真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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新しい能力が手に入った後の主人公くんは、自分の手をじっと見ながら「・・・これが俺の新しい能力(チカラ)か・・・」と憧れの中二セリフを呟いていました。


第三十三話 新しい能力の発表に

「それで、今日のお相手はどなたなんですか?」

 

祭りの翌日、午前中に祭りの片づけを終わらせた俺は、午後の仕事である訓練をするため、訓練場へとやってきていた。

目の前で緑の頭巾を整えながらあたりをきょろきょろと見回す副長は、少し落ち着かない。

 

「目の前にいるだろ」

 

「・・・冗談、ですよね?」

 

「本気だよ。今日は、俺が相手だ」

 

「やめてくださいよー! もー! 恋さんよりタチ悪いじゃないですかー!」

 

地面に寝転がって駄々をこね始めた副長に苦笑する。

なんだかんだ言って、副長のこういうところは気に入ってたりするので、怒るつもりは無い。

 

「ほら、始めるぞ」

 

「うぅ~・・・も、もちろん隊長は乖離剣なし、宝物庫なし、鎖の使用なしですよねっ!?」

 

「・・・そうだな、乖離剣も宝物庫も天の鎖(エルキドゥ)も使わないよ。いつものあの鎧も使わないさ」

 

「そ、それなら大丈夫かも・・・。わっかりました! ここまでくれば、覚悟を決めます!」

 

しゃらん、と剣を抜き放ち、盾を構える副長。

 

「さぁ、隊長、宝物庫から獲物をお抜きください!」

 

「何言ってるんだよ隊長。宝物庫は使わないって言っただろ?」

 

「ふぇ? ・・・じゃ、じゃあ、今日は素手ですか?」

 

「いいや? ・・・これだよ」

 

今日は良い機会だから神様から新しくインストールされた新しい能力を使おうと思ってたんだ。

数秒後、副長のひにゃーっ、という気の抜けた絶叫が訓練場に轟いた。

 

・・・

 

「ずっこい! ずっこいですたいちょー!」

 

あの訓練から数分後。

何とか立ち直った副長は、俺の周りでぴょんぴょん飛び跳ねながら抗議してきていた。

 

「子供かよ。手加減はしたんだから良いだろ?」

 

「・・・もし仮に隊長が半殺し覚悟なぐらいにボコボコにされて今の台詞言われたらどう思います?」

 

「そいつ九分殺しくらいにするな」

 

「聞いておいてなんですが、もうちょっと平和的に行きましょうよ・・・」

 

素で引いている様子の副長に苦笑を返す。

 

「まぁそれは冗談だとして。俺もちょっと大人気なかったな。いくら初めて使う能力だからと言って、もう少し自重するべきだったよ」

 

「ほ、ほほう・・・? これが俗に言うデレ期というやつでしょうか・・・?」

 

「桂花もびっくりな位の鬼ツン見せても良いんだぞ?」

 

「いっ、いえっ、ちょっと口が滑りましたっ」

 

慌てて自分の口を押さえる副長。

むぐむぐと何も言ってないアピールが面白い。

 

「それにしても、強くなったなぁ。これで副長に部隊任せても大丈夫かな?」

 

「ふぇ?」

 

「あの遊撃隊の隊長だよ。副長は十分に経験も積んだし、七乃っていう頭脳もいる。問題ないなと思ってさ」

 

「ああ、えっと、ま、まだ私には隊長の座は早いかなぁ、とか・・・」

 

「なんだ、お得意のサボり癖か?」

 

「そっ、そうですね。私が隊長になんてなったらずっとサボっちゃいますからっ。止めておいたほうがいいと思いますよっ?」

 

妙に必死に止めてくる副長にそんなに忙しくなるのが嫌かと苦笑する。

と言うか、俺の目の前で堂々とサボる宣言しているのに気づいていないのだろうか。

 

「・・・分かったよ。もうしばらく、俺が隊長やってないと駄目そうだ」

 

「ふっふっふ、果たして私を改心させることが出来ますかねっ!?」

 

「取り合えず百発ほど殴っておけば言うこと聞くだろ?」

 

「ぶっ、物理的な説得は反則です! と言うかそれ殴られた部分がぐちゃぐちゃになりませんか!?」

 

「そうだな、筋力値確かAにあがったからな。一発目くらいで吹き飛ぶと思うね」

 

「後の九十九発完全に消化試合じゃないですか!」

 

「お前・・・突っ込みのスキル上がったよなぁ」

 

「・・・そんなところで部下の成長を実感しないでください」

 

しみじみと感動していると、それすら突っ込みを入れられてしまった。

才能があるのかもしれないな。

 

・・・

 

