真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「神様っていくつ?」「その質問の答えを知るのと能力全て剥奪されるの、どちらがいいですか?」「年齢聞きたい」「全てを捨てる覚悟だった!?」


それでは、どうぞ。


第二十九話 再び神様の世界に

「ねーねー! 今日はシャオとしてくれるんだよね!?」

 

「いつ俺がそんなこと言った?」

 

「ほら、前に一緒に寝たとき! 今日は疲れてるから今度なって!」

 

「・・・言ったっけ?」

 

「言ったの!」

 

目の前で頬を膨らませて怒っているのは、皆様ご存知呉の弓腰姫、シャオである。

東屋に座る俺の目の前で、卓をばんばんと叩いて怒りを表現しているのだが、俺にどうしろというんだ。

いや、抱けと言われてるのは分かってるんだが・・・やらかしていいものか。

璃々や鈴々の次くらいに手を出したらだめっぽそうな娘だぞ、シャオって。

それに、前自分から暴露してくれた情報によると、初めてのようだし。

 

「朱里の部屋の寝台の下にある本をわざわざ引っ張り出して勉強したし、月たちから情報収集してギルがどういう風に攻めてくるのかも勉強したもん!」

 

「何だろう、直接何かされたわけでもないのに恥ずかしいぞ・・・?」

 

他人に自分の行為を語られるってなんだかとってもむず痒い。

 

「んー、俺もシャオのことは好きだし、そういうことするのも吝かじゃないけど・・・」

 

「むー! じゃあ今しよう! ここ、あまり人来ないし!」

 

「いやいやいや、流石に始めてが青か・・・いやいや、なんでもない」

 

良かった。途中で自分が何言いそうになったか気づいてよかった。

 

「もう! なんなの!?」

 

「落ち着けよ。・・・んー」

 

対面に座っているのに身を乗り出している所為でほぼゼロ距離のシャオを抱え上げる。

シャオが軽いのもあって、簡単に自分の下へと引き寄せる事が出来た。

 

「ひゃっ!? ど、どしたの? する気になった?」

 

「んー、いや、ゆっくりやっていこうかなぁって」

 

思えば、今までは想いを伝えられてからすぐに寝台へゴーだった気がする。

・・・いや、告白場所が寝台に近かったというのもあったかもしれないけど!

だから、シャオとは少しずつ近づいていこうと思ったのだ。

膝の上にシャオを乗せつつ、そんな事を思う。

 

「今日はこのくらいだな。なんか、シャオは無理したら大変な事になりそうだし」

 

「・・・んもうっ。シャオのためって言われたら、文句言えないじゃない」

 

俺の言葉に、大人しくなるシャオ。

先ほどまでの怒りはどこへやらだ。

 

「今日のところはこれで納得してあげるけど、いつかちゃんとしてもらうんだからねっ」

 

「はいはい。大丈夫だって」

 

その後、シャオの頭やら腹やらを撫でさせられ、気づいたら本人は寝ていた。

・・・シャオ、本当に大物だよなぁ。

 

・・・

 

そんなこんなで本格的にシャオとする約束をしてしまった後、眠ってしまったシャオを部屋に戻してから、俺は再び東屋でまったりとお茶を飲んでいた。

最近老けてきたのか、こうして落ち着いてお茶を飲んでいるときに妙に落ち着くようになってしまった。

・・・煎餅、欲しいな。甲賀の家にでも行って食べさせてもらおうかな。

 

「・・・よし、思い立ったが吉日。さっそく行こう」

 

がたん、と立ち上がる。

湯のみやらの片づけを侍女にお願いして、城下町へと出かける。

 

「まーちーなーさーいー!」

 

「・・・ん?」

 

どどどど、となにやら土煙を上げてやってくる人影。

・・・アレは・・・シャオ!?

つい数十分前くらいには寝てたのに!

