真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「そういえばギルって料理練習してたよな? どうだ、上達した?」「んー・・・まぁ、鍋は壊さなくなったな」「・・・ソレハヨカッタネ。ええと、腕前はどうだ?」「ああ、壱与に味見を頼んだんだが、『絶品です!』って言ってくれるようになったぜ」「いや、壱与ちゃんは基本ギルのこと全肯定だろ」「やっぱり? 黒コゲの失敗作出したときも爛々と瞳輝かせて『絶品です! ああ、ギル様に炭を食べさせられて・・・あっ・・・ふぅ』とか言ってたし」「通常運転だな」「ああ、何も変わらないな」


それでは、どうぞ。


第四十七話 特級料理人に

「うあー・・・」

 

翌日、寝台に腰掛けて頭を押さえていると、目の前に壱与が転移してきた。

毎度毎度いきなりのことだが、なんか突っ込む気力も無い。

 

「こんにちわギル様っ!」

 

「おっすー・・・」

 

「・・・ち、違う! 出会いがしらに縛ってくれないなんて! こんなの・・・こんなのギル様じゃない!」

 

開口一番これとは、壱与の俺に対する認識が可笑しいことになっているようだ。後で教育が必要か。

うわぁん、と急に泣き始めた壱与を一回叩いてから、そのまま後ろに倒れこむ。

寝台が俺を受け止めて、ぎ、と音を立てる。

 

「どうか、なさったんですか? ・・・その、壱与で良ければお話聞きますけど・・・」

 

俺の態度に何か感じることがあったのか、いつに無く殊勝な態度の壱与に、昨晩の話をしてみる。

ふむん、と顎に手を当てて少し考え込む壱与は、そうですね、と話を切り出す。

 

「特に気にすることないと思いますよ?」

 

天の(エルキ)・・・」

 

「ああっ、ちょっとお待ちをっ。縛られるのは嬉しいですが、今はちょっとお話を聞いてください!」

 

「・・・分かった。続けてくれ」

 

「はい! 適当に言ったわけではないのです。あの弾丸娘、ギル様が思っているよりも、きちんと理解してると思いますよ」

 

そう・・・なのか?

いやしかし、鈴々だぞ・・・?

 

「ふふ、ギル様。女の子というのは、子供に見えても、いつの間にか大人になってたり自分の考えがきちんと出来てたりするものなのです」

 

だから、ギル様はあの娘に向き合ってあげれば、それだけでいいのですよ、と壱与は続ける。

そういうものなのか。・・・それにしても、壱与に諭されるとは、予想外である。

お前こそ、偽者じゃあるまいな?

 

「しっかし、あの弾丸娘もギル様の恋人になったわけですか・・・。ギル様っ、今からは壱与の時間ですよね!?」

 

「あー・・・うん、さっきの話はためになったし。お礼ってわけじゃないけど・・・フルコースでやってやろう」

 

「は、はいっ! ちょ、ちょっと水分補給してきますね!」

 

・・・数時間後、折角水分補給までしてきたのに脱水症状を起こす壱与がいた。

ちょっとやりすぎたかな、と思ったが、反省はしない。壱与も嬉しそうだったし。

 

・・・

 

呉の水軍の調練に参加するとのことで、俺は河へとやってきていた。

天幕の中には俺と蓮華、シャオ、思春、祭が揃っていた。

 

「で、俺はどうすればいいんだ? 水軍の調練なんて初めてだぞ。・・・船の宝具、いくつか浮かべるか?」

 

「・・・やめてちょうだい。訓練じゃなく戦争になるわ」

 

蓮華にため息混じりに却下される。

折角、いつもは宝物庫の中に入りっぱなしの黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)全十七パターンを出せると思ったのに。

後有名な海賊船とか軍艦とかさぁ・・・。

 

「そんなもの出したら本当に訓練にはならなくなるの」

 

かっか、と笑う祭にそれもそうか、と納得する。

 

「まぁ、取り敢えずは思春と一緒に船に乗って色々教えてもらいなさい。水上訓練って初めてだろうし、ね? それじゃ、お願いね思春」

 

「はっ! ・・・取りあえず、来い。準備もあるからな」

 

そう言って天幕を出て行く思春の後に着いて行く。

船か・・・思えば、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)見たいな思考で動く船しか乗ったこと無いな。

・・・思考で動く船に乗ることのほうが珍しい気がするが。

 

・・・

 

「――という風に船は動く。動いてる間お前は・・・」

 

「ふむふむ、なるほど」

 

別の天幕に移動した俺は、様々な資料を前に思春から説明を受けていた。

俺に説明する思春は、鋭い目でこちらを時折見ながら口を開く。

 

「言うまでも無いとは思うが・・・宝具を発射するのは禁止だ。あんなものを撃っては味方の船も沈む」

 

「はは、それくらいは分かってるって。取りあえず初回だし、それなりの宝具を持って参加することにするよ」

 

フルアーマーみたいにあまり装備しすぎても重量過多になっちゃいそうだからな。

装備が重い程度で船が沈むとは思えんが・・・まぁ、軽量化して身軽になったほうが船から船へ飛び移りやすくなるだろうし。

・・・え? 普通の人は飛び移らない?

