真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「やっぱりさー、師匠とか父親キャラとかから力を受け継いで敵を倒す! みたいな展開って、定番で王道だけど燃えるよなー」「父親から受け継いだ借金の力で大金持ちのお嬢様の執事になるとかな」「執事を意味する『バトラー』って『戦う人』って意味も篭ってそうだよね。戦わない執事とかあんまり見ないよ、俺」「しかもアレだよね。執事ってあんまりメジャーじゃない戦い方するイメージ。剣とかじゃなくて鋼糸使ってみたり」「やっぱこう、『主人の影となり、表には出ない』ってところが、そういう暗器使いを連想させるんじゃないか」「ちなみに甲賀は執事の経験とかは・・・」「あるぞ。むしろ潜入には便利でな。執事に限定せず、使用人の立場はとても良い」「ああ、だよねー」「納得したわ」


それでは、どうぞ。


第八十話 継いだ能力に

「ギル様ーっ! 壱与、やってまいりましたーっ!」

 

「おー、壱与か。・・・なんか久しぶりだなー。ほら、飛び込んでこーい」

 

「っ! な、な、なんということでしょう・・・! なんということでしょう! ギル様ーっ、大好きーっ!」

 

「おー、よっと。相変わらず軽いなー。ほれほれー。俺も大好きだぞー」

 

「ぎーるーさーまー・・・壱与、幸せでふぅー・・・」

 

天気の良い夏の日。魔法でこちらにやってきた壱与をキャッチしてグルグル回る。

なんだかこいつにしばらく構っていないような気がするので、目いっぱい構ってやることにした。

卑弥呼が来ていないが、壱与の子供と一緒に来るのだろうか。人数が増えれば増えるほど並行世界の移動は難しいらしいし、もう少し時間かかるかもな。

 

「うわー・・・なんか、あたし場違いか?」

 

「お、翠。どした?」

 

「あー、いや、常磐と日向見なかったか? ったく、初めての乗馬だー、って喜んでたっつぅのに・・・」

 

唐突に声を掛けられ、俺はクルクル回るのを止めて、壱与をゆっくりと降ろす。不満そうに壱与は頬を膨らませるが、視線を向けずにぽんぽんと頭を軽く叩くことで宥める。

ため息をついて頭をがりがりと掻く翠は、俺と話している間もキョロキョロと回りに視線を飛ばしているようだ。常磐と日向・・・翠と蒲公英の娘を探しているのだろう。

確かに、昨日二人とも俺に出会ってすぐに『明日お母さんに乗馬を習うんです』と嬉しそうに報告してくれたのにな。突然いなくなるとは思えない。

 

「あれ? 蒲公英は?」

 

「あいつはあいつで探してるよ。あー、そういえば、壱与・・・だったか?」

 

「はい?」

 

「人探し、得意だろ? ちょっと探してみてくれないか?」

 

気まずそうに壱与に話しかける翠に、壱与は渋い顔をする。

・・・基本的に俺か卑弥呼、後は弟君くらいしか言うことを聞かない娘なので、こういうときは俺が宥めることになる。

 

「えっと、頼めるか、壱与」

 

「ギル様の頼みであればっ」

 

先ほどまでと打って変わって、嬉しそうに銅鏡を取り出す壱与。

そんな壱与を見てから、俺と翠は視線を合わせて苦笑い。全く、仕方の無い子だなぁ。

卑弥呼と同じ日に妊娠出産して、母親となった壱与だが・・・性格に変化は見られないようだ。もう少し落ち着きを持ってくれれば良かったのだが・・・。

 

「あれ、っていうか照は? 置いてきたのか、お前」

 

「いえ。天ちゃんと遊びたいと言っていたので、卑弥呼様が気を利かせてくれたのです」

 

「あー。確かに、照は天と卑弥呼好きだからなー。・・・そんなところもお前に似たかー」

 

集中して銅鏡を覗き込み、常盤と日向を探す壱与に、そう呟く。

後は悪いことをして俺に怒られたがるのを何とかすればなぁ・・・。壱与の血を強く引きすぎである。

 

