真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「いやー、さっき朱里ちゃん達に会ってさ。突然、『北郷さんを描かせて下さい』って言われちゃってさー。あっはっは、参ったなー。人気者は辛いやー」「・・・ギル、お前真実を言うべきだと思うか?」「・・・甲賀、こういう言葉がある。『知らぬが仏』」「・・・ギル様、これはアレでしょうか。『ほっとけ』ってことでしょうか」「・・・なるほど、仏だけに・・・んぶふっ!」「ああっ、も、申し訳ありませんマスター! どうしても! どうしてもボケずにはいられなくて・・・!」「ん? おーい、三人ともー。何やってんだよ、置いてくぞー?」「・・・そのままバラの世界へ行くならば、私たちは置いて行ってもらったほうが・・・」「・・・やめとけって。俺達は兎も角、華琳たちが悲しむだろ」「・・・ですね」「・・・おい、今言外に『俺達は別に困らないけど』って聞こえたぞ」


それでは、どうぞ。


第七十六話 その出来事は突然に

「わぁっ、これが生まれたばかりの赤ちゃんかぁ・・・」

 

月さんの様子を見に医務室に入ると、床に倒れるお兄様(息はしている)と、その上に座る恋さんの姿。

そして、布に包まれた赤ちゃんを抱きかかえる月さんが、少し疲れた笑みを浮かべていた。

 

「あ、そういえば名前は? 産まれたんだし、もう教えてくれてもいいよね?」

 

「はい。・・・一応、ギルさんともお話して・・・」

 

そう言って、月さんの視線は倒れ伏すお兄様に向かう。

 

「私は、『董卓』の名前を捨てました。でも、ギルさんは何とかその名前を残そうって・・・」

 

「じゃあ、董とか卓とかってつけるの?」

 

「って、思ってたんですけど・・・『菫』って仰っていました」

 

「・・・違う字だよね?」

 

自分の頭の中に、その二つの字を思い浮かべてみる。うん、似てるけど、別の字。

 

「ふふ。ギルさんも、それを分かって言ったんだと思います。捨てたけど、残したい。だから、そのままじゃなくて、似てる字を探してくださったんだと思います」

 

あー、なんとなく分かるかも。

 

「それに、菫は春に咲く花ですから。予定日を聞いてから、ずっと考えていたそうですよ」

 

「そっかー。・・・菫ちゃん、だねー」

 

そう言って、たんぽぽは静かに赤ちゃん・・・菫ちゃんの頭をなでる。

わわ、なんか不思議な感触・・・。

 

「あ、そろそろお兄様起こさないと」

 

「そうですね。菫、お父さんにも挨拶しましょうね」

 

恋さんがお兄様の上から降りて、ゆさゆさと身体を揺らす。

 

「う、うぅん・・・はっ、月っ!」

 

「お兄様、おはよ。あと、しーっ。落ち着かないと、赤ちゃんまた泣いちゃうよ」

 

「お、っとと、そ、そうだな。・・・おぉ、その子が」

 

「はい。私たちの、娘ですよ」

 

そうかそうか、とおっかなびっくり頭をなでるお兄様。ふふ、赤ちゃんなでるの緊張するよねー。

 

・・・

 

何とか無事に赤ん坊の出産に成功した月を労い、名前のことなんかを話していると、後ろがなにやら騒がしい。

 

「? どうした?」

 

「ふぇ? あ、紫苑さんがね、ちょっと席を外しますって」

 

「そっか。あ、華佗、それに皆、お世話になりました」

 

そう言って、一礼。産婆さんたちや、白蓮たちには走り回ってもらっちゃったしな。

皆いいよいいよ、と笑顔で返してくれた。産婆さんなんかは、『あのギル様のお子を取り上げたなんて、家族に自慢できる』とまで言ってくれた。

 

「俺もいい経験になった! これで、妊婦が産気づいたときに適切な鍼治療が出来るな!」

 

「・・・鍼治療なのは変わらないんだ」

 

華佗のブレ無さに苦笑い。そんな風に和やかに話をしていると、戻ってきた紫苑が華佗になにやら耳打ち。

 

「む? ・・・ああ、分かった。すまない、少し席を外す」

 

「? 紫苑、どうした? 調子でも悪いのか?」

 

俺の疑問に、紫苑は「華佗さんに確認してもらってから、お話します」と何時も通りの柔らかい笑みを浮かべる。

紫苑がそういうのなら、と再び産婆さんたちに向き直り、これからの注意事項なんかを聞いておく。

・・・ふむ、後で紫苑にも話を聞くとしよう。経験者の、実践的なアドバイスが聞けることだろうし。

そんなこんなでしばらく話を聞いていると、医務室の扉が開く。

二人が帰ってきたのか、と振り向くと、そこには翠と桔梗の姿が。

 