はっはっは、何を言っているのやら。船と船の間なんて最大でもせいぜい数十メートルだぞ? そのくらいならぴょんと跳べ・・・いやまて。

おかしいぞ。思考回路がサーヴァント寄りというか、超人寄りになってる・・・!

なんてことだ。長いサーヴァント生活は俺の思考回路も歪めていったというのか・・・。

 

「・・・どうした。また、深刻そうな顔をしているが」

 

「ん? あ、ああ。いや、なんでもないんだ」

 

「ならいいが・・・お前がそんな顔をしていると蓮華さまも心配する。何か悩みがあるなら、さっさと解決しろ」

 

その後に小声で少しくらいなら協力してやる、と続ける思春に、俺は思わずぽかんとしてしまった。

・・・え、何で今思春はデレたのだろうか。

 

「お前、何か妙なことを考えていないか?」

 

「取りあえずその物騒なのしまおうか! まだ俺には黄泉路は早いと思うんだ!」

 

ぐいっと思春の武器を押し返すと、思春は短いため息をついて鈴音を戻した。

ふぅ。毎度毎度こうやって押し付けられると、ダメージは通らないと分かっていても背筋に寒いものが走る。

思春は俺相手なら何でもやっていいと勘違いして無いだろうか。サーヴァントにも怖がりはいるんだぞー。

 

「まぁいい。お前に何も無いというのなら、私は気にせん。蓮華さまに心配さえかけなければ、お前など・・・どうでもいいからな」

 

わーお、清清しいほどにばっさりである。ドライだなぁ、思春は。

 

・・・

 

「訓練を開始する!」

 

蓮華の声に、兵士たちの声が答える。

水軍の訓練は、人数も少なめなため、地上戦のように二つの軍に分かれて紅白戦、なんてことはしない。・・・出来ない、というべきか。

全ての兵が船に乗り、ダミーとして浮かべてある船に攻撃を仕掛けて沈めたり、もし水中に落ちたときの救助訓練なんかをやったりする。

 

「うおっ・・・っとと。やっぱり結構揺れるなぁ」

 

「慣れておらんうちは難儀するじゃろうな。・・・しかしギルよ。以前の大戦のときはぴょんぴょん跳んでおらんかったか?」

 

「あー・・・いや、それはきっと火事場の馬鹿力じゃないかなぁ・・・」

 

そんなことを祭と話していると、少し先に的が見えてくる。

・・・俺にとっての「少し先」なので、他の人たちには見えてないだろう。

ちまちまと訓練を続けていた弓の腕前を見せるときである。

隣には丁度祭もいるし、俺がどれだけ成長したかも分かってもらえることだろう。

 

「む? ・・・なんじゃ、ギル。もう見えているのか?」

 

弓を構え始めた俺を見て、祭がそう聞いてくる。

俺はそれに視線だけで答えて、キリキリと弦を引いた。

サーヴァントの超人的な筋力で引かれた弓は限界までしなる。

 

「・・・ふっ」

 

息を吐くのと同時に弦を引いていた手を離す。

鋭い音を立てて、矢が風を切って飛んでいく。

俺が足場にしている船も的が乗っている船も波によって揺れていたが、見事真ん中に的中する。

 

「よしっ」

 

最初の一発としては幸先が良い。

隣の祭もほう、と感心したようなため息を漏らしている。

 

「そこまで腕を上げておったか。わしもうかうかしておれんな」

 

腰に手をあて、かっかと笑う祭。

どうやら合格点は超えていたようだ。良かった良かった。

 

「うむ、ギルの腕前は見れたし・・・次はわしかの」

 

そう言って、祭も弓を構える。・・・先ほどよりは的に近づいたとはいえ、普通の兵士ならまだ的が見えない距離だぞ・・・。

俺のそんな考えを笑うように、祭は流れるような動きで弦を引き、少し狙いを修正して放つ。

・・・いつも思うんだが、何故弓使いは胸がつっかえないのだろうか。

亀有の婦警だって胸当てをしないで弓を放ったら胸を強打したというのに。

 

「ふむ、まぁ上々か」

 

千里眼で祭の当てたところを見てみるが、ほぼ真ん中。

流石は年のこ・・・うおおおおおっ?

何故だ!? なぜ俺は祭にチョークスリーパーをかけられているんだ!?

 

「祭! ちょっといた・・・くないけど! 何やってんだ!?」

 

「うん? いや、なにやらギルが不埒なことを考えていたようなのでな」

 

「ようなのでな、でシメられたら洒落にならんぞ・・・」

 

しばらくシメられていると、祭も満足したのか解放してくれた。・・・うん、実に柔らかかった。

それから、祭と的中を競うように矢を放つ。

流石に弓も消耗してきたな。・・・そろそろ弓を変えたほうがいいだろうか。

 

「換えの弓はっと・・・」

 

訓練用の弓だと、すぐに耐え切れなくなるんだよなぁ。

祭や紫苑のように、もうちょっと良い素材で作ってみるべきだろうか。

なんてことを考えながら弓置き場で物色していると、からん、とすぐ横で音がした。

 

「?」

 

そちらに視線を向けてみると、なんとそこに落ちているのは終末剣エンキ。

・・・そういえば、君も弓だったか。いやいや、使えと?

