真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「しちゅじ」「執事」「ひつじ」「し、つ、じ」「しつじ」「そうそう。・・・孔雀、意外と滑舌悪いんだな・・・」


それでは、どうぞ。


第八話 執事との夜に

「ギル、マスターと添い寝してやってくれ」

 

「・・・はぁ?」

 

珍しく城にいたキャスターから声を掛けられ、大事な話があるんだと前置きされた後に、そんなことを言われた。

 

「いきなりすぎて意味が分からない。詳しく説明してくれ」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

それから、キャスターは語り始めた。

孔雀が最近寝るときにうなされている。そうなったのはここ最近のことで、何が原因でそうなっているのか、直接聞いてもはぐらかされてしまう。

彼女はギルには特別心を許しているようなので、一緒に寝るまでは行かなくとも仕事が終わった後の孔雀に話を聞き、できれば解決してあげてくれないか。

というかめんどくさいからさっさと孔雀と一緒に寝て安心させてやってくれ。

・・・大雑把に要約すると、そんな感じのことを言われた。

 

「・・・ちょっと信じられないんだが、俺って孔雀に気に入られてたのか?」

 

「うん? ああ、もちろんだとも。ことあるごとにギルがどうだとかギルはああだとか・・・」

 

「そんな孔雀想像できないな」

 

「まぁ、君ならそういうと思ったよ。・・・でもね、工房で惚気られるこっちの身にもなって欲しいかな」

 

キャスターがため息混じりにそういうと、俺の肩をぽんと叩いて来た。

 

「そこまでなのか!?」

 

う、うーむ・・・クール系美少女だと思っていた孔雀に思わぬ一面が・・・。

 

「と、取り合えず、孔雀にそれとなく切り出してみるよ」

 

「頼んだよ、ギル。マスターの悩みの解決と私の研究のために!」

 

「・・・後半に本音が出てきてるぞ」

 

・・・

 

「孔雀、今日の夜は開いてるか?」

 

政務中、お茶をいれにきてくれた孔雀に思い切って聞いてみる。

最初はきょとんとしていた孔雀も、俺の言っている言葉を理解したのか、笑みを浮かべつつ

 

「どうしたんだい、いきなり。・・・ああ、前に言っていた一緒に寝ようって言う約束、叶えてくれようとしてるのかな?」

 

「あー、うん。孔雀とはもう少し仲良くなりたいなぁと思ってね」

 

本来の目的を隠すことには心が痛むが、孔雀が夜毎うなされているというのは心配だ。

それを解決するためなら、少し心が痛むくらい受け入れてやる。

 

「そ、そうなんだ。・・・まぁ、今夜は何も予定が無いよ。基本的に、ボクって仕事少ないから」

 

「そっか。じゃあ、今夜孔雀の部屋にお邪魔するよ」

 

「ん、分かった。待ってる」

 

入れかけだったお茶をしっかりと入れ、盆を持って退室の準備を進める孔雀。

 

「いきなりですまないな、孔雀」

 

「気にしないでよ。・・・それじゃ、仕事頑張って」

 

そう言って盆を持って部屋を出て行こうとする孔雀。

俺は片手の無い孔雀のために扉を開け、外へ出やすくなるようにする。

 

「ありがと」

 

そう言って部屋から出て歩き始める孔雀。

俺はいいって事よ、と返し、その後姿を見送る。

 

「あ、そうだ」

 

そんな孔雀に声を掛けると、孔雀は背中を向けたまま顔だけこちらに振り向かせて首を傾げつつ、なんだい? と聞いてきた。

俺は先ほど入れてもらったお茶の味を思い出しながら口を開く。

 

「お茶、ごちそうさま。最初の頃より上達したな」

 

孔雀にそう伝えると、孔雀は少し照れたようにはにかみながら口を開く。

 

「・・・ふふ、秘密特訓してたから」

 

「なるほど、納得だ」

 

くく、と笑いが漏れる。俺の笑い声に触発されたのか、孔雀もふふ、と笑いを漏らす。

・・・いつもクールな無表情娘なのに、こうやって笑う顔を見るといつも和むんだよなぁ。

 

「それじゃあ、また夜に」

 

「ああ。お盆、落とすなよ?」

 

「大丈夫さ。もう慣れた」

 

ホテルのウェイターのように盆を持ち、すたすたと早足で歩いていく孔雀。

なるほど、言葉の通り、すでに慣れっこのようだ。

 

「いらん心配だったかな」

 

さて、政務の続きをしなければ。

昨日ほとんど処理していないので、昨日の分と今日の分の二日分を一日で処理しなければならないんだから。

 

・・・

 

「・・・うわ」

 

あれって現実かな? いや、現実のはずだ。後で頬をつねって確認するとしよう。

でも、まさかギルからそんな風に誘ってくれるなんて・・・。

 

「最近は、嫌なこともあったけど・・・もしかしたら、この日のためにあったのかな」

 

ほら、いやなことの後にはいい事があるって良く聞くし? 

