真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「・・・あら。あの人たちは確か侍女隊の方々でしたか」「・・・あら? あの方は確か・・・邪馬台国、と言う国の王女様だったような・・・」「・・・! ギル様の匂いがします!」「・・・! ギル様の匂いがします!」「・・・!? あ、貴方達・・・まさか・・・」「お、王女様・・・まさか・・・」「それは、ギル様のシーツ!」「っ、あれは、ギル様の上着!」

一瞬で意思疎通し、同志となったそうです。


それでは、どうぞ。


第五十七話 お祭り騒ぎと騒動に

「良かったじゃないか。おめでただよ」

 

華佗の診療所に月を担ぎ込んだ結果、華佗から笑顔でそう伝えられた。

・・・おめでた?

 

「妊娠だよ、妊娠。二ヶ月目位だな。まだ外観的な変化はないが・・・先ほど彼女の気を見たときにはっきり分かったよ。小さいけれど、二つ目の違う波長の気があったからな」

 

「・・・ほう。ほほう! ついにか! やったな!」

 

「ふぇ? ・・・え、あ、ああっ、おめで、ああ、そういう・・・! や、やたっ」

 

可愛らしく拳を握って喜ぶ月。うむうむ。・・・正直に言って、とてもほっとした。

今まで・・・まぁ、相当な数の女の子としてきて早数年。一人も子供が出来ないのは、俺の体に泥が混ざっているからか、とか悩む夜もあった。

その分、この報告の喜びはひとしおである。・・・神様の言ってたことはこれか。

確かあの神様、生命を司る神様とか言ってたからな。そういうことだったのか。

 

「よし月。早速仕事は全て休め。屋敷を一軒経てよう。そこで静養して、元気な子供を生みましょう」

 

「ちょ、ギル、お前なぁ。やることが極端だぞ。・・・いや、まぁそれが一番安全ではあるが」

 

華佗がため息を吐きながら、がたんと立ち上がった俺を諫める。

む、しかし、月に何かあれば・・・。

 

「ある程度仕事をするのはいいだろう。屋敷に篭りっぱなしっていうのも、精神的によくないからな」

 

「む・・・そういうものか。なら、仕事は追々侍女隊の誰かに任せていく感じで。・・・俺は早速甲賀に屋敷の建設を手伝ってもらいに行こうかな」

 

「・・・子供が出来ただけでこの騒ぎだ。生まれたら凄いことになりそうだ。・・・あ、そうそう。ある程度お腹も大きくなってきたらまた別に気をつけることもある。産婆を紹介するから、また今度連絡してくれるか」

 

「はい、分かりました。・・・ふふ。どんな子が生まれるかなぁ。元気に育ってね」

 

・・・

 

侍女長妊娠。そのニュースは、城内に激震をもたらした。

侍女隊は歓喜に沸き、他のギル関係者達は私達も、と闘志を燃やしていた。

町の人たちにも伝わるのに、そう時間は掛からなかった。

 

「なんと! 兄貴に!?」

 

「はい。蜀の屋敷がなにやら慌しいと思いましてね。多喜殿に色々と事情を聞いたところ、どうやらそうみたいだ、と」

 

「おー、早速騒いでるなー」

 

「あ、大将!」

 

俺が兵士達に近づくと、皆駆け寄ってくる。

 

「いやー、町もその話で持ちきりだなー」

 

「そ、それでどうなのでしょうか! 話の真相は!」

 

蜀のが代表して俺に質問を飛ばす。

 

「ん、本当だよ。ゆ・・・ええと、侍女長がギルの子を身篭ってね。今ギルがフィーバーしてるからサーヴァント総出で抑えてる」

 

「ふぃーばー・・・? それに、さーばんとというのは一体・・・」

 

呉のがそう呟いた瞬間、城から爆発音。さらにもくもくと白煙が立ち上った。

 

「・・・ああいうこと。ギルがあまりの嬉しさにちょっと手が付けられなくなってるから、セイバーとかランサーとか総出で落ち着かせようとしてる」

 

「な、なるほど・・・」

 

「俺にはやることないからさー、町の様子でも見てこようかなって思って」

 

そう言って周りを見回してみると、やっぱり町中その話題で持ちきりみたいだ。

何処もかしこもその話ばかり。むしろそれ以外の話をしている人が見当たらないくらいだ。

料理の注文をしているおじさんも、その後にはすぐにギルと月ちゃんの子供の話だし、注文を受けたおばちゃんもその話ばかりだ。

歩いている夫婦らしき男女二人組みも、そこらへんを走っている子供達もその話ばっかりだ。

 

「ついにギル様に第一子誕生だってな! それで、男の子か、女の子か!?」

 

「まだ生まれてないって。確か懐妊されたばかりだとか・・・」

 

「ぎうさまにおこさまー!」

 

「おこちゃまー!」

 

「ね、ねえ。・・・その、私も実は・・・」

 

「え、えぇえっ!? そ、それは本当かい!?」

 

・・・一部でなんだか祝福されるべき人たちが居たような気もするが、まぁそんなこんなで月ちゃんの妊娠騒動は町を賑わせまくっていた。

 

