真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「弓を使うキャラはなんだか年う・・・」「ひぃっ。ギルの顔面すれすれに矢が!?」「流石は紫苑・・・」


それでは、どうぞ。


第九話 弓兵として弓を使うために

「風呂に常時入れるようにしたいと思う」

 

「・・・つってもなー。この辺、温泉なんて出ないぜ? 上下水道も全然だし・・・」

 

ある日の昼下がり、珍しく政務で一緒になった一刀に、休憩を利用して話しかける。

内容は上記の通りだ。今のようにお湯を沸かしてためる方式ではなく、何らかの方法でいつでもお湯を出せるようにする。

そうすれば、女性が多い将も嬉しいだろうし、一番汗をかく兵士たちのリフレッシュにもなるだろう。

・・・まぁ、本音を言えば中身が日本人である俺が風呂に常に入れるようになりたいと思っているだけなのだが。

 

「んー・・・でもま、気持ちは分からないでもないぜ。俺もたまに風呂に入れないとき困るからな」

 

「だよな。取り合えず、これが終わったら甲賀のところに行くか。いろんなところに伝手があるあいつとなら、何か案が出るかもしれないし」

 

「おう。じゃあ、さっさと終わらせようか」

 

速度が二割り増しになった俺たちは予想より早く仕事を終わらせ、甲賀の元へと向かった。

甲賀の住んでいる家と言うか屋敷は目立たないように住宅に囲まれてひっそりと存在している。

まぁ、職業柄目立つ家には住めないので当然だけど。

甲賀の家の扉をノックする。ある一定のリズムで叩かなくては開いてくれないので、いつもこの瞬間は気を使う。

 

「・・・む、何だお前たちか」

 

扉を開けた甲賀が怪訝そうな顔をする。

 

「おはよう、甲賀。あがってもいいか?」

 

「構わんぞ」

 

そう言って家の奥へと戻っていく甲賀の後に続き、俺と一刀も家の中へと足を踏み入れた。

家の中では着物を着た人たちが忙しそうに歩き回っており、日本に帰ってきたのかと錯覚するような光景が広がっている。

たまにランサーの複製がいたりするが、ランサーの格好も大日本帝国軍の制服なので、全く違和感がない。

 

「こっちだ」

 

すすすー、と障子を開けて甲賀はとある部屋の中へと入っていく。

 

「あれ、甲賀の部屋変わったんだ」

 

「うむ。人が増えたし、ランサーと言う労働力もあるからな。増築とまでは行かなくとも、改築は人知れずできるものだ」

 

「・・・改築、したのか」

 

一刀が呆然とした表情で家の中を見回す。

その気持ち、分からないでもないぞ。俺も以前来たときと変わりすぎてて一瞬どこか分からなくなったから。

 

「ま、座れ。・・・ちょっと待ってろ。今茶と茶菓子を持ってくる」

 

「そんなにお構いなくー」

 

「こういうのは、礼儀だ。命の恩人であるお前になら、なおさらな」

 

甲賀は口角を上げるだけの笑みを浮かべて、部屋から出て行く。

 

「・・・なぁギル?」

 

「ん、どうした一刀」

 

「この家だけ、昭和っぽいんだけど」

 

「確かに。白黒テレビとかの家電はさすがに無いみたいだけど、雰囲気は日本のそれだよなぁ・・・」

 

一刀がきょろきょろと部屋を見回しているのに習って俺もきょろきょろと周りを見回す。

良くもまぁここまで再現したものだ。

 

「待たせたな」

 

再び障子を開いて部屋の中に入ってきた甲賀。

その手には盆が乗っており、お茶が人数分あった。

さらに甲賀の後ろからはオリジナルのランサーが入ってきて、お茶菓子をちゃぶ台の上に置いた。

 

「よくいらっしゃいました、北郷殿、ギル殿」

 

「元気か、ランサー」

 

「ええ。ギル殿も息災のようで何より。北郷殿もお元気そうで何よりです」

 

「ああ、ありがとな、ランサー」

 

「・・・それで? 今日は何用だ」

 

「そうそう。早速本題に入るんだけどさ・・・」

 

俺は甲賀とそのそばに正座しているランサーに風呂を作りたいと説明する。

 

「風呂・・・と言うよりは温泉に近いな、それは。・・・しかし、この辺で温泉などあったか・・・?」

 

「湧き出るものはおそらく少ないかと」

 

甲賀とランサーは首をかしげて考え込んでいるようだ。

やっぱり甲賀でも知らなかったか・・・。

 

「うーん・・・もうこうなったら最終手段に出るしかないかなぁ・・・」

 

「最終手段?」

 

きょとんとした顔の一刀が疑問を口にした。

 

「ああ。乖離剣を真名解放して、ドリルみたいにして地面を掘る。いつか何かに突き当たるだろ」

 

「ちょっとまて。ギル、貴様何時からそんな馬鹿になった」

 

焦ったように腰を浮かせた甲賀に笑い返しながら、俺は口を開く。

 

「いやー、流石に半分は冗談だって。温泉が湧き出るかもしれない、って言うところでやるならまだいいけど、何もないところ掘るほど暇じゃないさ」

 

「・・・ギル殿がいうと冗談に聞こえないのが不思議です」

 

