真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「今回から主人公が変わります!」「それ奇妙な冒険でやった」「実は主人公が悪の親玉でした!」「それG線の上でやった」「主人公は殿ではなく影武者でした!」「それレンジャーでやった」「意外と主人公でまさかの展開って無いなぁ」「主人公がヘタレでハーレム作って絶倫でサーヴァントで子沢山」「それギルがやった」「あー」「・・・え、何その納得」


それでは、どうぞ。


第七十九話 まさかの展開に

夏になりました。夏と言うのは暑くて、とても汗をかきます。

お母さんは私に、『喉が渇いてなくても、お水をきちんと飲みなさい』と水筒を持たせてくれました。

今日はとても良いお天気。おつかいが終わったら、皆を誘って遊ぶのもいいかもしれません。

 

「へいらっしゃい! お、嬢ちゃんじゃないか! 今日もお使いかい?」

 

「はい! えーっと、エビさん下さい!」

 

「あいよっ。いつも買ってもらってるから、ちょっとだけ多く入れといてやるよ!」

 

お魚屋さんのおじさんが、にっこりと笑って注文より多くエビさんを詰めてくれました。

この大通りの商店の皆さんは優しいので、大好きです。

 

「ありがとうございますっ」

 

お母さんから、『人にきちんとお礼を言うこと』と言われているので、きちんとお礼。

頭を下げて、元気に。いっつも、お母さんからは良い子だね、って褒められます。

 

「いいって事よ! じゃ、気をつけてな!」

 

「はいっ」

 

私の買い物鞄にエビさんを詰めてくれたおじさんにお金を払って、お買い物は終わり。

よいしょ、と鞄を背負って、お城へ歩きます。お城へはちょっと距離があるし、水筒からお水をごくごく。

この『まほーびん』と言うのは、中に入っているお水が冷たいまま保てると言う不思議な水筒なのです。

まだこの一つしかない『しさくひん』のものだから、大切にしないと。

人にぶつからないように、気をつけて歩かないと・・・。

 

「ふわぁ・・・おっきぃやぐら!」

 

「んん? おお、これはお嬢様。こんな所まで、今日は何用で?」

 

「兵士さんだっ。こんにちわっ」

 

「おお、そうですね。挨拶がまだでした。こんにちわ」

 

「ええと、今日はお使いなのですっ!」

 

「ほぅ、なるほど。確かに買い物鞄が見えますね。これはこれは、お疲れ様です」

 

兵士さんがぺこり、と頭を下げるので、私もペコリ、と頭を下げる。

そろそろ夏祭りだから、兵士さんたちはその準備をしているんですね!

 

「あ、危ないので余り近寄らないようにお願いします」

 

「はい、わかりましたっ」

 

兵士さんの言うことを守って、少し離れたところからやぐらを見上げる。

当日はあそこの上に銅鑼を持ち込んで、お祭り中の異変とかを知らせる役目を担うそうです。

 

「ほえー・・・」

 

「・・・そういえば、お使いは良いのですか? 今日は暑いですから、ものによっては痛むのでは・・・」

 

「ふわっ!? そ、そうでした! 今日はエビさんを買ったので、早く保管庫に入れないと!」

 

「走って転ばないよう、ゆっくりと急いでくださいね」

 

「分かりました! それでは、失礼しますっ」

 

ばいばい、と手を振ると、兵士さんも笑顔で手を振ってくれました。

それからまた、人にぶつからないように走って、お城の厨房へ。

厨房の保管庫に行けば、侍女隊の人か自動人形さんが居るので、その人に渡せば良い、ってお母さんは言ってました。

城門にたどり着いて一旦止まり、門番をしている兵士さんに『通行証』を見せて、また走る。

 

「はっ、はっ・・・! つ、着いたっ。こんにちわー!」

 

「・・・」

 

「わ、自動人形さんだっ」

 

厨房に声を掛けると、凄く美人さんが顔を出してくれました。

この人は自動人形さん。いつも目を閉じていて、一言も喋らない不思議な人だけど、とってもお仕事が出来る人なんです!

 

「あの、エビさんを買って来ました! 保管庫に入れてもらえますか?」

 

「・・・」

 

鞄の中からエビさんを取り出して手渡すと、少しだけ頷く自動人形さん。

保管庫は物がいっぱいあって危ないから、私は入っちゃダメってお母さんに言われてます。

だから、侍女隊の人か、自動人形さんに預けないとダメなんです。

 

「痛んでないですか? ちょっと寄り道しちゃって・・・はぅ」

 

私の言葉に、自動人形さんは包みをあけ、中身を確認。・・・どうやってみてるんだろ。目をあけたところ、見たことないなぁ。

自動人形さんは、中身を確認した後、親指だけを立てて上に向けた拳・・・ええと、『ぐっじょぶ』っていう意味の手を見せてくれました。

これは、問題ないよ、とか、大丈夫だよ、って意味だったはずです! 良かった、エビさん、痛んでないみたい!