・・・

 

「ふーっ、すっきりしたー!」

 

「そ、それは・・・よか、った、な・・・」

 

「ぐ、くぅっ・・・わ、我が同胞達が・・・きゅ、九割、戦闘不能・・・!?」

 

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・」

 

「こっ、心なしか、バーサーカーにも、覇気が、ないねぇ」

 

「レ、レッツパァァリィィィィ・・・!」

 

「・・・」

 

よっしゃー、と両手を挙げて清清しい気分で息を吐くと、俺以外のサーヴァントが死屍累々と言った様子で倒れていた。

・・・? どうしたんだろうか。

 

「・・・よ、容赦ねー。俺の溜め込んでた魔力半分以上持ってったぞ、あいつ・・・」

 

「いやー、俺もだ。・・・参加しようかなーって最初迷ってたけど、参加しなくて良かったぜ。まだ俺も命は惜しいしな」

 

「うひゃー、ハサンの仮面が割れかけてるよー」

 

「うっわぁ・・・これが今のギル・・・」

 

心なしかマスターたち皆も俺から距離を取っているように感じる。

 

「・・・ま、いっか。・・・ようし! 次は月が安全に出産育児が出来るように屋敷を建設して、そうだ、世話のために自動人形も投入しよう。溜めに溜めた魔力はこういうときに使うべきそうするべき」

 

「・・・完全に怪しい人だね。・・・ま、ボクたちも子を宿せばああいう扱いになるんだなーって予習になるね」

 

「ギルとの子供かー。お姉ちゃん達よりは早く欲しいなー」

 

・・・

 

ようやく落ち着いてきたので、華琳、桃香、蓮華の三人を集め、俺と月はこれからの話をしていた。

・・・どうやらテンションマックスになっていた俺は宝具フル使用でサーヴァントをボッコボコにしていたらしい。

あの後恋たちにも絡まれて戦ったらしいのだが、あいにく俺に記憶がないのでどう戦ったかは定かではない。

 

「全く。嬉しいのは分かるけれど、貴方、自分の立場とか存在とか分かってるの? ・・・もうちょっと自重しなさいな」

 

「そうだよー! もうっ。・・・でも、おめでとう、お兄さん、月ちゃん。次は私になるように頑張るねっ」

 

「あっ、わ、私も! ・・・その、頑張るわ」

 

華琳からの叱責はもっともなのだが、あとの二人は・・・どうなんだ?

 

「ええと、それで、話を戻すけど・・・。屋敷を一軒建てたいんだ。人員はこちらで用意するから、城内の侍女隊は使わないし」

 

「・・・侍女隊を使わないって・・・また別に雇うの?」

 

「いや、色々と魔術やら宝具やらを大々的に使いたいからな。俺の宝物庫に入ってる自動人形を使う」

 

「自動人形? ・・・まさか、独りでに動く人形のからくりとか・・・」

 

「もっと上位のものだな。確か、黄金の鉄の塊で出来た人間だったか・・・」

 

コストが高くて神様も「あ、これ駄目だわ」と大量生産を諦めたと言うハイスペック人間だったはずだ。

これならば俺の言うこときちんと聞くし、宝物庫の中で駄菓子屋を開くくらい自我もあるし・・・うん、問題ない。

なんて話を三人にすると、何故か唖然としていた。

 

「・・・ええと、神が創った黄金の人間・・・?」

 

「私それよりも宝物庫の中で開かれた駄菓子屋さんって言葉に驚きだよ・・・」

 

「宝物庫の中ってどうなってるんだ・・・。地面とかあるのか?」

 

「・・・へぅ、色々と、私、気になります・・・」

 

ゆえたそー。・・・はっ、へ、変なことを口走ったか。

まぁ、俺もある日宝物庫の中に頭突っ込んだらメイド服に身を包んだ自動人形たちが昭和の雰囲気たっぷりな駄菓子屋を開いていたときは自分の正気を疑ったが。

やはりそこは慣れるとそうでもなくなってくる。

 

「まぁ、そこまで用意するなら文句はないけど・・・広さはどのくらいにするのかしら?」

 

「広さ? まぁ、月と自動人形数人だからな。あんまり大きいのは建てな・・・どうしたんだ、全員凄い顔してるぞ」

 

「い、いやいや、びっくりしてるんだよ。だって、その、これから子を宿す人が一人ずつって事はないよね?」

 

「それに、生まれた後に育てた場所も必要だぞ?」

 

「ある程度離れたところに建てないと夜泣きとかの騒音の問題もあるでしょうし・・・」

 

「だから、普通にもう一つ城を建てるくらいの広さは必要だと思っていたのだけれど・・・」

 

・・・な、なるほど。そうだよな。

俺は結構目の前のことしか考えていなかったようだ。

確かに、これから皆がもし妊娠とかしたとき、屋敷一軒では普通に狭いだろう。

生まれた子を育てるスペースも確かに必要だし、その都度屋敷を建てていたのでは無駄もいいところ。

それならば、いっそ広い城を・・・いや、後宮か。後宮を建てたほうがいい、と言うことだろうな。

 