 

「し、しかも・・・お茶、上達したなって・・・!」

 

何あの破壊力。笑顔が宝具なんじゃないの? ギルって。

・・・くっ、ボク、今日の夜まで生きていられるだろうか。

 

「あれ? 孔雀さん、こんにちわ」

 

「え? ・・・ああ、月。こんにちわ」

 

一人悶々としていると、月と出会った。

・・・いいよなぁ、月。ギルと恋仲なんだよなぁ・・・。

 

「何かあったのですか? 嬉しそうな顔をなされてますけど・・・」

 

「ああ、ええっと・・・」

 

そういえば、ギルと夜二人っきりってこと、月に報告しておいたほうがいいんだろうか。

・・・ほら、月ってかなり嫉妬深いから。

 

「じ、実は・・・」

 

後でややこしくなるよりは、今言った方がいいよね。

かくかくしかじか、と月にさっきあった事を説明する。

すべての話を聞き終わった月は、そうですか、と笑って

 

「じゃあ、孔雀さんもギルさんに告白するんですか?」

 

「・・・はい?」

 

ちょっとまった。どうしてそうなった? 

 

「え? ・・・だって、孔雀さん、ギルさんのこと好きですよね?」

 

「・・・それは、なんというか・・・」

 

月が不思議そうに質問してくる。

ボクは何でばれてるんだろう、という言葉が頭の中を埋め尽くしていって、その、とか意味の無い言葉が口から漏れるだけだ。

 

「もしかして、隠してるつもりでした?」

 

「・・・うん」

 

何でだろう。感情を抑えたり無表情になったりするのは得意だったんだけど・・・。

 

「だって孔雀さん、ギルさんの前以外で隠す気が無さすぎですから」

 

・・・はっ!? 

そうか、なるほど。確かにボクはギルにはばれないように、と気張りすぎて他の人には特に隠していなかった気がする・・・。

・・・あああ、もしかして、最近キャスターから送られてくる変な視線とかそれが原因かな!? 

 

「以前も、ギルさんに助けられたときのお話とかして貰いましたけど・・・その時の表情が輝きすぎてて・・・」

 

ちょっと気まずそうに視線をそらす月。

それが本当なら、詠とか響とかにもばれちゃって・・・

 

「・・・言いにくいんですけど、侍女のみんなには周知の事実というかなんと言うか・・・」

 

「はうっ!?」

 

「いつギルさんに気持ちがばれるか、という内容で響ちゃんと詠ちゃんが賭けをしていたり・・・」

 

「ううっ!?」

 

「あそこまでやってばれてないなら私もいく! と響ちゃんがノリノリになっちゃったり・・・」

 

「みゃうっ」

 

ぐ、グサグサ刺さる言葉の槍・・・! 

っていうか、言ってくれればいいのに! 

ボクがそういうと、月は苦笑いを浮かべながら口を開く。

 

「そ、その・・・ギルさんの前で気持ちを悟られまいと頑張っている孔雀さんを見ていたらとてもそんなことは・・・」

 

そんなに頑張ってるように見られてたのか・・・。

なんていうか、すごく衝撃を受けたよ。

 

「うぅ、なんかすごく泣きたくなってきた・・・」

 

「ああっ、孔雀さん、泣かないでください」

 

おろおろとしながら月がボクの体を支えてくれた。うぅ、ありがたいです。

 

「取り合えず、いろいろとお話をするためにお部屋にいきましょう?」

 

「うん」

 

・・・

 

「と、言うわけで、みんなに集まってもらったのは他でもありません」

 

響が黒板、という文字を書く板の前に立ち、ばん、と黒板を叩く。

そこには、頑張れ孔雀! と妙に可愛らしい文字が記されており、その下には、今日の議題・・・。

 

「ごくり・・・」

 

「我が侍女組にただ一人の執事! 孔雀ちゃんがギルさんに告白するにはどうしたら良いか考える会議を開催したいと思います!」

 

「わ、わーっ」

 

月がぱちぱち、と手を叩きながら声を上げる。

盛り上げようとしているのだろう。多分、響辺りに事前に言われていたに違いない。

・・・しかし残念ながら、すごくすべっている。

 

「・・・月、別に響に無理やり付き合ってあげなくてもいいのよ?」

 

「でも、響ちゃん、孔雀さんのためにこんなに頑張ってるんだから、私も何かできないかなって・・・」

 

「意見を出したりとか、他の事で手伝ってやればいいのよ!」

 

「う、うん! 頑張るよ、詠ちゃんっ」

 

月っていい子だよねぇ。

 

「はい、ちゅーもーく!」

 

パンパン、と手を叩いて自分に注目を集めた響は、黒板の文字をいったん消し、何かを書き始める。

 

「それじゃ、手順のおさらいね。まず、今日の夜は孔雀ちゃんがギルさんのお部屋に呼ばれてます」

 

「・・・ったく、もう他の女に手を出すのね」

 

「へぅ、詠ちゃん、それは・・・」

 

「分かってるわよ。・・・で?」

 

いつもどおり詠が月にたしなめられた後、詠に急かされて響は説明を再開する。

響は先ほど書いた字の下に追加で文字を書き記していく。そこに書いてあるのは・・・。

 

「経験者のお話! というわけで、月ちゃん、詠ちゃん、ギルさんに告白したときの状況をご説明願います」

 