そういえば、新しい能力を使ったはいいけどどんなものかは詳しく教えていないな。

・・・まぁ、副長に能力の説明をしても確実に何の能力かは分からないと思うのだが。

簡単に言うと、今の俺の姿は別のギルガメッシュになっている。

そう、プロトタイプギルガメッシュである。

鎧も武器も変わっており、完全に鎧であったギルガメッシュの鎧から、民族衣装のような趣のある鎧へと変化。

肩のバックパックには終末剣エンキと言う双剣が収まっており、アームが動いて取りやすくなってくれたりする。

二つをあわせて柄の部分を「しなる」様に変形させることで、弓の形態へと変化するのだ。

しかもこれ、発動させて七日経つと、大海嘯「ナピシュテムの大波」を起こすこともできるのだ。

・・・まぁ、流石に手合わせでそんなもの放つと副長どころかこの大陸が大変なことになるので使いはしなかったが。

さらにこれは一つ一つの柄が可動し、トンファーのように使用することもできる万能武器なのだ。

最後に、この宝具で大切なポイントはもう一つある。

それは、これを持つと剣の扱いに関するスキルがいくつか追加されることだ。

これは嬉しい。どれぐらい嬉しいかと言うと、恋が喜んで襲い掛かってくるくらい嬉しい。

・・・ああ、嬉しいなぁ・・・。

ま、まぁ、補助としてのスキルなので特に目立つようなものではないのだが、それでも戦闘用スキルが少ない今の俺には嬉しいものである。

ちなみに鎧以外の外見は一切変わらない。

神様いわく、「そこまですると宝具使うたびにいちいち外見が変わりすぎて大変だろう」と言うことらしいのだが、それには同意である。

 

「いやー、でも強かった。双剣ってあんなに使いやすいものだったか。そりゃあセイバーも強いと言うもんだ」

 

それ関係なくね? と言う突っ込みは無しで。

と言うか双剣だから強いのではなく鍛錬をしたから強いのであろうことは理解している。

今の俺はちょっとテンション上がってるので、勢いだけで発言してしまうのは勘弁してもらいたいものだ。

 

「・・・こっ、恋人の部屋の扉を開けたらその恋人が剣を持ってニヤニヤしている件について」

 

「卑弥呼? ・・・ああ、違うな。ひーちゃんか」

 

終末剣を持ってニヤニヤしているところを見られたらしい。

ドン引きの卑弥呼が部屋の扉を開けた体勢のまま固まっていた。

 

「その呼び方やめいっ。・・・つーか何よ、それ」

 

「新しい宝具。発動させて七日経つと大海嘯を起こせるぞ!」

 

「ついに世界征服することにしたの? そんなのあるんだったら多分一週間で出来るんじゃない?」

 

「ついにって何だ、ついにって」

 

「あら、違ったの? ・・・まぁいいけど」

 

卑弥呼はそういいながら部屋の中へと入ってきて、寝台に座る俺の隣に腰を下ろした。

視線はエンキに向いているのを見るに、興味があるのだろう。

しかし、卑弥呼は唐突に妙なことを言い始めた。

 

「ふぅん・・・ま、いいわ。そういえば一つ謝っておく事があるのよ」

 

「珍しいな、卑弥呼が謝るなんて」

 

「・・・どっちかって言うと誤るって言ったほうがいいかしら」

 

そう言うと、卑弥呼は一瞬間を置いてから再び口を開く。

 

「・・・壱与に、ゴーサイン出しちゃった。てへっ」

 

「ギル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

卑弥呼がこつんと自分の頭を叩いたのと、部屋の扉が吹き飛ぶように開いたのは同時だった。

どういうことかと卑弥呼のほうを見ると、すでに魔法で隣の世界へ逃げたらしく、魔力の残滓しか残っていなかった。

 

「うっふふふっ! 卑弥呼様から「え? ギルと子作り? そんなのもあったわね・・・まぁいいんじゃない? 多分襲い掛かったらなんだかんだ言いつつ抱いてくれるだろうし。行ってみな?」とのお言葉をいただき、参りました!」

 

「て、テンションが高い・・・!?」

 

「いやー、やりました! 卑弥呼様にお酒をたっぷり飲ませて酩酊状態にした甲斐がありましたよ! 高いだけありますね、銘酒「女王殺し」!」

 

そのままの勢いで壱与はこちらに飛び掛って来た。

背後は寝台とはいえ、流石によけるわけにもいかず受け止めたのだが・・・。

 

「ふふ、ふふふふふ・・・! と言うわけで、卑弥呼様からの了承も出ましたし、子作りいたしましょう! 一年で五人生む計算ですので、お互いがんばっていきましょう!」

 

「おい、それは確か修正したはず・・・!」

 

「修正・・・? 何のことやら!」

 

だ、駄目だ! 何も聞いちゃいねえ・・・!

・・・だがまぁ、卑弥呼に認められたらするという約束はしてしまったしな。

それに、俺としてもこれだけ好かれているのは喜ばしいことだ。

ふ、不本意だが・・・ほんっとうに不本意だが! 壱与としてあげるしかないだろう。

きっと今の俺は苦虫を噛んだような苦渋の表情を浮かべているはずだ。

 

「あっ、そんなに嬉しそうににやけちゃってぇ。私とするの、そんなに楽しみだったんですかー?」

 

・・・浮かべている、はずだ!

 

・・・

 

「ふ、ふへぇ・・・幸せすぎて、死にそぉ・・・」

 

隣で寝転ぶ壱与は、なんと言うか、ふにゃっとしている。

あの後当然のように壱与と一つになったのだが、なんと言うか、所々で気絶されて凄く困った。

服を脱がせては気絶され、素肌に触って気絶され、口付けして気絶され、俺が服を脱いで気絶され・・・悉く気絶してはビクンビクンしてちょっと引いた。

何とか最後まで出来たものの、出来上がったのはこのふにゃふにゃの壱与である。

正直勘弁していただきたい。卑弥呼でもここまで酷くは無かったぞ。・・・まぁ、あいつも二回ほど気絶はしたけど。

 

「ほら、風呂に入って汚れ落とさないと」

 

「いっ、嫌ですっ! と言うかこれは汚れではありません!」

 