「どうした、二人とも」

 

「んや、桔梗が気分悪いって言うから・・・一応念のため見てもらおうと・・・おおっ、月っ、産まれたんだなっ」

 

「む? ・・・おお、やや子か! やりおったな、月!」

 

祝いの言葉をかけてくれる二人に返事をしつつ、気分が悪いという桔梗を月の隣の寝台へ。

そういえば、翠がつれてきたということは今日は桔梗と紫苑が一緒に部隊の訓練だったのか。

 

「急に気分が悪くなるなんてな。桔梗、二日酔いとかじゃないよな?」

 

「何を馬鹿なことを。酔ったギルとでなければ、このワシが二日酔いになどなるわけなかろう」

 

そう言いながら、桔梗はにやりと不敵に笑う。

 

「水でも飲むか? 薬は・・・ええと、二日酔いの薬にしておくか」

 

「翠、水だけでよい。二日酔いならワシは頭痛があるはずじゃしな。今のところそれも無い。・・・大方、何かに当たっただけだろうに」

 

「それはそれで大変な気も・・・ほらよ、水」

 

翠から水を受け取り、ぐいっと一気に飲み干す桔梗。

産婆さんを見送り、華佗たち遅いなー、と話しつつ産まれた子・・・菫を皆で可愛がる。

 

「うぅむ・・・誰かおるかの」

 

「あれ? 祭?」

 

「む? ギルたちではないか。何を大勢集まって・・・おおっ!? そのやや子はもしや・・・」

 

「へぅ。はい、先ほど無事、産まれたんですよ」

 

「それはめでたいのぅ。儂の気分の悪さも吹き飛ぶわ」

 

「祭も何か体調不良?」

 

なにやらいつも以上にしかめっ面の祭が、おおそうじゃ、と思い出したように手を叩く。

 

「今日もさぼ・・・休憩中に酒を飲んでいたんじゃがの。なにやら不味く感じてなぁ」

 

「え、なんか変なもの入ってるんじゃ・・・」

 

「ま、無いとは言えんからの。一応見てもらいに来たのじゃが・・・またの機会にしたほうがよさそうじゃの」

 

「まぁまぁ、取り敢えずは撫でてってやってくれよ。菫って名付けたんだが」

 

「菫、か。なるほどの。良い名じゃ」

 

そう言って、慈母と言って差し支えない表情で、祭は菫の頭を撫でた。

 

「戻ったぞ、ギル・・・っと、他にも色々増えてるな」

 

「ただいま戻りましたわ。・・・ってあら、祭、桔梗。どうしたの?」

 

「む、紫苑、お前こそ」

 

「私は月ちゃんのお手伝いよ。経験者として、ね」

 

「なるほどの。・・・? 華佗、どうした?」

 

祭の言葉に、全員が華佗のほうを向く。

華佗はなにやら難しい顔をして、うんうん唸っている。

そんな華佗を見て、紫苑は何かを悟ったらしい。にこりと笑って俺のそばへ。

 

「お、お? どうした、紫苑。そんな嬉しそうな顔をして」

 

「いえいえ。おめでたいことがありましたので、嬉しい顔をしているんですよ。・・・華佗さん、桔梗と祭もですよね?」

 

「ん、あ、ああ。・・・なんというか、凄いな、ギル」

 

「え? 何が? 何この疎外感。どういうこと?」

 

紫苑のいう『おめでたいこと』というのが、月のことではないような言い方だな・・・。

そう思っていると、紫苑が口を開く。

 

「私と、桔梗と、祭さん。三人とも、身篭ったようです」

 

「へー・・・三人かぁ」

 

「おめでたいねー」

 

「へぅ、おめでとうございます」

 

「おめでとー」

 

口々に皆から祝いの言葉が出てきて・・・って。

 

「はぁっ!? 身篭ったぁっ!?」

 

「嘘ッ! 三人同時っ!?」

 

「し、信じられない・・・!」

 

「おめでたいけど・・・だっ、大丈夫なの!?」

 

先ほどの冷静な反応はどうしたことか、医務室は阿鼻叫喚・・・とまではいかないが、それなりに混沌としてきた。

って言うか、三人同時っ!? マジで!?