「ふむ・・・少し難しいかもしれないが、後は給湯システムを作るしかないんじゃないか?」

 

「給湯システムを?」

 

「ああ。川かどこかと風呂場を繋げて、何らかの手段で風呂場に入れる前に川の水を温める。湯になった川の水を風呂場に流せば、風呂にはなるじゃないか」

 

甲賀が説明してくれたのは、水道があって、給湯のためのボイラーがある前提の話だ。

・・・だが、いい案かもしれない

 

「よし、取り合えず今から俺の宝物庫の中からいくつか使えそうなのを見繕うから、ちょっと検討してみようぜ」

 

「使えそうなのって・・・宝具でか?」

 

「そんなに所帯じみた宝具があるのか・・・?」

 

疑問符を頭の上に浮かべる二人の言葉をスルーしつつ、宝物庫を開く。

中から取り出したのは常に燃える剣。多分何かの炎の剣の原典だとは思うんだけど、常に燃えているのならボイラー代わりにならないだろうか。

 

「うぅむ・・・燃料としてはいいが、それの温度調整はどうするんだ? 流石に沸騰している湯を風呂にはできないだろう」

 

「・・・確かに。もう少し温度が低いものか・・・」

 

常に燃える剣をしまい、ごそごそと宝物庫をあさる。

 

「お、これならどうだ? 水をお湯に替える杖」

 

「何でそんなぴったりなものがあるんだよ!?」

 

ただの木の枝にしか見えない杖を取り出すと、一刀に突っ込みを入れられた。

んなこといわれても、さまざまな宝具の原典が入ってるんだからあっても不思議じゃないだろ。

 

「・・・まぁ、それで湯の問題は解決したな。後は水道か・・・」

 

「川からの水を風呂場に送るのと、風呂場のお湯を川へと戻す二つが必要だな・・・」

 

「それに、川と風呂場の高低差を考えると、何か水を動かすような装置が必要だな。・・・ギル、宝物庫の中に水を操る宝具とかないのか? モーセが持っていたようなの」

 

「・・・一刀、お前結構無茶言うんだな。まぁ、探すけど」

 

水をお湯に替える杖をちゃぶ台の上に置き、再び宝物庫をごそごそ。

 

「あ、こんなのあったぞ」

 

「なんだ?」

 

「水が下から上に流れるようになる珠」

 

「ほほう。なるほど。それなら使いようによっては何とかなるな」

 

「よし、ボイラーと水道はこれでいいとして。後は施設だな」

 

取り出した杖と珠を見ながら、一刀がうんうんと頷く。

 

「まぁいい。施設の建設は任せろ。こっちには労働力が大量にいるからな」

 

確かに。忍者たちはすでに大量に存在しているし、ランサーだってその気になれば千人規模に増えられる。

 

「それに、俺の魔術は何かを組み立てるのに向いてるからな。宝具を使うのは初めてだが、やれないことはないだろう」

 

「よし、頼んだ。俺はまず城の風呂を改装する許可を取ってくる」

 

「そうだな。それが成功したら、兵士の宿舎とか、町に作るのもいいかも」

 

「ああ。風呂に入ればさっぱりするし、みんなも喜ぶだろ」

 

それから、俺と一刀、甲賀とランサーの四人で、内装には富士山を描こうだとか自動的にかぽーん、と鳴るような魔術装置を作ろうだとか様々な話をした。

・・・後半は、確実にボイラーや給湯装置に関係ないことだったのに気づいたのは、話し合いが終わって、帰り道を歩いているときだった。

 

・・・

 

「・・・常に入れるお風呂、ですか」

 

早速朱里と雛里に相談してみる。

真剣な表情になって考え込む二人は、俺の提出した企画書とにらめっこしているように見える。

 

「いいかもしれませんね。今まではお風呂の日じゃないときに訓練すると、水浴びくらいしか身体を洗うすべはなかったようですし・・・」

 

「この・・・宝具と魔術の併用による常時給湯装置、と言うのが気になるのですが・・・」

 

「ああ、それはどうせお湯が流せるんだったらシャワーとか欲しいなぁと思って」

 

「しゃ、しゃわー、ですか?」

 

俺の説明に、朱里と雛里が首を傾げる。そっか、シャワーとか分からないよな。

昨日は一刀や甲賀と話してたから、すっかりここが三国時代だって忘れてた。

 

「ええと、こう、小さい穴がたくさん着いた筒から、お湯が出てくるんだ。で、それで身体の汚れを流したりするんだけど・・・」

 

こんな感じ、と図を描いて説明する。

模型でもいいから作ってくればよかったかな。

 

「はわわ・・・そんな便利なものが・・・」

 

ちなみにその後、シャワーが作れるのならカランも作れるだろうということになったのだが、それでは水の出力が足りないという壁に突き当たった。

そこで再び宝物庫をあさると、流れる水の勢いを加減速させる石が出てきた。

それを使って、水の勢いを高めるとのことだ。

 

「それなら、できそうですね。・・・でも、宿舎や町に作るのは、その宝具がいくつもないといけないですよね?」

 

「そこはまだ検討中だ。取り合えず城内で作ってみて、いろいろと不具合とか使い心地とか聞いてみる。それで大丈夫そうだったら宿舎とかにも水道を伸ばして・・・って感じかな、今のところは」