「ああ、そうね。後宮。まぁ、普通は王妃とか太子とかのものだけれど・・・ギルも王みたいなものですものね」

 

「・・・ギルさんがはっちゃけて後宮満員になるとか、大丈夫ですよね・・・?」

 

「そ、そう言われると私にはなんともいえないけど・・・」

 

「私は絶対行くよっ。もう今夜からギルさんのお部屋行くからね!」

 

「・・・それ、朝から色んな子に会うたびに言われるんだ。頼むから、前みたいな阿鼻叫喚地獄絵図は勘弁してくれよ」

 

「えー? 私もだけど、他の皆も満足してたと思うけどなー」

 

・・・いや、俺も辛いばかりだったとは言わないけど・・・。限度って言うものがあるよね?

 

「まぁ、お仕事の関係とかでこれない人とかもいるよ。だいじょーぶ、私たちも前みたいなことはしないからっ」

 

「・・・取り合えず、桃香と蓮華は確実に来るんだな。・・・まぁ、二人はまだ常識的なほうだから問題ないけど」

 

「まだ、ってところに何か感じるけど・・・」

 

こうして、俺の後宮がこの町の外側に建設されることになった。

敷地は用意したし、後は作業員だな。・・・毎度の事ながら、ランサーに相談するか。

 

・・・

 

「・・・申し訳ありません。今回ばかりは、お手伝いできません」

 

相談を持ちかけてみると、ランサーはこの世の終わりかのような顔をしてそう返して来た。

 

「先ほどギル様を止めるときに我が同胞が九割戦闘不能状態になりまして・・・回復まで半年を要する状態に陥ってしまったのです」

 

「まぁ、一割しか残ってないとはいえ結構人数はいるのだがな。俺の屋敷の運営にも人間は使うし、悪いがそちらに回す人員は余りいない。・・・まぁ、十人程度だな」

 

「そうか・・・俺、最悪なことしてたな・・・」

 

記憶はないが、まさか複製ランサーたちをそこまでボッコボコにしていたとは・・・。

それならば、今回はランサーに頼らずに頑張るしかないな。・・・まぁ、何か建てる時に毎回ランサーに頼るって言うのも情けない話しだし。

ここは町で募集でもかけるか。

 

・・・

 

「・・・なんだこりゃ」

 

町に立て看板をたてて人員募集したところ、思わず絶句するような結果になった。

少ない、と言うわけではない。むしろ逆である。多すぎる。

 

「おいおい、こんな人数きたら半分以上店閉まるだろ。・・・大丈夫なのか?」

 

近くにいた一人の男性に聞いてみると、「ギル様のお役に立てるのでしたら、店を閉めるくらいなんともないでさぁ」とのこと。

嬉しいけど・・・って、彼は俺が良く行く飯店の店主じゃないか。ほら、特別定食の。

良く見ると様々なところでお世話になっている店の店員なんかもいるな。

 

「・・・なら、好意に甘えるかな。よし、それじゃあ建設予定地に行こうか」

 

ぞろぞろと大人数を連れて予定地へと行くと、すでに建材なんかは用意してあった。

・・・まぁ、俺が宝物庫に入れて運ぶだけだからその辺りは人員要らないからな。

建築するための人員なので、あんまり日数も掛からないだろう・・・とは思うのだが。

まぁ、俺の基準はランサー基準だからなぁ。少し大目に計算しておくとしよう。

 

・・・

 

「よし、大体予定通りに建ちそうだな」

 

数週間が経って、骨組みの一部くらいは見えてきた後宮を見て、まだまだ先は長そうだと一人頷く。

さて・・・今日の仕事はなんだっけか。

昨日朝まで突撃してきた子の相手をしていたからかド忘れしてしまったようだ。

 

「仕方ない。・・・壱与ー」

 

「お呼びでしょうかっ!」

 

「呼んだ。俺の今日の仕事って覚えてる?」

 

「それはもちろん! 午前中は後宮建築予定地の査察、遊撃隊の訓練、お昼はしすたぁずと会食、午後からはギル様自身の訓練となっております!」

 

「よーしよし、良く覚えてたな。褒美に撫でてやろう」

 

「くぅーん・・・」

 

即座にお座りの体勢になった壱与の頭をくしゃくしゃと撫でる。

ああ、犬耳と尻尾がはっきりと見える。こいつは本当に従順だな。

 

「・・・あの、壱与もギル様とのお子が欲しいので、頻繁に閨に呼んでいただけると嬉しいです。・・・壱与からももちろん突撃しますけれど」

 

「んー、まぁ、そうだよなぁ」

 

アレだけの『家族計画書』を書いてくる壱与だ。好きな人との子供、と言うものに人一倍憧れがあるのかもな。

 

「それにしても、壱与がそんな控えめなことを言うとはな。『他の人なんか良いのでまず私を相手してください!』くらいは言うと思ったが」

 

「・・・壱与、最近思うんです。子が出来れば生まれるまでギル様の相手を出来ません。・・・ならば、壱与以外の人間を全員妊婦にしてしまえば、壱与でギル様独り占め、と」

 