おお、これはなかなか参考になる話が聞けるんじゃないかな。

 

「へぅっ。え、えーと、私がギルさんに想いを告げたとき・・・ですか」

 

恥ずかしそうにしながら、月は口を開いた。

・・・内容はというと、なんと言うか・・・月らしい、正統派な告白の仕方だと思った。

でも月って以前ギルと結ばれるために下着姿で寝台に待機してたとか言ってなかったっけ。

うーん、大胆なんだか恥ずかしがりやなんだか分からないなぁ・・・。

 

「えっ!? ぼ、ボクも言うの!? ・・・その、恥ずかしいんだけど」

 

ずいぶん渋る詠だったが、響にせっつかれて渋々説明を始めた。

うわ、寝てる月の隣で告白とか・・・ずいぶん命知らず・・・げふんげふん、大胆なことを。

っていうか、告白した勢いで何度も接吻って・・・へ、変態みたいじゃないか・・・。

 

「えーっと、以上を総合して考えると・・・」

 

再び黒板の文字を消し、新しい文字を書く。

 

「直接! ギルさんに! ぶつかる! それだけ!」

 

いちいち区切って言い放った響がびしぃっ! とこちらを指差してくる。

 

「直接、かぁ・・・」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ! 月ちゃんも詠ちゃんも通った道なんだから。ちなみに、後ろには私が続く予定ですっ」

 

今から練習しないとねー、と言う響を尻目に、ボクは心の中で段取りを組み立てていく。

ええっと、まずは部屋に来たギルに・・・。

 

「孔雀さん、自分の世界に閉じこもっちゃいましたね」

 

「しょうがないわ、放っておきなさい。・・・ねえ、それよりも響? あんたも・・・なの?」

 

「ふぇ? ・・・あ、うん。その、最初は月ちゃんが恋仲になったから諦めようと思ってたけど、ほら、詠ちゃんもギルさんと一緒になっちゃったじゃない。それなら、私も想いを伝えたいなー、と」

 

「・・・ふん。そう。ま、頑張りなさいよ」

 

「ふふ、想いを伝えるだけだから、頑張ることなんて無いよ、詠ちゃん」

 

「馬鹿ね。その後に・・・も、求められたらどうするのよ」

 

「なんとっ! その可能性は考えて無かったよ、詠ちゃん!」

 

「ま、せいぜい頑張ることね」

 

「うぅ~・・・いまさら不安になってきた・・・」

 

・・・

 

夜。俺は孔雀の部屋へと向かっていた。

さて、どうやって話を切り出すか。

 

「・・・直接・・・は、キャスターと同じくはぐらかされるだろうしなぁ」

 

間接的に、と言ってもどう話を振ればいいのやら・・・。

ああもう。悩み相談なんて受けたこと無いからなぁ。これなら、サーヴァント相手に戦ったほうがまだましかもしれんな。

 

「あ、もう着いたのか・・・」

 

考え事をしながらでも、キャスターと孔雀の部屋には迷わずたどり着ける。

なぜかと言うと、孔雀の部屋はキャスターの部屋の隣にあるのだが、キャスターの部屋からはその・・・奇妙な空気が漏れている。

その奇妙な空気をたどって歩けば、少しくらい考え事をしていてもいつの間にかたどり着けるのだ。

 

「・・・どうしよう。何も案が浮かばなかったな・・・」

 

でも、来てしまったものは仕方がない。入るしかないだろう。

こんこん、と扉をノック。俺だけどー、と声をかけると

 

「どうぞ」

 

む? なんだか、いつもの孔雀らしくない、硬い声で返事が返ってきた。

どうしたんだろうか。まさか、何か異変が!? 

慌てて扉に手をかけて開く。

 

「お邪魔・・・」

 

「い、いらっしゃいませ! ご主人様っ!」

 

「・・・しましたー」

 

あまりのショックに固まってしまったが、何とか再起動。

ゆっくりと部屋から出て、扉を閉める。

よし、冷静になろうか。

俺は、孔雀が悩んでるようだから相談に乗ってくれとキャスターに言われて、ここに来た。

それで、部屋へと入ると・・・メイド服を着た、孔雀に出迎えられた。しかも妙にきゃぴきゃぴした口調で。

駄目だ。いつものクール系美少女の孔雀しか知らない俺にあの見たことの無い孔雀を相手することは不可能だ。

 

「あれ? どうしたんだい、ギル」

 

「あ、キャスター。いい所に」

 

騒ぎを聞きつけたのか、キャスターが部屋から出てきた。

取り合えず今見たものを説明すると、どれどれ、と言いながらキャスターが扉をノック。

 

「ど、どうぞ」

 

「お邪魔・・・」

 

扉を開いたキャスターが、そのままの体勢で固まった。

 

「いらっしゃいま・・・って、え、きゃ、キャスターっ!? あ、これはその、ちがくて・・・!」

 

「・・・しましたー」

 

先ほどの俺と寸分たがわぬ反応で、キャスターは扉を閉めた。

 

「メイド・・・だったろ?」

 

「うん。・・・しかも、ポーズ付きだった・・・」

 