 

「というか、また勝手に宝物庫開いたのか。恐ろしいな」

 

まさかとは思うが、自我でもあるんじゃなかろうな、この宝物庫。

こんなもの使ってみろ。ナピシュテムの大波(メモリ:七日目)とまでは行かないまでも、それなりの大波は起きる。

救助訓練がいきなりの実践になるぞ・・・。

 

「そもそもこいつから発射される矢はビーコンみたいなものだしなぁ」

 

的には当たるだろうが、当たった後に的ごと俺たちが流されかねん。

却下却下、と思いながら宝物庫にしまうと、背後で再び何かが落ちる音が。

 

「・・・次はなんだよ」

 

振り返ってみると、そこには無駄なしの弓(フェイルノート)が。

いやいや、それを使うと腕前とか関係なしになるから。弓版刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)だろ、君ィ。

その後も、出てきた弓の宝具を宝物庫に戻すたびに別の宝具が出てきて大変だった。

最終的に、種子島が出てきた辺りで宝物庫も何かおかしいと気付いたのか沈黙したが。

良かったよかった。流石に火縄銃は弓じゃないよな。確かにアーチャークラスにはなれるかもしれないけどさ。

 

「ギル、弓を選ぶのにいつまでかかっておるのじゃ」

 

「おおっと。そうだったな。ごめんごめん、今行くよ」

 

いまだに的中を量産中の祭に怒られながら、近くにあった訓練用の弓を手にとって祭の隣に戻る。

さて再開しようかと矢をつがえている途中、射撃訓練終了の知らせが。・・・宝物庫ェ。

 

「かっか。今回はわしの勝ち越しじゃな」

 

祭の勝ち誇った笑い声に、今日はこのくらいで勘弁してやる、といういかにもな捨て台詞を吐いてしまった。

・・・いかんいかん。何が悲しくてそんな台詞を吐かなければいけないのか。

 

「次は救難訓練だ! 気を抜くな!」

 

蓮華の声に、兵士たちが応! と返す。

気合十分である。後は俺たちがフォローして、本当に命の危険が無いようにしてやらないとな。

 

「えへへー。ギールっ。シャオの番になったら、ギルが助けてね?」

 

そう言いながら、シャオが俺の腕に抱きついてくる。

というか、将は救助される側ではなく救助する側じゃないのか。

 

「こらっ。シャオは指導する側!」

 

「えーっ。つーまーんーなーいー! だって何回も同じ訓練してるじゃないっ。みんなもう普通に泳げるんだよー?」

 

蓮華の言葉に、シャオがいつもどおり反発する。

普通に、というのには、鎧をつけていても、という言葉が前につくのだろう。

そんなシャオの言葉に、思春が静かに反応した。

 

「・・・お言葉ですが。こういった非常のときの訓練だからこそ、常に備えておかなければならないのです」

 

もっともだ。日ごろの備えがあってこそ、もしものときに「こんなこともあろうと」と言えるのである。

思わぬところから反論がきたからか、シャオは一瞬ぽかんとしたようだ。

 

「そうだけどー・・・」

 

理解はしてるけど納得はしてない、という顔だな。

まぁ、非常事態にでもならなければこういった訓練のありがたみというのは分からないものだ。

思春は江賊をやっていたというし、何度か非常のときの備えの大切さが身に染みたのだろう。

 

「シャオ、ここは思春が正しいって。ほら、一緒に泳ぎたいんならざぶーん行けばいいし。な?」

 

思春の言葉に乗っかるようにシャオを諭してみる。

頭を撫でながらだったのが功を奏したのか、シャオは不承不承ながらも首を縦に振った。

・・・これで、俺のスケジュールに新しい約束が増えてしまったのだが、まぁ良いか。

 

「よーっしっ。ギルとざぶーんに行くために、頑張るよー!」

 

「もうっ。切り替えが早いというか・・・」

 

「そこがシャオのいいところだろ。そうだ、久しぶりに蓮華の水着も見たいし、シャオと行った次は蓮華も行こうな」

 

多分シャオは二人きりじゃないとむくれるだろうから、別の日になるだろうが。

蓮華は恥ずかしそうに顔を俯かせると、ほんの少し首肯した。

ああもう、船の中に医務室ってあったっけ? ちょっと用事が出来たんだけど!

 

「・・・おい」

 

「大丈夫っ、忘れてないぞ! 変なことは考えてないから!」

 

再び鈴音を突きつけられる。思春のすぐ手が出る癖はいつか矯正しなければなるまい。・・・俺の心の平穏のためにも!

