真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

36 / 86
「肝試しかぁ。俺はお化け屋敷とかでそういうの、慣れてるからなぁ」「ああ、一刀はそうだよな。・・・じゃあ、俺が一つ、怖くなる話でもしてみようか」「お、いいね。俺が怖がってしてしばらくトイレに行けなさそうなの頼むな」「その要望に応えられるかは分からないが、取り合えず話してみるか」「おう、ばっちこい!」「副長って、男なんだよね」「・・・え?」


それでは、どうぞ。


第三十五話 夏の終わりの肝試しに

夏ももう終わる。

まぁ祭りもやって浴衣姿を見たし水遊びもして水着も見たし、夏の行事はコンプリートした、と思っていたのだが・・・。

一つ、やってないことを思い出した。

城下町の人たちに協力してもらい、町の一角を貸しきる。

そして、ランサーやライダー、アサシンといったサーヴァントにも協力を要請。

どちらも二つ返事で了承してくれたので、後は参加者を募るだけである。

 

「よっと。こんなもんでいいかな」

 

高札を中庭や町の目立つ場所に立てて、参加を待つ。

・・・さて、準備はこれくらいでいいだろう。

俺はどうするかな。月でも誘って参加してみようか。

いや、うん、それだと他の娘も誘わないと駄目だよな。

俺だけ何週かすることになりそうだ・・・。

 

・・・

 

「肝試し?」

 

「そうそう。題して、「三国合同肝試し大会」って感じかな」

 

「おー、面白そうだな」

 

受付、と書かれている場所で座りながら、最初の参加者候補である一刀と話をしていた。

そういややってねえなと気付いたのが昨日の朝。

それから一日で全ての準備を終わらせた俺の手腕、ちょっと褒めてもいいんじゃないかな?

 

「最大同時参加人数は四人。友達恋人家族などなどお誘い合わせの上どうぞ」

 

ちなみに開催時刻は日が暮れてから銅鑼で知らせることになっている。

一応ぎりぎりまで参加申し込みは受け付けているので、奮ってご参加くださいというわけだ。

 

「ま、参加募集してから一時間も経ってないから一刀が最初の参加者だぜ」

 

「へえ。・・・そーだな、真桜達でも誘ってみるかな。ええと、これに書けばいいのか?」

 

「おう。・・・はいオッケー。これ、整理券な」

 

一番目の整理券を一刀に渡す。

すると、一刀は整理券に描いてある絵を見て声を上げた。

 

「お、結構凝ってるな。幽霊の絵とか、結構怖いぞ」

 

「ちなみにそれ書いたの副長と壱与な」

 

二人して怪しい笑みを浮かべてガリガリ描いてたぞ。

 

「そ、想像出来ない・・・」

 

「なんか通じるものがあるんだろうな。二人して競い合うように描いてたぞ」

 

結局二人とも同じ数だけ描いて力尽きてたけど。

アレは何だったんだろうか。

 

「ギルは誰か誘うのか?」

 

「月とかかな。・・・まぁ多分、他のみんなとも回るから、何週もするんだろうけど」

 

「ああ・・・ええと、ご愁傷様?」

 

「まぁ、別に嫌なことじゃないしな。目一杯楽しむとするさ」

 

町の一角といっても結構広めに借りて、いくつか違うコースを作ったりしたからな。

参加者がたくさんいてくれれば良いんだが。

 

「よっしゃ、俺も夜まで暇だし、手伝うよ」

 

「助かるよ。いやー、正直一人で受付って言うのもつまらなくてな。最初副長でもと思ったんだが、七乃と一緒に訓練だったからさ」

 

「あー・・・。そういえばギルってなんかあると副長呼ぶよな」

 

「はは。あいつは何だかんだいって付き合い良いからな。それに、いっつも扱いてるからか気兼ねなく頼めるし」

 

他のみんなは仕事あるからな。

一瞬甲賀でも連れてこようかと思ったけど、やめておいた。

忘れてたけど、ランサーと一緒に設営と仕掛け担当やってたからな。

さて、何人くらい来るだろうか?

 

・・・

 

ざわ・・・ざわ・・・。

受付の俺の前には、とてつもなく長い列が出来ていた。

 

「あー、まだまだ受付時間には余裕がありますので、急がなくても大丈夫でーす! きちんと整列して、順番を待ってくださーい!」

 

声をかけて参加希望者達を整列させている副長の声をBGMに、俺と一刀は整理券に記入をして参加者達に配っている。

これは予想外だ。町の人たちもこんなにノリノリだとは思わなかった。

何日かに分ける必要もあるだろうか。

・・・いや、そんなことしたらネタバレとかであんまり怖くなくなってしまうかもしれないな。

ちょっと無理矢理でも、一日で終わらせるべきだな。幸い、コースはいくつかあるから、何組かいっぺんに処理出来そうだし。

 

「はい、これ整理券。順番近くなったら番号呼ぶから、そしたらここまで戻ってきてくれ」

 

「分かりました! いこっ!」

 

「わわ、待てって」

 

何組目か数えるのも億劫になったカップル達が去っていく。

はんっ! 良いもんね。俺も月たちと回るもんね!

