真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「アナスイのことずっとアスナイだと勘違いしてた」「不吉な名前だな。明日がないって・・・」「アナスイは女の子だと思ってた」「ダイバーダウンで何とかしたんだよ!」


それでは、どうぞ。


第七話 勘違いの後に

呉の水泳大会の翌日。

さて政務でもするかと思っていたとき

 

「ギルおにーちゃーん!」

 

扉の向こうから璃々の声が聞こえた。

 

「璃々か。どうしたー?」

 

扉を開けると、小さいメイド服を着てお盆を持っている璃々がたっていた。

お盆の上には湯飲みと急須。湯気がたっていないことから、すでに冷めていることが伺える。

・・・さて、脳をフル回転させようか。

まず、何でメイド服? 何でお茶? というか、何で璃々? 

駄目だ。情報が少なすぎて推理も何もない。

 

「り、璃々、どうしたんだ?」

 

「あのね、月おねーちゃんに、めいどふく着たいって言ったら、璃々の分もよういしてくれたの!」

 

「うんうん」

 

「それで、月おねーちゃんのお手伝いしたいって言ったら、お茶を届けて、って言われたの!」

 

・・・なるほど、それでお茶が冷めてるわけか。

万が一こぼしでもしたら危ないからな。さすが月。気遣いをさせたら右に出るものはいないな。

 

「そっかそっか。ありがとな、璃々」

 

「へへー。ギルおにーちゃん、座ってっ。璃々がお茶入れてあげるー!」

 

「ああ。お願いするよ」

 

俺は椅子に座り、璃々がお茶をいれてくれるのを見守ることにした。

璃々は近くにあった椅子を引っ張り、台にした。足りない身長の分を補完してるんだろう。

 

「ん、んー・・・」

 

とぽとぽ、とぎこちなくもお茶を湯飲みに注ぐ姿は見ていて和む。

 

「よし、もう十分だよ、璃々。ありがとう」

 

あまり続けるのもつらいだろう。そう言って手で制すると、わかったー、と急須を戻す璃々。

だが、椅子という不安定な場所に立っていたからか、璃々は姿勢を戻すと同時に椅子ごと後ろへと傾いてしまった。

 

「あぶなっ・・・!」

 

「ひゃ・・・っ!」

 

急いで手を伸ばして手を掴む。

・・・危ない。何とか間に合ったか。

 

「あ、うぅ~」

 

しかし、間に合ったのは璃々だけだったようだ。

湯飲みと急須に入っていたお茶がすべて璃々に掛かってしまった。

 

「あー・・・ごめんな、璃々。そこまでは気が回らなかった」

 

「だ、大丈夫だよ、ギルお兄ちゃん」

 

「しかし、ぬるいお茶で助かったな。いつもどおりの温度だったらと思うと・・・」

 

「えへへ、そうだね・・・っくち!」

 

「あー、びしょ濡れだもんな。ほら、璃々。一回服脱ごうか」

 

・・・いや、いやらしい意味じゃなくてね? 

応急処置的対応といいますか、濡れたまま帰すわけにも行かないじゃないですか。

って、俺は誰に言い訳を・・・。

 

「うんっ。・・・あ、ギルおにいちゃん、脱ぐの手伝ってー!」

 

「はいはい。えっと、月や詠のと同じなら・・・」

 

万歳をする璃々の正面に回って、ボタンをはずしていく。

あーあー、結構お茶掛かってるなぁ。下着までいっちゃってるかも。

 

「ほら、脱がすぞー。ばんざーい」

 

「もーしてるよー」

 

「そうだったな」

 

ああ、娘を持つ父の気持ちってこんなのだろうか。

そんな風に和んでいると、扉が開いた。

 

「ねーお兄さん、政務のことなんだけど・・・へ?」

 

「はわわ、桃香さま、のっくをしませんと・・・はわ?」

 

「ん? 二人とも、何を固まって・・・っ!?」

 

開いた扉の向こうには、桃香と朱里、そして愛紗の姿が。

ばっちりと目が合った後、三人の視線は俺の手元に向かう。

俺の手元・・・そうだ、今璃々を脱がせてて・・・って

 

