真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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マスターの日常も若干含まれています。


それでは、どうぞ。


第三話 サーヴァントたちの日常を知るために

朝。暑さで目が覚める。

 

「・・・こう暑いと、仕事する気力も無くすなぁ」

 

まぁ、あまり仕事は回ってこないし、三国同盟の要という立場なので、忙しいことも無いんだけど・・・。

それもこれも、俺の分の仕事をギルが代わってくれているからなんだよなぁ。

あいつは「お前にそんな立場を押し付けたお詫びだと思ってくれ」とか言ってたけど・・・。なんだか申し訳ない気持ちで一杯だ。

 

「街を巡回するか」

 

以前俺の役職だった警備隊長のころを思い出してみるのも良いかもしれない。

そう思いながら、服を着替え、扉を開ける。

そうだ、サーヴァントが日常で何をしているのか見て回るのも面白いかもな。

 

「よし、そうと決まればまず・・・」

 

セイバーだな、ここからセイバーの巡回ルートに行くのが一番近い。

ギルは一番どこにいるか予想できないから最後にして・・・そういえば、ランサーのマスターも俺と同じ日本人なんだよな・・・。

あの二人は大体家にいるらしいし、二番目はそこに向かうかな。

 

「えーと、この時間はこのあたりをうろついてるはずなんだけど・・・」

 

街へ出てきょろきょろとセイバーを探す。

いつもより過ごしやすいとはいえ、まだまだ気温は高い。

服屋の親父が水着を完成させてくれれば、この暑さも吹っ飛ぶんだけど。

 

「おい、マスター。これで休憩は何度目だ?」

 

「っせーなー。こう暑いと鎧着てるだけで死にそうだってのに。何でお前平気なの? 馬鹿なの?」

 

「・・・すごい言われようだな。おそらくだが、それは私が英霊だからだろう。人を超えた存在である私は、外気温の変化にも少しは耐性があるのだと思う」

 

「本気でうらやましいな。ちょっと俺も英霊になりたいんだけど」

 

「無理じゃないか?」

 

「だよなー」

 

会話の聞こえてきた方向を見てみると、セイバーとそのマスター、銀がいた。

セイバーは余裕綽々と言った表情をしているが、銀は木陰に座り込んでだるそうにしている。

 

「む? ・・・これはこれは、天の御使いさまじゃねーか。あんたもくそ暑そうなカッコしてんなー」

 

銀が俺に気づき、片手を挙げつつやはりだるそうに声をかけてくる。

 

「やぁ。まぁ、これが俺の制服だしな」

 

「一刀か。今日はどうしたんだ?」

 

セイバーも俺に話しかけてくる。銀とは対照的に、涼しそうな顔をしている。

 

「巡回ついでにサーヴァントのみんなの様子を見学しようかなーと」

 

「ほう。それならばいい情報をやろう。先ほど向こうへギルが歩いていったぞ」

 

「本当か!?」

 

思わぬ情報に、大声を出してしまう。

一番見つけづらいと思っていたギルの情報がこんなに早く手に入るなんて。

 

「うむ。妙に上機嫌だったから声をかけたんだが、ちょっとな、とはぐらかされてしまった」

 

「何かあったのかな・・・」

 

「けっ。ギルもすずしそーな顔してよー。まったく」

 

そう愚痴る銀に激しく同意する。サーヴァントってずるいよなー。

とりあえず、セイバー組の様子は十分分かったし、次はギルを追ってみるか。

 

「それじゃ、巡回頑張ってくれよ。俺はギルを追ってみる」

 

「ああ。暑さで倒れたりするなよ」

 

「大丈夫だって。それじゃな!」

 

そういってセイバーたちの元を離れる。ギルの歩いていったという方向は・・・市場だな。

 

・・・

 

「いないなー」

 

人が密集するのでかなり暑い。

密集している人の海の中でも、ギルは特別目立つ。

だからすぐに見つかると思ったんだけど・・・。

 

「おや? 御使いじゃないか」

 

そんな時、声をかけられる。

 

「あんたは・・・えっと、キャスター」

 

「いかにも。どうしたんだい、こんなところで」

 

「ギルを探してたんだ。見なかったか?」

 

「ギル? ギルならついさっき何か買って市場を出て行ったけど。妙に機嫌がよかったから、ちょっと引いたけどね。危うくパワータイプホムンクルスを出すところだった」

 

