真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「現代では決闘って法律違反じゃん?」「だな。『決闘するぞ!』『おう!』で両方しょっ引かれるからな。役に立つ法律だった」「・・・役に立つ・・・?」「ギル様の腹黒エピソードですか。だいぶ聞き飽きましたけど」「まぁ、現代話の九割が幼馴染とのイチャラブだからな。もげろ」「何で俺最近冷たくされてるんだろう」「もげてください」「・・・ランサーの恨みも相当買ってるな、俺」

それでは、どうぞ。


第七十二話 彼女と決闘に

「というわけで、今日から迦具夜を隊長へ。白蓮を副長へ据えて、この遊撃隊は活動していくことになる」

 

「はぁっ!? ちょ、聞いてないですたいちょー!」

 

「言ってないからな。ちなみにそれに伴ってこの部隊の名前も『ギル遊撃隊』から『迦具夜遊撃隊』へと・・・」

 

「はっ、反対! はんたーい! 私の名前を使わないでください! ちょさっけん違反です!」

 

「著作権というよりは個人情報だろうが・・・ふぅむ、そうなると名前をどうするかな」

 

まぁ、今までも『遊撃隊』と言っていたので、別に名前はつけなくてもいいんだけど。

遊撃隊はこの俺の部隊しかいないわけだし。この三国の部隊というよりは、俺の私設部隊みたいなものだしな。

 

「なら、私に提案があります~」

 

「じゃあ、七乃!」

 

挙手した七乃を指名すると、返事をしながらすくっと立ち上がる。

 

「はい~。この部隊はご主人様の部隊だったわけですよね? でも、ご主人様は部隊長を迦具夜さんに譲り、それに伴って名前も『ギル遊撃隊』ではダメ、と。お間違いないですか?」

 

「ああ、その理解で間違いない」

 

「でしたら、名前を使わない代わり、ご主人様の特徴とか、何かそういうものを名前につければ良いんですよぉ。例えば・・・そう、『黄金』とか~?」

 

「・・・なるほど。良い案ではあるな」

 

ならば、皆から何か案がないかを聞いてみるか。

ちなみに、ここは大会議室。副長や七乃はもちろん、白蓮や華雄、猪々子に斗詩などの武将、後はそれぞれの班の班長も出席している。

いまだ隊長職ではあるので、俺がこうして前に出て会議の司会進行を勤めているが、これも副長・・・迦具夜の仕事になるだろう。

 

「じゃあ、新しい部隊名に何か案があれば、挙手してくれ」

 

「はいっ! はーいっ! 私っ! 私に案がありますっ!」

 

「じゃあ、迦具夜以外で」

 

「何でっ!?」

 

「では、はい~」

 

「よし、七乃」

 

「はい。ええと、先ほども言ったんですけれど・・・『黄金遊撃隊』というのはどうでしょうか~」

 

『黄金遊撃隊』・・・そこはかとなく麗羽を思い浮かべる部隊名だな。

悪くは無いけども。確かに俺といえば黄金の鎧だしな。

 

「後は無いか? まぁ、別に部隊名なんて何でも良いしな。特別呼ぶことも無いだろうし」

 

「それは無いですっ! 後世に隊長がいた部隊のお話をしないでどうするんですかっ! 名前というのはその最たるものですよっ!?」

 

「迦具夜・・・お前・・・」

 

「たいちょぉう・・・」

 

瞳をうるうるとさせた副長と見つめあい、俺は――。

 

「後でしっぺな」

 

――取り合えず、後で罰を与えることにした。

 

「今感動のシーンじゃなかったです!?」

 

こんなの絶対おかしいよ、と絶望し始めた副長を取り合えず放っておいて、他の人間に視線を飛ばす。

はーいっ、と手が上がったので、猪々子を起立させる。

 

「あたいは遊撃隊ってとこから変えたほうがいいと思うな。あたいが考えたのは、その名も! 『絶対無敵史上最強精鋭部隊』!」

 

「カッコイイ言葉並べただけだな。却下。・・・といいたいところだけど、『遊撃隊』のところから変えるというのは良い案だな」

 