 

「ばーか!」

 

「なにいきなり罵倒してんの!?」

 

「はーい、次の方どうぞー」

 

「何で無視すんの!? あ、おっと、こっちも次の人どうぞー!」

 

「きちんと並んで・・・あーもー! 何でそこの人たちは列をぐにっと乱すのですか! 六回目ですよ注意するの!」

 

整理券に必要事項を記入しながら副長を盗み見ると、ぷんすかしながらある集団に指を刺しているところだった。

いるよなー、意識してるのかしてないのか、並んでるうちに列乱しちゃう人とかさ。

 

「まったく、これで大分綺麗に・・・はい? 私と肝試しですか? ごめんなさい、そういうのはやってないんですよ」

 

お、ナンパされてるぞ副長。

パッと見は美少女だし、外面だけは良いからな、あいつ。

そんな失礼なことを思いながら見ていると、ナンパしている男達は結構しつこいようだ。

副長がはっきりと断っても引かないらしい。あ、イライラしてきてるぞあいつ。

 

「だから私は行かないって・・・あーしつこい。出番ですよー」

 

そういって副長が指を鳴らすと、どこからとも無く狼男やらドラキュラやらがやってきて、男達を連れ去って行った。

 

「ちょっと早めに肝試しです。・・・まぁ、肝を食べられちゃうかもしれませんが。生きては帰してくれるでしょう。・・・ですよね?」

 

「こっちに聞くな。ライダーに聞いてくれ」

 

ちなみにアレは仮装でもなんでもなく、単純にライダーから出てきた魑魅魍魎たちである。

英霊としてはランクが低いといっても、人間にとっては一体一体が一つの村なら簡単に滅ぼせるレベルである。

更に雰囲気作りにも役立つとなったら、使わない手は無いだろう。

 

「はーい、皆さんもああなりたくなかったら、きちんと並んできちんと整理券を貰いましょうねー」

 

綺麗に並んでいた列が、更にピシッとしたように見える。

 

「おー・・・ここまで綺麗に並んだら、私サボってもいいですよね。・・・なーらぼっと」

 

「おい副長」

 

「や、やだなー、隊長。冗談ですよ冗談。ちゃんとやりますって」

 

「いや、そうじゃなくて。いいぞ、並んでても。これだけ綺麗に並んでたらもう大丈夫だから」

 

それに、捌きに捌いて何とか終わりが見えてきたしな。

 

「なっ、なんと! 隊長からそんな優しい言葉が出てくるなんて・・・!」

 

「たまにはなー」

 

「・・・あの、もしかして私若干見限られ始めてます?」

 

「どうだろうな。副長の感じるままにどうぞ」

 

「すいませんっしたー!」

 

「はは。土下座なんてしなくていいのに」

 

「・・・だったら頭をぐりぐり踏むのをやめてやれよ・・・そっちのほうがホラーだよ」

 

ええ?

だって俺の足元でわざわざ土下座するんだもの。

やって欲しいのかと思うじゃん。

 

「これからちゃんと隊長の言うこととか聞いていくんで! 二割ぐらい!」

 

「お、前までは暴力に訴えない限り一割だったのに。進歩したなぁ」

 

「・・・ギルと副長って、すげえ相性いいよな」

 

そりゃそうだろ。

俺の部隊の副長だぞ? 俺と相性良くなかったら任せられないだろ。

 

「あ、じゃあ副長、これ付けておいてな」

 

「はい?」

 

・・・

 

肝試しの受付を別の人間に任せて、俺は肝試し一週目へと向かう。

最初のメンバーは、壱与、副長、桂花の三人とである。

・・・え? 何で桂花がいるのかって?

そりゃあ、一刀に頼まれたからに決まってるだろう。「華琳と二人っきりで回ってみたいから、桂花を何とかしてくれ」とな。

そこまで真摯に頼まれては俺も答えないわけには行かないだろう。

幸い一緒に回るのは邪馬台国一の変態、次期女王の壱与である。

彼女ならばなんだかんだで自分のペースに持っていくので、何とかなるだろう。

後の細かいフォローは副長に丸投げだ。

 

「・・・で、何なのよこれ」

 

「何なんですかねぇ。私は隊長に無理矢理やられたんですけど、じゅん・・・猫さんもそうなんですか?」

 

「あんた今私の頭巾見て言い直したわね!?」

 

「ギル様ギル様! もうちょっと強く引っ張ってくださいまし!」

 

「・・・えー」

 

「ドン引きなさってる! その蔑んだ瞳・・・カ・イ・カ・ン!」

 

「本当に、変態って無敵ですよねぇ」

 

「あんた、私達も十分変態の領域に足突っ込んでるって自覚しなさいよ」

 

会話の端々にある妙な違和感に気付いただろうか。

強く引っ張れ、だとか、変態の仲間入りだとか・・・。

その理由は、三人の首についてる首輪から伸びる紐だろう。

・・・いや、俺の趣味じゃねえよ。

罰ゲームなんだよこれ。・・・俺に対する、だけどな!

普通逆だろ! 何で罰ゲーム与える方が首輪付けられてるんだ。壱与は予想を裏切りすぎて怖い。

ちなみに桂花に付けてるのは途中で脱走しないようにという表向きの理由と、一人だけ仲間はずれじゃ可愛そうだろうという裏の理由がある。

副長は・・・アレだ。勢い。

 

「とても雑な扱いを受けているような・・・」

 

「これ以上に雑な扱いなんてあると思ってるの? ちょっとあんた!? さっさと終わらせてこれ取りなさいよ!」

 

「直接触れてないから妊娠はしないだろ?」

 

「この状況が嫌だって言ってるのよ! 華琳様からの命令じゃなかったらこんなこと・・・!」

 

「分かってる分かってる。こういうのも嫌いじゃないんだよな」

 

「あんた話し聞いてるの!?」

 

「九割聞き流してる」

 

「く、うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・! あんたねぇ・・・!」

 

おお、桂花が噴火寸前である。

だがまぁ、俺にとって桂花にこんな仕返しが出来るのは嬉しい限りなので、一刀と華琳には感謝してたりする。

 

「私は嫌いじゃないどころか大好物です! ご飯十杯くらいいけます!」

 