「どれだけびっくりしたんだよ・・・。で、その話、本当か?」

 

「ああ。私が嘘をつくメリットなんか無いからね」

 

「そっか・・・。ありがとう、キャスター!」

 

俺がそうお礼を言うと、いやいや別になんてことは無い、と謙遜してから

 

「それと、君はもう少し気をつけたほうがいい。君のように立場が高い者が、警備もつけずにこんなところを歩くべきじゃないよ」

 

「あ、ああ。忠告ありがとう。それじゃっ」

 

「気をつけなよ」

 

背後からの声に手を振って答えつつ、市場を抜ける。

ええっと、分かれ道か・・・。

右に行こう。

・・・しばらく道を歩いていると、メイド服を着た少女と出会う。

三国統一後に蜀でメイド服を初めて見たときは驚いたが、どうやらメイド服はギルが最初に広めたらしい。

それからというもの、服装のかわいさから、侍女になりたいという少女が増え、ギルから俺にメイド服のデザインをしてほしいと頼まれたこともある。

そのときは全身全霊を尽くして可愛いメイド服をデザインした。政務でもあんなに本気を出したことは無いと思う。

 

「あれ、一刀さんじゃん。どしたの?」

 

半そでにミニスカートという夏用メイド服に身を包んだ響が小首をかしげながらそういった。

隣にはアサシンも控えているようだ。・・・ようだ、と表現したのは気配遮断によって認識しづらくなっているからである。

 

「いや、ギルを探してるんだけど・・・こっちには来なかった?」

 

「うーん。私もずっとここ歩いてるけど、ギルさんは見てないよ」

 

さっきの分かれ道から響の元へは一本道なので、響が見てないというのならこっちには来てなかったんだろう。

 

「そっか、分かった。ありがとね」

 

「良いってことよ。あ、ギルさんに会ったら桃香さまが呼んでたって伝えておいてー」

 

「了解。それじゃね」

 

「ばいばーい」

 

手を振る響とアサシンに別れを告げ、さっきの分かれ道へと戻る。

・・・アサシンって意外にフレンドリーなんだな。仮面で隠れて表情は分からないけど、手を振ってくれるなんてなかなかいい奴じゃないか。

再び分かれ道へと戻ってきた俺は、左の道を選んで進む。いつもみんなと飲む酒屋はこの通りにある。

 

「・・・」

 

「・・・あれー?」

 

その通りにある建物と建物の間。裏路地への入り口に、バーサーカーが立っていた。

 

「何でこんなところにバーサーカーが・・・。尚香ちゃんはどこいったんだ・・・?」

 

「・・・」

 

「・・・もしかして路地裏で何かしてるのか?」

 

そういってこっそり覗こうとすると

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ひいっ! ごめんなさい!」

 

地面のそこから響くような雄たけびがあがる。

街の人たちも何事かと足を止めてこちらを見て、なんだ、とかまたか、とか言ってすぐに歩き始める。

・・・え、これって日常茶飯事なの? 

ちょっと怖いんだけど・・・立ち入らないほうが良いな。

 

「・・・バーサーカーは裏路地への侵入を防いでいる・・・と」

 

心のメモ帳にメモしながら、俺はギルを追うために通りを歩き始めた。

 

・・・

 

「あれ? ここって」

 

通りを歩いているうちに、ランサーとそのマスターの家へとたどり着いた。

ランサーのマスターは以前の名を捨て、甲賀、と名乗っているらしい。

たまにギルのところに顔を出しているのを見るが、家に来るのは初めてかもしれない。

・・・ついでだし、ランサーの家にも寄ってみるかな。

 

「すいませーん」

 

扉をノックすると、とたとたと規則正しい足音が聞こえ、扉が開かれた。

 

「おや? これは天の御使い殿ではありませんか! 何か御用でしょうか!」

 

直立不動で敬礼をするランサーに事情を話し、手を下げてもらう。

 

「なるほど、ギル殿をお探しですか。奇遇ですね。先ほどまでここでお茶を飲んでいらしたんですが」

 

「ここに来てたんだ」

 

「ええ。ギル殿はマスターに生き方を教えてくださった方ですから、たまに様子を見に来てくれるのです」

 

「おい、ランサー。長引いているようだが、誰が来たんだ?」

 

ランサーの背後から渋い声が聞こえてくる。男の生き様というか、よくテレビで見るようなハードボイルドな探偵のような重みを感じさせる声だ。

 

