真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「年末といえば、年賀状の準備に忙しかったなぁ」「俺もだ。住所を手書きで書いていたから、腱鞘炎になりかけたな。ちょいちょい休憩挟みながらやってたよ」「ふむ。年賀状は俺も結構出していたぞ。友人からの年賀状には俺の好きなキャラとか書いてあることがあってな。中々楽しみだった」「あ、甲賀もそうだったんだ。俺も友達からの年賀状で色々笑わせてもらったりしたよ。・・・手渡しになるだろうけど、この四人で年賀状書いてみるか」「おお、それは面白いかもな。さんせー」「年賀状・・・ぜ、全力で書かせて頂きますっ!」


それでは、どうぞ。


第六十一話 年の瀬の準備に

大分寒くなってきた。季節的にはもう秋も終わり、冬に突入している。

雪もそろそろ降る頃だろう。・・・その前に、後宮が完成して良かった。

 

「・・・凄いな。皆、頑張りすぎ」

 

正直城よりも立派かもしれない後宮を前に、俺は若干引きつった笑みを浮かべていた。

二ヶ月ほどか? それだけの期間で、これほどのものを作れるとは・・・。

解散式のときに皆から激励の言葉を貰ったくらいだし・・・俺のことを祝ってくれている人もそれなりにいるのかね?

 

「皆さん、凄くかんばって下さったんですね。・・・へぅ。元気な赤ちゃんを産みますね!」

 

隣にいる月もそう言って、ぐ、と握りこぶしを作る。

・・・目に見えて分かるほど大きくなったお腹を冷やさないよう、コートとマフラーを着込んでいる月は、少し動き辛そうだ。

暦的にはもう数日で年末、更にはお正月である。

ちなみに俺は例年、年末に御節を食べながら笑わないようにするのに必死である。

 

「・・・やるか。城を巻き込んで、「笑ってはいけない」みたいな」

 

「? どうしたんですか、ギルさん?」

 

「あ、いや、なんでもないよ。・・・さて、今日はイブだけど・・・正直、いつもと変わらんよなぁ」

 

クリスマスは恋人の日、なんて概念が今の時代無いので(というか、現代でも日本だけだけど)、この性夜・・・じゃなくて聖夜は普通の冬の一日と変わりない。

・・・後で一刀と甲賀を誘って、揚げた鶏肉食べるか。あ、ちなみに七面鳥じゃなくて白ヒゲのお爺さんのお店で鶏肉買ってお祝いするのも日本人だけらしい。流石ガラパゴス。

今日は日本人パーティをしてやるとしよう。その次の日は・・・璃々の枕元にプレゼント置いておかないとな。

 

「寒くないか?」

 

「・・・手が、ちょっと寒いです」

 

「はは。・・・手、繋ごうか」

 

「はいっ」

 

月も、最近は大分自分を主張をするようになってきた。

こういう風に我侭を言ってみたり・・・なんとも可愛らしい。

 

「雪は積もるでしょうか?」

 

「どうだろう。・・・今日降りそうだよなぁ」

 

空を見上げると、太陽の光が一切届かないほどの曇天。

これは夜くらいに雪が降るだろうか。そうなる前に後宮が完成してくれたのはありがたい。

 

「そろそろ城に戻ろうか」

 

「はい」

 

手を繋いで城へと戻る。自室へ戻れば火鉢もあるし、最悪炎系の宝具を使うとしよう。

確か湯たんぽもあったはずなので、寝るときも温かい。

・・・人肌が一番気持ち良いけどね。

 

「・・・ん?」

 

「わぁ・・・雪ですね!」

 

城への帰路、ひらひらと空から雪が降ってきた。

手の平を前に出してみると、その上に雪が落ちては解けていく。

なんとまぁ。これは風流だな。凄まじくタイミングが良い。

 

「あの・・・ギルさん、少しお散歩しませんか?」

 

「もちろん良いが・・・無理はさせないからな?」

 

「ふふ、心配しすぎですよ。少しくらいは運動しないと」

 

そう言って笑う月と一緒に、雪の降る城下町を歩く。

急な雪に、子供達ははしゃいでいるようだが・・・大人たちは大童だ。

店の人たちは店じまいの準備をし始めるし、兵士達はもし雪が積もったときのための行動を始める。

・・・うーん、積もるかなー、これ。

結構べたついてるみたいだし、長く降るなら意外と積もるかもしれないな。

 

「雪が積もったら・・・雪だるまでも作ろうか」

 

「雪・・・だるま? ですか・・・?」

 

「あー、えっと・・・ま、そのときのお楽しみだな。実際にやったほうが分かるって」

 

「・・・はい。楽しみにしてますね」

 

微笑む月と共に、城壁から外に出る。

近くの森にある木々ははすでに白くなり始めている。雪も先ほどより多く降っているようだ。

やっぱり、これは積もるな。後で兵士達にスコップなんかを配給しておかないと。

 

「森も、道も・・・真っ白ですね」

 

「ああ。・・・こういう風に、綺麗な雪の上に足跡付けたくなるのは・・・俺だけかな」

 

「気持ちは分かりますよ」

 

そう言って、月もブーツを履いた脚でさくさく足跡を付けていく。

このブーツは・・・まぁ、ご想像の通り、俺が作らせたものだ。

寒いのにいつもの靴だと不味いだろ? やっぱりほら、長靴とかブーツとか、あるべきだと思ってさ。

月が履いているこれは俺が靴屋に頼んで作ってもらった、龍の皮を使った特注品だ。長靴とかブーツ自体は一応街の靴屋にも並んでいるだろうが、あっちは確か・・・何をつかっていたっけか。

まぁ兎に角、龍の皮を使っているからか、指先まで温かい上に、通気性は抜群。正直龍の皮の汎用性と万能性には驚くばかりだ。ちょっと龍を乱獲したくなってくる。

 