「はいはい」

 

「暗くなってきて良い雰囲気ですね・・・ちょっとここで四つんばいになるのでギル様のお尻で私を圧迫してくださらないでしょうか! 圧迫祭りです!」

 

「うわぁ・・・」

 

「あ、ギル様以外の蔑みの視線は拒否でお願いしますー。鈍器ブチコミますよ?」

 

「ちょっと隊長。何ですかこの人。・・・人?」

 

「そこは確定してるから大丈夫だ。安心して良い」

 

「じゃあ何なんですかこの人。頭フットーしちゃってるんですか?」

 

「分かります! えきべ」

 

「はいはい先に進もうなー!」

 

すでに四つんばいになっている壱与を強引に動かすために、ちょっと強めに紐を引っ張る。

恍惚の笑顔を浮かべて引き摺られているので、これはこれでいいのだろう。

 

「さて、このコースは・・・最後にあるお札を取ってくればいいみたいだな」

 

「お札・・・というか、町を大改造しすぎじゃないですか? 本当に廃墟みたいになってますよ・・・?」

 

「一日で出来そうな雰囲気作りって行ったら廃墟くらいしか思いつかなくてな。適当にぶっ壊してもらった。ちゃんと補償はすることになってるから、安心していいぞ」

 

「ほえー・・・」

 

感心したように副長が周りを見回していると、死角からライダーの連れてきた怪物が一体飛び出してきた。

 

「がおー!」

 

「わわっ! 悪霊!?」

 

そういって、突然飛び出してきた怪物に退魔の剣を振るう副長。

怪物は胴体を袈裟切りにされ、短い悲鳴を上げる。

傷に対してダメージがつりあってないように見えるのは、退魔の剣の効果だろう。

 

「ぎゃっ」

 

「え・・・? あ、そっか、悪霊とかそういうのに効果抜群なんだっけ」

 

「狼男ー!?」

 

これ結構ざっくりいってるんだけど!

 

「大丈夫か! 傷は深いぞ!」

 

「何で追い討ちかけてるのよ!?」

 

桂花の突っ込みで我に返った。

危ない危ない。混乱してたようだ。

 

「と、とにかく、ライダーの下へ戻ったほうがいいな。応急処置はしておくから」

 

狼男はコクコクと頷き、闇の中へと消えていった。

 

「・・・副長」

 

「は、はひっ!」

 

「返事はきちんと!」

 

「はいっ!」

 

「明日も、首輪な」

 

「さっ、さー! いえっさー! 喜んで!」

 

「なんと! やっぱり副長さんはお仲間・・・」

 

「黙っててください壱与さん! 今私凄い勢いで命の危機なんです!」

 

後に副長は、「あの目は完全に養豚場のブタでも見るかのように冷たい目でした。残酷な目なんです。『かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね』ってかんじの!」と語ったとか語らなかったとか。

 

・・・

 

三人と戻ってきて、妙な視線を受けつつ二週目へ向かう。

二週目のメンバーは天和たちしすたぁずの三人とだ。

 

「なんでお前らと回らなくちゃ・・・」

 

「いいじゃないの。ちぃ達と回れるなんて、大陸のファン達からすれば次の日死んでもいいくらいの幸せなのよ?」

 

「ねーねーギルー。きもだめしってどんなご飯なのー?」

 

「・・・きもだ飯じゃないぞ。肝試し。度胸試しみたいなもんだよ」

 

「えー! ご飯じゃないのー? ぶー」

 

この状況で何か飯を食いに行くと思えるのは凄いな。

髪の色といい三姉妹の長女であるところといい、ほわほわしているところといい、桃香そっくりである。

 

「・・・相変わらずネジ抜けてんなぁ」

 

「・・・」

 

「人和はこういうの怖くないのか?」

 

「別に? まぁ、暗くてちょっと不安にはなるけれど、別に怖くは・・・」

 

「首おいてけ! なあ、大将首だろう!? 首おいてけ!」

 

「きゃっ!?」

 

言葉の途中で武士のような妖怪が現れると、人和は可愛らしい悲鳴を上げた。

はっとした後、頬を朱に染めた人和ににやにや笑いながら声をかける。

 

「・・・別に、何だって?」

 

「知らないわ」

 

ふいっ、と顔を背けてしまった人和を見て、俺と地和はにやにや笑いを深める。

ビックリしただけだと分かっていてもこのにやにやはとまらない。

 

「お前の妹可愛いなぁ」

 

「でしょー? 自慢の妹なんだから」

 

最後まで恥ずかしそうにする人和を可愛がりながら、最後の祭壇にお供え物を置いて帰ってきた。

・・・そういえば、あの武士はライダーから出てきたものなのだろうか。

凄く和風だったんだが・・・。

 

・・・

 

三週目は孔雀と響と璃々だ。

璃々はいつもと違う町の空気が新鮮なのか、あたりをきょろきょろ見回して楽しそうだ。

 

「ふわぁ・・・ギルおにーちゃん、暗いね!」

 

「・・・ギルが暗い人みたいな言い方するね、この娘」

 

「まーまー。まだまだちっちゃいんだから仕方ないでしょー?」

 

「あー! あっちにおばあちゃんがいるー!」

 

きっとそれは魔女だろう。

本当の魔術師とか魔法使いというわけではなく、空想の魔女という存在を再現しただけなので、チンカラホイで火をつけられる程度のことしか出来ないらしいが。

 

「あーもう勝手に進んじゃ駄目だよー」

 

「はーい」

 

「なんか楽しそうだな」

 

「んー? そう見えるー? やー、ほら私、小さい子とかあやすの好きだしさ。・・・こ、子供育てるのも、多分大丈夫だよ?」

 