 

「本当かよ、華佗っ!」

 

「嘘を言うわけ無いだろ。・・・ちなみに、三人とも同じ日に宿しているみたいだぞ」

 

しらーっとした視線に射抜かれる。・・・い、いや、ほら、大体三人いるときに襲われたり襲ったりするし・・・。

脳内で言い訳はしてみるものの、まぁ、アレだけしてれば出来るよなぁと思い直す。・・・最近は妊娠ラッシュなのだろうか。

これは、うちに専任で産婆さんを常駐させておくべきだろうか。相談役みたいな感じで。華佗にもちょっと滞在してもらおうかな。

 

「え、じゃあ三人とも同じ日が予定日?」

 

「個人差もあるだろうがな」

 

・・・こうして、どたばた騒ぎにはなったものの、『月、無事に出産』と『三人の妊娠発覚』の報はその日のうちに町に広がっていった。

 

・・・

 

「お、ギル。・・・その、おめでとう」

 

「ああ、ありがとう。・・・大丈夫だって。今回は暴れたりしないから」

 

「そうしてくれると嬉しいがな。うちのランサーが、お前を視界に入れるたびに強張るんだよ」

 

菫が生まれて数日後。いつものように甲賀の家に遊びに来て、二人から祝福される。

ちなみに、俺を見ると緊張を見せるというランサーは、お茶を淹れている最中で席を外している。

 

「いやー、出産当日に妊娠発覚・・・幸運が変な方向に働いてるのかね?」

 

「どうだろうな。神様に贈り物した辺りから妙にそういう関係の事が多くなってきた気もするし・・・」

 

「ああ、生命の神だったか。・・・絶対それが原因だろうな」

 

うんうんと頷く甲賀。

・・・今日あたり、ちょっと会いにいってみるか。

おーい、神様ー。今日の夜行くぞー。・・・どうだろう。届いたんだろうか。

 

「お待たせしました。お茶がはいりましたよ」

 

そう言って、ランサーが部屋に戻ってきた。

ここに来た当初は俺を見てリアリティショックを受けていたのだが、今は大分和らいだようだ。

 

「というか、次も大変だろうな、貴様も」

 

「ん? まぁ、三人同時って確かに大変だけど、まぁそれ以上に嬉しいことだしね」

 

「・・・ああ、いや、めでたいのは確かなんだが・・・」

 

「あ、甲賀、それもしかして町の人の話か?」

 

「ああ、北郷貴様も聞いていたか」

 

だな、と二人で目を合わせ頷く。

首をかしげていると、ため息をついて甲賀が詳しく説明してくれる。

 

「いや、お前ロリコン疑惑掛かってたろ」

 

「ああ、そういえばそんなことも」

 

「・・・次は熟女好き疑惑が・・・」

 

「・・・あ、ああっ!」

 

「お前身ごもらせる女が極端すぎるんだよ。何人か同年代の問題なさそうなのいるだろ。蜀の国主辺りとか」

 

「おい甲賀。そういうこと言うと、次は鈴々ちゃんあたり身ごもらせるぞ、ギルは」

 

「・・・こいつ無敵か」

 

何で俺こいつらからこんなディスられてんだろ。

 

「俺だって狙ってやってるわけじゃないんだって。ほら、たまたま。たまたまなんだって」

 

「たまたまで熟女組三人同時妊娠とかお前偶然舐めてんの?」

 

甲賀がジトリとした視線をこちらに向けてくる。

いや、そんな謗りを受けるようなことしてないから、俺。

 

「ほら、俺幸運半端じゃないから。パナイから」

 

「ギルが若者言葉・・・っつーかギャル言葉使うとか無いわ。違和感バリバリ」

 

「はぁ? ナウなヤングにバカウケだってーの」

 

「・・・それ、俺の時代ですら死語だったぞ」

 

え、うそ、マジで? あれー?

 

「これで意外と年増な女の卑弥呼とか響だとか、ミレニアムババァの迦具夜とか妊娠させたら、お前熟女キラーの名を恣に出来るぞ」

 

「ちなみに意外と低年齢な壱与ちゃんとか人和ちゃんあたりだと、ロリコンの称号が手に入るぞ。実績解除は近いな!」

 

「残念ながら俺はトロフィー派だ。あぁ、後は呉のトップ二人とかな。そういえば国王のほうには手を出したらしいが、あの黒髪には手を出したのか?」

 

「黒髪? ・・・ええと、冥琳?」

 

「ああ、そうそう。そんな名前」

 

「いや、冥琳はそういう気・・・ない、とは言い切れないけど、まだそういう関係にはなってないよ」

 