え、それは本当か。・・・ちょっと見たかったかもしれない。

 

「ね、ねえ! 何でキャスターがいるんだい!?」

 

扉の向こうから、若干必死そうな声が聞こえてきた。

 

「・・・答えてやれよ、キャスター」

 

「取り合えず・・・部屋に入ろうか」

 

「そうするか」

 

扉を開くと、メイド服で立ち尽くす孔雀がいた。

 

「い、いらっしゃい」

 

「お邪魔します」

 

「はは、いや、改めてみると可愛らしくなったじゃないか、マスター。あ、お邪魔するよ」

 

部屋に入って開口一番笑い始めるキャスター。

 

「うぅ、笑わないでくれよ。・・・全く、響め。全力で外したじゃないか」

 

「え? マスター、何か言ったかい?」

 

「なんにも! ・・・で、何でキャスターがいるのさ」

 

「いやなに、外で何やら騒いでいるようだったから、またマスターが何かやらかしたんじゃないかと思ってね。外を見たらギルがいるじゃないか」

 

話しながらキャスターは椅子に座る。俺も近くの椅子に座り、背もたれにもたれる。

 

「で、状況を聞いたら信じられないものを見たとか言い出すから私も覗いたら、って訳。了解したかい、マスター」

 

「・・・大体は」

 

「ならばよろしい。・・・それじゃ、私は失礼するよ。研究も残ってるしね」

 

「うん。お休み、キャスター」

 

「ああ。ギル、こんなマスターだけど、よろしく頼んだよ」

 

「あ、ああ」

 

この状況で帰るんだ、この人。

まぁ、キャスターからの頼みとかは孔雀には伝えてないし、キャスターがいると孔雀も悩みを話してくれないかもしれないしな。

それじゃ、また明日ー、と言いながら部屋から出て行ったキャスターを見送った後、孔雀の方へと向くと、凄いジト目でこちらを見ていた。

 

「まさか、メイド服を着ただけであそこまで動揺されるとは思って無かったよ、ギル」

 

「それは謝る。ごめん」

 

「ふん。もういいよ」

 

そっぽを向きながら不機嫌そうに言い放つ孔雀。

あー、へそ曲げちゃった。どうしようかな、ここから。

 

「それで? 今日はなんか用なの?」

 

どうしようかと悩んでいると、向こうから話を振ってきた。

これに乗っからない手は無いな。

 

「ああ。孔雀には魔術方面でいろいろお世話になってるし、お礼ついでにちょっと話しでもしていこうかなー、と」

 

「・・・そっか。まぁ、月たちに魔術を教えてるのは趣味みたいなものだし、別に気にすること無いよ」

 

「まぁまぁ。おとなしくお礼を受け取っておけって」

 

そう言ってぱちんと指を鳴らす。

宝物庫が開き、ワインが入っている状態の酒器が卓の上に現れる。

 

「いつ見ても凄いね。キャスターもこんなことできたらなぁ」

 

「キャスターにはキャスターのいいところがあるって。取り合えず、飲もうか」

 

「ん」

 

いつも執事服を着ている孔雀がメイド服を着ていることに違和感はあるものの、立ち居振る舞いはいつもどおりの孔雀だ。

なんだか妙な感覚に囚われつつも、ワインを口にする。

 

「いつ飲んでも美味しいね」

 

「ああ、全くだ」

 

ふぅ、とお互いに一息つく。

取り合えず、何か話題を振らないとな。

 

「・・・ところで、孔雀」

 

「ん、なにかな、ギル」

 

「なんで・・・メイド服着てたんだ?」

 

俺の質問に、孔雀は少しびくつくと、諦めたようにため息をついた。

 

「その、響に着せられたんだ」

 

「響に?」

 

何でまた。・・・いや、でも響ならやりかねない。

 

「その・・・ギルは、メイド服が大好きだから、これを着たら喜ぶよ、って」

 

「何でそんな結論に・・・?」

 

「だって、月と詠はメイド服着てるじゃないか」

 

「なるほど、そういうことか」

 

俺と恋仲である月と詠はメイド服を着ているから、俺はメイド服が好きなんじゃないか、と思ったわけだな。

・・・いや、否定はしないけど、董卓の時の服着てる月とか、軍師姿の詠とか結構良いものですよ? 

 

「ってことは、孔雀は俺を喜ばせようとしてくれたのか?」

 

「っ! いや、その! ・・・うん、まぁ、そうなるね」

 

慌てて否定しようとした孔雀だったが、すぐに思い直したらしく、素直に頷いた。

なるほど、キャスターが言っていたように、俺は孔雀に気に入られているらしい。少なくとも、喜ばせようと思うくらいには。

 

「そっかそっか。孔雀もなかなか嬉しいことをしてくれるじゃないか」

 

「い、いつもギルにはお世話になってるからね。これくらいはしないと」

 

