真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

45 / 86
「壷、かぁ」「壷といえば、この壷を買わなければ不幸に・・・みたいなのあったよな」「あー、あったあった。・・・壱与ー」「はい?」「壱与、お前だけにいい話がある。この壷を買うと幸せに」「五つください!」「・・・即決だ」「即決だな」「いくらでしょうか! ギル様に奉仕できるならば国庫三つくらいまでは潰せますけど!」「・・・この壷に、「傾国」という名前をつけることにした」「・・・警告の意味も込めて、か?」「ぶふぅっ!」「甲賀!? いつの間に!?」


それでは、どうぞ。


第四十四話 懐かしき壷に

「お、あったあった」

 

「・・・なんです、その顔の付いた壷は」

 

「ん? 副長か。これはな、さっき宝物庫を漁ってたら見つけたんだ」

 

なんとこの壷、その昔『明朗快活無敵戦闘メイドロボ』が愛用したという壷なのだ。

物を入れてふりふりすると中のものが混ざったりする優れものだ。

次回のキャスターの座学でこれを使って魔術薬なんかを混ぜたりするのに使おうと思って探したのだ。

 

「『念壷』と言ってな。この中が擬似的な異空間になってて、ある程度の個数なら大きさ関係なく入るんだ」

 

中庭に咲いていた花を適当に入れて振ってみる。

すると、壷が光りだし、効果音が鳴る。

中に手を突っ込んで取り出すと、手裏剣が出てきた。

 

「・・・え?」

 

「そして、この手裏剣一つと甲賀からパクっ・・・借りてきた手裏剣三つを一緒に入れるだろ?」

 

そして、再びふりふり。

 

「こうして、ブーメランが出来る」

 

「・・・は?」

 

「で、ここに副長からパクっ・・・黙って借りた爆弾が四つある。これを入れて振ると・・・」

 

「いやいやいや、いつの間にとって・・・」

 

「ほら、念ボムになる」

 

「怖っ! 顔付いてますよその爆弾!」

 

こいつは取り出すとカウントダウンが始まって爆発してしまうので、すぐに壷に戻す。

 

「よし。じゃ、俺はキャスターのところ行ってくるから」

 

「は、はぁ。・・・あの、後でお部屋行きますね」

 

「ん、いいぞ」

 

うしっ、とガッツポーズを取る副長に少しだけ笑いながら、俺は片手で壷を抱えてキャスターの部屋を目指す。

 

「クリスタル・・・宝石を入れると上位の宝石になるみたいだからなぁ。宝石魔術を使うときに応用できないだろうか」

 

ちなみに、これを探し出すときに神様に色々と聞いたのだが、話に出てきた『明朗快活無敵戦闘メイドロボ』も一緒に入っているそうだ。

取り出さないけどな。何でもかんでも掴めて、振って属性を反転させられるとか凄まじい性能である。

某スロットさんとタメ張れるレベルである。

いや、光線や雷すら掴める時点で、超えているかもしれない。

 

「なんにせよ、取りあえずこの壷だけあれば良いから・・・うおっ!?」

 

「ギルお兄ちゃーん!」

 

背後から璃々に飛び掛られた。

危ない危ない。うっかり念壷を投げるところだった。

 

「こら、璃々! 危ないでしょうっ」

 

とたとた、と軽い足音を立てて、紫苑がやってくる。

そのまま、璃々を抱き上げ、めっ、と叱っているようだ。

 

「良いよ、紫苑。ちょっとびっくりしただけだから。璃々、俺以外にこういうことはしちゃ駄目だぞ?」

 

背後からタックルされて微動だにしないのは英霊か春蘭とか恋みたいな背後の気配が分かるような人たちだけだ。

俺の言葉を聴いた璃々は、うんっ、と元気に返事をする。

 

「それならよし。ほら、おいで璃々」

 

「はーいっ!」

 

紫苑の腕の中から飛び込んでくる璃々を両手でしっかりキャッチする。

うんうん、可愛いなぁ。出来れば反抗期とか来ないで欲しいなぁ。

腕の中で満面の笑みを浮かべる璃々の頭を撫で、紫苑に返す。

 

「よっと。御免な、璃々。俺これから授業受けなきゃだから」

 

「ああ、確か、魔術師の英霊さんの、でしたか?」

 

「そうそう。紫苑は見たことあったっけ」

 

俺の言葉に反応した紫苑に聞き返してみる。

 

「はい。あの長髪でひょろりとした方ですよね?」

 

「それであってると思う。・・・おっとと、時間がまずいかな。それじゃ!」

 

「頑張ってくださいね」

 

「またねー!」

 

手を振って見送ってくれる二人に手を振り返しながら、城内の通路を駆ける。

危ない危ない。遅刻するとバケツを両手に持たされて廊下に出されるからな。

 

・・・

 

「あら? 何かしら、この壷は。・・・うわ、顔が付いてる」

 

そう言って、念壷を拾い上げる雪蓮。

 

「中には・・・なにこれ、お花とか武器とか入ってるわね・・・」

 

「雪蓮? どうしたんだ、こんなところで」

 

「あ、冥琳。みてよこれ、何か拾っちゃった」

 

そう言って、雪蓮は冥琳に壷を見せる。

冥琳はふむ? と首を傾げる。

 

「? 壷、か? 顔が付いているな。何かの儀式に使うものなのか?」

 

「わかんないわよ。誰かの落し物かしらね?」

 

「さぁな。まぁ、取りあえず聞いて回ってみればいいじゃないか。そのうち、知っている人間にも出会えるさ」

 

