それでは、どうぞ。
「悪かったって。機嫌直せよ」
「つーん」
「・・・ったく。どっちが年上か分からんな」
地べたに座り込んでそっぽを向いていると、隊長がぐしぐしと強めに頭を撫でてくれる。
なんかもう、正直これだけで全部どうでも良くなってくるけど、まだまだつーん、と続けてみる。
「分かったよ、何が望みだ。俺に出来ることなら、叶えてやろう」
「な、何でもっ!?」
「・・・だから、出来る範囲で、な?」
そんなもの、何でも出来る隊長からしたら何でもとあまり意味は変わらないじゃない!
『世界征服したい』なんて小学生の将来の夢みたいなものも簡単に出来るのに!
「そ、それじゃあ、えへへ、だ、抱き締めて、とか、デュフフ」
「・・・お前、今の姿絶対子供に見せるなよ? 『かぐや姫』を読んだ子供が全員絵本捨てるような顔してる」
しっつれいな! こんな大和撫子の笑顔を、SAN値直葬間違いなしの神話生物扱いとは。
でも、ため息をつきながら両手を広げる隊長を見て、そんな考えも吹っ飛んじゃいます。
「だーいぶ!」
「うおっと。・・・少し軽いな。ちゃんと食べてるか?」
「食べてますよー」
ま、隊長と一緒だと、胸がいっぱいになっちゃってあんまりご飯入らないんですけどね!
てへっ、一回こういうこと言ってみたかったんです!
「まぁ、それならいいけど・・・」
「お兄様、蒲公英にはそういうの無いの・・・?」
少し・・・いや、だいぶボロボロになった蒲公英さんが、隊長にジトリとした眼を向けました。
・・・むむ、いや、流石の蒲公英さんとはいえ、隊長に抱きつくのは・・・。
「ん? なんだ、蒲公英も甘えたい年頃か? ほら、よっと」
「ひゃ、う、ちょ、ちょっと恥ずかしいよ~」
蒲公英さんはそう言って隊長の腕の中でいやいやとしますが、どう見ても表情が喜んでます。
・・・ちっ。
「今副長さんの舌打ち聞こえたよっ!?」
「はは、見せ付けるか」
「やめてー!? 蒲公英の命がなくなっちゃうよ!」
「はっはっは、ほら、ぎゅー」
「わー!?」
騒がしいお二人を生暖かい目で見つめながら、私も二人に飛びつく。
「ふ、副長さん?」
「蒲公英さんばかりずるいです! 私も、私も可愛がってくださいたいちょー!」
その後しばらく、きゃっきゃと楽しそうに振り回される私と蒲公英さんの笑い声が、中庭に響いた。
・・・
「やー、楽しんだねー」
「たいちょーは遊びも全力ですからねー」
「全力を出させたのはお前らだろうが・・・。まぁいいや、取り合えず次行くぞ次」
「次?」
首を傾げる副長に、にっこり笑って伝える。
「組み手の次は副長個人の訓練。そういう流れだろ?」
背後に
ひゅ、と副長が顔を青ざめさせながら後ずさる。
「あ、ちょ、ま、ひぃっ、空が宝具で埋め尽くされている!?」
「ふ、副長さん・・・? あれ、なんかたんぽぽも狙われてない・・・?」
「たぶ、たぶん、二人、で、ワンセット・・・!」
「わ、わんせ・・・?」
「二人で一人! 私たちは二人でマックスなハートの戦士をしなくてはいけないのです!」
「副長さんが意味わから・・・ひゃああああ!? 降ってきたああああ!?」
「安心しろ! 蒲公英のほうにはちょっと少なめに落としてる!」
「無限から一つ引いても無限は無限なんだよぉっ!?」
わーきゃーと騒ぎながら副長は蒲公英に降り注ぐ宝具の七割ほどを代わりに防ぐ。
おーおー、やっぱり副長成長してるなぁ。
この訓練が初めてで、はっきり言って足手まといでしかない蒲公英を庇ってあそこまで食い下がるとは。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
「これでも着ててください!」
副長が蒲公英に十二単と天の羽衣を投げつける。
うっわ、あそこまでするかね。あれ、一応副長にとって・・・迦具夜にとって、宝具みたいな物だぞ。
というか、アレは迦具夜以外に扱えるのだろうか。
・・・お、羽衣の障壁が宝具弾いてる。ということは、蒲公英でも使えるのだろう。良かった良かった。
「ああもう! 知恵の女神の愛!」
副長がそう叫びながら青い結晶を取り出す。
まばゆい光が一瞬広がり、すぐに収まった。
次の瞬間には、副長が青い結晶型のオーラに包まれて立っていた。
「うひゃああああ!? 怖い! バリアーが防いでくれるけど怖い!」
ちなみにアレは衝撃も完全に防いでくれる改良型で、炎の攻撃を受けても盾が燃えることはない。
・・・あれ? あの盾は木製じゃないから燃えないはずなのになんでそんな機能追加したんだ・・・?