 

「えと、えと、じゃあお母さんに報告に行くので、エビさんはお願いします!」

 

「・・・」

 

再び頷いてくれた自動人形さんに手を振ってお別れして、今度はゆっくり歩いてお母さんの所に。

走ったので、またお水を飲んで、はふ、と一息。

 

「えーっと、こっちを曲がって・・・」

 

お城の中はとっても広くて、最初の頃は何度も迷っちゃいました。そのたびに兵士さんとかに助けてもらっちゃって・・・うぅ、恥ずかしいよぅ。

でも、もうお城の中で迷子になんてなりません! お城の『のうないまっぴんぐ』は完璧です!

 

「あっ、いたっ! おかーさーん!」

 

「? あ、お帰りなさい。ちゃんとお買い物は出来た?」

 

「はい! あれ、お母さん、お仕事は?」

 

「これからお昼休みなの。そういえばお父さんもお昼休みかな」

 

「お父様も!? はいっ、私もお昼ご飯、一緒に食べる!」

 

「もちろん。お母さんは、そのために待ってたんだから」

 

じゃあ、いこっか、とお母さんは私の頭を撫でてくれます。

えへへ・・・なんだか安心します。

お母さんと手を繋いで、お城の中を中庭へ向かって歩きます。

お父様は偉い人で、『そうたいちょう』っていうお仕事をしてます。とっても忙しくて、とっても大切なお仕事だそうです!

だから、ご飯とかを一緒に食べたりと言うのは久しぶりかもしれません! ・・・いつもはちょっと寂しいけど、お父様に会うとそんなの全部吹っ飛んじゃいます。

 

「あ、お父さんいたよ?」

 

「えっ!? あ、ホントだ! お父様ー!」

 

傍に部下の人を侍らせて、お父様が兵士さんたちに何か言ってました。

そんなお父様を見つけて、私はお母さんから離れて、ついつい走りだしちゃいます。

 

「よーし、後十回・・・ん? おお、月! それに・・・菫か!」

 

「はいっ、菫ですっ。お父様、抱っこ!」

 

金色に輝く、キラキラとしたお父様に抱っこされて、私はとっても嬉しくなりました。

 

・・・

 

「よーしよしよし、ほら、たかいたかーい」

 

「ああもう、大将、そういうの別のところでやってくれません? っていうか、臨月の私のほうを構うべきだー!」

 

「そうだそうだ~。ご主人様、八重も構ってやってくださいよぅ」

 

「ははは、順番な、順番。今は八重の番だから、菫は月・・・お母さんと一緒に訓練を見てなさい」

 

「はいっ!」

 

俺の言うことを素直に聞いて、後から追いかけてきた月の元へと向かう。

困ったように笑う月が菫を抱きかかえてこちらにやってきたので、座っていた長いすに月の分のスペースを作る。

先ほど言ったように、俺の膝の上には八重・・・七乃との子が居たため、菫にはちょっと我慢してもらうことに。

俺の子供の中で一番の年上である菫には、結構我慢させていることも多いからなぁ。・・・もうちょっと構ってやるように気をつけないと。

菫が生まれてから数年。今ではかなりの子が母親となっており、今俺の膝にいる八重なんかは七乃との子になる。ちなみに、発言どおり隊長は今月出産予定。

産婦人科と化した後宮に引っ込んでろとは何度も言っているのだが、訓練を見るだけで動かないし、危ないことは絶対しない、とあまりにも譲らないので、こうして大きいお腹を抱えて訓練まで出張ってきているのだ。

 

「お、なんや月やないの! って、菫までおるやん!」

 

そう言ってやってきたのは、臨時で隊長の代わりをやってくれてる霞だ。

身重で動けない隊長の代わりに、実践訓練やら手合わせやらを代理でこなしてくれている。

書類関係やらは隊長が自分できちんと処理しているので、そのあたりはきちんと住み分けしているようだ。

まぁ、霞に書類仕事なんて向かないだろうからなぁ。

 

「あ、霞さん。こんにちわ」

 

「霞お姉さんっ。こんにちわ!」

 

