真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「こっちに来る前のギルの趣味って何だったんだ? ゲームとか?」「貯金」「・・・実益も備えたすばらしい趣味だな」「貯金箱集めるのも好きだったなぁ。豚の貯金箱に、賽銭箱型、ああ、ポストの形した貯金箱もあったかなぁ」


それでは、どうぞ。


第二十三話 趣味と実益の間に

「は、はぅぅ・・・こ、腰がぁぁ・・・」

 

「運動不足じゃないか?」

 

「も、もぉ! お兄さんがやめてくれないからでしょ!」

 

「いや、後半のほうは桃香のほうがやめるなって言ってきたんじゃないか・・・」

 

きっちりと覚えているぞ。

そろそろ可哀想だしやめておこうかと思ったらがっちりとだいしゅきホールドされて「やめちゃだめぇ」と切なげに言われたのを。

 

「う、うぅー! それでも!」

 

「なんて理不尽な・・・」

 

翌朝、目覚めるとともに腰を抑えだした桃香に怒られ、若干の理不尽さを感じる。

・・・加減なんてしなきゃよかったかな。今日起きれないくらいにしとけばよかった。

 

「お、お兄さん? め、目が怖いよ・・・?」

 

「・・・大丈夫、骨は拾うから」

 

「へ? なんでそんな話に・・・え、ちょ、朝からっ!? む、無理だって、腰が、それ以前に今日はお仕事がっ!」

 

「分かったよ」

 

押し倒しかけた手を止める。

桃香はほっとした表情を浮かべ

 

「わ、分かってくれた? よかったぁ。じゃあ・・・」

 

「今日は桃香の仕事、代わりにやっておくから」

 

「ぜんぜん分かってくれてなかった!? うわーん、お兄さんが獣になっちゃったー!」

 

「安心しろって。ちょっと午前中は動けなくなるだけだから」

 

「安心できないよ!?」

 

・・・

 

「と、言うわけで、今日は桃香の代わりにがんばります」

 

「は、はぁ」

 

俺の突然の言葉に、朱里がため息のような返事をする。

ちなみに、あきれた、というはぁ、ではなく、そうですか、という意味のはぁ、だ。

・・・あれ、何かデジャヴ。

 

「今日の書類はどのくらい?」

 

「ちょっと多めですね。でも、ギルさんだったら大丈夫です!」

 

「そっか。よし、じゃあはじめようか」

 

「はいっ」

 

お互いに筆を持ち、書類にいろいろと記入していく。

これから町をどう発展させていくか、盗賊や山賊などの犯罪に対してどう対処していくか、軍隊や国の施設にどれだけの金を回していくかなど、結構重要なものばかりだ。

最初のころはこんな重要な案件任せてもらえなかったが、三国統一後は俺の権限は桃香とほとんど同じになっている。

権限といっても別に何かがあるというわけでもないけれど、こうして国の重要な案件を任せられるようになったというのは、それだけ信頼されているのだと思っていいのだろう。

 

「んー」

 

たまにこうして朱里が唸ったりする以外はほとんど音のない執務室でしばらく仕事を続ける。

こうして唸っているときの朱里はあごに手を当てて真剣な表情をしているのだが、宿題に悩む子供のようで微笑ましい。

・・・実際は宿題なんて目じゃないレベルで悩んでいるのだが。

 

「・・・? ギルさん、何か問題でも?」

 

「ん、ああ、いや」

 

おっとっと。少し考え込みすぎたか。

じっと朱里を見ながら考え込んでいたせいか、視線を上げた朱里と目が合い、怪訝な顔をされてしまった。

 

「笑顔の朱里もいいけど、仕事中のまじめな顔も朱里に似合ってるな、と思って」

 

「は、はわわっ。か、からかわないでください・・・」

 

半分くらい本心の言い訳をしてみると、朱里ははわわ、と慌てながらうつむいてしまった。

どうやら照れてるようだ。うむ、良いなぁ。

 

「ま、まじめに仕事してくださいよぉ、もう」

 

「分かった分かった。よし、頑張ろうか」

 

「うぅ、私は最初から頑張ってますっ」

 