 

「・・・さすがギルさんですね。そこまで考えてらっしゃるなんて」

 

「はは。ありがと、嬉しいよ。それで、風呂ができたときには朱里と雛里に一緒に入ってもらいたいんだが」

 

「はわわっ!? ギルさんと一緒にですか!?」

 

「あわわ・・・ま、まだ心の準備が・・・」

 

俺の言葉に、顔を真っ赤にしてあたふたし始める二人。

・・・どうしたんだろうか。

 

「俺と一緒にってことじゃないんだが・・・。それに、俺がいなくても怪我するようなことはないから大丈夫だと思うけど・・・?」

 

「そ、そういうことではなくて・・・」

 

「ん? ああ、使い方ならちゃんと説明してから入ってもらうから大丈夫だ」

 

「・・・雛里ちゃん、多分私たちが思ってることと全然違うこと思ってるね、ギルさん」

 

「そだね・・・。先は長そうだよ、朱里ちゃん」

 

次は二人いっせいに落ち込んでため息をつき始め、本気でどうしたんだろうかと心配になった。

そんなに俺と一緒に風呂に入りたかったんだろうか。

 

「・・・大丈夫か、二人とも。そんなに落ち込むほど俺と一緒に入りたかったのか?」

 

「はわわっ!? そんな恐れ多いこと!」

 

「あわわ・・・む、無理です・・・!」

 

・・・よく分からないが、再び混乱し始めた二人を落ち着けさせ、改築の許可を貰った。

早速一刀と共に甲賀の家に行き、計画を始動させる旨を伝えた。

 

「よし、ならば忍者集団の中から、工作活動が得意なのを十数人と、ランサーを二十人ほど連れて行け」

 

「助かるよ」

 

「俺はお前が取り出した宝具をどう給湯装置に組み込むかを考えるから、しばらく工房に篭る。用があるときはオリジナルに言え」

 

「ああ。よし、それじゃ一刀、お前は内装のデザインを頼む」

 

服の意匠を考えたという一刀は、やはりと言うかなんというかデザインの才能があるらしく、衣装を作るときや家の内装といったことを頼むとかなりのクオリティで仕上げてくれる。

 

「おう! 日本と見間違うくらいのもの作ってやるぜ!」

 

「その意気だ。取り合えず、壁とかの素材を作ったりする職人たちの工房の場所、教えとくな」

 

さて、俺はちょっくら宝物庫でものぞいてみるかな。

何か使えるようなのがあれば甲賀のところに持っていくとしよう。

 

・・・

 

「・・・バーサーカー。そういえばお前も日本人なんだよなぁ」

 

「・・・」

 

給湯装置を作成するにあたって、川から風呂場への水道やらの工事を始めることに。

がっこんがっこんと何かを掘り進めたりする音が、土ぼこりが飛ばないようにと引かれた幕の向こうから聞こえてくる。

その様子を見に行こうと街を歩いていると、道中で路地裏への入り口をふさぐ様に立っているバーサーカーを見かけたので、ちょっとだけ話しかけてみたのだ。

・・・まぁ、答えが返ってくるとは思ってないが。

 

「まぁ、次は温泉でも掘り当てるから、そのときはお前も呼ぶよ。城の風呂場はお前には小さいからなぁ」

 

「・・・」

 

仁王立ちの体勢から微動だにしないバーサーカーにそういうと、かすかに首肯してくれたような気がした。

俺は一人で納得しながら、路地裏にいるであろうシャオは何をやってるのか気になった。

 

「・・・にしても、路地裏で何やってるんだ、シャオは」

 

そう言って覗き込もうとすると、今まで無言で仁王立ちしていたバーサーカーが一変した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「おおおおおおおっ!?」

 

急に雄たけびを上げるバーサーカーから慌てて距離をとる。

まさかシャオから路地裏に他人を入れないように、とか命令されてますかね!? 

 

「・・・というか、周りの人たちがまたか、見たいな顔して通ってくってことは、日常茶飯事なんだな、これ」

 

はぁ、とため息をつく。

まぁいいや。シャオにだって秘密の一つや二つくらいあるだろ。

 

「それじゃあな、バーサーカー。頑張ってくれ」

 

「・・・」

 

無言のバーサーカーに別れを告げて、俺は目的地へと向かう。

水を引くところから始めるつもりだけど、川を分かれさせるなんて簡単にできるものかね? 

 

・・・

 

「・・・うわぁ」

 

できてました。なんていうか、昨日までただの川だったのに今じゃ城への支流ができてるんだもの。

驚いた。凄いな工作部隊とランサーたち。

 

「む・・・? ギル様! どうかいたしましたか?」

 

ランサーの一人が気づくと、全員がこちらを見る。

 

「いや、どれくらい進行してるかなっていう確認をしにきたのと、後どれくらいで終わりそうかなって聞きに着たんだけど・・・」

 

「なるほど。ええっと、ここで計画の統括をしてるのは・・・」

 

「私ですっ」

 

「ああ、そうでした。それではギル様、詳しい話は彼から」

 

そう言ってランサーがよけると、別のランサーが前に出る。

同じ日本人なだけあって顔立ちは似ているが、服装以外はやはり別人だ。

まぁ、服装もちょっとだけ違ってたりするんだけど。

 