「こ、これでっ、隊長に近づける!」
「む」
凄まじい勢いでこちらに駆け寄ってくる副長に、宝具が容赦なくぶつかっていく。
あれ、バリアー無かったら串刺しじゃすまないな。肉片も残らんぞ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
剣を振りかぶりながらこちらに飛び掛る副長に、こちらも剣を抜いて対応する。
宝具の雨の中での斬り合いはとても緊張感に溢れている。
長期にわたる特訓の末、この無限とも思える数の宝具を放ちながらでも普通に戦えるようになったのだ。
「長く苦しい戦いだった」
「まだ五分も経ってないですけどね!?」
「ひゃああああ!? 喋ってないで早く決着つけて副長さぁぁん!」
背後で蒲公英が十二単と羽衣を羽織って槍を振るっている。
・・・ああいうのも似合うな、蒲公英。
「あ、やべ」
そして副長。お前今の発言を聞くに蒲公英のこと忘れてたな?
「悠長に打ち合ってる暇は無いぞ副長! 蒲公英もそうだけど、そのバリアーも時間制限あるんだからな!」
「そうでした・・・ってうわ! もう消えかけてる!?」
「ひゃっはー、消毒だ。・・・ん?」
「汚物扱いは非常に不本意・・・ですっ!」
がきん、と俺の持つ宝剣を弾く副長。
だが、そこで副長の顔が焦りに彩られる。
「や、ば・・・バリア・・・!」
隙だらけの俺に一撃を当てる前に、副長は頭上の宝具に対処しなければならなくなったようだ。
俺の剣を捌きながら盾で宝具の雨を防ぐ。
だけど、それもいずれ限界が来る。
副長はついに膝をつき、盾を持った手を下ろしかけて・・・。
「
豪腕の一撃で救われた。
「ふくちょ、立つ」
「ふぇ? あ、恋さん・・・」
「おもしろそう。だから、恋もいっしょ」
「・・・りょーかいです!」
やっぱり、あの気配は恋だったか。
途中で違和感には気付いてたが・・・ま、このくらいなら許可するか。
「正直この状況を「おもしろそう」とか言う神経にはドン引きですが・・・これほど頼もしい味方もいません!」
恋と副長はこんな状況なのにお互い頷きあったりしている。
そんな二人に高速の一撃が迫る・・・が。
「よいしょー!」
予期せぬ方向からの魔槍の投擲で防がれる。
俺たちがその方向へ視線を向けると、肩で息をしつつもしっかりと宝具を回避している蒲公英だった。
「たんぽぽも忘れたら駄目なんだからねー!」
「あははー。大丈夫ですよ。三人で行きましょう」
「・・・行く」
・・・
十二単と羽衣を羽織った蒲公英さんも加わり、私たちは安定して宝具の雨嵐を防ぐことが出来るようになりました。
・・・というか、飛んでくる宝具を掴んで投げ返す恋さんが化け物に見えて仕方ありません。
「よっと! ふ、は、そりゃっ!」
蒲公英さんも自分の武器、影閃で自分のみを守ってます。
なんで普通の武器で宝具と打ち合えているのかというと、十二単の一つに『自身が所持する武器防具に神秘を付加する』というものがあるからです。
ふっふっふ、普通の属性防御だけじゃないんですよ?