ちょっとむくれた朱里の言葉に笑みを浮かべながら、俺は仕事を再開する。

・・・そういえば、後で桃香の様子も見に行かないとな。

 

・・・

 

「どうだ、調子は」

 

「ううぅーっ、お兄さんのばかぁっ! ちょっと前にようやく起き上がれるようになったばかりだよぅ!」

 

「そっか。案外早かったな」

 

昼くらいまでは駄目っぽそうだったんだが。

 

「まぁ、俺も反省してるからさ。機嫌直してくれよ」

 

すぐに理性が吹っ飛ぶのは大分悪い癖だ。

・・・こんな美少女たちに迫られて理性を吹っ飛ばされないのは悟りを開いたセイヴァークラスの猛者だと思う。

 

「むぅ・・・じゃあ、今日は私の言うこと聞くこと! 今日は私が王様ですっ」

 

「王様って言うかどっちかって言うとお姫様?」

 

桃香は王って言うよりは姫のほうが似合っているような・・・。

 

「どっちでもいーの! とりあえず、執務室まで連れてって」

 

「・・・姫は姫でも我が侭姫だな・・・」

 

「?」

 

「・・・天然か」

 

とりあえずお姫様ということなので、お姫様抱っこで行きましょう。

よいしょ、と桃香を横抱きにして、執務室までレッツゴー。

 

・・・

 

「あれ、朱里がいないな」

 

「今日は朱里ちゃんとお仕事だったの?」

 

「ああ」

 

「・・・ふぅん?」

 

「何だよ、その目」

 

「朱里ちゃんと、二人っきりだったんだぁ・・・」

 

「やましいことは何もないからな!」

 

「べっつにー? 私は何も言ってないよーだ」

 

・・・不機嫌である。

お姫様抱っこされている間はあんなに上機嫌だったのに、一瞬で不機嫌である。

理由は大体分かるが、さっきまでと違いすぎやしませんか。

 

「はわ、ギルさん。あ、桃香様。大丈夫なんですか?」

 

「あ、朱里ちゃん。おかえりー」

 

「ただいまです。あの、ギルさんからは・・・えと、腰を痛めたとお聞きしているんですが・・・」

 

「そーなんだよ! ちょっと聞いてよ朱里ちゃん!」

 

「はわわっ、落ち着いてください桃香様っ」

 

桃香に両肩をつかまれ、前後に揺すられながらも、何とか桃香を落ち着かせようとする朱里。

それから、何とか落ち着いた桃香から一連の話を聞き、真っ赤になりながらもこくこくとうなずきを返していた。

・・・まぁ、今日は俺が全体的に悪いから二人が話し込んでいる間に仕事進めているが、本当はもう休憩時間終わってるからな?

 

「そ、それでその後は・・・?」

 

「その後はねー、こう、片手で・・・」

 

「はわわっ!? そ、そんな大胆な・・・」

 

・・・そして、本人の目の前でプレイ内容暴露しないでほしい。

しかも、朱里は真っ赤になりながらメモってるし。やめなさい。

 

「一人だとお兄さんに腰が駄目になるくらいいじめられちゃうから、雛里ちゃんと一緒にしてもらったほうがいいよ」

 

「はわわ・・・経験者のお言葉、参考になりますっ。・・・雛里ちゃんと、二人でしていただく、と・・・」

 

ここにいないのに巻き込まれてしまった雛里に少し同情しながら、最後の書類に手を伸ばすのだった。

その上、俺はアレの時に女の子の腰を痛めるくらい苛める人間だと思われているのが若干不名誉ではあるが、まぁ反論出来るはずがないので黙っておく。

火に油を注ぐ趣味はないのです。

 

・・・

 

結局、朱里にいろいろと吐き出して満足したのか、桃香のお姫様モードは終了してしまい、午後からは自由の身になった。

・・・といっても、自分の分の書類はすべて処理してしまったので、仕事はない。

 

「さて、どうするかな・・・」

 

意味もなく中庭をぷらぷらと歩く。

あわよくば月にでも会えないかなぁと思ってのことだ。

 

「おや? これはこれは、ギル殿ではないですか」

 

「ん? ・・・あれ、星。今日は仕事ないのか?」

 