「ち、違う! たぶん桃香たちが思ってることはすべて間違ってる!」

 

「お、お兄さん・・・私や愛紗ちゃんに手を出さないと思ったら・・・」

 

「は、はわわ・・・これは、私たちに勝機が・・・?」

 

「ギル・・・殿・・・? う、嘘ですよね・・・?」

 

愕然とする桃香と愛紗。そして何故か軍師の顔になっている朱里。

 

「どーしたの、ギルお兄ちゃん。璃々、下着までびちゃびちゃだから早く脱がせて?」

 

「下着まで・・・」

 

「・・・びちゃびちゃ!?」

 

「違うぞ!? 今のは決定的に言葉が足りなくて・・・」

 

「お、お・・・!」

 

「お?」

 

わなわなと震えながら桃香は後ずさる。おってなんだ。

 

「お兄さんの幼女趣味ー!」

 

そういうことかっ。

というか、なんて失礼な! 

 

「お、お待ちください桃香さまー!?」

 

「っ!」

 

泣きながら走り去る桃香に、それを慌てて追いかける朱里。そして、深刻そうな顔をして部屋を去る愛紗。

・・・不味い。何が不味いってすべてが不味い。

 

「? 桃香さま、どうかしたのかなー」

 

「・・・うん、どうか、したんだよ」

 

もういいや。今から追いかけても無駄だろう。とりあえず、璃々を着替えさせないと。

下着はさすがにないが、俺のTシャツでも着ていてもらうか。

 

「璃々、寒いだろうから寝台にいってていいぞ」

 

「うん」

 

ててて、と走る璃々。

だが、足元に広がるお茶に気づかず、そのままお茶を踏んで

 

「ふにゃっ!」

 

すっころんだ。

 

「・・・ああもう、璃々ってば可愛いなぁ・・・」

 

おっと、和んでいる場合ではない。

下着姿で地面に転んでしまったのだ。相当痛いだろう。

急いで起こさないと。

そう思って璃々の元へと駆け寄る。・・・が

 

「大丈夫か璃々・・・ってうおっ!?」

 

しまった、俺もお茶を失念していた!? 

目の前には・・・璃々! 

 

「うおっと!」

 

璃々に倒れこむ直前、何とか地面に手を着くことができた。

これで俺と地面のサンドイッチになることは防げただろう。

ふう、と安堵の息を吐いた瞬間。

 

「あら、扉が開いてるわね。お邪魔するわ・・・よ・・・?」

 

「おーい、ギルー? 前に言ってた新作の服のはな・・・し・・・」

 

声が聞こえた。しかも、すごく聞きたくない種類の。

ぎぎぎ、と油の切れたような音を出しながら、横を向く。

そこには、何かいけないものを見た、という表情をした華琳と一刀が立っていた。

 

「ごめんなさい。扉が開いていても、のっくはするべきだったわね」

 

「・・・え、えーと、ごめんな、ギル。・・・その、や、優しくしてやれよ?」

 

「よし、分かった。一度落ち着こうか。説明するからこっちに・・・あ、逃げるな!」

 

二人に手を伸ばした瞬間、脱兎のごとく逃げ出された。

なんということだ。これで蜀と魏の二つの国に俺が璃々を襲っているという噂が流れてしまう! 

 

「くそ、呉に見つかる前に何とかするしか・・・!」

 

とりあえず起き上がり、璃々を抱き上げ、寝台の上に。

 

「璃々、とりあえず下着はそのままで我慢して、これに着替えてくれ」

 

今、下手に下着を脱がせたらどんな勘違いが起こるかわからないからな。

 

「うん、分かったー」

 

「あ、転んだとき怪我しなかったか?」

 

「大丈夫だよ。ほら!」

 

そういって璃々は自分の膝を見せてくれるが、特に血が出ているわけでもなさそうだ。

 

「ん、ちょっと赤くなってるだけだな。さ、着替えてくれ」

 

キャミソール(のようなもの)もショーツ(のようなもの)も無事だ。

 

「はーい」

 

んしょ、んしょ、と璃々が着替えている間、こぼれたお茶をふき取る。

・・・さて、後は紫苑のところまで璃々を連れて行けばいいんだが・・・。

 