「てりゃ、せいやぁっ!」
「・・・しっ・・・!」
鋭く息を吐いて、恋さんが私に向かってきた宝具を散らしてくれる。
うはぁ、これ恋さんいないと無理ゲーでしたね。隊長に「みせられないよ!」にされて終わりでしたよ。
「ゆだん、しない」
「いや、油断とかそういうの以前に常人が捌き切れる量じゃないですからね?」
「・・・ん?」
「あー、そっか、こういう人だったなー・・・」
本気で不思議そうに首を傾げながら宝具を防ぐ恋さんにため息をつきつつ、私も盾で宝具を防ぐ。
この手が痺れそうな衝撃にも慣れてきたけど、やっぱり天の羽衣欲しいなぁ。
でもアレがないと蒲公英さん厳しいだろうし・・・。というか、なんで蒲公英さんまで巻き込んでんのかな、隊長。
「あれかなー、好きな子ほどいじめたくなるとかいう・・・うわ、自分で言っててイラついてきた」
独占欲強いのかなー、私。
・・・いや、ただ単に恋人増えると私との時間が少なくなるからかな。
「ふくちょ、ひとり言?」
「そんなもん・・・ですっ!」
がぎゃん、となんともいえない音を立てて宝具が吹っ飛ぶ。
「・・・こんなものか」
隊長がそう呟くと、ぴたりと宝具の雨が止む。
「お疲れ。・・・っていうか、ほぼ弾かれてたな」
「たんぽぽには直撃しまくりだったよー!」
「はは、怖かったかな。ごめんごめん」
そう言って、隊長は涙ぐむ蒲公英さんを撫でる。
ぐしぐし、と目元を拭いながら蒲公英さんは・・・って、笑ってるよあの娘・・・。
小悪魔! 小悪魔がいますよ隊長!
「にしても、十二単凄いな。いや、天の羽衣もか?」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。今回は蒲公英さんが使っていたので三割ほどの出力でしたが、本来の持ち主が使うともっと凄いんですよ!」
「ほうほう」
なるほど、と頷く隊長に、ついつい説明に熱が入る。
「十二単にそれぞれ防御属性があるのは言ったと思うんですけど、そのほかにも属性付与だとか攻撃属性だとかがあったりして、十二単と天の羽衣を一緒に使うと更に三倍!」
「三倍?」
「属性増えます!」
「すっげえインフレ」
「更に更に十二単同士の属性を掛け合わせると倍率ドン! で三乗!」
「三乗?」
「属性増えます!」
「すっげえインフレ」
インフレというより、今の状況、完全に『デジャヴ』の方があってるような気が。
それか、『ループ』ですね。
ちなみにもっと言うと私自身の適正もあわせると更に増えますけどね。
それは、私だけの秘密にしておきましょう。
「・・・ギル、ふくちょとだけじゃなくて、恋とも」
「ん? なんだ、寂しくなったか?」
そう言いながら、隊長は恋さんに微笑みかける。
分かりますよ隊長その気持ち。なんかしょぼくれてる恋さんって撫でたくなりますよね。
同性の私ですらそうなんですから、男性である隊長はもう、なんていうか・・・ふるぼっk
「あいたぁっ!?」
「お、すまん。・・・なんか、神託が降りたような気がして。俺のスキル、また増えてないだろうな」
い、痛いなぁもう。
不思議そうな顔をして首を傾げる隊長の横で、頭を抱えてうずくまる。
「・・・いたい? ・・・いたいのいたいの・・・とんでけ」
恋さんが心配そうな顔をして、私の頭を撫でてくれました。
うぅ、優しさが沁みるよぅ・・・。
「うん、ま、本日の訓練はこれにて終了だな。お疲れさん」
「お疲れ様でしたー。あ、隊長この後なんですけど・・・」