・・・そういや、星が仕事してるところなんて見たことないな。

でもまぁ、きっと上手いことやっているのだろう。

 

「はは、もう愛紗に替わって貰っております」

 

「ああ、そうだったのか」

 

「ギル殿こそ、仕事はないのですか?」

 

「俺も終わらせてるよ。終わらせすぎて、午後から暇なんだよ」

 

「なるほど。・・・それならちょうど良い。私も暇なのです。一緒に酒でも楽しみませぬか?」

 

「んー、ま、いっか」

 

いまさら月を見つけてもすでに仕事中だろう。

ならば、星と交友を深めるのもいいかもしれない。

また、酒でも飲みたいと思っていたところだし。

 

「よし、それじゃあどこに行こうか?」

 

「ふむ・・・眺めのいい城壁の上など、良いかと」

 

「良いね。早速行こうか」

 

以前星と呑んだ思い出の場所でもある。

断る理由もないので、嬉しそうに前を歩く星について行ったのだった。

 

・・・

 

城壁の上。

町が一望できる場所を星に案内してもらい、宝物庫から椅子とテーブルを取り出す。

二人とも町を見下ろせるように、椅子は隣同士並べておく。

宝物庫の中のものなので、品質は最上級である。

 

「いつ見ても、その蔵は便利ですな」

 

「はは、俺もそう思うよ」

 

神代のワインとグラスを取り出し、一つを星の元へ。

 

「ここまで至れり尽くせりだと、少ししり込みしてしまいますな」

 

「何をいまさら。前に振舞ったときは一気飲みしたくせに」

 

「・・・まさか、あんなに何でもないもののように神代の酒なんて振舞われるとは思ってなかったもので」

 

「それもそうか」

 

「そうそう、ギル殿にこんな良い酒を用意してもらったのです。私からは良いつまみを提供させてもらいましょう」

 

・・・まぁ、そうなるのは予想通りだ。

何が出てくるのかも、大体予想通りである。

 

「この、メンマを」

 

「・・・やっぱりか」

 

「? 何か言いましたかな?」

 

「いいや、美味しそうだって言ったんだよ」

 

「ほほう、さすがはギル殿。見ただけで分かりますか。このメンマ、自慢の一品でして」

 

それからしばらく、ワインを飲みながら町を見下ろしつつ、星のメンマ談義を聞き流した。

いやぁ、いつ呑んでも美味いワインだ。

転生してからというもの、食事や酒は大分舌が肥えてきて良いものが分かるようになってきた。

特にワインはこうして神代のものを飲んでいるため、自分の中での美味しいワインのハードルが大分高くなっていると思う。

 

「・・・というわけなのですよ! ・・・ギル殿?」

 

「ん、ああ、そのとおりだな」

 

「分かってくれますか! いや、愛紗なんかはもう良い、なんていい始める始末でして・・・」

 

そりゃあ、何十回も聞かされてたら嫌にもなるよなぁ・・・。

再び話し始めた星をスルーしつつ、メンマに箸をのばす。

 

「ん、美味しい」

 

今はちょうど、午後三時ほど。

おやつとしてはちょっと濃すぎるが、別に気にすることはないだろう。

・・・あー、大分こっちになじんできたなぁ、俺。

 

「・・・とすればいいと気づいたのです!」

 

「なるほど。・・・とりあえず、食べれば?」

 

「む、そうですな」

 

そういって、メンマに箸をのばす星。

ようやく普通に話せそうだ。

 

「んー、やっぱりメンマには焼酎とかの方が良いかなぁ」

 

なんとなく、メンマにはワインより焼酎ってイメージだけど。

 

「いやいや、私はこのワインと一緒に食べるのも良いものだと思いますぞ」

 

「そういってくれると助かるよ」

 

「・・・そういえば、最近はいろいろと頑張っておるようですな?」

 

「頑張るっていうと?」

 

「英霊・・・サーヴァント、でしたか。彼らとなにやら特訓をしているようで」

 

「あー、まぁ、そうだな。特訓といえば、特訓か」

 

「いつもどこかへ行っているようですが・・・その、秘密特訓の類なのですか?」

 

妙に瞳をキラキラとさせながらずずい、と迫ってくる星。

何だ、何が星の琴線に触れたんだ・・・?

