真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「うぅ・・・こうも寒いと、やっぱり早く春よ来い、と思うよなぁ」「春・・・花粉症・・・発生する虫達・・・コートの中に何も着ない人たち・・・」「・・・ギル、なぁギル? ギルってさ、季節変わるごとにネガティブなワード発しないといけない病気か何かなの?」


それでは、どうぞ。


第六十三話 春を思う季節に

「ギル様、このようなところで・・・私に何か御用でしょうか」

 

ランサーを連れてやってきたのは、海だ。黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)は早いから助かる。

 

「いやなに、以前結構ランサーの同胞をボッコボコにしてしまったからな・・・そのお詫びと言ってはなんだが、渡したいものがある」

 

「渡したいもの・・・ですか」

 

ある程度ランサーの同胞も復活してきたらしいし、これから渡すものも使いこなしてくれるだろう。

 

「開け、宝物庫」

 

一際大きな波紋が海上に生まれる。ゆっくりと宝物庫からその姿を現すのは、灰色の巨体。

かつての大日本帝国海軍の切り札として開発され、現代日本でおそらく一番の認知度を誇るそれは、大きな波を起こしながら着水した。

 

「こ、これは・・・!」

 

驚愕の表情でランサーが見つめるその先には・・・。

 

「『軍艦・大和』・・・まさか、宝物庫には軍艦も・・・?」

 

「らしいな。未来、過去、現在問わず、『人類の知恵の原典』そのものが入ってるらしいから」

 

「なるほど・・・」

 

「ちなみに他の艦も入ってるぞ。・・・まさに艦隊これくしょ」

 

「それ以上はいけない気がいたします!」

 

「そ、そうか」

 

真面目に渇を入れられたので、ちょっとたじろいでしまった。

だがまぁ、他にも色々と入っているので、ランサーの人数が揃い次第他のも出していこうと思う。

・・・燃料も弾薬も、魔力で稼動するので、正直オーバーテクノロジーだろうが・・・。

まぁ、隣で目を輝かせているランサーの前では、些細な問題だろう。今まで頼りすぎてたからな。こうやってお返ししていかないと。

そんなことを思っていると、隣のランサーが急に顎に手を当てて何やら考え込み始めた。どうしたんだろうか、と耳をすませてみると・・・。

 

「・・・時代的には今の日本は邪馬台国・・・今のうちに日本を統一し、大和以下連合艦隊による大日本帝国の再興・・・いやしかし、戦国時代を無視するのは・・・やはりある程度待って・・・そのためには受肉・・・聖杯が必要か・・・!」

 

・・・何やら恐ろしいことをぶつぶつ呟きだしたランサーを、俺は勤めて無視することにした。・・・こいつ、受肉するつもりじゃないだろうな。幾らライダークラスのときの宝具を得たからと言って、そこまで『ライダー』になる必要はないぞ・・・?

ちなみに、『大和』のほかにも『霧島』とか『日向』とかあるし、『きりしま』とか『ひゅうが』とかもあるのだが、それは言わないでおこう。

イージスシステムとか使うなら衛星打ち上げないといけないし。・・・流石に宇宙まで行くのは面倒だ。衛星は『ひまわり』から『はやぶさ』まで色々とあるけど、それ設置したら次は宇宙センターが必要になってくる。

もうそこまで行くと設置するものが延々と終わらないので、このくらいのもので我慢して欲しい。ランサーも第二次世界大戦ごろの英霊なんだから、あんまり新しすぎても使いこなせないだろうし。

・・・いや、それでも渡したらそのうち使いこなしそうなのが恐ろしい。

 

「・・・少し、中を見ても?」

 

「もちろん。存分にどうぞ」

 

いつの間にか増えていたランサーたちが、我先にと大和へ駆ける。

しばらく外で見ていると、エンジンが入ったのか低い音が響き始める。

・・・これが、大日本帝国海軍の戦艦の中でも最大、最硬を誇り、46センチの主砲を積んだ切り札。

ゆっくりと進み始めたその巨体は、太陽の光を鈍く反射して波を起こす。

甲板でこちらに手を振るランサーたちに手を振り返し、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に乗り込む。

上空に上がると、ゆっくりと進むように思考する。『大和』の上空をゆっくりと旋回しながら、しばらく慣らし運転に付き合った。

 

「いやー、やっぱりああいうのは男の子のロマンだよなー」

 

・・・ちなみに、テンション上がりすぎたランサーが主砲をぶっ放し、甲賀が魔力不足でぶっ倒れたのはまた別の話。

 

・・・

 

「む」

 

「ん? お、思春。・・・薄着だなー。寒くないの?」

 

「いや、特には。冬だから一応厚着はしているつもりだが・・・」

 

おかしいか? と視線で問う思春に、いや、と首を振って否定する。

・・・まぁ、確かにマフラーをつけてワンピースのような丈の長さのセーターを着ているみたいだが・・・足、寒くない?