 

「はぁっ、はぁっ、もうっ、起きたら部屋にいてびっくりしたんだからねっ!」

 

「ああうん、部屋に置いてきたんだし当たり前だろ?」

 

「普通そこはシャオが起きるまで膝の上に乗せてくれるもんじゃないの!?」

 

「風邪ひきそうだったからさ。最近は風も冷たくなってきたし」

 

「ぶーぶー! そこは俺が暖めてやるくらい言ってほしいの!」

 

「分かった分かった。また今度な」

 

「絶対だからね! ・・・で、どこに行くの?」

 

「ん? ・・・ああ、煎餅が食べたくなってな。甲賀の家に行くところだ」

 

「甲賀? んーと・・・あの不思議な格好してる人?」

 

「・・・まぁ、忍者装束は不思議に見えるかもな」

 

アレは忍者固有のイメージみたいなもんだし。

そんな事を話ながら城下町へと出ると、やはり日中だからか、人で溢れている。

うんうん、活気があるのはいいことだ。

隣を歩くシャオとはぐれぬよう、手を繋いで歩く。

嬉しそうにニコニコと繋ぐ手を見るシャオを見るに、俺の行動は正解だったらしい。

 

「そういえば、その人の家ってどこにあるの?」

 

「ええと、あんまり人には言えない場所だから、ついてきてくれるだけでいいよ」

 

「ふーん・・・。そういえば、「忍び」の人って隠れ家が見つかったらいけないんだよね。シャオの秘密の広場みたいなものね」

 

・・・アレは隠していると言うよりはただ侵入者を排除してるだけじゃ・・・。

まぁ、本人が秘密なんだと言うのならそうなんだろう。シャオの中ではな。

 

「おっとっと、通り過ぎるところだった。ここだよ、ここ」

 

「ここ? ・・・なんか、町に紛れて見つけにくいところにあるのね」

 

「そりゃ、見つからない事が忍びの第一条件だからな。住居も町の中に紛れ込ませておかないとな」

 

「ふぅん・・・忍びって大変なのね。明命たちもこんな努力してるのかしら」

 

「うーん・・・そっちは専門外だからなぁ。甲賀に聞いてみたら、意外と分かるかも知れんぞ」

 

「でも・・・怖くない?」

 

少し不安そうな瞳をこちらに向けるシャオ。

・・・意外だな。怖い人なんか無いと思っていたシャオが、甲賀を怖がるとは。

いや、でも甲賀の顔ってクールで鋭い感じがするからなぁ。

イケメンだけど顔が冷たいと言うか、初対面の人からは若干取っ付き難そうだと思わせる顔だ。

だからまぁ、シャオが怖がるのも無理ないか。

 

「ま、根は優しいやつだからさ、安心していいと思うよ」

 

「・・・むー、頑張る」

 

よし、と繋いでいない方の手をぎゅっと握って気合を入れるシャオを連れ、甲賀の家の扉をノックする。

きちんとした回数と間隔で叩かないと警戒されて対応してくれないのだ。

 

「はいっ、今出ます」

 

ランサーの声が聞こえてきた。

 

「どちら様で・・・おや、ギル殿。マスターに何か御用で?」

 

「うん、まぁ用ってほどじゃないんだけどな。煎餅食べにきた」

 

「ああ、なるほど。ならば、良いものがありますよ。ささ、どうぞどうぞ。・・・おや? 今日はお連れ様がいるのですね。はじめまして」

 

今まで俺の影に隠れて見えなかったシャオが視界に入ったのか、ランサーは真面目な顔をして深い礼をする。

 

「こっ、こんにちわっ」

 

珍しくどもりながら挨拶を返すシャオを撫でつつ、玄関で靴を脱ぐ。

慌ててシャオも靴を脱いで俺がやっているのを見よう見まねで靴をそろえ、後をついて来る。

 

「ふわぁ・・・ここ、なんだか不思議なお家ね。匂いが違うわ」

 

鼻をくんくんとさせながら、シャオがそう呟く。

時折すれ違うランサーたちやその他の人たち(おそらく忍びの人だと思われる。普段着なので区別がつかない)と挨拶を交わしつつ、甲賀のいる部屋へとたどり着いた。

 

「失礼します、マスター」

 

「ああ、入れ」

 

「お邪魔するぞー」

 

「お邪魔します」

 

ランサーが開けてくれた障子の向こうには、ちゃぶ台に座ってお茶を啜りながら報告書に目を通す甲賀がいた。

・・・そういえばこういう日本家屋っていうのは魔力が散逸して魔術師的にはよくないって某アイリさんが言っていたのだが、この屋敷には土蔵的なところはあるんだろうか。

 

「良く来たな。煎餅を食いに来たんだったか。新作がいくつかある。食ってけ」

 

ちゃぶ台について運ばれてきたお茶を飲みつつ他愛もない話をしていると、何人かのランサーが煎餅を運んできてくれた。

・・・醤油味だけじゃなくて他にもいろいろ試作品があるらしい。

なんだか甲賀が忍者と言うより煎餅職人のようになってきているが、これが趣味に力を注いだ結果なんだろうか。

 

