真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「変化と言えば・・・ギル、変わったよなぁ」「は? 俺が?」「・・・自覚なしか」「・・・俺がどうやって変わったって証拠だよ?」「・・・いやー、最初は振り回されてたのに、最近じゃむしろ変人筆頭になってるところとか・・・」「? ・・・おかしいことを言うな。俺はいつでも常識人だろ?」「ああ、うん、ギルがそう思うんならそうなんだろうなぁ。ギルの中ではさ」


それでは、どうぞ。


第五十六話 新しい変化に

「・・・よっし、これで最後だな」

 

「よ、ようやく終わったわね・・・」

 

空飛ぶ船でぐるぐると大陸を巡ること数刻。すっかり日も昇り、真上に太陽が見えるような時間になってしまった。

だが、その甲斐あってか地図は大体完成し、南蛮の地図や国境の図も書き込むことに成功した。これで風の作った地図もほとんど完成だろう。

そして・・・その移動時間中、ずっとこいつと交わっていたので、体力も限界だ。正直もう寝たい。

 

「・・・あんた、ホントばかすか中に出してくれたわね・・・」

 

「ふーんふふーん」

 

「しらっじらしい・・・」

 

おそらく今までの私への仕返しの意味もあるのだろう。

わざとらしく口笛を吹いてそっぽを向くギルに、無駄だと分かっていてももう一度蹴りを入れる。

 

「全く・・・ああもう、なんでこんな奴に・・・華琳様になんて報告すれば・・・」

 

地図のついでに子供も作りました、なんて報告できるはずがない! と言うかそれは風がもうやった!

・・・と言うことは、こいつ風と同じように私に迫ったのか・・・!

 

「もう一発!」

 

「・・・カリカリしてんなー」

 

三度目の蹴りを入れると、ギルは苦笑しながら呟く。

ったく、一度気を許したらこれだ。・・・これが不快だと思わなくなった時点で、心でもこいつを受け入れているのだと気付いた。

 

「さっさと帰って寝るわよ。・・・あ、普通に寝るだけだからね!」

 

「分かってるって。んー、それにしても空を飛ぶのは気持ちが良い。魔術防護壁のお陰で暑すぎず寒すぎずの丁度良い環境だって言うのもあるんだろうなー」

 

「・・・そういわれると、そうね。空を飛ぶなんて体験、まさか生きてるうちにするとは思わなかったけど」

 

高速で後ろに流れていく景色を目で追っていると、なんだかうとうとしてくる。

・・・こいつの近くで無防備な姿を晒して眠るなんて何かされないか心配だけど・・・このままうとうとして睡魔を我慢しているよりは健康的だろう。

 

「少し、眠るわ。・・・変なことするんじゃないわよ!」

 

「おう、お休みー」

 

・・・

 

目の前で、アレだけ毒を吐いていた桂花が寝ている。

まぁ、疲れたと言うのもあるのだろう。あるのだろう、と言うよりそれしか理由はないと思う。

ふにふにと頬をつつくと、桂花はうっとおしそうに顔を歪めた。

 

「はは、寝てても男に触られてるって言うのは感じるのかな」

 

「ん・・・ふ・・・」

 

短く息を漏らしたあと、少し身じろぎをする。

・・・起きたわけではないようだ。

 

「お疲れさん。後は任せろ」

 

上着を桂花に掛け、身体が冷えないようにする。

幾ら結界を張っているとはいえ、上空は冷えるからなー。

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)』を出来る限り揺らさないように気をつけながら、城へと戻ったのだった。

 

・・・

 

「あら、お帰りなさい。・・・随分、ぐっすりね」

 

城へと戻り、揺すっても起きない桂花を抱えながら魏の屋敷を歩いていると、華琳に出くわした。

どうやら寝るところだったらしい。服装が寝巻きに変わっていた。

 