最前列にいた猪々子の頭をくしゃくしゃと撫でる。

猪々子はさばさばとしているボーイッシュな子なので、こうして乱暴に撫でても喜んでくれる。

璃々や鈴々とは別に意味で、『撫でて素直に喜んでくれる』という貴重な子である。

 

「私もその案に賛成です~。遊撃隊では、どうしてもフラフラしている感が否めませんから~」

 

「ですか。なら、隊長の腰の軽さを意味して、『機動部隊』というのはどうでしょう」

 

「お、いいな。ほぼ同じ意味だけど、言い方を変えるとそれっぽくなる」

 

「それに七乃さんの案をあわせて、『黄金機動部隊』、とかですかね?」

 

七乃を初めとして、武将や班長が思い思いに話を膨らませていく。

確か俺の遊撃隊の人数は増えに増えて一万人ほどになっていたはずだから、班長もそれなりの人数になる。

武器だとか得意分野に合わせて適当に割り振っただけだから班の人数もばらばらだけどな。

・・・そうだな、この際だし後でランサーのところに顔を出して軍事知識を貸してもらおう。

なんとか旅団とか、何とか連隊とかは聞いたことあるけどどういうものかは知らないし。

流石にこの知識は『一般常識』ではなかったのか、聖杯からの知識にも無かったしな。

 

「ま、それでいいだろ。というわけで、本日よりこの部隊は『黄金機動部隊』と名前を変えることにする。・・・なんか改めて考えると恥ずかしいな」

 

まぁ、正式名称がそうというだけで、呼ぶときは普通に『機動部隊』とかって呼ぶんだろうけど。

 

「ああ、ちなみになれないなら『遊撃隊』と呼んでも構わん。さっきも言ったけど、ほぼおんなじ意味だから」

 

総員の了解の返事を受け、よし、と話を締める。

 

「それで、これからは副長・・・じゃなく。迦具夜が部隊長に。で、新規加入の白蓮に副長をやってもらおうと思っている」

 

「はいっ! はいはーい! 異議有り!」

 

「俺には無い」

 

「私にはあるんですよっ!?」

 

いい加減泣きそうなので、副長の意見も聞くことに。

 

「冗談だよ。ほら、異議とやらを聞こうじゃないか」

 

「私が部隊長になることに反対ですっ! 隊長が隊長じゃなくなったら私隊長のことなんて呼べばいいんですかっ!」

 

「俺だって副長が副長じゃなくなったら副長のことなんて呼べばいいのか分からんぞ」

 

「そこは隊長って呼んでくださいよ!」

 

「よし、なら隊長になることに問題は無いんだな?」

 

「・・・はっ!?」

 

はめられた、という顔をして副長がこっちを睨む。

 

「というわけで、異議も無いみたいなので・・・」

 

「け、けっとー! けっとーを申し込みます!」

 

「・・・はぁ?」

 

唐突な副長の申し出に、思わずほぼ素の反応が出た。

 

「うぅ、こ、こわぁ・・・。で、でも、負けないもん・・・!」

 

その反応にビビったのか、少し腰が引ける副長。

だが、それでも、副長はこちらを見据えて続けた。

 

「決闘を申し込みます!」

 

「・・・いいだろう。訓練場・・・いや、町から離れた荒野にいくぞ」

 

「は、はいっ!」

 

・・・

 

副長には先に目的地に向かってもらい、俺は月に心配かけるまいと後宮へときていた。

 

「まぁ。じゃあ、副長さんがギルさんと?」

 

「ああ。もしかしたら宝具とか使うかもだから、びっくりさせないように先に言っておこうと思って」

 

「・・・はい。私は全然大丈夫です。魔力も余裕ありますし、体調も万全です」

 

「ん。問題あったら念話な。すぐ止めて戻ってくるから」

 

「ふふ。心配しすぎですよ。・・・でも、ありがとうございます」

 

頬に手を当てて照れる月に笑いかけて、立ち上がる。

 

「さて、久しぶりの全力だな。・・・恋との戦いでもここまでやらなかったかもしれんな」

 

魔力が体を巡る。

落としていたステータス、スキルが全て元に戻る。

もちろん、その余波すら纏め上げているので、傍にいる月を吹っ飛ばすようなへまはしない。

 

「・・・っしゃ、じゃあ準備運動がてら、跳んでみるか」

 

