真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「・・・あれ? 卑弥呼、いつもと化粧が違うな」「あ、分かる? めでたい日だから、『憩』の化粧よ」「ギル様っ、ギル様っ、壱与のお化粧は『祝』ですっ」「おー。・・・で? 一刀の目の痣は化粧って訳じゃないんだろ?」「・・・ったりまえだろ。春蘭だよ・・・あいつ、酒乱だったんだ」「しゅ、春蘭だけに?」「ぼぶふぅっ!」「まっ、マスター!? 笑いすぎで・・・ぎ、ギル様もっ!」「しゅ、春蘭だけに、酒乱・・・」「ばぼふぅっ!?」「ギル様ーっ! 追い討ちを掛けないでくださいっ!」

それでは、どうぞ。


第六十六話 祝いの服に

「ハァハァ・・・も、萌え・・・ギル様の寝顔・・・萌えッ・・・あ、やば、またイ・・・ふぅ」

 

「・・・おいこら。それで何回目だ、壱与」

 

「は、はひ? ・・・えぇと・・・取り合えず、両手じゃ数え切れないくらいですね!」

 

意識が戻ったら戻ったで布団の中でもぞもぞ動く壱与がいたので、引きずり出しながら起き上がる。

あ、くっそこいつ俺の服まで濡らしやがった・・・。

 

「お前の意思は良く分かった。・・・歯を食いしばれッ!」

 

「ぎゃふんっ! ・・・あ、な、殴られ、たぁ・・・! 新年最初の一撃! ありがとうございますっ!」

 

全く・・・着替えるとするか。

ため息をつきつつ寝台から降りて、宝物庫の中の服に着替える。もちろん一瞬だ。変身する魔法少女より隙はないだろう。

 

「・・・着替えシーンカットとか、ギル様のサービス精神の枯渇化には流石の壱与もガッカリです・・・」

 

「壱与・・・お前本当は俺のこと嫌いだったりするのか?」

 

本当にがっかりしたように短くため息をつく壱与に、こちらもため息をつきながら聞き返す。

 

「そんなこと、ありえるはずがございませんッ! 壱与は例え火の中水の中草の中森の中! 憎い緑のあんちくしょうのスカートの中! 何処に居てもギル様のことが大好きですっ!」

 

「というか、お前着替え見せても恥ずかしがって顔隠すから見てないだろ」

 

最初の頃は俺の裸体を見たり触られただけで気絶していた壱与だ。今でも身体を見せたりすると恥ずかしがって奇妙な声を上げたりする。

 

「み、見てますっ。指の間から!」

 

「あぁ・・・なんというベタな・・・」

 

恥ずかしがって顔を手で覆っていたその指の間からチラチラ見ていたらしい。

 

「あと鏡を介して魔術で見てたりします。ギル様と卑弥呼様の逢瀬とか、他の女との蜜月とか」

 

ちっ、と憎らしげに舌打ちをする壱与。

・・・こいつ、何処まで見てんだよ。

 

「やはりストーカーか・・・」

 

「以前も言われましたが、その・・・えっと、すとかーというのは何のことなのでしょうか?」

 

こいつ、サービスとかシーンとか分かるくせにストーカーは分からんのか・・・。

 

「・・・お前みたいに、熱狂的に俺のことを好きで居てくれる子のことだよ」

 

流石に『変質者』とは言いたくなかったので、部分的にぼかして伝えることにした。

 

「なるほど! 二つ名のようなものですね! これから私は、『すとーかー』を名乗ることにしますっ!」

 

「やめるんだ。それだけは絶対にやめろ」

 

「ふぇ? ぎ、ギル様がそう仰るなら・・・」

 

壱与が従順な子で助かった。・・・自分からストーカーだと名乗るストーカーというのも中々珍しいものだと思うが、流石にその対象が俺だと思うと素直に楽しめない。

そういえば、壱与は結構何でも言うこと聞くよな。今の話もそうだし。・・・ちょっと試してみるか。

 

「壱与、お前俺の言うこと何でも聞けるか?」

 

「もちろんですっ!」

 

「よし、じゃあ今から言う言葉に合わせて鳴けよ」

 

「はいっ! いつでもどうぞ!」

 

俺の目の前でキラキラと瞳を光らせながら俺の言葉を待つ壱与。

 

「お座り」

 

「わんっ」

 

「お手」

 

「わんっ」

 

「おかわり」

 

「わんっ」

 

「このメス豚がっ!」

 

「わ・・・ぶひっ!」

 

「釣られかけてるじゃねえか」

 

完全に「わん」って言いそうになったぞこいつ。

でも途中までは完璧だ。動作つきで再現したぞ。犬を。

 

「壱与、痛恨の失敗です・・・」

 

「そこまで凹まなくても・・・そういうところも、可愛いと思うぞ」

 

「・・・」

 

壱与がこちらを見上げたままの体勢で固まった。

目を大きく開いて口も半開きなので、表情から察するに驚いているらしい。

 

「ん?」

 

「ふゅのょいふ・・・」

 

「え、何それどうやって発音して・・・おい!?」

 

かくり、と意識を失った壱与を受け止める。・・・最近はこういう言葉にも慣れただろうと思っていたが・・・。

こういう初心なところを見ると、やはり可愛いと思ってしまうのは好きになってしまった弱みという奴だろうか。

まぁいい。特にやることもないし、こいつの寝顔でも見ながら読書を楽しむか。

 

・・・

 

「よう、桃香。よく眠れたか?」

 

昼過ぎ。適当に時間を潰して全ての行事が終わってから、蜀の執務室へと来た。

そこには、すでに相当の人数との挨拶を終わらせたのか、ぐったりしている桃香がいた。

 

「あー・・・お兄さんだー・・・」

 