「揺すっても起きなくてな。しょうがないから、部屋まで送ろうかと。・・・ちょうど良い。桂花の部屋って何処だ?」

 

「・・・分からないのに歩いてたの?」

 

「まぁ、最悪俺の部屋に連れてくかと思ってたから・・・」

 

こうして、華琳みたいに夜出歩いていた誰かに聞けばいいか、と適当な考えで歩いていたのだが。

まさか、本当に出会うとは。

 

「・・・と、言うことは・・・」

 

「はは、お察しのとおりだよ。悪いな、なんか横取りみたいなことになって」

 

「構わないわ。・・・桂花も、嫌がっていたわけではないようですし」

 

「ん・・・そういえば、最初ほど嫌がられなくなったな。桂花も柔らかくなったもんだ」

 

うんうんと頷いていると、華琳が柔らかく微笑む。

 

「取り合えず、立ち話もなんでしょう。桂花の部屋に案内するわ。着いてらっしゃい」

 

「おう、頼んだ」

 

そろそろ夜も冷える。桂花だけでなく、寝巻きである華琳も結構薄着なので、早めに済ませた方がいいだろう。

 

「ほら、華琳。こういうのは一刀がやるべきだろうけど・・・ま、我慢してくれ」

 

宝物庫からブランケットのような大きさの布を取り出し、そのまま華琳の肩に掛けた。

一瞬驚いた顔をした華琳だったが、ブランケットを落とさないように掴んだ。

 

「ありがとう。・・・ふふ、なるほどね」

 

「? ・・・どうした?」

 

「なんでもないわ。ほら、こっちよ」

 

こつこつと先導する華琳についていくと、少しして一つの部屋の前で立ち止まった。

 

「ここよ。・・・そこが、寝室」

 

「おう。・・・よっと」

 

未だに深く寝息をたてる桂花を寝台に寝かせる。

そのまま布団を掛けると、静かに部屋を出る。

 

「そういえば今日は一刀と一緒じゃないんだな」

 

「ええ。・・・確か、凪たちと酒盛りだったかしら。まだ帰ってきてないんじゃない?」

 

「ああ・・・なるほどね」

 

それはしばらく帰ってこないだろう。三人相手にすると大変だからなぁ。酒的な意味でも、夜的な意味でも。

 

「まぁ、貴方よりは寂しい思いもしないと思えばいいけれど」

 

「それを言われると痛いな。・・・まぁ、出来る限り皆と会うようにはしてるけど」

 

「ふふ」

 

そういえば卑弥呼からはちょくちょく華琳の話を聞くな。

二人は仲がいいんだろうか。

聞いてみると、華琳は少し苦笑いをした後に口を開いた。

 

「まぁ・・・友達だとは、思ってるわ」

 

「へえ」

 

「彼女とは話も合うし・・・趣味も似通ってるし? そこそこ話したりしてるわよ」

 

「そっかそっか。卑弥呼も友達少ないし、仲良くしてやってくれよ」

 

「・・・『も』?」

 

「はっはっは。・・・失言した」

 

こちらを見上げながら責める様に目を細める華琳に、すまんすまん、と謝る。

・・・でも、正直華琳って友達って言う友達あんまり居ないだろ。

部下とかだったらたくさん居るだろうけど・・・はっきり友達と言えるのは・・・麗羽とか?

 

「っ!」

 

「いった! ・・・くないけど。どうした?」

 

「何か不敬なことを考えなかった? ・・・まぁ、そうでなくとも貴方には普通の攻撃なんか効かないんだから、甘んじて受けておきなさいな」

 

・・・まぁ、そういわれればあまり反論できないから流すとするか。

そのまま少し歩いていくと、華琳が一つの部屋の前で立ち止まる。

どうやらここが華琳の部屋らしい。

 

「っと、部屋に着いたか。それじゃあ、俺はこれで失礼するよ」

 