やっぱり女子の足にはデフォルトで『寒さ耐性』とか着いてるんだろうか。でも生足も好きだから俺は肯定派です。

特に思春と明命は隠密で敏捷特化の将だからか、足の綺麗さには定評がある。明命の足とか凄いすべすべしてたもの。思春もきっとすべすべに違いない。

 

「というわけで思春に冬服の贈り物だ」

 

「・・・会話に脈絡が無いな。貴様がそう言って渡してくるものは大体変なものだ。そんな怪しいもの、受け取れん」

 

「えー」

 

「不満そうな声を出しても無駄だ。・・・というより、私がそれを受け取って・・・素直に着ると思うのか?」

 

鋭い瞳でこちらを睨みつける思春。だが、こちらには秘策があるのさ。

 

「着るだろうね。なぜなら、蓮華から命じてもらうから」

 

「ばっ・・・! 貴様、アホか! そんなくだらないことのために蓮華さまのお手を煩わせるなど!」

 

「それでもダメならシャオと雪蓮にも協力要請をする。俺はな、思春。俺がやりたいと思ったことは結構強引に叶える性格なんだ」

 

「ぐ、ぅ・・・真顔で何をふざけた事を・・・」

 

少しだけ体勢を引いた思春に、ここぞとばかりに詰め寄る。

一歩踏み出すと、それと同じように思春は一歩引く。数歩詰め寄ると、思春の背中は壁にぶつかった。

・・・ふふふ、意外と思春は押しに弱いからな・・・。

 

「良く考えてみろ。思春が素直にこれを着てさえくれれば、俺が蓮華に変なことをお願いしなくても済むんだぞ? 蓮華を助けると思って、素直に着たらどうだ?」

 

思春本人を責めても弱いと思ったので、蓮華に絡めて攻めて行く。

女の子を壁際に追い詰め、顔のすぐ横に手を当てるあの少女漫画でお馴染みの体勢で思春を問い詰めていくと、最後には顔を真っ赤にして頭を縦に振る思春が出来上がる。

・・・っしゃ。最近思春も丸くなったし、ダメ元でやってみたけど・・・案外いけるな。

こちらから攻めよう、という意思と、冥琳に言われたことでちょっと心境の変化もあったので、これからは思春の様にキツク当たってくる娘にも強気で行くことにしたのだ。

 

「じゃあ、これ、受け取ってくれるな?」

 

「・・・仕方あるまい。あくまで、蓮華さまのお手を煩わせるのが心苦しいのと・・・貴様が余りにもしつこいから、面倒になっただけだからな。勘違いするなよ」

 

・・・テンプレの台詞まで言ってくれるなんて・・・。思春、クーデレ系かと思ってたけど、意外とツンデレ系なのだろうか。どちらにしても、俺未だに思春のデレ見た事ないけど。

 

「何故そこで笑顔になる。・・・全く、貴様は本当に訳のわからん男だ」

 

包みを抱えてため息をつく思春。顔色が元に戻っているから、これは素で呆れているらしい。

まぁ、思春の中での俺の評価は基本的に低いだろうからなぁ。この反応には慣れているとはいえ、喜ばしいわけではない。

まだその扉は開いていないし、これからも開く予定は無い。そういうのは壱与だけで十分である。

 

「これから仕事あるのか?」

 

あんまり思春を壁に追い詰めたまま話をしていても妙な噂を立てられるので、取り合えず移動しながら話をすることにした。

その道中で思春の予定を確認しておく。

 

「私の仕事はないが、一応やることはある。すでに蓮華さまから年内の仕事は無いと伝えられているが、それでも蓮華さまのお手伝いで協力できることはあるからな」

 

「そっか。・・・じゃあ、あれだな。また仕事終わった頃に声掛けるよ。そのときには、着てくれよ?」

 

「・・・はぁ。そんなに私にこだわって、何の意味があるんだ?」

 

こちらを見上げるようにしてそう聞いてくる思春。その質問に答えようと視線をちらりと紙袋に向ける。

歩くたびにがさがさと音を立てる紙袋の中には、明命、亞莎とテーマを同じくした衣装が入っている。

少なくとも今の格好よりは温かいと思うんだが・・・まぁ、渡した本来の目的はそんな優しいものじゃない。ただ着てるところを見たかったからだ。

水着姿を見たいからと龍を討伐する俺にその辺の隙はない。

 

「私に構っている暇があるなら、蓮華さまを寂しがらせないようにしたらどうだ、全く。・・・自分で言うのもなんだが、こんな無愛想で反抗的な女に構ってる暇は無いだろう、貴様も」

 

「何言ってるんだ、思春。もちろん蓮華は大事だし、寂しい思いをさせないように・・・ほら、昼夜問わず色んなところ出歩いてるけどさ。それと同じくらい、思春も大事な子だから」

 

なんだかんだと命を狙われたり鈴の音を聞かされたり背後を取られたりと襲われまくってはいたが、そのうち一度でも殺意が混じっていたことは無かった。

まぁ、本当にやると不味いから、と自重していたからかもしれないが、そうやって話したり戦ったりしているうちに、思春も俺の中ではこうして仲良くするべき大事な子だという認識を持つにいたった。