「安心したよ。お前何も変わってないわ」

 

「えへへぇ、そうですかぁ? 褒められると照れちゃいますっ」

 

褒めてないんだけどなー。そこは察せないかなー。

 

「じゃあ、壱与が言うとおり他の子たちが妊娠してから相手するから、しばらく閨に来るの禁止な」

 

「・・・え? ・・・はっ!」

 

「その可能性にはいたらなかったか? ・・・抜けてんなー」

 

よしよしと頭を撫でて、その場から歩き去る。

 

「え、ちょ、ちょ、待って! 待ってくださいギル様っ。そ、そこまでの放置プレイは予想しておりませ・・・ギル様ーっ!? なんで一切歩調を緩めないんですかっ。壱与の歩幅だとちょっと追いつけな・・・」

 

後ろでなにやら騒いでいる壱与を尻目に、訓練場へと向かった。

 

・・・

 

「あら? 隊長じゃないですか。どしたんですか、こんなところで」

 

「こんなところって・・・一応俺の部隊なんだけど」

 

「あははー、最近ご主人様が来ないから、副長さんは不貞腐れてるんですよー」

 

「ちょ、七乃さんっ。ち、違いますよっ。別に私不貞腐れてないしっ。隊長と子をなすのをさき越されちゃって不安になんかなってないし!」

 

わたわたと弁明し始める副長を微笑ましく見下ろしながら、七乃から書類を受け取って用意された俺の席に座る。

そんな俺の真正面でなにやら副長は熱く語り始めたので、右から左へと受け流しながら書類整理するとしよう。

 

「あ、七乃。この武器の配布数なんだけど・・・」

 

「はいはいー。ちゃんと訂正してありますよー。弓を若干大目に、ですよねー?」

 

「はは、そうそう。やっぱり七乃は優秀だよなー」

 

朱里や雛里達とはまた違うベクトルで頭の良い子だ。

人の機微を読むのが上手いというか・・・軍師としてと言うより、補佐官として隣においておくと凄く役立つタイプである。

 

「褒めても何も出ませんよー。・・・あ、そうだ」

 

「? どうした?」

 

「あの、お嬢様のことなんですがー・・・」

 

「美羽がどうかしたか?」

 

首を傾げる俺に、七乃は声を潜めて耳打ちしてくる。

 

「ええと・・・まだちょっと早いと思うので、子をなすのはもうちょっと待ってあげてくださいねー?」

 

「ぶふっ!?」

 

「ですから――ひにゃっ!? た、隊長っ!? にゃに急に噴出して・・・き、きちゃないっ」

 

「汚くないっ! ギル様に真正面からお茶を吹きかけてもらえるなんて・・・うらやましいっ!」

 

「じゃあ変わって下さいよ! ・・・やっぱやだ! たいちょ、もっと私に吹いてください!」

 

「あーっ、ず、ずるいずるいっ。ギル様、こんな淫乱姫よりも壱与に・・・」

 

「いっ、壱与さんに淫乱とは言われたくないですっ! 変態姫っ!」

 

・・・また始まった。

先ほど置いてきたはずの壱与が追いついたらしく、副長といつものように喧嘩し始めたので、これまたいつものようにスルーする。

そして、爆弾発言をした七乃にどういうことだ、と細かい説明を求める。

 

「え、えーと、いえ、その・・・言葉のとおりと言いますかー。確かにもう子を成せる身体ですし、お嬢様もそういうのは拒まないとは思うのですがー・・・なにぶん、お嬢様は小柄ですので」

 

「あ、ああ。そういう心配か。・・・びっくりした」

 

「・・・何に驚いたんですかー?」

 

ジト目でこちらを非難するように見つめてくる七乃からわざとらしく視線を外す。

座っている俺の脚に片方ずつ抱きつきながら地べたに座り込んで口論している二人が目に入ったので、結局七乃に視線を戻した。

 

「そういえば、七乃はないのか? 子供欲しい、とか」

 

「・・・しばらくはお嬢様で十分ですよー」

 

「さらっと美羽を子ども扱いしたな・・・」

 

まぁ、精神は子供みたいなものだからな、美羽。

七乃もそれが落ち着くまでは考えられんか。・・・その割には俺避妊とかした覚えないけど。

 

「まぁ、出来たときは出来たときで、ご主人様と同じく愛するだけですけどー」

 

「・・・お前・・・」

 

「ふふ、感動しました?」

 

「・・・俺のことちゃんと好きだったのか。驚いたぞ」

 

俺の言葉に、七乃は頭を抱えながらため息をついて数回横に首を振った。

なんだ、その『やれやれ』みたいなジェスチャー。

 

「前言撤回しますー。やっぱり、早急に子作りしましょうね、ご主人様」

 

「なんだその急な心変わりっ!」

 

・・・

 

足を掴んでいた二人と七乃に襲われかけたので、昼食の時間だと言うことを言い訳に何とか逃げ出した。

まぁ、時間的に丁度いいこともあったし、あの三人も渋々諦めていたから良いとしよう。・・・そういうのは、キチンと夜になー。

 