「あっ、いました。・・・んー、中庭の木陰で寝てますね」

 

「中庭? ・・・あー、分かった。あそこだ。ありがとなっ、ちょっと行ってくるよ!」

 

そう言って小走りに去って行く翠の背中に、声を掛ける。遠ざかって行く姿に届ける為に、少し大きめの声だ。

 

「おう、蒲公英見かけたら伝えとくよ」

 

「頼んだ! ・・・あ、壱与! 助かったぜ!」

 

上半身だけをこちらに向けた翠が、軽く手を挙げて謝意を示した。

 

「いえー、ギル様のお頼みなのでー」

 

それに対して、すでに興味を失ったとばかりにおざなりに手を振り返す壱与。

・・・まぁ、これでもまだ対応は柔らかいほうだ。桂花とかに会うと一触即発でどうしようもなくなるが。

 

「あ、あの、ギル様?」

 

「ん?」

 

「卑弥呼様が天ちゃんと照を連れてくるまでもうちょっとあると思うんです」

 

「みたいだな。あの二人がそろうと卑弥呼も甘やかしちゃうからなぁ」

 

今頃邪馬台国の執務室で卑弥呼が二人と嬉しそうに遊んでいることだろう。

・・・壱与っていう邪魔者も居ないしな。そうなると、こちらに来るまではもうちょっと掛かるだろう。

 

「で、ですのでぇ・・・えと、二人目とか・・・欲しくないです?」

 

ちら、ちら、と自分のミニスカートを翻して、精一杯誘惑してくる壱与。

・・・うぅむ、チラリズムを会得しているとは、流石日本人。

 

「でもお預けな」

 

「ありがとうございますっ」

 

お預けは焦らしプレイ、叩けばSM、無視は放置プレイと、壱与は基本的に俺に対して無敵である。

詠がいれば密室に二人っきりで閉じ込めておけば凄く憔悴した壱与ととても機嫌のいい詠が出来上がるのだが、今は残念ながら詠は見当たらない。

後は迦具夜がいればと思うが・・・流石に身重の子に壱与の対応をしてもらおうとは思わない。

 

「あ、そうだそうだ。今日は用事があるんだよ。ついて来い」

 

「はいっ! ・・・あ、首輪とかあるんですけど、裸になってヨツンヴァインになったほうがいいですかね!?」

 

「・・・あのさぁ」

 

はぁ、とため息。四つんばいになった人間の移動速度なんて高が知れてるだろうに。

いいから行くぞ、と手を繋いで歩き出す。壱与は髪を引っ張られたり胸部の突起物を引っ張られたり舌を引っ張られたりするのは慣れてるくせに、手を繋いで普通に引っ張ると照れる。

お前の恥じらいどころはおかしいと何度も話しているのだが、当の本人は首を傾げるばかりなので、こういう子なのだと諦めることにした。

そんな壱与は、ふと真面目な顔をしてこちらを見上げてきた。

 

「えへへっ。・・・あの、ギル様?」

 

「ん?」

 

「・・・今度、照も連れてお散歩行きましょう。三人で、手を繋いで」

 

「いいぞー。天気もいいしな。海に行くのも良いかもしれんな」

 

「そうですねぇ・・・。・・・はっ。海といえば水着・・・水着と言えばギル様と御使いが発明した伝説の水着、『すりんぐしょっと』の出番!? ギルさまぁんっ。壱与、昂ってきちゃいましたぁっ!」

 

「・・・お前、もう少しシリアス維持できんのか。ちょっとだけ見直しかけたのに」

 

先ほどまで、慈母のような笑顔を浮かべて散歩をしようと提案していた壱与は何処へやら。

海辺で水着を着て岩陰で、なんてことを想像してもじもじしているので、膝の中に入るフジツボの話をしてあげた。

鳥肌を立てて頬を膨らませ、こちらを恨めしげに見上げる壱与は、とてもレアな表情をしていたと言っておこう。

・・・あ、やばい。なんか嗜虐スイッチ入った。

 