「ええ。わざわざありがとう。最近は冷えるから風邪に気をつけて・・・といっても、サーヴァントの貴方には余計な心配かしら?」

 

「まぁ、他の子たちは普通にひくからな。そっちに気をつけることにするよ」

 

「そうね。・・・全員で添い寝すれば、風邪引かないんじゃない?」

 

「・・・潰れるぞ、俺」

 

「あら、神秘の篭らない、じゃないの?」

 

まぁそれを言われるとそうだけど・・・その人数で肉布団すると絶対全員寝れないだろ。寝苦しくて。

・・・壱与とか侍女隊を敷き詰めれば何とかなりそうか? あそこへんた・・・ごほんごほん、耐久値高いの揃ってるからなー。

 

「まぁいいわ。兎に角、風邪は万病の元。気をつけるにこしたことはないわよ」

 

「ん、了解。ありがとな。・・・それじゃ、お休み。華琳も風邪には気をつけて」

 

「ええ、お休み」

 

部屋に戻った華琳を見送って、俺も帰路に付く。

 

・・・

 

「・・・お帰りなさい、ギル様」

 

「壱与? どうしたんだ、明かりもつけないで」

 

寝台の上で正座している壱与に声を掛けながら、明かりをともす。

壱与は俺の前で座るときに正座以外の体勢を取らないのでその姿自体は見慣れているのだが、何だか顔が真剣だ。

 

「真面目な顔だな。何かあったか?」

 

「いえ・・・。その、本日ネコミミとお出かけになって・・・抱きました?」

 

「直接的だな。・・・まぁ、否定しないけど」

 

「そうですか。では、一夜の過ちと言うことにして、二度とあの女とは寝ないでください」

 

けろっとした顔で、なんか凄いことを言い始めた。

何だ、壱与って桂花のこと嫌いだったのか? かといってそれが桂花を避ける理由にはならないが。

 

「と言うか話もしないのが理想です。あの女・・・」

 

「おいおい、なんだか穏やかじゃないな。どうした、そんなに嫌いか?」

 

「嫌いと言うか、ギル様が何故あの女に慈悲を与えているのかが分かりません。だって、ギル様のことぜっ、全身、せぃっ、ぇき・・・うがー! こんな恥ずかしいこといえませんよ!」

 

「えぇー・・・? お前がそれを言うのか」

 

「とっ、兎に角! 暴言暴行罵詈雑言! どうしてあんなのをおそばになんて・・・はっ、も、もしかしてギル様って壱与と同じくえむ・・・ひぎぃっ、ありがとうございますっ」

 

なんだか致命的な誤解をされているようなので、腕をぐりんと捻ってあげた。

狭いところに無理矢理太いものを突っ込まれたときのような声を上げて、壱与は寝台に沈む。

 

「うーっ、うーっ、ギル様が分からないですぅ・・・」

 

「俺にはお前が分からんよ、壱与・・・」

 

ため息をつきつつ、分かった分かった、と壱与を撫でる。

 

「桂花にはもうちょっと言葉遣いを何とかするように言うから。な?」

 

「・・・ギル様。壱与はギル様のことを愛しております。・・・と言うより、狂信しております」

 

「それ自分で言うんだ・・・」

 

「そんな壱与ですが、女性関係でのギル様のお言葉だけは信頼性低いなぁ、と思うのです。こんなことを考えるのはとっても不敬だとは思うのですが・・・」

 

俺のツッコミも意に介さずに独り言のように続ける壱与。

だがこちらの反応を待っているのを見るに、どうやら俺に問いかけているらしい。

寝台に寝転んだまま(腕が極まっているまま)、小首を傾げる壱与に、俺は再び大きいため息。

 

「なぁ壱与? お前は俺を信じられないのか?」

 

「いっ、いえっ、そんなことは・・・! ギル様のお言葉は神託、ギル様の行動はまさに神話! むしろギル神様とお呼びするのもやぶさかではありません!」

 