「だいぶ疲れてるみたいだな」

 

「はわわ・・・すでに二十人以上の方からのご挨拶を終わらせた後ですので・・・」

 

「なるほどな。・・・朱里もあんまり寝てないだろ? 大変だな」

 

雛里は別件で居ないのか、桃香に付いているのは朱里だけだった。

深夜に俺と打ち合わせをしてから、桃香に付いていたのだろうから・・・まぁまともには寝てないだろう。

ぐしぐしと強めに目元を拭うと、化粧が取れて目の下のクマが見えた。・・・ああもう、またこういう無茶をする。

大体朱里が化粧をするときはこういう風にクマを隠したりするときだけだ。

 

「はわわっ、あ、あのあの、こ、これはっ・・・」

 

「あんまり夜更かしすると肌も荒れるぞー。・・・ま、あんまり言っても聞かないよな」

 

はは、と笑いかける。

意外と頑固な朱里は、言ったところで徹夜で仕事を片付けたりし続けるだろう。

まぁ、そういう一途なところは美徳と言っても問題は無いだろう。

 

「取り合えず、挨拶は俺で終わりだろ? 桃香はともかく、朱里は寝ておけ。な?」

 

「はわ・・・分かりました」

 

「私はともかくってどういうこと、お兄さん!? ・・・え、ちょっと! 無視!?」

 

「どうせなら膝枕してやろうか」

 

「はわっ!?」

 

「無視なんだねっ!?」

 

そんな、はわわ、と慌てる朱里をからかうように笑う。

その横で、桃香がはいはい、と手を挙げて身を乗り出す。

 

「あっ、私もして欲しいっ! して欲しいなっ」

 

「ん? なんだって?」

 

「聞こえないフリされたっ!」

 

がん、とショックを受けたように身を乗り出したままで固まる桃香。

桃香はなんだかんだで休んでいるだろうし、いつもしていない仕事で疲れただけだろう。

後で一応労ってはおくけど・・・まぁ今のところは弄らせてもらおう。空回りする桃香は今年一番の輝いている時だと行っても過言ではないだろう。

まぁ、今年始まって半日くらいしか経ってないけど。

 

「そういえばお兄さんも挨拶に来たんだよね? 何か飲んでく?」

 

「あー、そうだな。ちょっと淹れてくるよ」

 

「ふぇっ!? わ、悪いよ、お兄さんお客さんなのに。私が淹れるよっ」

 

「疲れてる子に淹れてもらうわけにもいかんだろ。座ってろ。・・・朱里もな」

 

腰を上げかけていた朱里の肩を抑えて座らせ、厨房へ。

いつでもお茶が飲めるよう、蜀の執務室には簡易厨房が作りつけられていて、お茶を淹れたり簡単な調理くらいだったら出来るようにはなっている。

ほとんど蜀の執務室で仕事をする俺は何処に何があるかも分かっているので、人数分のお茶を淹れたりなんてのは手馴れたものだ。

ちょっとズルをして火力高めに、お湯を数秒で沸かして湯飲みに注いでいく。

 

「お待たせー」

 

「全然待ってないよ。・・・ほんとに待ってないんだけど、何でお湯沸いたの・・・?」

 

何故か戦慄している桃香を他所に、卓の上に三つ湯飲みを置く。

そのまま席に座り、取り合えず一口。

 

「ふぅ・・・いや、やっぱり寒いときは温かい飲み物だよなぁ」

 

「そうだねぇ・・・そういえば前に飲ませてもらった『ここあ』って美味しかったねぇ」

 

「甘くて美味しいだろ。・・・あんまり飲むと虫歯になりそうだから特別な時だけな」

 

特に桃香とかは油断すると普通に虫歯になって泣きそうだからなぁ。

虫歯だけじゃなく油断して食べ過ぎてダイエットに泣くのは数ヶ月に一回の恒例行事だ。

特に秋口から冬に掛けてが一番大変だな。雪降ると外で運動ってやり難くなるし。

 

「次は呉へ挨拶に向かわれるんですよね?」

 

「そうだよ。何かあった?」

 

「あ、いえ・・・えと、これを明命さんにお渡しいただければ、と思いまして」

 

「ん、了解。預かるよ」

 

朱里が取り出した巻物をそのまま宝物庫に入れる。

こうすれば間違って中身を見ることがなくなるので、俺の宝物庫を知っている人間の前ではこうして遠慮なくぶっ込むことにしている。

 

「中身は・・・その、絶対に・・・ぜーったいに! 見ないでくださいね?」

 

「何だ何だ、朱里にしては珍しくフって来るじゃないか」

 

「フリじゃありません! 今日中に渡さないとダメなもので、本当なら自分で渡したいんですけど・・・今日中に渡せそうに無くて・・・」

 

いいですか、絶対ですよ! と再三念を押してくる朱里に分かってるよ、と返す。

信頼されてないのか、それともさっきのフリを本気にしたと思われているのか・・・。

 

「それじゃ、呉の執務室、行って来るよ」

 

「いってらっしゃーい。・・・はっ。しゅ、朱里ちゃん。今の新婚さんっぽくなかった!? きゃー、お兄さんのお嫁さん気分!」

 

「はわっ! そ、その手が・・・い、いってらっしゃいませ、ギルさん! ・・・はわわわ・・・これは確かに・・・イイですね・・・」

 

パタン、と閉じた扉の向こうで、二人が姦しくなにやら騒いでいるようだが・・・。

まぁ、放っておこう。正月はおめでたいから、皆騒ぎたくなるのだろう。お兄さん、ちゃんと分かってるからね。

 

・・・

 

「こんにちわ。あけましておめでとう」

 

「ギルじゃない。そっか、お昼過ぎに来るって言ってたわね」

 