・・・

 

「お邪魔するよー」

 

「おや、また来たのか、ギル。暇だねぇ」

 

やってきたのは教室。しかも授業中である。

瑠璃がきちんと溶け込めているかを心配してやってきたのだが・・・。

ふむ、心配なさそうだな。周りの子たちと一緒に、楽しそうに勉強している。

 

「あ、ランサーもいる」

 

熱心に子供達に勉強を教えているのは、ランサーたちである。

ランサーは別にマッハで動かなくても共にいるランサーを呼び出せるので、一人一人に丁寧に教えているようだ。

彼らは教育が大事と言うことが身に染みて分かってるからな。

 

「ああ、そういえば、菫は別授業だよ。中庭に行ってる」

 

「ん、分かった。後で見に行くとしよう」

 

菫は特別な事情により、一人だけ時間割を変更して教えてもらっている。

その特別授業の教師はキャスターだったりランサーだったりバーサーカーだったり響だったり孔雀だったりと色々だ。

後で見に行くとしよう。先輩として、教えられることがあるはずだ。

 

「・・・さっきから無視してたけど、その手にある彼女はどうしたんだい?」

 

「ああ、壱与か? ずっと背筋がぞわぞわするような話してたら、憔悴したらしい」

 

壱与にこんな弱点があるとは思わなかった。これからも使っていこうと思う。

 

「ああ、そう・・・。・・・っと、もうこんな時間か。はい、ちゅうもーく! 四時限目終了! お昼の準備ー!」

 

キャスターが教室に声を掛けると、皆が返事をして、机をがたがたと動かし始める。

 

「・・・って、あれ? お父さんだーっ!」

 

「ははは、漸く気付いたか」

 

こちらをちらりと見た瑠璃がびしぃ、と指差してくる。こら、人を指差すんじゃない。

あ、ちなみに気付かれなかったのは魔術で気配を薄くしていたからだ。流石に授業の邪魔も出来ないしな。

魔術の師匠であるキャスターにはバレバレだったみたいだけど。

 

「お父さんもご飯食べるっ!?」

 

瑠璃に詰め寄られると、他にも教室にいた明里と碧里、嵐に谺と鳳もわらわらと集まってくる。

多分分からないと思うので説明しておくと、嵐は風、谺は響、鳳は孔雀の子である。

 

「あれ? 環は?」

 

「環ちゃんは菫ちゃんについてってったよ?」

 

「なるほどな。そりゃ納得だ」

 

「とーさん? あの、今日のボクのおべんと、これ自分で作ったんだけど・・・た、食べりゅ?」

 

「あ、鳳ちゃんだけずるいっ。えと、えと、これだっ。はい、お父さんっ。お母さんもこれは褒めてくれたっ!」

 

「おぉ~・・・ええと、嵐は・・・あ~、自分では作ってなかったなぁ~」

 

鳳と谺がお弁当の中身らしきものを箸でこちらに突きつけているのを対応していると、嵐が自分の弁当箱をつつきながら気の抜けたような声を出す。

 

「お、二人とも美味しいよ。これならすぐにお母さんと同じように料理を作れるようになるさ」

 

「本当かい? ・・・ふふ、それは嬉しいなぁ」

 

「わーいっ。ほーめらーれたーっ!」

 

二人を撫でて褒めると、その二人を押しのけるように、一人が前に出てきて、俺に無言で箸を突き出してくる。

その箸の先には卵焼き・・・え、食べろと?