「そういえば、大体十ヶ月ほどで産まれるんですよね?」

 

「みたいだな。予定日は五月くらいかな」

 

華佗と産婆さんに見て貰ったのだが、大体九月くらいに出来た子らしい。

このまま順調に行けば、五月の終わりから六月初めぐらいだろう、とは言われている。

もう大分お腹も大きくなってきたからなぁ。

 

「紫苑さんに色々とお話を聞いているんですけれど・・・やっぱりお腹にギルさんとの子がいると思うと・・・なんだか、とっても幸せなんです」

 

「俺もだよ、月」

 

お互いに見詰め合って、どちらからともなく口付ける。

月の頬が赤いのは、寒いから、というわけではないだろう。

 

「・・・ぽかぽかしちゃいます」

 

「それは良かった。・・・そろそろ戻ろうか。かなり冷えてきた」

 

「はい」

 

再びさくさくと足跡を残しながら、城へと戻る。

・・・なんでもないことだが、とても有意義な時間を過ごせたと思う。

 

・・・

 

「お晩でーす」

 

横ピースしながら軽い口調で挨拶してくる神様に、ため息をつく。

全く。幸せな気分で眠りについたらこれだ。・・・大体二ヶ月ぶりくらいか?

 

「最近だんだん軽くなってきたな、神様。態度も、出現頻度も」

 

「ええ。なんせ一番つながりの強い貴方の子が生まれようとしていますからね。私の力も強大になっているんですよ」

 

「え・・・? 何それ、初耳」

 

「? 当然ではないですか? だって、貴方神性ランクいくつです?」

 

「・・・A++」

 

「それもうほぼ神様ですからね? ・・・あれ、この人死後座にちゃんと入るんだろうか」

 

目の前で不安になるようなことを呟く神様をあえてスルーしつつ、テーブルに着く。

湯気の上る紅茶が用意されているということは、それなりに長話をするつもりなのだろう。

 

「いやー、お付き合いも大分長くなりましたね、私たち」

 

「そうだなぁ。もうかれこれ・・・何年くらいだ?」

 

「・・・ふふ、数字なんてどうでもいいんです。・・・別に、この空間の時間の流れがそちらと違いすぎて正確な期間が分からないわけではないですよ?」

 

「分からないんだな?」

 

「ぴゅ、ぴゅーぴゅぴー」

 

「口笛が吹けないなら無理するんじゃない」

 

目の前でひょっとこのような顔をして口笛を吹こうとする神様。

呆れつつ紅茶を一口。・・・前飲んだ緑茶のほうが美味いな。

 

「で? 本題は?」

 

「もうちょっと会話を楽しみましょうよ。私も貴方が来ないとずっとここに缶詰なんで、暇なんです」

 

「分かったわかった。もうちょっと頻繁に来るから」

 

「約束ですよっ、約束っ。・・・こほん。では、今日の神託です」

 

「おう」

 

姿勢を正す神様に倣って、俺も姿勢を正す。

そのまま、神様は指を一本ピンと立て、改まった口調で話し始める。

 

「お腹の子の性別が確定しました。聞きます?」

 

「・・・一応」

 

「おめでとうございます、女の子です。ちなみに五月終わりくらいに出てくる予定です」

 

「そっか。・・・んー、月にどう伝えるかなー」

 

というか、伝えるべきだろうか。・・・べきだろうな。

 

「ちなみに私は何も弄ってませんよ。巨大な大天使と違って、決定権はありますが乱用する気はないので」

 

「そ、そっか。その大天使っていうのが誰かは分からんけど・・・まぁ、安心しておく」

 

「お名前とか考えてたんですか? 男の子ならこの名前、なんて」

 

「女の子だった場合のはね。男の子のほうは、考え中って感じだったかな」

 

今日起きたら月に相談してみるかな。・・・気に入ってくれるといいけど。

 

「ふふっ・・・そうですね。そんな貴方にサービスです。生まれてくる子に、少しですが私の祝福をかけておきましょう」

 

「えぇー・・・? それ、途中で事故死するような祝福じゃなかろうな」

 

「ぐっ・・・! あ、貴方ねぇ、そんな、いつまでも人の失敗をつつくなんて・・・」

 

「はは、悪い悪い。冗談だよ」

 

ふくれっ面の神様をそう言って宥める。

 

「ま、今日の神託はこの辺で。・・・最後にもう一つ忠告してあげますか」

 

「・・・なんだ?」

 

ふぅ、とため息をついた神様は、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・あなた、寝込み襲われてますよ?」

 

「それを早く言えっ!」

 

神様の言葉に、俺は急いで意識を覚醒させるのだった。

 

・・・

 

「あ、おはよー、お兄様っ」

 

「蒲公英か・・・全く、恋といい、何で布団に潜るのが好きなのかね」

 

慌てて目を覚ますと、布団の中がもこっと膨らんでいた。

覗いてみると、悪戯が成功したときの笑顔でウィンクしてくる蒲公英がいた。

 

「えー、だって寒いじゃん? えへへー、お兄様の体温でぬくぬくー」

 

「はは、こやつめ」

 

くしゃくしゃと強めに頭を撫でる。

嬉しそうにはにかむ蒲公英は、あ、そうだ、と布団を被ったまま起き上がる。

 

「今日はね、お兄様にあげたいものがあるのっ」

 

「俺に? ・・・なんだろ」

 

「お隣をごらんくださーい!」

 

蒲公英に言われるまま横に視線を向けると、白い生地の抱き枕が置いてあった。

抱き枕か。・・・でも、正直必要ない気もする。大体誰か抱き締めて寝てるし・・・。

なんて思っていると、抱き枕がびたんびたんと動き始めた。

 

「!? おい蒲公英、こいつ、動くぞ!?」

 

「あらー・・・お姉様、大人しくしててって言ったのになー」

 

「『お姉様』・・・? 中身翠かこれ!」

 

ばれたらしかたないなー、と抱き枕を開ける蒲公英。

中には、猿轡の上に亀甲縛りで両手足も拘束されている翠が入っていた。

 

「おいおい・・・大丈夫か? 今解いて・・・」

 

「あ、お兄様、今触らないほうが」

 

「んんーっ!?」

 

俺が縄を解こうと触れた瞬間、一際大きく翠の体が跳ねた。

この反応、何処かで見たことが・・・まさか・・・!