以前『私がお前の血を継いだ子を産むのも良いかもな』とか言ってたからドキドキしてるにはしてるけど。

後霞とかが最近べったりくっ付いてくる気がする。あの紫苑たち飲兵衛組と飲んでるときとか、星と霞はいつの間にか隣にいるからなぁ。

 

「ほう。・・・ちなみに、調べさせた資料によると・・・あぁ」

 

手元の資料を見ながら、諦めたようなため息をつく甲賀。

 

「っていうか、今は生まれた菫のことだよっ」

 

「ああ、予想はしてたが、親馬鹿になったか」

 

「そんなもんじゃないか? こいつの場合は、それが家庭に収まらない規模だったってだけで」

 

ちなみに、名前は月も納得済みである。

 

「名前は真名か、それ」

 

「ああ。というより、真名以外は考えていなかったというのが正しい」

 

「親としては正しくないけどな、それ」

 

「・・・いや、ほら、真名だけ呼ぶような生活してるとさ」

 

「まぁ、確かになぁ。しすたぁずなんか、真名でアイドル活動してるし。普通そこは芸名か何かつけるところじゃないのか」

 

一刀の言うとおり、天和たちはファンに真名を呼ばせていたりしているし、月や詠は『董卓』や『賈駆』と言う名を捨てて真名のみで生活している。

軽々しく他人には呼ばせない、と言うのは確かにあるだろうが、真名だけでも生活できないことは無いのだ。

 

「劉備って言うと俺の中じゃもうセイバーのイメージだしな」

 

「ああ、そういえばそうだった」

 

「それに、最近だと真名呼んでも即『打ち首だっ!』とはならないしな。・・・華琳とかその周辺以外は」

 

華琳とか春蘭、後桂花あたりは凄まじいぞぉ。うっかり知らない人間が口にしようものなら、獲物が手にある状態だと首が飛ぶからな。言葉どおりに。

・・・最近はそういう物騒なものは持ち歩かないようになったから、精々反省させられるだけにはなってるけど。そういう意味では、全員柔らかい態度にはなってるようだ。

 

「そういえば、この四人の中で唯一明確に名字があるのは北郷だけだな」

 

「・・・確かに」

 

甲賀は『名は捨てた』と言って、元々の名前は教えてくれないし、ランサーは『大日本帝国兵』の集合体だ。

俺も名前は『ギルガメッシュ』もしくは『ギル』になってるし・・・。

 

「名字は作るべきかなー」

 

「無理に俺達で作らなくても良いだろう。歴史の流れというものもある」

 

「だな。でもまぁ、もしつけるなら日本の名字が良いかなぁ」

 

なんと言っても、日本人だしさ、俺。

 

「まぁ、俺もいつかは日本に戻って拠点を作るつもりだし、そのときに『甲賀』を名字として広めてみようとも思っている」

 

「あ、それずりぃ! 俺も『北郷』って広めよっと!」

 

「え、じゃあ俺どうすりゃいいの。『ギル』って当て字でも漢字に出来ないんだけど」

 

「・・・『義流』?」

 

「そんな帰化したサッカー選手みたいな」

 

仕方ない。ここはこの体の元ネタにのっとって、『遠坂』とか広めようかな。

 

「ま、時間が空いたら菫に会いにきてくれよ。まだ後宮にいるからさ」

 

「ふむ、そうだな。余りここを離れられんが・・・ランサーの複製を何人か置いていけばいけるか」

 

「ギル殿のご息女ですか。何を持って見舞いに行くべきか・・・」

 

ふぅむ、と深く悩み始めるランサー。

 

「玩具でも作ってみるか。服は編んだりしてたんだろ? ダブるのはよろしくないしな」

 

「えー、じゃあ俺どうしよ。・・・現代だったらもうちょい選択肢あったんだけどな」

 

甲賀の言葉に、一刀が苦笑気味に呟く。

 

「別に物じゃなくてもいいさ。おめでとうと声を掛けてあげれば、月も喜ぶだろうし」

 

「ギルもそうだけど、月ちゃんも優しいからなぁ。確かにそれだけでも喜んではくれるだろうけど・・・」

 

やっぱり何かしらの形として祝ってやりたい、とか思ってくれているんだろうか。

それはそれで、もちろん嬉しいが・・・。まぁ、無理強いはしないよ、もちろんな。

 

「さて、それじゃあそろそろお暇するかな」

 

「む、もうこんな時間か。後宮には近々顔を出す予定だから、話は通しておいてくれ」

 