「・・・出した本人が言うのもあれだけど、そのままで動かれると凄く複雑な気分になる」

 

「仕方ない、ですか・・・うぅ、さようなら未来のわが子たち・・・」

 

何だろう、この罪悪感。

ごそごそと入浴の準備を整える壱与を横目に、俺も着替える。

 

「はれ? ギル様はお風呂入らないのですか?」

 

「後で入るよ。先にどうぞ」

 

「いっ、一緒に・・・」

 

「入ったらまた気絶するだろ?」

 

「否定はしませんが! でも風呂場で気絶して襲われる状況も私的にはアリかと!」

 

「・・・いいから行ってきなさい」

 

「了解ですっ! ・・・一緒に入りたくなったら、いつでも来ていいですからね!」

 

そういって、壱与は部屋を出て行った。猛スピードで。

途中どこかにぶつかった音が聞こえたので、それなりにハンドリングは狂っているらしい。

・・・後で風呂場を見に行ってのぼせてないか確認しておかないとな。

 

・・・

 

しばらく後に見に行くと予想通りのぼせていたので、取り合えず服を着せて卑弥呼のところへと置いてきた。

その際卑弥呼が盛大なため息をついていたが、まぁがんばってほしいと思う。

思えば、あの娘が将来邪馬台国を背負って行く事になるのか。・・・大丈夫かな。

 

「ま、まぁ、俺が関わらなきゃ普通の次期女王だし、心配しなくても大丈夫か」

 

無理やり自分を納得させる。

そうでもしないと不安でやってられない。

 

「あら? そんな微妙な顔してどうしたのよ」

 

「ん? ・・・ああ、雪蓮か。どうしたんだ、こんなところで・・・って、酒飲んでるのか」

 

「そうよ~。蓮華に家督を譲ってから、お酒が飲みやすくなって助かるわぁ」

 

「蓮華って、苦労人だよな・・・」

 

割と本気でそう思う。

上は飲兵衛でサボタージュの泰斗な姉で、下は自由奔放のわがまま姫・・・良くグレなかったな。

いや、むしろ反面教師になって、蓮華はきちんとするようになったのだろうか。

 

「なんかあの子って自分から苦労背負い込みに行ってない? あたしの気のせい?」

 

「気のせいじゃないか? 普通に雪蓮が背負い込ませてるような気がしてならない」

 

「あっはっはー。まぁねぇ~」

 

まぁねぇて。肯定したよこの人。

 

「・・・じゃあ、そろそろ蓮華の苦労を少しくらい肩代わりしないとな」

 

「え~? 今日はお酒呑んで過ごすって決めたの。お仕事は明日ね」

 

「いやぁ、今日は仕事しかできないんじゃないかなぁ。雪蓮、後ろ後ろー」

 

「へ?」

 

「ずいぶんとご機嫌のようだな、雪蓮?」

 

「めっ、めめめめめめ冥琳っ!?」

 

なんかあの子って、のあたりから後ろに立ってたからな、冥琳。

しばらく青筋ビキビキ言わせて雪蓮の背後に立ってたから、凄い怖かった。

 

「今日の仕事は! 雪蓮も蓮華様も小蓮様も出席するようにと! 言っておいただろう!」

 

一つ一つ区切るように強調し、そのたびに雪蓮の額を小突く冥琳。

・・・真っ赤になってるけど、どのくらいの強さでやってるんだろうか。

 

「うぅ、いったーい!」

 

「痛くしたからな。そうでもないとお前は覚えないだろう?」

 

「ちょっとー! 動物扱い!?」

 

ぶーぶー! と不満を隠そうともしない雪蓮に呆れたようなため息をつくと、いいから行くぞ、と雪蓮を引っ張り出す。

 

「あぁっ! まだ全部呑んでないのに! ギルっ、取らないでよ!」

 

「・・・代わりに全部呑んで良いぞ。私が許す」

 

「ちょっ・・・横暴よ、おーぼー!」

 

きゃーきゃーと騒ぎながら、雪蓮は引っ張られていってしまった。

・・・仕方ない、酒は宝物庫に保存しておくとしよう。

後で返すからな、と今はいない雪蓮に向けて誓う。

 

「雪蓮・・・無茶しやがって」

 

雪蓮に対して俺が自然に取っていたのは、敬礼のポーズだった。

俺は雪蓮に奇妙な友情を感じていた・・・。

 

・・・

 

と言うわけで、今は亡き(死んでないけど)雪蓮の酒を回収して再び城内を歩き始めたのだが、何をしようかな。

正直、書類整理なんかの仕事はやろうと思えば一刻経たずに終わらせられるし、訓練を見に行くのも最近副長や七乃がしっかりしてきたおかげであんまり必要なくなってきたし・・・。

そうだな、今日はあまりしないようなことをしてみようか。

 

「ならまずは・・・雪蓮のように昼間から酒をかっくらってみるか」

 

そうと決まれば早速城下町へ酒を買いに行くとしよう。

神代のワインもいいけどやっぱり時代に即したものを飲むのが一番いいよな。

いろんな種類があるから楽しいし。

今日はアレを飲んでみよう、なんて購入リストを頭に浮かべていると、いつも贔屓にしている酒屋に到着する。

 

「いらっしゃい! お、ギル様じゃないですか。こんな早くからウチにくるなんて珍しいですな!」

 

「ん、ああ。ちょっと太陽の下で酒でも飲もうかなって思って。少し前の祭りで取り寄せてもらったあの酒、まだ置いてるかな」

 

「はいよ! あれから人気が出まして、常にウチにおいてるんですわ! ちょっとお待ち下せえ」

 

そういって店主は店の中へと引っ込んでいった。

うむうむ、あの酒に人気が出て嬉しい限りだ。・・・ん?