「はっ! ただいま、天の御使い殿がご来訪しております!」

 

「ほお、なんだ、依頼か?」

 

「いえ! ギル殿をお探しのようで」

 

「ああ、ギルか。さっきまで茶を飲んで煎餅食ってたが」

 

「煎餅・・・」

 

煎餅は、食べたいと言い出したギルが開発し、俺がそれを改良し、甲賀が大陸へと広げたお菓子の一つである。

甲賀の家の内装は古い日本家屋といった内装で、常に煎餅や緑茶などが常備されている。

忍者の活動中に寄った倭国からもいろいろと持ってきているらしい。

 

「どこに行く、とか言ってなかったか?」

 

「そうだな・・・そんなこと言ってたか、ランサー」

 

「ふぅむ・・・いえ、どこに行く、とは言っていなかったと思います。妙に上機嫌ではありましたが」

 

・・・やっぱり、機嫌よかったんだな。

 

「で、どうするんだ、御使い。茶でも飲んでくか?」

 

「いや、ギルを追うから、また今度で」

 

「あいつがここを出て行ったのは十分ほど前だ。それじゃあな」

 

「ああ! ありがと!」

 

「では!」

 

びしっ、と敬礼してくれるランサーに手を振りながら、甲賀の家を後にする。

今までに手に入れた情報をまとめると、上機嫌で、市場で何か買い物をして、どこかへ向かっている、と。

・・・うーん、ぜんぜん分からない。

 

「取り合えず、このまま進んでみるか」

 

この先には・・・川に作られた港と、森しかないけど・・・。

 

・・・

 

「お、御使い。元気か」

 

軽い調子で声をかけてきたのは、ライダーのマスターである多喜だった。

 

「元気っちゃあ元気かな。暑いけど」

 

「あー、あっちぃよなぁ。でもよ、ライダーとかはほとんど体が無いも同然だから暑くねえとか言い始めるんだぜ。・・・やってらんねーなー」

 

ああ、それはとても同意する。

 

「あれ? ライダーは?」

 

話題に上りながらも、いつもは多喜と行動をともにしているライダーがいないことに気づいた俺は、多喜に聞いてみる。

 

「ライダーなら、森ん中で材料採取中だぜ」

 

「材料・・・?」

 

「なんでも、今年の祭りで使うらしいけど」

 

「・・・なんだろう、すっげえ不安になる」

 

ハロウィーンに異様な情熱を燃やすあいつのことだ。きっとろくでもないいたずらを考えてるに違いない。

 

「ここんとこ毎日、こうして森の中とかで採取してるぜ。御使いもどうだ? 食べちゃいけないキノコとか見分けられるようになるぜ」

 

それはちょっとお得かもしれない。

考えておくよ、と言おうとした瞬間、森から異様な声が聞こえてきた。

 

「トリィィィィィィィィィック! オア! トリィィィィィィィィィト! キノコをくれなきゃ放火をするぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

「おー、派手にやってんなー。・・・で、どーするよ」

 

「い、いや、遠慮しておくよ」

 

何が起こってるかまったくわからないけど、絶対に巻き込まれたくない。

 

「そか? ・・・ま、良いけどよ」

 

そういえば、なんで多喜は炎天下の中こんなところで日に当たっているんだろうか。

 

「なぁ、多喜。なんでこんなところにいるんだ?」

 

「あ? ああ、肌を焼きに来てんだよ。ついでに、ライダーのお守りもしてる」

 

肌を焼いてると、モテるんだぜ、という多喜にああ、そう、とため息混じりに返しながら、後半の言葉に思わず突っ込みを入れてしまう。

・・・ライダーのお守りって・・・。 

まぁ、確かに誰か監督してないと森のキノコを全て取り付くしかねないからな・・・。

 

「それに、これもあるから暑くないしな」

 

「なんだ? それ。宝石みたいだけど」

 

そういって取り出したのは、青い石だった。

 

「キャスターから貰ったんだけどよ、これ、常に一定の風を送ってくれる石なんだ」

 

そう言って多喜は石をこちらに向ける。確かに、そよそよと風が送られてくる。

なるほど、ミニ扇風機か。

 

「いやー、これがあるだけで変わるもんだな。あっちぃのはかわらねえけどさ」

 

「便利だなぁ・・・。後で俺もキャスターに貰おうっと」

 