「そうしましょっか」

 

念壷を抱えながら、二人は当ても無く城の中を歩き始めた。

・・・数分後、忘れ物に気付いたギルが戻ってきて崩れ落ちたのは言うまでも無いことだろう。

 

・・・

 

「そういえば、この壷ってやっぱり魔術的な道具なのかしらね?」

 

「む? 何故そう思う?」

 

「だって、中に入ってるものと壷の大きさがあわないもの。ギルの蔵みたいなものなんじゃない?」

 

「・・・なるほど。そういわれると確かにそうだな。中身は取り出せるのか?」

 

「んー・・・よっと。あ、取れるみたい」

 

そう言って、取り出したブーメランをしばらく眺め、再び壷の中へ戻す。

 

「やっぱり、中は不思議な空間になってるみたいね。こうして逆さにして振っても中身が落ちてこないもの」

 

雪蓮がほらみて、と壷を逆さにして振る。

すると、壷が光りだした。

 

「わわっ、何これ!? 何が起きてるの!?」

 

「雪蓮、すぐに放せ!」

 

「う、うんっ」

 

ぺいっ、と念壷を投げるが、すでに念壷は合成を終えたらしい。

光はゆっくりと消えていく。

 

「・・・あれ? 中身が変わってる」

 

恐る恐る中身を覗き込んだ雪蓮が、きょとんとした顔で呟く。

 

「もしかしてこれ、中に入ってるものをあわせる壷・・・とか?」

 

「確実にギルの持ち物だな」

 

雪蓮の推理を聞いた冥琳が、メガネを光らせながら確信を持って言い放った。

何か変なもの、変な出来事があれば全部ギル。それは、三国の武将たちの中で半ば常識化していた。

 

「ということは、ギルを探せばいいのね。なんだ、意外と早く持ち主が見つかりそうね」

 

「ああ。確かギルは今授業を受けているはずだ。魔術師の英霊の部屋に行けばいるだろう」

 

「じゃ、早速行きましょうか!」

 

意気揚々と歩き始める雪蓮と、その隣でため息をつきつつ笑顔を浮かべる冥琳。

二人はなんだかんだ楽しみながら、キャスターの部屋まで向かっていった。

 

・・・

 

「無い、ない、ないっ!」

 

不味いぞ不味いな無くしたぞ!

神様謹製のあの念壷、合成できる制限を外してあるから、混ぜるものの組み合わせが相性バッチリだったら何でも合成するぞ・・・!

それこそ、宝具でも合成してしまうという神様のお墨付きである。人はそれを危険物という。

 

「あれがもし、何も知らない人間の手に渡ったら・・・!」

 

若返りの薬の二の舞である。

合成するものによっては大変なことに・・・というか、すでに爆弾が入ってるからすでに危険物である。

 

「・・・仕方ない、一旦戻って、孔雀とキャスターに協力を仰ごう」

 

はぁ、とため息一つついて、来た道を戻る。

・・・一応、怪しげなところには視線を投げてみるが、見つからないだろうなぁ。

 

・・・

 

「居なかったわねぇ、ギル」

 

「うむ。すれ違ってしまったようだな」

 

「もぅ。急いで出て行ったってことは、これを無くした事に気付いたって事なんでしょうけど・・・」

 

「一度、拾った場所に戻るか?」

 

「そうね。犯人は現場に戻る! って言うし」

 

「・・・犯人扱いは非常に不本意だろうな、ギルも」

 

そんなやり取りをしながら、二人は来た道を戻る。

階段を降りたあたりで、瓶を抱える美羽の姿を見つけた。

 

「あら、美羽じゃない」

 

「む? ・・・そ、そそそそそ孫策っ!?」

 

「やーねぇ、雪蓮って呼んで良いって言ってるじゃない」

 

「な、七乃・・・そ、そうじゃ、今はいないのじゃった!」

 

「あら、じゃあ邪魔者は居ないってわけね?」

 

「ぴーっ!?」

 

雪蓮の笑顔を何か勘違いしたのか、美羽は万歳の姿勢で泣き始めた。

そんな体勢になれば当然手に持っていたものは手から飛び・・・。

 

「あら」

 

「む」

 

「なんとっ!」

 

念壷の中へと入ってしまった。

 

「・・・えーと」

 

「うぅ・・・」

 

「そ、そうだ! 私の名前! 雪蓮、って呼んだら返してあげる!」

 

「な、何じゃとっ。・・・ほんとかの?」

 

「ホントホント。ほら、呼んでみて」

 

「しぇ、しぇしぇ・・・」

 

「うんうん」

 

期待したような瞳で、頷きを返す雪蓮。

緊張が解けてきたのか、美羽は深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、意を決して彼女の名を・・・。

 

「お嬢様ーっ!」

 

「きゃうっ!?」

 

「きゃっ」

 

呼ぼうとして、背後からの声に飛び上がってしまった。

美羽は背後からの声に驚き、運悪く前に・・・つまり、雪蓮のほうへと飛び上がってしまった。

急に飛びつかれた雪蓮は念壷を落とし・・・。

 

「あっ」

 

「・・・」

 

口を下にして落ちた念壷は、美羽をぽん、と収納してしまった。

まず、と早口に呟いた雪蓮は、急いで念壷を拾い上げようとするが・・・。

 

「あぁっ、孫策さん!? え、えーと、お嬢様とか、見てません・・・か?」

 

「七乃? ちょっと、今それどころじゃ・・・ああっ、冥琳、追って!」

 