「何てことだ・・・やっぱり響は敵だったッ! こんなときにギルを誘惑するなんてッ」

 

二人してなんかテンション上げて楽しんでいるようなので、璃々の相手をする。

あっちに見えるのは妖精じゃないか? 確か、シルフって言ったっけか・・・。

 

「ノリノリだなぁ。・・・お、璃々、見てみろ。アレがシルフってやつだ」

 

「すごーい! ちっちゃーい!」

 

はしゃぐ璃々と別々に盛り上がる響と孔雀を連れて、暗闇の中を歩く。

結局そのまま二人は自分の世界から帰ってこなかったので、璃々と二人で仕掛けを動かし、そのまま戻ってきた。

 

・・・

 

「四周目! 気合入れていくぞ!」

 

「・・・お兄さん、一つ聞きたいんだけど・・・肝試しって気合入れていくものじゃないよね?」

 

「何を言ってるんだ桃香! 肝試しは気合入れていくものだ! 別に一周十分で終わらせないと間に合わないと気付いたから急いでいるわけでは決して無いぞ!」

 

「おにーちゃんが変なのだー」

 

「というか、最後の一言に全ての心境が含まれてますね。四人一組で確か後二周か三周残っていますからね」

 

そう! 愛紗の言うとおりだ!

しかも今回は将だけじゃなくて町の人たちも参加してるからな。

もう一度計算してみると、このままのペースで行くと夜が明ける。

明るいお化け屋敷がそんなに怖くないのと同じで、夜が明けた肝試しなんてただの廃墟ツアーである。

それはそれで趣があるが、今回は『肝試し』なのだ。

 

「ま、みんなの怖がるところがみたいから、要所要所でゆっくりになるけど」

 

「えぇっ!? あ、愛紗ちゃん! 今凄く不安な宣言をされた気がするよ!?」

 

「覚悟をするしかありませんね・・・」

 

「二人とも何してるのだー? 先行っちゃうのだー!」

 

二人がなにやら重大な決意をしているところで、俺は鈴々と手をつないで先に歩く。

すぐに二人が追いついてくると、桃香が慌てて口を開いた。

 

「わわっ、ま、まってよ鈴々ちゃんっ。いくらギルさんが何か企んでるからってギルさんの独り占めはずるいよっ」

 

「桃香様っ。桃香様も本音が漏れてますよっ!?」

 

「ほらほら行くぞー。まずはここだな。・・・気をつけろ! 上から来るぞ!」

 

「うそっ!? もうっ!?」

 

「うばぁぁぁぁ・・・」

 

「きゃあっ!? し、下からじゃないですかっ!」

 

下から這い出てきたゾンビに驚いて後ずさり、俺の腕に抱きつく愛紗。

・・・ナイスだぞ、ゾンビ。

 

「ひう・・・お、お兄さぁん」

 

なん・・・だと・・・?

左腕を間接ごと包み込む桃香! 右腕を間接ごと包み込む愛紗!

けっこう呑気してた俺もこれにはビビった!

そのまま両腕を柔らかいもので包まれながら、次のポイントへ。

 

「・・・この辺だな」

 

「? ここ、なんか見覚えが・・・」

 

疑問を浮かべた桃香が首をかしげるとほぼ同時に、舞台に光が灯る。

座布団を敷いて正座しているのは、少し顔色が悪く見えるように化粧した副長だった。

隣には演目があり、「怖い話」という文字が書かれている。

 

「これは私の体験した話なんですけどね・・・」

 

「ふぇ? ・・・あ、椅子がある」

 

「取り合えず座って話を聞こうか」

 

「・・・聞き終わらないと次に進めないようですね。分かりました」

 

「お話なのかー? つまんないのだー!」

 

そういって駄々をこねる鈴々を膝の上に乗せてあやしつつ、副長の話の続きを待つ。

 

「訓練のとき・・・あの時は雨が降っていましてね。汚れるからやだなぁと思いながら私は剣を振るっていたのです」

 

副長の話し方は暗闇で聞いているからか心なしか暗く感じる。

 

「ゴクリ・・・」

 

「訓練も佳境に差し掛かったとき・・・もう日は暮れていまして、月が出てたのを覚えています。何だか変な音が聞こえるんですよ。朝、雀が鳴いてるときみたいな音が。でも夜に雀ってあんまりいないじゃないですか」

 

「うにゅぅ・・・」

 

お、あの天真爛漫を絵に描いたような鈴々が怖がってるぞ。

腰に回した俺の手をぎゅっと握って副長の話にのめりこんでいるようだ。

こういう無邪気なところが可愛いんだよなぁ。

 

「だんだんその音は近くなっていって・・・やだなぁ、怖いなぁ、って思いながら剣を振るっていたんです。もし何かあっても退魔の剣はそういうものに抜群の効果を発揮しますからね」

 

「そ、そういうものってどういうもの・・・!?」

 

「それから数秒後でしょうか。ふっと音が途切れたので、ふと上を向いた時です。・・・なんと」

 

ここで副長は言葉を止めて、間を空けた。

その雰囲気に呑まれ、愛紗が唸り声を上げる。

 

「む、むぅ・・・」

 

「目の前にエアが迫っていたんですよ! 何ですかあれ! 馬鹿じゃないんですかたいちょー!」

 

「・・・ふぇ?」

 

一気に雰囲気の変わった副長に驚いたのか、桃香が呆気に取られた顔をした。

副長は自分の体を抱くように腕を回しながら、勢い良く言葉を続ける。

 

「あーもう! 思い出したら体震えてきた! 完全に心的外傷になってるじゃないですか!」

 

