真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「私の日常、ですか。んー、お母さんのお仕事手伝ったりとか、宝具の特訓してますね」「私は・・・そうですねぇ、未だ知識に乏しいので、図書室で読書や勉強を。お父上様のお嫁さんになるには、やっぱり良妻賢母でなければなりませんので」「・・・私? 別に、特別なことはしてないわ。料理を学んだり、講義を受けたり・・・その、ギルの使った食器をちょろまかしたり・・・」「同士一華ちゃんっ! 今度天ちゃんと照が主催している『御父様小物即売会』に参加しませんか!?」「え、何その即売会。初耳なんだけど」「会員番号1番、菫です」「会員番号67556番、歌具夜です」「え、あんたらも会員なの!? っていうか六万番台!? 六万人以上参加してるの!?」「もちろんです。・・・日によっては、国家予算よりも多額のお金が動いてるとか・・・」「・・・この国の闇を見た気分ね・・・」


それでは、どうぞ。


第八十三話 子供の日常に

ぐぐ、と力を込めてみる。想像するのは、門が開く様子。

空中に波紋が生まれて、宝剣が浮かび上がってくる。あんまり位階は高くない宝剣で、私が出せる精一杯のもの。

もうそれだけで苦しくなってくるけど・・・頑張って維持してみる。魔力が減っていっているのが分かるけど、まだ余裕はある。

汗が一滴、ぽたりと地面に落ちる。『宝具』と言う桁違いの神秘を発動し、異次元とこちらを繋ぐというのは、言葉以上に大変だ。というか、普通の人間ならまず出来ない。

お父様の血を引く私だから、手に出来た神秘。別に、お父様やお母さんに言われたからやってるんじゃない。私が、この奇跡を使いこなして、お父様のお役に立ちたいから。隣に並んで歩きたいから、こうして頑張っている。

・・・じゃなきゃ、こんな自らを拷問するような苦行になんて手は出さない。壱与さんじゃあるまいし。・・・あ、でも壱与さんもお父様がらみじゃないとこういうことしないか。じゃあ、私と一緒だ。

 

「ぐむむ・・・ふぅ・・・」

 

出て来たときの様子を間逆にしたように、宝剣は空中に出来た波紋に帰っていく。

アレの柄を掴んで抜くのは出来る。私がしたいのは、射出すること。あそこまでくれば後一歩だと思うんだけどなぁ・・・。いや、まぁ、射出できるようになったところで、宝具で打ち抜きたいものがあるわけじゃないんだけども。

今日もこんなものか、と用意していた手ぬぐいで汗を拭く。はふぅ、走ったりしてるわけじゃないのに、緊張感からかかなり汗を掻くなぁ。そのまま水筒から水を飲む。塩を混ぜてあるので、ちょっとしょっぱい。

汗を掻いたときは、水を飲むだけじゃダメなんだそうだ。お父様が言っていたので、間違いはないだろう。『すぽーつどりんこ』? だったっけ。そういうのがあれば良いよなぁって言ってたので、いつかお父様にそれを飲ませてあげたいなぁ。

 

「今は・・・うぅ、お昼にはちょっと早いかなぁ」

 

朝ごはんはしっかり食べたけど、一連の練習でお腹はくぅくぅ鳴っている。でも、厨房でお昼を作り始めるまでにはまだ早い。はぅ、どうしよう。

自分で作る? うぅ、一人でまだ火は使っちゃダメって言われてるし・・・。流流さんとかいれば良いんだけどなぁ。流石にそんな賭けはする気にならないなぁ。

お小遣いはあるから自動人形さんに声を掛けて街で買い食いとか・・・あぅ、理由が完全に男の子だよぅ。

 

「ぐぅ、我慢、しかないかぁ・・・」

 

環ちゃんとかがいれば何かしら案が浮かんだかもしれないけど・・・あと繭ちゃんとか。お腹へってて疲れてる状態でまともな案なんて浮かばないなぁ。

取り合えず、城内を歩いてみようかな。何か良い案が浮かぶか・・・特級料理人に偶然出会う幸運があるかもしれないし。

 

「・・・よし、お父様みたいな幸運とは言わないけど、お願いしますっ」

 

ぐぐ、と祈ってから、歩き出す。自然と足が厨房へ向かってしまうのは、致し方ないだろう。うん。

 

・・・

 

「あうぅ・・・ぜ、全滅・・・!? ま、まさか・・・」

 

流流さんも華琳さんも白蓮さんも斗詩さんも紫苑さんもいないとか! 神様は私を見捨てたのですか! お父様とは仲良いらしいのに!