そういうことを詳細に説明すると、途中で「もういい」とため息混じりに止められてしまった。

 

「そういえば、貴様はそうやって恥ずかしいことを恥ずかしげも無く言う人間だったな。気障というか・・・」

 

「・・・思春の中での俺のイメージは『気障男』だったのか・・・?」

 

ちょっとショックを受けた。いやまぁ、否定する気はないんだけど、そういう認識をされていたという事実はそれなりにショックである。

『ナルシスト』と言われた並のショックである。幸運なことに、まだ言われたことはないけれど。

 

「そういうことではないっ。・・・まぁ、なんだ、たまに良い事を言うし、その辺の男よりは見所もあると思っている。・・・本当だぞ」

 

「疑ってはいないって。ただ、ちょっと驚いただけで」

 

・・・これが思春のデレなんだろうか。明日槍が降ってくるとか無いよね? 天変地異の前触れとかじゃないよね?

そんなことを思っていると、思春の鋭い目が更に細められこちらを睨みつけてくる。

なんでもないよ、という意思表示で首を横に振ると、ため息をついて再び前を向く思春。心なしか足音が大きくなったような気がする。・・・拗ねてる、のかな?

 

「・・・今日の私はおかしいな。こんなことを貴様に話すつもりは無かったんだが。・・・私はこの荷物を自室においてから蓮華さまの下へ行く。ギル、貴様はどうする?」

 

「俺? ・・・どうしよっかな。予定は無いから思春についていこうかな」

 

「面白くもなんとも無いぞ。・・・ああ、だが蓮華さまは喜ぶな。是非ついて来い」

 

うんうんと頷きながらそういった思春は、足早に自分の部屋へと向かう。

俺もある程度歩調を合わせて着いて行く。

しばらくして到着した思春の私室。荷物を置きに入っていった思春を、部屋の前で待つ。

がちゃり、と扉が開いて出てきた姿を見るに、着替えてきたらしい。先ほどのは私服ということなのだろう。

今の姿はいつもの戦装束だ。主の前に出るからだろうか。・・・俺、月の前だからって服装変えたこと無かったな。

まぁ、月はそういうの気にする性格じゃないからなぁ。

 

「更に薄くなったな。・・・ホントに寒くないの?」

 

「しつこいな、お前も。・・・まぁ、少し足元が冷えるくらいだ。特に動きに問題は無い。それに、冬用の生地の厚いものだからな」

 

「あ、そうなんだ。・・・マフラーもつけてるし、まぁ思春が問題ないって言ってるならいいか」

 

一人で納得していると、首をかしげた思春が歩き始める。

あ、おいおい、待ってくれよ。

慌てて足早に歩いて追いつくと、少しだけ思春がペースを落とす。・・・合わせてくれたんだろうか。

しばらく無言で歩いていると、蓮華の部屋に到着する。こんこん、と思春が扉をノックすると、扉の向こう側から凛とした声が聞こえてきた。

 

「誰?」

 

「蓮華さま、思春です」

 

「思春? ・・・まぁいいわ。入りなさい」

 

「失礼します」

 

思春が来たのが意外だったのか、戸惑ったような声だったが、入室を許可された。

扉を開けて入っていく思春の後ろに俺も続く。視界に俺が入った瞬間、蓮華は驚いた顔をして立ち上がる。

がたん、と若干大きめの音を立てて、椅子が後ろにずれた。

 

「・・・ちょっと待って。念のため聞いておきたいんだけど・・・思春、ギル関係で何か私に報告があったりする?」

 

「? いえ、特には・・・あ」

 

「『あ』って言った!? ちょ、言いなさい! 何処まで行ったの!? こ、告白!? 口付け!? それとも・・・さ、最後まで、とか・・・?」

 

「なっ・・・! れ、蓮華さま、それは違います!」

 

「じゃあ何しにきたのっ。私の予定の無い訪問に、ギルがくっ付いてきたら姉様がギル襲ったときみたいに『そういう』報告しに来たのかと思うじゃない!」

 

顔を赤くして思春に詰め寄る蓮華。

・・・多分、さっきの思春の『あ』って俺があげた包みのことだと思うんだよな。

いえ、その、としどろもどろになっている思春から、視線でヘルプ要請。

高いよ? と視線で伝えつつ、ほらほら、と蓮華と思春の間に割り込む。

 

「そんなに詰め寄ったら思春も恐縮しちゃうだろ、蓮華。思春との間には何も無いから」

 

「・・・本当?」

 

じっとこちらの目を覗き込んでくる蓮華。・・・こういう、自然な可愛らしさが出てくるのが蓮華の良い所だろう。

本当だよ、と返しながら頬を撫でると、すぐに赤くなって俺の手に頬をすり寄せてくる。動物に例えると間違いなく猫だよなぁ。

 

「・・・」

 