最初は少し緊張して強張った顔をしていた孔雀も、少しずつ表情が柔らかくなり、笑顔を見せるようになってきた。

それから、俺は悩み事を聞く、と言う当初の目的を忘れ、ただ普通に話をしていった。

たとえば、孔雀はいつもどんな仕事をしているのか、とかそんな日常の様子を聞いたり、今日の仕事中に響が洗濯物を持ったまま転んだだとか、そんな他愛も無い話だ。

どちらかと言うと騒がしい娘たちが多い中、物静かと言うか冷静な孔雀と話すのは、案外楽しく、時間はすぐに経ち、夜中と言って差し支えない時間となってしまった。

 

「・・・おっと。もうこんな時間だ。そろそろ帰るよ」

 

そう言って立ち上がり、扉へ向かおうときびすを返す。

・・・が、裾をつかまれる感触に足を止めた。

振り向くと、顔をそらした孔雀が、俺の裾を掴みながら立っているのが視界に入った。

 

「どうした、孔雀」

 

「一緒に、寝てくれるんじゃないの?」

 

酔った所為か、恥ずかしいのかは定かではないが、耳まで真っ赤にした孔雀がつぶやくようにそう言った。

まさか本気で寝るつもりだったとは思っていなかったので、少し驚いてしまった。

 

「・・・いいのか?」

 

「だって、約束したじゃないか」

 

少し拗ねたように唇を尖らせた孔雀に、思わず笑いが漏れる。

孔雀の頭を少し乱暴に撫でながら

 

「よし、じゃあ寝ようか」

 

「・・・うん」

 

・・・

 

「・・・狭くない? ギル」

 

「大丈夫だぞ。・・・暑くないか?」

 

「全然。ボク、暑さには強いから」

 

身体、常に冷たいんだ、と続けて、俺の頬に手の甲を当ててくる。

本当に冷たいな。夏は重宝されそうだ。

 

「じゃあ、冬の寒さには弱いのか?」

 

「うん。ずっと火を焚いて、掛け布団いっぱい掛けないと寒くて眠れないんだ」

 

なるほど。現代で言えば、ストーブつけっぱなしで寝るようなものか。

この時代だと、布団も種類は少ないしなぁ。

・・・まぁ、真桜辺りがいろんなの開発しそうだけど。

 

「・・・ねえ」

 

「んー?」

 

変に現実味のある未来を妄想していると、孔雀に話しかけられた。

考え事をしていた所為か、返事が少し曖昧になってしまった。

だが、孔雀はそんなことを気にしないで話を続ける。

 

「最近ね、少し腕に違和感があるんだ」

 

「腕に?」

 

「そう。切れたほうの腕に。なんか、腕があるような、変な感覚」

 

「痛み、とかは?」

 

どこかで、そんな話を聞いたことがある。

無いはずの腕が痛む。腕とか足を切断した後に、無いはずの腕や足があるように感じたり、痛み出したりする。

 

「たまに、かな。最近は夜になると少しだけ痛む」

 

幻肢痛、だったっけ。

 

「いつから?」

 

「違和感なら、切った後、少ししてからかな。痛みは最近」

 

・・・なるほど、最近夜にうなされている、と言うのは孔雀が痛みを感じていたからだろう。

 

「実を言うと、今日一緒に寝ようっていったのは、少し不安になってきたから」

 

「不安に?」

 

「うん。一人でなくなったはずの腕の痛みを感じてると、不安になるんだ」

 

そういいながら恥ずかしそうに笑う孔雀。

 

「ごめん、変なこと言って」

 

「全然変なことじゃない。・・・というか、もっと早く頼ってくれれば良かったのに」

 

「だって・・・無い腕が痛むなんて、変かもしれないって思って・・・」

 

「変じゃないって。大丈夫」

 

そう言うと、孔雀はそうかな、と呟いた。

 

「・・・やっぱり、ギルは優しいなぁ」

 

「前にも言われたな、それ」

 

「ふふ、最初に助けてもらったときにね。・・・その時から、ボクは」

 

「ボクは?」

 

「あ・・・えと」

 

いきなりもじもじとし始める孔雀に首を傾げる。

いつものように冷静な表情など当の昔に消え去っており、眉を八の字にして恥ずかしそうな表情を浮かべている。

しかし、次の瞬間、孔雀の表情はいつもどおりの冷静な表情に変わる。・・・顔は、赤いままだったけど。

 

「・・・もう、白状しちゃうけど、ボク・・・ギルのことが、好きだ」

 

「ええっと、それは・・・」

 

「もちろん、男の人として、ってことなんだけど・・・」

 

いまだに恥ずかしさが抜けないのか、表情は無表情に近いが、視線は俺に合わせようとはしない。

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

そう言って、孔雀を抱き寄せる。

そばに寝ていたので、抱き寄せるのは簡単だった。

 

「・・・うあ、恥ずかしいよ、ギル」

 

「いやだったか?」

 

「・・・全然。むしろ嬉しいよ、ギル」

 

「それなら良かった」

 

「ね、ねえ?」

 

「どうした?」

 

「今日は、これだけなのかな?」

 

「これだけ・・・って?」

 

「・・・月とか、詠とかにしてるようなこと、しないのかなって」

 

なんと。

凄い積極性だな。

 

「俺は今すぐでもしたいけど・・・孔雀は大丈夫なのか?」

 

「・・・ぼ、ボクはむしろ今日するくらいの覚悟だったんだけど」

 