「これ・・・包みの裏に豆知識が書いてあるんだけど」

 

「ああ、そういう煎餅あったろ? つい懐かしくなってな。作ってしまった」

 

いいのかそれ・・・。

 

「いろいろと向こうであったものを再現してみてるんだ。感想なんかを聞かせてくれると助かる」

 

「ん、まぁそれくらいならお安い御用なんだけど・・・」

 

「シャオも頑張るっ」

 

それからしばらく、四人で煎餅を食べて感想を言い合う時間が続いた。

こうやって見ると、意外と種類あるな、煎餅・・・。

 

・・・

 

「はふぅ・・・もうおせんべはしばらくいいわ・・・」

 

「俺もだ。後半は甲賀ノリノリだったからな・・・」

 

これもどうだ、これも自信作なんだ、こいつは美味いぞと勧められるままに食べているとすぐに満腹になってしまった。

シャオも頑張ってくれたのだが、俺よりも小食なシャオは序盤でリタイアしてしまった。

これなら昼飯は抜いても大丈夫そうだ。と言うか、ちょっとしばらくは物を噛むことを遠慮したい。

 

「・・・さて、これからどうするかなぁ」

 

「シャオはギルについていくんだからねっ」

 

「ん、それは別に良いんだけど・・・さて、どこに行こうかな」

 

あ、いいところがある。

シャオは体を動かすの好きそうだし、目立つのも嫌いじゃないだろう。

それにあいつらもたまには他の女の子と交流するのもよさそうだ。

 

「よし、早速事務所に行こうか」

 

「じむしょ?」

 

「そ。多分、シャオと仲良く慣れそうな娘がいるところだよ」

 

「良くわかんないけど・・・ギルが行くなら行くわ。・・・女の子がいるっていうのも、ほっとけないしね」

 

「それならさっそく行こう。幸い、甲賀の家から事務所までそう遠くない」

 

すっかり俺の腕が気に入ったのか、再び俺の腕に自身の腕を絡めるシャオをつれて、俺は事務所へと向かった。

さっきも言ったとおり近いので、数分歩けばたどり着く。

 

「ここだよここ」

 

「あ、ここっててんほー達が所属してる事務所って奴よね。ギルがえっと、しゃちょー? っていうのやってるのよね!」

 

「お、良く知ってるな。偉い偉い」

 

「んふふー。夫の事はきちんと知っておかないとね!」

 

「よしよし。・・・さて、早速入るか」

 

昼の休憩の時間だし、大体の確率で三人はここにいるだろう。

ほら、あれだ。放課後とか休日に行くところなくてファストフード店でポテトつまんでる女子高生のようなものである。

こっちにフライドポテトないけど。作ってみたいとは思う。

 

「おーい、いるかー?」

 

「はいー? って、ギルじゃない。どしたのよ、いきなり。・・・あっ、い、今は昼休憩だからこうしてるんだからねっ!?」

 

急に俺が来たことに驚いたのか慌てたのか、しなくてもいい弁解をし始める地和。

分かってる分かってると手で制して、ここにきた目的を話す。

 

「ほら、三人ってアイドルだろ? シャオにもちょっと体験させてくれないかなぁって」

 

「そーなの? あ、でもシャオちゃんだったら人気出るかもー。ね、人和ちゃん」

 

「そうね・・・呉のお姫様だし、それなりに動けるだろうから、すぐに人気が出ると思うわよ。・・・稼ぎ時かしら」

 

「あー、いや、そこまで本気なわけじゃなくて、シャオに空気だけでも教えてあげてくれないかなぁと」

 

「アイドルって歌って踊るのよね! シャオも動くのは得意よ。歌うのも・・・うん、それなりにいけるわ!」

 

シャオもノリノリである。

こうして、『アイドル体験一日レッスン~弓腰姫の休日編~』が始まったのである。

 

・・・

 

「楽しかった~!」

 

「そりゃ良かった。天和たちも刺激を受けてくれたみたいだし、これは一石二鳥と言うやつだな」

 

シャオには天性の才能があったのか、すぐに踊りも歌もそれなりのレベルに上がった。

それを見て地和は長くアイドルをしてきたプライドを刺激されたのか、ちぃだって! と燃えはじめ、結局四人そろってへとへとになるまで踊って歌いつくした。

しばらく休憩してからこうして帰り道を歩いているのだが、アレだけ疲れた疲れたと言っていた割には楽しそうである。

 