時間あります? と聞く前に、隊長は済まなさそうな顔を浮かべる。
あ、もしかして・・・。
「悪い、蒲公英と予定あるんだ。ごめんな、本当に」
「・・・じゃあ、ふくちょは、恋とご飯」
「うぅ、そですね。隊長に捨てられた同士、慰めあいますか」
「恋は、別に捨てられてない。ふくちょだけ」
「早速裏切られた!? 史実どおりかちくしょー!」
・・・
「ふむふむ・・・」
「ねぇねぇお兄様、これは何を調べてるの?」
隣を歩く蒲公英が、唇に指を当てて聞いてくる。
ちなみに今歩いているのは大通りだ。ここから市場へ向かっていきながら、最後に裏通りに行く予定である。
「ああ、これは店を調査してるんだ」
「お店?」
「どんな店かとか調べて、あまり一箇所に同じような店が固まらないようにしたりだとか、町の区画整理のときに使うんだ」
「へぇ~」
聞いてきた割には興味なさそうに頷く蒲公英に苦笑しつつ、一軒一軒調べていく。
大通りにはやはり大きな店が集まるなぁ。屋台もそれなりにあるか。
衣服の店・・・一刀や俺御用達の『あの』衣服店も、この通りにある。
その店の前に行くと、予想通り蒲公英が反応する。
「あっ、ここって前にたんぽぽとお姉さまにフリフリの服買ったところじゃない?」
「そうそう。他にもメイド服とか色々協力してくれてる店だな」
店の中に入り、店長から話を聞いて、メモを取る。
俺が作業している間、蒲公英は服を見て回っているようだ。
そういえば今日の蒲公英の服装は、以前買ったパーカー(らしきもの)だな。
わざわざ着てくれたのだろうか。だとしたらとても嬉しいが。
「よし。協力ありがとう、店主」
「いえいえ、ギル様と北郷様のためならば、私たちは協力を惜しみませんよ」
「本当に助かってるよ。・・・蒲公英、そろそろ行くぞー」
「はーいっ」
とててとこちらに駆け寄ってくる蒲公英とともに、次の店へと向かう。
ふむ、この調子なら・・・昼過ぎには終わるかな。
「そういえば、服、前にここで買ったのだな。着ててくれたんだ」
「んー? ふふー、だってお兄様に買ってもらったものだし、何より可愛いしねっ」
「・・・可愛いのは、蒲公英のほうだと思うけどねぇ」
「ふぇっ!?」
俺の呟きに、びくりと肩を跳ねさせて驚いたような反応を見せる蒲公英。
結構小声で呟いたつもりだったのだが、蒲公英は主人公系スキルの一つ、「
「はは、聞こえちゃったか」
「う、うん。・・・えと、可愛い?」
「もちろん。こうして一緒に歩いてて、幸せな気分になるくらい、可愛いよ」
「・・・えへへー。当然だよねーっ」
そう言って、蒲公英は俺の腕に抱きついてくる。
おお、こうして現代のような服を着た娘に抱きつかれると、なんだか懐かしい気分になるな。
ホームシックだろうか。・・・なのかなぁ。
「よし、後全部終わらせて、飯にしようか」
「りょーかいっ!」
右手を上げ、おーっ、と返事をする蒲公英をつれて、俺は残りの店を回っていくのだった。
・・・
「おーいしー!」
「だろう?」
・・・まぁ、手料理と言っても魚を捌いたり単純に焼いたりしただけなのだが。心は篭ってるので、それで許して欲しい。
「おさしみ? っていうんだっけ。お魚をそのまま食べるなんてー、って思ってたけど、美味しいね!」
「だろうだろう。今度酢飯を用意できれば寿司も作ろうか」
「すし?」
「おう。昔ちょっとせがまれたことがあってな、作り方は覚えてる。ま、今日は海鮮料理で勘弁してくれ」