「ギルお兄ちゃん、この服だぼだぼだよー?」

 

「んー? ・・・うわ、そこはかとない犯罪臭が・・・」

 

下着+Tシャツなんてマニアックな服装を、よりにもよって璃々にさせるなんて・・・。

 

「仕方がない。ここに帯を巻いて、服っぽくしよう」

 

腰に布を巻き、とりあえずワンピースっぽくする。

これで少しはまともになった。ワンピースにしてはミニスカだけど。

 

「わー! ぴったりになったー!」

 

わーい、わーいと喜ぶ璃々を落ち着かせようと声を掛ける。

 

「とりあえず、これから紫苑のところに・・・わぷっ!?」

 

「ギルお兄ちゃんにどーん!」

 

言葉の途中で、璃々が顔面に飛び込んできた。

何とか倒れずに済んだものの、よたよたと足がふらつく。

そして、つま先で何かを踏んだ感触の後、急に前に倒れる。

あ、さっき床を拭いた雑巾ほっといたままだ・・・。

 

「あぶな・・・!」

 

「きゃーっ」

 

焦る俺に対し、璃々は楽しそうな悲鳴を上げる。

ぼふ、と寝台に受け止められる。よかった、床じゃなくて。

 

「あいたた・・・ギルお兄ちゃん、だいじょーぶ?」

 

「・・・一応」

 

しかし、視界が回復しない。

顔には、何か白くて湿っているものがくっついている感触が・・・。

 

「ギルー、いるー? あのワインってお酒なんだけ、どー・・・?」

 

「雪蓮、急に部屋に入るなとあれほど・・・」

 

目前のものが何か、を理解すると同時に、背後からの声が聞こえた。

これは、今日で一番不味い。

顔面に飛び込んできた璃々と寝台に倒れこんだとき、璃々はちょうど寝台に座るように着地。

そして、俺は璃々に引っ張られたため、顔の部分だけ寝台に着地した。

両手は衝撃を和らげるために寝台についたはずだが、細くて柔らかい何かを掴んでいる。

そして、目の前には・・・。

 

「――――!?」

 

慌てて顔を上げる。

予想通り、寝台に座りこんでいる璃々が頭に疑問符を浮かべている。

・・・しかも、手は足を押さえるようになっていたらしい。なんてこった。

間違いない。あの白い布のところに顔を突っ込んでいたのだろう。どこ、とは明言しない。

 

「あ、あー・・・その、お楽しみの所・・・だった?」

 

「・・・ふむ」

 

「や、やめろ! その苦笑いとすべてを理解したような笑みをやめろ!」

 

雪蓮と冥琳にそう叫ぶが、多分無駄だろう。

 

「ごめんねー? ワインについては、また後で尋ねに来るわー。・・・ねえ冥琳、これは、シャオも勝ち目があるんじゃない?」

 

「うむ。小蓮さまは璃々と同じような体型だからな。・・・なるほど、ギルは・・・」

 

「あああっ! 変な勘違い論議をしながら去るんじゃない!」

 

早足でテクテクと去っていく二人を逃さないように追いかけ・・・

 

「へっくち」

 

・・・ようと思ったが、流石に璃々を放置していくわけには行くまい。

この気温で風邪を引くことは無いだろうが、暖かくするに越したことは無い。

 

「ほら、これも着ておけ、璃々」

 

「ほわー、あったかだねー」

 

「多分そのうち暑くなると思うけどな」

 

なんちゃってワンピースの上からフランチェスカの制服を羽織らせると、俺は璃々をつれて部屋を出た。

・・・なんだろう。寒気がする。こう、全身で殺気を受けているというか、恋五人くらいに囲まれたくらいの恐怖というか・・・。

 

「めいどふく、濡れちゃったなー」

 

「紫苑に洗濯してもらえばいいさ」

 

「おかーさん、めいどふく洗えるかなー」

 

「あー・・・。分かった、月に頼んでおくよ」

 

「ほんと!? じゃあ、お願いね、ギルお兄ちゃん!」

 

「ああ」

 