「そういやシャオ、晩飯はどうするんだ?」

 

「え? 晩御飯? んー、そうねぇ・・・」

 

下唇に人差し指を当て、少し考え込むそぶりを見せるシャオ。

だがすぐに頭上に電球が点ったようで、こちらに振り向いてにっこり笑顔でこう言い放った。

 

「シャオが作ってあげる! んふふー、これでもねえ、上達したんだから!」

 

「お、それはいいね。何作るんだ? 材料買って帰ろうぜ」

 

「うんっ。えっとね、今日は・・・」

 

それから、八百屋のおっさんに兄妹扱いされてシャオがすねたり魚屋のおばさんに兄妹扱いされてシャオがぷんすか怒ったりした以外は特に問題が起こることなく材料を買って帰ることができた。

 

「と、いうわけで! 今日も腕によりを掛けて作ってあげるからねっ!」

 

「おう!」

 

エプロンを着けた辺りから機嫌はすっかり元に戻ったので先ほどの事は忘れる事にしよう。

座って待っててと言われたので、大人しく座って見守る事に。

 

「さーて、まずはこのお鍋を火に掛けて・・・そっか、こっちも刻んでおかないと」

 

ぶつぶつと手順を確認しつつ調理を進めるシャオ。

流々達のように慣れた手つきではないが、心配するほどの手際でもない。

心配のしすぎもいけないなと自分を戒めていると、調理場の入り口から声が聞こえた。

 

「ん~、中々良い匂いが・・・って、ギル? あら、シャオも」

 

「雪蓮? なんだかここで会うのは珍しいな」

 

鈴々や恋辺りが匂いにつられてっていうのはありそうだけど・・・。

表情で俺の言いたいことが伝わったのか、雪蓮は苦笑いしながら口を開く。

 

「あははー、実はね? お酒のおつまみ探してたところだったのよ」

 

「あー・・・その手に持ってるのは酒か」

 

「そ。で、このくらいの時間なら誰か厨房に入ってたりしないかなぁって思って来てみたら良い匂いがするじゃない。で、覗き込んでみたら二人がいたって訳」

 

「なるほど・・・まぁあの様子だと結構多めに作るだろうし、雪蓮も食べていけよ。晩飯はまだだろ?」

 

「そうね、ちょうどお腹もすいてるし・・・妹の手料理を食べてみるっていうのも悪くないかも」

 

そういって微笑んだ雪蓮は、早速とばかりに俺の対面に座った。

 

「・・・それにしてもここまで喋ってて気づかないなんてねぇ。集中してるわね」

 

「ん、ああ、確かにそうだな」

 

別に声を潜めてるわけでもないのにシャオはこちらの様子に気づかず調理を続けている。

相当な集中力なのだろう。

そんなシャオを見て満足げに微笑む雪蓮からは、すっかりいつものおちゃらけた雰囲気を感じられない。

姉として、妹の成長を喜んでいるように見える。

 

「嬉しそうだな」

 

「・・・そりゃ、嬉しいわよ。大戦も終わって、妹が好きな人に料理作って過ごせるようになったのよ?」

 

「流石二妹の姉だな」

 

「その二児の母、みたいな言い方やめてくれる?」

 

非難めいた視線を送ってくる雪蓮にくくくと笑いを返すと、はぁと諦めたようなため息をついた雪蓮は徳利を傾け、お猪口に酒を注いだ。

徳利やらお猪口やら焼酎やら、どうやら一刀の日本酒シリーズの品らしい。酒好きの雪蓮らしい手の早さだ。

 

「にしても、いつの間にかシャオもしっかりした娘になっちゃったわねえ。少し前まで料理作るシャオなんて想像も出来なかったのに」

 

「そうだなぁ。最初に会ったときはもっと子供っぽかったもんな」

 

「ふふ。ギルの奥さんになるのも近いかな?」

 

「・・・シャオと蓮華たき付けたの、やっぱり雪蓮だったか」

 

「なによぉ、人聞きの悪い。たきつけたりなんかしてないわ」

 

「そういうことにしておくよ。・・・お、そろそろ出来るっぽいぞ」

 

「あら、楽しみね」

 

・・・

 

「ギルっ、結構上手く出来たよっ! ・・・って、何でお姉様がいるの!?」

 

「やっほ~。なんだか美味しそうな匂いがしたから来てみました~」

 

「ぶー・・・まぁいいわ。お姉様にも成長した私を見せてあげるんだから!」

 