「そうしろそうしろ。あると無いとじゃ大違いだ」

 

「・・・あ、そうだ。なぁ多喜、ギル見なかったか?」

 

「ギル?」

 

「ああ。妙に上機嫌で森か川に向かってったみたいなんだけど」

 

「んー。少なくとも森には来てないと思うぜ。街から森に行くにはここ通らないといけないけど、ギルが通ったのはみてないしな」

 

「・・・そっか。なら、港のほうかな」

 

「そうかもなー」

 

「分かった。ありがとな」

 

そう言って多喜に手を振りながら川へと向かう。

多喜は石から送られてくるそよ風を受けながら、ぷらぷらと手を振り返してくれていた。

 

・・・

 

「・・・港までやってきたけど・・・」

 

特に変わったところは無いな。

 

「でも、水辺だからか涼しいなぁ」

 

しばらくここで休むのも良いかもしれない。

俺は港の端に腰掛け、足をぶらぶらとさせながら目をつぶった。

この大陸の川は対岸が見えないくらい広い川があるから、一見海と区別がつかないときがある。

子供たちも暑さを嫌ってか涼しいここで遊んでいるようだ。楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「おー! 三匹目だ! ギルすげーなー!」

 

「ねーねーギル、二番の竿引いてるよー。私がやってもいい?」

 

「なーギルー。まだ読み終わらないのかよー」

 

「ギルギルー、暇ー」

 

「浩太、三匹程度なら別にすごくないって。まだまだ釣るから、後で持って行け。魅々、何だって挑戦が大事だ。引いてみるといい。司、そっちの雑誌は読み終わったから読んで良いぞー。幸、後で遊んでやるから、あまり引っ張るな」

 

・・・聞き覚えのある名前と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

ちょうど港の先端で、子供に囲まれる金色の男が、黄金の竿を四本立てながら、仁王立ちしていた。

間違いない。あそこにいるのが、この暑い中捜し求めていた人物だ。・・・だが。

 

「・・・なんで釣り・・・?」

 

疑問に思いつつ再びギルの様子を見る。

数人の子供に囲まれて、当たりのきた竿を子供に引かせたり、釣った魚をあげたりと、いつも優しいギルがさらに優しくなっている。

子供には特別優しいのか、釣りの時は上機嫌になっていろいろとはっちゃけているのか・・・。

 

「この川は結構な魚が釣れる。もう少し中央に近づけば、もっと大物がいるだろうな。今度は船でも持ってくるか」

 

「船ー! 乗りたい!」

 

「船釣りかー。ギルー、父ちゃん呼んでもいいかー?」

 

「ギルギルー、船のそうじゅうしたーい!」

 

「船って面白いー?」

 

再び子供に囲まれるギル。ギルが何か言うたびに、子供たちから引っ付かれたり絡まれたりしているようだ。

・・・すごい人気だな。やっぱり民の中で人気ナンバーワンの将なだけある。

 

「・・・とりあえず、今日は帰ろう」

 

なんだか、あのテンションのギルとはかかわりあいたくない。

はっはっはー! と大笑いしているギルを尻目に、俺は港を後にした。

 

・・・

 

最近、とてつもなく暑い。

サーヴァントである俺にはあまり気にならないのだが、月たちは夜寝苦しいらしい。

俺も生前の経験からその気持ちがとてつもなく分かる。この体を手に入れてなければ、暴れていたかもしれない。

しかし、月はこの暑い中俺の隣ですぅすぅと寝息を立てている。何でも、俺を隣に感じていたい、とのことだ。

たまに、だが、月とは逆の方向に詠がいることもある。今日はいないようだが。

 

「・・・すごい汗だな」

 

暑さの所為か、月の額には汗が浮かんでいた。

それを拭いながら、寝台から降りる。

その際、布団がめくれて何も身に着けていない月の身体が見えてしまったので、そっと布団をかけなおす。

最近月は響や孔雀に変なことを吹き込まれているらしい。以前下着姿で布団に包まり待機していたのも、孔雀の入れ知恵らしい。

後で孔雀を問いたださねばならないだろう。

そんなことを考えながら着替えていると、扉が開かれた。

 

「ギル、今日の政務のことなんだ・・・け・・・ど・・・」

 

「ん? 何か問題でもあったか?」

 

「ば、ばばばばばばば・・・」

 

「ば?」

 