「説明させていただきます! 川の支流を城の浴場と繋げる工事は、今のままで行きますと明日には完成すると思われます!」

 

「・・・早いな」

 

「はっ。恐縮です」

 

そう言って敬礼するランサー。甲賀の一件以来、俺にも敬意を払ってくれるようになってちょっとこそばゆく感じる。

まぁ、明日繋がるって言うんなら、後は甲賀の給湯装置がどうなったか、だな。

次はそっちに行ってみるか。

 

「うん、分かった。じゃあ、俺は甲賀が作ってる給湯装置の様子を見に行くよ」

 

「はい。・・・大丈夫ですね。今は家にいるようです」

 

ああ、そういえばランサー同士はお互い一瞬で意思疎通できるんだっけ。

 

「分かった。じゃあ、オリジナルに今から行くこと伝えておいてくれ」

 

「はっ。それでは、お気をつけて!」

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言って俺は休憩のときにでも食べてくれ、とランサーに手土産を渡し、別れを告げた。

・・・え? いや、手土産くらい用意しないと。俺たちのわがままで動いてくれてるんだし。

 

・・・

 

「お、ランサー」

 

「・・・ああ、ギル殿ですか。お待ちしておりました」

 

そう言って出迎えてくれるランサーが、それで、何か御用でしょうか、と聞いてきたので、俺はそうそう、と前置きしてから口を開いた。

 

「さっき工事現場を見てきたんだが、明日には完成するって言ってたからさ。甲賀の方はどうかと思って」

 

「なるほど。・・・今ならマスターも大丈夫だそうです」

 

念話かなにかで確認を取ったのか、ランサーは中へどうぞ、と玄関を開けて言った。

お邪魔します、と声を掛けて家の中へ。一応説明はされていたので、工房まで一直線だ。

 

「甲賀、入るぞー」

 

「む、ああ、入れ」

 

入れ、といわれたので遠慮なく入る。

工房は純和風の内装をしており、様々な道具が並んでいる以外は他の部屋と変わらないように見える。

が、周りに張ってある札や置いてある様々な薬品などから魔力を感じるので、結界を張ってあることが分かる。

 

「どうかしたか?」

 

畳に正座しながら宝具を弄っている甲賀は、こちらを見ないまま用件を聞いてくる。

 

「装置のほうはどうかな、と思って。ランサーから聞いてると思うが、明日には支流を繋げる工事も終わるみたいだし、装置の状況はどうかなぁと」

 

「うむ、宝具を弄るのは初めてだったが、何とかコツはつかめた。明日の工事終了までにはできるだろ」

 

「そっか。それは良かった」

 

なら、明日から給湯装置と水道工事の両方を進めていけるだろう。

よし、当面は甲賀たちに任せて大丈夫だろう。後は一刀の様子を見に行ったあと、政務に戻ればいいだろう。

 

・・・

 

「あ、ギルさん。お疲れ様ですっ」

 

一刀の様子を見に行ったがいなかったので、諦めて政務へと戻ることにした。

政務室には朱里だけがいて、俺が入ってきたのでいったん筆を止めてあいさつしてくれた。

 

「お疲れ様。今日は朱里だけか?」

 

「はい。桃香さまは午前中で政務は終わっていますし、さっきまで雛里ちゃんもいたんですけど、愛紗さんと隊列の訓練に行ってしまって・・・」

 

「そうなんだ。よし、じゃあ今日は二人で頑張るか」

 

「ふ、二人・・・二人きり・・・は、はいっ! 頑張りますっ」

 

「そこまで肩肘張らなくていいよ。二人しかいないっていっても仕事は少ないんだし、ゆっくりやっていこうぜ」

 

そう言って朱里の頭を撫でる。こうすると喜んでくれることは経験から分かっている。

俺の予想通り、朱里は少し恥ずかしそうにしながらも笑顔で撫でられている。

 

「はわわ・・・ゆ、ゆっくり頑張りますっ」

 

「おう。ゆっくり頑張ろうぜ」

 

朱里から余計な肩の力が抜けたのを見て、俺も自分の席に座る。

自分で言っておいてなんだが、本当に仕事少ないな。これなら日が暮れる前に終わりそうだ。

 

「・・・あ、あのっ」

 

「んー?」

 

朱里が政務中に声を掛けてくるとは珍しい。

いつもはせっせと一生懸命筆を動かしているだけなのに。

 

「その、ですね・・・。ば、晩ご飯をご一緒させていただきたいのですが・・・!」

 

「晩飯を一緒に食べたいってことかな?」

 

「はいっ・・・。もう、誰かとご予定があったりしますか・・・?」

 

「いや、特にはないよ。・・・うん、今日は一人で食べようと思ってたから大丈夫だ」

 

今日は侍女の仕事が長引いてちょっと遅くなるので、先に食事を取っておいてください、と月に言われてたし。

それに、朱里と一緒に食事するというのは久しぶりじゃなかろうか。

 

「それじゃ、仕事終わったら街に行こうか」

 

「はいっ」

 

さて、どこに連れて行こうかな。

最近は治安も良くなったし、日が暮れても開いてる店は増えてきている。

だから、以前よりはいろいろと選択肢があるんだが、むしろありすぎて困るな。

 