「あ、だからメイド服だったりしたのか?」

 

「実はそうだったり」

 

へへ、と悪戯が成功した子供のように笑う孔雀。

 

「そっか。じゃあ・・・するよ?」

 

「あ、改めて聞かれると緊張するなぁ・・・」

 

寝台に仰向けになった孔雀に覆いかぶさる。

俺が動いたからか、寝台がぎっ、と音を立てる。

 

「ほら、力抜いて」

 

「うぅ、慣れてる人の台詞だ・・・んっ」

 

少し落ち込んだ様子の孔雀に口付けして、メイド服に手を伸ばす。

 

「や、優しくお願いします・・・」

 

「了解したよ、孔雀」

 

妙にしおらしい孔雀に苦笑しながら、メイド服を脱がしていった。

 

・・・

 

「昨夜はお楽しみでしたね」

 

翌朝、俺とほぼ同時に起きた孔雀と共に着替えを終え、少しだけ部屋でのんびりすごしていると、部屋の中へキャスターが入ってきた。

部屋の空気が違うことに気づいたキャスターは、開口一番さっきのような台詞を吐いたのだ。

 

「聞いてたの? キャスター」

 

「聞こえたんだよ、マスター。部屋が隣の上に防音の結界なんて張ってないからね」

 

「くっ・・・こうなったら、令呪で記憶をなくさせるしかないか・・・!」

 

「何言ってるんだいマスター。たかが恥ずかしい声を聞かれただけで」

 

「き、キャスターに分かるものか! この乙女の恥ずかしさを!」

 

「常時執事服の乙女には言われたくないね」

 

必死に問い詰める孔雀と、のらりくらりとかわすキャスター。

何時見てもこのやり取りは面白いな、と思いながら見守っていると、孔雀が俺の手を掴んで歩き出した。

 

「おや、マスター、どこへ?」

 

「仕事!」

 

「そうか。頑張ってくるといい」

 

そう言って笑うキャスターの隣を通って部屋を出る。

 

「・・・ギル、ありがとう」

 

そして、キャスターの隣を通り過ぎるとき、俺の耳元でそう呟いた。

俺は後ろを向かずに手を振って答える。

なんだかんだいって、キャスターも心配だったんだろう。

 

「もう、キャスターには気遣いってものが足りてないよね」

 

部屋から遠ざかると、孔雀はそう言って立ち止まる。

 

「・・・ごめん、ギル。先にお城行っててくれない?」

 

「ん? 孔雀はどうするんだ?」

 

「えと・・・ちょっと、休んでから行く」

 

「・・・ああ、なるほど」

 

これは、あれか。月と詠も陥ったあの・・・。

 

「く、こんなに違和感を覚えるものだとは思わなかった。よくこんなので歩けたな、ボク」

 

下腹部を押さえながら忌々しげに呟く孔雀。

 

「痛むか?」

 

「痛くはない、けど、なんかまだ入ってる感じが・・・」

 

「あー、そっか。それじゃあ・・・」

 

よいしょ、と孔雀を横抱きに抱える。

最初は背負おうかとも思ったが、こちらのほうが負担は少ないだろう。

 

「ギル、いったい何を」

 

「いいから。今日は部屋で休んでろ」

 

「・・・むぅ。仕方がない。そうするよ」

 

孔雀が諦めたように体から力を抜いたので、俺は来た道を戻る。

キャスターはもう部屋に戻っているだろうし、孔雀がまたからかわれることは無いだろう。

なんとか扉を開けて部屋に入り、寝台に孔雀を横たわらせる。

 

「服は・・・まぁ、それで我慢してくれ」

 

「うん。しばらくはこのままで寝てるよ」

 

「それじゃ、ゆっくり休んでろ」

 

「ごめんね、わざわざ」

 

「謝ることじゃないさ。好きな娘を気遣うのは当然だろ?」

 

「そんな台詞、よく素面で言えるね。・・・でも、嬉しいよ。ありがと」

 

皮肉るような口調のあと、ちょっとだけ視線をそらせてお礼を言った孔雀。

じゃあ、俺は行くよ、と伝え、部屋を出る。

すぐ隣にあるキャスターの部屋へと入ると、予想通りキャスターは机に向かって何かを研究しているようだった。

 

「・・・ん? おや、ギルか。どうした?」

 

足音で気づいたのか、後ろを振り向いたキャスター。

机にはさまざまな器具や書物が広げられている。

 

「お邪魔するよ。孔雀のことなんだけど」

 

「マスターがどうかしたのかい?」

 

「ちょっと調子が悪いみたいでな。部屋で寝てるんだ。何かあったら、孔雀のことは頼んだぞ」

 

「ほほう? 昨夜やけにうるさいと思ったら、ギル、マスターに結構無茶しちゃったのかな?」

 

「はっはっは・・・否定はできないです」

 

気まずさを感じた俺は、視線を逸らしつつそう言った。

 

「ま、分かったよ。それとなくマスターの様子は見ておく」

 

「悪いな。俺も仕事が終わったらまた孔雀のところに戻ってくるから」

 

「ああ、了承した。ほら、もう行くと良い」

 