それにしても・・・思春か。

 

「ふむ・・・」

 

「・・・なんだ」

 

「いや、思春もざぶーん行こうぜ」

 

「は?」

 

それがいい。水着ならば鈴音も持ち歩けないだろうし、俺の眼の保養にもなるし。

その状態ならば、思春に鈴音を突きつけられることも無いだろう。良いこと尽くめである。

 

「・・・そうね。たまには思春も一緒に遊ぶのも良いかもしれないわね」

 

あなた、いつも護衛とかばかりだし、と蓮華が呟く。

思春は何とか断ろうとしていたようだが、蓮華に言われては断れまい。

俺のほうを恨めしげに睨んでくるが、勝利を確信している俺に恐怖はない。

 

「・・・蓮華さまが、そう言われるのでしたら・・・」

 

こうして、シャオ、蓮華、思春の水着姿が見られることが確定したのだった。

 

・・・

 

「たいちょーたいちょー」

 

「今忙しいから後でな」

 

「全く忙しそうな素振り見せてませんよね!? 寝台で優雅に朝の一杯楽しんでる人の台詞じゃないですよ!?」

 

朝っぱらから俺の私室にやってきた副長は、眠気も見せずに見事に突っ込みを入れてくる。

ちっ、少し前だったらちょろかったんだけどなー。最近は変な自信付けてるから・・・。

 

「な、何でそんなジト目でこちらを見るんですかーっ。私何も変なこと言ってませんよね・・・?」

 

「いや、副長の発言は九割変だからさ」

 

「酷いっ!?」

 

「ま、いいや。おいで。撫でてやろう」

 

「うぅ、なんて上から目線。でも単純に嬉しいと思う自分が憎いぃ・・・」

 

なにやら不穏な事を呟きながら、ふらふらと寄ってくる副長。

うんうん、素直な娘は可愛くて好きだぞー。

 

「よしよし」

 

「わふー・・・」

 

明命に続く犬娘である。揺れる尻尾とピコピコ動く耳が幻視できる。

一通り撫で回し、副長が荒い息を吐き始めた辺りで止める。

 

「あ・・・う・・・なんで、やめるんですかぁ・・・」

 

「ははは、焦らしプレイだ。続きは後でな」

 

顔全体が蕩けてきた副長の頭を最後に一撫でして、寝台から降りる。

立ち上がった時点で、宝物庫を使った着替えは完了している。

そろそろ秋のファッションに変えていくべきか。夜はもう結構寒いからなー。

 

「あ、待って、待ってくださいよぅ」

 

先ほどとは違う理由でふらふらになった副長が、私室を出た俺の後ろを追いかけてくる。

足取りは危なっかしいが、あれでも副長だ。転んだりすることはないだろう。

とてとてと璃々のように後ろを付いてくる副長に癒されつつ、目的の場所へ。

 

「おはよう」

 

「あっ、おはようございますっ、にーさまっ」

 

「・・・む」

 

「副長さんも、おはようございますっ」

 

「はよっすー」

 

たどり着いた場所は食堂。兵士たちや、たまには将も食事をする場所である。そこには、料理を準備する侍女や調理人たちに混ざって鍋を振るう少女の姿があった。

それは、おざなりな返事を返す副長にすら笑顔で挨拶する魏の良心の一人、流流である。

流流はこうしてちょくちょく厨房を手伝ったりしている。厨房の人気者、まさにクッキンアイドルである。

 

「朝ごはんですか? 少し待っててくださいね!」

 

腕によりをかけちゃいます! と元気に調理する流流は、流れるように二人分の食事を完成させてしまった。

盆に乗った料理を受け取り、副長と二人、空いている席に着いて朝食を摂る。

 

「そういや、副長が朝にこんな元気って珍しいな」

 

「そうですか?」

 

「ああ。寝起きって大抵ぽわっとしてるだろ、お前」

 

「まぁ、寝起きはそうですけど・・・私、今日まだ寝てないですから」

 

だから一応目は冴えてるんです、と苦笑い気味に副長は話す。

 

「は?」

 

「徹夜ですよ、徹夜。ちょっとやること立て込んでて、つい」

 

「つい、じゃねえよ。お前な、きちんと寝ないと辛いぞ?」

 

「分かってますよー。・・・ったく、誰のせいで徹夜してると・・・」

 

「あん?」

 

ぶつぶつと呟く副長の声は、流石の俺の聴力を持ってしても厨房の喧騒にかき消されてしまった。

・・・まぁ、副長が何かぶつぶつ言っているときは大抵俺への不満か何かなので、取り合えずお仕置きしておこう。

 

「ああっ! たいちょー! そ、それっ!」

 

「はっはっは、油断大敵って奴だな」

 

「うぅ、私の海老ぃ~・・・」

 

副長のエビチリから海老を奪いながら笑う。

恨めしそうにこちらを見てくるが、俺のはやらんぞ。

 

「えいっ」

 

「甘い!」

 

「あうぅ・・・」

 

俺の蟹に手を伸ばした副長にしっぺして、俺の朝食を守る。

だからやらんって。

 

「ずっこい! ずっこいですたいちょー!」

 

「全く、副長は仕方の無い奴だな」

 

そう言って、俺は副長のエビチリから再び海老を取る。

 

「ほら、あーん」

 

「ふぇ? ちょ、うえぇ!? あ、あーん!? こ、ここで!?」

 

「別に人の目を気にする性格じゃないだろ、副長」

 

「気にしますよ! 食堂の視線二人占めですからね!?」

 

俺は月やら詠やらそのほかの恋人たちのお陰で、こうしていちゃいちゃしてるときの視線は気にならなくなったのだが、副長は違うらしい。

 

「副長、良い言葉を教えてやろう」

 