なんと、これは銘酒「女王殺し」ではないか。あの卑弥呼が壱与にゴーサイン出す切欠になった逸品だな。

つーか入荷してるんだ・・・なんで邪馬台国原産の日本酒がこんなところにとかは考えちゃいけないんだろうなぁ・・・。

 

「お待たせいたしやした! ん? ああ、女王殺しですか。そいつは度が凄まじくて、ほとんど度胸試しのための酒みたいになっちまって」

 

「だろうなぁ。卑弥呼から飲んだ感想聞いたけど、舐めただけで体温上がるらしいからな」

 

そんな会話もそこそこに、店主に代金を払って酒を受け取る。

後はこれを飲む場所を探すだけだ。

そう思ってあたりを見回すと、見覚えのある人影が視界に入った。

 

「・・・ん? 亞莎か?」

 

「はい? ・・・って、ぎ、ぎぎぎギル様っ!?」

 

俺の声が聞こえたのか、こちらに振り向く亞莎。

いつもどおり後ずさるほどの勢いで驚くと、わたわた慌て始めた。

 

「亞莎も買い物か?」

 

「はっ、はいっ。ご、ゴマ団子を少々・・・」

 

「ああ、確か好物だもんな」

 

しかし、亞莎が持つ袋は一つではない。

それを疑問に思っていると、亞莎が俺の視線に気づいたのか、説明してくれた。

 

「あ、あの、これは、その・・・普通にゴマ団子を買うより自分で作ったほうが安くなるってお団子屋さんに教えてもらって、材料を買ってきたところなんです」

 

「へえ、自分で作るんだ」

 

・・・む、それは中々おいしそうではないか?

亞莎が料理を失敗したと言う話は聞かない。・・・料理をしたという話すら聞かないけど。

それに、今日は普段しないようなことをしようと思っていたのだ。

酒と一緒にお菓子を楽しむのもいいかもしれない。

 

「それ、俺も少し貰えないかな?」

 

「ふぇっ!? い、いえっ、そんなっ! わ、私、作るのは今日が初めてで・・・お、美味しくないかもしれないですからっ」

 

「俺も手伝うから。それに、一人より二人のほうが美味しいだろ?」

 

まぁ、一人の方が良いという孤独なグルメの人もいるかもしれないが。

 

「そう、ですね・・・。えと、作り方も聞いてきたので、早速作ってみましょうっ」

 

「ああ。・・・荷物、持つよ。一人で持つにはちょっと多いだろ?」

 

そういって、亞莎の荷物を半分ほど持った。

亞莎はそんな、と言って聞かなかったが、何度言っても俺が態度を変えないので途中で諦めたらしい。

 

「よし、それじゃあ早速下ごしらえだ」

 

手も洗い、エプロンもつけて準備完了だ。

レシピに書いてあった道具も完璧に準備してあるし、失敗することは無いだろう。

 

「は、はいっ! ええと、まずは・・・」

 

「じゃあ俺はこっちの工程をやっておくな」

 

「あ、お願いします。んーと、これを混ぜて・・・」

 

さて、あまり力を入れると飛び散るからな。

適当に力を抜いて、強すぎず弱すぎずの力で・・・っと。

 

・・・

 

「完成だ!」

 

「はいっ。とっても上手に出来ましたー!」

 

調理台の上で格闘することしばらく。

俺たちの目の前には、店で売っているものには程遠いものの、それなりに美味しそうなゴマ団子が並んでいた。

うんうん、レシピ通りってこんなにすばらしいものなんだな。

・・・一部、レシピ通りに作ってもムドオン料理を完成させる猛者もいるが。

 

「亞莎はお茶でいいだろ?」

 

自前の酒を用意しながら、茶器も取り出す。

 

「え? あ、お茶くらい私が入れますよっ!」

 

「いいからいいから。ゴマ団子は亞莎、お茶は俺。役割分担だよ」

 

「ゴマ団子は半分くらいギル様も関わってらっしゃるじゃないですかっ」

 

「はは、ばれたか。なんてことを話しているうちに用意完了だ。俺のほうが一枚上手だったな」

 

してやられた、と言う顔をする亞莎の前にことりと湯飲みを置く。

俺の目の前には先ほど用意しておいた酒が。

 

「さて、いただくか」

 

「はい! いただきます!」

 

「いただきます」

 

お互いに挨拶をして、ゴマ団子に手を伸ばす。

いまだにホカホカとした暖かさを保つゴマ団子はとても食欲をそそる。

 

「はむっ」

 

「むぐ、もぐもぐ」

 

おおっ、これは・・・とても良い感じだ!

うーまーいーぞー!