「おう。基本自動人形たちが門番から何から全部やってるし、甲賀の顔は分かると思うけど・・・一応伝えておくな」

 

「ああ、頼んだ」

 

甲賀とランサーに礼を言い、俺と一刀は町へ。

さて、仕事を終わらせにいくかなー。

 

・・・

 

「・・・ようやくたどり着いた・・・」

 

甲賀の家から出た後、更に一刀と分かれて一人で町を歩いていると、凄まじい数の住人に囲まれた。

まず通行人に話しかけられ、その話し声を聞いた人たちが家や店から出てきて取り囲まれて・・・といったように、数百人単位で囲まれた。

兵士達も集まってきたので助けに来てくれたのかと期待したのだが、住人達に混ざって俺を取り囲みやがった。

顔は覚えたので、後で何かしらの嫌がらせをしてやろうと思う。具体的には訓練内容に恋とか翠とかをぶっ込むだけだ。地獄を見せてやろう。

 

「おーっす。遅れてすまん」

 

「あ、ギルしゃんっ! あわ、噛んじゃった・・・」

 

「お、雛里。久しぶりな気がする」

 

「そですね。朱里ちゃんは二日くらい前にお会いしたと言ってましたけど・・・」

 

「ああ、うん。朱里とは五日位前に仕事一緒になってな。それから三日位ずっと一緒だったぞ」

 

確か住民管理の書類整理だったはずだけど、ほんとパソコンとか欲しくなるよな。

一人一人の戸籍とかの管理が書簡だから一人を確認するのに時間が掛かりすぎる。

ちょっと朱里に無理をさせて、また目の下にクマを作らせてしまったし。今度何か労わろうとは思っている。

 

「あ、あと、えと、おめでとうございます」

 

「ん? ああ、紫苑たちの?」

 

「はいっ。えと、私も早くギルさんの子供を身篭れるように、頑張りましゅっ!」

 

帽子を深く被りながら、耳まで赤く染めて雛里が大声で叫ぶようにそう言った。

勢いに押され、「お、おう」としか返せなかったが、俺は多分悪くない。

・・・まぁ、可能性的にはさっき話題に出た朱里のほうが高いんじゃないかなー。三日間仕事以外ではアレだったし。

なので、クマの原因の半分以上は俺にあるのだ。・・・いやほんと、反省はしてないけど、ごめんな、朱里。

 

「ま、まぁ、ほら、急いで作るもんじゃないだろ? 慌てなくても、雛里のこと蔑ろにしたりしないからさ」

 

椅子に座り、雛里を手招きして膝の上へ。

照れつつも、素直に膝の上に乗ってくれる雛里を撫でつつ、仕事まで少し時間もあるので、まったりとリラックスすることに。

最初はやっぱり身体を強張らせていたが、しばらくすると帽子を脱いでこちらに背中を預けてくれた。

 

「・・・ギルしゃ・・・えと、ギルさん」

 

「ん?」

 

「・・・いつも、ありがとうございます」

 

「どうした、急に改まって」

 

「えと、私も・・・朱里ちゃんもそうなんですけど、いっつも噛んだりとか、お話に慣れるまで時間が掛かったりとか・・・」

 

指先をツンツンと合わせながらも、一生懸命話してくれる雛里。

 

「そんな私たちに、いっつも呆れないで最後までお話聞いてくれたり・・・お優しいギルさんが、だ、だいしっ、大好き、でしゅ。・・・あわ、肝心なところで・・・」

 

「はは、雛里らしいよ。・・・俺こそ、いつも和ませてもらってるよ。ありがとな」

 

そう言って、雛里の薄い灰色の髪を梳く様に撫でる。

・・・ああ、そういえばなんか違和感あると思ったら、今日雛里髪下ろしてるな。

 

「・・・あ、あの、お、お仕事の時間ですねっ。わ、私、降りますっ」

 

撫でられる恥ずかしさが頂点に達したのか、雛里が慌てた様子で俺の膝の上から降り、帽子を取って被る。

 

「あぁ、残念。後で沢山撫でてやるからな」

 

「あわわっ・・・! え、えと、は、はいっ。是非っ」

 

目元を帽子で隠しながら、高速でコクコクと頷く雛里に笑いかけながら、仕事の準備。

さ、今日は雛里を存分に撫でるというご褒美があるし、仕事も頑張れそうだ。

 

・・・

 

「あれ? たいしょー一人ですか?」

 

「ん? ああ、隊長か。久しぶりだな」

 

「ですねー。・・・何やってるんですか?」

 

「一人神経衰弱。五十二枚が十セット」

 