 

「・・・早くなさい。この私がこうして手ずから食べさせてあげようというのよ?」

 

「一華は相変わらずだなぁ・・・」

 

背は俺より低いのにかなり上から目線で俺に卵焼きを食べさせようとする一華。

・・・名前から察せられるように、華琳と一刀の子である。髪を下ろして背を低くした華琳と言えば、一華を説明するのにはぴったりだ。

だが、性格は一華のほうがキツい。こうして上から目線での会話は日常茶飯事。執務中の俺の膝の上を占拠したり、仕事を残している俺を引っ張って町に出かける、訓練中に突っ込んできて隊長におでこを抑えられた状態でグルグルパンチなどなど。

しかし他の子たちにはかなり優しく接しているとのことなので、多分俺にだけ辺りがキツイのだろう。・・・いや、まぁ、桂花と比べたら全く問題ない程度なんだけどさ。

 

「食べるの? 食べないの?」

 

「あ、食べる食べる。あーん」

 

「ふふっ、阿呆のように口をあけてまで私の卵焼きが欲しいの?」

 

「・・・はよ」

 

「はいはい」

 

口をあけた俺に何時も通りの辛辣な言葉をかける一華。

そんな一華を急かすと、ため息をついて仕方がなさそうに俺の口に卵焼きを運んでくれる。

意外と丁寧に口まで運んでくれたので、そのままぱくりと一口。

咀嚼してみると、なるほど流石は華琳の子だ。自信を持っていいだけの味をしている。

 

「・・・で、感想は?」

 

イラついたような顔をして腕を組んだ一華は、俺を見上げながらそう聞いてくる。

そんな彼女に、俺は少し考えた後で素直に答えることにした。

 

「美味しいよ、もちろん。いつも作った料理食べさせてくれるけど、今回のも美味しいな」

 

「そう。まぁ、当然だけどね」

 

厨房に立ち寄ったとき、一華が華琳や流流から料理を教わっていたりすると、『作りすぎたから』と俺におすそ分けしてくれるのだが、それも毎回美味しいのだ。

先生がいいのか、一華自身に才覚があるのか・・・まぁ、その両方なんだろうな。初めて作るような料理でも、その辺の店より美味しいときがある。

俺に対する風当たりはキツイ女の子だが、『そういう子だ』と思って接してあげれば全く問題ない子なのだ。良いお嫁さんになるだろう。一刀が許すかどうかは別として。

一通り俺から褒められて満足したのか、一華はそのまま弁当箱を持って嵐たちのグループに戻る。そこで周りの皆から声を掛けられているようだ。

 

「あの、お父さん? ・・・えと、今日のおべんと、お母さんが作ってくれたのだから・・・瑠璃の作ったやつ無いの。あぅ、ごめんなさい・・・」

 

「え? いや、謝ることないだろう。紫苑のお弁当は美味しいし、瑠璃のことを考えて作ってくれてるんだから、ちゃんとありがとうって思いながら食べるといいよ」

 

「うん。・・・あのね、お母さんと同じくらい料理できたら、あの、お父さんのお嫁さんになれる?」

 

上目遣いに聞いてくる瑠璃に、俺は璃々の面影を見た。・・・と言うか、全く同じ発言を数年前の璃々に言われているので、面影が重ならないはずが無いのだが。

・・・いや、でも璃々とは違って瑠璃は無理じゃないかなぁ。・・・と真面目に返答して泣かせることはしないぞ。

 

「んー、うん、そうだなぁ。瑠璃がお料理や洗濯が出来て、紫苑も認めるような女の子になったら、お父さんと結婚できるかもなー」

 

「本当!? わーいっ。あのね、頑張るから! お母さんにも、璃々お姉ちゃんにも負けないからっ」

 

「お、おう。・・・その、何だ。程ほどにな?」

 

「嫌だ! 全力でやるもん!」

 

満面の笑みで『あんまり本気にするなよ?』と言う言葉を断られてしまった。

・・・うん、大丈夫だよね? 十数年後娘に求婚されるようなことにはならないよね? ね?