「バッカじゃないの!? 着替えてるなら着替えてるって言いなさいよ!」

 

「・・・んな無茶な」

 

「うっさい! ヘンタイ!」

 

詠は大きな音を立てながら扉を閉める。相当恥ずかしかったらしく、耳まで真っ赤になっていた。

うーむ、やっぱり詠は照れてる姿が可愛いよなぁ。

 

「へぅ・・・ギルさん、おふぁようございます・・・」

 

詠が照れながら強がっている姿を妄想しながら服を着ていると、月が目をこすりながら寝台の上で体を起こした。

 

「おはよう、月。起こしちゃったか?」

 

「いえ・・・。あ、あの・・・」

 

「ん?」

 

「きょ、今日は何かご予定がありますか?」

 

「予定? ・・・さっき詠が来て、何か用があるみたいなことを言ってたから、それ次第かな」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

明らかにしょぼん、とした顔で自分に掛かっていた布団をくしゅくしゅと弄る月。

何かお気に召さないことがあったらしい。

 

「? ・・・まぁいいや。なんにせよ仕事は午前中に終わるだろうし、一緒に昼でも食べるか」

 

月の昼休みまでに終わらせればまったく問題は無いな。

どうだ? と月に聞いてみると、月はさっきまでのしょんぼりした顔と打って変わって一瞬で嬉しそうな顔を浮かべた。

 

「はいっ! 是非、ご一緒させてください!」

 

あー・・・なんだか、月に犬耳と犬の尻尾をつけたくなってきた。

どう見ても今の月は尻尾を振る犬である。こう、撫で回してから抱きつきたくなる感じとかそっくりだ。

 

「よかった。それじゃあ、昼休みになったら迎えに行くよ」

 

「はい」

 

微笑む月にそれじゃあ、また後でと声をかけてから、部屋を出る。

部屋の外では、壁に寄りかかった詠が腕組みをして待っていた。

とんとんと腕を叩いている指が詠の苛立ちを表現しているようだ。

 

「遅い」

 

「悪いな。ちょっと手間取ってた」

 

「ふん。・・・ほら、行くわよ」

 

「ん。そうだ、手つないでいくか」

 

俺がそう言って詠の手をとると、詠は全身をびくりと震わせて驚きをあらわにした。

 

「な、なに勝手に手繋いでるのよ!」

 

「まぁまぁ。あまり大声出すと暑くなるぞ」

 

「うぅ~・・・」

 

恨めしそうな声を出しつつ、それでも手を離さないのはやっぱり詠らしいと思う。

政務室へ向かう途中、俺の顔を見つめるくせに、俺と目が合うと慌てて視線をそらす詠を存分にからかった。

今日も良い一日になりそうだ。

 

・・・

 

「ふんふんふふーん」

 

「んにゃ? 月ちゃんご機嫌だね。なんかあったの?」

 

「え? ・・・あ、えっと・・・」

 

「・・・なんかあったみたいだね。その様子を見るに・・・ギル関係か」

 

「へぅっ!?」

 

「そういえば最近は月と詠でギルの部屋に入り浸ってるみたいじゃないか。いやはや、この暑いのによくやる」

 

「ばっ! ぼ、ボクはそんなことしてないわよ!」

 

「ほっほう?」

 

慌てて反論した詠に、孔雀が詰め寄る。

 

「『ボクは』? 気になるなぁ。じゃあ月は何してるのかなぁ。何で月がしてることを詠が知ってるのかなぁ・・・?」

 

「あ、あう、し、ししし・・・知らないっ!」

 

そういって部屋を飛び出してしまった詠を見送りながら、孔雀は呟く。

 

「あ。・・・いじめすぎたか」

 

いやー、ついやりすぎちゃうよね、と後頭部をかきながら響に向かって笑いかける孔雀。

 

「んまぁ、詠ちゃんの慌てる姿って可愛いからねー。分からないでもないよ?」

 

でもま、やりすぎだよねー、と冷静に響に責められ、うっ、と言葉に詰まる孔雀。

そんなやり取りに月は苦笑を浮かべるしかないが、自分の話題から外れて少しほっとしていた。

 

「・・・ま、それはそれとして」

 

「そうだね。それはそれとして」

 

先ほどの雰囲気から一転、にやにやと笑う響と孔雀。

 

「この暑いのに、夜な夜なギルと何をしてるのか、聞いてみたいなー」

 