アレですか、お父様と仲がいいから、娘の私は邪魔っこですか!

 

「あ、でも後少しすればお昼の時間だ・・・。もうちょっとお散歩続けてみようかな」

 

時間を確認すると、もうちょっとでお昼の時間だ。ちらりと見える訓練場でも、兵士さんたちが最後のもう一頑張りとばかりに掛け声を大きくしている。

よし、兵士さんたちを見習って、もう少し頑張ろう! というわけで、次の暇つぶ・・・じゃなくて、行き場所を決める必要があるかな。

 

「ん? あれは・・・」

 

目の前を歩くのは公子ちゃん? 白蓮さん譲りの赤髪を、同じように後ろで纏めているあの後姿は間違えようがないだろう。

追いつくのは簡単だった。むこうはゆっくり歩いてるんだし、小走りで十分追いつけるからだ。

 

「公子ちゃんっ!」

 

「んあ? ・・・あ、菫。どうしたんだ?」

 

声を掛けると、くるりと振り向いて気だるそうな声を返してくる。ああ、このちょっと大人っぽいところとか、公子ちゃんの特徴である。

なんというか、いつも一歩引いて見守ってくれている感じがするというか・・・。私のほうが年上なんだけど、『さん』付けしたくなるほどである。

でも、私は知っている。一部のまだ小さい子たちに『お母さん』と呼ばれたりしてとても苦々しい顔をしていることを。そんなことを思っていたからか、哀れみをこめた視線と共に肩をぽんと叩いてしまった。

 

「何だお前・・・出会った瞬間失礼な。で、呼び止めたってことは用があるんだろ? 暇だから話くらいは聞くけど」

 

いかにも面倒そうに視線を逸らしながらそう言う公子ちゃんですが、こういうときはおせっかいな部分が出ちゃってどうにも放っておけない時の反応だと私は知っています。

だから『お母さん』と呼ばれると思うんだけど、まぁそれを言うと公子ちゃんヘコんじゃうし、心の中だけに留めておこうっと。

 

「偶然ですねっ。私も暇なんです! お昼までの時間、お話でもしませんか?」

 

「んあ、何だ菫もか。・・・いや、恥ずかしい話、その、お腹へってさ。かといって自分で作ったり買い食いしたりするほどじゃないんだけどなーって今城の中グルグル回ってたんだけど・・・」

 

「九割九分私と一緒の理由ですね!」

 

「そこまでか。そこまで一緒か。もうそれ十割でいいんじゃないのか」

 

「?」

 

「無自覚か。・・・いや、いいよ。お父さんに習ったんだ。『どう突っ込みしても無駄な相手がいる』って」

 

なんだか良く分かりませんが、お父様の言葉なら間違いはありませんね!

そんな私の様子を見て、公子ちゃんはため息をつきながらまた歩き始めます。私もそれに追いついて、一緒に隣を歩く。

 

「菫は何処か城の中で行ってないところはあるか? 私は厨房とか食料庫とか食べ物関係は回ったけど」

 

「お腹減りすぎで考え短絡的になってますね!」

 

「何だお前、煽るじゃないか、ええ? いいぞ、その喧嘩買うぞ?」

 

「ちなみに私もそのくらいしか回ってません!」

 

「・・・ぐあぁ! お前めんどくせえな!」

 

がしがしと頭を掻く公子ちゃんに、どうしたんだろ、疲れたのかなぁ、と小首を傾げてみる。

やっぱり皆に頼りにされてるだけに、心労的な意味で疲れが溜まるのだろうか。公子ちゃんのお母さんも、たまにこうなってるのを見る。もしかしたら、心労が溜まりやすい血筋なのかもしれない。

 

「まぁいい! 城壁行くぞ! あそこなら景色もいいし、風も丁度いいだろ!」

 

「おおっ! 『ないすあいであ』! ですね!」

 

「何だそれ? お父さんの使う、天の言葉か?」

 

「はい! お父様は天の言葉じゃないんだけどな、って言ってましたけど」

 

「ふぅん。じゃあ何処の言葉なんだろ。・・・ま、この世界は広いらしいし、何処かでそんな言葉を使ってる大陸もあるのかもなー」

 

「あ、ちなみに意味は『いい考え』ってことらしいです!」

 

「じゃあ『いい考え』でいい気もするけど」

 

・・・それもそうですね。発音的にはそっちのほうが短いですし。

うぅむ、お父様の使う言葉には謎が沢山です。

む、暗号的な意味があるんでしょうか? 他に何か意味を含んでいるとか? お父様の発音では、『ないす』と『あいであ』が分かれているように聞こえましたし、二語で構成されている・・・?