「あいよー、こんにちわ。いやー、菫も大きくなったなー」

 

「それ、菫たちに会うたびに言ってるだろ、霞」

 

「にゃははー、ばれたかー」

 

自分の頭をぽりぽりとかきながら、気まずそうに笑う霞。

・・・顔は困ったような顔をしているが、きっとあんまり気にしてないのだろう。また菫に会えば、『大きくなったなー』と声を掛けるに違いない。

 

「それはそれとして、霞、もう休憩か?」

 

「ん、もうって、結構訓練やってるんよ? そろそろ休憩挟んどかんと」

 

「え? ・・・あー、ホントだ。いやー、子供達と遊んでると、時間が経つのが早いなー」

 

「はいはい、馬鹿親やなー」

 

「親ばかと言え、霞」

 

「ぎ、ギルさん、どちらも褒め言葉ではありませんよぅ・・・」

 

あたふたと俺と霞の間でうろうろする月が、霞とは違い、本当に困ったように呟く。

・・・あー、いや、俺も褒め言葉じゃないことは理解してるよ?

 

「月は、お母さんになってもあたふたしてて可愛いよなぁ」

 

「ホンマやなー。小動物っぷりはかわらんなー」

 

霞と二人して月を撫でる。恥ずかしがって頬を赤く染めながら俯く月。

そんな月に、菫がとたとたと近づいて

 

「お母さんだけずるいっ。お父様、菫も! 菫も撫でてくださいっ」

 

「お、よしよし、今日はお使いしたんだったよな。偉いぞー、菫!」

 

「偉いですかっ。菫、偉いですかっ!?」

 

「偉い偉い!」

 

「わーいっ。お父様に褒められましたぁー!」

 

髪の毛がくしゃくしゃになるほど撫でて褒めると、菫は両手を挙げて、全身で喜びを表現する。

おお、これは昔の璃々を見ているようだ。・・・ああ、あの頃の璃々はもう見れないんだよなぁ。

今の璃々は・・・今の璃々は・・・。

 

「こらーっ、瑠璃ってば、ちゃんとお勉強しないとダメだよーっ!」

 

「きゃーっ。お姉ちゃんが追っかけてくるーっ。あ、お父さーんっ。助けてーっ」

 

・・・今の璃々は、すっかりお姉ちゃんになってしまったからなぁ。

そんなことを思いながら、俺の陰に隠れようとする瑠璃と、それを追いかけてきた璃々に挟まれる。

 

「ギルお兄ちゃんっ、そこどいてっ。瑠璃が捕まえられないよっ」

 

「いや、どかなくても回り込めば良いだろう?」

 

「えーっ? お父さん、瑠璃のこと・・・助けてくれないのぉ・・・?」

 

「うぐっ・・・あざとさには負けないぞ、お父さんは・・・!」

 

「うるうる・・・」

 

「ぐむぅ・・・仕方ない、俺の背中に隠れてなさい」

 

「わーいっ」

 

「ギルお兄ちゃんっ。もう、絆されてるじゃないっ」

 

「むぅ・・・」

 

前門の璃々、後門の瑠璃と、のっぴきならない状況になってしまった。

・・・いつの間にか膝の上の八重は七乃の元へ逃げているようだ。

 

「あら、八重? ご主人様のお膝はもう良いんですか~?」

 

「うん。・・・お父さんのしゅらばにまきこまれないように、お母さんの所に逃げてきた」

 

「あらあら~・・・この子、将来大物になりそうですね~」

 

「・・・大物って言うか、七乃さんみたいな人になりそうですね」

 

「んふふ。そうだといいんですけど」

 

七乃に抱きついて、八重はなんとも失礼なことを言っているようだ。

修羅場というのはな、もっと背筋がゾクっとするもんだぞ。いくつもの修羅場を経験した俺が言うんだから、間違いない。

 

「ほら、瑠璃っ。扇ちゃんや百合ちゃんも待ってるんだから、戻るよっ」

 

「大丈夫だよー。瑠璃は頭がいいんだからっ」

 

俺の背中から顔だけを覗かせ、んべ、と舌を出す瑠璃。

・・・まぁ、確かに瑠璃は年齢の割りに聡明だ。現在桂花や他の軍師たちが持ち回りで教師を勤めている学校なんかでも、瑠璃は同年代の子よりも何歩か先に行っているようだ。

それに自覚があるのがまた問題で、今のように『自分は優秀だからほかの事をしたい』と授業をサボったりすることがあるのだ。

そのため、姉である璃々が毎度こうして追いかけっこをしているのだが・・・。

 