 

「・・・ま、またギルに変なこと言っちゃったぁ・・・。き、嫌われたらどうしよぅ、谺ちゃん・・・」

 

「い、一華ちゃん、あんまり落ち込まないで? お父さんは基本的に女の子に優しいから、むしろご褒美だよ!」

 

「・・・それはちょっととーさんの名誉に関わらない? えと、桂花さんとか思春さんとかが奥さんになってるんだし、嫌うってことは無いと思うけど・・・」

 

「そ、そうかな? ・・・えへへ、でも、ギルが私の卵焼き美味しいって・・・んふふっ、嬉しいなぁ・・・」

 

「あ、もう気にしてないのね?」

 

「・・・気持ちの切り替えだけは一級品だよねぇ」

 

悩んでいたからか、目の前の瑠璃の対応でいっぱいいっぱいだったからか、一華たちのいる方から聞こえてきた会話を聞き取れなかったのは、仕方の無いことだろう。

 

・・・

 

キャスターの言葉を頼りに、中庭まで足を運んでみた。もちろん、いまだに壱与は小脇に抱えつつである。いつまで放心してるんだこのドMは。

 

「お、やってるやってる」

 

今日の相手は恋と孔雀らしい。菫が授業を受けている横で、環がハラハラしながらその光景を応援している。

環はあのツン子の血を引いているからか、心配していると言うのを表には出さないからな。ああやって陰から応援するのが環なのである。流石ツン子の血筋。

菫を直接相手していた恋がこちらに気付いて、『軍神五兵(ゴッドフォース)』を肩に乗せるいつもの構えを取る。きょとん、とした顔の菫に、恋はこちらを指差しながら口を開く。

 

「・・・ここで休憩」

 

「だね。・・・丁度、ギルも来た事だし」

 

「え、お父様? ・・・あっ、お父様ーっ! こちらですよーっ!」

 

こちらに気付いた菫が俺を手招きする。環も立ち上がって、菫に水筒を渡した後こちらを見る。

 

「どうだ、特訓は。上手く扱えそうか?」

 

「へぅ・・・ちょっとまだ、慣れてないかなーって思います。あの、休憩が終わったら、お父様も菫の特訓、見ていただけませんか?」

 

「もちろん。・・・環も、菫のこと見ててもらってありがとな」

 

「っ!? きゅ、急に何っ!? もうっ、撫でないでっ」

 

「っと、嫌か? ごめんごめん」

 

環の頭を撫でてやると、慌てた様子で振り払われる。

これはすまないなと手を引くと、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。

 

「い、嫌なわけじゃ・・・無い。えと、急にされると、びっくりする、から・・・」

 

「ん、そっか。じゃあ・・・環、撫でるぞ?」

 

「・・・ん」

 

ちゃんと許可を取ると、頭をこちらに向けてくれる環。

 

「・・・あと、ボクが菫の面倒を見るのは当たり前なんだから。お母さんから、頼まれてるもん」

 

「おう、偉い偉い」

 

「えへへ・・・ありがと」

 

ニコニコと笑う環をしばらく撫でて、それから菫の特訓を見ることに。

 

「よし、じゃあやってみようか!」

 

「はい! ・・・むむむ・・・開け、宝物庫!」

 

「おぉ、いくつか出せるようになっているな」

 

菫の特訓と言うのは、今の発言から分かるように、『王の財宝(ゲートオブバビロン)』の訓練だ。

俺の血を引き、マスターである月から生まれた子だからか、菫は俺の宝具である『王の財宝(ゲートオブバビロン)』を扱えるのだ。

まぁ、そうは言っても宝具を一つか二つ取り出すのが精一杯っぽいが。魔力やらつながりやらがまだまだ未熟だからだろう。

ちなみに、扱えると言っても宝具として菫が所持しているわけではない。俺が持つ『王の財宝(ゲートオブバビロン)』の共有が出来ると言うところだ。

大本の所有者は俺で、菫もその宝物庫を開ける鍵を持っている、と言うイメージだ。

 

「はふ・・・あうぅ、これじゃ、自動人形さんが出てくるのは何年後のお話になるのでしょう・・・」

 

宝物庫を閉じ、菫が膝に手を付いて呼吸を整える。魔力の消費、軽くとはいえ宝具の使用によって、体力的にも消耗するのだろう。

汗を拭ってやりながら、目線を合わせて肩に手を置く。

 