「この暑いのに、詠ちゃんと一緒になってギルさんと燃え上がっちゃってるのかなー?」

 

「あ、あははー・・・。へぅぅ、助けて、ギルさぁん・・・」

 

休憩時間のほとんどを使って、月は最近アーチャーの部屋で何をしているのか、大部分を白状させられた。

 

・・・

 

「月ー?」

 

月が昼休みに入ったのを確認してから、昼飯を食べるために迎えに来たのだが・・・。

 

「あ、ギルさーん!」

 

「レディを待たせるものじゃないよ、ギル」

 

「お、遅かったじゃない!」

 

「へぅ、ごめんなさい、ギルさん」

 

侍女組が全員集合していた。なんじゃこりゃ。

 

「・・・どういうこと?」

 

「あの・・・」

 

おずおずと前に出た月からの説明によると、最近俺の部屋に入り浸っていた月と詠のことを根掘り葉掘り聞かれ、さらについでに今日の昼の予定も聞かれてしまった。

孔雀はその昼食について行こうと言い出し、響もノリノリで賛成。後でその話を聞いた詠も参加することになり、こうして侍女組四人が集まったらしい。

 

「そっか。ま、たまにはこういうのもいいだろ」

 

また今度、埋め合わせするからな、と言いながら頭を撫でる。月が残念そうにしているのは、たぶん二人っきりじゃなくなったからだろう。

それくらい、俺にだってわかるのです。もう誰にも鈍感とは言わせない! 

 

「は、はい・・・!」

 

案の定、嬉しそうにする月。よしよし、俺の判断に間違いは無かったようだ。

 

「さて、それじゃ昼食に行こうか。どこで食べようかなぁ」

 

「んー、そういえばお城出てちょっといったところに新しく出来たお店あるんだけど、そこ行ってみない?」

 

おや、そんな情報知らないぞ。

新しい店なんか出来てたんだな。

 

「じゃあ、そこにするか」

 

「おー!」

 

メイド服を着た少女三人と執事服の少女に囲まれながら、日差しの下を歩く。

今日はまだ風があるので過ごしやすい。熱中症で倒れることも無いだろう。

 

・・・

 

「あれ?」

 

「どうかしましたか、隊長」

 

「いや・・・あっちから歩いてくるの、ギルじゃないか?」

 

「ギルの兄さんやて? ・・・なんか、すごい光景やな」

 

「・・・なんていうか、すごい王様っぽいのー・・・」

 

沙和や真桜の言うとおり、通りの向こうから歩いてくるギルの姿は半端じゃなかった。

メイド服の少女三人と執事服を着た少女一人の計四人に囲まれながら歩いてくるギルは、身にまとう王気(オーラ)の所為で、人ごみをモーゼのように割って歩いてくる。

ギル自身は四人と談笑しながら歩いているため気づいていないのだろうが、将の散歩、というよりは王の凱旋といった雰囲気をかもし出している。

・・・昨日見た釣りしているギルとは似ても似つかないな、と思いながらギルを見ていると、ギルもこちらに気づいたらしい。

気さくによお、と手を上げながら近づいてくる。

 

「一刀じゃないか。巡回か?」

 

「ん、あ、ああ」

 

少し緊張してしまったようだ。言葉がうまく出てこない。

・・・なんでいつもと違うんだろう、ギル。

 

「今日はなんかあったのか? その・・・王気(オーラ)が出てるけど」

 

遠まわしに聞くのも変なので、直球で聞いてみた。

ギルは首をかしげながら、何か変か? と逆にこちらに聞いて来る始末。

 

「・・・いや、ほら、いつもは一人なのに、今日は大勢連れてたり、人ごみを割って歩いてきてたし・・・」

 

俺がそこまで説明してようやく気づいたのか、ギルはきょろきょろと周りを見渡して、しまった、とつぶやいた。

 

「カリスマ切るの忘れてた。みんなと出かけるからって浮かれてたなぁ」

 

そう言って目をつぶり、ふぅと短く息を吐くと、先ほどまであふれ出ていた重みのようなものが和らいだ。

完全に無くなった訳ではなく、ギルからは依然として人知を超えた存在であると証明するかのような『何か』が漏れていたが。

 

「教えてくれて助かったよ」

 