そして、何故か思春から背中を抓られている。助けてあげたんだけどなぁ・・・。

仕方ないだろ。蓮華を落ち着かせるには、こうするしかないんだから。

今のうちに話しちゃえよ、と思春の手を取って蓮華の前に差し出す。

 

「・・・ごめんなさいね、思春。ちょっと暴走しちゃって」

 

『ちょっと』か? と思ったが、心の中に閉まっておくことにした。

思春もスルーすることにしたらしく、いえ、と短く返すだけに留まった。

それから、蓮華の部屋に来た理由を説明する。『忙しかったら、手伝うよ?』というものだ。

 

「ありがと。・・・でも、もう少しで終わるから、大丈夫よ」

 

「・・・本当ですか?」

 

「ふふ、本当よ。思春ってば、心配性ね。・・・あ、そうだ。じゃあ一つだけお願い」

 

「何でも仰ってください」

 

「お茶、入れてきて貰える? そろそろひと段落するし、休憩にしようと思ってたの」

 

「承知しました。少々お待ちください」

 

そう言って、思春は部屋に備え付けの調理台へと向かった。

思春を手伝おうかとも思ったが、多分邪険に扱われるだろうと判断し、蓮華の向かいに腰を下ろした。

 

「・・・ホントに思春とは何も無いのね?」

 

「え? ・・・あ、ああ。なんだ、さっきの話か。大丈夫。何もしてないよ。・・・というより、思春がそれを許してくれるわけ無いだろ?」

 

まぁ、少し強引に俺の趣味は押し付けたけど。

・・・そのネタに蓮華を使ったということはナイショにしておこう。

 

「・・・最近の思春の様子から見てそうとも言い切れないって言うのが・・・」

 

「ん?」

 

そんなことを考えていたからか、蓮華の呟きをスルーしてしまった。

何か言ったか? と尋ねてみるが、なんでもないのよ、と顔を真っ赤にして首を振るだけだった。

・・・ち、惜しいことをした。蓮華がこういう反応をする呟きというのは、上手くやれば更に可愛い表情を引き出せるものなのに、よもや聞き逃すとは。

 

「・・・蓮華さま、お茶です」

 

問い詰めてみようか、と俺の中に悪戯心が湧き上がって来るが、タイミング良く思春が戻ってきてしまった。

蓮華と俺、そして自分の分の湯飲みを卓に置いた。・・・俺の分も用意してくれたのか。意外だな。

・・・ふむ、流石にこの状況で問い詰めるのは鈴の音を聞く羽目になりかねない、か。

 

「で、蓮華。さっきは何をぶつぶつ言っていたんだ?」

 

・・・だからと言って、俺が引くと思ったか! 鈴の音にビビると思った? 残念! 俺は怖いもの知らずなのでした!

まさか問い詰めてくると思わなかったのか、蓮華は再び慌てだす。

手に取った湯のみのお茶が大きく波を立てる。幸い手には掛かっていないようだ。

 

「ぶ、ぶつぶつ言ってない!」

 

「嘘付け。蓮華がそうやって慌てるときは、図星を突かれた時だからな」

 

「・・・貴様、蓮華さまを困らせるなど・・・!」

 

空気を察したのか、思春がちりん、と獲物を取り出した。

だが、それは予想していたぞ、思春。

 

「甘いな、思春!」

 

にゅ、と伸びた細い手が、思春の手から凶器を奪う。

 

「なっ!? う、腕だけ・・・?」

 

その手は空間に出来た波紋から伸びてきている。

驚く思春を他所に、手は出てきた時の逆再生のような動きで引っ込んでいく。

そして、すぐに何も持っていない手が出てきて、サムズアップ。

ばいばい、と手を振って引っ込んでいった。・・・ちょっと自我強すぎじゃないですかね、自動人形さん!

 

「っ、貴様の宝物庫か!」

 

「正解。最近彼女達の一部分だけ出したりとか練習しててね。怪我をさせないように無力化するには一番だろ?」

 

狭い部屋で武器を弾く為に宝具を抜くのは危ないし、目の前に宝具を出して防ぐというのも相手の武器を損耗させてしまう。天の鎖で縛るのも考えたが、鎖で縛るって痛いだろ?

どうしようかな、と思っていたときに思いついたのが、その時俺の肩を揉んでいた自動人形を使うというものだ。

こいつら、俺が宝物庫から出る許可を出しているとはいえ、ちょいちょい勝手に出てきては身の回りの世話を焼いていく。・・・俺のことを慕ってくれているのか、それとも馬鹿にしてるのか、良く分からない子達だ。

 

「・・・大人しくするというなら、返すよ?」

 

「・・・ちっ」

 

渋々、と言った様子で一歩後ろに下がる思春。それを抵抗の意思なし、と判断し、宝物庫から『鈴音』の柄だけ出す。

恐る恐るそれを手に取り引き抜いた思春は、手馴れた動作で腰の辺りに『鈴音』を固定する。

 

「もう、思春? 本当にはやらないと信じてるけど・・・それ、あんまり人前でやらないようにね」

 

「あー・・・確かに。蓮華とか呉の人の前だと大丈夫だけど・・・」

 