玉座の間に入ると、玉座に座る蓮華に迎えられる。

そばにはシャオと穏、思春に明命、亞莎も居る。・・・冥琳はまだ雪蓮に振り回されているらしい。二人とも姿が見えない。

新年早々大変だな。・・・あれ、でもなんか後々俺も巻き込まれそうな予感もする。

あ、ちなみにさっき蜀の執務室へと挨拶に向かったのは、桃香が駄々を捏ねて『もう玉座に居るの疲れた』と執務室に引っ込んだ所為だ。

普通国主はこうして玉座の間で来訪者を迎え、挨拶を交わすものだ。

 

「あけましておめでとっ、ギルっ。えへへ、後で、明命たちと一緒に卑弥呼から『きもの』って言うの着せてもらうんだ。そしたら、すぐに見せに行くからねっ」

 

こちらに駆け寄ってきたシャオが、椅子に座る俺の腕に抱きつきながら耳打ちしてくる。

ほほう。なるほど、シャオには着物が似合うだろう。正月だから、振袖だろうか。なんにせよ、後の楽しみが出来た。

 

「あとね、明命とか思春とか、亞莎も呼ばれてるみたいなの。・・・お姉ちゃんたちには着こなせないって言ってたけど・・・」

 

なんでだろ、と首をかしげるシャオ。

・・・なんでってそりゃ、胸部装甲の差だろう。

卑弥呼はなんだかんだ言って貧乳の子に優しくある程度以上の大きさの子に厳しいからな。

前の浴衣だって、貧乳だからと月に着せてたし。

貧乳党の名誉党員なだけはあるな。

 

「・・・シャオっ、そろそろ離れなさい」

 

「はーいっ。んもぅ、お姉ちゃんったら気が短いんだから」

 

玉座から動けない蓮華が、俺にべったりとくっ付くシャオにやきもちを焼いたのか声を荒げる。

仕方ないなぁ、と俺から離れたシャオは、半身だけこちらに振り向き、小さく手を振って蓮華の元へと戻る。

 

「それで・・・えっと、挨拶だけど・・・正直こうして来てくれて、挨拶交わしただけで終わりでいいわよね? 他の村の長だとかみたいに、報告することも無いだろうし?」

 

「だな。蓮華もあんまり長い間話してると疲れるだろ。傍に立つ思春たちも辛いだろうし」

 

「・・・優しいのね。まぁ、お昼から立ちっぱなしだし、ギルの挨拶が終わったらちょっと休憩挟むつもりだったの」

 

「そっか。あと魏にも挨拶残ってるから、俺はこれでお暇するよ。・・・全部終わったら、後でゆっくり挨拶に向かうから」

 

「あ・・・う、うんっ。待ってるわね」

 

頬を染めて頷いた蓮華に別れを告げ、玉座の間を後にする。

また後で来たときには・・・振袖姿のシャオたちを存分に楽しむとしよう。

・・・あ、書類渡してないや。・・・まぁ、あそこで渡すよりは、後で個人的に会って渡したほうがいいだろう。

 

・・・

 

「おっす、あけおめ、一刀」

 

「お、ギルか。あけおめー」

 

現代人である一刀と軽い新年の挨拶を交わす。

ここは玉座の間の前、季節柄ちょっと冷える城の通路だ。

厚いコートを着てマフラーも装備している一刀が、白い息を吐く。

 

「華琳に挨拶か?」

 

「そうそう。まだ前の人終わってないのか」

 

「みたいだな。・・・入ってから十分は経ってるけど・・・平均三十分くらい掛かるからなぁ・・・」

 

なんと・・・。っていうか、何故一刀は外で待機しているのだろうか。

 

「あ、俺? いやほら、玉座の間の空気に耐え切れなくてさ。ギルが来るまで外で休憩してようかなって」

 

「・・・そんな重い雰囲気で新年の挨拶してるのか」

 

「あはは・・・華琳はどんなときでも真面目だからさ。むしろ新年最初だからこそ、きっちりと挨拶してるんだと思うぞ」

 

「だろうな。なんだかんだ言って良くも悪くも王だからな、あの子」

 

悪く言えば融通の利かないところがあるということだ。それを補って余りあるツンデレという美点があるけどな。

 

「それにしてもあれだな。こう雪が降るとかまくらとか作りたくなるな」

 

「雪うさぎならさっき作ったぞ。ほら」

 

一刀が指差した方に視線を向けると、妙に綺麗に整列している雪うさぎが数匹あった。

やっぱり手先が器用だな。アレンジされているのもいるし。

 

「綺麗なもんだな。俺もちょっとやってみるか」

 

魔術書を取り出し、積もった雪に魔術を行使する。

雪を風で舞い上がらせ、調整し、固めていく。

数秒もすれば、固められた雪山が出来る。そこに更に風と炎で穴を開け、空間を作る。

 

「よし、出来上がり」

 

「・・・ここまで素早い出来上がりのかまくらはみたことないぞ、俺」

 

「ほら、七輪もセット済みだ」

 

「どこからそんなもの・・・ああ、宝物庫か」

 

「そういうこと」

 

座布団を敷いてその上に座ると、七輪に餅をセットする。

やっぱり正月といえば餅だろう。

 

「うわぁ、懐かしいな」

 

「膨らむ餅を見るとこう・・・潰したくなるよな」

 

「怖いことを真顔で言うのはやめてくれよ・・・」

 

「何で食べる? 俺砂糖醤油だけど」

 

「俺もそれにするよ」

 

ぱちぱちと餅を焼いていると、ぷく、と膨らんでいく。

おー、これ見ると面白いよなー。

 

「それにしても広いな、このかまくら・・・」

 