七乃が目の前に立ったことで図らずも壷を拾い上げるのを妨害され、壷はころころと転がっていってしまった。

やけに柔らかいあの壷は階段から落ちたくらいでは砕けないだろうが、それでも未知の不思議物体なのである。

 

「仕方がない。雪蓮、七乃に一応事情を説明しておけ!」

 

ひらりと服を翻し、冥琳が通路を駆けはじめた。

 

「頼んだわよーっ」

 

「え? え? ・・・ちょっと、話が見えないんですけど・・・」

 

「今から説明するわよっ」

 

・・・

 

「ち、一体何処に・・・」

 

冥琳が転げ落ちたと思われる階段の下を探すが、一向に見つからない。

入っているのが人間なだけに、早めに探し出さないと不味い。

 

「冥琳! どう、見つかった!?」

 

「お嬢様ーっ」

 

「雪蓮か。すまない、まだだ」

 

「手分けしましょう。丁度通路は三つに分かれてるし。私はこっちね!」

 

「・・・人の話を聞かない奴だ。私はこちらに行く。お前は残ったところを頼むぞ」

 

「分かりましたー」

 

三人はそれぞれの通路を走っていった。

・・・草陰には、念壷がごろりと転がっているのにも気付かず。

 

「わぷっ。・・・ふぇ?」

 

中庭で遊んでいて迷い込んだのか、璃々が念壷の辺りから姿を現した。

目線は当然念壷へと向かう。

 

「なんだろー、これ。あ、お顔がついてる」

 

自分の頭より大きい壷を持ち上げながら、きゃっきゃと笑う璃々。

すると、何かを思いついたような顔をして、璃々は走り出した。

 

・・・

 

「よいしょっ、よいしょっ・・・ついたぁっ」

 

何とか苦労しつつ階段を上り、璃々がやってきたのは厨房だ。

壷をいったん地面に置き、璃々はがさごそと何かを探し始める。

 

「あったっ! えーっと、これと、これと・・・」

 

両手にお茶のセットを抱えた璃々は、それを壷の中へと入れる。

ぽんっ、と軽快な音がして、茶器が収納される。

 

「あれ? ・・・もうちょっといれてみよっと」

 

壷への入り方に疑問を持った璃々は、持ってきたものをすべて壷の中へと入れていく。

ぽんぽんっ、と茶器がどんどん吸い込まれていく。

 

「わあっ、すごいすごいっ。なんでもはいるんだぁっ」

 

きらきらとした瞳で壷を頭上に掲げる璃々。

再び、よーしっ、と何かを思いついたように厨房を出る璃々。

たたたっ、と軽快に駆けるが、途中で躓いて転んでしまう。

 

「あうっ! ・・・う、うぅ~・・・あ、あれ?」

 

転んだ痛みで一瞬涙を浮かべるが、すぐに違和感を感じて辺りを見回す。

いつの間にか持っていた壷が消えていたのだ。

 

「ど、どこいっちゃったんだろ。さがさないと・・・!」

 

転んだときの弾みで璃々の手から離れた壷は、そのまま通路から外に飛び出し、中庭へ。

この壷は口のほうが重いのか、落ちるときは基本的に口が下になって落ちていく。

そして、着地点にはいつものように日向ぼっこをしてそのまま寝てしまった風の姿が。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

寝息をたてる風は、ぽんっ、という音と共に壷の中へ入っていってしまった。

風を収納した壷は、ころころと少し転がり、すぐに勢いをなくして止まる。

 

「む?」

 

そこへ通りがかったのは片手に酒を持った星だ。

彼女は木の根元に転がっている壷を見て、首を傾げつつ近づいていく。

 

「これは・・・顔、か? なんとも珍妙な壷だ」

 

持ったときの軽さからして、中身は入っていないのだろう、と判断する星。

ちらりと中を見てみたが、中は真っ暗である。

ためしに振ってみるが、何かが入っているような音はしない。

 

「・・・ま、メンマを作るときに使おう」

 

そう言って酒を持っている手とは逆の手で壷を抱え、軽い足取りで去っていく星。

その手に抱えた壷が光っていることには、星は気づくことがなかった。

 

・・・

 

壷を追ってここまで来たが・・・見つからないな。

辺りを見回しながら歩いていると、近くの厨房から声が聞こえる。

 

「全く、こんなに散らかして・・・片付けるのは誰だと思ってるのよ」

 

「詠?」

 

「ん? あ、ギル。どうしたのよ」

 

「・・・いや、その、魔道具なくしてな」

 

「はぁ?」

 

あ、視線が絶対零度に。

 

「・・・ん?」

 

そんな詠から床に視線をずらすと、散らかっているものが目に入る。

おそらく詠がぼやいていたのはこれのことだろう・・・が。

 

「見覚えあるな」

 

手裏剣一つ、ブーメラン一つ、水を被って導火線の火が消えている顔つき爆弾一つ。

・・・あれ? 念壷の中身じゃね?