ぺらり、と話しながらも一枚捲る。

部屋一杯に敷き詰められたトランプは、かなりの数になる。

 

「・・・それガチで神経すり減らして衰弱する奴じゃないですか。一人遊びの究極形に近いですよ・・・」

 

セルフで拷問でも受けてるんです? と失礼なことを真顔で言う隊長に苦笑いを返しつつ、また一枚。

 

「楽しいです?」

 

「楽しい表情に見えるか?」

 

「まぁ、ニコニコしてますから、楽しいんでしょうね」

 

「ああ、楽しいとも。規定の手数で全部取れれば、隊長に罰ゲーム受けさせることにしてるから」

 

「はえっ!? 私なんかしました!?」

 

何時も通りの焦った表情で突っ込みを入れてくる隊長。

うんうん、この反応が欲しかった。・・・罰ゲーム云々はとっさに思いついたものだったので受けさせる気はないが。

 

「しっぺ!? しっぺですか!?」

 

「いや、これを両目に張ってもらう」

 

「? 文字? ・・・ええと、こっちが『提』でこっちが『供』?」

 

「世の中には『提供目』というのがあってな」

 

「?」

 

俺の渡したシールを持ちながら、小首を傾げる隊長に、それもそうか、と一人頷く。

 

「・・・いや、通じないなら良いんだ。兎に角、それつけて一刀と甲賀の前でポーズ取ってもらうから」

 

「ん? んー・・・なんというか、いつもの罰ゲームより柔らかいですね・・・」

 

理不尽な理由で罰ゲームを受けることにはすでに疑問を持たなくなってるあたり、大分染まってきてるよなぁ、と苦笑い。

まぁ、見る人が見れば屈辱的な罰ゲームだと分かるのだが・・・まぁ、隊長には今更か。

 

「っと、これで全部だ」

 

「うわ、マジでやりきったんですか」

 

「というわけで、これはあげるよ」

 

「・・・え? ポーズは・・・」

 

「いや、別に強制しないから、好きなように使ってくれよ」

 

「そ、そですか。・・・えと、貰っておきます」

 

とても納得してなさそうな顔をして、隊長は俺から提供シールを受け取る。

あ、受け取るには受け取るんだ。

 

「そういえば、ずっと一人だったんですか?」

 

「んや、さっきまで雛里と一緒だったけど、今は風呂じゃないかな」

 

「あっ・・・」

 

どうも語尾に(察し)とついているようだ。そんな雰囲気を隊長から感じる。

 

「ま、終わったんならちょーどいいです。お出かけしません?」

 

「おう、いいよ。・・・っと」

 

トランプを宝物庫に戻し、よっこいしょと立ち上がる。

俺の手にまとわりついて、ぎゅむ、と抱きつく隊長。

 

「どうした、今日はやけに甘えてくるな」

 

「えへへー、だってだって、お久しぶりですしっ」

 

「お、おう。・・・テンションがいつもと違って高いなぁ」

 

「ふぇ? 何か言いました?」

 

「いいや、何も。・・・む」

 

「あ・・・」

 

「ギールーさーまーっ! ・・・ちっ、ぐやも居んのか」

 

「・・・あのぉ、私ナチュラルに『ぐや』呼びされてるんですけど、壱与さんって私のこと好きなんですか?」

 

「あ?」

 

こてん、とあざとく壱与に話しかけるも、その一言が癇に障ったのか、壱与が濁点でもつきそうなほどの見事な恫喝を見せる。

 

「ひぃっ、ごめんなさいごめんなさいっ」

 

「メンタル弱いな。謝るなら煽るなよ」

 

素早く俺の後ろに隠れた隊長が、カタカタ震え始める。

 

「・・・まぁ、壱与も隊長のこと意外と好きだと思うぞ。ほら、好きな子ほどいじめたくなるって言うだろ?」

 

「いえ、普通に嫌い・・・じゃなくて、憎んでますけど」

 

「くぅ、大将はキマシタワーを見たいんですか? ・・・凄く気が進まないんですけど、壱与さんと手を繋ぐぐらいなら何とか・・・」

 

「そしたら壱与はぐやの両腕を切り落としますね。わぁっ、これでおててが繋げませんわね! やったぁっ」

 

「なんですかこのクレイジーサイコマゾ! 危険思想過ぎません!?」

 

とても嬉しそうに手を叩いて喜ぶ壱与に、隊長が指差しながら突っ込みをいれ、必死に俺に訴えてくる。

 