そう言ってしっしっ、と手で出て行けとジェスチャーするキャスター。

 

「おう。研究の邪魔して悪かったな」

 

最後にそういい残して、俺はキャスターの部屋を後にした。

さて、今日も一日、お仕事頑張りますかー。

 

・・・

 

「ギルさん、昨夜はお楽しみでしたね?」

 

「月・・・?」

 

「ギル、昨日はお楽しみだったみたいじゃない?」

 

「詠まで・・・」

 

朝食を食べようと厨房へ行くと、月と詠に出会った。

詠が作ったという朝食を食べていたのだが、そのときにニコニコとこちらを見ている月と、じっとこちらを見つめる詠の行動に首を傾げつつ朝食を取っていたのだ。

朝食を食べた後にどうしたんだ、と聞いたところ、開口一番これである。何これ。流行ってるの? 

 

「全くもう。一緒に来なかったところを見ると・・・まぁ、アレに苦しんでるのね」

 

「へぅ、翌朝気づくんですよね、アレ」

 

月と詠も経験済みだからか、孔雀がいない理由を悟ったようだ。

良かった、説明する手間が省けた。

 

「あ、そうそう。今夜は・・・私と詠ちゃんの二人でお邪魔しますね?」

 

いつもどおりの微笑を浮かべた月はそう言って歩き出した。

 

「そ、その・・・覚悟しておきなさい!」

 

照れながら強がるといういつもどおりのツン子を見せてくれた詠も、月と一緒に歩き出した。

 

「・・・今夜、死なないようにしないとなぁ」

 

ぼそりと呟く。割と本気で切実な呟きだと自分でも思った。

取り合えず、仕事をしないと。昼休みに孔雀の様子を見に行こう。

 

・・・

 

「あ、お兄さん、おはよー」

 

「おはよう、桃香」

 

「おはようございます、ギルさん」

 

「おはよう、朱里。今日は何か急ぎの案件とかある?」

 

「ええっと、今急ぎは・・・あ、天下一品武闘会の開催に関係した書類の整理と、後は・・・」

 

ごそごそと書類を用意し始めた朱里を見ながら、俺も準備を開始する。

墨とか筆とか、政務に必要な道具は意外とあるんです。

 

「んしょ、これくらいですね」

 

どさどさと詰まれた仕事。

 

「うーん・・・少なめだな」

 

「え? ・・・そ、そうですか?」

 

「十分多いと思うけど・・・」

 

俺の一言に、桃香と朱里が反応する。

・・・あれ、俺がおかしいのか? 

 

「ごめん、気にしないでくれ」

 

「うぅ、お兄さんみたいに余裕の発言をしてみたいよぉ~」

 

「はわわ、流石はギルさんです・・・」

 

「・・・取り合えず、仕事始めようか」

 

変な空気を振り払うように声を掛ける。

それぞれ返事をしてくれたので、俺も筆を滑らせる。

えーっと、予算と規模は・・・っと。

 

「そういえばお兄さん?」

 

「なんだ、桃香」

 

始まって少ししか経っていないのに、桃香が話しかけてくる。

一応手は動いているので、少しくらい話しても大丈夫だろう。

 

「あのね、今日のお昼なんだけど・・・」

 

「昼?」

 

「うん。お昼、一緒に食べたいなって」

 

「今から昼飯の話かよ・・・」

 

いまだ仕事は始まったばかり。もちろん太陽はまだ真上より低い位置にあり、さらに言えば朝食を食べたばかりだ。

よく昼飯の話とかできるな。

 

「えー、だってだって、お兄さんいつの間にか他の娘と約束してたりするし。だったら早めに約束しておこうかなって思って」

 

「な、なるほど、勉強になります・・・」

 

桃香の言葉を聞いた朱里が、何やらさらさらとメモを取っていた。

 

「で、どう? お兄さん」

 

「あー、悪いけど、昼は孔雀と約束があるんだ」

 

「えー! 次は孔雀ちゃんなのー!?」

 

「次はってどういうことだ桃香」

 

「・・・だって、前に誘ったときは月ちゃんと詠ちゃんと食べるからって断られて、その前は恋ちゃんと食べに行っちゃうし・・・」

 

ふてくされながら桃香は筆を動かす。

 

「分かったよ。孔雀との用事が終わった後なら、付き合おう」

 

「ほんとっ! 約束だよ、お兄さん!」

 

「ああ、約束だ。・・・さ、それじゃあさっさと終わらせちゃおうぜ」

 

「はーい!」

 

先ほどより倍の速度で、桃香は書類を片付けていく。

・・・現金な奴。さて、昼はなにを食べに行こうかな。

 

・・・

 

ただいま、とある大衆食堂で昼食をとっている最中だ。

右には、言いだしっぺの桃香が胸を押し当てるようにくっついている。

 

「お兄さん、はい、あーん」

 

差し出されるレンゲ。

そこにはチャーハンが乗っており、ほかほかと湯気を立てている。

 

「・・・あーん」

 

周りの視線のほとんどがこちらを向いているのを感じながら、そのチャーハンを食べる。

 

「ぎ、ギル殿! こちらも美味しいですよ。・・・そ、その、あーん・・・?」

 