「多分バーサーカーが寝転んでも問題ないくらいはあるぞ」

 

「かまくらってレベルじゃねーぞ・・・」

 

がっくりと項垂れる一刀を尻目に、餅が焼けたので箸でひょいと取る。

おー、ほかほかだ。

取り合えず砂糖醤油につけて一口。

 

「おー・・・伸びるな」

 

「あ、俺も貰うぞ」

 

俺と同じように、一刀もひょいと餅を取って一口。

 

「これはまた・・・のふぃるな」

 

「口に物入れたまま喋るなよ。行儀悪いなー」

 

「むぐ・・・もぐもぐ・・・そういうなって。そこまでマナー必要な物食べてるわけでもないし」

 

「ま、それもそうだけど」

 

むぐむぐ、と特に会話も無く餅を食べる。

・・・なんだこの空間。華がないよ華が。

 

「お、出てきた。終わったみたいだな」

 

餅を食べ終わり、しばらく暖を取っていると、玉座の間から数人の団体が出てくるところだった。

それをしっかり見送った後、よいしょ、と立ち上がる。

取り合えず七輪なんかを宝物庫にしまいこみ、だだっぴろい空間だけになったかまくらをあとにする。

今度璃々でも連れてきて餅をご馳走するとしよう。

 

「よし、行くか」

 

「オッケー」

 

一刀に先導されるように、玉座の間まで向かう。

扉の横に立つ兵士がこちらを見て、そのまま扉を開く。

顔パスっていうやつだ。こういうとき、有名なのは便利だな、と思う。

重厚な音を立てて扉が開くと、玉座の間に座る華琳とその両脇を固める秋蘭と春蘭の姿。

更にその近くには、桂花が立っている。・・・何時も通りの、華琳大好き組だ。

 

「げ・・・最後の挨拶ってあんただったの」

 

「何時も通りだな、桂花。あけましておめでとう」

 

「・・・おめでと。っていうか、私より先に華琳様に挨拶しなさいよ。バカじゃないの?」

 

「ふふ。桂花も随分もギルと仲良くなった様じゃない?」

 

「あけましておめでとう、華琳。大変みたいだな」

 

挨拶がてら、華琳を労う。

まぁね、と軽いため息をついた華琳。

 

「それでも、疎かにしていいものではないから」

 

「その通りだな」

 

その割には、春蘭が眠そうにこっくりこっくり舟をこいでいるが。

俺の視線に気付いたのか、華琳が全く、と呟く。

 

「春蘭?」

 

「はっ!? ・・・はいっ、なんでしょうか!」

 

「・・・おはよう。ギルに挨拶をしなさいな」

 

「む? いつの間に来ていたのだ? ・・・まぁいいか。今年もよろしく頼むぞ、ギル! 今年こそは貴様から一本とってやるからな!」

 

「・・・くく。私ともよろしく頼むぞ、ギル。姉者ともども今年も世話になるだろうしな」

 

笑いをこらえた顔の秋蘭が、春蘭の挨拶に乗っかるように挨拶をする。

・・・またこの妹は、はしゃぐ姉を娘を見る母親みたいな目で見るなぁ・・・。

 

「ああ、よろしくな。・・・で、華琳。これで挨拶は終わりということで良いか?」

 

「・・・良いと思う?」

 

「・・・思わないな、その顔見ると」

 

何で覇王の頃の顔してるんだろうか、この子。

やめてくれないかなー。隣の猪さんが空気に当てられて訳もわからずこちらに突撃かましそうだからさー・・・。

 

「一度貴方とはきっちりと話をしておくべきだと思ってたのよ」

 

・・・何のことだろうか。俺そんなに責められるようなことやってないと思うけどな。

 

「試合で熱くなると乖離剣で時空断層を生み出したり、水着を作る為に龍を討伐したり、その過程で貴方の能力を知る一般兵が出てきたり・・・」

 

あ、結構やってるな・・・。

 

「まぁ、もう注意することは諦めたけど・・・くれぐれも、歴史書に名を残すような失態はしないようにね。国一番の妖術使い、なんて人々に語られた日には隠してきた意味が無くなるから」

 

「・・・町の人たちも俺のこと『なんか普通の人とは違うな』くらいには気付いてるけど・・・」

 

「・・・はぁ」

 

思いっきりため息をつかれた。

まぁ、城下町の人からも「ああ、そうね。黄金の将は普通の人だよね。たまに背後から武器が飛ぶけど」とか「そうそう、普通の将だよ。たまに人間を超えた動きをするけど」とか、たまに言われることも・・・あれ、ばれてる?

何処で間違ったかな。そんなばれるようなミスはしてなかったと思うんだけどな。

 

「あ、俺もそういう話し聞いたことあるぞ。便利だからって街中でたまに使うだろ、宝物庫。あれ、見られてるみたいだぞ」

 

「衝撃の新事実! え、マジでか!」

 

「マジマジ。中庭でもたまに目撃証言あるし」

 

そっかぁ・・・最近ちょっと気を抜いてたかも知れんな。

 

「一刀からの報告を受けたことがあるけど、そこそこ好意的に受け取られているようね。これも『黄金の将』の人徳かしら」

 

「俺の知らないところでそんなことが・・・」

 

これからは気をつけるとしよう。

うぅむ、新年一発目から結構言われてしまったな。

 

「まぁ、新年ですし、このくらいにしておきましょう。・・・あ、後桂花をよろしくね。最近貴方のことばかり話すから、きっと寂しいんだと思うわ」

 

「かっ、華琳様っ!?」

 

「お、そうだったのか。桂花、この後暇か? これから俺の部屋に来たら、振袖着れるぞ」

 

「あんたまで何言ってんのよ! というか華琳様っ。私は寂しいなんて思ってませんっ」

 