「・・・蜀辺りでやると大変そうね」

 

「・・・? どういう・・・」

 

俺と蓮華がはぁ、とため息をつくのを、思春は不思議そうに見つめて首をかしげる。

 

「・・・壱与さんって分かるわよね?」

 

「ええ。平行世界から来た邪馬台国の魔法使い・・・でしたか」

 

「彼女の目の前でギルに危害加えたら破壊光線飛んでくるのよ」

 

「・・・なるほど」

 

「後、意外と副長も危険だな」

 

「貴方の周りって危険人物ばっかりなのね」

 

まぁ、俺がいればその場で「やめろ」って言って終わるんだけど。それでももしもってあるからな。

それに、最近は壱与も副長も大人しくなったし、流石にいきなり砲撃ぶっぱは無いだろう。

最近は俺の渡した手甲に夢中のようだしな。そろそろ量産を期待しても良いんじゃなかろうか?

 

「というより、狂信者だな、それでは」

 

「・・・今、その言葉がしっくりきたことで罪悪感が・・・」

 

「難儀な性格してるわね、ギルも」

 

・・・

 

しばらく和気藹々と話をしながら仕事を進めていくと、ぱん、と勢い良く筆を置く音が部屋に響いた。

筆を置いた蓮華は、片腕を真っ直ぐ伸ばし、もう片方の腕でその肘を掴むような体勢で、伸びをする。・・・なるほど、瑞々しい。

 

「よし、これで今年のお仕事終わり!」

 

「お疲れさん」

 

「正直、お話ししながらだったから全然疲れてないんだけどね。思春、結局手伝わせちゃったわね」

 

「いえ。もとよりそのつもりで来たのですから。蓮華さまが気になさることではありません」

 

何故俺達も書類の手伝いをしていたかと言うと、それは少し前に遡る。

蓮華の休憩中、慌しく冥琳がこの部屋にやってきた。俺達を視界に認めると、勢い良く詰め寄ってくる。

そして、申し訳なさそうな顔をして「・・・雪蓮が逃げ出した」と苦々しく呟いたのだ。

それだけで全てを察した俺達は冥琳の残った仕事を代行。急激に増えた仕事に、蓮華だけでは処理能力を超えると判断し、俺も思春もかり出されたのだ。

まぁ、処理する人数が増えたので、結果的には冥琳の仕事も速めに終わったのだが。

 

「・・・さて、と」

 

本日は大晦日一日前。今日までに全ての武官文官は仕事を終わらせ、翌日の一大イベントに参加することになる。

・・・兵士達には申し訳ないが、まぁこれも将の特権ということで。

そのイベントとは・・・もちろん、忘年会アンド年越し宴会プラス新年会である。まさかの日にちを跨ぐ一大イベントだ。

流石にこれを企画、運営するのは骨が折れたが、城下町全てを巻き込むことによって何とか開催までこぎつけた。

以前街の一角を使って肝試しをしたときの経験が生きたな。三国全て一緒になっての年越しは初めてのことだし、こうして皆で騒げるのは良いことだ。

だからこそ、俺も全力で調整した。兵士も二つに分けて『大晦日組』と『新年組』に警備を分けたのだ。来年はそれを逆にする。そうすれば、お互い大晦日も新年も楽しめるだろう。

そして将も全員休みにする為に、久しぶりに部屋に篭って仕事をした。桃香、蓮華、華琳の仕事の半分くらいを受け持ち、他の文官の仕事も奪うようにやった。

そのお陰で一番忙しいといわれている華琳、朱里、雛里、冥琳の休みを獲得することに成功。企画が無事開催できることを確信した。

 

「・・・感慨深いなぁ」

 

「ふふ。もう終わった気でいるの?」

 

「お前のその『やると言ったらやる』心持ちは良いと思うがな」

 

「頼みごとを断りきれない、ということでもあるけどな」

 

「そう? 結構ギルって自分の意思持ってるし、断るときはしっかり断るじゃない」

 

「・・・そうか? そういうの、自分では分からないからなぁ」

 

ふぅむ、と考え込む。だが、すぐには思いつかない。

 

「・・・『アレ』の時とか。やめてっていうのに激しくしたりするし・・・」

 

「ふぼっ!?」

 

うお、やべ、お茶吹いた。幸い誰にもかからなかったが。

ジトリとした瞳をした蓮華の小声の呟きは俺にだけ聞こえるようにしていたらしい。思春は突然お茶を吹いた俺に不審な目を向けている。

 

「・・・何咽てるんだ。ほら、口を拭け」

 

そう言って、思春は手拭いを投げ渡してくれる。

ありがとう、とそれを受け取って、周りを綺麗にする。

ちらりと横目で見ると、自分で言って自分で照れているのか、顔を赤くした蓮華が所在無さげに空になった湯飲みをくるくる回していた。

何故自分で精神的ダメージ食らうような発言するのかね・・・?