璃々からメイド服を受け取り、宝物庫の中へ収納する。

後で月を探して洗ってもらえるよう頼んでみるか。

 

「お、紫苑の部屋に着いたな。紫苑ー?」

 

声を掛けつつノックするが、反応が無い。

 

「・・・璃々、紫苑はどこか行くとか言ってた?」

 

「えー? んー、わかんない。月おねーちゃんの所でお手伝いしてきなさいって言われただけだから・・・」

 

・・・まぁいい。とりあえず、璃々を部屋に帰そう。

 

「璃々、今日は部屋に戻って、下着を替えて、キチンと服を着るんだぞ」

 

「はーい」

 

「それと、部屋から出ないこと。桃香とか、華琳とか、雪蓮とかがきても扉を開けないこと」

 

「おかーさんは?」

 

「紫苑は例外。きちんと紫苑に今日あったことを報告するんだぞ?」

 

「うん、分かったー!」

 

「よし。じゃあ、俺はそろそろ行くな」

 

「うんっ、ばいばーい!」

 

ぶんぶんと腕を振る璃々に向けて腕を振り替えしながら、紫苑の部屋を後にする。

・・・まずは、桃香たちの誤解から順番に解いていくべきだろうか。それとも、一番重症な勘違いをしている呉から行くべきか。

 

「桃香だな」

 

少し考えて、結論を出した。

泣いてたし、一番心配だ。

 

・・・

 

桃香を探して城を歩いていると、なんだかいつもより兵士たちが騒がしい気がする。

ちょうど会話をしている兵士二人がいたので話を聞こうと近づく。が。

 

「なぁ、聞いたか、ギル様の噂」

 

「ああ。何でも、幼子に手を出したとか・・・」

 

すぐに物陰に隠れた。危ない。すでに噂が拡散されている。

そんなところに噂の張本人が現れては、兵士たちが俺から話を聞こうと集まってくるに違いない。

それは避けなければ・・・。今は兵士に見つからずに桃香を見つけ出し、誤解を解く。

桃香の近くには愛紗と朱里もいるはずだ。愛紗はともかく、朱里ならば論理だてて説明すればきっと理解してくれる。

 

「・・・はぁ」

 

でも、何でこんなことしてるんだろうか。

俺って幸運A++じゃなかったっけ? 

こんなラブコメの王道みたいなこと璃々とやらかすとは思ってもいなかった。

まぁ、どれもこれも誤解を解くまでの辛抱だ。

とりあえず、玉座の間へ行ってみるか。あそこにいる可能性が高そうだ。

 

「おっと」

 

気分は潜入任務中のエージェントだ。

兵士の目をかいくぐり、時には宝具を使って切り抜ける。

 

「・・・着いた」

 

いつもなら十分と掛からない道のりなのだが、変な手間を掛けた所為で三倍ほど時間が掛かった。

 

「おーい・・・桃香ー? いるかー?」

 

小声で呼びかけてみる。

・・・反応が無い。誰もいないのか? 

扉から顔を覗かせる。玉座の間には誰もいないように見えるが・・・。

 

「ギル? 何やってんだ?」

 

「っ! ・・・何だ、銀か」

 

「なんだって何だよ」

 

何やってんだよ、という銀に、今日あったことを話す。

銀はまだ噂を聞いていなかったようで、お前・・・大変だなぁと肩を叩いてきた。

 

「なんというか・・・初めて味方を見付けた気がする」

 

「んな大げさな。それで? 劉備さま捜してるんだっけか」

 

「ああ。見かけなかったか?」

 

「あー・・・んー・・・」

 

唸りながら銀はここにくるまでのことを思い出しているらしい。

 

「あっ」

 

「お、何か思い出したか!?」

 

「ああ。そういや、ここにくる途中に通った通路の反対側で、劉備さまが走ってるの見たぜ」

 

「えっと、銀はあっちからきて、その反対側を・・・どっちに走ってった?」

 

「西」

 

「じゃあ、蜀の屋敷だな」

 

あの方向なら、それが一番可能性が高い。

 

「ありがとう、銀。俺、ちょっと行って来る!」

 