 

「これ、誰が散らかしたかとかわかる?」

 

「知らないわよ。ボクがここにきたら散らかってたんだから。茶器もいくつかなくなってるし、誰かの悪戯かしらね」

 

はぁ、とため息をつきながら散らかった食器棚を直す詠。

手裏剣やらブーメランやらは俺の宝物庫に入れておくことにする。

 

「・・・そういえば、どんな魔道具をなくした訳?」

 

「ええと、念壷って言ってだな・・・」

 

外見的特徴、機能なんかを説明する。

ふんふん、と頷いていた詠だが、機能の説明のときに若干引きつった笑みを浮かべていたのは見ないことにした。

 

「なるほどね。そんなものなくしたらそりゃ慌てるわよね。・・・で、ここで何かを入れていった可能性が高いのね?」

 

「ああ。念壷はある一定の個数までは大きさ関係なく入ってくけど、その個数を超えたら一番最初に入れたものから強制的に排出されるんだ」

 

「ふぅん・・・。分かったわ。月にも声を掛けて、色々探してみる」

 

「協力してくれるのか。ありがとう」

 

「ふ、ふんっ。別に、これくらいなんてことないわ」

 

「よしよし」

 

「子ども扱いすんなっ」

 

うがーっ、と威嚇されてしまった。

うんうん、ツン子はいつになっても可愛いなぁ。

 

「高い高-い」

 

「・・・他界させるわよ?」

 

急いで降ろした。

いくら弄りやすい娘だからと行って、青筋プッツンするまで弄る勇気は俺にはなかった。

詠に念壷探しをお願いして、俺は厨房を後にする。

さて、何処に行こうか。

 

・・・

 

「あっ、星お姉ちゃんっ!」

 

「んむ? おお、璃々か。一人か?」

 

「うんっ。・・・あっ、あのね、あのね、その壷、私が拾って、えと、色々入れちゃったから・・・」

 

「なんと、これは璃々のだったのか。・・・色々入れた?」

 

その割には何も入っていないようだが、と首を傾げる星。

ふぇ? と同じように首を傾げる璃々。

 

「・・・む、確かに何か入っているようだな」

 

星が壷に手を突っ込むと、なにやら手ごたえが。

 

「これは・・・茶器か?」

 

すぽん、と引き抜いた手には、璃々が厨房で突っ込んだ茶器が握られていた。

 

「あっ、それ、璃々がいれたの!」

 

「・・・ふむ、なにやらギル殿と関係のありそうな壷ですな」

 

そう一人ごちる星は、璃々を撫でながら口を開く。

 

「璃々、これは何処で拾ったのだ?」

 

「えーっと・・・ギルお兄ちゃんのお部屋の前!」

 

「・・・やはり、ギル殿のものかな」

 

ならばギル殿を探すのが早いな、と星は立ち上がる。

 

「下手に触らずにギル殿の下へ持っていくのがいいだろう。さ、璃々、行こうか」

 

「ギルお兄ちゃん探しに行くの? わーいっ」

 

「ふふっ、ギル殿に会えると聞くと嬉しくなるのは、璃々も私も同じようだ」

 

壷を持って駆ける璃々を追いかけるように、星は少し早足で城内へと向かう。

璃々が持っている壷の中にいた人間が、二人から一人になったことには、誰も気付いていないようだった。

 

・・・

 

「ギル様ぁ~っ!」

 

「鎖よ!」

 

「ああんっ、やっぱり素敵ぃっ!」

 

第二魔法で転移して空中から飛び掛ってきた壱与に、恒例となった鎖での拘束を行う。

懲りないというかなんと言うか、むしろ拘束されたくてこうしてる気がしないでもない。

 

「・・・む、そういえば壱与って占い出来たよな」

 

占いというか、未来予知というか。

 

「? ええ、出来ますけども・・・」

 

「探し物をしてるんだ。それって壱与の魔術で探し出せたり出来るか?」

 

「ええと、形とかはどんな感じですか? 後、無くしたものでしたら無くした場所とか分かります?」

 

「ん、ああ、形はこのくらいの壷で・・・取りあえず、なくした場所まで行こう。その道中で説明する」

 

「了解ですっ。・・・ちなみに、後で報酬を頂きますよ?」

 

「ちゃっかりしてるな。何が欲しいんだ? ある程度のものなら買ってやれるが」

 

「あははっ、ギル様ったら冗談がお好きですね。私の欲しいものなんて、決まってるじゃないですかー」

 

あははー、と本当に面白く感じているような笑いをする壱与に、思わず聞き返す。

 

「あん?」

 

「新しい鞭を手に入れてきましたので、今日の夜にでも引っ叩いて貰えれば、それで・・・あ、その後はもちろんそこに塩でも唐辛子でも塗りこんでいただければ・・・」

 

「・・・ああ、うん、お金じゃどうにもならないね」

 

むしろお金を払ってどうにかなるのならいくらでも払う所存である。

変態な王女、プライスレス。

 

「そ、それでですね、その後はそんな私を椅子にしていただいて・・・きゃっ」

 

「で、この辺りでなくしたんだけど、何か手がかりとか見つけられるのか?」

 

「・・・ギル様、スルースキル上がりましたねぇ。・・・この辺りでなくしたんですよね。じゃあ、ちょっとここで覗いてっと」

 

そう言って、壱与は銅鏡を覗き込む。

魔力が集中しているので、きっと言葉通り過去を写しているのだろう。

 

「ふむ、小娘が持っていったようですね」

 

「小娘・・・璃々か」

 

前のままごとのときに璃々をそんな風に呼んでいた記憶がある。

・・・というか、未来だけじゃなく過去も見れるんだね、君。

 

「私には未来視しか出来ませんよ?」

 

「は? でも確かに今、璃々が持っていったのみたんだろ?」

 

「はい」

 

? さらに頭が混乱してくる。

 

「・・・えーと、説明が難しいかも。ほら、未来をずーっと、ずーっとみていくとするじゃないですか」

 

「ああ」

 

こくり、と頷く。

 

「すると、最終的には未来の終わり・・・この先には何にも無いよって言う『終わり』まで行くんですよ」

 

「ふむ」

 

気の遠くなるような話だが、きっとそういうものはあるんだろう。

 

「それでもさらに未来を見ようとすると、時間をぐるっと一周して、未来が始まる、この先から終わりまで行くんだよー、っていう『始まり』が見えるわけですよ」

 

「あー、つまり、円みたいなものか?」

 

ぐるっと一周すると、スタート地点に戻ってくる、みたいな?