『ないす』と言う言葉は、北郷さんと一緒にいるときに『ないすぼーと』とか『ないすすめる』とかって使ってましたし。『良い』って意味なんでしょう。ならば、『あいであ』は『考え』を意味しているんでしょう。

なるほど、やっぱり暗号的な意味よりも、普通に別言語と考えたほうが良いみたいですね。うん、すっきりした!

 

「・・・そろそろ着くけど、考えは纏まったか?」

 

「はっ!? ご、ごめんなさい。ぼーっとしてて・・・」

 

「ああ、知ってる。ちょいちょい手を引っ張ったりして誘導してやったんだぞ。感謝しろよな」

 

「はいっ。ありがとうございます、公子ちゃん!」

 

「・・・素直に言われるとそれはそれで気に食わんな」

 

そういわれちゃったら、私どうにも対応できないんですけど!? とっても理不尽じゃありませんか!?

そんな私の反論にも、公子ちゃんは「あーあーうるさい」と耳を塞いで聞いてくれやしません。・・・そんなだから「お母さん」とか呼ばれるんですって。

 

「おー、やっぱ景色良いなー、ここ」

 

「風も気持ちいいですねー」

 

少し冷たいけど、それが中々心地よい。長時間当たってると風邪引きそうだけど、まぁちょっと気分転換くらいなら問題ないよね。

隣に並ぶ公子ちゃんも、両手を上に伸びをしている。うんうん、開放感あるとそうなるよね。気持ちは分かるよー。

 

「んーっ・・・はぁっ。夜に来るのもいいけどさー、こういう風に昼間に来ても、元気な街が見えて面白いよな」

 

「はいっ。あ、あそこで走り回ってるの、鈴佳ちゃんと誉ちゃんじゃないですか?」

 

「え、どこだよ?」

 

「あっちです、あっち!」

 

「・・・んー? いや、見えねえわ。目ぇ良いなお前」

 

「そう・・・ですか? あ、お父様も『千里眼』持ちですから、それも継いだのかもしれませんね!」

 

「・・・お父さんさ、『乖離剣』っていう世界を切り裂く剣持ってるらしいんだけど、それも使えたりしないよな?」

 

「あははー、流石に無理ですよー。あそこまで行くと、所有権の共有なんてもんじゃどうにもならないですから」

 

たまに恋さんとかと模擬戦してるときに見るけど、アレは本当に『人が扱えるものじゃない』。

というか、この世界にあの剣があることが不思議なぐらい、危ない剣である。・・・見た目は真桜さんの螺旋槍みたいだけど。

軽めに放って世界を揺らすとか、恐ろしい限りである。・・・あ、その後に起こるお母さんと詠さんも結構怖い。お父様は『黒月』と呼んでらっしゃるけど、まさにその通り。

私も以前、お母さんが持っていた指輪(お父様からの贈り物らしい。『えんげーじんぐ』とか言ってた)を勝手につけたとき、かなり怒られた。

『烈火のごとく』なんてもんじゃない。『混沌が這い寄る如く』怒られた。もう二度とあの笑みを浮かべたお母さんは見たくないと心に誓うと同時に、いつか絶対越えて見せると決心したものだ。

 

「だよなぁ。ん? ・・・お、今藍華と睡蓮と芙蓉が帰ってきたみたいだぞ」

 

「仲良しですよねー。呉の三姉妹といえばあのお姫様たちですから」

 

年齢は見事に逆転してますけどね。シャオさんのお子さんが一番年上で、雪蓮さんのお子さんが一番年下だとか。

だから、今も睡蓮ちゃんが他の二人を引っ張るように歩いてますしね。・・・あ、芙蓉ちゃん転んだ。

 