そういって自信満々に卓の上に料理を並べるシャオ。

 

「ふぅん、美味しそうじゃない。少なくとも、私よりは料理上手みたいね、シャオ」

 

「・・・お姉様って料理した事あるの?」

 

「ないわ」

 

きっぱりと言い切る雪蓮に、シャオはため息を漏らす。

・・・何と言うか、苦労してるんだなぁ。

 

「さ、早速いただきましょうか」

 

「そうだな。いただきます」

 

「召し上がれっ!」

 

雪蓮の隣に座ってこちらをニコニコと見つめてくるシャオの視線を感じつつ、青椒肉絲を口に運ぶ。

・・・おお、これは美味しい。

ちょっと野菜が生っぽいところもあるが、うん、美味しいぞ。

 

「ど、どう?」

 

「美味しいよ、シャオ。上達したな」

 

「え、えへへっ。そーでしょー。蓮華お姉様よりも上手になっちゃったかも。ふふっ」

 

なんとも嬉しそうな笑顔を浮かべ、シャオも箸を持つ。

はむ、となんとも可愛らしく料理を口に運んだシャオは、うんうんと一人頷いている。

自分の中でも合格ラインを超えたのだろう。

 

「美味しいわねぇ。お酒も進むわぁ」

 

雪蓮もパクパクと箸が進んでいるようだ。

同時に酒も凄い勢いで進んでいる。

料理はすぐに無くなり、片付けをした後シャオを部屋まで送り届け、俺も自室に戻った。

・・・え? 雪蓮? 食べ終わったらいつの間にか帰ってたけど?

まぁ、想定内の事態だったのでそこまで目くじら立てることも無いだろうとスルーしたけど。

 

・・・

 

俺が真名開放できる宝具は、『王の財宝(ゲートオブバビロン)』『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』の二つだ。

いきなり何をといいたい気持ちは分かるが、まぁちょっと聞いて欲しい。

この二つの宝具、威力は絶大なのだがその分小回りがきかない。

というかぶっちゃけてしまうとこの二つの宝具は三国志の時代で使うにはあまりにも異質すぎる。

空中から物が出てくる蔵とか、良く分からないガスを噴出しながら回転する突撃槍にしか見えない剣とか、あまり人前でおおっぴらには使えない。

まぁその辺はゲイボルグの原典とか原罪(メロダック)やらでフォローしているのだが、それも本をただせば蔵のものだ。

取り出す動作が必要なので、事前の準備が必要になる。

 

「と言うわけで、どうにかならないかな」

 

「・・・いきなり長々と何を言うのかと思えば・・・あなた、神様を何だと思っているのですか。・・・まぁ、何とかしてみますけど」

 

「ありがとう。それでこそ土下座神様だ」

 

「んー、あー、あれ?」

 

「どうした?」

 

「いやー、プログラムが上手く動かなくて。機種変はちょっと前にやったばかりなので、多分しばらくやってなかったプログラムの更新が原因だと思うのですが・・・」

 

「・・・なんというか、それまるっきりケータイだよなぁ」

 

目の前で土下座神様が操っているのはタブレットのようなものである。

んーとかむーとかいいながらいじっているのを見ると、どうも生前の事を思い出してしまう。

 

「あーもう、いっそのこと更新一気にやっちゃいましょうか。その間暇なのでお茶でも飲み・・・ああっ!」

 

「どうしたんだ、いきなり。ほら、ほうじ茶でも飲んで落ち着いて」

 

「いえいえ、そんな場合ではありませんよ。いいことを思いつきました。ええ、ええ。何でこんな簡単な事に気づかなかったんでしょう」

 

「・・・?」

 

あまりにもテンションの高い神様の言動に若干引きかけていると、ようやく落ち着いたのか椅子に座ってほうじ茶を飲み始めた。

 

「ま、この思い付きを実行するには更新を終わらせないといけないので、お茶でも飲んでましょう」

 

「あ、ああ。うん」

 

この神様意外と危ないんじゃないかとこのとき思いはじめたのだが、まぁ長い付き合いだしその程度どうって事無いかとすぐにどうでもよくなった。

それからいろんなお茶を飲みつつプログラムの更新が終わるのを待つ事数分。

 

「あ、終わりましたね。よっし、これでいろいろといじれますよぉ・・・!」

 

なんだか気合の入った神様が手元の端末を操作する。

 

「いえね、あなたに入れた能力ってあなたの世界ではフィクションだったわけじゃないですか」

 