 

「・・・蒲公英、何飲ませた?」

 

「龍の秘薬。てへっ」

 

媚薬じゃないか! それで一晩放置か!?

っていうか何処から手にいれ・・・ああ、そういえば前に月に使った余りを紛失したような気が・・・。

 

「・・・すまんな、翠、我慢してくれ」

 

目で「触るな」と訴えてくる翠に謝ってから、口の猿轡から外す。

 

「ぷはっ、はっ、あ、だ、め・・・~っ!」

 

再び体を仰け反らせる翠。・・・あー。

 

「んふ。お兄様? お姉様を楽にするには・・・分かるよね?」

 

「はっ、はっ、はぁっ・・・頼む、ギルぅ。・・・何とか、してくれ」

 

悪い顔をして笑う蒲公英と、懇願してくる翠。

・・・まぁ、何とかって・・・抱いてあげるしかないよなぁ。

 

「全く。・・・蒲公英、後で同じことするからな」

 

「はーいっ。気持ちいいのは大歓迎だよ?」

 

絶対にお仕置きにはならないな、とため息を付きつつ、翠の足を掴む。

 

「暴れられたら困るから、このままするぞ? ・・・まぁ、優しくするから」

 

「・・・頼む」

 

「大丈夫っ。たんぽぽも手伝ったげる!」

 

すでに意味を成していない翠の下着を脱がせて、そのまま翠に口付ける。

 

・・・

 

「えー? だって、お姉様はお兄様のこと好きだけど、あの性格でしょ? 絶対恥ずかしがって告白しないなぁって思ったから」

 

事が最後まで終わり、翠が達し過ぎて眠ってしまった後、蒲公英にどういうことかを問い詰めると、そう返された。

・・・お前なぁ、そういうのを「余計なお世話」と・・・。

 

「分かってるよぅ、余計なお世話って言いたいんでしょ? でも、たんぽぽがお姉様のことを思ってやったって言うのはホントだよ。そこは、お兄様になんて言われても変えないもん」

 

「あー・・・うん、負けた。俺の負けだ。・・・後で一緒に翠に謝ろうな」

 

「うん・・・ありがとねっ、お兄様っ」

 

「調子のいい奴」

 

翠には後で謝るとして・・・シーツ換えないとな。

 

「・・・お姉様、相当気持ちよかったんだねぇ」

 

まぁ、漏らしてしまう程度には気持ちよかったんだろう。

・・・翠の名誉のために、蒲公英には口止めしておくとしよう。

 

「うん、流石にそれは・・・言いふらさないよ。えへへ、いい子?」

 

「良い子良い子。・・・よっと」

 

翠を抱え上げ、蒲公英を連れて浴場へ。

ぺちぺち叩いても起きないので、蒲公英と二人で協力して体を綺麗にしたのだが・・・服を着せた後で目覚めた翠にビンタされた。

その後ちょっと寝ぼけていた翠に状況説明と謝罪をし、顔を真っ赤にしながら許されたのがさっきのこと。

 

「・・・ったく。蒲公英、お前なぁ・・・今回は結果が良かったから許すけど、別の奴にこんなことすんなよ? 殺されても文句言えないぞ」

 

「そうするー。・・・でもでも、感謝してよね、お姉様?」

 

「なににだよ!」

 

「お姉様の背中を押してあげたんだから。・・・これからは、恥ずかしがらずにお兄様に愛してもらおうねっ」

 

蒲公英にそういわれて、翠は後ろを歩く俺の方をちらりと見る。

なんだか良く分からないが、取り合えず笑っておく。

 

「っ。・・・ま、まぁ・・・たまになら、な」

 

「あのごすろりも着てないし、次はそれを着ていこうねっ」

 

目の前で仲良さそうに話す二人を見ながら、次はゴスロリ服で二人同時か、と今からちょっと楽しみにしておく。

・・・翠のような恥ずかしがりやは、少し強引にいかないと、というのを心のメモ帳に記しておく。

これからは、更に積極的に皆との交流を深めていくとしよう。

 

・・・

 

「ギル様っ」

 

「お、明命。それに亞莎も。・・・その荷物はまさか・・・」

 

「はいっ。ごま団子の材料です!」

 

元気に答える明命。・・・やっぱりか。

亞莎も相当ごま団子を気に入ったらしい。こうしてちょいちょい自分で作っては食べているのをみる。

 

「あの、良ければギル様も一緒に作りませんか?」

 

「お、良いねぇ。亞莎、俺も一緒にいいかな?」

 

明命の誘いに乗る形で亞莎に聞いてみる。

 

「は、はいっ。もちろんですっ」

 

荷物を持っていない手で顔を隠すようにしつつ、俺の言葉に頷く亞莎。

・・・よし、今日は亞莎と仲良くなってやる。きちんと目を合わせて話せるくらいにはな!