「あ、大丈夫大丈夫。薔薇の花も百合の花も興味ないから、二人とも落ち着けって」

 

壱与の頭をわしゃわしゃと撫でて、取り合えず隊長とは反対の側につれて歩く。

二人が出会うとこうなるのでもう対応も慣れたものだ。

 

「あ、そういえば菫ちゃん・・・でしたっけ? 大将の娘さん、見に行きたいですっ」

 

「ですねっ。壱与も『祝』のお化粧してきましたからっ!」

 

「ああ、やっぱりいつもと違うと思ったら、化粧が違ったのか」

 

「はいっ。もうこのお化粧、卑弥呼様の『憩』のお化粧と同じくらい面倒なので、ホント特別なときにしかやんないんですよぉ」

 

「そこまで気持ちを込めてくれるのは嬉しいよ」

 

「でもっ、壱与は祝うだけで満足する女じゃないですからねっ。絶対ぜーったい! ギル様のお子をこの身に・・・!」

 

ぐっ、と拳を握って熱く語る壱与。

そういえばナチュラルに後宮に向かってるけど、月たちいるだろうか。

天気もいいし、こういうときは自動人形をつれて散歩でもしていそうだが・・・。まぁ、いけば分かるか。

 

「いっ、今からでも、壱与は全く構いませんからねっ!?」

 

「おう、大丈夫大丈夫。後でやるから」

 

「焦らされるのですねっ!?」

 

「んー・・・ま、そんなもんかなー」

 

「ああっ、そんな冷たくあしらわれたら、壱与、逆に熱くなっちゃいますっ!」

 

「いやー、壱与のそういう素直なところ、かなり好きだよ」

 

「ふ、ふえっ・・・?」

 

声を掛けると、壱与が顔を真っ赤にして沈黙する。

お、こういう乙女な反応は珍しいな。

 

「あ、あの、えと・・・い、壱与も、ギル様のこと、愛しております・・・よ?」

 

「あはは、ありがと」

 

そう言って笑いかけると、壱与は顔を赤くしたまま、俯いてしまった。

おっほう、この壱与、可愛いぞ。何だこいつ。ほんとに壱与か? と思うくらいである。

 

「うわぁ、乙女チックな壱与さんとか、さぶいぼ出るんですけど」

 

「・・・月の無い夜は気をつけなさい」

 

「うひぃっ! な、何で聞こえてるんですっ!?」

 

「意外と突発性難聴の子っていないから、気をつけたほうが良いぞ、隊長」

 

・・・

 

「お、いたいた。おーい、月ー」

 

「はい? あ、ギルさんっ。・・・菫、お父さんですよー」

 

「あー!」

 

月の腕の中で、元気に腕を揚げる菫。・・・おお、もうそんな元気になったか。

 

「おっほう・・・これが・・・これがギル様のお子・・・!」

 

壱与がにじりにじりと月たちに近づいていく。

 

「あ、取り合えずおめでとうございます」

 

「ど、どうも・・・?」

 

「さっ、触っても?」

 

「・・・強すぎなければ」

 

「ふぉぉ・・・き、緊張するぅ・・・」

 

ぷるぷると人差し指で菫の頬をつつく壱与。

言われたとおり、力は全く篭っていないようだ。・・・まぁ、壱与の力だとカブトムシにも負けるほどだからな。

ふに、ふに、と菫の頬が壱与につつかれてへこむ。

 

「あー・・・あー・・・?」

 

つつかれつつも、なにやら不思議な顔をして壱与の指を掴む菫。

 

「お、おおうっ? つ、掴まりましたっ。え、え、振りほどけないんですけどっ!?」

 

「赤ん坊より力ないのか、壱与・・・」

 

菫の指を解こうと壱与が奮闘しているが、一本も外せていないようだ。

 

「魔法を使えば非力さなんて気になりませんものっ。怪力な姫なんて人間じゃありませんわっ」

 

「何でいきなり私のことディスってんですかねぇ、この非力王女。略してひりキングダム王女は」

 

なんだその略されてない上に建国後一年で滅亡しそうな。

 

「あぁ?」

 

「おぅ?」

 

がっつんと額をぶつけ合いながら、お互いに睨み合う壱与と隊長。

お互いに青筋が浮かんでいるので、まぁガチギレなのだろう。

 

「こらこら、赤ん坊がいるところで喧嘩するんじゃない」

 

そう言って、二人を無理矢理離す。

 

「あうっ。そ、そうでした。『祝』の化粧は争いをしてはいけない化粧・・・むぅ。後でぶちのめしますわ、化け物女」

 