俺のその考え方であっているらしく、壱与ははい、と頷く。

 

「だから、そこからずーっと見て行けば、実質的な過去視になるわけですねっ」

 

「なるほどなー」

 

頷いてみたものの、凄まじい理論である。

未来をずっと見ていけば過去を見れる。お前、天国でも行くつもりなの?

世界を一巡する考え方と同じである。平行世界もいけるようだし、こいつ、大統領と神父を兼任しているようだ。

 

「・・・まぁいいや。取りあえず、璃々が何処いったかは分かるな?」

 

「ええ。持っている人間さえ分かれば、後は私の追跡魔術で・・・」

 

ぽぽんっ、と軽い音を立てて鶴の形に折られた折り紙が出てくる。

何かあの小娘の持ち物とかはありませんか、と問われ、そういえば前に着せたメイド服がまだ入っているなと思い出す。

それを取り出して渡すと、鶴の折り紙がつんつんと服をつつく。

すると、だんだんと真っ白だった紙の色が紫色に染まっていく。

 

「うん、これでよし。さ、小娘はどっち?」

 

ゆっくりと壱与の手から飛び立った折り紙は、ぱたぱたと可愛らしい羽音を立てながらゆっくり進んでいく。

 

「へえ、これで追跡できるんだ」

 

「・・・ええと、ギル様、ちなみにこれ、一つだけ問題点があるのですよ」

 

「ん? なんだそれ。魔力を大量に使うとか?」

 

「あ、いえ、そういうことは無いです。むしろ、私の使う魔術の中で一番消費が低いです」

 

省魔力化と術式の単純化に力を注いだんですから、と胸を張る壱与に、ならば何が問題なんだ? と聞く。

 

「・・・速度が、遅いんです」

 

「あー・・・」

 

確かに、目の前を飛ぶ折り紙は、こうして会話していたにもかかわらず、最初の位置から十センチも進んでいなかった。

全く壱与は悪くないけど、なんだか納得いかないのでわき腹を抓っておいた。

 

・・・

 

「見つからんな・・・誰かが拾ったと考えたほうがよさそうだ」

 

一旦集合するべきか、と立ち止まって思案する冥琳。

だが、今から集合するには時間も掛かるだろうし、何より効率的ではない。

三手に分かれてそれぞれ別に探している今のほうが、まだ見つかる可能性は高いだろう。

それに、自分以外の二人も独自に何かを考えて動いているに違いない。ならば、自分はこのまま探す作業を続けよう。

わずかな間でそう結論を出した冥琳は、兎に角行っていないところをしらみつぶしに探そう、と再び歩き始める。

 

「はわっ」

 

「む」

 

通路の角を曲がったところで、とんっ、と何かにぶつかった。

 

「いたた・・・」

 

「すまない、少し考え事をしていてな。立てるか?」

 

そう言いながら、冥琳は目の前の少女・・・朱里に手を伸ばす。

 

「はわわ、こちらこそぼーっとしてて・・・どもです」

 

朱里はその手を取って立ち上がる。

軽く服に付いた汚れを叩いて取ると、いつもと様子の違う冥琳に気付いたのか、首を傾げる。

 

「どうか、なさったんですか? なにか焦っているようですが・・・」

 

「ん、む、まぁ、少しな。・・・人手は多いほうがいいか。実はな・・・」

 

冥琳は朱里に事の顛末を説明する。

ギルの宝物庫から魔道具が無くなったようだ、の辺りですでに顔が引きつり始めていた朱里は、話をすべて聞き終わる前に結論に至った。

 

「・・・つまり、何でも合成しちゃうような魔道具が今この城内に放たれた、と・・・」

 

「端的に言うとそうなるな」

 

「急いで探し出しましょう。兵士さん・・・は、あまり使わないほうがいいでしょうね」

 

「そうだな。魔術のことを知らない兵士たちを使って騒ぎが大きくなってはいけないだろうし、何より巻き込まれたとき安全を保障できん」

 

「私は蜀のみんなに声を掛けて回ります。冥琳さんは呉の方に声掛けを。お互い余裕があれば、魏の方にも協力を求めましょう」

 

「了解した。それでは、私は呉の屋敷に向かう」

 

「私はこのまま雛里ちゃんと合流してきます」

 

お互いに頷きあった二人は、たたた、と小走りでその場を後にする。

金色の将の無茶苦茶ぶりが良く分かる反応である。

 

・・・

 

「うぅむ・・・ここにも居ないか」

 

「ギルおにーちゃん、どこにいるんだろーね?」

 

「そうだな。・・・あれほど目立つのに、不思議なこともあるものだ」

 

訓練場まで足を運んだ二人が見たのは、何時も通りの訓練風景。

ギルの姿どころか、遊撃隊すら居ないようだ。これでは、切り札の一つに数えていた副長が使えない。

 

「・・・むぅ、後は町くらいしか思いつかないが・・・この壷を持って町に出るのはいけないような・・・」

 

「?」

 

「・・・仕方が無いか。璃々、すまないが私はこれから街に出てギル殿を探してくる」

 

「えー? 璃々もいっしょにいくー!」

 

「本当はそうしたいのだが・・・町にこの壷を持っていくと、きっと壮大な事件が起こる。私の本能がそう言っているのだ」

 