「朱里、何か食べたいものとかあるか?」

 

ただ悩んでるだけで答えが出るわけでもないので、思い切って本人に聞いてみることに。

俺の質問にふぇっ!? と驚いた朱里だったが、次の瞬間えーっと、えーっと、と悩み始めた。

お互いに筆が止まってしまっているが、幸い時間には余裕がある。少しくらい話をしていても大丈夫だろう。

 

「えと、あんまりたくさん食べられないので、量が少ない料理が置いてあるお店がいいです」

 

「なるほど。・・・あ」

 

そうだ。小食の朱里に、ちょうどいいところがある。

あそこなら朱里もちょうどいい量が食べられるだろう。

よし、行くところは決まったな。

 

「うん、行くところが決まったよ、朱里」

 

「はわわ、どこでしょうか・・・?」

 

「はは、まだ内緒」

 

「ギルさんが意地悪です・・・」

 

ぷぅ、と頬を膨らませて怒っていますよ、とでも言いたげにこちらを見つめる朱里に思わず笑みが漏れた。

 

「笑わないでくださいよぅ・・・」

 

「ごめんごめん。別に馬鹿にしたわけじゃないんだよ。ちょっと朱里が可愛かったから」

 

「はわわっ!?」

 

そんな、可愛いなんて、はわわ、と面白いぐらいに取り乱している朱里を見ていると、やっぱり笑みが漏れてしまう。

しかし今度は俺が笑っていることなんか気にならないぐらいに取り乱しているらしく、いまだに顔を真っ赤にしながら俯いている。

しばらくは再起動しなさそうなので、朱里の分の仕事もいくつかやっておく。うむ、このくらいならまだ手伝えるな。

さて、早めに終わらせて、朱里の可愛い姿を見る作業に戻るかな。

 

・・・

 

「はわ~・・・もう日も暮れるのに、人が一杯ですねぇ」

 

はぐれないように、と手を繋いだ朱里から、驚いたような感心したようなどちらとも着かない呟きが聞こえてくる。

大戦も終わり、街の巡回に回せる人員が増えたことや、街を明るくするための工夫のおかげで日が暮れても人がいなくなることはなくなった。

流石に深夜になれば人も出歩かなくなるが、大戦前よりも街の人たちが外出している時間は長くなっただろう。

 

「朱里たち軍師が一刀や俺の案を実現してくれたからだよ。ありがとな、朱里」

 

「はわわっ。そんな、私はただギルさんや北郷さんの案が素晴らしかったから、ちょっとお手伝いしただけで・・・!」

 

「まぁまぁ。謙遜するなって」

 

そんなことを話している間に、目的の場所へと着いた。

ここは街にいくつかある大衆食堂の一つなのだが、ちょっとだけ俺と縁がある店でもある。

以前来たときに店主から相談を受けたのだが、その時の俺の提案が大当たりしたらしく、それ以来ちょくちょく店主に相談を受けることになった。

なので、ここのメニューの半分は俺の提案、もしくはそれに近いものである。

今日はそのうちの一つが朱里にぴったりだと思って連れてきたのだ。

 

「こんばんわ、親父」

 

「おお! ギルさまですか! いらっしゃい!」

 

元気良く迎えてくれた親父と挨拶を交わし、四人がけの卓につく。

 

「朱里、今日は朱里にぴったりな品があるんだ。それを食べてもらいたいんだけど、いいか?」

 

「はいっ。ギルさんのおすすめなら、断る理由なんてないですっ」

 

「そっか。親父! ラーメン一つと、特別定食一つ!」

 

「あいよ!」

 

「あの・・・特別定食って・・・?」

 

「ん、まぁあまり食べられない子供とかのために作られたんだけど、朱里も小食だしちょうどいい量かなって」

 

そんなものが、と呟く朱里。

最初はお子様定食と言う名前にしようとしたけど、それだと頼めるのが子供だけになってしまうので、今の名前になった。

 

「量は少ないけど料理の種類はあるし、ちょっとづつ食べられるから朱里みたいな娘には良いと思うよ」

 

「そうなんですかぁ・・・。どんなのがくるのか、ちょっと楽しみですっ」

 

「はは、気に入ってくれるといいんだけど」

 

客が少なかったからか、料理はすぐに来た。

 

「はいお待ちどうさん! こっちがラーメンで、こっちが定食!」

 

「お、ありがと」

 

「ありがとございますっ」

 

「それで、これは定食のおまけです、諸葛さま。諸葛さまは女性ですから、こういうのがいいと思いまして」

 

「おまけ・・・ですか?」

 

「へい。この定食は子供が良く頼むんで、おまけがついてるんです」

 

なんだか感動した面持ちで、朱里は貰ったおまけを眺めて、特別定食――もうお子様ランチと言うことにしよう――を眺めてをしばらく繰り返してから、スプーンを手に取る。

やはりお子様ランチにはスプーンだということで、お子様ランチの開発と同時にスプーンも作成した。

現代と比べると粗いところがあるが、それでもスプーンとしての役割は完璧にこなしている。

まぁ、みんなにはスプーンではなく匙として認識されているのだが、まぁそれは後でどうとでもなるのでよしとする。

ちなみにおまけもお子様ランチにつき物だということで頼んだ人にはおまけをあげることになっている。

おまけは商人が持っていた工芸品とか玩具とかのあまりものを安く仕入れているので、おまけをつけても負担ではないようだ。

 