「・・・ふぅむ、そろそろ瑠璃も何とかしないとなぁ」

 

「ふえ? ・・・お父さん、瑠璃のこと怒るの?」

 

「ん? あー、怒るっていうか、瑠璃だけちょっと特別な授業受けさせようかなって」

 

今学校で習わせているのは、読み書き算数くらいだ。この時代の子供を、そんなに長い間拘束することも出来ないし、教師役の軍師達も他の仕事で多忙だし、と言うことで一日平均二時間ほど学校を開放している。

希望者であれば誰でも学べるので、たまに暇を持て余した大人もいるほどだ。

そんな学校があるのだから、家庭教師があってもいいだろう。

 

「キャスター先生に家庭教師を頼んでみるか」

 

菫が生まれたすぐ後くらいに俺と孔雀、響が卒業したキャスターの座学・魔術講座だが、一部カリキュラムを変更してたまにやっていたりする。

結構世話焼きなところもあるので、お願いすれば高度な授業をしてくれるだろう。

魔術の才能があるかは分からないが、まぁそれを抜きにしてもキャスターの授業を受けることには意義があるだろう。

 

「きゃすた?」

 

「髪の長い、頭よさそうなお兄さん見たことあるだろ?」

 

「あ、うんっ。いっつも本読んでる人!」

 

「そうそう。その人に勉強を教えてもらえば、瑠璃ももっと頭良くなれるかなって」

 

「頭良いの、その人?」

 

「かなりな」

 

「ふぅん・・・」

 

考え込み始めた瑠璃の頭を撫でつつ、璃々に笑いかける。

 

「と言うわけで、瑠璃はこっちで預かるよ。きちんと勉強もさせるからさ」

 

「うぅ・・・ギルお兄ちゃん、瑠璃に甘い気がする・・・」

 

「甘くは無いと思うよ。・・・むしろスパルタかもしれん」

 

「すぱ?」

 

「びしばし行くぞってこと」

 

「・・・あんまり厳しくしないであげてね?」

 

「ふふ、璃々は瑠璃をどうして欲しいんだよ」

 

妹想いの璃々は、甘やかしすぎるのも嫌だけど、厳しくするのも嫌だ、と言う我侭のような気持ちを口にする。

・・・まぁ、瑠璃だったら少しくらい勉強のレベルを上げても問題ないとは思うけどね。むしろ嬉々としてやりそうですらある。

 

「きゃすた先生の授業するの?」

 

「ああ。菫おねえちゃんと一緒だな」

 

生まれて数年たった時に発覚した、菫の『とある問題』のためにキャスターに協力を仰ぎ、キャスター先生の座学授業は再開したわけなんだが、そこでは個人に合わせた、専門的な授業を行っている。

キャスターだけでは対応できないときには他にも臨時講師を呼んだりしているので、それなりに人気なのである。

誰に人気なのかといわれるとウチの娘達ばかりなのだが、まぁそこは気にしないことに。

ちなみにキャスター先生の講座で1、2を争う成績なのは、何を隠そう菫と一華ちゃんである。

我が娘ながら、華琳の頭脳の明晰さを受け継いだ一華ちゃんに食らい付くとは、素晴らしい。二人は良いライバル関係を築けているらしく、時たま二人で楽しそうに昼食を突いている姿も見る。

臨時講師の中にはランサーがいるのだが、彼らの教育に対する熱意は凄まじい。流石大日本帝国兵・・・。

 

「と言うわけで、制服発注しないとなー。やっぱ学生と言えば制服ですよ、制服」

 

「・・・ギルさん?」

 

「あ、いや、大丈夫大丈夫。響に制服着せて後輩プレイは昨日やったから・・・あ」

 

月の訝しげな言葉に、あはは、と軽く笑いながら答えて気付く。そういや昨日のこと言ってねえや。

やべ、失言した、と口を押さえるが、まぁもう遅いだろう。

 

「・・・ふぅん? 昨夜はお仕事と聞いてましたけど・・・そうですか、響さんと・・・ふぅん・・・」

 

「いや、仕事もしてたよ? 仕事もしてたけど、ほら、集中力続かなくてさ」

 

「別に、私は怒ってませんよ? 急に饒舌になって・・・どうされたんですか?」

 

小首をかしげてこちらを見上げる月の瞳からはハイライトが消えてしまっている。

・・・怒ってないのは真実だろう。すでに黒月なのだ。怒りなんてとっくに超えているに決まっている。

『いかに自分の怒りをわかってもらうか』と言う段階は過ぎていて、『どう恐怖を与えてやろうか』にシフトしている黒月に対するには・・・!