「な、何の話なのだ、副長殿」

 

「はい!? ・・・ああ、そうですよね。説明しないとわかんないですよね。アレですよ。隊長の宝物庫。アレの宝具の雨降らされてるとき、全部避けたり弾いたりしてたらいつの間にか隊長が目の前にいてエア振りかぶってたんですよ」

 

「・・・あーあー、やったやった」

 

お、副長今日は調子いいじゃないか。よーしエアで切りかかってやろう。

そう思って思い切ってやったんだった。

 

「やったやったじゃないですよ! 対界宝具人間にぶっ放すとか常人の思考じゃないです!」

 

「まぁたしかに・・・あの剣は世界を切り裂く剣だからな。気持ちは分からないでもないが・・・」

 

「い、一応・・・「怖い話」ではあったね・・・?」

 

「宝具の雨で汚れるって・・・」

 

「私の血で凄い汚れるんですよ! 掠り傷も積み重なったら凄いんですからね!?」

 

「・・・よーし、先行こうかー」

 

その後、微妙な空気になりつつも水晶の髑髏に目をはめ込んで帰ってきた。

あの話以降、鈴々がちょっと怖がりになっていたのには萌えた。

 

・・・

 

「五週目は・・・朱里と雛里、それに星か」

 

いっつも弄り弄られてる関係の三人だな。

 

「ふふふ・・・今回は私も怖がらせる側に回らせてもらいますかな」

 

「はわわっ。敵が増えちゃったよ雛里ちゃん!」

 

「あ、あわ・・・て、敵は・・・殲滅?」

 

「凄い怖いこと言い出すなこの娘」

 

少なくとも味方の将に放つ言葉じゃないぞそれ。

この発言だけで雛里が相当怖がっていることが分かる。

 

「じゃあ怖がらせる役の星は怖くないみたいだから、朱里と雛里、手つないでいこうか」

 

「はわっ! は、はい!」

 

「あわわ・・・嬉しいれふ! ・・・噛んじゃった」

 

「なんと! ・・・あ、お待ちくだされ! 先ほどのは冗談っ。冗談で・・・あ」

 

星の先を歩いていた俺達が笑いながら振り返ったのを見て星はからかわれていたことに気付いたらしい。

いつも飄々としている星からは想像出来ない表情を見せてくれたので満足である。

 

「いつものお返し、ですよ。星さん」

 

「流石は軍師殿たち、といったところですかな。ギル殿の思いをすぐに汲み取って反撃に応じるとは・・・」

 

「あわわ・・・恐縮です・・・」

 

若干悔しそうな顔をした星が雛里や朱里の頬を突きながらの道中は和みすぎて全然怖くなかったことをここに記しておく。

 

・・・

 

さぁラスト六週目!

月、詠、風の三人と回るコースは、一番怖いと噂の裏路地コースである。

監修ライダー、製作協力ランサー、仕掛け人アサシンというサーヴァントが無駄に力を入れた無駄の無い無駄な廃墟は注意書きとして「心臓の弱い方、小さいお子様はご遠慮ください」とまで書いてある。

 

「へぅ・・・」

 

空気ですでに怖がっている月は俺の手にしがみつくように寄り添ってきている。

怖がる→密着→ウェーイ! までがこのイベントの醍醐味である。

 

「うぅ・・・何なのよこの空気・・・。いつもの町の筈なのに空気まで違う気がするんだけど・・・?」

 

「英霊の皆さんがなにやら気合を入れておりましたから~、ちょっと興味はあったのですが~・・・。まさかここまでとは。驚きですねぇ」

 

全然驚いていないような声色で風が呟く。

ペロキャンもいつもどおり咥えてるし、目も眠たそうにとろんとまどろんでいる。

怖くないんだろうか。

 

「仕方ない。怖い話でもしながら進むか」

 

「何が仕方ないのよ! 完全に狙ってるじゃないの!」

 

「へうぅ・・・怖い話は、駄目ですぅ・・・!」

 

「凜ちゃんの鼻血がついに体重の三割以上になったことでもお話しますか~?」

 

それは「怖い」のベクトルが違うだろ。

・・・いやいや、何でそんなに鼻血出して無事なんだよ・・・。

 

「おや? あんなところに井戸がありますねぇ」

 

お、来た来た来ましたよ。

これが第一の関門「きっと来る」である。

 

「・・・なんか、うめき声聞こえない?」

 

「えっ、詠ちゃんっ。怖いこと言わないでぇ・・・!」

 

「これが・・・萌え!」

 

「お兄さんがいつもよりおかしくなってますね~」

 

皆さん予想の通り、井戸から這い出てくる白い女性。

そういえば以前の孔雀はあんな髪型だったそうだが、住み家は井戸だったりしたのだろうか。

 

「ちなみにあの女の人に追いつかれると呪い殺されるからな」

 

「ちょっ!? 言うの遅いわよ!?」

 

「大丈夫。ゆっくり歩いてくるだけだから。それにこのエリア抜けたら付いてこなくなるし」

 

そういいながら女性の方を向くと、なにやらクラウチングスタートの体勢になっていた。

 

「・・・ごめん、訂正するわ。全力疾走できるみたい」

 

「逃げたほうが良さそうですね~」

 

俺は駆け出した女性を視界に捕らえながら、詠を背負い、月と風を小脇に抱える。

 

「逃げるんだよォォォォーッ!」

 

・・・

 

「ハァ、ハァ・・・! ボクが走ったわけでもないのに疲れたわ・・・」

 

「エリア制限は生きてたか。良かった良かった」

 

見えない透明の壁に全身でぶつかってたからな、あの女の人。

顔が真っ赤になってたし鼻血も出てたから、しばらく再起不能だろう。

 

「で? このあたりは何が出るわけ?」

 

「何だったっけな。即死系じゃないはずなんだけど・・・」

 

「その言葉を聞くと、まるで即死系の仕掛けがあるような言い方ですが~?」

 

「あるよ?」

 

「あるの!?」

 

さっきのあれも、捕まったら即死だし。

・・・だからこそ即死しないような制限をかけているんだが・・・。

エリア制限以外外れてるのか?