馬鹿にするものではないのだぞ? と璃々に笑いかける星。

 

「だから、璃々にはこの東屋で壷の番をしていて欲しいのだ。これは璃々にしか頼めない仕事なのだが、受けてくれるか?」

 

「おしごと!? うんっ、璃々、できるよっ」

 

よし、乗った、と星が心の中だけでガッツポーズを取る。

子供を大人扱いして乗せるくらい、星には朝飯前なのだ。

これで、後で凛辺りを呼んで璃々と一緒に居てもらえば壷は安全だろう。

なんといっても凛だ。常識人を上げろといわれて一番最初に思い浮かぶ人物なのだから。

 

「よし、ではそこの東屋で待機していてくれ。私はギル殿を探しに行って来る」

 

そう言って、星は駆け出す。

凛を探し出し、頼みごとをして町へと出てギルを探す。

あまり時間をかけていいことは無いだろう。急いだほうが良い。

 

・・・

 

「ふんふーん」

 

「あっ、璃々なのだー!」

 

「ふぇ? 鈴々おねーちゃんだー!」

 

壷を卓の上に置いて嬉しそうに見つめていた璃々に声を掛けてきたのは、訓練帰りらしい鈴々だった。

丈八蛇矛を立てかけ、すとんと璃々の対面に座る。

お互いの間には、顔つきの怪しい壷が鎮座している。とても奇妙な絵面である。

 

「これはなんなのだー?」

 

「つぼー!」

 

「壷かー!」

 

何を理解しているのか、二人はニコニコと笑っている。

 

「何か入ってるのかー?」

 

「? 良くわかんないけど、お茶のどうぐがはいってるよ!」

 

「お茶かー。少し喉が渇いたから、飲みたいのだー!」

 

そう言って、鈴々はごそごそと壷を漁る。

 

「? これは何なのだー?」

 

首を傾げながら引き出した手には、一人の人間が握られていた。

手に握られた人間は、壷から全身が出ると同時に閉じていた目を開いた。

 

「・・・何か、御用かの」

 

「誰なのだー?」

 

「つぼのなかにはいってたのー?」

 

「妾の名前は風美と申すのじゃ。気軽に風美ちゃん、と呼んで構わんのじゃ」

 

「かざみお姉ちゃん!」

 

風美と名乗った少女は、きれいなウェーブがかった金髪を左右二房くるりとドリルのように巻いている。

服装は何故か上下で色が違い、上が黄色のノースリーブ、下が青いミニスカートだった。

 

「風美っていうのかー。お城では見たことなかったけど、お兄ちゃんの友達なのかー?」

 

「ふむぅ、お友達・・・といいますかー、もっと親しい仲というかのー・・・」

 

顎に手を当てて考え込む風美の口調は何故か安定しない。

奇妙なまでに間延びした言葉と、微妙に上から目線の言葉が混ざっているようだ。

 

「さて、取りあえず妾は少し散歩してくるのじゃ。それでは~」

 

「うんっ、ばいばーい!」

 

「ばいばいなのだー!」

 

去っていく風美を手を振って見送った二人。

鈴々は再び壷に視線を移し、椅子の上に立って中を覗き込む。

 

「他にも人が入ってたりするのかー?」

 

おーい、と声を掛けながら鈴々は壷の中に頭が入るくらいに深く覗き込み始めた。

璃々はきょとんとしながらそれをみているだけだ。

 

「他には居ないみたいなのだー・・・んにゃっ!?」

 

あまりにも深く覗き込みすぎたのか、壷へと身体を傾け続けていた鈴々は足を滑らせて壷の中へ落ちてしまった。

一部始終を見ていた璃々は慌てて立ち上がり、壷を覗き込む。

 

「り、鈴々おねーちゃん!? だいじょーぶ!?」

 

黒い空間に浮かぶ鈴々を見つけた璃々は両手で引き出そうとするが、非力な璃々では鈴々を引き上げる筋力が無かった。

んー! と気合を入れるものの、引き上げることは出来ない。

それどころか、鈴々に引きずられるように璃々も壷の中へと落ちてしまった。

 

「わっ・・・」

 

ぽんっ、と二人を吸い込んだ壷は、その衝撃でカタカタと卓上で揺れた後、先ほどと同じようにぴたりと鎮座する。

 

「そういえば忘れておったのじゃ。お二人は・・・んー?」

 

そこへ、小走りで戻ってきた風美。

人影が無くなり、壷のみになった東屋を見て首をかしげ

 

「なんじゃ、二人して忘れ物かの。仕方ないので、妾が持っていってあげましょうかの~」

 

壷を手に取り、再び走り去っていった。

 

・・・

 

「? お前、だれ?」

 

「風美と申します~」

 

訓練場で身体を動かしていた恋が視線に気付き誰何する。

風美は眠たそうに欠伸を噛み殺しながら答える。

 

「・・・知らない。誰かの知り合い?」

 

「えーと、ギル様の知り合いといいますか~」

 

「? ギルの知り合い? ・・・いつから?」

 

「妾が主様と出会ったのは三国統一の後じゃの」

 

「・・・美羽?」

 

口調に疑問を感じたのか、恋はかなり確信に迫った疑問を口にする。

が、風美は首を横に振って否定する。

 

「妾は風美じゃよ?」

 

「・・・美羽と風の感じがする。ふしぎ」

 

軍神五兵(ゴッドフォース)を肩に乗せながら、恋は首を傾げる。

外見が違う上に、本人に違うと否定されたからか、恋は先ほどまでの疑問を気のせいだと片付けたらしい。

美羽と風の感じがするどころか、上下の服装がそのまま本人なのだが、天然属性持ちの恋はそれに気付かないようだ。

 