「大丈夫。俺の子だからな、菫は」

 

「・・・そう、ですか? ・・・へぅ、お父様のように使えれば、かなり利便性があるんですけど・・・お使いとかで、生もの痛めずに持ち帰れますし!」

 

「とても家庭的な使い道だなぁおい。良いお嫁さんになりそうだ。絶対嫁には出さないけど」

 

「? 大丈夫ですっ。お父様のお嫁さんになりますから!」

 

「・・・そ、そっか。それはそれで心配と言うか・・・」

 

一片の曇りも無い純真な瞳でそう言われてしまうと、俺が間違ってるかのように勘違いしてしまう。

って言うか瑠璃に続いて二人目なんだけど。娘にモテるというのは喜んでいいのだろうか。

 

「・・・大丈夫ですよ、ギルさん。菫の教育は私も手伝いますから」

 

「お、おう。母親である月が協力してくれるなら心強いな」

 

にっこりと笑う月に、苦笑いで答える。

頬に手を当てて首を少しだけ傾けた月が、その微笑を浮かべたままで続ける。

 

「ちゃんと、後で『十年待ちなさい』と伝えておきますね?」

 

「いや、そっち方面じゃない。教育する方向が間違っているぞ、月」

 

「?」

 

「?」

 

母子(おやこ)一緒に首を傾げるんじゃない」

 

月と同じように、首を傾げる菫を見て、俺は一抹の不安を感じる。・・・うん、まぁ数年もすれば反抗期で父親である俺のことを毛嫌いするようになるだろう。

幼馴染もそうだった。親と喧嘩しては俺の部屋に窓から飛び込んできたりしたし。あの時は大変だった。窓は開けてたけど網戸は閉めてたので、飛び込んだは良いが網戸に当たって跳ね返される幼馴染の姿をスローモーションで見たものだ。

その後跳ね返された幼馴染は無事部屋に着弾(誤字ではない)し、網戸は破壊されたが。それでも幼馴染の怒りは収まらなかったのか、再び諦めずに飛び込んでくるほどだ。あのときのあいつの執念はなんだったのだろうか。

記憶を手繰り寄せて懐かしみながらうんうん頷いていると、急に恋が視線を入り口に向け、訓練場に入ってくる人影に気付いて声を上げる。

 

「・・・命」

 

「・・・」

 

恋の声に、ぴょこ、と小さく手を挙げて答えるのは、恋の娘、命だ。

とてとてとこちらに歩いてくる命は、俺のもとまで来ると無言で足に抱きついてくる。そのままぎゅう、と力を込める姿は、なんとも可愛らしい。

よしよし、と頭を撫でてやると、母親譲りのアホ毛がゆらゆらと揺れる。感情を表す犬の尻尾のようだ。そのままぐしぐしとマーキングするように顔を擦り付けて、ぱっと俺を見上げて口を開く。

 

「・・・ギル、おはよ」

 

「ああ、おはよう、命」

 

昼寝をして今起きたところなのだろう。もう太陽も真上に昇る頃なのに、命の挨拶はちょっとずれていた。

ちなみに、命だけは俺のことを『ギル』と名前で呼ぶ。・・・なので、恋と二人並ぶと、恋が二人になったように錯覚するほどだ。

まぁ、無理に『お父さん』だなんだと呼ばせようとは思わないし、好きなように呼ぶといいと思う。

 

「昼寝してたのか? ・・・してたっぽいな。草付いてる」

 

赤いショートカットの髪に、緑色の草が絡まっている。それを撫でつつ払ってやると、嬉しそうに目を細める命。

 

「・・・寝てた。今日は・・・良いお天気」

 

それもそうだ、と笑顔を返す。あんまり昼に寝すぎると夜眠れなくなりそうだけどな、とも思ったが、それは口に出さないことにする。

 

「・・・で、何で菫と環も俺の脚に引っ付いてるんだ?」

 

「ふぇっ? え、えと、命ちゃんだけずるいなーって」

 