「もぅやだぁ。恥ずかしくて死んじゃう・・・。・・・ふぇ、なんですか?」

 

「諦めれば?」

 

「あァァァんまりだァァァァ!」

 

「泣いた!?」

 

まるで腕でも切られたかのような叫びである。孔雀の前には連れて行けないな。

 

「ほら、あーん」

 

仕切りなおすように副長に箸を向けると、しばらく恥ずかしがっていた副長も開き直ったのか、おずおずと口を開いた。

 

「あ、あーん、です」

 

「よっと」

 

「はむ。・・・え、えへへっ、嬉しいなぁ・・・」

 

頬に手をあて、首を振りながら咀嚼する副長。

そんな乙女ってる副長を眺めて楽しんでいると、一通り手伝いが終わったのか、流流が盆を持ってこちらにやってきた。

 

「相席、いいですか?」

 

「構わんぞ。ほら、こっち空いてる」

 

「ありがとうございますっ。・・・あの、副長さんはどうしたんですか?」

 

「はは、持病の発作だから心配しなくて大丈夫」

 

「は、はぁ・・・」

 

常識人のセンサーが働いたのか、若干引きながら席に着く流流。

その手に持つ盆の上には、まだ湯気が上る料理が乗っている。

 

「フヒヒィ・・・」

 

「・・・」

 

無言でこちらを見上げる流流。

・・・そんな目で見ても、俺には今の副長をどうすることも出来ないぞ?

 

・・・

 

「ごちそうさまでした」

 

「今日も美味しかったよ、流流」

 

「そうですか? そう言っていただけると嬉しいです、にーさまっ」

 

食事を終えた流流に話しかけて感想を伝えると、嬉しそうに微笑む。

・・・ちなみに、いまだに副長は一人の世界に入ったままだ。もう、しばらくは放っておく事にした。

 

「はは、店を開けるぐらいの腕前だよな」

 

「えへへ・・・そこまで褒められると、照れちゃいます」

 

頭を撫でて褒めると、てれり、とはにかむ流流。

その辺りでようやく副長も現実に戻ってきたようだ。

 

「はっ、今たいちょーがフラグ立てたようなSEが!」

 

「・・・副長さん、本当に大丈夫なんですか?」

 

「そろそろ、まとまった休みが必要かな」

 

この三国志の世界でフラグがどうとかSEがどうとか言っちゃう月の姫様はきっと疲れてるんだろう。

 

「副長、お前にはしばらく暇をやろう」

 

「ちょっと! やめてくださいよ! その言い方だと私隊長に殺されるじゃないですか!」

 

「ははっ」

 

「え? ちょ、何で否定してくれな・・・マジで?」

 

「いや、もちろん冗談だけど」

 

「だ、だよねー! もうっ、お茶目が過ぎるんですからっ」

 

ちょん、と俺の額を突いてくる副長。

なんて可愛い子なんだろうか、思わず頭を握りつぶしそうになる。

 

「あだだだだだだっ!」

 

「副長さん、女の子がそんな悲鳴あげたら駄目ですよ?」

 

「この人すでにこの空気に順応してる!? 誰も私の心配してくれないたたたたた!?」

 

そんな風に副長といちゃついていると、仕事の時間になってしまった。

俺の名誉のために言っておくと、副長の頭を掴んでぎゅっとしているが、あんまり痛くは無いだろう。

副長も少し大げさにやってるだけだ。正直、卵も割れないほどの威力だからな。

構ってやると喜ぶ。・・・だんだん、副長が犬にしか見えなくなってきた。

 

「そういえば流流、季衣は一緒じゃないのか?」

 

「えっと、季衣は朝あんまり強くないので・・・」

 

「あー、そういうことか。なんだか朝から元気そうな感じするけどな」

 

鈴々は朝から元気だし、性格が近い季衣もそうかと思ったんだが・・・。

 

「・・・季衣のこと、そんなに気になるんですか?」

 

「ん? なんだって?」

 

「副長、それ俺の台詞。・・・で、なんだって?」

 

「もう良いです! にーさまのバカっ」

 

「あれ、私華麗にスルーですか?」

 

いつもは聞こえる流流の呟きも、流石に食堂の喧騒の中では聞こえない。

副長と一緒に聞き返してはみたものの、からかわれてると勘違いされたのか、流流は怒ってしまったようだ。

 

「ごめんごめん。何か気に入らないこと、言っちゃったみたいだな。許してくれよ、何でもするからさ」

 

「別に怒ってなんて・・・何でも?」

 

「・・・俺に出来る範囲なら」

 

何でも、の部分に目を輝かせ始めた流流に、一応の念押し。

まぁ、流流みたいな良い子が桂花のような悪魔の要求をしてくるとは思えないが・・・まぁ、保険にな。

 

「だ、だったら・・・その、い、一緒に、お出かけ、とか」

 

「・・・分かった。黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)で世界一周するか」

 

「そこまで壮大なお出かけは望んでませんよ!?」

 

さすが常識人の流流。突っ込みが激しい。

 

「よし、じゃあ早速行こうか。副長は反省文三枚」

 

「何故に!?」

 

・・・

 

「にーさま、こっち、こっちですっ!」

 