「・・・まぁ」

 

「と言う事は、その系列で何か別のパラレルな能力があれば共存が可能なのです」

 

「ふむふむ」

 

要するに、『ギルガメッシュ』に関連する能力ならいくつか追加できると言う事だろうか。

 

「それに今は座に上げられる前ですしね。こういう調整は簡単です」

 

「そうなんだ」

 

「そうなんです! ・・・お、ありましたよぉ」

 

「それって神様が勝手にやってもいいことなのか?」

 

転生やらなにやらは神様の不手際がどうとか言う理由があったはずだが、これは確実に面白そうだからと言う感情が混ざっているだろう。

 

「良いんですよぉ。神様って言うのも存外アレなのです。それに、まだそっちには召還枠が一つ余ってますから。その分を使用すれば能力の追加も不備が出ませんし」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「なにそれこわい」

 

今さらっと凄い事言わなかったかこの神様!

 

「召還枠が一つ余ってる・・・?」

 

七つ全ては埋まっていたはずだが・・・。

まさか、アベンジャーの分か!

 

「あはは、やだなぁ、もう。だってあなたは英霊じゃないじゃないですか。ほら、アレですよ。四次で生き残ったギルガメッシュさんも五次アーチャーがいたのにクラスはアーチャーでしたよね?」

 

それとおんなじ感じです、と神様は端末を操作しながら続けた。

・・・おいおい。

なんだ、ちょっと待ってくれ。

だったら俺は『前回の聖杯戦争から継続して存在している』扱いになってて、今の劉備がセイバーである聖杯戦争はまだ始まってすらいなかったと?

 

「あれ? ・・・知って、ました、よね・・・?」

 

「いや、全然」

 

「なんでっ!?」

 

「こっちの台詞だ! おま、普通俺がアーチャーだと思うだろ!?」

 

「だってあなた転生したんですよ!? 座に上がったわけでもないのに英霊になるわけないじゃないですか!」

 

「う、ぐ、それもそうか・・・」

 

俺のクラスのところにアーチャーとあったのも、きっとあっちに転生したときに辻褄あわせするために追加されたのだろう。

元々俺は『転生』する予定だったんだしな。

 

「あれ? じゃあ誰か召還しようとしたらアーチャー召還できるのか?」

 

「ええ。正確には『できた』ですけど」

 

神様の説明によると、今からその空いた『アーチャー』枠を使って神様が見つけたいい能力とやらを引っ張ってくる。

それを現世に召還すると見せかけて、俺の能力にぶち込むらしい。荒業だなぁ。

だからもうあの世界では『アーチャー』の召還は出来ないらしいし、聖杯戦争が終わることも始まることもなくなる。

今の英霊たちだけで、聖杯戦争は完結してしまったらしい。なんともまぁ・・・。

 

「補足説明ですけど、あなたも一応サーヴァント召還できたりしたんですよ?」

 

「なに?」

 

「だってあなた生身ですし。能力持ってるだけで生きてますからね、あなた」

 

「・・・そういわれるとそうか」

 

サーヴァントの召還は『今を生きる者』しか行えなかったはずだ。

・・・まぁ、メディアは小次郎を召還していたが、あいつは魔術師として最高峰。こっちと同列に考えるのがまず間違っている。

で、その式に当てはめるなら俺もサーヴァントの召還は出来たらしい。

 

「それはそれは。まぁ、もうそれも出来ないんだけどな」

 

「あー、うーん」

 

「どうした? ・・・まさか、またなんか言い忘れか?」

 

「ええ、まぁ。と言うかあなた、いろいろと核心つきすぎです」

 

そういって頬を膨らませる神様はいいですか、と前置きして説明を始めた。

 

「まず、英霊の宝具と言うのは生前の行いや逸話、主な武装などが昇華されてなるものです。それは大丈夫ですよね?」

 

「それくらいなら」

 

サー・ランスロットが生前武器もなく小枝だけで敵を追い払った逸話が『騎士は徒手にて死せず(ナイトオブオーナー)』になったり、ヘラクレスが十二の試練をこなして命のストックが増えた『十二の試練(ゴッドハンド)』になったりしたことだろう。

 

「と言うことは、あなたも行いや逸話次第では新たな宝具が追加されることになります。それもいいですね?」

 

「ああ、なるほど、そういう可能性もあるな」

 

「はい。それで、あなたの宝具になりえる行いや逸話と言えば・・・ちょっと待ってくださいね」

 