「そっ、そうよっ。・・・い、嫌なの・・・?」

 

「もちろん嫌じゃないけど・・・」

 

仕方が無いなぁと苦笑していると、少し離れたところにいる母親たちがこちらを見てなにやら話し始める。

 

「むむむ、月に恋、娘に旦那さん取られちゃうよ?」

 

「・・・命も、恋と同じくらいギルを好き」

 

「菫も、お父さんのこと大好きですから。・・・独占は許しませんが」

 

「・・・うわぁ」

 

月の視線を受けて、何故か菫がびくりと跳ねる。・・・どうしたんだろ。何か変な気配でも察知したのだろうか。

戸惑うように周りに視線を向ける菫を軽く撫でて、不安を払拭してやる。

 

「あ、そういえばそろそろ天たちが来るぞ?」

 

「・・・えと、『たち』ってことは・・・」

 

「もちろん照も来る」

 

「・・・へぅ」

 

「あー・・・」

 

「・・・?」

 

菫と環は苦笑いを浮かべて、恋は小首を傾げる。

・・・まぁ、照の性格を一言で現すならば、幼い壱与と言うものだ。

今でこそ壱与は丸くなって他人も許容するようになってきたが、照は出会った当初の壱与より内向的である。

照は魔術と魔法に興味があるらしく、卑弥呼や壱与、天たち邪馬台国のメンバーと研究をしていたり部屋に閉じこもっていることが多い。

それでも俺が訪ねれば喜んでくれるし、卑弥呼たちについてきてこちらで遊んだりもするんだけども。

だが、俺といるときに他の子や卑弥呼たちが近づくと凄まじい勢いで威嚇し始めるのが、菫や環は苦手らしい。・・・俺もやんわりと注意はするのだが、まぁ成長を待つしかないだろう。

 

「照は壱与の血を色濃く継いでくれましたから・・・ぐふふ、ギル様のことちょー愛してるんじゃないですか?」

 

「うお、びっくりした。・・・壱与、お前復活したのか」

 

「ええ。壱与、色々と考えてみた結果、ギル様からのお話だったらこの感じるぞわぞわも快楽になるんじゃないかと思ったんです」

 

「あ、ああ、うん。そっかー」

 

「・・・なので、下着が大変なのですが・・・お着替えに行ったりとかは・・・」

 

「え、許可しないけど」

 

「ですよねっ! はい、壱与、この下着で夜まで過ごしますとも!」

 

「何で嬉しそうなんだこの変態・・・」

 

嬉しそうに宣誓する壱与に、俺はもう苦笑いしか浮かべられん。

そんな壱与が、ふっと中空に視線を移す。

 

「む、卑弥呼様たちが到着されたようですね」

 

「っしょっとぉ!」

 

「わ、わわ、わーっ!?」

 

「っぉぐっ!?」

 

壱与の発言とほぼ同時に、空中に人影が三つ。纏まって落ちてきたその三つの影は、そのまま何の支えも無くどさどさと落ちてきた。

・・・って言うか一番最後の声はどちらかと言うと悲鳴だけど大丈夫か?

 

「・・・たたた。んもう、わらわはあんまり魔法得意じゃないんだから・・・」

 

「そんなこと言っても、壱与さんの師匠なわけなんだからさぁ、御母様は」

 

「あの、ちょ、照を下敷きにお話しするのやめてもらっても良いですぐえっ」

 

「え、あ、ごめん鳩尾入った?」

 

「うぐぅ・・・天ちゃんのお尻尖ってるぅ・・・」

 

「この、御母様の美を受け継いだ余のお尻になんて暴言をっ!」

 

「同じく踏まれるなら御父様が良かったぁ・・・うぅ」

 

目の前でコントを繰り広げる三人・・・ああ、卑弥呼は途中で離脱したから、天と照の二人か。

文字通り尻に敷かれている照と、その上で自分がどれほど美しいかを力説する天を、取り合えず止めに入る。

 