嫌われているわけではない、というのは分かっているので、ちょっとぐいぐいいってやる。

 

「今回も大量に買ったんだな」

 

「そうなんです。亞莎ったら、いつもごま団子を大量に作っちゃうんです」

 

「・・・お、お恥ずかしいです」

 

呆れたように言い放つ明命に、亞莎は顔を真っ赤にして俯く。

 

「相当気に入ったんだな。亞莎は上手に作れるから、今から楽しみだ」

 

「あ・・・えへへ、頑張って作ります!」

 

頭をゆっくりと撫でると、落ち着いたのかはにかみながら気合を入れる亞莎。

そんな亞莎を明命と一緒に微笑ましく見守りながら、厨房へと向かう。

 

「まずは手を洗いましょう!」

 

材料の入った袋を調理台の上にどんと置くと、亞莎は早速水場へと向かう。

俺達もそれに倣ってじゃばじゃばと手を洗う。手洗いうがいは大事だよなぁ。

三人仲良く調理の準備を済ませると、次は材料の下拵えだ。

その辺りは亞莎も明命も慣れたもの。俺も邪魔にならない程度に手伝う。

 

「ギル様も亞莎に付き合わされてごま団子を作ってらしたんですか?」

 

妙に手馴れている俺の作業を見て、左に立つ明命が作業しながら聞いてくる。

だが、俺よりも先に、反対側にいる亞莎が答える。

 

「あ、あのねっ、ごま団子を一番最初に作ろうって言ってくれたのは、ギル様なのっ」

 

「そうなの? ・・・大変だったんですね、ギル様」

 

「ど、どういうことっ!?」

 

俺を挟んで二人は楽しく会話をしている。・・・良いよなぁ、こういう、仲の良い女の子を見るっていうのはさ。

微笑ましく思いながら黙って手を動かしていると、たまに話を振られるので若干焦る。

そういう時は大抵話を聞いていないときなので、お、おう、くらいしか返せない。・・・ごめん、二人とも。

 

「それにしても・・・量が多いよね。毎回思うんだけど、食べすぎじゃないの?」

 

「た、食べた後にちゃんと運動してるもん! ・・・ぎ、ギル様は、いかが思いますか? 変・・・でしょうか・・・?」

 

ぺったんぺったん団子の形を作りながら、亞莎はおずおずと聞いてくる。

・・・そういえばいつもの袖が無いから妙な感覚だな。あれ、着脱可能だったのか。

 

「いや、全然変じゃないな。・・・食べて運動しない、何処かの王に比べるとな」

 

「ふぇ? ・・・あ、ああっ!」

 

何かに得心いったのか、亞莎がぽんと手を叩く。

そして、その衝撃で潰れるごま団子。あーあ。

 

「あ、亞莎っ。お団子潰れてるっ」

 

「わわっ、た、大変っ」

 

わたわたと修正を試みる亞莎に笑いかけながら、俺も一つ一つごま団子を形作っていく。

 

「うーん・・・ちょ、ちょっと変になっちゃった」

 

「まぁ、不味くはならんだろ」

 

慰めるように亞莎の頭を撫でる。・・・そういえば、亞莎用のアリス服があったな。

機会があれば着せようと思っていたのだが・・・ああ、後明命用のくの一服もあるんだった。

甲賀との凄まじい討論と熱い議論の果てに作成されたあのくの一服・・・着せないで死蔵させておくのは惜しい。

・・・何故かアリス服とくの一服は思春用のものもあるので、二つとも絶対思春に着せると心の中で誓う。

彼女に命を狙われ続けた仕返しだ。存分に着せ替え人形になってもらうとしよう。・・・蓮華も誘っておくか。

ふっふっふ。結構理不尽に狙われ続けたからな。俺は意外と根に持つタイプなんだよなぁ。

 

「・・・ギル様が怪しい笑みを浮かべてお団子作ってる・・・」

 

「こういうときに副長さんとかが突っ込みいれて凄いお仕置き受けてるの、見たことあるよ」

 

「あ、私もある。・・・でも、その時凄い幸せそうな顔してるんだよね」

 

「私はちょっと分かるかな。・・・その、ギル様に閨にお誘いいただいたときとか・・・幸せだもの」

 

「あ、あぅ・・・」

 

は、と我に返ったとき、何故か二人とも顔を赤くして俯きながらぺたぺたごま団子を作っていた。

・・・? 何の話をしていたんだろうか。

慌てて会話に耳を傾けようとするが、二人とも無言で俯いて作業を続けている。

あれ、もう話は終わってしまったんだろうか。・・・ふむ、聞き逃したか。

 

「亞莎?」

 

「はひっ!?」

 

「・・・大丈夫か?」

 

俺の言葉に、亞莎はコクコクと頷く。・・・なんだなんだ、俺一人だけのけ者か?

まぁ、ガールズトークなんて無理してまで聞き出すものでもないだろ。

それに、二人が顔を赤くするような話を聞いたら俺も平静を保ってはいられないだろう。

 

「さて、後は仕上げだな」

 

「はいっ。後は私と亞莎でやりますので、ギル様は席についてお待ちくださいねっ」

 

明命に背中を押され、半ば無理矢理に隣の部屋にある、食堂の椅子に座らされた。

・・・まぁ、やるって言ってるんだし、任せようかな。二人なら、失敗することも無かろう。

 

・・・

 

「・・・ね、亞莎?」

 

「どうしたの、明命」

 

食堂の席に座らせたギルがお茶を飲んでいる最中、蒸している最中に暇を持て余した二人は、声を抑え目に話し合う。

 

「偶然ギル様に会ってお誘いしたけど・・・前に行ってた話、実行するには良い機会じゃない?」

 

「や、やっぱり・・・明命が急に走ってギル様に話しかけるから、妙だと思ったけど・・・」

 