にこりと笑いながらそう言ってくるギル。

うーん、こういう人当たりのいいところとかがモテる秘訣なんだろうか。

メイドと執事少女を侍らせるなんて正直羨ましいぞ、と思っていたが、うん、ギルぐらいの器量がないと無理なんだなぁと再認識した。

俺も、凪たちに愛想をつかれないような隊長でいないとな、なんて気合を入れなおしてみる。

 

「いやー、どうりで道が通りやすいわけだ。そりゃ人がいなきゃ通りやすいよな」

 

少しだけ恥ずかしそうに笑うギルに俺も笑いを返しながら、さっきの言葉を思い出した。

みんなと出かけるといっていたが、どこかへ行くのだろうか。

聞いてみると、ギルはああ、そうだぞと言って

 

「これからみんなで昼飯だ。一刀たちも一緒にどうだ? 奢るぞ」

 

一瞬、心を揺さぶられた。

最近沙和や真桜、たまに凪に昼飯を奢ってあげている所為か、俺の懐はすでに若干寂しい。

その点、ギルは黄金率というスキルで特技が金持ちとかふざけたことを言い出すくらいに金がある。

以前数え役満姉妹に気前良くおごっていたのを見て、やっぱり真似できないなとギルを見直したことさえあるのだ。

そんなギルからのお誘い・・・。

 

「そ、そんな・・・。ギル様に食事を奢っていただくなんて恐れ多いこと・・・!」

 

「でもでも、お腹空いたのー」

 

「そやなぁ。そろそろ昼時やしなぁ」

 

「おい、沙和、真桜。お前たち・・・」

 

そこまで言って、凪のお腹からくぅ、と可愛い音がした。

 

「――っ!」

 

顔を真っ赤にしてお腹を隠すが、たぶんそれじゃ意味が無いと思う。

ギルは柔らかく笑いながら、遠慮するなよ、と凪を説得する。

 

「ま、今日はお言葉に甘えようぜ、凪」

 

「た、隊長・・・。うぅ、それじゃあ、ごちそうになります・・・」

 

「おう、任せろ」

 

それからギルは侍女の少女たちにいいだろ? と確認を取っていた。

もちろん、と即答してくれたのは少し嬉しかった。

 

「で、どこに行くんだ?」

 

隣を歩くギルに聞いてみる。隣と言っても、ギルの周りにはすでに四人の少女がいるので、少し離れているのだが。

 

「ん? 響が新しい店を見つけたとか言ってたから、そこに行ってみようかなって」

 

「へえ。新しい店かぁ」

 

「あ、あれだ!」

 

ギルの一歩前を歩いていた響が指を指した。

そこには、大きな文字で泰山、とだけ書かれていた。

 

「・・・俺、すごくいやな予感がしてきたんだが」

 

「? どうしたんだよギル」

 

「いや、うん、俺の勘違いだよな、たぶん」

 

顔が強張り、変に汗をかき始めたギルに首を傾げつつも、泰山へと入店した。

 

「いらっしゃいませー」

 

店員さんに人数を告げると、すぐに案内してくれた。

案内された席は二つ机が並んでいる所で、やはりというかなんと言うか、ギルの周りには四人の少女が集まっていた。

ギルの隣には月ちゃんと詠ちゃん。対面には響と孔雀ちゃんだ。

いまだこわばった顔で、ギルは採譜をめくる。

 

「お、凪、これ見てみ。激辛マーボーやて」

 

「おお・・・。じゃあ、私はこれで」

 

そう言った凪を、ギルはありえないものでも見るかのように見つめていた。

その後何かぶつぶつつぶやいていたが、俺には外道とかコンゴトモヨロシクといった断片的な言葉しか聞き取れなかった。

 

「うーん、俺はチャーハンで良いかな。月たちは?」

 

「んー。じゃ、私もチャーハン!」

 

「ボクはこの日替わり定食っていうの貰おうかな」

 

「ええっと、私はギルさんのチャーハンを少し貰えれば大丈夫です」

 

「なんだ、あーんしてほしいのか?」

 

「へぅっ!?」

 

にやにやと笑うギルが、月ちゃんをからかう。

顔を真っ赤にした月ちゃんが両頬に手を当てて恥ずかしがる姿を見て、ギルは楽しそうに笑いながら月ちゃんの頭を撫でた。

 

「ぼ、ボクも」

 

「ん?」

 

「ボクも・・・ギルから、貰いたいな。・・・ダメ?」

 

「駄目な訳ないだろ。ふむ、じゃあ俺のチャーハンは大盛りにしたほうが良いかな」

 