流石に口から光線は出ないが、中々良い線いってる。

 

「おいしいれふねっ!」

 

「ああ、これは美味しいな」

 

自分で作ったからと言うのもあるのだろう。

そういうものは達成感も味に響くからな。

 

「酒も良いなぁ・・・たまにはこういうのも悪くないかもしれん」

 

「・・・雪蓮様や祭様のようにはならないでくださいね・・・?」

 

「そこは安心してくれていいぞ。それは無い」

 

「ま、真顔です・・・」

 

気を取り直して二つ目のゴマ団子に手を伸ばす。

うんうん、餡も上手く作れたんじゃないかな。

朱里たちのようにとはいかないまでも、初心者としては合格点だろう。

・・・こうして、俺たちはゴマ団子(俺は酒も)を楽しんだのだった。

 

・・・

 

「いたーっ!」

 

ゴマ団子も消化されてきたかと思うほど時間が経った後のこと。

日も完全に沈み、入浴まで済ませた俺は、さて寝るかと自室へ続く通路を歩いていたら、雪蓮が俺を指差して大声を出していた。

もう日も沈んだんだから静かにしろよ、と内心でため息をつく。

多分今日ボッシュートされた酒の話だろう。十中八九そうだろう。

と言うかそれ以外で血眼になった雪蓮に詰め寄られる理由が無い。

 

「出しなさい」

 

「仕事は?」

 

「もちろん終わらせたわよ。・・・冥琳ったら、自分の仕事しながら目線はほとんどこっち向いてたもの。一瞬の隙も無かったわ・・・」

 

「流石冥琳だな。目を離したら雪蓮が何するか分かってるんだから」

 

「ほんと、冥琳ったら・・・じゃなくって! お酒! 没収されたやつ! あれ凄い珍しいやつなんだからね!」

 

「ああ、あれか」

 

「・・・まさか、呑んだとか言わないわよね? そんなこといったら私・・・蓮華から南海覇王借りてこなきゃいけなくなるもの」

 

酒に命掛けてるなぁ、この人。

これを少しでも別のベクトルに向けられれば、冥琳の気苦労も減ると言うのに。

 

「大丈夫だって。ちゃんと保管してある。ほら」

 

そういって、宝物庫から酒の入った甕を取り出す。

目の前に置かれた甕を見て、ようやく雪蓮から穏やかな空気が流れ出す。

 

「さっすがー! 会いたかったわー! お酒ちゃんっ!」

 

甕に抱きついた雪蓮は、ひとしきり再会を喜んだ後目線をこちらに戻した。

 

「ありがとうねっ。あ、お礼に一杯どう? ご馳走するわよ」

 

「んー・・・ま、いっか。俺もお勧めが一つあるんだ。お互いにご馳走するって言うのはどうだ」

 

「いいわねそれっ! 早速良い場所探しましょうか! ・・・あ、甕もう一回しまって貰って良い?」

 

てへっ、と可愛らしく笑った雪蓮に苦笑いを返しつつ、宝物庫にもう一度甕をしまう。

そのまま、軽い足取りで歩き出した雪蓮の後に続き、城内を歩き始める。

 

・・・

 

ただいま城壁の上で、軽い酒宴のようなものが開かれている。

あの後雪蓮と城内を歩いていたのはいいのだが、何の因果か、道行くところで星やら祭やら紫苑やら桔梗やらの酒好きに出会ったのだ。

ご丁寧に雪蓮がこれから何するかを事細かに説明したので、全員自分のお勧めの酒を持って城壁の上で集合することになってしまった。

会場設営から酒器の用意までやらされ、息つく暇も無いまま酒を持ってきた四人に囲まれた。

それぞれ手には持ち寄った酒と少しの肴。

・・・ああ、星はやっぱりメンマ持ってきたか・・・。

 

「さ、呑みますかっ」

 

「・・・ほどほどにな」

 

「ほどほどに呑んでたらお酒は楽しめませんよ?」

 

「そのとおりじゃ。ほれ、ぐいっといけぃ」

 

「ちょっと待て! これ女王殺しじゃないか!」

 

「うむ。ちょうど・・・なんと言ったか、壱与? だとかいう娘に貰ってな」

 

壱与め・・・卑弥呼に呑ませた後の始末に困って祭に渡したな・・・?

って言うか三分の一ほど減ってるんだが、まさかそれ全部卑弥呼が消費した分じゃないよな・・・。

そうだとしたら良く卑弥呼死ななかったな・・・。

 

「ならばまずはワシからいくか」

 

そういって桔梗が女王殺しを一気に呷った。

一気にといってもお猪口に入った少量なのだが、それでも女王殺しの度は強い。

ほぼ不純物なしのアルコールに「女王殺し」って銘を入れたら完成する、なんて卑弥呼に言わしめるほどの度数の高さだ。

酒なのかただのアルコールなのかとても悩むところである。

 

「む、おぉう、結構くるのお・・・」

 

一瞬で顔が紅潮し、少しだけ呂律も怪しくなり始めている。

やっぱりこれ、呑んでいいものじゃないだろ。

 

「しかたありませんな。ではギル殿にはこのメンマでも楽しんでいただきますかな」

 

「・・・まぁ、アレよりはマシか」

 

星から箸を受け取り、メンマを一口。

うん、食べ過ぎなきゃメンマも美味しいんだよなぁ。

 

「ほれ、こっちも呑め」

 

「ん? ・・・普通の酒だな。いただくよ」

 

祭が注いでくれた酒を一口。

くぅ、やっぱりこれくらいが一番だよ。

強すぎると・・・。

 

「おぉ~? 紫苑が二人ぃ・・・?」

 

・・・ああなるからな。

 

「ほらほら、桔梗? そろそろそっちはやめてこっちにしなさいな」

 

流石に危ないと判断したのか、そっと紫苑が桔梗のフォローに回る。

うんうん、母親なだけあって細かいところに気が回る。

 

「ふふ、ギル殿? 紫苑ばかり見ていては拗ねますぞ?」

 