後宮の窓に足をかけ、俺は決闘会場に向けて跳んだ。

 

・・・

 

俺が指定したのは、半径数キロにわたって何もない荒野。

前は中庭で恋と本気出して迷惑掛けたからな。誰にも迷惑掛けないここを選んだ。

そして、ここにいるのは俺と副長だけ。他の人間は、将であっても来ることを禁じた。巻き込まない自信が無いからだ。

土ぼこりをあげながら着地すると、準備を終わらせていた副長が静かに口を開く。

 

「・・・待ってましたよ、たいちょー」

 

「おう、待たせたな」

 

「えっと、決闘といいましたけど・・・勝敗とか、勝ったらどうするとか決めてませんでしたね」

 

「負けを認めるか、気絶するかで負けってことでいいだろ。わざわざ殺しあう必要もない」

 

「了解です。分かりやすいですね。・・・で、もちろん私が勝ったら隊長がこれからも続投ってことでいいんですよね?」

 

「・・・いいや、逆だ。俺が勝てば、隊長を続けよう。俺が負ければ、この座を譲ろう」

 

俺の言葉に、副長は目を剥く。

何を言っているのか、と顔を見ただけでそう思っているのが分かる。

 

「な、何言って・・・そんなこと言ったら、私ワザと負けるに決まってるじゃないですか! ・・・良いんですか?」

 

いつもより少し鋭い瞳で、小首を傾げる副長。

ちょっと怒ってるんだなというのは、それだけで分かる。

彼女の表情については、俺が一番知っているからな。

 

「それでもいい。ワザと負けても、俺は何も言わん。開始一秒で降参したって良い」

 

「・・・しますからね! 私そっこーで降参しますよ!? っていうか今しますよ!?」

 

「良いって言ってるだろ?」

 

別に馬鹿にしているわけじゃない。

本気で、真面目にそう思っている。

部隊を一つ・・・人の命を任せようというのだ。

押し付けるようなことではダメなのだ。

そう心の中で呟きながら副長を見ると、瞳から迷いが消えた。

どうやら、答えが決まったようだ。

 

「・・・で」

 

「ん?」

 

「・・・本気で、行きます」

 

「ああ、分かった」

 

開始の合図である手ごろな石を広い、放り投げる。

アレが地面に落ちたら、開始の合図。

副長は剣と盾を。俺は乖離剣を持ち、静かな緊張感が張り詰める。

そして――石が落ちた。

 

「はっ!」

 

「ふっ!」

 

百メートルは離れていたお互いの距離が、一歩で詰められる。

聖剣の一振りを乖離剣で受け、シールドバッシュを空いた手で抑える。

 

「『王の財宝(ゲートオブバビロン)』」

 

「っ! 防いでっ!」

 

十数本の宝具が副長の構えた盾に殺到する。

 

「まだだっ!」

 

「真上!? あと背後っ!」

 

真上から降り注ぐ宝具を転がって避け、背後からのものはそのまま伏せてやり過ごす。

 

「そこだ! 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!」

 

出の速さを重視して、余りタメずに真名開放。

生み出された竜巻のような風の奔流は、伏せたままの副長に直撃――

 

「『天の羽衣』!」

 

――する前に、散らされてしまった。

 

「衣装を変えます! 『十二単』!」

 

『迦具夜』としての服に変わった副長は、重さをものともしない様子でこちらに浮遊魔術を使って突っ込んでくる。

手には魔力の塊。アレは直撃すれば効きそうだ。

 

「だが、まだおそ・・・!?」

 

「『陣地作成』・・・『擬似月面空間』」

 

乖離剣を振ろうとして気付いた、違和感。そうか、浮遊魔術じゃない、あれはただ跳んだだけ・・・!

陣地作成スキル!? まさか、ここはすでに荒野ではなく・・・!