少し考え込んだギルだが、すぐに顔を上げてこちらに顔を向ける。

 

「で、一刀たちは決まったか? 遠慮せずにじゃんじゃん食べてくれよ」

 

「えーっと、じゃ、俺は普通の麻婆豆腐に青椒肉絲」

 

「私は先ほどの激辛麻婆豆腐で」

 

「んじゃうちは・・・焼売と・・・」

 

こうして遠慮を知らない真桜と沙和が結構な量を頼んでいたが、ギルは良く食べるなぁ、と笑うだけだった。

・・・いやー、あれが余裕っていうやつか。すごいなぁ・・・。

しばらくして、みんなの前に料理が並んでいく。

おお、良い匂いだ。食べなくてもおいしいと確信できる。

 

「よし、じゃあいただこうか」

 

ギルの音頭で全員が食べ始める。

大量に並んだ料理を前に嬉しそうな顔をする凪たちと、ギルにあーんされて嬉しそうにしている月ちゃんと詠ちゃん。

・・・詠ちゃんがあんなに乙女チックな表情をするのを、はじめてみた。

 

「ギルさんギルさん、私にもあーん」

 

「まったく、響もか。ほら、あーん」

 

「えへへ・・・あーん。はむっ」

 

テーブルに乗り出すようにしてギルからチャーハンを貰った響は、ギルの両隣にいる二人と同じように幸せそうな顔をして席に戻る。

それを見て母親のように微笑んだ孔雀ちゃんが・・・。

 

「よし、次はボクだね。あーん」

 

「孔雀も? 珍しいこともあるもんだ。ほら、あーん」

 

「あむっ」

 

響と同じようにしてギルからチャーハンを分けてもらった孔雀は、いつも浮かべている微笑みからさらに少しだけ口角を上げて席に戻った。

もぐもぐと口を動かす孔雀はいつものようなクールさが抜けて、少女らしい表情を浮かべていた。

 

「うん、おいしいな」

 

それを見届けたギルは、自分でもチャーハンを掬って口に運ぶ。

そんなやり取りを見ていた真桜が、怪しい笑みを浮かべ、自分の目の前にある皿から焼売を取ってギルの方を向く。

 

「ギルの兄さん、焼売も良い感じや。食べてみ?」

 

そう言って真桜はほら、あーん、とギルに迫る。

両隣・・・さらには対面からの恨めしそうな視線に気づかないまま

 

「お、本当か?」

 

なんて言いながら真桜から焼売を貰っていた。

その瞬間の威圧感の増加は、食事を取りに来てたのにいつの間にか戦場に迷い込んだようだった。

 

「た、隊長!」

 

「ん? どうしたの、凪」

 

「え、えっと、その・・・あ、あーん・・・」

 

それに触発されたのか、凪までそういいながら麻婆豆腐を乗せたレンゲを差し出してきた。

照れながら差し出してくれる凪の可愛さに和みながら、その麻婆豆腐をぱくっ、と食べる。

 

「おー、辛いのもなかな・・・か・・・?」

 

最初はピリ辛程度だった辛さが、口の中で爆発する。

 

「か、らっっ!?」

 

ありえないほどの辛さ・・・いや、痺れが舌を攻撃してくる。

こんなもの、凪は涼しい顔で食べてたのか・・・!? 

 

「一刀!? ・・・全く、外道麻婆を食べたのか。仕方ないな・・・」

 

ばたばたと暴れ始めた俺に一瞬驚いた声を上げたギルも、すぐに状況を把握してくれたらしい。

宝物庫の中から瓶入りの牛乳を取り出し、手渡してくれる。

辛い料理を食べた後には牛乳です。辛いカレーの後も、牛乳がよいでしょう。

 

「んぐ、んぐ、んぐ・・・ぷはーっ!」

 

俺の反応がすごかったからか、他のみんなも凪の頼んだ麻婆豆腐に興味を持ってしまい、全員が一度ずつ悶絶して、ギルの牛乳のお世話になった。

まぁ、なんだかんだ言いつつも楽しい食事会になったと思っている。

 

・・・




「今夏だから八月くらいだろ? ハロウィンは10月なんだし、今からキノコ用意してたら腐らないか?」「何いってんだよ、腐って変なにおいした方が雰囲気出るじゃねえか」「絶対に人に投げたり食べさせたりするなよ?」

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