 

「逃げるッ! んだよぉーッ!」

 

「あっ、お父さんっ」

 

「ギルお兄ちゃんっ!?」

 

璃々と瑠璃の声を背後に聞きながら、俺は脱兎の如く中庭を脱する。

英霊にダメージ判定を持つことが出来る黒月は、まるでギャグ漫画補正とでも言うべき程に命中率、回避率など、ありとあらゆるパラメーターに上昇補正を受けるのだ。

流石に月に宝具をぶち込むことなど考えたくも無いので、基本的には黒月が通り過ぎるまで逃げの一手なのだ。

・・・いやー、娘に妙なところ見せちゃったなー。ま、ついでだしこのままキャスターのところに行くかな。

 

・・・

 

「やぁ、いらっしゃい」

 

「邪魔するよ」

 

キャスターの教室に逃げ込み、椅子を一つ借りて座る。

・・・いやはや、この雰囲気、完全に教室である。良くもまぁ、ここまで再現したものだ、俺は。

 

「君の娘さん達はもう帰ったけど?」

 

「月・・・俺のマスターに追われてるんだよ。匿ってくれ」

 

「ギルのマスターって・・・あの大人しそうな子だよね?」

 

「いつもは虫も殺せないような子なんだけどな。ある条件を満たすと無条件でサーヴァントにダメージ判定持てるようになるんだよ」

 

「・・・宝具でも持ってるのかい、そのマスターは」

 

呆れたようにため息をつくキャスターに苦笑しながら、しばらく呼吸を整える為に休む。

まぁ、すぐに別のところにいく必要があるけど。次は何処行こうかな。

 

「そういえば、明里と碧里がギルを探していたよ。何でも、今日は本を一緒に見に行く日だとか」

 

「・・・あ」

 

「あーあ。忘れてたのかい?」

 

「いや、訓練が終わってからって約束だから、まだ時間はあるけど・・・迎えに行こうかな」

 

明里と碧里は、それぞれ朱里と雛里の子供だ。二人に似て軍師向きで、本が大好きなので、よく町の大きな本屋なんかに遊びに行くことがある。

今日は二人の授業が終わるのと、俺の仕事が一段落するのが同じ時間だったために町へ遊びに行く約束をしていたのだが・・・。

早めに授業が終わったから、二人とも俺を迎えに訓練場へ向かったのだろう。と言うことは、何処かですれ違ってしまっている可能性が高いな。

・・・そうなると、今頃二人ともはわあわ言っているに違いない。早めに迎えに行かねば、泣いてしまいそうだ。

 

「二人を迎えに行ってくるよ。邪魔したな」

 

「いやいや、たいしたお持て成しも出来なくて悪いね。・・・ああ、探すなら正門のほうからにしたほうがいい。そちらに向かうと言っていたからね」

 

「助かるよ。じゃな」

 

「ああ」

 

研究中じゃないからか、かなり友好的なキャスターに別れを告げ、教室を出る。

かなり急ぎ足で正門まで向かうと、兵士達がやけに集まっている一角がある。

・・・あそこだな。間違いない。

 

「・・・うむぅ、どうしたら良いやら」

 

「ギル様をお呼びするのが一番だが・・・今は何をなさっている?」

 

「訓練中だから・・・呼んで戻ってくるまで待っていてくれ・・・って、ギル様っ!」

 

近づいてみると、予想通り兵士達の輪の中心には、泣いている明里と碧里。二人とも本を抱き締めながら、涙を袖で拭いている。

そんな二人を兵士たちがあやしているところに出くわしたらしい。走り出そうとした兵士が、俺を見て驚いたように足を止めた。

その驚いた声を聞いてか、兵士たちが全員俺に気付き、立ち上がって敬礼するのを手で制しながら、明里たちのもとへ。

 

「二人とも、ごめんな、お父さん探してくれたんだろ?」

 

「ひぐ、お、おかーさんから、お父さんは訓練所、にいるって、ぐす、聞いたので・・・」

 

「・・・お、おとさんに会いに、あぅ、歩いてたんだけど・・・道に、迷って・・・」

 

「おう、よしよし、偉いぞー、二人とも頑張ったな」

 

二人の頭を撫でると、涙を浮かべながらも笑みを見せてくれる。うんうん、強い子だ。

兵士達に礼を言うが、兵士達は『礼を言われるほどの事じゃない』と返してくれた。

 