「分かってるって。うん、引っ張るのはやめようか。その腕力で引っ張られると、腕外れそうになるんだ」

 

俺の手を引っ張って先を行く流流に、冷静にお願いする。結構強い力で引っ張られているようだ。・・・うん、流石はあんなにデカイ武器を振り回すだけはある。

愛紗に首根っこ引っつかまれたりしてるから、引き摺られるのは慣れてるけど、そのときも結構首痛めそうになるんだぞ・・・。

 

「あっ、ご、ごめんなさい・・・えと、にーさまとお出かけできて嬉しくって」

 

「まぁ、そう言ってもらえると嬉しいけどさ。別に俺は逃げないから」

 

そう言って、掴んだ手に少しだけ力を込める。

えへへ、と照れたように笑う流流と並んで歩きながら、最初の目的地へと向かう。

 

「ついたな」

 

たどり着いたのは調理器具専門店。華琳も贔屓にしているという有名店だ。

・・・俺が前回破壊しまくった中華鍋も、ここで購入したものだ。ちなみに、あのときの被害総額は普通の兵士一人分の年収なみだったそうな。・・・恐ろしい。

 

「いらっしゃいませ」

 

店に足を踏み入れると、店員から挨拶される。

ここは有名店ではあるが、同時に高級品ばかりを取り扱う店でもあるので、客数は少ない。

しかも商品を見たり商談をしているのは店を構えている料理人だとか商人ばかりだ。

一般の人がここに買いに来るのは稀なのだろう。

 

「まずは・・・そうだな、俺が破壊した鍋から補充していこうか」

 

「あはは・・・」

 

苦笑する流流を連れて、鍋のコーナーへと。

何処何処の職人が作りました、とブランド品のような扱いを受けている中華鍋たちに視線を走らせる。

なんで今の今まで破壊した鍋を買いなおさなかったのかというと、鍋自体そんなに消耗するものではなかったからだ。

備品補充リストの中でも優先度が低かったし、予備もあったので問題はなかったのである。

 

「あ、このお鍋ですね」

 

そう言って流流が一つの鍋を手に取る。

・・・俺には隣の鍋との違いが分からないのだが、隣の鍋とは値段が一桁ほど違う。

何が違うんだろうか。材料とか・・・製造法とかなのだろうか?

 

「後は・・・あ、そうだ。包丁も買わないと」

 

店員にこれ五つ、と伝えた後、流流は包丁のコーナーへと小走りで向かってしまった。

本当に料理が好きなんだな。ああいう奥さんが欲しいものである。

 

「えーと、頼まれてたのが・・・あ、あった」

 

いくつもの包丁が専用の置き場に陳列されている。

数センチの縦長の穴に、刃を下にして刺してある形だ。

そのうちの一つを手に取り、しゃらん、と引き抜く。

陽光を反射して、鋭く光る刃は、切れ味抜群であることが見て取れる。

 

「うん、これこれ。後は研ぎ石とかもかな・・・」

 

流流は慣れた様にこれとこれとこれ、と店員に伝えていく。

・・・うん、常連さんなんですね、分かります。

 

「俺もいくつか持っておくかな」

 

こう、百個単位で包丁とかおたまとか買っておけば、錬鉄の英雄とも張り合えるかもしれない。

そうと決まれば買占めだ。禁じ手? 他の客に迷惑? ・・・それもそうか。だけど俺は謝らない。

 

「えっ!? え、ええと、もう一度お願いします」

 

「だから、この店で取り扱ってる調理器具、全部百個ずつ用意して欲しいんだ。期限は無し。ゆっくりやってもらって構わない」

 

「え、えーとぉ・・・」

 

困ったように笑いながらきょろきょろと辺りを見回す店員さん。

? 何か問題があるのだろうか。期限無しで店のもの百個ずつ用意して欲しいって、そんなに難しい・・・ああ、そっか。

 

「前金だな? ほら、これくらいあれば大丈夫だろ」

 

そう言って、懐から取り出した(ように見せて、宝物庫から取り出した)金銀宝石を並べ立てる。

一応お金もあるが、それを並べるよりもこうして現物を並べてあげたほうが分かりやすいだろう。

・・・あれ、これは俺、嫌な奴なんだろうか。

 

「にっ、にーさま!? なにをしてるんですか!?」

 

騒ぎを聞きつけたのか、流流が駆けつけてきた。

俺と店員さんを交互に見てくる流流に、取り合えず簡単な説明をする。

説明を聞いた流流は、店員のほうを向いて申し訳なさそうに謝った。

 

「・・・すいません、店員さん。この人、ちょっと常識無いんです」

 

「失礼な! 俺ほどの常識人は居ないぞ!?」

 

「常識のある人はこういうお店で買占めなんて変なことはしないんですっ」

 

「かっ、買占めというか、発注に近いと思うんだけど・・・」

 

「お店にあるもの百個単位で買うとか、職人さん殺す気ですかっ」

 

うっ。そ、そうだよな。職人が一つ一つ手作り何だもんな。

 

「期限なしって言ったら何年かかるか分からないもんな。そりゃ職人が先に居なくなっちゃう可能性もあるか」

 