・・・

 

「これは・・・軍神五兵(ゴッドフォース)? 恋がこれを置いていくとは思えないが・・・」

 

無人の訓練場で、転がっている宝具を拾う。

辺りを見回してみるが、恋の姿は無い。

 

「ギル様、獣娘はここで壷に捕らわれたようですね」

 

「本当か?」

 

鏡を見て報告してくる壱与を振り返ると、コクコクと頷いている。

 

「壷は何処いった?」

 

「・・・金髪の女が持ってったようですね。これ、そいつの姿です」

 

そう言って壱与に見せられた鏡には、風と美羽を足して2で割ったような少女が移っていた。

・・・というか、この少女自身、きっと壷で合成されたのだろう。

服装がどうみても風と美羽だ。

 

「風と美羽が何故か合成されたみたいだな」

 

「あら、やはりこれは居眠りと蜂蜜が混ざったものなんですね」

 

・・・ふと思ったのだが、何で邪馬台国の二人は真名を教えてもらってるにも関わらず特徴のようなもので呼ぶのだろうか。

今のように、美羽は蜂蜜、風は居眠り。恋は獣娘、と言った感じだ。

まぁ、中には璃々の小娘、のようにただの悪口だろそれ、というのもあるが。

 

「で、どうします?」

 

「どうするって・・・取りあえずその娘を追うしかないだろ」

 

「ギル様以外の匂いを追跡するとか本当は吐き気を催すほど嫌なんですけど・・・仕方ないですよね」

 

すたすたと訓練場から出て行く壱与。

今のところ、壱与に頼るしかない俺はその後を大人しくついていくことにする。

 

・・・

 

「えいっ」

 

ぽん、と壷が人を捕らえていく。

二人揃えば振って新たに捕らえ、また二人揃えば再び振って捕らえる。

風美は淡々とその作業を繰り返していた。

何故そんなことをしているのかは分からない。

何故か、この壷に物を入れて振らなければならないという思いに突き動かされていた。

 

「ふりふりっ」

 

両手で掴んで壷を振ると、壷が光る。

中に入っていたものが合成され、二つが一つに、二人が一人になる。

 

「・・・よいしょっと」

 

合成済みの人間はこれで五人になる。

ということは、最低でも十人が巻き込まれていることになる。

 

「次は誰にしようかの」

 

眠たそうに半分だけ開いた瞳をきょろきょろと動かしながら、次の目標を定める風美。

 

「いたっ」

 

「む? ・・・おお、主様ではありませんか~」

 

依然として曖昧な口調のまま声の主に答えを返す風美。

 

「風? 美羽? どっちだ?」

 

「妾は風美と申します~」

 

「・・・ああ、『風』と『美』羽か。なるほど」

 

「? どうかしたかの?」

 

「口調も混ざってるのか。わやわやというかなんというか・・・」

 

「で、どうします? ギル様。分ける宝具とかあるんですか?」

 

隣に立つ壱与の言葉に、うぅん、と考え込むギル。

目の前の風美はこちらをじっと見たまま動かない。

先ほど鏡でみたとおり、上半身は美羽、下半身は風の服を着ている。

 

「あるにはあるけど・・・上手く分けられるかな」

 

「そんなお菓子分けるんじゃないんですから・・・あ、私も二分割できたりするんですか?」

 

「出来ると思うけど・・・小さい壱与が二人出来るだけだぞ?」

 

言いながら、俺の頭の中ではすでに小さな壱与が二人、やけに高い声できゃーきゃー騒ぎながらぐるぐる走り回っている姿が浮かんでいた。

・・・少し、可愛いかもしれない。

 

「なんと甘美な! 小さな私を犬のように扱うギル様・・・あ、想像しただけで下着が・・・。ちょっと着替えてきますね」

 

「は? おいちょっと・・・マジでハケるのかよ!?」

 

すたたっ、と厠へと駆けていく壱与。

えー・・・?

 

「主様も苦労してるんですねぇ~」

 

美羽の呼び方で風の喋り方をされると凄く戸惑う。

 

「・・・さて、これが念壷だな」

 

風美が抱えている壷を受け取り覗き込んでみる。

・・・あーあ、五人ほど人影が見えるぞ・・・?

どうしようか、と思った一瞬の隙を突いて、風美が壷の中に手を突っ込む。

 

「引っ張り出すのじゃ! ぽぽぽぽーん!」

 

「あ、ちょ、色々危ない!」

 

台詞も行動もどっちも危ないぞ!?

って、そんな場合じゃない! 合成された五人が・・・!

 

「さわらないでよ! ギルお兄ちゃんのこどもをにんしんしたらどうするの!」

 

「あ、あわわ・・・わらわ、何か髪の毛が大変なことになってるんだけど・・・!?」

 

「何が起こって・・・な、何ですかこの野太刀!? か、髪の毛も伸びてる!? わわっ、メガネ!?」

 

「あらあら、髪の毛が桃色に・・・服装も変わってしまっているわね?」

 

・・・分かりにくいだろうから説明するが、璃々と桂花、雛里と卑弥呼、明命と亞莎、桃香と紫苑の合成である。

そして、最後の一人。

とてつもない存在感を放つその人物は・・・。

 

「・・・」

 

さ、最悪だ・・・。

恋と愛紗、春蘭と星、雪蓮とシャオ、霞と翠のそれぞれの合成体が、さらに四人合成で合成され・・・。

 

「・・・ギル、軍神五兵(それ)返して」

 

さらに、宝具も使えるらしい最強武将が完成していた。

・・・何、この「ぼくのかんがえたさいきょうのさんごくぶしょう」みたいなの。

基本は恋っぽい。口調も、宝具が使えるところもそれっぽい。

だが、ところどころに他の武将の特徴も見える。

燃えるような赤髪は長いポニーテールになっており、煌く髪飾りで装飾されている。

上半身には陣羽織を羽織り、中には桃色のリボンが特徴的なヘソ出しルック。

下半身は白色のミニスカートに腰に巻かれたボロボロの布。

足元は厚底の雪駄・・・のようなもの。星のあれは何なんだろうか。下駄・・・じゃないよな?