「あら? そうかしら。じゃあ、この前ギルを見て声を掛けようかどうしようか迷って、結局ため息をついて見送っていたのは・・・私の見間違いかしらね」

 

「華琳様ーっ!? そ、そんなのを何処でご覧に・・・き、聞くなバカっ! さっさと退室しなさい!」

 

ニヤニヤと笑う華琳に弄られる桂花は、これ以上聞かれたくないのか俺に怒鳴ってくる。

まぁまぁ、と宥めてみるが、若干涙目の桂花には逆効果のようだ。

 

「・・・あー、まぁ、仕方ないか。気が向いたら来いよ。俺の私室で着替えとかやってるから」

 

「誰が行くかっ!」

 

「ごめんなさいね、ギル。後できちんと向かわせるから」

 

「おう、それじゃ、先に行ってるからな、桂花」

 

「だから行かないって言ってるでしょ! あんたの部屋でなんて、何されるか分かったもんじゃないんだから!」

 

「卑弥呼も居るし、シャオとか思春とかも居るから、変なことはしないと思うけどな」

 

「・・・そうなの? ・・・はっ!? そ、それでもよ! あんたのことだから、着替えでも覗くに違いないわ!」

 

・・・俺の信用がマッハで急降下しているようだ。

華琳と秋蘭、一刀はニヤニヤとやり取りを見守っているが、春蘭は頭にクエスチョンマークを浮かべながら小首をかしげている。

多分なんでこいつこんなにはしゃいでいるのだろう、くらいに思っているに違いない。

 

「ま、兎に角待ってるからなー」

 

まだ何か言っているようだったが、これ以上居ても桂花が疲れるだけだろう。

どっちみち華琳から命令されてでも向かわされるんだから、自室で待っていたほうが得だ。

・・・というか、貧乳党だから卑弥呼から打診されてると思うんだけどな。卑弥呼って貧乳贔屓だし。

 

・・・

 

「お、もう来てたのか」

 

「あら、予想よりも早いじゃない」

 

俺の部屋では、すでに卑弥呼が眠る壱与の隣で寛いでいるところだった。

・・・まだ寝てたのか、壱与・・・。

 

「あんたの部屋に来たら壱与が寝てたんだけど・・・何、早速姫初めたの?」

 

「いや、まだだよ。匂い、しないだろ?」

 

「・・・それもそうね。また殴られるのは勘弁だから、私もまだ姫初めはいいわ」

 

「そうしとく。それで? 何人くらい来るんだ?」

 

「んー? えっと、ひぃ、ふぅ、みぃ・・・六人かしら」

 

「意外と少ないな」

 

シャオ、明命、思春に亞莎・・・後は桂花と風だろうか。

 

「後の奴らは忙しいみたいでねー。はわわとあわわは蜀の要でしょ? 男女と姦し娘は仕事だし・・・後は知らない顔ばかりだしね」

 

「あれ? 詠とかは?」

 

「・・・妊娠中の母親と意外と乳のある軍師なんて呼べるわけ無いでしょ」

 

ちっ、と舌打ちをしながらそう吐き捨てる卑弥呼。

ああ・・・詠って結構胸あるからなぁ。月も妊娠中というのもあるけど、最近ちょっとずつ大きくなってるみたいだし。

ねねとか美羽とかとは面識が無いんだろう。流石に面識の無い子に「振袖着ない?」と勧誘するのは幾ら卑弥呼でもやらなかったらしい。

そんなことを話していると、こんこん、と扉をノックする音が。

 

「来たかしらね。・・・寝室で着替えるから、あんたは居間に居ること。いいわね?」

 

「はいはい。取り合えず扉開けるぞ。はいはーい、今開けるぞー」

 

扉を開けると、シャオたち呉のひんにゅ・・・卑弥呼の選んだ美少女たちが立っていた。

 

「あっ、ギルだーっ。さっきぶりね!」

 

「おう、さっきぶり」

 

抱きついてくるシャオを受け止め、頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「ギル様っ、あけましておめでとうございますっ」

 

「こ、今年もよろしくお願いいたしますっ」

 

「今年もよろしくな、明命、亞莎」

 

その後ろに居た明命と亞莎が深々と頭を下げながら挨拶してきたので、軽く手を挙げて答える。

本当ならば彼女達も撫でてあげたいが、シャオがグリグリとこちらを押すように頭を押し付けてくるので、どうも届かない。

 

「・・・ふん」

 

「思春もきてくれたのか。今年もよろしくな」

 

「・・・まぁ、よろしくしてやる」

 

明命たち二人の更に後ろ。不機嫌そうな顔をした思春がつい、と顔を逸らして立っていた。

だめもとで挨拶してみると、ちらりと目だけでこちらを見て、一応返事をしてくれた。

最近仲良くなれたと思っていたが、俺の勘違いではなかったようだ。良かった良かった。

 

「はいはい、それじゃギル以外あっちの寝室ね。着替えるわよ」

 

壱与起こさないと、と言って、卑弥呼は寝室へと我先に入っていった。

行っておいで、と四人を向かわせる。

 

「・・・あれ? 思春は行かないの?」

 

「私は・・・一応呼ばれはしたが、着るとは言っていない」

 

「あー・・・まぁ、一度に何人も行ってもアレだしな。少しお茶でも飲むか?」

 

「必要な・・・いや、やはり貰うとしよう」

 

厨房へと向かった俺の後ろについてきて、「手伝おう」と申し出てくれた。

それなら、と湯のみの用意なんかを任せる。

しばらくあっちのほうは出てこないだろうから、俺と思春の分だけでいいだろう。

 

「よし、これでいいかな」

 

「随分手際が良いな」

 

「まぁ、自分で飲むときは自分で淹れたりしてるからな」

 

「なるほどな、どうりで」

 

何故か感心している思春を連れ、再び居間へ。

卓の上に二人分の湯飲みを置いて、席を勧める。

二人して同じタイミングで湯飲みを取り、お茶を一口。

 

「・・・それにしても、あの・・・卑弥呼と言ったか。小蓮さまたちは分かるが・・・何故私も呼ばれたのだろうか」

 

「あー・・・ほら、思春は・・・美少女だから! 振袖が似合うのは、ある程度しゅっとした子じゃないと似合わないからさ」

 

「ばっ・・・貴様はまたそういう・・・」

 

顔を赤くして身を引く思春を前に、俺は心の中でガッツポーズを取る。よし、誤魔化せた!