「そういう意味で言ったわけじゃありませんっ。もうっ、行きますよ!」

 

「あ、ありがとうございましたー・・・?」

 

流流に手を引かれながら、店を後にする。

・・・ふぅむ、また何か変なことを言ってしまった・・・らしい。

 

・・・

 

「もうっ、にーさまのバカっ」

 

「す、すまないな。・・・俺としては、普通に発注依頼しただけのつもりだったんだが・・・」

 

あの後流流に懇々と俺の常識の無さを説かれ、そのままのテンションで茶屋へと入った。

まだ若干怒りが残っているのか、流流の前にはお茶だけではなくお菓子が多めに並んでいる。

流流も季衣に負けず劣らず大食いだからな・・・多分これがストレス発散の方法なのだろう。

目の前ではむはむとお菓子を食べる流流を見ながら、さて次はどうするかと考える。

 

「兎に角っ。にーさまは今度から気をつけてくださいね!」

 

「・・・了解した。でもありがとな、流流。ああいう風に注意してくれて、助かったよ」

 

「ふぇっ!? え、えと・・・お、お礼なんて、そんなっ」

 

急に顔を赤くしてぶんぶんと手を振る流流。

結婚しよ。・・・はっ!? へ、変な電波が。

 

「さて・・・次は何処に行こうか」

 

「次・・・ですか? うーん、こういうときに行く場所ってあんまり詳しくなくて・・・ざぶーん位しか思いつかないです」

 

「ざぶーんか。そこもいいけど・・・」

 

今日は秋らしくもない暑さのため、きっと混雑していることだろう。

ざぶーんに行くくらいならちょっと遠出して川にでも行ったほうが良いだろう。

・・・川・・・川か。

 

「よし、行く場所が決まったぞ!」

 

「どこですか?」

 

「港だ!」

 

・・・

 

「フィーッシュ!」

 

「わぁっ、凄いですっ。これでもう五匹目ですよっ」

 

にーさまに連れられてやってきたのは、町の人たちも良く釣りに来るという港です。

そこで宝物庫から二本釣竿を取り出したにーさまは、片方を私に手渡し、大きい傘を立てました。

それから釣りの仕方が分からない私に、餌のつけ方、どの辺りを狙えばいいのかなどを教えてくれました。

すぐににーさまはお魚を釣って、これで五匹目。私はまだ、全然引かないんですけど・・・ゆ、ゆっくりやれば良いってにーさまも言ってましたし!

それに、にーさまとゆっくりお話できるから、全然釣れなくても楽しいです。

なんて思っていると、にーさまが私の竿を指差しました。

 

「お、流流の竿、引いてるぞ」

 

「ふぇっ、ほ、ホントだ! えとえと、えいっ」

 

ぐいっ、と引っ張ってみるけど、な、なんでだろ、全然引けない・・・!

 

「ああ、そうやって引くと糸切れちゃうぞ。こうやって・・・」

 

そう言いながら、にーさまは私の後ろから私の手を取りました。

・・・って、これって後ろから抱きしめられて・・・!

 

「ひゃうっ」

 

あ、にーさま暖かい・・・じゃなくて!

う、うぅ・・・釣りに集中できないよ・・・!

 

「あ、あのっ、に、にーさま!?」

 

「ほらほら、集中集中。こうやって引いて・・・」

 

手っ、手も握られてるっ!?

 

「お、これはデカイな。・・・流流? 流流ー?」

 

・・・あの後、気付いたら大きいお魚を釣り上げてました。

その間の記憶は・・・ちょっと、無いみたいです。

で、でも、にーさま、暖かくて、優しくて・・・胸が、ぽかぽかしちゃいました。

 

・・・

 

釣りを楽しんだ後から、流流の様子がおかしい。

こっちを見上げてくるのに気付いて視線を移すと慌てて目を逸らすし。

さっきまで手を繋いでたのに手を出したり引っ込めたりと忙しそうだし。

たまに全然違うほうにふらっといっちゃうし。完全に心ここにあらずである。

 

「・・・一体どうしたんだ、流流」

 

「ふぇ?」

 

「いや、何かぼーっとしてるみたいだけど・・・」

 

城壁の中へと入り、中庭を横断している途中、流流を呼び止めて話しかけてみるも、やっぱりぼーっとしているみたいだ。

流流に視線を合わせるようにしゃがみ、おでこを合わせてみる。・・・少し熱っぽいな。

うぅむ、風邪かな。たまにおかしくなる副長や月や卑弥呼と同じ反応だからもしやと思ったが、的中してしまったかな。

 

「風邪っぽいみたいだな。流流、すぐに戻るぞ」

 

流流の手を掴み、部屋へと歩く。

昨日まで涼しかったのに今日は急に暑かったからな。

その所為で体調を崩したのかもしれない。

釣りの時にもパラソルの中とはいえ結構暑かったしなぁ。

 

「あ、ちょっと、にーさまっ、待ってくださ・・・ひゃうっ」

 

手を引く俺に対抗するように力を込める流流。

待てと言われても・・・調子悪そうな流流を放ってはおけん。

少し無理やりだが、横抱きにして歩く。こうすれば我侭も出来ないだろう。

 