「お、泣かなかったぞ。強くなったなー、芙蓉も」

 

「小さい頃は目の前を人が通っただけでギャン泣きしてたんですけどねぇ」

 

一番年下の芙蓉ちゃんは、ホント泣き虫でした。そのなきっぷりを見て、蘭華ちゃんがあんまり泣かなくなったほどです。

雪蓮さんもそのあたり困ったらしくて、ちょいちょいお父様と一緒にうんうん悩んでいたのを覚えています。・・・まぁ、その後あんあん言ってたんですけどね。

一人目の問題解決してから二人目行けよ、と少しやさぐれてしまったのは、私悪くないと思います。思えば、アレが私の反抗期だったのでしょうか。・・・うぅむ、違うかも。

 

「結局どうしたんでしたっけ、雪蓮さん」

 

「・・・目の前でしばらくお父さんの戦い見せたらしいぞ。恋さん、愛紗さん、翠さん、雪蓮さん、春蘭さんって立て続けにな」

 

「よく心の傷になりませんでしたね、それ」

 

「結果が良かったから今は許されてるけど、やった当初は蓮華さんホント怒ってたからなぁ・・・」

 

「・・・あの、雪蓮さんが一度腕に怪我してたときがあったんですけど・・・」

 

「それ、蓮華さん。雪蓮さん自身は『よく当てたわね』って喜んでたけど・・・あれ、折れてたらしいからな」

 

「恐ろしい・・・! 呉の姫恐ろしい・・・!」

 

「・・・お前のお母さんもどっこいだと思うけどなー」

 

折ったほうも折ったほうだけど、折られたほうも折られたほうですよね!? 姉妹だから出来ることなのでしょうか。

それにしても、こうして皆がすくすく育っているのを見ると、お姉さんとして安心します。なんてったって、お父様の娘の中では長女ですから! どやぁ。

あ、でも噂によると三ヶ月で歩いて喋っている子も居るとか。ふふん、ならば今の小さいうちに抱っこしておかないとなー。お父様にお願いしよっと。

 

「あ、やっぱり菫ちゃんたちだったよ、愛美ちゃん」

 

「みたいだね。こんにちわ、二人とも」

 

この後の予定を立てていると、横から声を掛けられる。・・・このほわほわした声ときりりとした声は・・・。

 

「桃乃ちゃんと愛美ちゃんっ!」

 

「そ、そうだよっ!?」

 

「大声出さなくても聞こえるよ、菫」

 

大声で呼びながら指をびしぃ、と指すと、その指を愛美ちゃんに握られてててててて!

 

「痛いよ!?」

 

「痛くした。人を指差すなと父上殿に言われなかった?」

 

むむぅ、堅物め。この子は融通利かないからなぁ。お父様の前だとデレッデレなのに。そんなところまで愛紗さんに似なくても、とは思ったけど。

痛む指に息を吹きかけて冷ましていると、公子ちゃんが桃乃ちゃんたちに声を掛けました。

 

「で、お前らも散歩か?」

 

「うんっ。ももがね、景色のいいとこ行きたいなって言ったら、愛美ちゃんがここがいいかもー、って!」

 

「確かにな。あ、ほら、あっちのほうに鈴佳たちいるらしいけど」

 

「えっ、どこどこ!?」

 

「あっち。私は見えなかったけどな」

 

「・・・む、確かに見える。見つけたのは菫かな?」

 

こちらをちらりと見るので、にこりと笑って頷く。愛美ちゃんは短く「そうか」と返すと、もう一度街に視線を飛ばす。

しばらく、四人で街を見ながら、あっちに何かある、とか、あっちに誰々がいる、とか話しながら時間を過ごす。

・・・それから、本来の目的である「お昼までの時間つぶし」というのを思い出し、更にお昼の時間がかなり過ぎてしまっているのに気付くのは・・・もうちょっと後のお話です。

 

・・・

 

「ごちそーさまでした」

 

お父様から教えてもらった、『食前食後の挨拶』をきちんとして、席を立つ。私が食べ終わるのを待っていてくれた公子ちゃんも、空の食器が載ったお盆を持って立ち上がる。

今日の献立はチャーハンとエビチリ。ちょっとぴりりとしてたけど、とっても美味しかった。

お盆を厨房に返す時に、お料理を作ってくれた人にも「ごちそうさまでした」と伝える。ここの料理を作ってくれているおばさん方は、流流さんが伝手を辿って雇ってきてくれた人たちだ。