「んふふー、たんぽぽ、すっごく満足だよ!」
美味しそうに目を細めながら頬に手を当てる蒲公英は、本当に美味しそうに魚を食べる。
持ってて良かった調理スキル。河豚も一応捌けるぜ、免許取ったし。生前だけど。
「んー・・・でも、食べさせてもらってばっかりじゃ悪いよね」
「そうか? 別に苦には思ってないが・・・」
「たんぽぽが納得してないのっ。んーとね」
蒲公英は席に着いたまましばらく考え込む。
そして、ひらめいた、という顔をすると、しなを作って俺にウィンクを飛ばす。
「そだっ。たんぽぽ、食べる?」
「・・・初めに断っておくけど、蒲公英のその言葉が冗談でも本気でも、閨に連れ込むよ?」
「に、肉食系!?」
「王様系。どこかの御曹司は言いました。『ボク好みの女性がいれば、その場で組み伏せているのですが』と」
「無理やりっ!?」
「というわけで、前言を撤回するなら今のうち。じゃないと、ホントに連れ込むぞー」
軽いセクハラを込めた冗談を蒲公英に放つ。
まあ、小悪魔系の蒲公英のことだ、これにもきちんと突っ込みを入れて・・・。
「・・・えと、撤回、しないよ」
「そっか、撤回する・・・え? なんだって?」
しまった、変なスキル発動した。
・・・言い訳させてもらうと、今のは『聞こえなかったから』の台詞ではなく、『理解できなかったから聞きなおした』ための台詞である。
「し、しないって言ったの! 撤回しないよっ」
「・・・あー、ええと、うん?」
「うんって言った!?」
「いや、そういう意味での・・・ちょ、まて、まだ片付けしてな」
「すぐにしないとたんぽぽ決意が鈍るから!」
そう言って、俺の手を引く蒲公英。
いや、待て、待って欲しい。冗談で宝具の真名呟いたらエリシュった気分である。
というか蒲公英って俺のことそんなに・・・なんて考えている間に、俺の部屋まで引っ張られた。
「う、うー、うー・・・」
「ほら、恥ずかしくなってきたんだろ? だったら今はやめて・・・」
「大丈夫だよっ。たんぽぽ、今日は『そういうつもり』で来たんだもん!」
・・・覚悟を決めた女子というのは、いつも強い。
じっとこちらを見上げる蒲公英の瞳を見て、ああ、と理解する。
「この服着てきたのも、お兄様が選んでくれたものだからだし・・・。いつもはめいどさんたちといるから、二人っきりってあんまり無いし」
「あー、まぁ最近は特になぁ」
「だから、今日はその・・・卑弥呼さんにお兄様のお手伝いしなさいって言われたときから、ずっと機会を窺ってたんだから!」
そこまで用意周到だったとは。
・・・ま、最初に蒲公英の目を見たときから、俺の答えは決まってたけどなぁ。
「分かったよ、蒲公英。俺も男だ。その言葉は嬉しいし、応えたいと思う。・・・部屋、入ろっか」
「・・・う、うんっ」
緊張で強張ってる蒲公英の肩を抱きながら、俺は蒲公英を連れて寝室へと向かった。
・・・
「・・・あー、マジで馬娘かっこ妹を襲ったのね。わらわ半分くらい冗談で言ったんだけど」
「半分は本気だったってことか」
「当たり前じゃない。あの馬娘かっこ・・・ああめんどい、あの
「メスの顔してましたよねー」
壱与、メスとか言わない。
あと卑弥呼、馬娘かっこ妹を略すな。悪口になってる。・・・ああ、元から悪口だった・・・。
「あひん、ギル様に冷たい目で見られてるぅっ。あ、ごめんなさい、ちょっと厠に・・・」