「よし、いただこうか。いただきます」

 

「い、いただきますっ」

 

お子様ランチの内容はいたってシンプルだ。

まず山の形に整えられたチャーハン、おかずには餃子がふた切れと麻婆豆腐が少し。

果物を小さく切って現代版お子様ランチのゼリーの代わりにした。

後は親父の気分で惣菜が二つほどつくことになっている。

そして最後に小どんぶりに入ったラーメンがついてきて、なかなか手ごろなお値段なのです。

 

「はむっ」

 

チャーハンの山を崩して、スプーンですくい、口に運ぶ朱里。

流石に爪楊枝にくっついた国旗は用意できなかったので山の頂上には何も突き刺していない。

 

「どうだ、朱里。味のほうは」

 

「とっても美味しいです。それに、このくらいの量なら私でも簡単に食べ切れますし、いろんな種類の料理を少しずつ食べられるのはいいですね」

 

ニコニコと嬉しそうに笑いながら感想を告げてくれる朱里。

うんうん、親父の苦労も報われるだろう。これ作るために、親父の息子とか息子の友達に試食を頼んだらしいし。

 

「喜んでくれたなら、ここを案内した甲斐があったよ」

 

俺も朱里に釣られて笑顔になる。

やっぱり食事は楽しく食べないとね。

お互いに今日の仕事のことや明日の予定のことで話が盛り上がりながら食事をしていると、すぐに皿は空になる。

うん、満足満足。

正面に座る朱里も、満足そうにはふ、と息を吐いている。

 

「よし、じゃあ帰ろうか」

 

宝物庫から代金を出して親父に渡す。

親父に見送られながら、俺と朱里は店を後にした。

 

「はわわ・・・いつもご馳走になっちゃってすみません・・・」

 

「いいって事さ。女の子にご馳走するのは男の特権だからな。素直に奢られると良い」

 

「は、はい。ご馳走様でした」

 

帰り道は人通りも落ち着いていたので、行きとは違って手は繋がなかった。

だが、ふと朱里を見ると、なんだか俺の手を見ては手を伸ばして急に引っ込めたりと忙しそうだ。

多分俺と手を繋ぎたいんだろうな。帰り道もはぐれそうで不安なんだろうか。

まぁ、取り合えず繋いであげればわかるか。勘違いだったら謝って離せばいいんだし。

俺はおずおずと手を伸ばしていた朱里の手に、自分の手を重ねた。

 

「はわわっ!?」

 

「さっきから俺の手に手を伸ばしてたから、こうしたいのかなって思ったんだけど・・・俺の勘違いだったかな?」

 

「い、いえっ。勘違いじゃないです・・・」

 

「そっか。これからは遠慮しないで俺の手を取って良いぞ。別に怒ったりしないから」

 

「はわわ・・・その、が、頑張りますっ!」

 

むむっ、と拳を握って宣言した朱里。

そのときに俺と繋いでいる手にも力が入っていたが、全くと言っていいほど痛くなかった。

俺もちょっとだけ握る手に力をこめる。・・・もちろん、潰そうなんて全く思ってもいない。

 

「あっ・・・」

 

それに気づいたのか、朱里が少しだけ切なそうな声を出した。

・・・その後の帰り道は、すっかり日が暮れたな、とかそんな益体もない話をして帰った。

なんだかほっこりとした心で城へと帰ることができた。

 

・・・

 

サーヴァントにはクラスというものがある。

劉備はセイバー、ハサンはアサシン、といった具合にそれぞれにクラスがあり、さらに、クラスにはクラススキルというものがある。

一番ポピュラーなのは対魔力じゃないだろうか。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダーの四クラスが持っているスキルだ。

そう言ったスキルを有効に活用することが、聖杯戦争で勝ち抜いていくためには必要だろう。

・・・なんでこんな話をしているのかと言うと、ある日自身のステータスを見たときに思ったのだ。

 

「・・・戦闘用のスキルが皆無に近いな・・・」

 

原作のギルガメッシュのスキルは対魔力E、単独行動A+、黄金率A、カリスマA+、神性Bの五つだ。

最初は俺もその五つしかなかったが、こうしてこちらで過ごしているうちにいくつかのステータスがアップし、新しいスキルがついた。

魔力放出E+と、軍略C、そして千里眼Dだ。

軍略は多人数がでないと発動しないし、魔力放出は戦いに使えるランクではない。

唯一使えそうな千里眼も、俺自身が弓を使わないためにほとんど無用の長物と化している。

多人数を動員した戦いでは有利になるが、一対一の戦いの際に使えるものがない。

そんな考えに行きついた俺は、千里眼を生かすために弓を習うことにした。

弓の英霊として召還された以上は、ちょっとくらい弓も使ってみたいのです。

 

「あ、いたいた」

 

宝物庫の中から魔力をつぎ込むほど威力が上がるという弓の宝具を引っ張り出し、城にいるであろう紫苑を探すと、割とすぐ見つけることができた。

蜀で弓といえばやはり紫苑だろう。一応桔梗も弓兵扱いだが、轟天砲はちょっと・・・。

 