「・・・ギル神はやめてくれ」

 

「? ・・・で、では、こっそりお呼びすることにしますね!」

 

「や め ろ」

 

「ひうっ・・・」

 

がっしと壱与の肩を持って誠心誠意愛を込めて説得すると、あまりの俺の熱意に感極まったのか、涙目でコクコクと頷いた。

よしよし。・・・~神様とか言われると、あの土下座神を思い出すからな・・・。

 

「・・・圧力をかけるギル様・・・ステキ・・・」

 

「こいつはホント何処でもトリップするな。凛と仲良く出来るんじゃないか・・・?」

 

まぁいいか。こうなるとしばらく帰ってこないし、今日の抱き枕はこいつにするとしよう。

最近ホント寒くなってきたからなー。外気温の変化にあまり左右されないとはいえ、こうも肌寒いとやっぱり人肌恋しいぞ。

 

「壱与ー、ちょっと持ち上げるぞー」

 

「ウェヒヒ・・・それでそれで、ギル様が私を強化ガラスで出来た万力に挟んで・・・」

 

圧力ってそっちなのか・・・?

恐ろしく幸福感(ユーフォリア)な想像をしている壱与を布団の中に引き込んで、背中から抱き締める。

うんうん、この感じだよこの感じ。興奮してるから体温高くなってるし。丁度いいや。

 

「じゃ、お休み壱与。ある程度満足したら寝るんだぞー」

 

「ギル様にだったら顔面ボコボコでも構いません! デュフフ・・・壱与はまだ満足してませんよ! 壱与の満足はこれからですっ」

 

何度か腕の中でがくがく震える壱与の温もりを感じながら、ゆっくりを眼を閉じる。

 

・・・

 

「はい、お晩でございます」

 

「・・・マジかよ」

 

「マジです。残念ですが、あなたが私のことを考えると漏れなくメールが着ます。そうすると私は面白半分で貴方を呼び出しますので、気をつけてくださいね」

 

「思想の自由すらないのか。生前の俺の母国だとあったんだが」

 

それなりに通っているために慣れてしまった白い空間で、椅子に深く腰掛ける。

ここに来ると、起きたときあんまり寝た気がしないからいやなんだよなぁ。

 

「別に、私のことを考えるなと言っているわけではないのですから、思想の自由も思考の自由もきちんとありますよ」

 

「その自動メール発信機能、何とかならんのか」

 

「神性Bくらいまで落とせば何とか? ・・・でも、貴方の性格的に神を嫌ったり憎んだりは難しそうよねー」

 

「ああそう・・・つまり、諦めろってことだな」

 

「物分りの良い方は大好きです。神性上げておきますね」

 

「は? ・・・うわ、+が増えてる・・・」

 

おめでとう! ギル は しんせい が A++ に なった!

・・・おいおいちょっと待て。神性が高すぎるでしょう?

 

「と言うわけで、神性が高くなりましたので私からの神託も役立つものになりますよ」

 

「・・・今までは役立たずだったのか」

 

「なので! 今回はちょっと役に立つ神託を授けましょう」

 

「む、おう。聞こうか」

 

なんだかきりっとした顔をするので、こちらも姿勢を正す。

 

「目が覚めてから日が落ちるまで。その間、マスターとは離れないほうがいいです。片時も」

 

「・・・それは、何か事件が起きるってことか?」

 

「んまぁ、悪いことじゃないってだけ、伝えておきます」

 

片時も、とは穏やかじゃないが・・・悪いことじゃない? 想像つかんな。

 

「まぁ、信じるかどうかは貴方にお任せします」

 

「・・・ん、いや、信じるよ。神様は今まで手違いとか説明忘れとか色々やらかしてるけど、嘘はついたことないから」

 

「んふ、ありがとうございます。・・・それでは、そろそろお目覚めくださいな。壱与さんが貴方の腕の中で、目を血走らせて呼吸を荒くしていますよ」

 

「そいつはまずい」

 

・・・

 

急いで意識を覚醒させ、体の隅々まで神経を通す。

すぐに目に入った臨戦態勢の壱与を確認すると、案の定目の下のクマが凄い。

赤い隈取のような化粧していても分かるクマである。こいつ、興奮しすぎて一睡もしてないな・・・?