「・・・話を戻すけど、あんまりわらわ落とし穴には怒ってないわ。あのネコミミにはしかるべき罰があるはずとは思うけど」
「なるほど」
桂花に対するお仕置きは俺も賛成だ。
そろそろ前にしたお仕置きの効果も切れてくる頃。また俺に突っかかってくるようになるだろうし、何か考えておくか。
「だから、協力してやったのよ。ああいう大義名分があればギルの近くにいれるでしょ? そしたら、二人きりになる機会もあるだろうし」
「そういうことだったのか」
だから、やけに蒲公英気合が入った格好してきて、アレだけ積極的だったんだな。
「・・・ま、大切にしてやんなさいよ。わらわも壱与も、他のもそうだろうけど、最初の後は違和感満載だから」
「あー、だよなぁ」
そう言って、隣に眠る蒲公英の頭を撫でる。
・・・説明が遅れたが、今卑弥呼と話しているのは深夜の二時ごろ。
場所は俺の寝室で、事後である。蒲公英が寝入ると同時に二人がやってきたのだ。
おそらく、壱与の予知魔術で事の終わりを予知したのだろう。すっごく焦った。
想像してみて欲しい。一通り事が終わり、ふぅ、と一息つきながら寝入った蒲公英の頭を撫でていたら、急に俺の頭上に現れる魔法使い二人組み。
心臓止まるかと思った。むしろ止まった。
「んみゅぅ・・・」
「・・・ふん、幸せそうな寝顔しちゃってまぁ」
「実際幸せなんでしょうねぇ」
「あら、壱与。戻ってきたのね」
「はいっ、賢者になってきました!」
「? 賢者?」
「あ、分からないなら分からないままのほうが良いかと!」
そう言って、首を傾げる卑弥呼を無理やり納得させる壱与。
・・・賢者になってきた、の意味が分かった俺は、壱与にジトリとした視線を送る。
「ああんっ、ギル様からの蔑みの視線が心地よい・・・はぁ、はぁ、うぅっ・・・ふぅ」
「てめえ、二度目の賢者モードに・・・」
しかも目の前で、である。
こいつの性癖はとてもじゃないが適うものじゃない。
夜に壱与の相手をすると、翌日は少しサドっぽい思考を引きずるからな・・・。
「ま、兎に角今日の相手は無理ね。・・・ちっ。帰るわよ、壱与」
「はーいっ。・・・ちっ」
やっぱり二人は似たもの同士なのか、同じように舌打ちして去っていった。
「・・・行った?」
「行った行った」
「ふぇ~、びっくりしたぁ・・・」
ぱちり、と目を開いた蒲公英が、深く息を吐いた。
実は、話の途中から蒲公英は起きてたのだ。・・・まぁ、アレだけ近くで騒がれれば普通は起きる。
だが、あの状態で起きてくると確実に面倒くさいことになっていたので、寝ているように合図しておいたのだ。
「・・・ね、二人とも行ったなら、お兄様、一緒に寝よっ」
そう言って、蒲公英は俺を布団の中へと引き込もうとする。
あー、朝日が昇るまではまだ時間があるか。
「明日蒲公英休みだよな?」
「うんっ。えへへ、沢山ご奉仕、してあげるっ」
流石小悪魔。俺のツボを抑えたような発言を・・・。
「わ、お兄様、そんなにがっつかなくても・・・やんっ」
・・・
蒲公英と一つになった夜が明けて。
俺は寝言を言う彼女を起こしているところだ。
「んみゅ・・・もぅ、だめだよぅ」
「起きろー」
本日も蒲公英は無償奉仕活動である。
今日は何させるかなー。
「ふぁ・・・おはよぉ、お兄様ぁ・・・」
「はいおはよう。まず風呂に行くか」
「はぁい・・・」
寝ぼけ眼の蒲公英を連れて風呂場へ向かう。
風呂場で身体を洗っている途中で覚醒したらしく、急に恥ずかしがり始めたが、そんなもの知らぬと全身洗ってやった。