そういうことだったのね、と亞莎は息を吐いた。

彼女は以前、ギルに想いを伝え、通じ合ったという明命に、ある相談をしていた。

・・・まぁ、予想は簡単に出来るが・・・ギルに、どう告白するか、という内容である。

ギルのことを「輝きすぎて直視できない」とまで言い、極度の恥ずかしがり屋でもある彼女は、自分の力だけではどうにもならないと思っての相談だったのだが・・・。

それに対する明命の答えは端的で、ある意味もっとも核心を突いたものだった。・・・つまりは、「え、普通に想いを伝えれば?」というものである。

ある程度仲良く、よほどの悪人で無い限り、彼が人の好意をばっさり断ることは無い。・・・「ばっさり」断ることが無いだけで、まぁ断ることもある、というのがミソだ。

例えば黒光りする筋肉の二人組みとか・・・は普通にばっさり断ってるが、ほら、例えば・・・と考え込んでみるが、明命の頭には浮かんでこない。

 

「んー・・・?」

 

「どうしたの、明命・・・?」

 

首をかしげた明命に、亞莎が訝しげに声を掛ける。

ううん、なんでもない、と答えながら、心の中のギルに「節操なし」の疑問が持ち上がってくる。

 

「まぁ、私からはそれしかないよ。ギル様と・・・その、結ばれたいんでしょ? 私も頑張ったもん。出来るだけ手伝ってお膳立てはするけど・・・最後はやっぱり、亞莎の気持ちだよ!」

 

だから頑張って、と亞莎の手を握りながら激励する明命。

その言葉に応えるように、亞莎はその手を握り返した。

 

「うん・・・うんっ・・・! 頑張るよ、私! ・・・こ、この後、ギル様に想いを伝えるよ!」

 

「その意気だよ、亞莎! 応援するからねっ!」

 

この後、若干盛り上がりすぎたからか、ごま団子は若干蒸しすぎてしまった。

 

・・・

 

「・・・で、その話全部聞こえてるんだが、俺はどうすればいいんだ・・・」

 

食堂に押し込まれたのはこの話をするためか、と隣の厨房から聞こえてくる会話を聞きながら思う。

・・・最初は小声で聞こえなかったのだが、途中からは普通・・・よりもかなり大きめなやり取りだったので聞こえてきてしまった。

凄い気まずいぞ、これ。なんて顔してこのあとごま団子食えばいいんだ・・・。

しかし、亞莎が、か。・・・ただ恐縮されていただけではなかったんだな。・・・良かった、というべきか。

まぁ、あれだけ気合を入れているんだ。この後気持ちを伝えるだとか言っているんだし、それを待ってあげるのも男というものだろう。

 

・・・

 

「お、美味しいね、明命っ」

 

「そうだね。・・・ギル様、お味はどうでしょうか? ・・・ちょっと蒸しすぎてしまったんですけれど・・・」

 

「ん、変わらず美味しいよ。ちょっと形が崩れてても、むしろ手作りの感じがして美味しく感じるよ」

 

さっき思いっきり潰していたり、会話に夢中になって蒸しすぎたりしているものの、味には特に問題は無い。

むしろ、こうして「ちゃんと手作りしてますよ」という温かみは大切だ。・・・こういう感じが無ければ、愛紗の料理もあそこまでまともには食べられない。

というわけで、こういうのを気にしそうな亞莎はきちんとフォローする。

 

「そういえばギル様? この後ご予定とかありますか?」

 

唐突に明命が俺の予定を聞いてくる。

・・・これが「お膳立て」か。まぁ、正直この後は仕事が詰まってるけど・・・。

あの話を聞いて断ることはなぁ・・・。ま、ちょっと後のほうに詰めてみるか。

 

「いや、特には。・・・どうした?」

 

「え? あ、いえ、その・・・あ、そうです! 亞莎が、お話があるそうで!」

 

何故か俺の返答を聞いて焦りだした明命が、亞莎の肩を持ってそう熱弁する。

 

「ふぇっ!? ・・・ちょ、ちょっと明命っ。急すぎ・・・!」

 

「だ、だって、まさか予定があいてるとは思わなくて・・・お忙しい方だと思ってたから・・・」

 

急にむこうを向いて耳打ちし合う二人。

・・・あ、ごめん。なんか、予想外のことを言ってしまったらしい。

ダメ元で聞いてきたのか、明命。

慌てて二人は体勢を立て直したようだ。俺の方へ向き直り、亞莎が口を開く。

 

「あ、あのっ、それでしたら・・・後で、お話が・・・」

 

あります、と小さい声で続ける亞莎。・・・なんか俺の方が緊張してきたんだけど。

今じゃダメか? と聞いてみるが・・・亞莎は赤い顔でぶんぶん首を振った。ちょっと意地悪すぎたか。

 

「・・・」

 

明命がジト目でこちらを見つめてくる。・・・む、何だその「空気読めよ」みたいな目。

全く、俺ほど空気を読めるナイスガイもいないだろうに。

 

「こ、こほん。それじゃあ、私は次のお仕事があるので・・・」

 

わざとらしく咳き込んだ明命は、亞莎にウィンクをする。

・・・どうやら、お見合いのときの親みたいなことをしているらしい。

ちなみに、上の台詞はびっくりするくらい棒読みだったことを説明しておく。

 

「むぐむぐ・・・」

 

明命が出て行った後、亞莎は顔を赤くしてごま団子を頬張るだけだ。

・・・緊張するのは分かる。分かるけど、沈黙はほら、気まずいぞ。

落ち着くための時間も必要だろうとこちらも口を閉ざす。食堂には、変な静寂が訪れていた。

 

「・・・あ・・・もう、ない・・・」

 

皿の上を見て、亞莎がそう呟く。そりゃ、あんだけのペースで黙々と食べ進めていたらすぐになくなる。

すぐにそわそわとし始める。こっちを見て顔を赤くして俯いて、またこちらを見て・・・の繰り返しだ。

ああもう可愛いなぁ。いじらしいなぁ。

 

「・・・それで? 話があるんだろ?」

 