「・・・そういうのはもうちょっと不機嫌そうな顔を見せてからにしてくれよ」

 

「おや、それは心外ですな。こんなにも私は不機嫌そうな顔をしているのに」

 

「どう見てもニヤついてる。鏡見てこいよ」

 

俺がそういうと、星は何がおかしいのかくつくつと笑った。

 

「ふふ、二人とも、仲良いのね」

 

「ほれ、ギルも呑め呑め。一人だけ素面でいるのは許さんぞ?」

 

そういってほぼ無理やり二杯目を呑まされる。

・・・まぁ、普通の酒だから別にいいけどさ。

 

「ほう、中々いけるクチだな、ギル」

 

「んー? まぁなー」

 

「あ、じゃあこれも呑んでみなさいよ。私のお勧めのお酒」

 

「へえ、なんて銘なんだ?」

 

「えーとー、なんだっけなー。あ、思い出した! 女王殺し!」

 

「・・・え?」

 

・・・

 

焔耶ちゃんに預けた璃々の様子を見て帰ってくると、なにやら様子がおかしいことになっていた。

ギルさんが妙にふらふらしているような気がするけれど・・・何かあったのかしら?

少し足早に近づいてみると、声が聞こえてきた。

 

「おー? 星、酒が減ってないぞ?」

 

「い、いえ、ゆっくり楽しみたいと思ってですな・・・」

 

? 星ちゃんが戸惑っている?

そして、そんな星ちゃんを尻目に、桔梗がそそくさと立ち上がる。

ギルさんはそれを目ざとく見つけ、声を掛ける。

 

「桔梗? どこいくんだー?」

 

「む? ええとだな、少し厠に・・・」

 

「大丈夫、明日でも遅くない」

 

なるほど、と理解した。

多分、酷く酔っているのだろう。

これは明日に響くんじゃないかしら。

ちょっと絡まれたくないけれど、勇気を出して声をかける。

 

「ぎ、ギルさん? 明日のお仕事に響くから、そろそろお開きにしません?」

 

「はっはっは、だいじょーぶ! その気になれば無理矢理行動できるから!」

 

「お、おいギル? そろそろ酒もなくなってきたし、良い頃合じゃないか?」

 

「はっ、宝物庫を舐めるなよ! 樽でいくらでも出せるわ!」

 

ギルさんはだぁんっ、と卓を叩きながら宝物庫を開く。

う、うぅん、こんなに変な酔い方をしたギルさんは初めて見るわね。

何かがあったと考えたほうが自然。・・・と言うか、ここにいる四人とも何がしかやらかしそうな性格してるものね・・・。

桔梗に事情でも聞いておきましょうか。

 

「・・・ねえ桔梗? いつごろからギルさんはこんなことに? 私が少し席を外して帰ってきたらこんなになってたけど・・・」

 

「う、うむ・・・そのな・・・怒らぬか?」

 

「・・・もう、怒ってるわ」

 

そんな子供みたいな言い訳して・・・。

璃々でももうちょっと潔く・・・うぅん、同じくらいかしら・・・?

頭の中でそんなことを一人悩んでいると、桔梗がため息を一つついてあるものを指差した。

 

「むぅ・・・まぁいい。アレを飲ませたのだ」

 

「あれ? ・・・って、女王殺しじゃない。どれくらい飲ませたの?」

 

「一杯だ。いくら強い酒だといっても、一杯であんなになるとは思わなかったのだが・・・」

 

「そうよね・・・桔梗も少しふらついただけで、慣れればそれほどでもないって感じだったし・・・」

 

私も一杯いただいたけれど、あれほどにはならなかった。

以前もギルさんと一緒にお酒を飲んだりしたけれど、あの程度の強さで潰れるほどじゃなかったはず。

・・・あのお酒に何か理由があると考えるほうが自然ね。

まぁ、それは明日にでも魔術師さんたちに聞くとして、今はあの暴走状態のギルさんを止めるほうが先だわ。

 

「そういえばギルさんは女王殺しを呑むのを嫌がっていたけど、どうやって飲ませたの?」

 

「私がお勧めのお酒よー、って言って、呑んだ後に実は女王殺しでしたー、ってやったのよ。その後すぐふらふらになっちゃって」

 

「・・・なるほど、主犯は雪蓮さんね。まぁ、それは明日償ってもらうとして・・・」

 

「今はギルを黙らせるのが先だわな」

 

「物理的に黙らせるのはほぼ不可能ね。恋ちゃんでもいれば話は別だけれど、私たちに宝具なんてないし・・・」

 

「もっと呑ませれば潰れるのではないか? ・・・いや、ギルは人間と違うから潰れるかどうかすら分からぬが・・・」

 

三人で顔を寄せて相談していると、祭さんの声が聞こえてきた。

 

「ぎっ、ギル? ほれ、あっちのほうで紫苑と桔梗が暇しておる。儂らより向こうを構ってやったらどうじゃ?」

 

「そうだなっ。ギル殿、私たちは存分にギル殿に酌して貰った! 次は雪蓮たちの番ではないか!?」

 

っ!? 馬鹿な、あの状態のギルさんをこちらによこすですって!?

ここは全員で協力してギルさんを何とかするのが得策! なのに自ら戦力を分断するなんて!

・・・ギルさんの見たことの無い姿に混乱したわね・・・!