「もうっ、いくら昨日全部見られたからって、明るいところでまじまじと見られたら恥ずかしいんだからねっ」
「はは、ごめんごめん」
「・・・まぁ、お兄様だったら、許してあげるけど」
一晩たって更に可愛くなった蒲公英を連れて、訓練場へと向かう。
・・・
「おっすー、たいちょー」
「おはよう副長、朝から拳骨が欲しいと見える」
「おはようございますッ、隊長ッ!」
びしりと背筋を伸ばして挨拶しなおす副長に頷きを返す。
全く、少し気を抜かせるとこれだからな。
「よろしい。ある程度なら気を抜くのも認めるが・・・恋人であると同時に、お前の上司だからな、俺」
「・・・は、はい」
「照れんな」
「はぁいっ」
「デレんな」
「・・・よくもまぁ、言葉のアクセントだけで違いが分かりますね」
「そりゃまぁ。時間の長さはともかく、密度だけは濃い時間を過ごして来てるからな」
「えへっ」
照れてくねくねし始めた副長は置いておいてっと。
「今日はどうするかなぁ」
「むっ。ギルか。おはよう」
「ああ、華雄。おはよう。そうだな、副長、華雄と蒲公英が手合わせしてくれるって」
うんうん、確かまだ華雄は副長の実力を見てないはずだし、丁度良い。
「・・・はい?」
「ほう。副長と手合わせか。ギル、貴様の右腕ということはかなりの実力者だな?」
「もちろん。華雄なんて軽く一ひねりしてくれるよ」
「・・・ほう」
「なんで煽るんですか!? いやそれ以前に蒲公英さんも一緒!?」
おー、テンパり始めたな。
ま、何時ものことだから勝手に準備進めるか。
・・・
訓練場には、円形の人垣が出来ていた。
円の中心には、対峙する三つの影。副長と、華雄。そして蒲公英だ。
華雄と蒲公英を相手に、副長は緊張しているようだが・・・気負ってはいないようだ。
うんうん、成長が感じられるなぁ。
「さてと、三人とも! 準備は良いか!」
三人から、元気に「応!」という返答が帰ってくる。
それでは、と俺は大きく息を吸って・・・
「はじめ!」
戦いの火蓋を切って落とした。
ちなみに俺がいるところは少し高台になっている場所で、円形に兵士たちが三人を囲んでいてもきちんと状況を見ることが出来る。
工兵の訓練ついでに作ってみた櫓のようなものだが、案外役に立つものだな。
「お、やっぱり華雄のパワーは侮れないよな」
様子を見ている副長に、華雄が突っ込んでいく。
その大斧の一撃は、地面を抉る。
当たればただではすまないだろう。武器の重量と、華雄の腕力。
白蓮と同じで、あまり目立たないが堅実な攻撃だ。
・・・これで、もう少し理性があればなぁ。
「やっぱりここだったのね」
「ん? ああ、詠。月と風も来たのか」
「はいですよ~」
「おはようございます、ギルさん」
おはよう、と三人に挨拶をすると、三人とも俺のそばにやってきた。
「あ、華雄さんが手合わせしてるよ、詠ちゃんっ」
「ホントね。・・・あいつ、よく無事だったわよね」
「長い間行方不明でしたからねー」
ほとんど捜索も諦めてたからなぁ・・・。
まぁ、元董卓軍としては、これで仲間が全員見つかって良かったよ。
「・・・蒲公英もいるじゃない」
「まぁ、無償奉仕中だからな。今華雄と組んで副長と手合わせしてるんだよ」
「なるほど・・・でも、お互いを補助しあって、良い関係ですね」
月の言うとおり、パワー型の華雄とテクニック型の蒲公英は非常に相性が良い。
華雄の隙を蒲公英がカバーできるし、蒲公英に足りない一撃の重さを華雄は持っている。