埒が明かないので、亞莎には申し訳ないが話を進める。

そろそろ落ち着くにしても十分な時間は経っただろうし。

俺の言葉に、亞莎ははい、と言って姿勢を正した。

 

「あの・・・えぇと・・・何からお話していいか・・・」

 

しばらくもじもじしていたが、意を決したのか亞莎は口を開く。

 

「ぎ、ギル様は・・・私の憧れの方です。強く、お優しく・・・まさに英雄と言うに相応しいお方です」

 

「やばいな、凄い恥ずかしさがマッハだ」

 

亞莎の邪魔にならないように、小声で呟く。

褒められる、というのはとてもくすぐったいものだ。・・・壱与は除く。あれは狂信とか意味分からないものだ。

 

「そんなお方と一緒にお話できて、ごま団子を作って・・・そうやって過ごしているうちに・・・好きに・・・なっていました。・・・ええと、私を、おそばにおいて頂ければ、幸いです」

 

亞莎は、消え入りそうな声でそう告白してくれた。

机をはさんで向こう側に座る亞莎の手を掴む。

ビクリと肩を震わせた彼女に、出来るだけ落ち着いて伝える。

 

「ありがとう。本当に嬉しいよ。・・・亞莎の評価通りの人間だとはいえないけれど・・・それでも、亞莎の気持ちに応えたいと思う」

 

「あ・・・」

 

俺が握った手を、亞莎は握り返してくる。

 

「え、と・・・これから、よろしくお願いいたします・・・!」

 

「ああ。これからは積極的に甘えてくれよ?」

 

「は、はいっ・・・! が、頑張ります!」

 

遠慮しがちな亞莎が、これから少しでも俺に甘えてくれたりすれば嬉しいな、と思う。

・・・そしてそれ以上に、「よっしゃ、これでアリス服着せる口実が出来た」とも思ったのだが・・・こっちは心の中にしまっておくとする。

 

・・・

 

「それで、亞莎っ。どうだったの?」

 

「どうって・・・何が?」

 

ごま団子を食べた翌日・・・つまり、亞莎が告白に成功した次の日に、明命は亞莎の部屋を訪ねていた。

そこで挨拶もそこそこに、興味深そうな口調で切り出した。

 

「昨日のこと! 私が二人っきりにしてあげたんだから・・・ちゃんと想いは伝えたの?」

 

「あ・・・あぁ、昨日の、えと、そうね・・・」

 

赤くなってもじもじとし始めた亞莎を見て、明命はある考えにいたった。

この恥ずかしがり屋のことだから、もしかしたら二人っきりになったあと恥ずかしすぎて何も話せなくなり、告白もせずに逃げ出したりしたんじゃなかろうか、と。

 

「・・・亞莎? もしかして・・・何も話せなかったとか?」

 

「あ・・・いや、その、話せた、よ?」

 

「本当にぃ・・・?」

 

信じられないなぁ、という顔で亞莎を見つめる明命。

その疑いの視線に、本当だよっ、と大声で反論する亞莎。

 

「ちゃ、ちゃんと話したもん!」

 

「・・・じゃあ、説明してみてよ。私がいないくなった後、何してたの?」

 

「えっと・・・ごま団子食べて・・・」

 

「食べて?」

 

「・・・ごま団子をもっと食べて・・・」

 

「・・・もっと、食べて?」

 

だんだんと明命の声が怪訝なものへと変わっていく。

嫌な予感がだんだんと現実味を帯びてきたような、そんな表情だ。

 

「・・・それで、ごま団子を食べ終わって・・・」

 

「うん・・・それは分かるよ? それで、その後は? 何を話したの?」

 

「えっと・・・お話は、その・・・ね?」

 

「『ね?』じゃないのっ。・・・誤魔化さないで真面目に話してっ」

 

がお、と可愛らしく頬を膨らませる明命。

全く怖くは無いが、亞莎はビクリと肩を震わせて目を瞑る。ひゃう、という怯えた声のおまけ付きだ。

 

「えと・・・その、ギル様のこと、好きです、って・・・」

 

「・・・いきなりそんな話を? ・・・何の前触れも無く?」

 

亞莎は、こくりと静かに頷いた。

はぁ、とため息をつくと、明命は脱力したように背もたれに背中を預けた。

 

「こ、答えはいただけたよっ!? その、『嬉しいよ、これからもよろしく』って!」

 

「ギル様は優しすぎるんだから・・・。それで、その・・・どうだったの?」

 

「・・・それ以上は、何も無いよ? ・・・ホントだよっ!」

 

「・・・え? ・・・その、閨に呼ばれたりとか・・・」

 

赤くなった明命の言葉に、亞莎も赤くなって答える。

 

「そ、そんな恐れ多いことっ! 手を、ぎゅっとされて・・・それで、部屋まで送ってもらって、お別れしたよ・・・?」

 

「・・・そ、う・・・なんだ」

 

「な、何か、変・・・?」

 

「う、ううんっ。何でもっ! ・・・そ、そっか、亞莎はまだ、なんだ・・・」

 

お互いに赤い顔をした二人は、しばらく気まずい時間を過ごすのだった。

 

・・・

 

少し、時間は遡る。

クリスマスイブの夜。月を送っていった後、一刀を探して声を掛けた。

 

「あ、一刀発見」

 

「おう、ギルか。どうした? 何か用か?」

 

「・・・いや、ちょっとしたお誘いをな」

 

「お誘い? ・・・なんだよ、変にかしこまって」

 

「今日は何の日だ?」

 

俺の言葉に、一刀は少し考え込んで・・・すぐにああ、と声を上げた。

 

「クリスマスイブ!」

 

「そう。だったら、日本人がやることは一つだろ」

 

「日本人だけではないだろうけど・・・その様子だと、甲賀も誘ってるんだろ?」

 