流石に本人に『和服は貧乳の子の方が似合うんだよ』とはいえない。シャオたち貧乳党にはもっといえない。

卑弥呼も多分それを伏せて誘ったのだろう。『巨乳滅ぶべし。でも自分達も巨乳にはなりたい』というのが貧乳党で、『貧乳なのは仕方ないし、そのよさを見つければいいじゃない。ついでに仲間を増やしてやる』というのが卑弥呼だ。

きちんと卑弥呼は違いを分かっているので、下手に地雷を踏むことは無いだろう。

俺も、胸のあるなしで自信をなくしたり妙な行動をとり過ぎるのは目に余ると思っていたのだ。

「はわわ・・・小さいので、あまり見ないでください・・・」というのは中々可愛いところがあるし、興奮もするが、それが高じすぎて穏に殺意交じりの視線を向けるのはやりすぎだ。

 

「・・・まぁ、それについては、私はもう諦めることにしたのだ」

 

「え?」

 

胸の大きさについて? とつい口走りそうになって、慌てて口を噤む。

あっぶねー。脳内の話をそのまま現実に出力しそうになってた。

流石にこの至近距離で鈴の音は聞きたくない。

 

「貴様のその軟派なところだ。・・・私のようなものにまで可愛いとか何だとか・・・」

 

「事実だからな。それを軟派といわれれば・・・まぁ、否定は出来ないけどさ」

 

ようやく話の流れをつかめた俺は、ため息をつく思春に反論する。

思春は自分を兎に角貶めるが、何故そこまで自信を持てないのだろうか。

愛紗と同じような理由か? つまり、「自分は武に生きるもので、女という部分では他には多大に劣っている」と考えているのだろうか。

・・・それはいかん! 愛紗もそうだが、思春のような子にこそ、可愛いくなることに興味は持ってもらいたい。

 

「例えば髪を下ろすだけでも随分印象変わるだろ。あ、それであの服着てもらうのも良いかもな」

 

以前渡したあの服は、今のお団子にしている髪をすべて下ろしたほうが似合うだろう。

明命ともお揃いのロングヘアーになるだろうし、良いかもしれない。

 

「近々着てもらうからさ。あ、その前に振袖だな。楽しみにしてるよ」

 

「・・・ここで断ってもおそらく貴様は諦めんしな。仕方あるまい」

 

大きくため息を吐いて、思春は渋々了承してくれた。

俺のしつこさに諦めて・・・だとは思うが、おそらく着てみたいという思いも少しはあるのだろう。

結構乱用しているが、俺の眼は本質を見抜く目。ある程度親しい思春であれば、表層心理に隠された本心くらいは読み取れる。

 

「ありがとう、思春。明命たちにも話して、近日中には着てもらうから」

 

「好きにしろ」

 

ずず、とお茶を一口。思春は特にこちらを罵倒することも無く世間話にも乗ってきて、中々楽しい時間を過ごせた。

 

・・・

 

着付けの終わったシャオたちが俺の前でそれぞれの反応をしてくれている。

シャオとか明命は積極的に見せてくれたりくるくる回ってみたりしているが、亞莎は恥ずかしがって思春の後ろに隠れてしまっているし、その思春は頬を赤くしているものの、特に何も言わずにそっぽを向いてしまっている。

取り合えず、シャオは姉と同じ血を継いでるんだな、と思える。振袖のような少し派手な着物も、きちんと煌びやかに着こなしているしな。

明命はかなり親和性が高そうだ。黒髪で長髪だからか、結い上げた髪が振袖・・・もっと言うと、和服と合っている。

亞莎と思春ももちろん似合っているが、二人とも目つきが鋭いので全体的にきりっと引き締まっているような印象を受ける。

卑弥呼もそれを理解しているのか、装飾を少し控え目にしているようだ。ちなみに二人ともお団子は解いてある。二人の髪を下ろした姿は珍しいので、今のうちに目に焼き付けておくことにする。

 

「全員似合ってるよ」

 

「でしょ、でしょ? 姉様には負けるけど、シャオだって呉のお姫様なんだから!」

 

「だな。大人っぽいよ、シャオ」

 

「あ・・・えへへー・・・わ、分かるー?」

 

俺の言葉に照れてしまったらしいシャオを撫でると、恥ずかしそうに俯いてしまった。

どうやら『大人っぽい』といわれたのが効いたようだ。・・・まだまだ子供だなぁ。

 

「明命も良いな。黒髪は映えるよ、やっぱり」

 

「あ、ありがとうございますっ。その、ギル様は私の髪がお好きなようなので・・・その、これからも伸ばしていきますね」

 

出会った時よりかなり伸びた黒髪を、髪型を崩さないように撫でる。

うん、手触りも最高だ。きちんと手入れをしているに違いない。・・・最近愛紗と仲がいいらしいが、きっと髪のことを聞いているんだろう。

 

「亞莎、ほら、隠れてないで見せてごらん」

 

「は、はいっ・・・!」

 