・・・ああ、秘密特訓。そういえば華蝶仮面とかやってたな、この人。

現代で言う、特撮好きみたいなものだよな。秘密特訓という響きに何か惹かれるものがあるのだろう。

 

「あー、秘密でもないんだけど、この世界で行ってるわけでもないというか・・・」

 

「?」

 

「まぁ、見たいなら今度セイバーに頼んでみるよ。人一人ぐらい増えても、固有結界には特に響かないだろうし」

 

「ほほう・・・それは楽しみですな・・・」

 

・・・まぁ、特に迷惑もかけてないみたいだし、しばらくは華蝶仮面の活動を止めることもないだろう。

 

「それでは、しばらくはギル殿の訓練に付き合わせていただきますかな」

 

「しばらくって・・・ほかの訓練にも来る気なのか?」

 

「もちろん。どのような訓練をしているか、すべて見なければ」

 

「・・・別に良いけどさ、参考にならなくても怒るなよ?」

 

「そこまで狭量ではありませぬよ」

 

くく、と笑いながらグラスを傾ける星。

それならいいんだけど。

 

「頑張っているといえばもう一つ・・・あちらのほうでも、頑張っているようですな?」

 

「・・・そっちが本命か」

 

「くっくっく、何のことかな?」

 

そういいつつ、隣に座る俺の太ももに手を伸ばし、なでてくる星。

 

「はぁ・・・そういうのは、日が暮れてからな」

 

そういって手をどけようとするが、ひらりひらりと蝶々のように避けられる。

 

「おいこら、避けるな」

 

「はっはっは、頑張ってくだされ」

 

「・・・もういい、好きにしろ」

 

「ふふふ、それでは好意に甘えることにしましょう」

 

ため息をつきつつ俺もグラスを傾ける。

その間も太ももには星の手の感触があるが、まぁ気にしないことにしよう。

しばらくほっとけば満足するだろ。・・・って、おい!

 

「そこは駄目だろ!」

 

「おや? 好きにしてよろしいのでは?」

 

「そこは不可侵ゾーンだろう!」

 

「ぞーん?」

 

「・・・不可侵域だろ!」

 

「なんと、これは異なことを。その不可侵域を何人の娘が見たことやら」

 

「くっ・・・いやいや、それは・・・」

 

「ならば、私が侵入してはいけない理由にはなりますまい?」

 

「何てことだ・・・屁理屈を言わせたら星に勝てる奴いないな・・・」

 

「はは、お褒めの言葉として受け取っておきます」

 

そういうと、星は俺の太ももに手を置いて、そこから身を乗り出して俺に顔を近づけてくる。

 

「ま、良いではないですか。お嫌いではないのでしょう?」

 

「そりゃあ、好きか嫌いかで言えば好きなほうだけど・・・」

 

あ、駄目だ。大分外堀埋められてきた・・・。

 

「ならば・・・」

 

「ああもう」

 

仕方ない、と受け入れかけたその時。

 

「ギルさぁんっ。どこですかー」

 

「・・・ちっ」

 

雛里の声が聞こえてきた。

 

「桃香様がおよびですよぉ・・・」

 

「・・・残念だったな、星」

 

「まぁ、まだ機会はありまする。・・・油断すれば、すぐにでも」

 

「はいはい」

 

ま、星のからかいから逃れられただけでよしとしようか。

 

「雛里、今行くぞー」

 

「あわわ、ギルさん、そんなところに・・・あわっ! 飛び降りたら危ないですよぉっ・・・!」

 

・・・

 

「にゃー」

 

猫である。

 

「にゃーにゃー」

 

どう見ても、猫である。

 

「にゃーにゃーにゃー」

 

どこを見渡しても、猫である。

 

「ご飯欲しいのにゃー」

 

「・・・この軍勢は、美以のか」

 

「? ぐんぜー、なのにゃ?」

 

「いや、なんでもない」

 

この量産型達はきっとミケトラシャムと同じところから来た娘たちなのだろうな・・・。

 

「兄なのにゃー!」

 

「なのにゃー!」

 

「なのにゃぁ・・・」

 

どこだ・・・どこにミケトラシャムがいる!?