まぁいいや。取りあえず、そんな感じのごった煮武将が目の前に立っていた。

 

「いや、断る」

 

今の彼女にこれを渡せば、きっと戦闘が始まる。コーラを飲んだらゲップが出るというくらい確実に!

だから俺は手に持っていた軍神五兵(ゴッドフォース)を宝物庫に収納した。

このまま持っていては、きっとあのごった煮武将に強奪されるだろうからな。

 

「ちからずくでもうばいとる」

 

そう言って、ごった煮・・・もう面倒なので恋と呼ぶ・・・は七星餓狼と青龍偃月刀を構える。

・・・え、それも使えるの? いや、当然か。混ざってるんだし。

仕方が無い、と宝物庫を開く。

 

「天の鎖よ!」

 

三百六十度、四方八方から天の鎖(エルキドゥ)が恋へと迫る。

驚異的な反射速度で対応した恋だが、両手で反応できる数には限りがある。

雁字搦めに拘束された恋は、ぎぎぎ、と天の鎖(エルキドゥ)から抜け出そうと抵抗する。

・・・ちょっと興奮したのは内緒である。

 

「さてと、これでじっくりやれるな」

 

すらり、と宝物庫から一つの剣を抜く。

これは斬ったものを二つに分ける宝具だ。

正確に言えば、斬ったものの内包する属性を分ける宝具なのだが、まぁ大体は合っているので問題ないだろう。

 

「・・・動け、ない。・・・そんなもの、千切ればよかろうなのだ・・・っ!」

 

おお、後半春蘭出てきたな。

はっはっは、確かにその鎖は神性が無いものにとっては少し頑丈な鎖!

しかし! 少し頑丈なだけでもそれは宝具! 神秘を持たない君たちでは・・・

 

「ふんっ・・・!」

 

ばぎん、と鎖が砕ける音がする。

どうやら、恋・・・いや、春蘭がぶち破ったらしい。

・・・あれー?

あ、そっか、春蘭さん、気合でビームソード作れるような人だもんね。仕方ないね。

 

「って、放心してる場合じゃないな!」

 

俺の隙を突いた七星餓狼の一撃を宝物庫から取り出した宝剣で防ぐ。

春蘭が混ざってるってことは、気合で神秘のこもった攻撃を放てるということだ。

となると、俺にダメージを与えられることになる。・・・やばいな。

 

「ほらほらぁっ、避けないと痛いわよ!」

 

バトルになったからか、雪蓮の人格も出てきてるみたいだ。

八人分の人格が中に入っているから、思考も八分割出来てるのか?

そんなことを思うほど、彼女の動きは常人離れしていた。

いや、元から常人離れしてるけどさ。

 

「くっ、せいっ!」

 

手に持った宝剣で猛攻をしのぐ。

偃月刀が俺をその場に釘付けにするように振るわれ、その隙間を突くように七星餓狼が俺を襲う。

同時に八人を・・・いや、それ以上を相手にしているかのような・・・!

 

「開け、宝物庫!」

 

牽制で宝具を打ち込み、距離を取る。

 

「へへっ、ギルと戦うのは久しぶりだからな・・・燃えるぜ」

 

翠・・・か?

ああもう、シャッフルされすぎだろ!

こいつらとまともに戦っても仕方が無い!

俺の土俵に持ち込む!

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

距離を取ったまま、宝物庫の扉を開く。

大量に射出し、恋の視線を上空に向けさせる。

そこへ・・・

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「っ!」

 

上空から降る宝具に対応しようとした恋が足元に絡む鎖に驚く。

だが、彼女は足に鎖が巻きついたまま、恋は上空の宝具をにらみつける。

先にそちらから対処することにしたらしい。

 

「ふ、しっ!」

 

鋭い息の後、両手に握られた偃月刀と大剣が振るわれる。

偃月刀を円を描くように振るい、残りを七星餓狼が払う。

気でコーティングしているのか、宝具と打ち合っても彼女たちの武器に損耗は見られない。

だけど、宝具を払えるだけだ。宝物庫の物量に、「個人」は耐えられない。

何十にも絡まる鎖がようやく彼女の動きを止めた。

 

「ふぅ、一件落着」

 

少し焦ることもあったが、訓練とは違い宝物庫を十全に使える状態の俺にあんまり敵は居ない!

 

・・・




「明朗快活無敵戦闘ロボ! 雷もビームもミサイルもつかんで投げ返す! ネガティブワードもフリフリでポジティブワードに! ついでに博士も投げ飛ばせ!」「・・・ろぼっと、って言うんだっけ? わらわたちみたいな魔法使いも常識から外れてると思うけど、ろぼっとって言うのも相当イッちゃってるわよねぇ。あいつら未来に生きてるわぁ・・・」「まぁ、実際ロボットなんて未来の産物だからな」


誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。