「そういえば、ギルに子供できたんだってー?」

 

「・・・まぁ、相手してる人数と回数を考えれば今まで出来なかったことのほうが不思議よね」

 

「ねー。そのうちちぃたちもお母さんになるのかしら。想像できないわねー」

 

最近のしすたぁずのお気に入りである『泰山』にて昼食を取っていると、いきなり話を切り出された。

まぁ、やっぱり皆その話だよなぁ。全く関係ないって訳じゃないし。

 

「お姉ちゃんは、今すぐでもいーよ? アイドルできなくなるのはちょっと困るけど、赤ちゃん生まれたらまた出来るもんね!」

 

「凄い前向き・・・やっぱりお姉ちゃんは変わらないわね・・・」

 

「・・・まぁ、今なら安定してきてるし、一年程度なら・・・」

 

ぼそぼそと前向きに検討し始めるしすたぁず。・・・おいおい、流石にアイドルとか洒落にならない気が・・・。

んーと、どうするかな。まぁ、確かに言うとおりに一年程度なら休業しても・・・。

 

「っとと、いや違う。何真面目に検討してるんだ俺」

 

「? ・・・それで、いつごろにするー? お姉ちゃん的には、活動が少し落ち着く冬くらいがいいかなーって思うんだけど。丁度他の人とも時期ずらせるし!」

 

「お、お姉ちゃんがきちんと考えて発言してる・・・!」

 

「地和、お前すげー失礼だぞ・・・」

 

戦慄した顔をしている地和に柔らかく突っ込みを入れておく。

人和がうんうんと頷いているんだが、それは天和と地和のどっちに頷いているんだ・・・?

 

・・・

 

東屋で侍女隊の入れてくれたお茶を飲んでのんびりしていると、明命の突撃を受けた。

 

「ギル様! ご懐妊おめでとうございます!」

 

「・・・うーんと、俺じゃなくて月に言ってやれよ」

 

開口一番に祝ってくれた明命に、少し苦笑しながら突っ込みを入れる。

俺は物理的に妊娠できないぞ・・・。

 

「そ、それでも、お二人のお子様なんですし」

 

「まぁ、受け取っておくよ」

 

明命に祝われ、ありがとうと頭を撫でる。

・・・やっぱり、犬系だよなぁ、明命。

 

「あ・・・えへへ、なでなで、気持ち良いです」

 

「そうかそうか。ほうら、膝の上で撫でてやろう」

 

「わ、わ、ありがとうございますっ」

 

座っている俺の膝に乗せてやると、わたわたとしながら俺に背中を預ける明命。

そのまま撫でてやれば、くぅん、と鳴く明命犬の出来上がりである。

 

「そういえば・・・先ほどから侍女隊の方がギル様のところにちょいちょい来ていたのですが、何かあったのですか?」

 

「ん、まぁ、ちょっとした褒美をね。やっぱり良い上司って言うのはきちんと報酬をあげられないと」

 

「ほわぁ・・・流石ギル様ですね!」

 

「・・・視線が眩しいなぁ」

 

俺を見上げるようにして『私、尊敬してます!』と言う視線を送ってくる明命を誤魔化すように頬をふにふにと弄ぶ。

こうして俺と触れ合うのにも慣れてくれたらしく、顔は真っ赤にしているものの表面上は落ち着いて話せるようになってきた。

 

「そういえば、お名前とかは考えてらっしゃるのですか?」

 

「・・・名前かぁ。そういえば考えてないな。男の子か女の子か・・・両方考えないとなぁ」

 

近いうちに月に話を振ってみるか。良い名前をつけてやらないとな。

 

「私も、お猫様に名づけるときは悩みます! 名は体をあらわす、と言いますし・・・」

 

「だよなー。んー、女の子の場合は一応考えてるんだよなぁ」

 

「男の子のときはどうされるのですか?」

 

「・・・誰かから一文字貰うか。一刀とか甲賀とかその辺から」

 

「いいですね! ・・・そういえばギル様のお名前ってこの辺りでは聞きませんよね? 同じ天の御使いの本郷さんともまた違う響きですし・・・」

 

「ん? ・・・んー、まぁな。そうだなぁ、男の子だったらエンキドゥとか・・・いやいや、友人であって息子じゃないし」

 

俺から名前を取るって言う手もあるが・・・本名のほうは転生のときに失ったし、『ギルガメッシュ』から何か取るって言っても・・・『ガッシュ』とか?