美以以外の見分けが付かんぞ・・・!

 

「・・・美以、何でこんなに部下を連れてきたんだ?」

 

「ちょーれんをするから、部下を一杯連れて来いって言われたのにゃ!」

 

「そうか・・・調練か。誰が呼び寄せたんだろうなぁ」

 

「・・・恋が、呼んだ」

 

「恋?」

 

「ん。・・・南蛮の兵も鍛えないと」

 

・・・まぁ、南蛮自体の戦闘力はその物量と奇妙さが主だからなぁ。

武器もお世辞にも良い物とは言えないし。

 

「武器か」

 

「? にゃー?」

 

俺の目に入ってくるのは、木を削っただけの棍棒、木で作られているパチンコ、木の棒に石をくくりつけただけの斧というどう見ても武器というより子供が作った玩具のようなものだ。

これは、武器の改善をしなければならないか・・・?

 

「ま、それは後で考えるとして。恋、きちんと調練するんだぞ」

 

「ん。わかってる」

 

「それならいいか。・・・ちょっと、見て行こうかな」

 

「・・・ん」

 

首肯されたので、木陰に座って見学することに。

木の近くまで寄ったとき、傍の茂みから人の気配が。

 

「お、お猫様・・・」

 

「・・・明命、なにやってんだ?」

 

「はぅっ!? ぎ、ギル様!?」

 

「こんにちわ」

 

「あ、こ、こんにちわ!」

 

「・・・大体分かるけど、何でここに?」

 

「そ、それはその・・・お猫様がたくさんいらっしゃるので、なぜかなぁと思いながら、観察しています!」

 

ああ、やっぱりか。

猫に目がないからなぁ、明命は。

 

「今調練中らしいから、参加してくれば?」

 

「ええっ!? そ、そんな、恐れ多いです・・・!」

 

恐れ多いと来たか・・・。

 

「なら、こっちにおいでよ。そんな茂みから見ることもないだろ」

 

ぽんぽんと俺の隣に来るように言ってみる。

 

「あぅあぅ、それもそれで恐れ多いというか・・・」

 

「いいからいいから。ほら、こっちこっち」

 

「あうぅ・・・し、失礼します・・・」

 

ちんまりと隣に座った明命。

しばらくは居心地悪そうにしていたが、調練をしている美以たちを見ているうちに目をキラキラさせだした。

・・・これなら、茂みの中よりは楽しめるだろう。

 

「はうあう・・・お猫様、もふもふしたいですぅ・・・」

 

・・・

 

「今日の調練は、終わり」

 

「終わったのにゃー!」

 

「疲れたにょ・・・」

 

「眠たいにゃ・・・」

 

調練中もにゃーにゃー騒がしかったが、調練が終わってからもにゃーにゃー騒がしいようだ。

 

「兄ー!」

 

終わったとたんにこちらに駆け寄ってくる美以。

 

「ちょ、突撃はまず・・・げふっ」

 

座ったままでよけられなかった俺の腹に、美以が突っ込んできた。

 

「みぃ、頑張ったのにゃ! ほめるのにゃ!」

 

「あー、うん、えらいえらい」

 

美以たちにしては珍しく、きちんと人のいうことを聞いて調練に当たっていたと思う。

いつもはあっちへふらふらこっちへふらふら、興味のあるものへ優先的に突撃していく美以たちだが、こういうときはきちんということを聞くようだ。

 

「うにゃにゃー・・・」

 

「あー! 大王しゃま、ずるいのにゃ!」

 

そんな声とともに、ミケトラシャムも俺に突撃してきた。

 

「ばっ、三人はまず・・・がふっ」

 

「お、お猫様が・・・うらやましいですっ」

 

「・・・助けろよ、まず」

 

俺の傍で目をキラキラさせるだけの明命に突っ込みをいれる。

 

「・・・ほら、ミケ、トラ、シャム。隣のお姉さんの膝もあいてるぞー」

 

「にゃー?」

 

「にょー?」

 

「にゃぁ・・・」

 

俺の言葉に、ちらり、と明命に目をやるミケトラシャム。

期待に目を輝かせた明命が自身の膝をぽんぽんと叩く。

 