「当然のことをしたまでですので、お礼なんて・・・」

 

「あー、いや、それを当然と言えるやつは少ないからさー。ま、助かったよ。ありがとう」

 

「はわ・・・あ、ありがとござますっ」

 

「あわ・・・ども、です・・・」

 

俺の影から少しだけ身体を出しながら、世話になった兵士達にぺこりと頭を下げる二人。

・・・口癖まで母親に似た二人は、母親達と一緒に慌てたりすると今までの二倍『はわあわ』することになる。

大丈夫か、蜀の軍師・・・。

 

「よし、じゃあ俺たちはこのまま町に出るから、君達は持ち場に戻ってくれ」

 

「はっ!」

 

二人と手を繋いで、兵士たちが去って行くのを見送る。

それから、門を出て城下町へ。大通りの本屋ならすぐにつく。

両手が塞がってしまっているので、声を掛けてくれる町の人たちには声でしか返せないのは申し訳ない。

だが、代わりに明里たちが恥ずかしがりながらも小さく手を振り返したりしてくれているので、声を掛けてくれた人たちは微笑ましいものを見る目でこちらに笑いかけてくれる。

うんうん、無邪気な子って見てるだけで元気になるよね。我が娘ながら、可愛らしさは一級品だし。もちろん、親の欲目もあるかもしれないが。

 

「お、ついたぞ二人とも」

 

「わぁっ・・・いつきても大きいっ」

 

「それに、ご本が沢山・・・!」

 

キラキラと瞳を輝かせて俺の手を握る手に力を込める二人は、すでに陳列されている本を視線で追っている。

ここで手を離すと二人ともばらばらに動き始めるので、可哀想だが三人一緒に動くことになる。さて、何処から行こうかな。

 

「二人は何処に行きたい?」

 

「私は・・・えと、あっちの物語のところに・・・」

 

「私はこの数学の棚を見てみたいです・・・」

 

「ん、じゃあ近いから数学のところから見るかな」

 

碧里の見たがる棚のほうが近いため、先にそちらから見ていくことに。

 

「ちょっと明里のほうは後でな。ごめんなー」

 

「はいっ。私も、新しい参考書が欲しいと思ってたから、大丈夫っ」

 

「ごめんね、明里ちゃん」

 

「ううん、気にしないで。あ、新しいの、一緒に見よう?」

 

そう言って二人は俺の手を引いて数学のコーナーへ進む。

明里も、碧里と一緒に本を見て目を輝かせているので、後回しにされたことを気にしている様子は無い。

・・・まぁ、『今日は碧里の行きたいところにしか行かないよ』と言っているわけではないからな。それなら、明里も気にはしないだろう。

 

「こ、これは・・・! 初版で絶版になった『猿では分からない数学の全て』! 猿どころか著者ですら問題の答えが分からないと言う参考書としては意味の無い一冊!」

 

「こっちには『一から始める数学入門・一巻』! 前書きと奇妙な言い訳で全ての貢を使ってしまい、二巻から解説が始まるためにこの巻だけ異常に売れ行きが悪いと言う伝説の一冊!」

 

明里と碧里がなにやら戦慄しながら本を掲げて驚く。・・・なんというか、話を聞いてるだけで絶対必要ない本だと言うことが分かるな。

全く、とため息をつきながら二人を見ると、キラキラとした瞳で俺を見上げていた。・・・え、マジで? 欲しいのか、その本。

 

「あ、あの、おとさん・・・えと、このご本が・・・えと・・・」

 

「ほ、欲しい、かなって・・・」

 

「あー・・・うん、まぁ良いか。二人なら何かしら使い道を思いついてくれるだろ」

 

遠慮がちに『買って欲しい』と言ってきた二人の頭を撫でてやって、本を受け取る。

おっと、本を持つと手がつなげなくなってしまうな。・・・仕方ない。自動人形を呼び出して持っていてもらうとしよう。

宝物庫から気配無く出現した自動人形は、暗殺者モードの特性を活かして、町の人や明里たちに気取られないように俺の後ろについてくれた。

・・・悪いな、荷物もちなんかで呼び出しちゃって。

 

「次はあっちの文学のほうに行こうか」

 

「はいっ。『桃闇の少年』の新作が出ているはずですっ」

 

「楽しみ・・・!」

 