いやいや、それだと魔物の王になってしまう。流石に息子にはブリを丸々一体食べられるようにはなって欲しくない。

 

「えんきどー?」

 

「・・・合気道みたいなイントネーションだな。違うよ、エンキドゥ」

 

「え、えんき・・・どー」

 

「はは、難しいかな。こう、うー、ってしてみ」

 

「うー」

 

俺が言うとおり、素直に唇を突き出すような形にする明命。

 

「そのまま、どぅ、って」

 

「どー」

 

「・・・明命は可愛いなぁ」

 

孔雀の滑舌矯正時にも思ったが、こうして言い難い言葉を頑張って言おうとしている女の子は可愛い。

まぁ、『可愛いなぁ』と思うことによって諦めている、と言う見方も出来るが・・・。

 

「ほら、良く聞いてろよ。『エンキドゥ』」

 

「えんきど」

 

「・・・惜しいな」

 

「うー、うー・・・難しいですね・・・」

 

「ま、落ち込むことはないさ。Vの発音も難しいって言うもんな」

 

「ぶい?」

 

俺の言葉に、興味津々、と言ったように瞳を輝かせる明命。

いつの間にか体勢も俺に向き合うようになっていた。

 

「そう。こう、下唇を噛んで、『ヴィ』って」

 

「びー」

 

「はは、やっぱりそうだよな」

 

英語の発音はやっぱり難しい。俺も授業のとき散々思ったものだ。

後は巻き舌とかなんだとか・・・言語と言うのは、何処のものも難しい。日本語だってそうだ。

 

「孔雀も難しいって言ってたからなぁ」

 

「そういえば、なぜ孔雀さんだけメイド服じゃなくてしちゅ・・・ごほん、執事服なんですか?」

 

「・・・明命、『生麦生米生卵』、はい三回復唱っ」

 

「ふぇっ!? え、えと、なみゃみゅぎゅなみゃごめにゃみゃちゃみゃぎょ! ・・・あう、い、一回目で無理でした・・・」

 

「すげぇ・・・孔雀より滑舌悪いかもしれないな・・・」

 

孔雀ですら、生麦くらいは言えたのだが。・・・まぁ、その後は明命より酷かったけど。舌噛んでたし。

 

「ギル様ぁ・・・意地悪です・・・」

 

「・・・明命、うー、ってしてみ。目を瞑って」

 

涙目でこちらを見上げてくる明命に、俺は唐突にそんなことを言った。

また練習ですか、と聞いてくる明命は、素直に目を瞑ってうー、としてくる。

そんな明命に、いきなり口づけをする。

 

「・・・ちゅ・・・ふぇ・・・? あ、え・・・?」

 

「いや、さっきから可愛いところ見すぎで・・・我慢できない。これ以上が嫌だったら、逃げてもいいぞ」

 

先ほどとは違う意味で瞳が潤んでいる明命は、俺の言葉を聞いて再び目を瞑った。

そして、同じように唇を突き出す。

 

「・・・いい、ですよ。私も、その・・・もっとしたい、です」

 

「多分、口付けだけじゃ止まらないけど・・・」

 

「こ、ここは余り人も来ませんし・・・」

 

「ん」

 

言葉少なに明命を卓の上に押し倒す。茶器がいくらか落ちてしまったが、興奮している俺にはそんな瑣末事を気にする余裕はなかった。

・・・んー、月に子供が出来てから誰ともしてないから、溜まってるのかなー。

俺に組しだかれている明命の口を責めながら、ふとそんなことを思った。

 

・・・

 

・・・ある程度確信したこととはいえ、こちらから仕掛けるのは結構勇気がいるな、なんて目の前で息を切らせている明命を見ながら思う。

ふぅ、賢者モードだからこそこうやって落ち着いて考えられているが、数日とはいえ結構回数しちゃったしな。初めての明命はちょっと辛そうだ。

 

「あーっと・・・大丈夫か? 一人で立てる?」

 

「・・・あぅぅ・・・」

 

「だよね。大丈夫大丈夫。風呂場までは持っていくから」

 

ある程度はここで拭っていって、後は風呂場で流すとしよう。

・・・風呂に一人では入れないだろうから、そこも世話しないとな。

流石にもう襲わないとは思うが、あんまり直視しないようにするとしよう。

 

「ギル様の子種でお腹いっぱいですぅ・・・」

 

「そういう発言はやめような。風呂場で理性を押さえ込む自信ないぞ、俺」

 

・・・

 

結局風呂場でもう一度してしまった後、今度こそ喋れないほどにぐったりした明命を部屋に寝かせてきた。

流石にそこではそそくさと退場したが、蓮華に見つかって「・・・ああ、そういう」なんて悟られた目をされたのはちょっとショックだった。

 

「・・・それで? 明命は部屋で寝てるのね?」

 

現在進行形で蓮華に詰問されているのだが、視線は未だにジトっとしている。

訓練に向かうと言う蓮華に手を掴まれて逃げられないようにされているので、大人しく連れて行かれるしかない。

 

「ん。大丈夫。明命に無理はしてないよ」

 

「当たり前よ。・・・そういえば、月はどんな感じなの? まだ調子悪そう?」

 

「んー、いや、あれからはあんまり酷い悪阻もきてないみたいだから、仕事に復帰してるよ。まぁ、常に誰かと一緒にいるけどな」

 

「でしょうね。・・・んー、そしたら今日の夜くらいは彼女暇かしら」

 

「じゃないか? どうした、何かあったか?」

 

伝言くらいなら引き受けるけど、と続けるが、蓮華はゆっくり首を振る。

 