 

「おっ、おは、あんっ、おはよう、ござ、は、はぁ、はぁ・・・ございましゅぅっ!」

 

「・・・お前、一晩中繰り返してたの?」

 

「は、はひっ。お、お声をかけたのですが、珍しく眠りが深かったよう、ぁっ、なのでっ・・・」

 

取り合えず、宝物庫から水を取り出して飲ませる。

これは寝不足のときに飲むと涙が止まらなくなり目がしぼみ、その後に目が元に戻って眠気がすっきりすると言う五万年前の雪解け水である。

過程は壱与が枕に顔を埋めてしまったため見えなかったが(乙女として、しぼんだ目を見せるわけには、だそうだ)、再び顔を上げたときにはすっきりとした顔をしていた。

眠気はこれで大丈夫だろう。水分も一緒に取ったし、脱水症状も問題なかろう。・・・ただまぁ、枕だけはもう使えないな、ってくらいだ。

 

「あー、今日のギル様の攻めは中々新境地でした。壱与を抱き締めたままお休みになり、どんなに声を上げても達しても漏らしても抱き締めて離さない! 意識がない分、容赦のなさが浮き彫りになると言うか・・・」

 

ぺらぺらと今回のプレイについて語る壱与。・・・こちらとしてはそんな意図は全くなく、ただ「抱えて寝たら暖かいかな」くらいの湯たんぽのイメージだったんだが・・・。

っと、いけね。神様から月についてたほうが良いって聞いてたんだった。

 

「壱与、悪いけど月のところに行くわ」

 

「・・・むぅ。起き抜けに他の女のところへ行く宣言は・・・流石の壱与も、寂しいです」

 

「あーっと、いや、なんていうのかな。・・・ああもう、それじゃあ壱与も着いて来い」

 

「は、はひっ! さ、さんぴー! さんぴーですね!?」

 

ちなみに、「ぴー」と言うのは規制音だ。流石にそのままだと色々と引っかかりそうだからな。

 

・・・

 

「月!」

 

「は、はいっ!? って、ギルさん? おはようございます。どうなさったんですか?」

 

すぱーん、と扉を開ける。部屋には月が一人で着替えをしているところだった。

・・・まぁ、後はエプロンつけるだけなので、月も一瞬だけ驚いただけで取り乱しはしなかったようだが。

 

「・・・なんともないな。怪我とかしてないか? 筋肉がありえないほどに隆起した漢女二人組に笑顔向けられなかったか? 後は・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ? ・・・ギルさんこそ、大丈夫ですか? 何か冷静ではないようですが・・・」

 

「ん、いや・・・兎に角、今日は月は仕事休みだ。日が暮れるまでは俺のそばから離れないこと」

 

「へぅっ!? きゅ、急にお休みなんて、無理です!」

 

わたわた、と俺にそう訴える月。・・・だが、無駄だ!

 

「いや、もうこれは決めたこと。サーヴァント命令だ!」

 

「私がマスターなのに・・・!?」

 

なんだそれ、と言う顔をしている月を連れて、侍女たちのもとへ。

詠や響、孔雀たちも自分の班の侍女たちに指示を出しているところのようだ。

 

「? どうしたのよ、ギル。こんなところに来るなんて、珍しいじゃない」

 

「あれ? 壱与さんもいるね。どうしたの?」

 

こちらを見た詠たちが声を掛けてくる。その背後では、何人かの侍女が貧血で倒れているようだ。

・・・俺の所為とかじゃないよね?