 

「・・・ありがと、思春。助かった」

 

「構わん。幸い蓮華さまにもかかってないしな」

 

ふ、と何やら優しい目をしながら笑いかけてくる思春。・・・え、何その顔。

それはあれだよ? 可哀想な子を・・・麗羽辺りを見る目だよ?

取り合えず原因になった蓮華に恨めしげな視線を送っておいて、立ち上がる。

そんな俺を不思議に思ったのか、思春が声を掛けてくる。

 

「む? どうした、ギル」

 

「いや、準備あるって言ったろ。二人も行こうぜ」

 

「そうね。そうしましょうか。思春も、行くわよ」

 

「はっ」

 

何故か俺を挟むように二人が陣取る。え、何これ。俺が逃げないようにポジショニングしてんの?

いやいや、雪蓮じゃないんだし、逃げないって。

 

「最近寒くなったわよねぇ」

 

「ええ。風邪にはお気をつけください、蓮華さま」

 

「・・・俺は?」

 

「・・・英霊は風邪などひかぬだろう?」

 

いや、まぁそうなんだけどさ。それでもほら、ハブられると心に来るというか・・・。

なんとも言えないまま苦笑すると、思春はため息をついてから口を開く。

 

「・・・まぁ、万が一・・・億が一、お前が風邪に臥せるようなことがあれば、見舞いくらいはしてやろう」

 

「なんだよー。そこまで言うなら、「付きっ切りで看病してやろう」くらい言ってくれよな」

 

「風邪をひけば、な。・・・やってやらんでもない」

 

「・・・ギル、ホントに思春とは何も無かったのよね?」

 

つい、と顔を背けた思春の呟きに、蓮華が訝しげな顔をしながら俺の手を抓ってくる。

いやいや、何も無いよ、と抓ってきている手を握って言った。

 

「思春、それは本当だな?」

 

「? ・・・まぁ、風邪をひけば、だぞ」

 

「ふっふっふ。思春は知らないようだが、英霊って言うのは魔力を限界まで使うと、風邪のような症状が起こるのさ!」

 

「何・・・?」

 

「だからその辺で適当に乖離剣の真名開放やって消滅ギリギリまで魔力を削ればあるいは・・・!」

 

「ま、待て。私の看病を受けるためだけにそこまでやるのか・・・!?」

 

あたふたとした思春が何やら焦った表情でそう聞いてくる。

? 何を言っているんだ思春は。

 

「当然だろ? 看病してもらいたくて、看病してもらえる条件が分かってる。・・・そしたら後は、実行するだけだろ。・・・ちょっと待ってろ。銀河三つ分くらいどこかにぶつけて来るから」

 

「ばっ、待て!」

 

「何故止めるんだ、思春! ・・・はっ、そうか。世界の修正が働くこの状態では、乖離剣の真の力であるアレが出来ないのか・・・!」

 

「ちが、そうじゃな・・・蓮華さま、蓮華さまもこのバカを止め・・・蓮華さま!?」

 

「・・・ふぇっ? え、な、なに? どうしたの・・・?」

 

「つ、ツッコミの手が足りない・・・! 蓮華さま、しっかりしてください!」

 

赤くてぼーっとなっている蓮華と、あたふたする思春。そしてそれに挟まれている俺。

何処からどう見ても、カオスだった。

 

・・・

 

祭りの準備に忙しそうな城門前では、色んな人が忙しなく動いていた。

将も文官も武官も、最後の仕上げをするべく働いてくれている。

 

「忙しそうね・・・何かお手伝いあるかしら」

 

「呉の者達が向こうで作業をしております。あちらで何か力になれぬか聞くのがよろしいかと」

 

「そうするわ」

 

じゃあ、俺もそっちに行こうかな、と二人に伝えようとすると、背後から大声。

 

「あーっ、たいちょ、お疲れ様ですっ」

 

「っと。副長か」

 

その声に振り向くと、副長が何やら荷物を持って立っていた。

俺のもとにてとてと駆け寄ってくると、よいしょと荷物を降ろして詰め寄ってきた。

 

「どこ行ってたんですかたいちょー! こちらと七乃さんにこき使われてて大変だったんですから!」

 

「あーっと、すまん・・・な?」

 

あれ、手伝うとかって話してたっけ? ・・・してないよな?

でもこの副長の様子を見てると、なんだか罪悪感感じてくるから不思議だ。

 

「あら。副長さん。こんばんわ」

 

「あ、蓮華さん。ばんわです」

 

「・・・大変そうだな」

 

「えーっと・・・」

 

「・・・思春だ」

 

「・・・失念してました。こんばんわ、思春さん」

 

蓮華と思春の二人と挨拶を交わした副長は、何かに気付いたように手を叩く。

 

「もしかして、呉のお手伝いとかありました? ・・・そしたら、隊長はそっち行っちゃってください」

 

「・・・いえ、そんなことは無いわ。ギルは私たちを送ってくれただけだもの。副長さんが動いてるってことは、ギルの遊撃隊でのお仕事があるって事でしょう?」

 