「どうしても直接聞きたい事があるのよ。・・・まぁ、あんまり急がないことだから疲れてそうだったら後日にするし」

 

「そっか。・・・あの、そろそろ放して貰っても・・・」

 

「駄目よ。今日の訓練には珍しく雪蓮姉様も来るんだから。・・・誰か人柱が必要でしょう?」

 

くすり、と猫のような笑顔で笑う蓮華。・・・え、マジで? 生贄なのか、俺。

 

「あっ、おっそいわよー、蓮華ー! ・・・って、あら、ギルじゃない。・・・良くやったわ、蓮華!」

 

すでに手に南海覇王を持っている雪蓮が舌なめずりする。・・・不味いな。ロックオンされた。

慌てて魔力を体に巡らせてステータスをいくつか戻す。・・・最近あんまり身体動かしてないからな。大丈夫かな。

いつの間にか蓮華は思春と共に見学の体勢に入っている。ま、蓮華の獲物である南海覇王を雪蓮が持っている時点で蓮華は武器がないんだけど。

そろそろ、どっちかが南海覇王を常に持つようにして、もう一人は新しい武器を持つべきなんじゃないのか。

 

「いっくわよー!」

 

あの高いヒールで何でそこまでの速度が出せるのか、と言うくらいのスピードで雪蓮が迫る。

急いでバックステップしながら宝物庫の扉を開く。

 

「行けっ!」

 

数本の宝具を射出する。絶対に避けられるだろうが、牽制の意味でしかないこの攻撃に期待はしない。

すぐに『絶世の名剣(デュランダル)』と『原罪(メロダック)』を引き抜いて備える。

 

「ははっ、甘いわよっ!」

 

「やっぱりか・・・!」

 

お得意の勘でも働いたのか、宝具を撃ったときにはすでに避ける体勢に入ってたからな、雪蓮。

いつも蓮華が訓練しているこの場所は狭いので、俺の宝具を使った戦い方には向かない。雪蓮のように、何処でも足場にするような身軽な将が得意とする場所だ。

くそ、わざとこの場所に連れてきたな、蓮華。

 

「はっ、せいっ! ・・・お城壊したら、後で愛紗のお説教ね!」

 

「分かってるよ・・・っと!」

 

俺が自棄になって宝具の乱射をしないように雪蓮は釘を刺してきた。

・・・まぁ、制圧射撃をされるより直接斬りあいたいからだろう。雪蓮の場合は。

 

「後は・・・その面倒な剣から処理してあげるっ!」

 

『何でも斬れる』と言う恐ろしい効果をもつ『絶世の名剣(デュランダル)』を重点的に狙ってくるようだ。

狙ってくる、と言っても直接打ち合うような馬鹿なことはしない。剣を持っている俺の手を狙って打ち込み、弾こうと言う算段らしい。

もちろん素直にそんな手には乗らない。『絶世の名剣(デュランダル)』を守るように『原罪(メロダック)』で南海覇王を防ぐ。

南海覇王は剣自体が細身で軽く扱えるからか、上下左右色んな方向から斬撃がやってくる。・・・そういえば急に始まったから俺鎧着てないぞ。

 

「隙ありッ!」

 

「おっ・・・っとっと」

 

考え事をしていた隙を突かれ、『原罪(メロダック)』を弾かれて腹に蹴りを入れられた。

・・・ヒールで蹴りを繰り出すとか、俺がダメージ通らない体だったから良いものを・・・普通の人間だったら怪我してるからな?

当然、気をつけていたので『原罪(メロダック)』を手放すなんて事はしなかった。

 

「もういっちょ!」

 

「あ、やべっ」

 

とか言ってたら、蹴りを入れた後すぐに振りぬかれた雪蓮の渾身の一撃によって遠くへ弾かれてしまった。

・・・っべー。まじっべー。油断ぶっこきまくりだって怒られちまうぜー。

 

「なんてな。開け、宝物庫」

 

弾かれたのも何もかも計算どおり。新たに手に取ったのは、赤い槍。ゲイボルグの原典である。

目立った効果がないため愛用しているものの一つだ。

 

「貫け・・・っ!」

 

「ちょっ、訓練なんだからねっ!?」

 

俺に蹴りを入れたまま滞空している雪蓮に突き出すと、慌てた様子で雪蓮は突き出された槍に剣をあわせて受け流す。

曲芸師みたいな芸当をする奴である。全く持って身軽だなぁ、おい。

雪蓮はその後すぐに着地し、片足を軸に回転するように南海覇王を振るう。

危なげなくそれを回避すると、槍を突き出した体勢のまま剣を振り下ろす。

 

「っぶな! それって『絶対斬れる』方でしょ!? 人に振り下ろさないでよっ!」

 

「雪蓮なら避けるって信頼してるん・・・だよっ!」

 

「ふ、はっ・・・! せやっ! ・・・ありがと、ねっ!」

 

俺の猛攻を凌ぎ、びゅお、と風を斬りながら俺の顔面に南海覇王が迫る。

一応俺と手合わせをするときの条件として、『普通の人間なら致命傷になる部位を直撃すれば有効』と言うルールなので、ざっくり刺さらないとはいえ顔を横に倒して避ける。

・・・まぁ、思いっきり頭突きして南海覇王折るわけには行かないからなぁ・・・。

 

「あっぶな・・・人の顔面に剣を突き出せるとか、流石雪蓮・・・!」

 

「褒めてるの・・・かしらっ!?」

 

ひゅお、と再び風を切って顔面に切っ先が迫る。・・・あれ、まさかの顔面狙い?