「二人とも、そこまでそこまで。ほら、照も痛がってるし、降りてあげなさい」

 

「っ、御父様っ」

 

「え、御父様? あ、ホントだっ。あの、どうぞ!」

 

天は照の上から退いて俺の元に駆けて来たが、照は仰向けに寝転がったままで自身の腹をぽんぽんと叩く。

 

「え、・・・『どうぞ』?」

 

「はいっ。・・・座らないですか?」

 

「座らないよ!?」

 

「す、座らないんですかっ!?」

 

俺の驚きの声に、照は更に驚いた声で返す。・・・え、何でこの子は俺がナチュラルに娘を下敷きにすると思っているんだろうか。

 

「照っ。馬鹿なことはやめなさいっ」

 

「御母様・・・?」

 

お、壱与が止めに行った。流石に、母親として許せないもんなぁ、今の照の言動は。ちゃんと自分の体は大切にしないと。ねぇ。

そう思って天を抱き上げてよしよしとあやしていると、照を立ち上がらせた壱与のお説教が聞こえてきた。

 

「ギル様の椅子は壱与の特権なの! 幾ら娘とはいえ、十年早いのよ!」

 

「はっ・・・! そ、そうですよね・・・! 照ったら、御母様の気持ちも考えず・・・!」

 

「・・・分かってくれればいいのよ。照は私のかわいい娘なんだからっ!」

 

「御母様っ!」

 

「照っ!」

 

感動した面持ちで抱き締めあう壱与と照を見ながら、俺の腕の中にいる天が疲れたような顔をこちらに向けて、口を開く。

 

「・・・御父様、こういうことを言うとあれなんだけど・・・壱与さんと照って馬鹿なの?」

 

「・・・否定は出来ないなぁ・・・」

 

ちなみに、壱与は俺と卑弥呼と天、照は月と菫と環からお説教を受けさせた。

まぁ、壱与の更正は最初から期待してない。そのままの壱与を好きになったわけだしね。変態なところも含めて、かわいいものなのだ。

その娘である照も同じく。間違った道へ進むならそれはもちろん今のように止めるが、それ以外なら幾らでも失敗して欲しいものだ。

・・・まぁ、二人とも頬を膨らませてそっぽを向いているので、懲りてはいないのだろう。後でそれとなく言っておく必要があるか。

 

・・・




「た、卵焼きを掴んで、差し出して、『あーん』って言って食べさせる・・・。たっ、只それだけっ。簡単じゃない。あの曹操の娘なのよ、私は。出来る、出来るわ。気持ちの問題なのよ。あぐぅ、心臓、痛いくらいに早い・・・お、落ち着かないと、落ち着いて、お母様みたいに毅然とした態度でやればいいのよ。何よ、問題ないじゃない。簡単よ。そう、簡単なんだから・・・。そういえば、きょ、今日の出来はどうだったかしら・・・はむ。ん、美味しい。当たり前だわ。だってお母様と流流さんと紫苑さんたちに教えてもらったんだもん。こ、これならギルも『美味しい』って言ってくれるはず・・・あぅ、でも、甘い卵焼きが嫌いだったらどうしよう・・・。お饅頭とか食べるから甘いもの好きだと思うんだけど・・・。やっぱり夫婦生活で食事の好みを知っておくのって必要だし・・・そもそも・・・ぶつぶつ」

「・・・どうする、鳳ちゃん。声掛けたほうが良いかな」「どうするかって聞かれたら、そりゃアレだよね。関わりたくないよね」「・・・だ、だよねー。でもさ、ほら、一華ちゃんの恋路を応援するのも友達として必要かなー・・・ってさ」「はぁ・・・じゃあさ、ボクが先陣切ってあげるよ、もう」「じゃあ、私も続くね。・・・ほら一華ちゃん、準備して?」「ふぇ? 準備? 私とギルの結婚式の?」「今のやり取りの間にそこまで妄想しちゃったんだ!?」「・・・やっぱこれ放って置いていいんじゃないかな・・・」


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