仕方が無い、こうなったら私と桔梗、雪蓮さんでギルさんにお酒を呑ませるしかない。

 

「おー、何だ二人ともー、もうギブアップかー?」

 

ぎぶあっぷ、の意味は分からないけれど、取り合えず反応しておく。

 

「え、ええ。ギルさんはまだ呑めるのかしら?」

 

「んー、んー、まだまだいけるぜー」

 

ゆっくりと頭を左右に振りながら笑顔でそう答えるギルさん。

・・・平時ならとてもときめく表情なのだけれど、今見ると冷や汗と苦笑いしか出てこないわ・・・。

 

「な、ならばもう一杯どうだ。人に勧めるばかりでギルは酒が進んでおらぬでは無いか」

 

「おー、それもそうだな。うん、いただくかなー」

 

「ほ、ほら、私のお勧めのお酒よー? がんがんいっちゃいなさい?」

 

「お? おー!」

 

そういって、ギルさんは雪蓮さんからお猪口で渡された「女王殺し」を一気に呷りました。

更にふらふらするギルさんに、「女王殺し」は有効だと確信します。

 

「・・・桔梗?」

 

「おう、把握しておる」

 

「あー、なんだか眠くなってきたなぁ・・・」

 

予想以上にお酒の回りは速いようです。

これなら、もう一杯ほどでいけるわね・・・。

そう思った次の瞬間、ギルさんから驚きの一言が。

 

「せーいー・・・今日は一緒に寝る約束してたよなぁ~・・・」

 

「おおうっ!? ・・・そ、そういえばそうでしたな。・・・良く覚えてましたな、その状況で」

 

「じゃー、寝るかー」

 

そういわれた星さんは凄く困った顔でこちらを見てきました。

・・・まぁ、酔ったり理性をなくしたときのギルさんが何をするかは、月ちゃんたちを見たら分かるものね。

一度月ちゃんや桃香さまが足腰立たないくらいにされたとか。

それを考えればなるほどその表情も頷けるというもの。

 

「・・・えっ・・・と、ギル殿!? きょ、今日はギル殿も酔っておられることだし、ゆっくりと休まれたほうが・・・」

 

「心配むよーだ、星! この程度の酒で俺が酔うわけないじゃないですかー! やだー!」

 

「全力で酔ってらっしゃるようだが!?」

 

その後、急に真剣な顔になったギルさんが星ちゃんの頬に手を添えながら行こうか、と呟きました。

・・・なんと言うか、星ちゃんがちょっとときめいちゃってるのが不憫だわ・・・。

 

「う、うむ・・・その、ええと・・・っ、そ、そうだ! 紫苑! 紫苑も誘ってはどうかな!?」

 

!? こっちに振ってきた!?

・・・いえ、冷静に考えれば一人より二人のほうが明日に響く確率は低い。

それに・・・最近、ギルさんのお相手してないし・・・あ、べ、別にちょっと良い機会かなぁなんて思ってたりは・・・。

 

「紫苑ー? ・・・んー、そうかー、しばらく一緒に過ごしてないなぁ」

 

「あ、あらあら。困っちゃうわね・・・」

 

「・・・紫苑。もう少し困ったような顔をしてからそういう台詞は吐くものだ。・・・しかし、良い機会かも知れんな」

 

「? 桔梗?」

 

「ギル! 今日はワシも世話になるぞ!」

 

桔梗!? いきなり何を言って・・・!

 

「前々からギルの相手はしてみたかったのだ。今回は良い機会だしな。紫苑もいくというのなら不満はないであろう?」

 

もう、桔梗は気分屋なところがあるし、こういうことがいつか起こるとは思っていたけれど・・・。

今じゃなくとも良いでしょうに。

 

「ワシと紫苑、それに星を相手にギルがどれだけ持つか、少し興味もあるしの」

 

「・・・もう。後悔しても遅いんだから」

 

普通に理性があったときでさえ少し危なかったのに、今の状態だと・・・考えたくも無いわね。

 

「ふむ・・・お主らが挑戦するというのに、儂だけが残るというのもいささか癪に障るの」

 

「・・・祭さんまで。無理することは無いんですよ?」

 

「馬鹿にするでない。それに、以前弓を教えたときから孺子のことは気に入っていたのじゃ」

 

「あー、んー? どうでもいいけど、星は来ないのかー?」

 

「え? あ、ええっと・・・きょ、今日は四人でお邪魔してもよろしいだろうか・・・?」

 

「おーう、大歓迎だー!」

 

妙に機嫌の良いギルさんが、星さんを横抱きに抱えた。

もちろん抱えられた本人は頬を真っ赤に染めているけれど、ギルさんはそんなのお構いなしだ。

・・・いいなぁ、なんて思ったりしながらその後ろをついていく。

 

「・・・ごめんねー、私は今回帰るわ。ギルのに興味はあるし、嫌いなわけじゃないけど・・・蓮華が拗ねちゃうから」

 

「別に、無理にとは言いませんわ。それに、桔梗と祭さんだって無理してるわけじゃないから」

 

「うん、じゃ、また明日・・・えっと、無事だったら」

 

「そ、そうね。無事だったら」

 

そういって、雪蓮さんは去っていった。

今日こそは璃々に妹か弟を連れて帰ることができるかしら?