こいつ、長期戦は不利だと割り切って俺の顔面に一撃入れて終わらそうとしてるな・・・!

 

「槍の射程まで離れてもらう!」

 

大振りに槍を振るうと、それを避けるために雪蓮は大幅にバックステップ。

俺はその距離を保つために赤い槍を片手でぶんぶん振るいながら俺も後退していく。これで距離を取りながら牽制して、隙を見せたら一気に距離を詰めて剣で仕留める。

ある程度頭の中で先を見据えながら振るっていると、今まで大きな動きで避けなかった雪蓮が大きく右回りに避け、俺の死角に潜りこもうとする動きを見せた。

 

「甘いっ、この槍の射程から逃れるにはなっ!」

 

そう言って右手に持った赤い槍を雪蓮に振るった瞬間。がっ、と何か硬いものに当たった衝撃が手に走る。

・・・やっべ、集中しすぎて俺が今何処に立ってるのか忘れてた。そういえばここ訓練場じゃなくて中庭だったんだな・・・。

俺の振るった赤い槍の切っ先は、木の幹にざっくりと深く刺さっていた。・・・雪蓮め。後退する俺を見て、この場所に誘導したな・・・?

 

「よっとっ。これならちょっとは隙が出来るでしょっ」

 

ウィンクしながらそういった雪蓮は、軽く飛ぶと槍の上に立った。・・・えー。ヒールで細い槍の上に立つとか、流石木の上で甕を抱えて酒飲むだけあるな。

凄まじいバランス能力である。やっぱり呉の姫は何かしら戦闘センスに長けてるなー・・・。

一瞬現実逃避してしまったが、すぐに気を取り直して槍から手を離す。これで雪蓮の体重に耐えられなくなった槍はそのまま下に落ちるはず。

そこを俺が迎撃すれば・・・と考えているうちに、すでに雪蓮は視界から消えていた。

残っているのは、雪蓮が飛び立った時の衝撃で少し振動している槍のみ。・・・上、そして後ろか!

 

「それは星で学習済みだぞっ!」

 

絶世の名剣(デュランダル)』を振るいながら後ろを振り向く。

・・・瞬間、見えたのは剣の切っ先ではなく雪蓮のヒール。

 

「しま、け、り・・・っ!」

 

慌てて腕を顔面の前に出してみたものの、真正面から飛び蹴りの衝撃を受けてしまった俺はそのまま後ろにバランスを崩して倒れる。

急いで起き上がろうとするが、その前に切っ先が俺の眼前に付きつけられる。

 

「ふ、ふ、ふぅっ・・・はーっ、疲れたー! これで降参、よね?」

 

「・・・ああ、降参だ。参ったよ」

 

息を切らせながら俺に剣を付きつける雪蓮は、嬉しそうに笑う。

俺は両手を上げて降参の意思を伝えると、ゆっくりと南海覇王の剣先は離れて行く。

息を整えながら鞘に南海覇王を収めると、蓮華の隣に座り込んではい、と蓮華にそれを渡していた。

 

「いやー、参った参った」

 

苦笑いしながら受け取る蓮華を見つつ立ち上がり、土を払って雪蓮のもとへ。

足を組んで脱力している雪蓮の隣に座ると、次は蓮華と思春の組み手らしい。二人が構えを取って対峙していた。

 

「ふふ、久しぶりに本気だしたわー。もう結構息切れもしてるしねー」

 

そういう雪蓮は確かに少し息が荒い。結構動いたからなー。

俺は魔力で動いているためにそういう疲労とは無縁だ。まぁ、魔力が切れたら同じような症状が出るけど。

 

「んー・・・ふふ、今日は疲れたし、部屋に戻るわ。ギルも、何か用があるならもう戻ってもいいわよ?」

 

「ああ、いや、俺はもうちょっと見ていくよ。久しぶりだしな」

 

「・・・そ? じゃあ、またね」

 

「はいはーい」

 

先ほどまで息を切らせていたとは思えない足取りで帰っていく雪蓮。・・・回復力も超人か。

 

「・・・さて、ちょろっと見たら政務やらないとなー」

 

庭の木に思いっきり入っている切れ目は愛紗が見逃してくれることを祈るばかりだ。

 

・・・




「・・・分かってた」「え?」「その話になるって分かってた」「・・・そ、そうか」「アレだけやってれば出来るからなぁ」「町の人たちも何人か予想してたみたいだしな」「・・・いや、まずは祝ってくれよ。俺も一児の父になるんだぜ」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「・・・俺を円形状に囲んで拍手しながら祝うのはやめろ!」


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