次は明里が引っ張るように進んで行く。やはり好きなコーナーだからか、足取りがとても軽い。

どれだけ本が好きかと言うと、親である朱里と雛里も巻き込んで、夜遅くまで本を読んでいるくらいだ。

早く寝なさいと嗜める側の朱里と雛里が、一緒に夜更かしして次の朝四人とも寝不足だったときは流石に説教したほどである。

親子で本の好みも似通うのか、親と子供で本の薦めあいをしているのも見たことがある。・・・だがしかし、八百一本だけは、絶対に娘達に広めないようにと言い聞かせている。

 

「出てるっ、新刊出てるよ碧里ちゃんっ」

 

「うんっ。あぅっ、こ、今回も分厚い・・・」

 

「・・・六法全書並みの分厚さだな」

 

二人で漸く、と言うほどの重さの本を、代わりに俺が受け取る。

全く、これは本と言うよりは鈍器に分類されるものだろう・・・。ああ、そういえば朱里の本も『武装』扱いだったな・・・。

 

「・・・? おとさん? 明里の顔に、何か付いてる・・・?」

 

「い、いや。・・・朱里の娘だなぁって思っただけだよ」

 

「?」

 

よく分かっていない顔をする明里と碧里に苦笑で誤魔化しながら、取り合えず本を買いに会計へと向かう。

すっかり顔なじみになった店長と世間話をして支払いを済ませ、本は宝物庫にしまいこむ。

買ったものなら、宝物庫に入れても問題ないからな。

 

「さ、帰ろうか」

 

「はいっ。あの、おとさんも一緒にご本読もうねっ」

 

「えと、えと、お勉強も、見て欲しい・・・です」

 

「おう、もちろん。あ、時間的に朱里たちに会えたら饅頭か何か貰えそうかな」

 

厨房に寄り道してから私室に帰るとしようかな。

ニコニコ笑顔の娘と手をつなぎながら、俺は城へと続く大通りを歩くのだった。

 

・・・

 

「・・・これは中々。前書きだけでも楽しいじゃないか、この本」

 

「ほわぁ・・・」

 

「あの、ギルさん? 明里と碧里ちゃんに、変なもの見せないでくださいね・・・?」

 

膝の上に明里と碧里の二人をそれぞれ乗せて、買ってきた本を早速読んでみる。

全く数学の話は出てこないが、著者の近況報告だけでも読み物として面白い。

そんな俺を見てか、お菓子を作ってお茶を入れてくれた朱里が、ため息をつきながら注意してくる。

・・・む、失礼な。俺が勧めたのではなく、明里たちが読みたいと言ったんだぞ。

 

「っしょ、と。皆、お饅頭、出来ました・・・よー」

 

魔女の被るような大きな三角帽子を脱いで、調理用の頭巾をつけている雛里が、大きな皿を卓の上に置く。

そこには、湯気が立っている饅頭が。うむうむ、いつ見ても美味しそうである。

人数に対して少ないように見えるのは、俺以外の四人が少食だからだろう。朱里と雛里は二つほどで満足するし、明里たちは一つを食べ切れるかも怪しい。

なので、恋達がいるときのように山のようには作っていないのだろう。俺も、一つ二つ貰えれば満足だし。

 

「わぁっ・・・美味しそうっ」

 

「食べても、良い・・・?」

 

「うん、どうぞ。・・・あ、お茶いれないとね」

 

卓に駆け寄った二人の子供に笑顔でそう言って、朱里はお茶を用意しに厨房へ向かう。

雛里は熱々の饅頭を二つに割って少し冷ましてから、明里と碧里にそれぞれ渡す。一つ丸々渡しても、熱いだろうしな。

俺も一つ貰おうかなと本を閉じて卓につくと、雛里がぱたぱたと近づいてくる。

 

「えと、ギルさんも・・・どぞ」

 

雛里は俺の分も二つに割ってくれたようだ。湯気の立っている饅頭を差し出してくれたので、あえて受け取らずにあーんと口をあけてみる。

 

「あわわっ・・・!? え、えと、えーっと・・・っ、あ、あーん、ですぅっ」

 

「あむ」

 

自分の口をあけながら、饅頭を口に運んでくれる雛里。もぐもぐと咀嚼して飲み込む。

うん、何時も通り丁度よい甘さだ。今まで本を読んでいたからか、身体に染み入る感じがする。

 

「・・・あわ・・・ぎ、ギルさんがお口を付けたところ・・・はむ」

 

こそこそと俺の齧った饅頭の同じところを口にする雛里。・・・間違いなく可愛い。

何が可愛いって俺に背を向けてても何やってるか分かるのが可愛い。

 

「お待たせしましたーっ。お茶ですよー。・・・って、雛里ちゃん、どうしたの? 顔、真っ赤だよ?」

 