おずおずと思春の影から出てきた亞莎は、そっぽを向いたままの思春からの後押しもあって数歩前に出てきた。

おぉ・・・恥らう乙女はやはり良い。亞莎も思春も、華美過ぎない柄が選ばれているからか、とてもスマートに見える。

 

「似合ってるな。・・・卑弥呼、髪も弄れたのか」

 

結構難しそうな髪型になっている亞莎を見て、ふむ、と頷く。

女性の服や髪型にはかなり疎いが、この亞莎の髪型は相当苦労したんじゃなかろうか。

あ、ちなみに卑弥呼は遅れてきた桂花と風の着付けを壱与と副長を連れてやっているところだ。

後で彼女達自身も着てくるらしいので、この部屋は一気に華やかになるってことだな。

 

「思春もバッチリだよ。やっぱり元が良いと似合うよな」

 

「・・・貴様は本当、ブレないな」

 

短くため息をついて、こちらに近づいてくる思春。

どうしたのだろうか、と首をかしげていると、赤い頬を更に赤くし

 

「存分に見ろ。貴様が着ろと言ったんだからな」

 

そう言って両手を軽く挙げてゆっくり一回転。

おぉ、こんなにノリノリな思春は初めてだ。明命も驚いているのか、目口を開いている。

 

「・・・感想くらい言え。これでも相当恥ずかしい」

 

「ん、あ、ああ。もちろん、綺麗だよ。これからも色んな服着てみてくれよ。な?」

 

「・・・考えておこう」

 

最後にそう呟いて、一人ぽすんと椅子に座った。

他のシャオたちは俺の近くでお互いに似合ってると褒めあっている。

 

「お待たせー、なのですよー」

 

「ちょ、風っ。そんないきなり・・・あっ、み、見るなっ!」

 

ばたん、と扉が開き、中から風と桂花が出てきた。

もちろん全員の視線がそちらにいくわけだが・・・桂花の『見るな』というのは俺に言っているのだろう。視線がこちらに向いてるし。

胸元でクロスされた手は、恥ずかしさを感じた少女そのものだ。・・・ふふ、いじめたくなってくるなぁ、ホント。

 

「わぁっ、お二人ともお似合いですね!」

 

「風もびっくりなのですよ~。この量の髪を整えるとは・・・卑弥呼さんの技量には驚くばかりです~」

 

「・・・確かに、横で見てて私もそれは思ったわ。・・・あいつ、なんだかんだで結構技術持ってるわよね。邪馬台国の女王って言うのは、そんなことまで出来ないとダメなわけ?」

 

「んなわけないでしょ。卑弥呼様は自分で髪を弄ったりお化粧されたりするから、それが高じてあそこまでの技術になったってことなんだから」

 

桂花の言葉に、のっそりと寝室から出てきた壱与が返す。

・・・あれ、あの言葉遣いに違和感あるの俺だけなのかな。結構冷たい対応だな・・・。

 

「壱与? 着替え終わったんだな。よく見せてくれないか?」

 

「はいっ! もちろんでございます! ど、どうでしょうか? ・・・はっ、もしかして、ギル様とこのまま寝台へ・・・じゅるっ」

 

おっといけね、とか言いながら、涎を拭う壱与。

・・・ああ、通常運転だな。全く問題ないわ。

おそらく、俺と卑弥呼以外にはあの口調が出るのだろう。

すりすりと体を寄せてくる壱与の手を取り、爪の半月をぐい、と押し込む。

 

「あっづぁ!? あ、新しい痛みの感覚・・・新境地!」

 

おおよそ女の子として相応しくない叫びを上げて、壱与が自分の手を見る。

麻酔が掛かってるかどうか、意識を失っているかどうかの確認のとき、爪の半月を押すといいらしい。

あれ? 足のだったかな。・・・まぁ、取り合えず無条件に痛いので、壱与以外にする気はないけど。

 

「・・・ドン引き。100%中の100%のドン引きなんだけど・・・」

 

「あははー・・・何この空間? あれ、ここ中国大陸だよね? すげー懐かしいんだけど。月の宮殿か日の本の京に居る気分」

 

遅れて部屋から出てきた卑弥呼と副長が、部屋を見渡して一言。

確かに、人物だけ見れば純和風だ。部屋は中華だけど。

 

「た、たいちょー、なんでしょう、何故か完全アウェーのこの国で、滅茶苦茶懐かしさ感じてるんですけど・・・。ちょい泣きそう」

 

「安心しろ。俺も何故かホームで試合をしているような安心感を抱いてるから」

 

「たいちょおおおぉぅぉぅぉううぉぅ・・・」

 

何故か泣きついてきた副長を抱きとめ、よしよしと撫でる。

・・・流石は愛紗、明命とトップを競う黒髪だ。美しい。

 

「あ? なによ、もう始めるの? ・・・ってか、何人か見慣れない奴居るんだけど・・・こいつらも一緒に姫初め?」

 

「何を言ってるんだ卑弥呼。・・・それにお前、さっき姫初めはまだいいって」

 

「それは壱与が寝てたからよ。殴られる心配が無いなら・・・ほら、こういうの興奮しない?」

 

ちらり、と少しだけ振袖を肌蹴させ、鎖骨を見せる卑弥呼。

・・・流石は日本人! 変態のDNAはここから始まっているのか。チラリズムを理解しているとは・・・!