そういって神様は端末を弄ってから、こちらに画面を向けた。

 

「こんな感じです。ええと、女性落とし、英霊との共闘、大戦での活躍。まぁ大きく分けてこの三つです」

 

「・・・一つ目にそこはかとない悪意を感じる」

 

「その中でもこれです! 英霊との共闘! これはポイント高いと言うか、多分今までの英霊でこんな逸話持ってるのエミヤさんぐらいじゃないでしょうか」

 

スルーしやがったぞ神様・・・。

 

「あー・・・アレもセイバーとの共闘と言えばそうなのか・・・」

 

「それでですね、これを宝具化したらどうなるかと言いますと・・・たぶんですけど、サーヴァント召還系の宝具になると予想されます」

 

「なんでだ?」

 

「まぁ、英霊との共闘と言うのを処理するには、英霊になってからも共闘させるしかないと言うことじゃないでしょうか」

 

「んな適当な・・・」

 

つまりアレか。小枝で敵を追い払った、が自分の持つもの全て宝具になる、に昇華されたように、俺のこの英霊を仲間にして共闘した、が英霊と仲間として共闘できるようになる、になったって感じか?

それを神様に伝えてみると、ぽんと手を打って

 

「多分それですね! 逸話がちょっと大げさになっちゃった様なのが宝具なので、きっと間違いはないと思います!」

 

「あーっと、それで? 今二つ宝具があって、今から神様が追加するのはいくつ?」

 

「一つですね」

 

「で、死後それが追加されたら四つか。ちょっと多いかな、位の数だな」

 

ディルムッドも四つだったし、それと同じくらいか。

まぁしばらくは追加の一つを使いこなすことに専念しよう。

 

「んっと。あなたの更新も終わりましたね。これで目覚める頃には情報も一緒に頭の中に入っているはずです」

 

「いつも世話になるな」

 

「いえいえ。私としてもあなたがいろいろとやるのは楽しみなので」

 

神様のその言葉と共に、俺は意識を失った。

 

・・・

 

「・・・これか、更新って」

 

結構大々的に変更されているようだ。

まぁ、しばらくは使わないだろうし、使い方だけ予習しておくことにしよう。

 

「ギルさん、おはようございます。・・・あ、起きてらっしゃるんですね」

 

「月か。おはよう。ちょっといろいろあってね。いつもより早起きなんだ」

 

「いろいろ、ですか・・・?」

 

小首を傾げて頭上にクエスチョンマークを浮かべる月に朝から癒されつつ、説明しておく。

とりあえず俺が本物のアーチャーじゃなかったこととか、あとは宝具を追加したことだとかその辺のことだ。

まぁ新しい宝具は魔力の消費にバラつきがあるので、真名開放のときは月の許可を取る事にした。

 

「わざわざそんなことしなくても、ギルさんの判断で使っても良いんですよ? 魔力もあまっているようですし・・・」

 

と本人は言ってくれたのだが、そこはまぁマスターを尊重すると言うことで。

 

「へぅ、頑固です」

 

「お互い様だよ。さて、朝飯が食べたいな」

 

「あ、今厨房で詠ちゃんがギルさんの分を作っていますから、今から行けばちょうどいいですね」

 

私が厨房を出たときは完成寸前でしたので、と微笑む月を連れ、厨房へ向かう。

朝から・・・いや、朝だからこそなのか、兵士たちの元気な掛け声が聞こえてくる。

 

「皆さん元気ですね」

 

「ん、ああ。俺には真似できそうにないなぁ」

 

こっちに来てからマシになったものの、朝に弱いのは変わらないようだ。

もし英霊になって聖杯戦争とかに呼ばれたりして朝に襲撃されたらかなり苦戦しそうな気がする。

あれ、でもサーヴァントって眠らなくても良いんだっけ。それなら大丈夫か。

 

「おーっす、おはよう」

 

兵士たちの訓練の声を聞いていると、すぐに厨房にたどり着いた。

挨拶をしながら顔を覗かせると、真っ先に詠が振り向く。

片手でぐつぐつと何かのスープをかき混ぜているようだ。

周りには何人かの侍女や侍女見習いもいるようだ。

 

「おはよう、ギル。いつもより早いじゃない。どうしたのよ、今日は」

 

「早いって言っても少しだけだろ。今日はなんだか早く起きたんだよ」

 

「ふぅん。まぁいいわ。ちょっとそこで座ってなさいよ。すぐに出来るから。・・・月、盛り付け手伝ってもらっていい?」

 