 

「ゾッとしましたねっ。ここは擬似的な月面! 私の領域!」

 

絶対零度、そして無酸素。たった一つの命すら許さない月面。

月の民しか許されぬその領域が、固有結界に近い形で発露する。

そこには地球の人間である存在にペナルティを科す。

ステータスは軒並み下がり、軽すぎる重力は動きを阻害する。

 

「っらぁっ!」

 

「ぐっ・・・!」

 

手に込めた魔力の塊ごと殴りかかってきたので、距離を離すためにも宝具をいくつか飛ばす。

だが、真っ直ぐに飛んでいったのは数本。半分くらいは何処か明後日のほうへと飛んでいった。

 

「ここの重力は地球とは違うんですよ? 幾ら宝具とはいえ、その程度のものならば、逸らすのは簡単です」

 

どうやらある程度の融通が利く空間らしい。擬似的とはいえ月面だから、月の民である迦具夜には有利な補正が、俺には不利な補正がつくのだろう。

まさにキャスターの戦い方だ。相手を自分の土俵に引きずりこむ。圧倒的不利を逆転する一手・・・!

これを破るにはある程度溜めた、固有結界をも切り裂く乖離剣の真名開放しかないが・・・この状況で、それが許されるとは思えんな。

 

「ふっ、しっ、てやっ!」

 

「く、こいつっ、どけっ!」

 

右のフック、左のアッパー、右のストレート。拳の連撃を何とか凌ぐ。

行動するたびに、何かしらのペナルティが発生しているのだろう。

体が段々ということを聞かなくなってくる。

 

「そろそろ苦しいんじゃないですか? 酸素、無いですもんね。空気、無いですからね」

 

「ちっ、やはり、そういうことか・・・!」

 

にこり、と副長・・・いや、迦具夜は笑う。

酸素が無い・・・というか、このほぼ宇宙空間であるここで俺がある程度動けているのは、英霊としての存在だからだろう。

それが無ければ、呼吸が出来なくて全身が凍るとか、敗北どころか死亡必至である。

 

「でも、良く耐えたほうです。流石はたいちょー。・・・でも、もう終わり」

 

後ろに飛んで距離を取った迦具夜が、ぱちぱちと拍手をしながらそう言った。

演技がかった口調だが、不思議と違和感は無い。

 

「っぐ!」

 

体はすでに限界だ。幾ら魔力で誤魔化していても、『人間』として、地球の加護が無くなったこの状況で長く活動できるわけが無い。

だが、最後まで諦めることは出来ない。俺は、いつまでもこいつの前を走り続けないといけないんだから。

 

「何度も言っているだろうが・・・俺は兎も角、英雄王の力を舐めるなと!」

 

「っ、なんて気迫。・・・苦しいでしょうし、早く楽にしてあげますね、隊長」

 

乖離剣の回転速度が上がっていく。

白いガスを吐き出すが、いつもと決定的に違う点がある。

それは、乖離剣に巻き込まれる風が無いこと。

そりゃそうだ。地球上の、『大気』がある状態だからこそ巻き込む空気が存在するのだから。

だから、今の乖離剣はただの回転する武器でしかない。

 

「っらぁっ!」

 

「ふっ! 振りが甘いですよっ! 疲れちゃいましたかっ!?」

 

「ぐっ・・・!?」

 

拳で乖離剣を持つ手を弾き、さらに連撃で鎧の薄い場所、二の腕辺りを殴られる。

 

「鎧、貫きますっ!」

 

「ま、ず――!」

 

そして、がら空きになった体に、迦具夜の拳が突き刺さる。

拳の威力だけなら鎧でなんとでも防げたが、魔力は別だ。

鎧の持つ対魔力すら突き抜けて、直接俺の体に突き刺さる。

 

「――っ!」

 

うめき声すら出ない。

殴られた勢いで吹き飛ぶが、すぐに体制を立て直せば・・・!

 

「起き上がりを狙いますっ!」

 

「速いっ」

 

体制を立て直そうと着地した瞬間にはすでに迦具夜が目の前にいて拳を振り下ろしていた。

魔力でブーストして、一瞬だけ敏捷を倍加させる。

何とか片方は弾いたが、すでに視界には二発めの拳。

 

「がっ!」

 

「っしゃ、入った!」

 

左目の横辺りを殴られ、視界がチカチカと明滅する。

脳震盪は防げたらしい。この機を逃すまいと迦具夜はラッシュをかけてくる。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ! オラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

「なんて姫だ・・・!」

 

ここまで鋭い拳のラッシュを仕掛けてくる姫なんて、古今東西探してもこいつだけだろう。

まさか、『迦具夜』の時には徒手空拳で挑んでくるなんて・・・!