「おーい、紫苑」

 

「はい? ・・・あら、ギルさん。いかがなさいましたか?」

 

俺の声に振り向いた紫苑は、柔和な笑みを浮かべている。

こういう母性あふれるところがみんなに頼られる所以なんだろう。

 

「ちょっと頼みがあるんだ。この後、仕事とかあるかな」

 

「ギルさんから頼みごとと言うのは珍しいですね。私にできることなら良いんですけど・・・」

 

「紫苑じゃないと駄目なんだ」

 

「私じゃないと駄目・・・ですか」

 

俺の言葉に、真剣な表情をする紫苑。

そんな紫苑に頼みごとをするため、俺は口を開く。

 

「俺に・・・弓を、教えて欲しいんだ」

 

「・・・弓を?」

 

「ああ、弓を」

 

「なるほど、だから手に弓を持っているんですね。・・・分かりました。私がどれほどお役に立てるか分かりませんが、お手伝いしましょう」

 

「本当か!? ありがとう、紫苑!」

 

よし、と軽いガッツポーズ。

 

「うふふ、それじゃあ、訓練場へ行きましょうか」

 

「ん、よろしく頼む」

 

「はい」

 

・・・

 

「弓の訓練場に来るのは・・・二度目か」

 

前に璃々が遊びに来たときに紫苑を訪ねてきた以来だ。

以前は良く見てなかったので分からなかったが、練習用の矢が矢束に入っていたり、(ゆがけ)や弓が置いてあるのが見える。

 

「ギルさんは弓を持参していらっしゃるから、後は(ゆがけ)と矢ね」

 

「あ、右手だけ籠手出せるから、それを替わりに使うよ」

 

「あら、便利なんですね。じゃあ、矢だけでいいかしら」

 

そう言って、大量の矢を持ってくる紫苑。

紫苑はここにくる途中で部屋に立ち寄り着替えてきているので、自分の弓と籠手を持ってきている。

 

「ギルさん、弓を使ったことは?」

 

「ない。ほとんど剣で戦うか宝具を射出するかだったからなぁ」

 

「なるほど。それでは、基本からゆっくり教えますね」

 

そう言って、紫苑は弓の持ち方から始まり、矢の番え方、引くときの注意点などについて教えてくれた。

日本であったような弓道ではなく、どちらかと言うと戦いのための弓術といった感覚である。

千里眼のおかげか、少し習っただけで基本はマスターできた。

動いたり馬に乗ったりしながら矢を放つのは無理だが、動かずに的に当てるくらいなら九割の成功率だ。

うむ、これからもちょくちょく教わるとしよう。

 

「ギルさんは筋がいいわ。この調子なら、すぐに上手くなるわね」

 

長く話していたからか、紫苑から硬い敬語が抜け、普通に話しかけてくれるようになった。

流石に年上に敬語を使われるのはちょっと抵抗あるからな。

 

「それじゃあ次は・・・」

 

「んー? なんじゃ、紫苑。わしに内緒でギルと逢瀬か?」

 

「あら、桔梗じゃない。どうしたの?」

 

次の練習に移ろうとしたとき、弓を持った桔梗が訓練場へとやってきた。

桔梗は俺と紫苑を見るやいなや、にやり、と笑いながらからかってくる。

 

「なに、轟天砲を調整に出しておってな。ならば久しぶりに弓を引くかと思い立って来てみれば・・・」

 

「そうなの。私は今ギルさんに弓を教えているのよ。想像と違ってて悪いわね」

 

「ほう、弓をな。・・・ふむ、ならば今からわしも教えよう。紫苑、交代じゃ」

 

そう言って紫苑と桔梗が視線をぶつける。二人の間に火花が散るのを見て、ああ、多分これから普通の練習じゃなくなるな、とひそかに覚悟を決めていた。

しばらく視線で押し問答していた二人だが、紫苑が折れたのか、俺から一歩はなれる。

 

「うむ。よし、ギルよ。取り合えず構えて矢を放ってみろ」

 

「分かった。・・・よっ」

 

紫苑の教えのとおりに矢を番え、弓を構え、弦を引く。

きりきりと音を立てて矢が引き絞られていく。

十分ひきつけたところで、勢い良く右手を離す。

 

「ほう・・・」

 

たんっ、と心地いい音を立てて的に突き刺さる矢を見て、桔梗が感心したような声を漏らした。

おお、結構好感触だったり? なんて思いながら姿勢を戻すと、何度か頷いた桔梗が口を開く。

 

「なるほど、基本はばっちりじゃな。引くときに時間を掛けすぎなところがあるが、まぁおいおい直っていくじゃろう」

 

「そっか。ありがとう、桔梗」

 

「なんのなんの。ふむ、後は細かいところなんじゃが・・・」

 

それから数点直しておいたほうが良い所を教えられ、次はそれに気をつけながら弓を引く。

 

「よし、先ほどより良いぞ。この調子でもう二、三本ほどやってみろ」

 

「了解っ」

 