「うん。そういえば、他の二人は?」

 

「何言ってるのよ。孔雀と響は兵舎の朝食作るの手伝ってるじゃない。月が言ったのよ?」

 

「ふぇ? ・・・あ、そうだったね。へぅ、ど忘れしちゃった」

 

恥ずかしそうに頬に手を当てて俯く月に、詠はため息混じりに注意する。

 

「しっかりしなさいよ。侍女長なんだから」

 

「ふふ、了解。これから気をつけるね」

 

二人とも会話をしながらもしっかりと手は動いている。

やはり慣れているんだろうか。

周りで慌しく動いている侍女たちにもしっかり指示を出しているあたり、流石侍女長とその右腕である。

そうこうしているうちに、俺の目の前に食器が置かれていく。

ご飯に焼き魚、漬物と日本の朝食そのものである。

味噌汁がないのは味噌を作るのに手間取っているらしく、完成の目処はまだまだ立っていないらしい。

その代わりに卵のスープがおいてある。

 

「いただきます」

 

手を合わせて食べ始める。うんうん、いつもどおり美味しい。

侍女たちみんなこのレベルの料理なら作れるように教育しているらしいので、この城では大体安定して美味しいご飯が食べられる。

・・・愛紗がこの場にいたら恋も逃げ出すほどの修羅場になるが、まぁそれは気にしないことにする。

それよりも気になるのは、こちらをじっと見つめる詠だ。

ちらりと目線を向けてみると、いつもどおりの腰に手を当てたポーズでツンとした口調で言葉を放つ。

 

「さっさと食べちゃってよね。洗い物ができないじゃない」

 

「ふふっ。さっさとって言ってる割にはギルさんのことずっと見てるね?」

 

「ばっ、ばばっ、そんなわけ・・・ある、けどっ、それは別にギルが美味しそうに食べてるのが見てたいとかそういうわけじゃ・・・!」

 

「どうしたの、詠ちゃん。私はギルさんのことずっと見てるねって言っただけだよ?」

 

「うっ、ぐっ、ゆ、月ぇぇ・・・」

 

先ほどまでのツンツンとした強気な態度はどこにいったのか、今にも泣きそうな声で月を見つめる詠。

どうやら月にからかわれたらしい。

本当に仲がいいなぁ、この二人。

 

「ツンツンしなくても良いのに。詠ちゃんがギルさん大好きだってみんな知ってるんだよ?」

 

「べっ、別にツンツンしてないっ」

 

いや、してるだろ、と心の中だけで突っ込みをいれる。

周りの侍女たちも驚いた顔で詠のほうに振り向いたので、おそらく俺と同じことを考えているんだと思われる。

「それは本気で言っているのか?」と目が語っている。

だが残念ながら詠の発言は照れ隠しがあるとはいえ大体本気の可能性が高い。

 

「落ち着けよツン子、じゃなくて詠」

 

「ツン子いうなっ!」

 

まぁまぁと月に宥められている詠を見ていつもどおりだなぁと笑いつつ、朝食を全て胃の中に収める。

空になった食器を纏めて洗い場に運び、侍女の一人に渡す。

 

「はい、これ」

 

「ありがとうございます、ギル様」

 

様付けはやっぱりちょっと照れるなと内心で一人ごちる。

月と詠はいまだになにやらきゃっきゃしているのようなので、そっとしておこう。

 

「っていうかギル! ツン子って呼ぶのはやめなさいって・・・いない!?」

 

「へぅ、今日はご一緒しようと思ってたのに・・・」

 

「あ、あの~。ギル様なら、先ほどそっと出て行きましたけど・・・」

 

「どっち!?」

 

「え、えと、あちらに・・・」

 

そんなやり取りの後、たたたっ、と足音が聞こえる。

背後を見なくても分かる。二人が追いかけてきたのだろう。

月の言葉からするに、今日は一緒に行動したいみたいだし、少し待つか。

 

・・・




「神様、それ一個くれない?」「神器要求するとか大分ずうずうしくなってきましたね」「神器だったのか、それ。完全に外見タブレット端末だけど」「何を言ってるんですか、これカバー外したら中身私の髪の毛一本しか入ってませんよ?」「え? ・・・うわマジだ! これどうやって動いてんの!?」「だから私の髪の毛です。回路もエネルギーも回線も何もかも全て私の髪の毛一本で賄っています」「・・・神様凄いな」


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