんがサイド3に到着してから何をしてきたのか。最初からもう一度聞かせてください」

 

もう一度、もう一度。たしか86・・・いや87回目だな。

 

アランは強烈な照明と睡眠不足でボンヤリとしかけた頭の片隅で正気を失わないよう、目に見えるものの数を数えていた。

 

強化プラスチック製の床と壁に囲まれた部屋にいる尋問官は4名。たぶん7名が交替しながら続けている。おそらくは3時間交替。1日5回交替しているので15時間が尋問時間。照明の数は天井に13、机に3つ。制服のボタンは5つ。軍靴の靴紐の穴は18。これは下を向いている時に数えた。メモの枚数は30。2枚残して次のメモへ。

 

起きて、聞かれて、話して、聞かれず、疲れきって眠る。

 

7回繰り返したあと、それは突然におわった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「だいぶ参ったようだな」

 

「殺すつもりなら、いっそ一思いにやってくれませんかね。趣味が悪い」

 

尋問から釈放され、全身を洗われて服装を整えられ、総帥府まで連れてこられるまで1時間とたっていない。正直なところ、自棄になっていた。

 

「ザビ家に連なる者を殺すはずがなかろう。それに貴様には未だ利用価値がある」

 

今や人類の頂点に立ったはずの独裁者、ギレン・ザビは面白くなさそうな表情で告げた。

 

「貴様の書いたレポートだかな。よく見えている・・・と言いたいところだが」

 

独裁者は鋭く手首を翻らせると、分厚い紙の束を放り投げた。

 

「カスだ。今となっては使い物にならん」

 

何をする、と反駁しかけて気がつく。

 

「今となっては?なにか情勢が変わりましたか」

 

ギレン=ザビは忌々しそうに衝撃的な言葉を告げた。

 

「レビルめが逃げ出しおった。いや逃がした者がいる。戦争は終わらん。アースノイドどもめ、よほど粛清されたいと見える」

 

「それは・・・」

 

アランは絶句した。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

あとから知った話だが、地球連邦軍の司令官としてジオン本国で勾留されていたレビル将軍は1週間ほど前にサイド3から何者かの手引きで脱出したらしい。

1週間前といえば、アランが逮捕された時期と重なる。

 

「なるほど。親衛隊の奴等が焦って逮捕に来るわけだ」

 

「ご無事で何よりです」

 

「無事なものか」

 

アランは事務所にしていたホテルに戻ってきていた。

引き続き、秘書はマリーが勤めるらしい。

 

「レポートは再提出。次期主力モビルスーツ選定計画は、また一からやり直しだ。おまけに戦争は続くときた。ったく何で本国から敵国の将軍が逃げ出せるんだ。おかしいだろう?」

 

「私の口からはなんとも・・・」

 

コーヒーを淹れる秘書が言葉を濁した。

連邦の手がジオン本国まで延びていたか、あるいはジオンが一枚岩でないのか。

マリーの反応を見れば、後者のようにアランには思える。

 

それにしても、圧倒的に優勢な軍事的条件下で利敵行為に走るとは。せめて終戦まで待てなかったのか。

ジオン公国内の派閥事情というのは、余程に深刻なものらしい。

そもそも地球で暮らしていた外様の自分が呼び戻されたのもキシリア・ドズルの派閥争いの余波であるわけで。

 

「このままでは、ジオンは負けるな」

 

思わず口に出た言葉を、アランは頭を振って打ち消した。

宇宙戦力では連邦の主力を壊滅させたジオン公国が圧倒的に有利なのは間違いないのだ。

この状態からジオンが負けるというのは、ほとんどあり得ない確率だ。

 

「まずは南極条約とやらの原文を見せてくれ。今後の戦略環境を検討するにも前提情報がいる」

 

アランが尋問で世間から隔離されている間に、地球連邦政府との間で俗に南極条約と呼ばれる協定が結ばれたらしい。

戦力の制限や戦闘地域の前提が覆されると、前回レポートのように破棄される可能性が高くなる。

ざっと概略だけを見れば、その項目は非常に単純である。

 

1.大量破壊兵器の使用禁止(NBC兵器、大質量兵器の使用を含む)

 

2.特定地域および対象への攻撃禁止(月面都市、中立宣言コロニー、木星船団)

 

3.捕虜待遇に対する取り決め

 

「だいたいがジオンの要求が通ったということか・・・?」

 

閉鎖環境である宇宙コロニーに核、科学、生物兵器などを使用されては、住民被害は簡単に一千万人、一億人のオーダーに載ってしまう。

あくまでの宇宙移民の自治権を求めるジオン公国の立場からすれば、そうしたスペースノイドの人命尊重の項目を主張するのは当然だろう。

特定地域への攻撃禁止についても、その多くが宇宙でのジオンの覇権を追認するものだ。

捕虜待遇についてもジオン公国をあくまで内乱として当該の規定がなかったのがおかしいのであって、国同士の戦争となれば当然に結ばれるべきものである。

 

「よくわからないのが、この”大質量兵器”だ。ジオンは資源衛星を兵器にしているのか?」

 

「いえ。コロニーを使用します。いえ、されました」

 

いま、なんと言った?




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