 

「ま、俺がいれば即死はないだろ。最悪エアで仕掛けごと破壊するし」

 

「ほんと・・・あんたの乖離剣って反則よね・・・」

 

怖がる月を撫でて落ち着かせながら、このエリアの仕掛けを思い出す。

何だっけな。確かライダーの企画書には目を通してあるから分かるはずなんだが・・・。

 

「・・・ね、ねえ? なんか地面が盛り上がってるんだけど・・・」

 

「ああ、そうそう。ゾンビと一緒に踊ろうのコーナーだったな、ここ」

 

「踊るの!? あれと!?」

 

「こう、両手をこんな感じにあげて・・・バッバッと左右に振る! ・・・こんな感じで踊るんだ」

 

ここが第二の関門「月を歩く男」である。

最終的に現れる男と共に決め技をばっちり決められたらクリアとなるはず。

まぁ、ゾンビといってもキャスターが作ったホムンクルスなのでただ踊ることしか出来ないので安全である。

 

「・・・ま、取り合えずあそこの緊急用の取っ手引くと強制クリアになるからさっさと解除するとしよう」

 

「あっさりしてますね~」

 

まさかこんなおかしいことになってるとは思わなかったからな。

月たちを守り抜く自信も実力もあるが、安全に肝試しが出来なくなった時点でやめておくに越したことは無い。

 

「うわ・・・出てきたときと逆戻しされてるみたいに戻ってく・・・」

 

「土の動きが完全におかしいですねぇ」

 

ビデオの逆再生のように戻っていくゾンビたち。

そんなゾンビたちを尻目に、俺達は出口へと向かう。

このコースは恐怖度が他とは比べ物にならないので、二つしかエリアを作れなかったのだ。

 

・・・

 

「というわけなので、あのコースは危険だ。副長、ランサー。片付けてきてくれ」

 

「はっ!」

 

「ちょっ! 冗談ですよね!? あの化け物に退魔の剣で挑めと!? あの人念力持ってるじゃないですか!」

 

ランサーは二つ返事で答えてくれたが、副長は不満があるらしい。

念力くらい何とかなるだろ。心臓止まるくらいだぞ?

 

「そうそう、副長には装備品の追加があるぞ」

 

「な、なんだー、ちゃんと対策取ってくれてたんですね! 流石隊長です!」

 

くださいな、と手を出してくる副長の手に、あるものを乗せる。

それは・・・

 

「はい、首輪」

 

「い、いやいやいや、おかしいですよ隊長。今から念力使う化け物と戦ってくるって言うのに首輪? 首輪って何なんですかっ」

 

「え? ほら、犬の散歩の時とかに使う・・・」

 

ぺいっ、と投げ返された首輪を持ちながら説明する。

どうやら副長は装備品にも不満があるらしい。

我が侭な部下である。まったく持ってけしからん。

 

「分かってますよそれくらい! 何で今何の変哲も無い首輪渡されるのかってことを言いたいんですよ! 攻撃無効化の防具とか貸してくれてもいいじゃないですか!」

 

「ふっふっふ・・・甘いな副長。この首輪が何の変哲も無い首輪だと誰が言った?」

 

副長の首に首輪を付けながら、俺は副長に自信を持たせるように笑顔で答える。

この機能付けるのに苦労したんだぞー?

 

「え? ・・・ま、まさか緊急時用の機能があったり・・・?」

 

「おう。副長がもう駄目だ、と思った瞬間・・・」

 

「思った瞬間・・・?」

 

ワクワク、と目を輝かせる副長にぐっとサムズアップしながら、俺は続けた。

 

「絞まる」

 

「トドメ!?」

 

その後すぐ、副長は「それ一度付けたら俺以外に外せないから」という言葉に泣きながら「わーん! 隊長のばかー!」と叫んで第一関門へ走っていった。

きっと自棄になっているので、首輪の機能が二度ほど発動することになるだろう。

 

「ランサー、すまんがホムンクルスの方行ってくれるか」

 

「了解です! それでは!」

 

走りながら増殖を繰り返すランサーを見送って、ライダーとキャスターの下へ。

このコースは二人が完全に監修してたからな。何か問題があったのなら二人に言うのが一番だろう。

 

「お、いたいた。ギル、大変だったみたいだね」

 

「大変も何も・・・完全に制限外れてたぞ。全力疾走してきたからな、あの井戸の女」

 

「あー・・・私のホムンクルスにライダーが適当に悪魔の魂突っ込んだものだからねえ。制御しきれないのかもしれないね」

 

「今副長突っ込ませて処理させてる。ゾンビのほうはランサーに頼んだ」

 

「一番良い選択だね」

 

「や。問題起きたみたいだね」

 

そういいながら天幕の中へ入ってきたのは孔雀だ。

片手を軽く挙げて、いつもどおりの余裕そうな笑顔を浮かべている。

 

「おや、マスター」

 

「ホムンクルス暴走しまくってるみたいじゃない? やっちゃったねぇ」

 

「やー、ははは・・・返す言葉も無いよ。まぁ、一つだけ分かったことは・・・」

 

「ん?」

 

「ホムンクルスとはいえ、命を弄ぶのはいけないってことだね」

 

斜め上方を見つめながら、なにやら悟ったような表情でそう呟くキャスター。

俺は隣に立つ孔雀に耳打ちする。

 

「・・・おい、なんか良い話で締めようとしてるぞ」

 

「まぁまぁ。失敗したこと結構気にしてるんだよ。アレで結構貧弱メンタルだからさ」

 

「・・・ふ。ふっふっふ。その喧嘩、言い値で買うよ? この『量産型貂蝉ホムンクルス~そして幸せが訪れる~』が火を噴くよ?」

 

「は、はんっ! その程度で俺が恐れるとでも!?」

 

「膝・・・震えてるよ?」

 

「し、仕方ねえな! 今日のところはこれで勘弁してやるぜ!」

 

決して孔雀に事実を指摘されたからじゃないぞ!