「おーう。俺は兵士たちの誤解でも解いて回ってやる」

 

「すまん。恩に着る」

 

「ははは、良いって事よ。とりあえず、一週間の昼飯な」

 

「ああ、一週間といわず一ヶ月の昼飯は約束しよう」

 

「お、俄然やる気出てきたね」

 

それじゃな、と言って走り出した銀の背中を見送ってから、俺も蜀の屋敷へと急いだ。

 

・・・

 

「桃香っ!」

 

「・・・どうしたの?」

 

「恋。桃香を見なかったか?」

 

蜀の屋敷に入ると、恋が動物にえさをあげているところに遭遇した。

セキトを筆頭に、大小さまざまな動物がえさにぱくついている。

 

「桃香? ・・・あ、多分部屋」

 

「そっか、分かった。ありがと」

 

お礼を伝えつつ、恋の頭を撫でる。

恋も月たちと同じく頭を撫でると喜んでくれる娘だ。

 

「~っ」

 

嬉しそうな顔をして撫でられている恋を見ていると、当初の目的を忘れそうになる。

 

「・・・おっと、いけないいけない」

 

恋の頭から手を離し、手を振って別れを告げる。

 

「ん、ばいばい」

 

「ああ、またな」

 

小走りに屋敷の中を走る。

桃香がこの屋敷でいそうな部屋といえば・・・。

 

「桃香っ!?」

 

「お、お兄さん・・・?」

 

「は、はわわっ。ギルさん!」

 

「な、え、その、えと」

 

部屋の中では、小さい服を無理やり着ようとしている桃香と愛紗、そしてすでに着ている朱里の三人がいた。

朱里は別として、着替えようとしている桃香と愛紗はもちろん下着姿なわけでして・・・。

二人が俺を視認すると、耳を(つんざ)くような悲鳴が上がった。

 

・・・

 

「・・・なるほど、お茶をかぶってしまった璃々ちゃんを着替えさせようと」

 

「そうなんだ。本気で他意なんて無くてだな・・・」

 

「そ、そっか、そうなんだ。お兄さんがその・・・璃々ちゃんくらいの娘しか愛せない人なんじゃないかって勘違いしちゃった」

 

あの悲鳴の後、俺は何とか二人を落ち着かせ、朱里に状況を説明した。

どうしてこうなったのか、と説明した後の言葉が、先ほどのなるほど、だ。

よかった。やはり朱里はきちんと説明すれば分かる娘だったんだ。

 

「し、しかしですね! 璃々だってもう一人で着替えられるじゃないですか!」

 

「はわ、おそらく璃々ちゃんはメイド服を着たのが初めてで、脱ぎ方が分からなかったのでしょう。月ちゃんたちも、最初は脱いだりするときに困ったって言ってましたから」

 

「う、そ、そうなのか」

 

「はい。思い返せば、確かにメイド服は濡れていた気がしますしね」

 

朱里がそこまで状況を思い出すと、桃香はなーんだ、と脱力して座り込んだ。

愛紗もため息をつきつつ椅子に座った。

 

「うぅ、ぜーんぶ、勘違いだったんだね」

 

「はい・・・前回といい今回といい・・・私は早とちりばかりしていますね」

 

「き、気にするなよ。俺だって、ちょっと紛らわしいと思ってたし、今回はタイミング・・・機会が悪かったってことで」

 

「そう言っていただけると助かります・・・」

 

「・・・でも、ギルさんはそういう趣味じゃなかったんですね。ちょっと残念かもです」

 

「ん? 何か言ったか、朱里」

 

「はわわ! なんでもないですっ」

 

・・・? 変な朱里だな。

しかしまぁ、これで桃香たちの誤解は解けたな。

 

「よし、それじゃあちょっと呉と魏の屋敷に行って来る」

 

「え? 何かあったの?」

 

「・・・いや、桃香たちが去ってった後にも不幸な事故があって・・・」

 

その後、華琳と一刀、そして雪蓮と冥琳にそれぞれ勘違いされたことを話した。

すべて話し終えた後、三人は引きつった笑いしか浮かべることができていなかった。

 