もちろん、腕のほうも問題なく、沢山の料理の引き出しも持っている。人数も多いので、それぞれが腕を磨きあって新しい料理を考え出しさえするので、華琳さんや流流さんもたまにお勉強会に参加しに来る。

あ、私も何度かお世話になりました。色々な料理が作れるようになれば、お父様も喜んでくれるので、とっても参考になる時間でした。

 

「で、これからどうするんだよ、菫は」

 

「私ですか?」

 

「午後からは『学校』か? 私は午前中の講義だったけど」

 

「んーん。お昼からはとっても暇なんです。だから、お父様を探して遊んでもらおうかと」

 

「お父さんなぁ・・・。クッソ忙しいじゃんか、お父さん。遊んでくれるかなぁ」

 

そうなんですよねぇ。お父様お暇なときはお暇なんですけど、一度忙しくなるとホント会えなくなりますからね・・・。

まぁ、取り合えず探してみて、忙しくなさそうだったら一緒にお茶でも飲んでもらいましょう。それくらいなら、時間も余り取らせないでしょうし。

 

「ま、私もお父さんと遊ぶ・・・までじゃなくても、お茶飲んだりして話でも出来ればいいかなって思うし。手伝うぞ」

 

「ありがとうございます! なら、一緒に探してみましょう!」

 

おー! と一人腕を挙げて、公子ちゃんと一緒に出発です!

まずは中庭! あそこで基本的に訓練してるか、後は訓練場で迦具夜さん苛めてるかのどっちかですからね!

 

・・・

 

にゃーにゃー。

 

「・・・へう」

 

なーなー。

 

「・・・おぉう」

 

うなーうなー。

 

「こ、これは・・・」

 

目の前に広がる、異常な光景。

お父様は中庭にいました。・・・いや、その、いたんですけど・・・何これ。

すでに頭くらいしか見えてないお父様と、その身体を覆い隠す肌色。うん、はっきり言いますね。美衣さんたちと、その娘さん達です。

合計八ひk・・・じゃなくて、八人がお父様を覆い隠しているのです。もう夏も終わりましたけど、暑くないんですか? 今一番あったかい時間帯ですよ?

まぁ、皆気持ちよさそうな顔してるので、暑いとかはないんでしょう。あ、お父様は人間超えてるので心配してません。真夏に全裸のお母さんとか五人くらいに引っ付かれても涼しい顔で寝るくらいです。流石お父様。さすおと。

 

「・・・私たちもくっ付きます?」

 

「うぇっ!? ほ、ほんとに? ・・・うー、確かにしばらくお父様と寝てないけど・・・」

 

あ、今のはいかがわしい意味じゃないですよ? 普通に、お父様の腕枕で寝る前のお話してもらいながら眠るというご褒美のお話です。

良い子で過ごしてたりとか、その他諸々でお父様に褒められたりすると、そうやって一緒に寝てくれるんです。そのときは独り占めなので、沢山お話したりとか、徹夜する子も居るみたいです。・・・なんだか本末転倒な気が。

 

「ま、取り合えず行ってみましょうか」

 

近づいていくと、美衣さんにミケトラシャムさん。そして、それぞれの娘さんの美弥ちゃんとブチちゃんクロちゃんトビちゃん。

流石に美衣さん達も恥じらいを覚えたのか、出産前の露出度高いあの服は着てないみたい。背も伸びて成長してるし、ある程度は普通の服を着てる。まぁ、南蛮の方たちなので、それなりに改造はされてるけど。

なんか肩とかおへそとか出てて涼しそうだ。お腹冷やさないんだろうか。

娘の美弥ちゃんたちは、以前の美衣さんたちのような、活動的で少し露出の高い服。虎柄だったり防御力低そうなのは変わらないけど、ちゃんとした服屋さんで作ってもらってるからか、素材も造りも上等なものだ。

通気性も高いから南蛮の密林の中でも過ごしやすい逸品らしい。『赤い服』を参考にしたと言っていたけど、何の服なんだろう?