 

「急だけど聞いてくれ。今日は日が暮れるまで月は俺が預かる」

 

「ついに物扱いになりました・・・」

 

「元気出してください。壱与的にはご褒美です」

 

「・・・壱与さんって、幸せですねぇ」

 

後ろでなにやらこそこそ話している月たちを尻目に、侍女たちは大騒ぎだ。

当たり前か。理由もなしに突然侍女長連れ出すって言ってるんだから。

 

「ちょ、ちょっと! どういうことよ! あんたねぇ、月にだって仕事って物が・・・」

 

「それは代役を立てる。壱与でも卑弥呼でも副長でも連れて行ってくれ。最悪桂花も巻き込もう」

 

「うわー、関係ないところで四人も運命変わっちゃったねー」

 

「っ、そ、それでもっ! 理由を説明しなさい! 正当性がなければ、幾らギルだってそんな勝手は許されないわよ!?」

 

こちらに噛み付きそうなくらいに詰め寄ってくる詠が、びし、と指をさしながら俺に言う。

まぁ、確かに理由も告げないのはおかしいな、と説明を始める。

 

「・・・神託だ。俺の懇意にしてる神様から、今日は月と離れるな、と言う神託が降りた」

 

「・・・『懇意にしてる神様』って凄い表現だよねー・・・」

 

「商店のお得意様レベルで神様と知り合いってことだからね」

 

「うぅっ・・・うー、うー・・・えーと・・・」

 

反論する材料がなくなったのか、詠がうめき声を上げる。

今必死に頭を回転させているのだろうが、神様関係で俺を論破するような反論が出てくるとは考え難い。

 

「納得してくれたか? 俺に新しい宝具を二つも授けるような力を持つ神様だからな。その神託も無視できないだろう」

 

「確かに、そうだけど・・・」

 

「だから、申し訳ないけど月を自室に閉じ込めて結界張って宝具フルに使用して立てこもる。必要に応じてエアも使う。と言うか銀河三つくらいぶつける」

 

「マジだ・・・ギルさんがマジだよ、くじゃえもん・・・」

 

「月関係になるとギルって頭飛んじゃうよね。・・・良いなぁ、月」

 

誰に何を言われようとそれを変える気はない! 悪いことは起きないと言われてはいるが、それでも念には念だ!

 

「へぅ・・・良く考えると、ギルさんと二人っきりっていうことですよね・・・。あれ、あんまり拒否する理由ないなぁ・・・」

 

「だろ?」

 

月が乗り気になったので、早速閉じ込めるとしよう。

・・・ナース服風味のメイド服とか、唐傘と和服とか、ちょっとリボン大き目のメイド服とか、色々取り揃えているのだ。

これだけで三回は決まったよね! 何がとは言わないけど! ナニがとか!

 

「侍女隊! 今日の俺の当番は何処だ!」

 

「ギル様っ! わたくし達第三班です!」

 

「よし、今日は俺につかなくて良い! 月の代理として、人手の足りないところを援護せよ!」

 

「はっ!」

 

「・・・侍女長の私より素直に言うこと聞いてる気が・・・」

 

「ギル様ですから」

 

元気に返事をする侍女隊たちにうんうん頷いていると、侍女隊第三班の班員が一人、手を挙げた。

 

「ん、どうした?」

 

周りの侍女達は「不敬だって!」とか「バカ! ホントにお願いする気!?」などと止める様な咎める様な声が上がるが、お構いなしに彼女はこちらを見据えながら立ち上がる。

 

「あ、あのっ! ・・・こ、こんなことをお願いするのは本当に不敬なのですが・・・み、見事この第三班が任務完遂した暁には! とっ、特別な、報酬が、いただきたいです!」

 

「・・・教練、間違えたかなぁ」

 

月の静かな呟きが聞こえたような気がするが、それよりも侍女隊の発言のほうに意識がいっていた。

ふむ、ふむふむ。

 