「・・・お兄さん、宝具か何かで呪われたんじゃないの?」

 

「そうですね。魔術や妖術なども可能性は高いのではないですか・・・?」

 

「はわわ・・・幸運が高いギルさんがそんなに不運に見舞われるなんて・・・」

 

「まぁ、とりあえずそんなわけなんで、ちょっと行って来るよ」

 

「はい。御武運を」

 

「・・・やっぱり、そこまで覚悟しないといけないか」

 

愛紗の冗談にならない見送りを受けて、俺は蜀の屋敷を後にした。

 

・・・

 

・・・呉の屋敷に着いた。だが、何だろうこの気配。

俺の悪いほうにしか働かない直感が、何か起きると知らせてきている。

屋敷の門を開くのすら恐ろしい。

・・・だが、行かねばならぬ。

 

「こんにち」

 

「ギルーっ!」

 

わ、と言おうとしてキャンセルさせられた。

お察しの通り、シャオが突っ込んできたからだ。

 

「ギルギル、シャオは信じてたよ。やっぱりギルは、シャオみたいな女の子が大好きなんだよねっ!?」

 

「ま、まさか雪蓮から・・・」

 

「うんっ。おねーちゃんから聞いたの! ギルはぺったんこな女の子にしか興味の無い男なんだって!」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

噂が加速している! 俺の尊厳が消えた・・・!? 

 

「そ、それには理由があってだな・・・」

 

「う、うそ・・・」

 

何かに絶望したかのような声が聞こえた後、どさり、と重量のあるものが落ちた音がした。

振り向くと、そこには手で口を押さえてわなわなと震える蓮華の姿が。

 

「ぎ、ギル・・・あなた・・・」

 

何で誤解を解きに来て誤解されなきゃならないんだ・・・! 

 

「違うぞ。良いか、シャオも落ち着いて聞いてくれ」

 

「えー、何々、結婚して欲しいってー? きゃーっ、どうしよー!」

 

「そうなのか・・・!?」

 

何故かはしゃぎだすシャオと、悲しげな声を出す蓮華。

取り合えず二人を落ち着かせないと、と思った瞬間、鈴の音が聞こえた。

 

「ギル。貴様・・・蓮華様を・・・!」

 

「また面倒くさいのが!」

 

背後から振るわれた一撃を宝物庫から宝剣を出すことによって防ぐ。

 

「話が進まない! 悪いけど、無理やり話を聞いてもらうぞ! 天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「きゃっ!」

 

「わわっ・・・!」

 

「くっ、不覚っ!」

 

三人を拘束し、ゆっくりと説明していく。

噂は完全に勘違いだということをようやく納得してもらい、鎖を解く。

 

「三人とも、わかってくれた様で何よりだ」

 

「・・・ちょっとがっかりだけどねー」

 

「す、すまないな、ギル。私、変な勘違いを・・・」

 

「ちっ」

 

・・・思春さん、何で舌打ちしたんすか? 

 

「取り合えず、姉さんには私から話しておくわ。冥琳も、きちんと説明すれば分かってくれるでしょう」

 

「ああ、頼んだ。それじゃあ、俺はこれで!」

 

「ええ」

 

よし、蜀と呉は何とか誤解を解くことができたな。最後は魏だ。

 

・・・

 

「あ、兄貴!」

 

「ん?」

 

呉の屋敷から魏の屋敷へと向かう途中、以前一緒に龍を倒しに行った兵士たちがそろっていた。

 

「やはり、兄貴はこちら側の人間だったのですね!」

 

蜀の兵が嬉しそうにそういうと、兵たちはそれぞれに騒ぎ始めた。

 

「ちょ、まさかお前ら、噂を聞いたんじゃ・・・!」

 

「ええ。兄貴がついに幼女趣味に目覚めたという噂を聞きまして。噂にしては信憑性があったのでとうとう、と思っていたのですが」

 

「とうとう、じゃない! あれは勘違いがあってだな・・・」

 

それから、俺は兵士たちにすべての出来事を話した。

なるほど、そうだったんスね、と魏の兵士が言ったので、納得してくれたか、と安堵の息を吐きかけたとき

 