貂蝉なんて全然怖く・・・いや、うん、やめておこう。

 

・・・

 

あの後ゾンビと井戸の女を片付けてきたランサーと副長を労うためと、肝試し大成功を祝して宴を開いた。

深夜遅くだったので、キャスター組、ランサー組み、ライダー組み、そして俺と副長の八人だけではあるが。

 

「悪いな、店主。急に貸切にさせてくれなんて言っちゃって」

 

「いえいえ! ギル様たちには贔屓にしてもらってますんでこのくらいはなんともありませんとも!」

 

「そういってくれると助かる。八人分、何か適当に持ってきてくれ」

 

「あいよ!」

 

そういって店主が奥へ消えていくと、副長がすぐさま泣きついてきた。

 

「たーいーちょー! 倒しましたよあの化け物! 物語にしたら三巻くらいになる大決戦でした!」

 

「それ多分三項くらいにまとめられるな」

 

「もうちょっとがんばったら三行くらいじゃない?」

 

「酷いですたいちょー! 私がんばったのに!」

 

「首輪何回くらい締まった?」

 

「三回でした!」

 

何でそんなに三に縁があるんだよこいつ・・・。

スリーサイズは悲惨な癖に。

 

「今日はお祝いです! 呑みますよーっ!」

 

「ほどほどにしておけよ。へべれけになって潰れた副長持って帰るの俺なんだから」

 

「物扱い!?」

 

「送り狼とかにならないようにねー、ギールー?」

 

「もう酔ってるな、孔雀・・・」

 

「この人見ると何故かあの化け物がよぎりますね・・・斬っていいですか?」

 

「やめとけやめとけ。酔ってると意外と気性荒くなるから」

 

「・・・ふぅん」

 

半目で孔雀を見やった後、副長は酒とつまみに手を伸ばした。

 

「やけにテンション低いじゃないか」

 

「そーですか? んー、やっぱ疲れてるんですかねえ」

 

「早めに休めよ? ・・・といっても、もうしばらくは付き合ってもらうことになるが」

 

「潰れたらたいちょーが送ってくれるんですよね? 安心して呑むことにします!」

 

「おう、安心していいぞ。翌日部屋中の家具という家具が攻撃してくるようになるけど」

 

「何ですかその仕打ち・・・」

 

うへぇ、と嫌そうな声を出した後、副長はむぐむぐと口を動かし続ける。

そこへランサーと甲賀がやってきた。

 

「ギル殿。お酒をお注ぎします」

 

「ありがと。・・・あんまり気を使わなくてもいいんだぞ?」

 

「いえ! 好きでやっていることですので!」

 

「そういわれると反論できないな」

 

「貴様がギルの部隊の副長か。・・・流石にアレだけの特訓をしているからか、そこそこ戦えるようだな」

 

「むぐ。もむもむ・・・んくっ。何ですかいきなり。いや、まぁ、特訓の濃さには定評がありますが」

 

「あんだよあんだよー! てめえら、俺達を無視して楽しんでんじゃねえぞぉー!」

 

ライダー達も来たようだ。

それに伴い、最後の一組であるキャスター達もこっちにやってくる。

 

「一月もしたらなー、俺が主役のッ、一大イッベントがあるんだっぜー!」

 

「あーっるんだっぜー!」

 

やけにハイテンションである。

孔雀に頭ガンガン殴られて笑ってるし・・・。

こわい。何この二人。悪酔いしてやがる。

 

「キャスター・・・」

 

「言わないでくれ。私も若干引いている。これは以前のメイド服以来じゃないかな?」

 

ああ、あのポーズ付きの・・・。

 

「アレより酷いだろ。ライダーの頭見ろよ。ちょっと欠けてるぞ」

 

「え? マジだ。ちょっ。ま、マスターストップ! ライダーが!」

 

キャスターが慌ててストップをかけるが、当の二人はきょとんとしている。

数秒の間の後、孔雀が先ほどのテンションとは打って変わって冷静に言葉を返す。

 

「頭が欠けるくらいなんてこと無いよ。カボチャだもん」

 

「カボチャだからなー! おら、もっと来い!」

 

「おうよー!」

 

「・・・斬ります?」

 

ガンガンと音を立てる二人を見て、副長が退魔の剣をちらつかせながら小首をかしげた。

いや・・・うぅん、どうしようか。

 

「はぁ・・・眠らせておけ」

 

「はーい」

 

俺の言葉に間の抜けた返事をした副長は、するりと孔雀の後ろに回った。

そのまま首に手を当て、脳への血流を止めて孔雀を気絶させると、よいしょ、という声と共に椅子へと座らせた。

 

「・・・あ、申し訳ありませんたいちょー。変声機忘れてきました。眠りの孔雀が出来ませんね」

 

「何にも事件起きてないだろ」

 

というか、椅子に座って気絶する孔雀は眠りの名探偵というより燃え尽きたボクサーである。

 