そして左には愛紗がいて、俺へと麻婆豆腐を乗せたレンゲを差し出してきた。

 

「・・・あーん」

 

それを食べると、愛紗がほっとしたような笑顔を浮かべる。

・・・どうしてこうなった。

もぐもぐと咀嚼しながら、こうなるまでを回想する。

まず、仕事中に異変はなかったはずだ。

仕事が終わった後、孔雀の様子を見に行く前に桃香に「お城の門のところでまってるね」と言われて、分かった、と返したところも問題はない。

そして、孔雀の様子を見に行ったところ、すでに回復して歩けるまでになった孔雀に出迎えられ、話をした後にキャスターに礼を言いに行った。

 

「はは、特に問題もなかったし、別に礼を言われることじゃないよ」

 

とさわやかな笑顔で返された俺は、もう一度だけ礼を言って屋敷から出た。

そして、待ち合わせ場所へと到着すると、桃香が大きく手を振っているのが見えた。さらに、隣で少し恥ずかしそうにしている愛紗も見えた。

 

「おや、愛紗も誘ったんだ」

 

「うんっ。愛紗ちゃんも、お兄さんとお昼食べたいって!」

 

「ちょ、桃香さまっ」

 

「えへへー。じゃ、いこっ、お兄さん、愛紗ちゃん!」

 

そう言って俺と愛紗の手を取った桃香が走り出し、今いる食堂に着いた。

俺の腕を引っ張って隣に座った桃香に勧められ、愛紗は桃香の反対側に座り、もじもじと注文を決めていた。

それから注文した品が来て、三人それぞれ食べていると、先ほどのように桃香があーん、といい始めたのだ。

・・・なるほど、分からん。

 

「ねえねえお兄さん、この後甘いもの食べに行かない?」

 

桃香の声で回想から意識を引き戻される。

 

「ん、甘いものか・・・。桃香、太るぞ?」

 

「むっ、むー! お兄さん、失礼だよー!?」

 

「怒るな怒るな」

 

ぷんすかと怒る桃香の頭を撫で、落ち着かせる。

 

「にしても、甘いものか。・・・愛紗はどうだ?」

 

「わ、私、ですか?」

 

「ああ。愛紗は甘いもの平気か?」

 

「はいっ。大丈夫です」

 

「そうか・・・なら、甘味処に行くのも悪くないな」

 

すっかり機嫌を直した桃香を引き続き撫でながら、どこに行こうかと思案し始める。

そういえばしばらく行ってないところがいくつかあったな。

顔見せるついでに食べていくのも悪くない。

 

「よし、それじゃあ行くか。おばさん、お勘定」

 

「あいよっ」

 

三人分のお金を出して、店を出る。

 

「さて、こっちだったかな・・・」

 

ギル殿に払っていただくなど、申し訳ないです! と言う愛紗を宥めつつ、街を歩く。

愛紗が説明を聞いて納得した頃には、次の目的地である甘味処にたどり着いていた。

 

「おーい、おじさん、久しぶりー」

 

「んー? ・・・おお、ギル様ではありませんか」

 

久しぶりだというのにおじさんは俺の顔を覚えていたらしい。

 

「いくつかお勧めのお菓子とか頼んだ。あ、あとお茶」

 

「分かりました。少しお待ちください」

 

そう言っておじさんは店の中へ入っていく。

俺たちは外に並べられた卓につき、品物が来るまで待つ。

 

「んー、美味しそうな甘い匂いが・・・」

 

「・・・桃香さま、後で私と一緒に身体を動かしましょうね」

 

「えー。大丈夫だよ、太らないよー?」

 

「いいえ、桃香さまは日ごろから運動不足ですので、少しでも身体を動かしておきませんと」

 

「ぶーぶー! おーぼーだよ愛紗ちゃん!」

 

冷静に返す愛紗と、手を大きく動かしながら何とか回避しようと頑張る桃香を見ていると、お茶が運ばれてきた。

それでいったん話は中断され、桃香と愛紗は出されたお茶を飲んでのほほんとしていた。

 

「おまちどうさま」

 

「お、ありがとう」

 

三人分の団子やら饅頭がやってきて、卓の上に並べられる。

 

「ほわー・・・美味しそうだね~」

 

「違うぞ、桃香。美味しそう、じゃなくて美味しいんだ」

 

「ふふ、ギル殿がそこまで言うのならそうなのでしょうね」

 

それでは、いただきましょうか、という愛紗の声に、桃香が真っ先にいただきまーす! と反応した。

はむ、と饅頭にかじり付く姿はハムスターとかその辺りの小動物を髣髴とさせた。

 

「おいひぃね~」

 

「だろう? 愛紗はどうだ?」

 

「はい、とても美味しいです。お茶ともあいますね」

 

うんうん。久しぶりにきたけど、やっぱりここの饅頭とか団子は美味しいな。

多分華琳をつれてきても大丈夫なくらい美味しいんじゃないだろうか。今度つれてきてみよう。

 

・・・




「月は妹。詠は幼馴染。響は後輩。孔雀は姉。ってイメージ」「あー・・・なんとなく分かるかもしれない」


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