「ならば、そちらを優先してもらったほうが良いだろうな。・・・ギル、お前も文句は無いだろう?」

 

俺の言いそうなことを予想したのか、二人から「こっちはいいから」という視線を向けられた。

・・・すまんな、と手で謝意を伝え、副長の頭を撫でる。

 

「ほら、落ち込むなって。俺もそっち行ってやるからさ」

 

「はにゅ。急に頭撫でないでくださいよ。・・・もうっ、仕方ないですね。じゃあ、隊長をこき使っちゃおうかな!」

 

「調子に乗れとは言ってないぞ?」

 

「すっ、すみませんでしたぁっ!」

 

指をコキコキ鳴らすと、一瞬で頭を下げる副長。

・・・ホント、俺をおちょくるのが好きだよなぁ。

 

「・・・ということで、すまんな二人とも。お互い頑張ろう」

 

「ええ。・・・まぁ、頑張るといっても後は仕上げだけなのだけどね」

 

「・・・副長、体だけは壊さぬようにな」

 

「りょーかいですっ」

 

挨拶を交わして、俺達はそれぞれの場所へ向けて歩き出した。・・・なんで思春は副長に優しい言葉をかけているのだろうか。

副長の荷物を宝物庫にしまい、七乃たちが作業しているという場所へと連れられる。

 

「あら、ご主人様? ・・・副長さん、良く捕まえてきましたね~。偉いですっ」

 

「えへへー・・・はっ!? こ、子供扱いされている!?」

 

七乃に撫でられている副長が、はっとした表情で七乃の手を払う。どう見ても嬉しそうに撫でられていたように見えるんだが・・・。

そんな副長を見下ろしつつ、七乃は微笑んで言葉を返す。

 

「いえー、美羽さま扱いしています~」

 

「意味は変わらないですよね!?」

 

「さて、と・・・これ以上副長さんで遊ぶと、ご主人様が寂しくて拗ねてしまいますから、お話を進めましょうか~」

 

「あ、いや、いいよ、別に。副長が弄られてるのを見てるだけですげーほっこりする」

 

「しないでください! お仕事しますよっ!」

 

ぷんすか怒った副長とニコニコ顔の七乃に連れられ、遊撃隊が作業している現場へと向かう。

ここでも皆が忙しそうに動き回っている。

 

「ここにあるもの運ぶのか?」

 

俺がそう言って指差すのは、山と積まれた荷物。

まだまだ箱は一杯あるようだが、俺が来たからにはもう数なんて意味は無い。

 

「開け、宝物庫」

 

地面に波紋が浮かび、箱がずぶずぶと沈んでいく。

全てのものが宝物庫に入ったのを確認して、すたすた歩く。

 

「・・・荷物運び系の仕事だったら速攻終わりますね。超便利です」

 

「行ったことあるなら別にその場にいなくても出来るからな」

 

出し入れするときに兵士とかがいて目撃されては大変なので、わざわざ置き場所まで出向いて出し入れしているが、今の展開範囲ならば人の目さえ気にしなければこんなことはしなくても良い。

極端な例だが、自室にいても城内のものなら好きな場所に出し入れできるだろう。

 

「・・・人の体内に宝具出したら一瞬で終わりますね」

 

「なんてグロい事考えるんだこの月の姫は」

 

「隊長が人並みの感性を持っている・・・だと・・・?」

 

「お前、人を人外みたいに言いやがって・・・」

 

「実際そうでしょう?」

 

一瞬の沈黙。

確かに。と思ってしまったのが態度に出てしまったようだ。

三分の二が神様で、神性EXランクのサーヴァントを『人』とは間違ってもいえないだろう。

そんな俺の様子を見て、七乃が副長に小声で話しかける。

 

「図星を突かれて落ち込むご主人様、珍しいですね~」

 

「ですね。・・・母性本能くすぐられる感じします」

 

「・・・あったんですね~」

 

「ありますよ! びっくりするぐらいありますもんね! いつ子供が生まれても問題ないですもん!」

 

副長の声に現実に引き戻される。・・・何の話してるんだこいつら。

何かに気付いたような顔でこちらを見上げる副長に、どうした? と尋ねる。

 

「あ、いえ。・・・聞いてないならいいんです」

 

「そ、そうか」

 

これ以上突っ込むと副長が暴走しそうなので、苦笑を返してそのまま歩くことにした。

 

「そういえば七乃、この荷物運んだ後は何すればいいんだ?」

 

「会場設営のお手伝いですかね~。気合の入った槍兵さんがものすごい勢いで作業していたので、もう終わってるかもしれませんが~」

 

「ああ・・・。そういえば凄い高揚してましたね、あの人たち。なんか良い事でもあったんですかね?」

 

「大和渡したからな。それで嬉しかったんだろ。・・・全く。お詫びのつもりで渡したのに、それに対して礼をされるとは思わなかった」

 