少し離れたところにいる紫苑からもいくつかアドバイスを貰ったりしながら的を撃っていると、背中に何か柔らかいものが押し付けられる。

一瞬何か分からなくて混乱したが、後ろから手を回して姿勢の変なところを密着して直している桔梗の胸が当たっているのだ。

これはまた、桃香とは違った色気を持った柔らかさが心地よく・・・っとと。危ない。暴走しかけた。

 

「どうした、ギル。手が止まっておるぞ?」

 

背後から笑い混じりの声が聞こえる。

・・・ああ、桔梗にからかわれてるなぁ、と確信する。

 

「ごめんごめん。背中に幸せが広がってたから、堪能してた」

 

矢を放つと、たんっ、と的中した音が聞こえる。

確認してみると、なかなかに真ん中に近い場所だ。うん、上達してるな。

 

「はっはっは。ふむ、なかなか嬉しいことを言ってくれる。・・・ま、今の状況で的中させたのは褒めてやろう」

 

そう言って離れる桔梗。・・・なんだか背中が寂しくなった気がする。

 

「・・・桔梗? そろそろ私に代わってくれないかしら?」

 

「ん? ・・・まぁもう少し待て。後二射ほど・・・」

 

また問答が始まるのか、と思った矢先

 

「なんじゃ、ギルがこんなところにいるとは珍しい」

 

「お、祭。こんにちわ」

 

「うむ」

 

「ギルが弓を使っているのを見るのは初めてだな」

 

「秋蘭まで。弓使い勢ぞろいだな」

 

訓練場にやってきたのは、祭と秋蘭だった。

桔梗と同じように、片手には弓を持っている。

 

「祭と秋蘭も練習に?」

 

「ああ。今日は華琳様が姉者と出かけていてな。時間が空いたから練習でもしようかと思ってきたのだが・・・」

 

「儂もそんなようなところじゃ。暇だから酒でも飲んで凄そうかと思っておったんじゃがの。冥琳がうるさくてのう。弓の練習をするといって逃げてきたのじゃが、途中で秋蘭と出会ったのでな。一緒に来たのだ」

 

なるほど。今日は弓使いが暇な日なんだろうか。

 

「それで? ギルが弓を持っているところなんて初めて見るが、一体どうしたんだ?」

 

「あーっと、なんといいますか・・・。俺って弓兵の役割の英霊なのに、弓使わないだろ? せっかくだから使えるようになっておきたくて、紫苑に指導を頼んだんだよ」

 

それで、桔梗も一緒に教えてくれることになって、今に至る、と説明すると、秋蘭はほう、と呟き、祭はかっか、と笑った。

 

「それならば、儂も教えてやろう。蜀の二人よりも経験はあるし、弓がもっと上手くなるじゃろうしな」

 

「ほう? 祭よ、面白いことを言ってくれる。わしと紫苑の二人がかりで教えた弓よりも、おぬし一人のほうが上手く教えられるというか」

 

「なんじゃ、自信がないのか?」

 

祭のその一言に、桔梗もイラッと着たのか、売り言葉に買い言葉で次は祭が教えてくれることに。

・・・だんだんと当初の目的から離れていってるな・・・。

 

「さて、ギル。儂が見ててやるから、何度かやってみよ」

 

「ん、分かった」

 

それから、弓使い四人の視線にさらされつつ矢を放った。

紫苑と桔梗の二人に教えてもらっていた時点で、立ち止まっての射なら完璧に的に当てられるようになっているので、放った矢は大体的の真ん中へと突き刺さった。

 

「・・・ふむ、なんじゃ、つまらんな。いくつかは外すかと思っておったが・・・まぁよい。立ち止まっての射が完璧ならば、次は動きながらの射をするぞ」

 

「ちょっと、まだギルさんは弓を取って一日しかたってないのよ。ちょっと早すぎない?」

 

「ほう。今日だけでアレだけできたのか。ならば次の段階も今日中にはできるようにはなるじゃろ」

 

そう言って祭は秋蘭を呼んだ。

何でも、走ったりしながらの射なら秋蘭のほうが上手らしい。

紫苑や祭も動きながら射ることはできるが、秋蘭にはかなわない、とのこと。

・・・ちなみに、桔梗の武器は轟天砲なので動き回る動き回らない以前の問題だった。

アレを撃つためには立ち止まらなければならないし、半分は大剣だし。

 

「・・・まぁ、私でどこまで力になれるかは分からないが・・・できる限りのことはしよう」

 

こうして、日が暮れるまで弓を射ることに打ち込んだ。

そのおかげで、立ち止まっての射はもちろん、戦いながらや馬上からの射もほぼ完璧となった。

これからもちょっとづつ練習はしていくが、あの四人からお墨付きを貰うくらいには上達したので今度誰かとの手合わせで使ってみよう。

 

「ふぅ。・・・今日は良く眠れそうだなぁ」

 

紫苑や桔梗、祭と秋蘭の四人とも仲良くなれたし、弓も上手くなった。良い日だなぁ。

すでに日が暮れて暗くなった城内で、背伸びをして歩きつつ、そんなことを思った。

 

・・・




「副長に弓を教えたときは苦労したなぁ」「くっ、間違って隊長にぶち当てたのは謝ったじゃないですか!」「サーヴァントじゃなかったら死んでた」「・・・うぅ。まぁそうですけどぉ・・・」


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