 

「わー・・・可愛い」

 

「だな。猫飼う人の気持ちが分かるな」

 

近づいて覗き込んでみると、安らかな寝息をたてている九人。私たちが近づいたからか、身じろぎする子もいるけど、起きるまでは至らないみたいだ。

つんつん、と近くにいたクロちゃんの頬をつついてみると、くすぐったそうに身を捩るクロちゃん。

 

「・・・可愛い・・・!」

 

「明命さんは連れてこれねえな、こりゃ」

 

「・・・んー? 誰だ・・・?」

 

公子ちゃんの言葉に頷いていると、お父様が目を開きました。・・・あ、起こしちゃった。

寝ぼけ眼のままあたりを見回して、ああ、とため息をつくお父様。

 

「なんかあったかいと思ったら・・・。菫、公子、起こさないように皆を降ろせるか?」

 

「は、はいっ。やってみます・・・!」

 

「了解っ。誉とかでこういうのは慣れてんだよ・・・っと」

 

言葉の通り、公子ちゃんは慣れた手つきでひょいひょいと美衣さんたちを降ろしていく。

私も頑張ってみるけど、公子ちゃんのように素早くはいかないなぁ。まぁ、丁寧にやったほうがいいから、焦りはしないけど。

そんなこんなで、全員を親子の組で横並びに並べると、開放されたお父様が伸びをしながら起き上がる。

 

「くぁ・・・二人とも、こんにちわ」

 

「ふふ、草、沢山付いてますよ?」

 

「払ってやるから、お父さん後ろ向きなよ」

 

「おお? いやはや、すまんな」

 

まだちょっと寝ぼけてるのか、のそり、と私たちに背中を向けるお父様。

そんなお父様の服や頭から、絡まった草を払っていく。・・・うん、土は付いてないから、払うだけで大丈夫そう。

 

「それにしても、どうやってここを嗅ぎ付けたんだか・・・まぁいいや。菫たちは何か用事?」

 

優しい笑顔を浮かべて美衣さんたちを撫でてから、お父様はこちらに視線を向けました。

えーと、そういえばどう答えれば・・・。

 

「えと、えと、あの、お父様がお暇なら、お茶でも、と・・・」

 

「最近お父さんとお話出来てないからさ、時間ある?」

 

「もちろん。昼寝するくらいには暇だぞ」

 

あはは、と軽く笑うお父様。・・・これで最強の英霊さんというから驚きだ。

えっと確か、お母さんと出会ったのは結構昔で、『聖杯戦争』と言う別の世界から持ち込まれた戦争に巻き込まれて、三国での大戦の裏でこの大陸の命運を決めるほどの戦いをしていたと聞いた。

その話をするときのお母さんは目を輝かせていて、『あのときのギルさんは素晴らしかった』だとか『あの時こうしてギルさんは私を撫でてくれた』だの惚気てくれていた。

正直その話を聞くたびに嫉妬が凄かったのだが、今ではお父様の情報を教えてくれるんだと前向きに考えることにしている。時間だけはどうしようも無いですからね。それよりも、お母さんには無い私の武器・・・『新鮮さ』で勝負することにしたのです!

 

「うお、なんか悪寒が・・・。外で寝たから冷えたか? ・・・いやいや俺サーヴァントだから。っとと、ごめんごめん。それじゃ、何処かの東屋でも行こうか」

 

そう言って立ち上がると、お父様は宝物庫から自動人形さんを一人呼び出して美衣さんたちを時間になったら起こすようにと伝えていました。

・・・うむむ、人間大のものをあんなに簡単に出すなんて・・・流石はお父様。魔力の流れも淀みありませんでした。私もこうなれるように頑張らないと・・・!

 

「さてと、お茶はどうするかなー。菫か公子、お茶淹れられる?」

 

「はいはいっ! 私出来ます!」

 

「おおっと抜け駆けは無しだぞ菫! お父さん、私も出来るからなっ」

 

「じゃあ問題ないな。仲良く三人で淹れようか。ほらほら、厨房へ行くぞー」

 

私たちの頭を撫でた後、そのまま三人で手を繋いで、厨房まで。

・・・ふふ、今日はとってもいい日です。こういう日が、いつまでも続きますようにと、未だに沈まない夕日をみながら思う。

 

・・・

 

「・・・ふむ」

 