「あわわ・・・!? な、何でもないれふっ。・・・な、なんでもないのっ」

 

「・・・怪しい・・・」

 

よほど慌てたのか、朱里相手に敬語になった後に言い直した雛里。・・・うん、俺も怪しいと思う。

理由を知っている俺は、あえて言わずに傍観することにした。朱里に説明したら、雛里恥ずかしさで泣きそうだし。

 

「あ、ギルさん、お茶です」

 

「ありがと。・・・うんうん、冷たいのがいいねー」

 

何度も言うが今は夏。冷たい飲み物が恋しい季節なのである。

氷を季節問わず用意できるこの城では、冷たい飲み物と言うものは余り珍しくは無い。

火傷を冷やしたり熱を出したら氷嚢にしたりと使い道は山ほどある。

 

「ギルさんはもうお饅頭食べました?」

 

「ああ、さっき雛里に口移しで」

 

「はわわっ!?」

 

「う、うそっ、嘘だからねっ、朱里ちゃんっ。私がしたのはあーんだけで・・・あわわっ・・・!」

 

「あ、あーんはしたのっ!?」

 

俺の言葉で慌てだした朱里と、それを宥めようと失言する雛里。更にそれに驚く朱里、と、二人のやり取りは見ているだけで癒される。

更にもきゅもきゅと饅頭を食べて笑いあう明里と碧里・・・うん、ここがエデンだ。

 

「ぎ、ギルさんっ。あーん、ですっ」

 

「おや、朱里は口移ししてくれないのか」

 

「は、はわっ。・・・お、夫の願いをかなえるのも、妻の役目・・・はむ。・・・ん、んー」

 

朱里をからかってみると、俯いてぶつぶつと呟いた後、半分から更に小さくした饅頭を咥えて、朱里は眼を閉じこちらに突き出してきた。

・・・おっと、ほんとにされるとは思ってなかったぞ。しかもポッキーゲーム方式か。

 

「・・・ま、いっか。いただきます」

 

「は、む、ちゅ・・・ん・・・おいひい、れふか・・・?」

 

ウットリとした顔でこちらを見上げる朱里に、俺はトドメの一言。

 

「ああ。美味しかったけど・・・二人とも、見てたぞ」

 

「二人? ・・・あ、明里っ!? 碧里ちゃんもっ!? はわぁ・・・恥ずかしいよぅ・・・」

 

じぃと見つめる娘達の瞳に、耳まで真っ赤になった朱里は顔を隠すためにか俺の懐に飛び込んでくる。

その背中を、あやすようにぽんぽんと叩く。

そんな朱里を見て、明里が饅頭を食べつつ呟く。

 

「・・・おかーさん、赤ちゃんみたい」

 

「言ってあげないで・・・朱里ちゃん、結構墓穴掘って恥ずかしがってるから・・・あ、もう一個食べる?」

 

「食べるーっ。お母さんも、はいっ」

 

「ん、ありがとう。・・・はむ。おいしー」

 

雛里は雛里で碧里たちを相手に微笑ましいやり取りをしているので、朱里はスルーすることにしたらしい。

・・・まぁ、下手にフォローするよりは話題を逸らしてやったほうが良いか。

視線で謝意を伝えると、雛里ははにかみながらも頷いてくれた。まぁ、後で雛里も甘やかしてあげることにしよう。

 

「それにしても・・・いい天気だなぁ」

 

「天気とか・・・どうでもいいですぅ・・・」

 

朱里が立ち直るまで、普通の人なら腱鞘炎になりそうなほど撫でてあげたことをここに記しておく。

・・・あー、気のせいだろうけど、手が痛い気がする。

 

・・・




「先生っ! 蜀の国主桃香さまの体重の増加と、お小遣いの消費量が比例していることがグラフから分かりました!」「せんせーっ! お父様が射出する宝具のランクを調べて、一番射出されるのが多いランクを算出してみました!」「先生、何故花子さんはお兄ちゃんと一緒に家を出ないの? 仲悪いの? それとも私のお母さんみたいに本当は一緒に出かけたいけどツン子が出ちゃって素直になれないの?」「この本の作者私のお母さんなんだけど『作者の気持ち』って本当に書いてもいいの? お母さん落ち込んだりしない?」「・・・取り合えず、今昼食の時間だから、授業のことはおいとこうね? ・・・ギルの子供だからか、無邪気なギルが沢山いるようだよ・・・うぅ、明日から来る瑠璃ちゃんはまともだと良いなぁ・・・」


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