「つまり、おいしい思いをしてるってことじゃないッスか!」

 

「どういう思考回路をしているんだ!」

 

「兄貴、是非そんなおいしい目に会うためのコツを教えてください!」

 

「というか璃々ちゃんに侍女服姿でお茶入れてもらうとかなんて羨ましい! 代わってください!」

 

・・・そういえば、蜀のは朱里や鈴々がストライクゾーンだったか。

 

「いや、それは普通にお断りだわー。っていうか無茶言うな!」

 

「兄者、兄貴はとっかえひっかえ侍女を侍らせているということでいいのか?」

 

「弟者、おそらくそれで大体あっているはずだ」

 

「あってないぞ!」

 

駄目だ・・・火がついたこいつらを俺じゃ止められない・・・。

 

「しかし、兄貴はお嬢様にどう説明するつもりなんですか?」

 

「は?」

 

「いえ、いつもの修羅場を見ている限りではお嬢様は相当に嫉妬深いようなので・・・」

 

董の兵士がつぶやいた一言に、一瞬で思考が固まった。

こいつがいうお嬢様・・・つまり月のことなのだが、確かに月は嫉妬深いところがある。

しかも詠まで参戦しては、おそらく俺一人では対抗できないだろう。

 

「・・・やばいな」

 

「なるほど、ざまぁということですね、兄貴」

 

にやり、と笑う呉の兵士。くそ、今はその笑いに反論できない! 

 

「取り合えず、魏の誤解でも解きに行ったらどうッスか? あそこの噂の伝播速度、半端じゃないッスよ?」

 

「え、そうなのか?」

 

「そッスよ。俺なんか・・・あばばばばばばば」

 

急にバグった魏の兵士が奇声を上げながら倒れた。

急いで呉のが近寄り、声をかける。

 

「ど、どうした! 魏の! 魏のー!」

 

「駄目だ! 気絶してる!」

 

「・・・そんなに恐ろしいことがあったんですか」

 

白目をむいて倒れた魏の兵士を支えながら、呉と董の兵士が叫び、蜀の兵がつぶやく。

 

「特にあそこは楽進将軍たち警備隊の方たちがいるからな、兄者」

 

「ああ、特に李典将軍と于禁将軍はやばいな、弟者」

 

・・・なるほど、あの二人なら頷ける。口が軽いってレベルじゃないからな。

 

「・・・よし、俺、魏の屋敷に行って来る」

 

「手遅れでないことを祈ります」

 

「ありがとう、蜀の」

 

間に合え、と心の中で祈り続けながら、俺は走りだした

 

・・・

 

「一刀! いるか!?」

 

そう叫びながら魏の屋敷へ入る。

・・・ちょうどいい。きょとんとした一刀がこちらを向いて突っ立っていた。

 

「ん? ・・・って、ギル。その・・・もう終わったのか?」

 

まぁ、璃々ちゃんも疲れるだろうし、長く付き合わせるわけには行かないよな、と意味不明の納得をする一刀。

 

「・・・そこへなおれ」

 

「殺されるっ!?」

 

「違う。説明する。・・・断れば」

 

ちらり、と宝物庫から刀身を向けると、一刀はすばやい動きで床に正座した。

 

「取り合えず、あれは勘違いで・・・」

 

しばし正座させた一刀に説明し、納得してもらうことができた。

 

「・・・っていうか、ギル、お前ラブコメの主人公みたいなこと・・・」

 

「言うな。泣きたくなる」

 

「やめてくれよ。俺、ギルの男泣きとか見たくないぜ」

 

「だろうな。・・・取り合えず、華琳にも直接伝えておいてくれよ」

 

「ああ、勘違いしたお詫びだ。それくらいはしておくよ」

 

「サンキュ。それじゃ、俺は帰るよ」

 

「おう、お疲れー」

 

なんだか、一刀と話してるとここが三国志の時代だってこと忘れかけるなー。

 

・・・

 