 

・・・

 

「・・・あれ? ギル様がどうしてここに?」

 

「・・・今日は俺が紫苑と桔梗と祭と星の代わりなんだ」

 

「えぇと、なんの脈絡も無く五つの部隊が集められたのは・・・」

 

「もちろん一気に訓練を見るためだ。ちなみに俺は書類整理もしながらやるので、組み手はとても雑になる。自信が無いやつは俺のそばに近寄るな」

 

「・・・すみません、ギル様。一つ質問が」

 

「どうぞ」

 

「黄忠様たちは・・・?」

 

「今、部屋で月たちに介護・・・じゃなかった、介抱されてる。・・・今日中に復活するのは難しいんじゃないかなぁ・・・」

 

俺のその言葉を聞くとほぼ同時に、兵士たちからひそひそと話し合う言葉が聞こえる。

やれ黄忠様たちを相手にして返り討ちだと・・・!? だの、ギル様は夜も無敵なのかよ・・・だの、言いたい放題である。

良し決めた、その辺の兵士、今日の吹き飛ばし要員に決定な。

 

「じゃーいくぞー。あ、副長、お前に遊撃隊と紫苑の部隊任せるわ。後の部隊の面倒は俺が見るから」

 

「・・・了解です。あの、途中で抜け出してサボるのはありですか?」

 

「なしだな」

 

「がーんですね。出鼻を挫かれました。帰って寝ます」

 

「お、そうかそうか。なら良く眠れるようにこう・・・首をトンッてしてやるよ、全力で。おいで」

 

「・・・さー、遊撃隊と黄忠隊の人は集まってくださいねー」

 

「よーし、副長もやる気を出したところで、祭と星と桔梗の部隊はこっちなー」

 

・・・

 

あの後、何とか五部隊同時訓練と言う大役をこなした俺は、昼休みを利用して自室に戻っていた。

扉を開けると、元々部屋にあった寝台と、急遽一つ増設した寝台に横たわる三人の姿。そして甲斐甲斐しく介護・・・じゃなくて、介抱する侍女の姿が。

 

「・・・えぇと、調子はどうだ?」

 

俺がそう声をかけると、星がじろりとこちらに視線を向けてきた。

 

「すこぶる快調ですよ。どなたかのおかげで」

 

「・・・そうか、それは良かった」

 

「うぅむ・・・孺子と思って油断していたか」

 

「お酒を呑んで酔っ払ってなければ、こちらを気遣ってくれる良い人なのですが・・・」

 

「昨日は誰かさんが女王殺しなんて呑ませたからワシらまでこんなことに・・・だがまぁ、ワシらを相手にここまでできると言うのは男としては中々のものであるな」

 

「確かにのう。たまにならば、アレを呑ませるのもいいかもしれん」

 

そんなことを言って笑う祭と桔梗を嗜めるように、紫苑が口を開く。

 

「もう。雪蓮さんの悪ふざけが発端とはいえ、墓穴を掘ったのは自分たちなんですからね?」

 

そういえば、紫苑はすでに介抱する側に回っている。

おそらく一番症状が軽かったのだろう。

うん、昨日の夜の記憶は一切無いけどそういうことなんだろう。

・・・だよな? 昨日の俺?

 

「くぅ、それにしても、筋肉痛など久しぶりにかかったわ」

 

「うむぅ・・・儂もじゃ。腰に来るのぅ」

 

「・・・それは歳のせいじゃ・・・」

 

「何か言ったか、響」

 

「い、いえー。なんにもー」

 

苦笑いを浮かべながら響はそそくさと祭の近くから退避する。

懸命な判断だろう。あの布団の下では祭が拳を握り締めていたに違いない。

 

「そういえば、部隊の訓練をお任せしてしまったが、無事に終わりましたか?」

 

「ん? ああ、問題は・・・うん、無いよ」

 

「・・・今ギル殿の発言に間があったような気がするのですが・・・?」

 

「は、ははは・・・大丈夫だって。多分」

 

「とてつもなく不安になりますな。・・・んむむ、よっと」

 

「お、起き上がれるのか」

 

「ふ、武人を舐めていただいては困りまする。まぁまだ少しくらいは違和感がありますが、この程度は無視できます」

 

そういって星は髪飾りを整え、その場で一度、くるりと回った。

 

「ふむ、大丈夫なようですな。それでは響、世話になったな」

 

「あー、いえー。着替えその他もろもろは月ちゃんと詠ちゃんなので、お礼はそっちにどうぞー」

 

「うむ、そうするとしよう」

 

では、と短い挨拶を残して、星は部屋を出て行った。

後は・・・この二人か。

 

「あ、ここは私たちに任せて、ギルさんはお仕事に戻ってもよろしいですよ?」

 

「いいよ。しばらくはここにいるさ。祭たちの話し相手になるのも面白そうだし」

 

仕事もほとんど片付いてるしね、と続けると、紫苑はそうですか、とだけ呟いた。

まぁ、彼女たちも武人だし、すぐに星のように復活するだろうしな。

 

・・・




「終末剣エンキ。発動から七日が経過すると大海嘯を起こせるぞ! 必殺技は全てを押し流す大津波、「大海嘯『ナピシュテムの大波(メモリ・七日目)』だ!」「・・・何? その妙な説明口調?」「乖離剣エア。圧縮され鬩ぎ合う風圧の断層は擬似的な時空断層を生み出して敵を全て粉砕するぞ! 必殺技は世界を切り裂き空間を切断する「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」だ!」「だから何なのよ!」「・・・後王の財宝(ゲートオブバビロン)とか王律剣バヴ=イルの説明とかあるけど・・・」「・・・ちょ、ちょっと興味あるわね。いいわ、続けなさい」


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