乖離剣から手を離し、ラッシュを捌き切ることにだけ意識を向ける。

ここで押しまけたらそのまま押し切られるだろう。おそらくガードしてもそのガードが崩れるまで殴ってくるに違いない。

短く息を吐きながら神速のラッシュを受け流し、弾き、殴り返していく。

 

「っ!」

 

一瞬だけ開いた空白の時間に、宝物庫を開いて目の前に盾を出現させる。

これでさらに苦しくなったが、ラッシュに付き合うよりはましだ。

遠距離戦で何とかするしかないが・・・距離を離せるか・・・?

 

「むっ! ・・・盾ですか。よくもまぁ、今の状態で・・・」

 

後ろに飛ぶ俺を見送りながら、迦具夜は空中に浮かぶ盾に拳をぶつけた姿勢のままそう呟く。

ふぅ、とお互いに短く息を吐いて、一番最初と同じ立ち位置に。

違うのは、俺が消耗しきっていて、迦具夜が今までに無いくらい絶好調だということだけだ。

 

「久しぶりですよ、こうして護身術を使うのは」

 

「護身・・・?」

 

むしろ積極的に狩りに来ていたような気がするんだが。

って言うか、月の護身術ってこんな錬度高いのかよ。ありえねー・・・。

 

「ま、十二単だしはしたないからあんまり使わないんですけどね」

 

「だろうな。今の攻防は、完全に『大和撫子』からは程遠かったぞ」

 

手元にもう一度乖離剣を持ちながら、じり、と距離を詰める。

 

「隊長は、流石です。絶対零度で、大気すらないのに私にここまで食いつくんですもん」

 

「お前の上司・・・だからな」

 

「ふふ。・・・そういうところ、大好きですよ」

 

「・・・お前、本当に迦具夜か? 余裕持ちすぎて気持ち悪い」

 

何より、恥ずかしげも無く大好きとか言える時点で他人の可能性がとても高い。

 

「失敬な。まぁ、この服着てるときはちょっと上品になるので、それもあるのかもしれないですね」

 

「ちょっと・・・?」

 

迦具夜の発言に首をかしげると、にこりと笑った迦具夜が再び距離を詰めてくる。

・・・不味いっ!

距離を取る為に足を踏み込むが、魔力の塊を足場に無重力を自在に操る迦具夜にすぐに追いつかれる。

やばいぞっ、重力が無いから自分の意思で着地できないっ・・・!

ふわふわと浮いている状態で、突っ込んでくる迦具夜の拳を乖離剣で受ける。

回転する刀身は彼女の拳を削るが、すぐに修復される。

・・・こいつも自然回復持ちかよ! 便利すぎるな。

ふわりふわりと自在に動く迦具夜は、俺が浮いていることを良い事に四方八方から攻撃を仕掛けてくる。

宝物庫から刀身だけ出したりして防いでいるが、あまりにもあっちこっちに飛び回るから、何発かは喰らってしまう。

 

「ぐっ・・・『天の鎖(エルキドゥ)』!」

 

「待ってましたよ!」

 

着地・・・というより、地面に身体を固定する為に鎖を放つ。

地面から発射された鎖は、俺の脚を絡め取って引っ張るが、その鎖を副長が掴む。

 

「よっこいしょぉっ!」

 

「しまっ・・・!」

 

これを待っていたのか! 俺が痺れを切らして身体を固定するときを・・・!

 

「ぐぅっ」

 

足に絡まっている鎖を迦具夜が引っ張ったため、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「マウントっ。取りました!」

 

その一瞬を逃さず、俺の体の上に迦具夜が跨がる。

・・・もう少し下なら、何時も通りなんだが、なんて意味不明の思考が浮かぶが、振り下ろされる拳の迎撃ですぐにその思考を投げ捨てた。

 

「オラオラァっ!」

 

「ふ、ぐ・・・っ!」

 

最初の一撃は額で受け、二撃目は手で弾く。

三撃目は何とか手で掴み、片手は塞いだ。

 

「離してくださいっ!」

 

「そう言って俺が離した事無いだろうがっ!」

 

振りほどこうと身じろぎした瞬間、迦具夜の頬に俺の拳が突き刺さる。

 

「ぐぅっ・・・。ぺっ! こ・・・ん、のぉっ!」

 

歯が折れたのか、迦具夜は唾と共に白いものを吐き出す。

そして、殴られても吹き飛ぶことなく、頬に当たる俺の拳を掴む。

この握力・・・! どれだけこいつステータスアップしてるんだよ・・・!