娘もそれぞれ、大きくなったものだ。三ヶ月で成人するような特殊な娘から、俺のカリスマに干渉するような才能を持つ娘とか、どっちかって言うと普通の子が居なかったような気もするけど、まぁそれはそれ。

どんな特殊な子であれ、みな可愛い子であることに変わりはない。ぎし、と俺の身体を受け止めて小さく悲鳴を上げる椅子の音を聞きつつ、手に持つ本を捲る。

今までのことを俺なりに纏めてみた自伝のようなものなのだが、まぁ読み返してみると色々あったなと懐かしく思う。

サーヴァントの情報から今まであった思い出に残る出来事だとかが、これを読めば目の前に浮かぶほどだ。

 

「よし」

 

本をいつものように宝物庫に戻して、立ち上がる。思ったより勢いが付いたからか、かたかたと椅子が揺れる。

今日も何時も通り、適当にぶらついて仕事手伝ったり娘と遊んだりしにいくか!

 

「そうと決まればまずは街に出るか」

 

鎧から私服に着替え、部屋を出る。壱与には無駄だと思うが、一応結界も張っておく。

城の中も慣れたものだ。迷うことなく、最短のルートで城下町にでた。大通りはやっぱり賑わってるなぁ。

何を見るか、と周りを見回すと、可愛らしい声で呼ばれた。

 

「あ、ギルだー。ギルー、いらっしゃいいらっしゃーい」

 

「ん? ・・・ああ、魅々じゃないか」

 

昔釣りだとかなんだとかで遊んでやった覚えがある。確か璃々と同世代くらいだったから・・・うん、確かに成長している。

親がやっている食堂で、給仕をやっているらしい。頭巾と前掛けが白く眩しい。

小さい頃は『ギル親衛隊』なんてものを作って、皆で色々と冒険をしていたなぁ。何故俺の親衛隊なのに俺を連れて冒険・・・わざわざ危ないところに行くのか、と疑問に思ったが、まぁ子供のことなのでスルーしていた。

そんな『ギル親衛隊』も食堂の看板娘になってたりとか、兵士の中に混ざって班長やってたりとか、軍師見習いとして、文官で活躍してたりとか、順調に成長していっているらしい。

 

「食べてく? だったら魅々が作るよー?」

 

「どうするかなー」

 

「たべてこーよー。ギルの未来の奥さんの手料理だよ?」

 

「あれ、前までは『ギルの奥さんになると胃を痛めそう』だとかでフられた覚えがあるんだけど」

 

フられたというのは、別に俺から言い寄ってお断りされたわけじゃない。俺の娘達と同じく、『おおきくなったらけっこんしてあげる!』系のことを言われていて、思春期突入してそれが恥ずかしくなっただけだろう。

ある日唐突に『ギルの奥さんになってあげるって言ったけど、あれ無しで!』と言われたのだ。唐突にフられて、ちょっとショックだった覚えがある。

べ、別に、悔しくなんかないもんっ、と心の平穏を保ったのは苦い思い出である。

 

「・・・いやほら、ギルの奥さんになるの競争率高すぎだしさ、もうちょっと自分磨いてつりあうようにならないと璃々ちゃんに悪いって言うかなんていうか・・・そう思っての発言なんです!」

 

「いや、そんなもごもごされたら誰でも聞き取れないだろ。『なんです!』あたりしか聞こえなかったぞ」

 

「そりゃ聞かせようとは思ってないもん。あのね、魅々もいつまでも子供じゃないんだよー? 『ギルとけっこんする! かけおちする!』って無邪気にはしゃいで両親を困らせていた女の子は消えたのよ・・・」

 

「そんな事してたのかお前。そりゃ親父さん泣くわ。俺急にここの店主に泣き付かれて何事かと思ったもん」

 

煤けた笑顔を浮かべる魅々にそう言いながら、昔のことを回想してみる。確かあの時は・・・。うん、そうだった。普通に飯を食べようと飯店に行った時だった。

いつものように料理を頼もうと声を掛けた瞬間、機敏な動きをする中年男性にしがみ付かれて号泣されてみろ。誰でもフリーズするから。

あれはびっくりした。侍女隊の皆が意味ありげな視線をこちらに向けながら下腹部を撫でているとき並にびっくりした。というか心臓に悪かった。

侍女隊のほうに関しては結局想像妊娠だったので大事には至らなかったのだが、しばらく月が疲れた笑いを浮かべてたからな・・・。

 