「はぁ? 菫ちゃんに免じて見逃してやるっつってる大将の優しさがわかんないの? 腕力だけじゃなくて知力も貧弱なの?」

 

「だからやめんかこの」

 

再び引き離して、菫が手を離さない壱与ではなく、隊長を持ち上げる。

これなら喧嘩もできんだろ、と思ったのだ。そして、菫はそれを不思議そうに見つめている。

 

「あー、う?」

 

「うぅ・・・壱与、ギル様と他の女の間に産まれた子供とか絶対好きになれないと思っておりましたが・・・可愛いものですねぇ」

 

おおよしよし、とでれでれとした顔で菫を撫でる壱与。

なんという様変わり。これがクレイジーサイコマゾと呼ばれたあの壱与なのである。

 

「おー? あいっ!」

 

「わ、笑った! 笑いましたよギル様っ。ふへへぇ・・・」

 

「うわ、キャラ違いすぎませんか、壱与さん・・・?」

 

「言うな。ま、きちんと人並みの感情を持っていたってことだろ」

 

「・・・人を好きになる心を持ってるんですから、どんなに変態でも人並みの感情は持ってるのは知ってますよ」

 

ぼそり、と隊長が微笑みながら言った。いつものドヤ笑いではなく、なんと言うか、落ち着いた笑みだ。

 

「おや。壱与のことは嫌いなんじゃないのか?」

 

「苦手ですけど、こんな私の数パーセントも生きてない子を嫌うほど、私も耄碌してませんから」

 

「何だ何だ、隊長も大人になったなぁ」

 

「いっときますけど、地球上の全てと月面上の全て合わせても私より年上って片手で足りますからね? 子ども扱いしないでくださいよ」

 

もう、と頬を膨らませる隊長が、ま、いいんですけど、と言葉をしめる。

 

「それにしても・・・やっぱし赤ちゃんは可愛いですねぇ。壱与さん壱与さん、私も撫でますっ」

 

「渡さない・・・渡さないわっ! この子は壱与の子よっ!」

 

「い、いえ、私の子・・・へ、へぅ・・・」

 

ばばっ、と菫を抱く月の前に飛び出し、隊長をブロックするように両手を広げる壱与。

・・・うん、月は間違ったこと言ってないからもうちょっと堂々としてていいと思うよ?

 

「く、くぅ・・・こ、こうなったら、ここを月面に・・・!」

 

「してどうする。・・・ああもう、月、これ以上騒ぐと悪いだろうから、外に出るな。・・・今度は、一人ずつ連れてくる」

 

「ふふ、はい、分かりました」

 

二人の首根っこを掴み、有無を言わさず外に出る。

 

「ほら、菫、ばいばーい、って」

 

「あいあー」

 

背中にかけられる二人の声に、少しだけ苦笑い。

ホント、申し訳ない。

 

・・・




「さて、甲賀の家からだと城まではどっちが近いかな」「あっちの路地抜けて大通りに出るのが一番じゃないか?」「じゃ、そうするか・・・って、ん?」「あっ、ギル様じゃありませんか! このたびはおめでとうございます!」「ああ、ありがと。悪いけど、仕事あって急ぐから・・・」「おーい! ギル様がいらっしゃったぞー!」「は、ちょ、待て主人。急いでいると・・・」「おおっ、本当だ、ギル様だっ!」「おめでとうございます!」「ああ、分かった、分かったから取り合えず城に・・・」「ギル様だぞー! ギル様がいらっしゃったぞー!」「このっ、ワザと呼んでるだろ、主人っ!」「ギル様っ」「ああ、お前達か。丁度いいところに。ちょっと城へ戻りたいんだけど・・・」「ギル様! この度は本当に、おめでとうございますっ」「兵士だろお前らっ。俺の要望少しは聞いてくれない!?」「あ、そうだギル様。私の姉なのですが、いい年をしていまだ独り身で・・・少々年は行っていますが、いかがでしょう!?」「姉!? 姉の話今必要か!? この状況良く考えてみ!?」「私の母はどうでしょう! 父を亡くし、女手一人で私を育ててくれた、黄忠様のような母なのですが!」「母!? 未亡人!? その話本当に今必要かな!? ちょ、縁談は良いから、取り合えず通して・・・」「私の叔母は如何でしょうか! 年齢の割りに幼く見えるということで、ギル様の欲求を両面から満たせるかと!」「取り合えず俺に縁談持ちかけてくる奴後で絶対ひっ捕らえるからな! 後逃げた一刀、お前もだ!」


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