 

「だっらぁっ!」

 

「こんのぉっ!」

 

お互いに両手が塞がった状態。

・・・そこまでくれば、使うものは決まってる。

鈍い音と同時に、お互いの額がぶつかる。

・・・ぐぅ、超いてぇ。

取っ組み合いの喧嘩のような状況。宝具を使おうにもそんな隙はないし、そういえば乖離剣もいつの間にか手放していた。

 

「っつぅ・・・だけど、まだ、もう一撃っ・・・!」

 

「っぶねっ!」

 

もう一度振り下ろされる頭を、首を捻って回避。

俺の首元まで降りてきた側頭部に、横から頭突き。

 

「がっ・・・!」

 

一瞬ふらつき、俺の手を掴む力が緩んだ。

今しかない・・・!

 

「トドメぇっ!」

 

「あ、う、ま、だまだぁぁ!」

 

お互いに空いた手で、お互いの顔面を殴る。

鈍い感触と、鋭い痛みが、手と顔に広がった。

 

・・・

 

「・・・あー」

 

気絶、してたみたいだな。少しの間。

目を開いて起き上がると、ぐい、と後ろに引っ張られる。

 

「寝てないと、ダメですよ」

 

「迦具夜・・・?」

 

「えへへ。私の勝ち、ですね。私気絶しなかったですもん」

 

「あー・・・マジかぁ・・・」

 

どうやら膝枕してくれていたらしい迦具夜が、上から俺の顔を覗き込んで笑う。

すでに顔に傷は無く、折れた歯も治ったようだ。・・・天の羽衣すげえな。

 

「それにしてもお前、あんな武闘派だったんだな」

 

「私なんて、本職の人から比べたら全然ですよ。護身術程度しか、体術は習ってないですもん」

 

「護身術でこれかぁ・・・」

 

俺自身もすでに傷など無く、戦う前に戻ってはいるが、あの痛みの記憶はすぐに思い出せる。

それほどの衝撃だったのだ。まさか俺に拳が突き刺さることがあろうとは思っていなかった。

 

「・・・これで、私が隊長ですね、たいちょ・・・あ、うーんと・・・」

 

「好きに呼べばいいさ。・・・さて、取り合えず帰って部隊長就任祝いだな」

 

「あ・・・。・・・だ、だめ、です。もうちょっと、こうしてたいなー、とか」

 

もう一度起き上がろうとした俺を、再び掴んで引き戻す迦具夜。

 

「こうして二人きりで、まったり出来ることなんて最近無いですから。・・・いや、ですか?」

 

「・・・そう聞かれたら断れないだろ」

 

まったく、と呟きつつ、迦具夜の膝に頭を任せる。

 

「えへへ、あまあまだなー、たいちょーはっ」

 

嬉しそうにいいながら、俺の頭を撫でる迦具夜。

・・・そういえば地べたに正座って痛くないんだろうか。そう思って手探ってみると、どうやら足元に何か敷いているらしい。

 

「・・・? どうしました、隊長?」

 

「いや、十二単のときにこうしてもらうのは初めてだなーと」

 

「そですねー。というか、この格好になること自体、あんまり無いですから」

 

「だな。・・・ふむ」

 

もふ、と副長の体のほうに顔を向け、埋めてみる。・・・なるほど、これは。

 

「ふひゃっ!? ちょ、顔埋めたらダメですよっ! 確かに下着つけてないからすぐ野戦できますけど・・・!」

 

「なんかこの服、お婆ちゃんの家のにおいする」

 

「はぁ!? ぶっ飛ばしますよたいちょー!」

 

「いや、ほら、線香っていうかなんていうか・・・な? 懐かしい匂い、分かるだろ?」

 

「・・・ちょっと分かってしまう自分が憎いぃ・・・。すんすん。わ、ホントだ。お婆ちゃんちの匂いする」

 