少し前に遡るが、蓮華たちと冥琳の分の仕事をしている最中にやってきたランサーから、何か手伝うことは無いか、と聞かれた。

そのときには「年末だし、休んでいてくれて構わない」と伝えたのだが、その程度であの真面目なランサーが引くはずが無い。

大和のお礼がしたいのです、と詰め寄られたときに苦し紛れで俺の部隊を手伝って欲しいと伝えたのだが・・・そうか、そんなにテンション上がってたのか。

 

「おっと。ここだな」

 

「はい~。周りに人もいませんし、ぱぱっと出しちゃってくださーい」

 

周りを見回した七乃にそう言われ、指示された場所に箱を出す。

先ほどの様子を逆再生したように、地面に浮かんだ波紋から浮かび上がる箱たち。

 

「よし。終わったな」

 

「はい~。それでは、設営された天幕へ行きましょうか~」

 

七乃に先導され、城壁の内側、かなり開けた庭へと向かう。

そこにはすでに様々な部隊が天幕を張っており、ちょっとした村のようになっていた。

あちこちから作業する音や怒号が響き、立ち止まっている人間はほぼいない。

立っている旗も様々なもので、蜀や魏、呉、そのほかにも役満姉妹たちが所属する会社の紋や俺の部隊の旗、そのそばに少数だが旭日旗もある。あの辺にランサーがいるのだろう。

 

「うわ、凄い人だな・・・。副長、ほら、手」

 

「はいっ!? わ、わ、何で、手、つなっ、ひゃぁー・・・」

 

ちっこい副長は手を繋いでおかないと人ごみに流されそうだと思って手を繋いでみたのだが・・・なんで思考停止してるんだ、この子。

 

「あ、副長さんだけずるいですよー。ご主人様、私も、お願いしますっ」

 

語尾にハートマークでもついてそうな弾んだ声で、七乃が副長と繋いでいるのとは反対の手を掴んでくる。というか、腕に抱きついてきた。

歩き難いが、そのまま天幕へと向かう。

ランサーたちがこちらに気付いて迎えてくれる。

 

「こんにちわ!」

 

「お疲れ様ー。・・・やっぱり、ほぼ終わってるな」

 

「ちわっすー」

 

「こんにちわ~」

 

ランサーたちの歓迎を受けつつ作業場を見てみると、九割九分作業は終わっていた。

後の作業は片付けくらいのものだ。

 

「終わってる・・・な」

 

「片付けくらいしか手伝えることないですよねー」

 

「片付けも・・・あ、今終わったようですね~」

 

完全に来た意味ないな・・・。

もうこれ、天幕も片付けていいレベルだぞ・・・。

 

「わざわざギル様にご足労いただいておいて申し訳ありません。すでに作業は完了。遊撃隊は撤収作業に入り、現在は年末組が見回りの準備をしております!」

 

「・・・副長より副長っぽいことしてるな、ランサー」

 

「私はお役御免ですかっ!? た、たいちょー! 私だって頑張りますよっ。・・・えっと、えっと・・・そうっ、ほら・・・うーん・・・?」

 

「思いつかないのか・・・。まぁ、副長はいてくれるだけで、俺の役に立ってるから。心配するなって」

 

そう言って考え込む副長の頭を撫でる。実際、こいつがいてくれるだけで部隊の隊長という役職も気負えずにやっていけているのだ。

誰かに言うのは恥ずかしくて今まで思っていても口には出さなかったが。もう今年も終わるし、はっきりと言ってやるのも俺の務めだろう。

 

「な、なななな・・・! ど、どうしたんですかたいちょー! なんか今日はやけに優し・・・はっ! せ、世界滅亡の前触れ!?」

 

「テンパる副長は見てて楽しいな、七乃」

 

「良いご趣味をお持ちで~」

 

「はっはっは、お代官様ほどでは」

 

「ご主人様も、(わる)ですよね~」

 

目の前を襲われた小動物のようにうろちょろする副長を見下ろしつつ、七乃と微笑ましい会話を交わす。

七乃は頭の回転が速くてウィットに富んだ小気味良い会話を楽しめる。話し相手としても文句なし、副官としても文句なし。

 

「・・・七乃はホント、優秀だよなぁ」

 

「? 今更ですか~?」

 

はっはっは、こやつめ。

 

・・・




「アホですか」「突然どうしたんだ、神様」「いえ、何処の世界に『魔力を欠乏させるためだけに』乖離剣の真名開放するアホがいるのか、と言っているのです。・・・しかも、特殊な状況じゃないと制限されてて使用できないほうのエクストラな真名開放じゃないですか」「そりゃ神様、男の子にその理由は聞いちゃいけないよ」「・・・何カッコつけてんですか。・・・はぁ、もう・・・」「どうした? ため息をつくと幸せが逃げるぞ」「・・・こんの、マジで、お前、ホント、っだらぁっ!」「ちょ、神様、何これ! 何この黒い手! めっちゃ怖い!」「生命の神舐めんな! それ亡者の手ですからねっ。黄泉に引きずり込まれちゃえば良いんです!」

必死の説得により、何とか宥めることが出来ました。・・・何故、あんなに怒っていたのかは、俺にも分かりません。


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