「ま、残念だけどそこは諦めるしかないからなー。あ、チンジャオロースね」

 

「はいはーい。じゃあ、ちょっと待っててねー。・・・おとうさーん、厨房貸してー!」

 

俺の注文を取って、ぱたぱたと魅々が裏に引っ込む。聞こえた言葉から察するに、ちゃんと宣言どおり俺に作ってくれるらしい。

自分の娘ではないが、なんと言うか・・・成長が見られて嬉しいな・・・。っとと、流石に年寄りくさいか。

出てきたお茶を飲みながら自重しないと、と自身の老化に若干悩み始めていると、扉が開いて新たな客が入ってくる。

 

「魅々ぃー、今日も疲れたよぉー・・・って、ああーっ。おにぃだぁ~」

 

疲れているのか生来の癖なのか、間延びした声で喋るこの子は、あのちびっ子親衛隊のうちの一人、幸だ。

桃香みたいなぽやぽや子になるな、と思っていたのだが、この子桃香と同タイプのぽやぽや武将、天和のアイドル部隊・・・広報隊に入隊したのだ。

今では天和の指導の下、元気にアイドル活動をしているらしい。以前練習見に行ったときは幸を見なかったが、休みだったのだろう。

三人しか広報隊でアイドル指導が出来るのはいないからな。どうしても教える人数に限界はある。だから、いくつかの班に分けて、出番をローテーションすることで、天和たちはきちんと全員を教育しているのだ。

だから、前回言ったときは幸の班が休みで、それで出会えなかったのだろう、と頭の中で結論付ける。

 

「おにぃ、どうしたのぉ? 魅々が嫌がるおにぃを引きずり込んだのぉ?」

 

「ちがうわよー」

 

厨房から、幸のように間延びした声が飛んでくる。苦笑いしながら厨房から幸に視線を戻し、一応教えてやる。

 

「違うらしいぞ」

 

「口ではなんとでも言えるからぁー」

 

辛辣だな幸。こんな性格だったか、この子。

 

「ああ、まぁ、魅々の名誉のために言っておくけど、無理矢理つれてこられたわけじゃないぞ?」

 

「あ、そうなんだぁー。そだ・・・魅々ぃー? 私麻婆豆腐ぅー」

 

「自分で作ってくれるー!?」

 

手が離せないのだろう、怒鳴り声に近い声が厨房から飛んでくる。・・・いやいや、流石に昔なじみとはいえ、お客にそれは・・・。

それをどう伝えようかと悩んでいると、幸が座りかけた腰を再び浮かして厨房へ向かう。

 

「もぉー、仕方ないなぁー。あ、おじさん、厨房借りますねぇー?」

 

「そこは素直に作るんだ・・・」

 

最近の子はわかんねえなぁ、と、一通りのやり取りを見た俺は、また年寄りくさいことを言うのであった。

 

・・・




「あ、来ましたか。それでは、色々と準備しますね。んー、このあたりなら問題ないかなー」「そのあたりのことは分からないから神様に任せるよ」「はいはーい、任されますよー。・・・あ、そういえば面接は大体終わったっぽいです。はいこれ所感」「おう。・・・んんー? かなり濃い感じの面子が・・・」「足りないと思ったので、これからも面接してみて増やしていく所存です」「いや、足りるだろこれ。一人で無双出来るやつ何人かいるぞ・・・?」「あ、そろそろ面接の時間なんでさよならですねー」「あ、俺には見せてくれないんだ」「サプライズは大事ってことで」「・・・はいはい。じゃあな」「のしー」

「・・・ん、帰ったかな。じゃあ、どうぞー?」「・・・失礼します」「いらっしゃいませー。あ、緊張しなくても大丈夫ですよ。お座りください」「はい、それでは」「それでは早速ですけどステータス表を・・・あ、凄い。セイバークラス適性をお持ちで・・・ほうほう、選定の剣持ちで、可愛くて、武内絵と・・・よし、採用です!」「え? あ、ありがとうございます。・・・ところで、これは何の面接で・・・?」「んーと、超越者に付いていける人の選出?」「・・・私に聞かれても・・・」「ですよねー。ま、取り合えずリリィさん、貴女も待機でお願いします」「は、はぁ・・・」


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