袖を鼻に持ってきて嗅いだ副長は、初めて気付いた自分の服の匂いに驚いていた。

 

「なんでだろ。月にいたときは気にならなかったけどなぁ・・・」

 

「アレじゃないか? 月ではいつも十二単だったから鼻が慣れてたとか。で、今久しぶりに着てようやく気付いた」

 

「・・・なるほど、確かに納得できます。うぅ、後で香り付けて置かないと・・・。っていうかこれって匂いするんだ。普通の和服とは違うと思ってたんだけど・・・」

 

再びすんすんと自分の着物の匂いを嗅ぎ、項垂れる迦具夜。

 

「そういえばたいちょーはどんな匂いが好きです? 手持ちだと伽羅と練香くらいしかないですけど」

 

「俺にそんな知識あるわけないだろ」

 

「・・・そですか。じゃあ、私の好きなほうでやっときます」

 

「ん」

 

「えへへ。ね、たいちょ」

 

「なんだ?」

 

「・・・んちゅ」

 

呼ばれたので上を向くと、上体を折り曲げた迦具夜から口付けられる。

 

「・・・どうでしょ。おっぱいないし、おなかもおっきくなってないから出来るんですよ?」

 

「なるほどな。貧乳はステータスというのが、言葉ではなく心で理解できた」

 

よしよしと手を伸ばして迦具夜の頭を撫でる。

 

「・・・そろそろ日も暮れる。いい加減帰るぞ」

 

「はーいっ、了解ですっ」

 

かなりの時間俺の頭をおいて正座していたというのに、迦具夜は足が痺れたりはしていないようだ。

流石に正座しなれているのかな?

 

・・・

 

「・・・というわけで、これからこの機動部隊で隊長を務めることになった、迦具夜だ」

 

「どもです。化けものっぷりでは初代隊長に追いつけないかもですけど、頑張っていきますね」

 

そう言って迦具夜が頭を下げると、わぁ、と一気に盛り上がった。

今ここにいるのは先ほどの会議に出席していた、班長以上の役職の人間ばかりだ。

本当は全員呼びたかったのだが、流石にそんな広い会場は無かった。

他の隊員には休みと僅かばかりの手当てをつけているので、それで納得してもらうしかないだろう。

 

「それで、同時に副長に白蓮・・・公孫賛が入ることになった」

 

「あーっと、初代副長の化けものっぷりには私も追いつけないだろうが・・・それなりに頑張るよ」

 

「白蓮さんそれどういう意味ですかっ!」

 

「そのままの意味だよ、初代副長」

 

むきー、と口で言いながら白蓮に突っかかり、そのまま頭を抑えられて腕をグルグル回すというお前何それふざけてるの? ってやり取りをしている二人を尻目に、俺はさらに言葉を続ける。

 

「さて、それで最後に、遊撃隊と侍女隊、さらに広報隊の三つが一緒になって、連合部隊として結成されることになった」

 

どよめきが会場に起こる。

・・・まぁ、これは結構水面下で進んでたからなぁ。

 

「総大将は俺だ。ま、あんまり今までと変わらんかもな。たまに遊撃隊の訓練も見に来るから」

 

「初耳ですよたいちょー!」

 

「大将と呼べ。隊長はもうお前だぞ?」

 

「た、たいしょー!」

 

「何故どもる」

 

ちなみに遊撃隊の隊長は迦具夜。侍女隊は月、広報隊は人和がそれぞれ隊長として(名目上)登録されている。

なんだか段々組織がでかくなってきたな。早々にランサーの助けを借りに行くとしよう。

彼らなら軍隊としてどう行動するかも知ってるはずだからな。

 

「というわけで、皆今日は楽しんでいってくれ。乾杯」

 

俺の音頭にあわせ、皆が杯を掲げた。

うんうん、やっぱりこういう祝いの空気っていいよなー。

 

・・・

 

「殴り合い、ですか・・・」

 

「ああ。いやぁ、あそこまで梃子摺ったのは初めてかもしれないな」

 