その証拠に、今下で戦っている副長は防戦一方のようだ。
「蒲公英といえば・・・あんた、昨日蒲公英と寝た?」
「・・・何故」
「匂いがする・・・気がするのよ」
慌てて自分の匂いを嗅いで見るが・・・。
分からん。
「いや、まぁ、その通りなんだが・・・鼻が利くんだな、詠」
「ボクも不思議に思ってるわ。・・・来世で、犬にでもなってるのかしらね」
「はは、ツン子ならぬワン子だな。軍師じゃなくて切り込み隊長やってたりして」
なんでだろう、今はっきりとポニーテールの少女を幻視した。
・・・欲求不満だろうか。今度、翠にちょっかい出すとしよう。
「ボクに頭脳労働以外の、運動系の才能があるとは思えないわ」
「ふふー、来世では、といわず今でも犬みたいですけれどー、わんわん」
そう言って、風は犬の鳴きまねをする。
気合が入ってないので、全然犬っぽくは無かったけれど。
「ですがー、風も来世辺りでは詠ちゃんと仲良くなってる気がします~」
「あら、奇遇ね。ボクもよ」
「今は仲良くない、みたいな言い方やめろよ?」
「ではでは、来世でも、仲良くなっていると思いますよ~、と訂正しますー」
そう言って、くすくす笑う風。
「きっと来世辺りでも雛里はあわわしてるはずだから、フォローしてやってくれよ?」
「ふふふ~、了解です~」
そんな、まるで未来を見てきたかのような来世トークの間、副長は二人相手に一進一退の攻防を続けていた。
「おぉ~、副長さんは頑張りますねー」
「ふふ、やっぱりギルさんの右腕、遊撃隊の副隊長なだけありますね」
武器同士が激しく打ち合わされる音が、だんだんと激しさを増していく。
副長はきちんと蒲公英の奇襲も防ぎきり、少しずつだが攻撃が通っていく。
・・・だが。
「・・・焦りすぎだなぁ」
短期決戦じゃなければ不味いと思ったのか、副長は踏み込みすぎている。
アレじゃあ、きっと・・・。
「あ、剣をはじかれましたねー」
「ああっ、盾も飛んでいってしまいましたっ」
「・・・最終的に子供用みたいな剣で戦ってるけど、アレじゃジリ貧よね」
詠のその言葉通り、一分も立たないうちに決着は着いてしまった。
「そこまで! ・・・それじゃ、慰めに行きますか」
・・・
「たーいーちょーっ!」
「はいはいよしよし弱い弱い」
「ぐさっときたぁ!」
「ああ、弱いって言うのは実力がってことじゃなくて、頭がってことな」
「ぐりっときたぁ!」
一通り副長を抱き締めながら弄ると、だんだんと落ち着いてきたようだ。
ぐしぐしと鼻を鳴らしてはいるが、もう平常心に戻っているのだろう。
「ギル、やはり貴様の部隊の副長だな。私と蒲公英の二人掛かりでも苦戦したぞ」
「やっぱり副長さんって強いよねー。えへへっ、また手合わせしようねっ」
「い、一対一で、お願いしますね・・・?」
弱弱しい副長の呟きは、秋の風に混ざって消えていった。
・・・
「・・・一応、弁慶から薙刀借りてきたけど」「そ、それをボクに渡されても・・・どうすれば良いのよ」「風にはエンキを貸し出そうかな」「なんで風は弓なのですか~?」「後雛里には・・・はい、日本刀」「あわわ、ぶ、武器は扱えないでしゅっ! ・・・噛んじゃった」「じゃあほら、馬のヌイグルミ」「あ、可愛い・・・」「名前は松か」「そ、それ以上は駄目っ・・・な気がします・・・あわわ」
誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。