「よし、分かった。確かに俺の無茶で君達三班には迷惑かけるわけだしな。手当てとして給金を上げておこう」

 

「・・・お、お金ではありません!」

 

「え? 違うの? ・・・じゃあ何だろ。休みとか?」

 

侍女達は縁の下の力持ちと言って良いほど活躍してくれてるからな。炊事、洗濯、裁縫、萌え、とこの城の雑事を一手に引き受けているのが侍女隊なのだ。

人数は増えに増えて二十班くらいに分けているが、それでも募集をかけ続けるほどに人手の必要な仕事だ。

 

「お休みでもありません! と言うか、ギル様専属待機の時にお休みとか逆に罰です!」

 

「・・・なんだ、俺には予想つかんな。言ってみろ。大抵のことは叶えてやろう。世界の半分か?」

 

「あっ、頭、なでなで、を・・・」

 

「・・・はい?」

 

「第三班っ、全員のっ、頭をっ・・・やっ、優しく撫でて下さいッ!」

 

「・・・第三班、後で再教育ですね」

 

再び月の呟きが聞こえたような気がするが、それよりも侍女隊の要求である。

え、何? お金でも休みでもなく、頭撫でてほしいってだけ?

・・・なんて欲がないんだ。頭を撫でるだけで報酬は十分、なんて、純粋無垢な子供のようじゃないか。

 

「・・・ああ、聞こえます。ギル様が勘違いしているのが、聞こえます。・・・壱与、こういうときには力不足を実感します」

 

「うん、まぁ、それくらいなら全然。今日は無理だから・・・明日以降、暇があったら俺を呼びなさい。・・・あ、仕事はきちんとやれよ?」

 

「はッ! 了解ですッ!」

 

先ほどより気合の入った返事をする第三班に、俺は良い子達だなぁ、と感心する。

こういう子たちが居るならば、侍女隊は安泰だろう。きっとこれからも発展発達目覚しいはずだ。

 

「じゃ、そういうことだ。頼んだぞ」

 

「へぅっ。・・・ご、ごめんね、詠ちゃん」

 

月を抱えて、俺は自室へと宝具で戻ることにした。

 

・・・

 

「・・・ところで、ギルさん」

 

「んー?」

 

宝具で部屋に防御を施していると、寝台に座って手持ち無沙汰な月が話しかけてきた。

 

「ええと、今日は私に何か起こるんですか? ・・・その、詠ちゃんの不幸な日みたいな」

 

「分からん。あの駄目神、肝心なところは言わなかったからなぁ・・・。まぁ、悪いことは起きないみたいだが」

 

「・・・悪いこと起きないのに、その厳重な防御は意味あるんですか?」

 

「念には念を。俺は石橋を叩き過ぎて壊す男と言われたからな」

 

「へう、本末転倒な気がします・・・」

 

ここまで固めれば大丈夫か。エクスカリバー五回分は防げるだろう。

 

「あ、そう言えばお菓子あるぞ。食べるか?」

 

指を鳴らすと、月の目の前に小さなテーブルごとお菓子が出現する。

これは以前月と行った店で買ってきた新商品のお菓子である。

カロリー控えめで女性に優しいお饅頭である。これを作るために甲賀が三徹したほどだ。

ちなみに柑橘系の酸味のあるさっぱりとした味に仕上がっている。

 

「いただきます。・・・わぁ、これ、新商品ですか?」

 

「ああ。前に行った店で聞いたろ? あれ、買ってみたんだ」

 

「それじゃあ、お茶を入れますね?」

 

「いや、月はその寝台からあんまり動くな。そこが最重要防御拠点に指定されてる」

 

月と俺以外の人間がその寝台に近づくと、敵意があるかどうかを判定され、あれば迎撃するし、なければ部屋の外に転移させる。

さらには寝台の裏にはいくつもの魔方陣が待機しており、いかなる気配遮断であろうと感知するようになっている。

 