・・・

 

流流の私室に着いた。

寝台に流流を下ろすと、俺は布団をかける。

 

「全く、調子が悪いなら悪いとちゃんと言えばいいのに」

 

「え、えぇと・・・す、すみません・・・?」

 

何故か首を傾げる流流に俺も首を傾げる。

・・・なんだろう、この違和感。

 

「水飲むか? ・・・あ、龍の秘薬があるな。これ飲んだほうが体調良くなるかもしれないぞ」

 

宝物庫にある龍の秘薬は大体の体調不良に効果がある。

これを飲ませてあげれば、きっと楽になるだろう。

 

「よし、流流。これを飲んでみろ」

 

「これは・・・?」

 

「龍の秘薬。胃痛胸焼け頭痛に腰痛何でも治す伝説の秘薬だ」

 

「そっ、そんなもの、使えませんよ!」

 

「遠慮するなって。在庫はまだまだあるから」

 

「えーっと、そういう意味じゃなくて・・・なんていえばいいんだろうなぁ」

 

上体を起こして悩み始めた流流に、俺は首を傾げるしかない。

 

「あの、別に私、調子悪くないんです」

 

「それは、その、無理をしてるとかじゃ・・・」

 

「無いです」

 

「じゃあなんでさっきはあんなに妙な行動を?」

 

「そ、それはそのぅ・・・」

 

指先をつんつんと合わせて俯く流流。

やがて、何かを決心したのか、勢い良く顔を上げてこちらを見上げた。

 

「に、にーさまに後ろから抱きしめられたりとか・・・お姫さまだっこされたりとか・・・す、好きな人にそういうことされたら、誰だって変になっちゃいます!」

 

「後ろから・・・? あ、ああ!」

 

釣りの時のあれか!?

アレは抱きしめたわけじゃ・・・あ、いや、ちょっと待て。

うん、やってたな。普通に背後から手を伸ばしてたわ。

 

「って、好き・・・?」

 

危ない危ない。聞き逃しかけてたが・・・ちょっと無視できない単語だよな。

 

「は、はい。私は・・・その、にーさまのこと、好きです」

 

兄として・・・じゃないんだろうな。

それもあるんだろうが・・・この顔は、月たちと同じ顔だ。

 

「私の作ったご飯を食べて美味しいって言ってくれる時とか、優しく笑って頭を撫でてくれるところとか・・・そういうときにドキドキしたりして・・・」

 

はにかみながら、布団を手繰り寄せる流流。

 

「いつの間にか、好きになってました。・・・えと、ほ、本気、ですよ?」

 

「そっか。・・・嬉しいよ。本当に、嬉しい」

 

そう言って、俺は流流を抱き寄せた。

 

「ひゃっ!? あ、あああああのっ! こ、心の準備も、ば、ばっちりです!」

 

「は、ははっ。別にそういうのは急がないけど・・・ばっちりなら、しないのも失礼かな」

 

据え膳何とかという奴である。

鈴々で小さい子(体系的な意味でね?)の扱いを学んだ俺に、あんまり隙はない!

 

「ひゃう・・・っ!」

 

再び寝台に流流を押し倒しながら、俺は流流に手を伸ばした。

 

・・・

 

「ん・・・」

 

朝日が眩しい。

・・・ええと、昨日は確か・・・ああ、そうか。

 

「あ、お、起きた・・・お、おはようございます、にーさま」

 

「・・・ああ、おはよう、流流」

 

流流と、一緒に寝たんだったか。

こちらを覗き込む流流の頬を撫で、挨拶を返す。

 

「体調はどうだ? 気分が悪いとかは・・・」

 

「全然問題ないですっ。む、むしろ、気分が良いって言うか」

 

「嘘・・・じゃないみたいだな。すっきりした顔してる」

 

「えへへ。気持ちも伝えられましたし、その、む、結ばれましたし・・・これ以上無いって位、すっきりしてますよ!」

 

そう言って流流は笑い、頬に伸ばした俺の手に自分の手をそっと合わせた。

こちらを見下ろす流流は、もう片方の手を俺の頭に伸ばしてくる。

 

「・・・なんで俺は撫でられてるんだ?」

 

「ふぇ? えと、なんででしょう?」

 

「流流に分からないんだったら、俺にもわからんな」

 

そう言って俺は上体を起こす。

・・・昨日はつい熱中してしまったが、今日は仕事がある。

 

「わ、そうだった・・・私もお仕事あるんだ」

 

二人してもぞもぞと着替え、少しだけいちゃついてから私室を出た。

さてと、今日も頑張りますか!

 

・・・




「またですか、壱与さん」「・・・また邪魔するの? 副長」「はい。壱与さんが隊長の寝室に入ると、確実に隊長は起きます。明日の仕事に響くようなことは、させられません」「ふふっ。いいわ、相手してあげる。おいで、マナイタ女」「う、ぐぅ・・・! こ、言葉の暴力!」「舌戦から勝負は始まってるのよ!」「黙れちーび!」「ぶ っ 殺 す !」「が、ガチギレしたー!?」

こうして、真夜中の追いかけっこは日が昇って壱与が「眠い。帰る」と邪馬台国に帰るまで続いた。


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