色々と落ち着いたので、月のいる後宮へ来ている。

もう夜なので、お互いに寝台に入り、ヘッドボードに背中を預けてまったりとしている最中である。

数日前に行った迦具夜との決闘のことを報告した月の第一声は、若干口をヒク付かせて笑顔を浮かべながらだった。

 

「・・・良く殴れましたね、ギルさん。女性・・・それも、恋仲の方を容赦なく殴れるなんて・・・」

 

「んー、まぁ、副長だしなぁ。良い意味でも、悪い意味でも」

 

おっと、今は隊長だったか。

今までずっと俺が隊長と呼ばれてたから、自分で呼ぶのはなんだか違和感だな。

 

「へぅ、私には分からない世界です・・・」

 

「ただ盛り上がりすぎただけともいえるけどな」

 

深夜テンションみたいなものだ。

 

「というか、ギルさんは元々魔力で回復したりしますから分かりますけど・・・迦具夜さんも折れた歯が再生するくらいには規格外なんですね」

 

「だなぁ。恋の自動回復よりも強力だぞ、アレ。何でも抜けた瞬間から生え始めてたらしいし」

 

「へぅ・・・」

 

天の羽衣凄すぎる。というよりは、天の羽衣と十二単の相乗効果が、というべきか。

 

「流石は月の姫だな」

 

「あの浮かぶ月に、人が居たなんて・・・最初はちょっと信じられませんでしたけど」

 

そう言って、月は窓から夜空を見上げる。

今日は見事な満月だ。雲もないから、いっそう明るく月明かりが差している。

 

「今日は・・・月が、綺麗ですね」

 

「ん? ・・・ああ、そうだな。・・・『私、死んでもいい』だったか」

 

言った人は確か別々だったはずだけど。

 

「へぅ。死んじゃダメですよっ」

 

「え? あ、いやいや、そういう返しを・・・って、分からんよな」

 

「ふぇ?」

 

「こっちの話。安心しなって。しばらく死ぬ予定は無いよ」

 

「・・・もう。ギルさんは、たまに意地悪です」

 

ぷく、と頬を膨らませる月に、ごめんごめんと謝る。

 

「知りませんっ」

 

そう言って、月は寝台に潜ってしまった。

少し深めに布団を被ってしまったので、拗ねてしまったのだろう。

・・・たまにこういうわがままなところを見せてくれるようになったので、とても嬉しく思います。

 

「ごめんって。・・・それにしてもわがまま言う月は可愛いよなぁ」

 

「・・・反省、してませんね・・・?」

 

俺の呟きが聞こえたのか、布団から目元までを出してジトリとこちらを睨む月。

悪いが全く怖くない。むしろ可愛い。

 

「全く、月はどんなときでも可愛いなぁこのぉ」

 

「へぅっ。や、やんっ。ギルさん、そんなところ触っちゃ・・・ひゃうっ」

 

くすぐったいのか、布団の中で身体をくねらせる月。

・・・なんて本能を刺激する子なんだ、この子は。

 

「ひゃっ!? ・・・あ、あの、まだこっちでは出来ませんから、お口で・・・いいですか?」

 

もぞもぞと場所を動く月に、俺はああ、と頷くだけだ。

・・・なんていうか、視覚的にとっても背徳感があったとだけ言っておこう。

 

・・・




「それでは、これから護身術の授業を始めます」「はーいっ」「まず、身を守るためには何が大切でしょう?」「はいはーいっ」「はい、迦具夜さん」「危険を消す・・・つまり、先手必勝! 怪しいと思えば首をもげばいいのです!」「エクセレント! 素晴らしい回答です! 流石は月の最高頭脳、迦具夜姫!」「えへへー。照れるなー」「それではまずやっていただくのは、『相手の知覚外の速度で近づいて』『絶対的な腕力で首をもぐ』! それだけです! ね、簡単でしょ?」「さっすがー! 先生の授業は分かりやすいなー!」

「・・・っていう、護身術の授業があるんですよ。『かぐや姫』には」「なにそれ怖い。月の都ってそんなのばっかりなの?」「まぁ、王族ですからね。自分の身は自分で守りませんと」「積極的防御という奴か」「ちなみに本職の人・・・軍人さんとかは専守防衛を心がけてますね。攻撃を受けて返すのが楽しいみたいで」「・・・それは専守防衛というのか?」


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