「ほら、お茶。ゆっくり食べろよ?」

 

「はい。・・・んむ、んむ・・・美味しいですっ」

 

「お、そりゃ良かった。じゃあ俺も・・・ん?」

 

俺も饅頭を取ろうとしたら、月が俺の目の前にすっと手を出した。

その手には、先ほど月が一齧りした饅頭が。

 

「はい、あーん、です」

 

「お、嬉しいなぁ。・・・あーん」

 

がじ、と一口。すぐに酸味が口に広がる。

・・・結構すっぱいんだな。まぁ、嫌いじゃないけど。

 

「えへへ・・・間接、ちゅー」

 

はむ、とわざわざ俺の齧ったところを可愛らしく口にする月。

・・・よし、一回目は和服風衣装に決まりだな。

それからしばらくして、お昼時。

 

「お昼ご飯はちょっと特別でしたね。かれぇ? と言うのでしたっけ」

 

「そうそう」

 

「・・・あ、ギルさん、ごめんなさい。ちょっと席を外しますね」

 

「おう」

 

そう言って寝台から降りて歩き出す月の後ろについて歩く。

 

「・・・あ、あの、ギルさんはお部屋に残っていただいても・・・」

 

「いや、今日は離れないようにって神託だからさ」

 

「へぅ・・・あの、えっと・・・お、お花を摘みに行きたいといいますか・・・」

 

「ああ、そういうことか。いいよ。一緒に行こうか」

 

「ギルさんが意図を汲み取ってくれないよぅ・・・」

 

もちろんトイレも一緒である。もし入るのであれば、風呂も。

・・・え? 羞恥プレイ? デリカシーがない? 何を今更。

 

・・・

 

「もうっ。・・・ギルさん居たら、ちょっとしづらいなぁ・・・」

 

一応女性用の厠に来てみたものの・・・すぐそこにギルさんが居ると思うと全然出来る気がしません。

・・・でも、私の身体能力でギルさんを振り切るとかそれこそ無理だし・・・。

 

「・・・我慢も体によくないよね・・・。・・・?」

 

個室に入って少し。なんだか少し、気分が悪いような気がします。

へぅ、あまりの緊張が体にも伝わったのかな、なんて冗談めいたことを考えていると、一気に喉をせり上がって来る何か。

 

「うぷっ・・・う、えっ・・・」

 

思わずえずく。苦味のあるものが、気持ち悪い感覚と共に吐き出される。

・・・な、何だろ。変なものとか、食べちゃったかな。

 

「月? なんかパスの様子が変だぞ・・・?」

 

ギルさんの声が聞こえるけど、答える余裕はない。

そのまま、気持ち悪さに任せていると、後ろからギルさんの声が聞こえた。

 

「月・・・! どうした、何か変なものでも・・・!?」

 

背中をゆっくりと擦ってくれるので、少しだけ楽になったような気がする。

 

「・・・宝物庫の中のものは痛まないから違うだろ? ・・・アレルギー? いや、前に同じような材料食ってたけど問題は・・・」

 

しばらくそのまま擦ってもらうと、だんだんと楽になってきたので、原因を突き止めるべく、ギルさんに抱えられたまま華佗さんのところへ行くことになりました。

 

・・・




「『神性』がA++になりますと、神様からの神託が好きなときに聞けます。後、結構神託が具体的になったり、私と触れ合ったりも出来ます」「・・・今まで触れなかったのか、神様に」「もちろん。神ですよ?」「ですよ、と言われても・・・お、本当だ、触れる」「ひぁっ・・・あう、ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします・・・」「は?」「・・・神様の左腕に触ったら、それは求婚のサインなんですよ?」「え、マジで? ちょ、キャンセルとか・・・クーリングオフで!」「・・・冗談なんですけど、結構イラッと来たので・・・ふふ、座に上がってから、平穏な生活が遅れるとは思わないでくださいね・・・」


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