「ああ。あのなつかしの揚げた鶏肉もあるぞ」

 

「・・・マジで? 甲賀の俗っぽさが加速してるな」

 

厚着の一刀の隣で甲賀の家へと歩きながら、宝物庫の中身を確認する。

・・・今回は宝物庫の中の自動人形たちもサンタコスだ。・・・カラーリングが緑と赤になったメイド服を着ていて、頭のヘッドドレスがサンタの帽子になっているだけなのだが。

今はせっせと飾りつけの最中だ。それと、璃々のためのプレゼントの包装もやってくれている。

ほんと、中々個性的な奴らだよなぁ・・・。

 

「こんにちわー」

 

一定のリズムでドアをノックすると、がちゃり、と扉が開く。

ランサーか甲賀が出てくると思っていたのだが・・・顔を覗かせたのは、まさにサンタ、という男だった。

白いヒゲに赤と白の服装。背が高く、ふくよかな体形・・・俺達二人は、まさかの展開に一瞬固まってしまった。

 

「・・・む、貴様らか。・・・? どうした、そんな固まって」

 

「その声・・・甲賀?」

 

「その通りだが・・・ああ、この服装の所為だな。ははは、貴様らも驚いたか」

 

まぁ入れ、という甲賀の後ろについて、屋敷へ入る。

廊下を歩いている最中、甲賀の格好についての説明を受けた。

 

「これはまぁ、礼装みたいなもんだ。変装用のものでな」

 

「へえ・・・体形とかも変わるんだ」

 

「いや、これは服の体積が増えてるだけだ。俺の体には何も変化は無い」

 

・・・なるほど。着ている服が膨らんだりしているから、さっき本場のサンタに見えたのか。

 

「そういえばギル、こちらでフライドチキンは用意したが・・・ポテトはそっち任せだったな。出来てるのか?」

 

「もちろん。宝物庫の中でサンタコスの自動人形が揚げまくってるよ」

 

「・・・お前、何でもありだな。宝物庫の中がどうなってるか、凄まじく興味深い」

 

サンタの格好のまま、こちらをじとりと睨みつける甲賀。

・・・仕方ないだろ。俺だって把握し切れてないんだ。中で自動人形が駄菓子屋やってようがファストフード店やってようが俺が何か出来るわけないだろうに。

 

「まぁいい。・・・飾りつけはもう終わっていてな」

 

そう言って案内された部屋は、確かにクリスマスの飾りつけがしてあった。

俺達四人しか参加しないので部屋は若干狭いが、それでも十分なほどだ。

 

「・・・それにしても、男四人で顔付き合わせてクリスマスイブか」

 

「言うなって甲賀。・・・どっちかっていうと、クリスマスって言うより現代の日本が懐かしくなってやってるって言うのが近いだろ」

 

甲賀やランサーはともかく、俺や一刀は若干ホームシックになりやすいので、こうしてちょいちょい色んなことをやっている。

 

「お待たせいたしました、皆様」

 

軍服にエプロン、更にミトンを装備したランサーが鍋を持って部屋に入ってきた。

その後ろには、甲賀の部下らしき人物達が様々な料理を持って並んでいた。

机に並べられた料理は、まさにクリスマスと言ったものばかりだ。

俺も宝物庫からフライドポテトを並べ、四人が座る机の上にはケーキやらなんやら、クリスマスっぽいものが所狭しと並んでいる。

 

「おー・・・すっげ。俺も及川・・・友達とかとクリスマスに騒いだりしたけど・・・そのときよりも豪華だなぁ」

 

「それはお前、学生だけで騒ぐのと、サーヴァント二人に魔術師含めて騒ぐのはスケール違うだろ」

 

一刀の呟きに、甲賀が苦笑しながら答える。確かに、俺の宝物庫とかあれば、凄まじい規模のパーティが出来そうだ。

それぞれの手元にシャンパンが用意される。・・・これは、自動人形に神代のワインを求められたので渡したらいつの間にか作成されていたものだ。

試飲してみたのだが、とても美味い。・・・どうやって作ったのか、と聞いたのだが、首を横に振るだけで決して教えてくれなかった。

 

「うわ、すご、シャンパン・・・だよな?」

 

「ああ。・・・神代のワインと、得体の知れない何かを混ぜたら出来るらしい」

 

「・・・それ、飲んでも大丈夫なのか・・・?」

 

微妙な顔をしてシャンパンを覗き込む一刀。まぁ、毒物じゃないだろ。

 

「それじゃ、メリークリスマス! ・・・一日早いけどな」

 

「それは言いっこなしだって。メリークリスマス」

 

「メリクリ」

 

「マスター・・・。ええと、めりー、くりすますっ!」

 

四人全員、それぞれの乾杯の音頭で、シャンパンを口にする。

・・・む、美味しいな。流石は宝物庫産ワインを使ったシャンパンだ。

後はもう料理を摘みながら雑談をするだけだ。

 

「そういえばギル、あの娘の腹の調子はどうなのだ?」

 

「・・・甲賀、もうちょっと聞き方ってもんが」

 

「いいっていいって。甲賀がこんな性格なのは知ってるから。月も、お腹の子も順調だよ。来年の五月末位には生まれるってさ」

 

「ほほう。なんだ、華佗に言われたのか?」

 

「いや、神様。神託のレベル上がったからって最近頻繁に呼ばれんだよね」

 

「・・・え? ちょ、ギル殿? 神様に頻繁に呼ばれるのですか?」

 

「呼ばれるよ? むこうは暇みたいだしね」

 

「・・・神とは、そんなに近くにいたのですね」

 

はぁ、とため息をつくランサー。

まぁ、俺も最初はそんなんだったので、慣れるしかないだろ、と放っておく事にした。

 