 

「・・・あ、おっきくなってる」

 

「副長、それ以上言ったらぶっ飛ばすからな」

 

座っている俺にすがりつくように泣き付いていた副長は一部分の膨張にいち早く気付いたようだ。

すりすりと撫で始めたので、牽制しておく。

 

「おぉ~。なるほどですね~。好みの服装に着替えさせて多人数で・・・風も参加しますですよ~」

 

何かを察知したらしい風が、歩きづらそうにしながらもこちらにやってくる。

その後、はっとした顔をした他の女性陣が、それぞれの反応を見せてくれた。

風のようにこちらに駆け寄ってくる壱与や明命にシャオ。そして、どうしようか迷っている亞莎と思春、あと桂花。

 

「まさか・・・私たちを着替えさせたのはそういうことだったの!? ほんとにあんたは全身精液男ね! 年の初めからそんなことしか考えられないのかしら!」

 

いち早く再起動した桂花が、俺を罵りながら、こちらに指を突きつける。

そんな桂花をスルーしつつ、亞莎に声を掛ける。

なんだかんだで想いを受け入れてから、そういうことはしてなかったからな。

 

「亞莎はどうする? ・・・もし不安なら思春に送ってもらうけど」

 

流石に思春は参加しないだろう。そう思って言ってみたのだが、シャオが俺の腕に抱きついたまま顔を上げて思春に話しかける。

 

「あれ? 思春も一緒にしていけば? ・・・最近、お姉ちゃんにも勧められてるんでしょ?」

 

「なっ・・・? 何故小蓮さまがそのことを・・・!?」

 

「だってお姉ちゃんに相談されてたんだもん。もし機会があれば、誘ってあげてって。・・・ギルのこと、好きなんでしょ? 聞いてるよ」

 

ニコリ、と小悪魔の笑みを浮かべるシャオ。・・・こいつ。ワザと俺の前でこの話したな?

これで俺も思春の気持ち聞いちゃったし、思春は俺本人に気持ち聞かれちゃったし・・・。答えを出さざるを得ない状況にしやがったな。

ちょっとした仕返しのつもりで強めにシャオの頭を撫でるが、「全部分かってるよ?」という笑みで見上げられてしまった。・・・小悪魔じゃない。悪魔だ・・・! シャオ、怖ろしい娘・・・!

そんなやり取りがあったからか、全員の視線が思春に向かった。

 

「・・・あ、逃げようとか思わないほうがいいわよ。・・・多分壱与が結界張ってる」

 

「よくお分かりになりましたね、卑弥呼様。その通りです。ギル様の寵愛を受けられるのに逃げるとか、壱与的には殺害対象なので」

 

卑弥呼と壱与の言葉がトドメになったのか、思春は諦めてこくり、と頷いた。

 

「・・・認める。私はギルを慕っている、とな。・・・小蓮さまのおかげで、決心もついたしな」

 

頬を赤く染めつつも、思春はこちらに歩いてくる。

 

「あーっと・・・まぁ、急なことだけど、ありがとな」

 

「礼を言われるようなことではない。・・・丁度、この胸のわだかまりのような物がなんだか気付いたのだ」

 

「亞莎はどうする?」

 

「・・・っていうか、何で私の言葉は流されてるのよ!?」

 

シャオの言葉の直後に、桂花が声を上げる。

いや、ほら、だってなぁ・・・?

 

「えー? だって桂花さん、絶対隊長に言い寄られたら断れないじゃないですか。意外と押しに弱いし」

 

「はぁ!? 何言ってんの? 何でこんな変態男に・・・」

 

「桂花っ」

 

「は、はいっ!? ・・・じゃない! 何よ!?」

 

俺の強い口調に、一瞬敬語になりかけた桂花だが、何とか持ち直したようだ。

 

「・・・来るよな?」

 

「あ・・・う・・・分かったわよ。行けばいいんでしょ! 行けば!」

 

あんたも行くわよ、と亞莎の手を引っ張る桂花。

「ふぇ!?」と素っ頓狂な声を上げる亞莎は、手を引かれるままだ。・・・巻き込むなよ。まぁ、亞莎もきっかけを欲していたようだから良かったけど。

というか、ほんとに押しに弱かったのか、桂花。確かに初めてのときも強引にいったしなぁ。

やはりこれからも結構押しを強めにいったほうがいいのかもしれないな。

 

「じゃ、寝室行きましょ、ギルっ。この服、ギルの故郷の服なんだよね? えへへ、懐かしい気分にさせたげるっ」

 

「んー・・・あんまり感極まると泣くかもしれないから、その辺は自重してな?」

 

「え、ギル様がお泣きになってるところとか滅茶苦茶見たい・・・ああ、でもギル様を悲しいお気持ちにさせるなんて壱与には・・・ぐぎぎ、どうすればいいのこの矛盾・・・」

 

女子らしくない壱与の呟きも連れて、俺達は寝室へと向かった。

・・・まぁ、思春が寝台で恥ずかしがるというレアな顔と、亞莎の健気な姿を見れた、とだけ追記しておく。

あと、やっぱり和服は良いね。帯を解いて肌蹴させる瞬間が一番興奮するかもしれない。

 

・・・




「あー。これで三人目? 次のかたー」「失礼します」「・・・うわ、何この正統派お姫様。ええと、何々? 『迦具夜』?」「お初にお目にかかります。月の都の姫、迦具夜です」「・・・あ、副長さん?」「あ、ご存知でした? ・・・なーんだ、結構つくろってみたんですけど、あんま意味無い感じですかね?」「何この変わり身の速さ! ・・・あ、じゃあ、ギルって方の宝具での召喚には・・・」「もちろん応じますよ。なんてったって、旦那様だし。・・・きゃっ、旦那様ですって! タマちゃんに自慢しよーっと!」「・・・うざ。あ、そういえばこの卑弥呼って方と壱与って方は・・・」「あ、二人ともオッケーだと思いますよ」「よかったー。これで面接の手間が省けましたね。ええと、ジャンヌさん、アタランテさん、迦具夜さんに卑弥呼さんに壱与さん、っと・・・じゃ、次の方ー」


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