「あー、効いた効いた。ちょーいいかんじー」

 

あれ? そういえば多喜がいないな・・・って、あ。

 

「あー? ああ、マスターなー。しばらく前に潰れてたぜー」

 

机に突っ伏す多喜の周りをぐるぐる回りながら答えるライダー。

黒い外套を着たカボチャが空中をぐるぐる回っていると何かの儀式かと勘違いしそうになる。

 

「ほっときましょーよたいちょー。ふあぁ・・・ねみゅくなってきました」

 

「あ、おいやめろ馬鹿。俺に寄りかかって寝るな。よだれつくだろ」

 

「え? 隊長の業界ではご褒美なんですよね?」

 

「ん? ごめん、良く聞こえなかった」

 

「そうやってすぐに部下を対界宝具で脅すのやめませんか!?」

 

「冗談だよ。・・・まぁいい。ほんとに苦しいなら膝くらい貸してやる」

 

「本当ですか!? 言ってみるもんですね。それじゃ遠慮なく」

 

ぽんぽん、と膝を叩いてみると副長は遠慮なく寝転んできた。

 

「よしよし」

 

「な、撫でるのはちょっと恥ずかしいですよ隊長。私も結構いい歳なのです」

 

「・・・はっ」

 

「は、鼻で笑いましたね!? 『え? ちみっこい貧相な身体の癖に何言ってんの?』みたいな目で見下しながら!」

 

「お、良く分かったな。よしよし」

 

「ぜんっぜん嬉しくないですたいちょー!」

 

前髪を撫でると、その手を払おうとしてきたので、頭全体をくしゃくしゃと撫でる。

 

「ぎゃーっ、にゃーっ、やーめーてー! 帽子用に髪を整えるの大変なんですからー!」

 

「うりうりうりうり」

 

「た、楽しくなってきてませんか!?」

 

「結構。副長ちゃんと手入れしてるんだな。さわり心地いいぞ」

 

っていうか帽子用にちゃんと髪を整えるんだな。

やっぱり落ちないようにしないと大変なんだろうな。

転がったり飛んだり吹き飛んだりする仕事だもんなぁ。

 

「ああ、お前達を見ていて思い出した。ギル、そいつ用の紐だ」

 

「お、さんきゅー」

 

甲賀から受け取ったのは副長の首輪に繋げるリードである。

これもやっぱり特殊な紐で、俺の魔力を通しながらお座りとか考えるとそれだけで副長を操作することが出来る逸品なのだ。

明日一日の楽しみが出来た。

 

「・・・なんと言うか、副長殿が懐いてる猫のようになっているのですが・・・」

 

「槍兵さん、これは違うのです。決して! 決して喉を撫でられるのが心地よいわけじゃ・・・うなぁお」

 

「猫化、しはじめてますが・・・」

 

あざとい。流石副長あざといな。

 

・・・

 

しばらく副長を撫でて遊んでいるとゲロりやがったので風呂場に突っ込んで自室に帰ることに。

あー、服を洗濯に出さないとな。・・・出しても着れるかどうかは微妙なところだが。

 

「あ、ギルさん。お帰りなさい」

 

「ただいま」

 

最近月と詠が俺の部屋にいるのはほぼ当然のようになってきたな。

 

「ん、詠はもう寝ちゃったのか」

 

「はい。明日も早いみたいで」

 

「そうだったか。深夜の行事に付き合わせちゃって悪いことしたかな」

 

「ふふ。詠ちゃんは楽しかったみたいですよ? だからあんまり気にしないであげてください」

 

そうか、と呟きながら詠の髪の毛を少し撫でる。

良く寝てるみたいだ。

 

「お茶を淹れたんですけど・・・飲みますか?」

 

「いただくよ。・・・今日は最後にちょっと災難があったからな」

 

「災難・・・ですか?」

 

きょとんとする月に副長のことを話す。

 

「なるほど。それで服を着替えられたんですね」

 

「ああ。ったく、あいつは」

 

「仲がよろしいんですね。一度お話してみたいです」

 

「あれ、一度も会ったこと無かったっけ?」

 

俺と一緒にいるときとか何度か顔合わせしてる気が。

・・・思えば、副長ってテンションの上下激しいからな。偶然テンション低いときに出会ったのかもしれん。

低いときは本当にしゃべらないからな、あいつ。

 

「はい。ギルさんと一緒にいたりするところは見たりするのですけど、お話したことは無いと思います」

 

「そっか。分かった。今度機会を作ることにするよ」

 

「ギルさんの部隊の副長さんですから、きっと良い人ですよね」

 

「まぁな。なんだかんだいってやることはやってくれるし。やれって言ったことは出来ないことでもやろうとしてくれるし。・・・まぁ、それで失敗もするけど」

 

「あまり無茶はさせないであげてくださいね?」

 

「もちろん。俺の右腕だからな」

 

こうして、ゆったりと夏の終わりの夜は過ぎていった。

 

・・・




「あ、たいちょー、何やってんですか?」「うぉっ!?」「・・・何ですか北郷さん。人の顔見るなり後ずさって。失礼ですよ?」「い、いや、うん、ごめん」「よろしいです。で、何のお話を?」「な、なぁ?」「はい?」「ふ、副長って・・・その、男の子・・・っていうか、男の娘なの?」「・・・あぁん? すっげえ失礼ですねこの人。切り刻みますよ?」「え? だってギルが・・・ああっ!? そのニヤケ面っ、だましたな!?」「おいおい、こっちばかり見てると危ないぞー?」「斬る・・・!」「うひゃあああ!?」「『怖くなる話』ではあるだろ?」「ベクトルが違うって! うおおっ!?」


誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。