「それにしても料理美味いな。フライドチキンとか、良く作れたな」

 

「うむ。お前から色々宝具を借りただろ? 一週間ぐらい試行錯誤してな。調理用の機械を作ってみた」

 

「何でもありか」

 

「そりゃ、お前の宝物庫の中は無限よりも多いからな。一つでは出来なくても、組み合わせれば出来るだろうさ」

 

「そういうもんか」

 

そういうもんだ、と頷く甲賀は、次に一刀に視線を移した。

 

「一刀、貴様の書いた「ゲーム」、面白そうだな」

 

「あ、読んだ? っていうか、甲賀ってゲームとか分かるんだな」

 

「ふん。もちろんだ。これでも元いた里では「オタクマジキメェ」とあだ名されていたからな」

 

「・・・それ、悪口って言うんじゃ・・・」

 

「というか、忍者の里でも「オタク」とか「マジキメェ」とかって言うんだな」

 

甲賀の話を聞くに、忍者と言えど閉鎖的なわけではなく、色んなところに潜入する為に流行は抑えているらしい。

なので、甲賀のあだ名も決してありえない話ではないのだが・・・甲賀って、意外とぼっちだったりするのか・・・?

 

「でも、俺も幼馴染と喧嘩したときとかはそういうこと言ってたなー。お互いにオタクだったからさ」

 

「・・・それもそれで凄いな。・・・んー」

 

まぁ、幼馴染とはそれでも仲良かったんだけど。喧嘩するほどなんとやら?

一刀は、そんな俺の言葉を聞いて考え込んでいるようだ。・・・表情から察するに、ここに来る前のことを考えているみたいだ。

先ほども及川、という友達の名前を呟いていたし、やっぱり懐かしさもあるんだろう。

こうして思い出させるのも酷かと思うが・・・忘れてしまうよりはいいだろう。俺も、たまには生前のことを思い返してみたりもする。

大戦が終わってからは平和に考え事もするようになったから、余計に考え込む時間も増える。

・・・まぁ、月やみんなといる今も大事だし、こちらに来る前の、過去のことも・・・どちらも必要なものだ。

どちらかだけ、というのは何かが違う。

一刀もそんな結論に至ったのか、一人頷いていた。

 

「一刀、考えはまとまったか?」

 

「ん? ・・・あ、ああ。ごめんな、宴の席なのに一人だけ・・・」

 

「構わん。この四人で集まれば、何かしら思うこともある。それが貴様だっただけのこと」

 

そら、飲め、と一刀のグラスにシャンパンを注ぐ甲賀。

・・・本当に、面倒見のいい優しい忍者だな。

 

「まぁ、飲め。こういうときに酒に逃げられるのが、大人の良いところだ」

 

こうして、雪のしんしんと降りしきる中、朝日が積もった雪を照らすまで、この宴の席は続いたのだった。

・・・ちなみに、プレゼント交換で得たものは「スリケン」と達筆で書かれた札が貼られた手裏剣だった。・・・なんだこれ?

 

・・・

 

そろそろ新年の準備も終わらせないとな、と書類仕事を進める。

そんな俺の目の前では、壱与がせっせか何かを書いている。

・・・壱与が俺を目の前にしながらここまで理性的に何かをしている姿というのを初めて見るので、何を書いているか気になるところだが・・・。

結構な秘密事項らしく、頑なに見せてくれなかった。

見せて、と言えば申し訳なさそうに首を横に振られ、覗き込もうとすればその上に突っ伏して隠すし、力づくで除けようとすると、ハァハァと興奮しつつも、やはり頑なに机から離れない。

 

「・・・いかにギル様といえど・・・これだけはお見せできないのです。ご、強引に見るというのでしたら、全力で抵抗させていただきます! ・・・そ、そのときにギル様からビシビシされたりグリグリされたりしたら嬉しいなぁ・・・」

 

後半は何やら声量が落ちたので聞き取れなかったが、壱与の意思は硬いらしい。・・・だがしかし、なんだか新鮮だな。

色々とちょっかいを出してみるが、一番力の抜けるであろう絶頂の後も硬く書類を掴んで離さなかった。

・・・うぅむ、これはなんというか・・・いじめっこになってしまった気分だ。罪悪感が凄まじい。

 

「・・・というか、そこまで俺に秘密なら自分の国に戻って書けばいいのに」

 

「えと・・・ぎ、ギル様を見て私の心を高ぶらせることで、執筆の活力とさせていただいているのです!」

 

「そ、そうか。・・・まぁ、壱与は騒がない娘だから、別にいいか」

 

その後も、書類を片付けている俺をチラチラと盗み見ながら何やら書き込む壱与。

・・・気にしないように、とは思うのだが、どうも気になって仕方が無い。

後で卑弥呼とかにも心当たり無いか聞いておくとするか。

 

「・・・俺に抵抗する壱与とか初めてかもしれんな」

 

そんなことを思いながら、俺は年内最後の書類仕事を終わらせるべく筆を走らせるのだった。

 

・・・




「あれ?」「? どうした、神様」「・・・いえ、なんでもないです」「・・・ほう? 神様、俺はもう神様に触れるんだぞ?」「ひうっ、手をわきわきさせないでくださいっ。・・・もう、話しますよ。話しますから。・・・ええと、神性上がりました。おめでとうございます」「またか。・・・え?」「あ、確認しました?」「・・・EX?」「EXです」「・・・いーえっくす?」「いーえっくす。もしくはエクストラ。ほぼ神どころか、神ですね。むしろ私より上かもしれません。・・・マジで英霊の座につくんですかね、あなた」

神性:EX ・・・神から見ても存在が別物に見えるほどの神性。元々本人の魂に神性適性があり、最大の神性適正を持つ英雄王の能力を持ち、神様との交流が多いため、限界を突破したらしい。


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