今日、いつものようにお仕事をしていると、信じられない噂を聞きました。

曰く、ギルさんが璃々ちゃんに手を出した、とかなんとか。

いつもなら『ちょっと』ギルさんとお話しするところなのですが、今回は何か違う気がします。

というかそもそもギルさんはきちんとしている方ですので、璃々ちゃんと・・・その、結ばれたのなら私と詠ちゃんに報告してくれるはずなんです。

それに、ギルさんがもし璃々ちゃんに手を出すとしても、紫苑さんの後のはずです。紫苑さん、張り切ってましたし。

 

「・・・ねえ月?」

 

「うん、多分・・・何かの勘違いだと思うよ」

 

ギルさんは女難の相とかある人なので、九割の確率で勘違いのはずです。

後でお部屋にお邪魔する予定なので、本当のことを聞いてみるとしましょう。

 

「お、いたいた」

 

「誰? ・・・って、銀じゃない」

 

「おう。おつかれさん」

 

そんな話をしていると、銀さんが普段着で声を掛けてきました。

珍しく鎧を着ていなかったので、最初誰だかわからなかったのは内緒です。・・・へぅ、ごめんなさい。

 

「そういや、お前たち噂聞いた?」

 

「ギルの?」

 

「ああ」

 

「聞いてるわよ。ま、多分勘違いだろうけどね」

 

「おろ、珍しいな。お前らが暴走しないなんて」

 

なんだ、つまんね、と言って、銀さんは去っていきました。

 

「何しにきたんだろ、あいつ」

 

「多分、誤解を解きに来てくれたんじゃないかな」

 

「あー・・・変に律儀ねえ、あいつも」

 

ま、いいわ。仕事片付けちゃいましょ、と詠ちゃんは再び手を動かし始めました。

私も早く終わらせてギルさんに会うため、詠ちゃんに続いて手を動かします。

・・・ギルさんのことを信じていても、やっぱり少しだけもしかして、という不安があるのも確かです。

早くこの不安をなくすためにも、ギルさんに会って話を聞かないと。

 

・・・

 

「・・・疲れた」

 

通路を歩きながら、俺はつぶやいた。本当に今日は疲れた・・・。

最初は璃々がお茶を入れてくれるという最高のイベントだったはずなのだが、何をトチ狂ったのかいつの間にかラブコメみたいな勘違いされていた。

仕事をする気もなくした俺は、政務を休むことを朱里に伝え、部屋へと帰ってきた。

 

「あ、お帰りなさい、ギルさん」

 

「お、お帰り、ギル」

 

「おや。月、詠。きてたのか」

 

部屋に入ると、月と詠が卓についてお茶を飲んでいた。

 

「はい。今日はギルさん、噂で大変な思いをしていらっしゃったみたいで」

 

「で? 璃々に手を出したとかってのはただの噂なんでしょ?」

 

「ああ、あれはだな・・・」

 

初めてきちんと聞く姿勢を持った人に説明した気がする。

黒月が出てくるの覚悟してたんだけど・・・いやよかった。

 

「・・・なるほど、なんかボクみたいな不運に巻き込まれてたのね」

 

「ギルさんも、不幸を溜め込む体質なんでしょうか?」

 

「ギルのは、ただの女難な気もするけど」

 

「ふふ、そうかもしれないね」

 

目の前に座る二人はお茶を飲みながら楽しそうにくすくすと笑う。

あー、今日走り回った疲れも、説明に使った精神力も、これを見るためだったのならば受け入れられそうだ。

 

「・・・さて、と。明日は今日やらなかった分の政務も片付けなきゃならないし、早めに寝ようか」

 

「あ、はい」

 

「仕方ないわね」

 

俺が寝台の中にもぐりこむと、すでに寝巻きに着替えていた月たちは両サイドから俺の隣へとくっついてくる。

 

「おやすみなさい、ギルさん」

 

「おやすみ、ギル」

 

「ああ、お休み。月、詠」

 

小柄な二人にくっつかれながら、挨拶を交わす。

目を閉じてしばらくすると、二人の寝息が。

・・・俺も、意識、が、遠く・・・。

 

・・・




「ギル様は幼女趣味らしいぞ」「だろうな」「ギル様は幼女趣味なんだって」「だろうね」「ギル様が幼女趣味らしい」「でしょうね」「そこに直れ国民ども!」


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