「・・・こっちのほうがいいのにゃ」

 

「みんめーは、小さいのにゃ」

 

「にい様のほうがいいのにゃ」

 

「が、がーん・・・」

 

「・・・おいおい」

 

三人に容赦ないことを言われ、明命がショックを受けている。

・・・というか、口でがーん、っていう人初めて見たよ。

 

「仕方ないなぁ。ほら」

 

よいしょ、とトラの脇に手をいれ、持ち上げる。

 

「にゃにゃ!?」

 

「ほら、明命」

 

「わ、わわっ、お猫様ですっ!」

 

「にゃー・・・そっちが良かったのにゃあ・・・」

 

「どっちみち、俺一人に四人は不可能だから。ほら、ミケも」

 

「にょー・・・」

 

脇に手を入れて、ミケを持ち上げる。

何をされるか分かっているからか、諦めたような残念なような声が聞こえる。

 

「お猫様がお二人ですっ」

 

「しばらくしたら交代な」

 

「・・・それなら仕方ないのにゃ」

 

「みんめー、いっぱいなでなでするにょ」

 

「はいっ! もちろんです!」

 

「じゃあ、こっちは兄になでてもらうにゃ!」

 

「にい様、おなか、なでなでしてほしいにゃん」

 

俺の首に抱きつく美以と、俺の脚を枕に、ごろん、と腹を見せて転がるシャム。

言われたとおりに美以の頭とシャムの腹を撫でる。

 

「ん~にゃぁ・・・きもちーのにゃぁ・・・」

 

「んみゃぁ・・・おなか、ぽかぽかにゃん」

 

「それは良かった」

 

どうやら満足しているようだ。

隣を見てみると、明命に撫でられて嬉しそうにするミケとトラ。

明命じゃやだと言っていた割には、楽しんでいるようである。

 

「あぅあぅ~・・・幸せです~・・・」

 

「みんめー、なかなかじょうずなのにゃ」

 

「ありがとうございますっ」

 

「みんめー、こっちもなでるにょ」

 

「もちろんですっ」

 

うんうん、お猫様が撫でられて明命も幸せ、撫でてもらってミケたちも幸せ、俺の負担が軽くなって俺も幸せ。完璧じゃないか。

 

「ほれほれー」

 

「んにゃぁ・・・にい様、くすぐったいにゃぁ」

 

シャムの腹をくすぐると、くねくねと体をよじる。

嫌そうな顔をしていないので、もう少し続けるとしよう。

 

「にゃははっ・・・く、くすぐったいにゃぁ・・・」

 

おお、シャムが笑うところなんて初めて見たかもしれないぞ。

いつもは眠そうな顔をしてるところしか見たことがないから、新鮮だ。

 

「よし、そろそろ美以とシャム、交代しようか」

 

「はいっ」

 

「えー、もう交代にゃー?」

 

「にい様にもっとおなかなでなでしてもらいたいにゃぁ・・・」

 

「大丈夫。明命もやってくれるから」

 

「みんめーはなかなかやるやつにょ」

 

「みんめーもいい感じにゃ!」

 

ミケとトラの言葉に、美以とシャムも説得されたようだ。

てこてことかわいらしい動きで明命の元へと向かった。

替わりに、ミケとトラが俺の元へ。

 

「あにしゃまー!」

 

「にぃにぃ、ただいまにゃ!」

 

「あー、うん、おかえりー」

 

両サイドから俺の体に頬を擦り付けるミケとトラ。

なんだ、マーキングされてるのか?

 

「すりすりー、なのにゃ!」

 

「にぃにぃの匂い、いいにおいだにょ!」

 

「おー、そっかー。毎日風呂入ってるからなー」

 

「風呂なのにゃ?」

 

「そう。風呂。今度桃香辺りに言っておくから、入ってみるといいよ」

 

「ん~・・・ミケは、あにしゃまと一緒に入りたいのにゃ!」

 

「あー、そうだなぁ、俺と一緒はまだ早いかなぁ」

 

「早いにょ?」

 

早いというかなんと言うか・・・。

いや、娘を風呂に入れる予行演習だと思えばいいのか?

・・・いやいやいや、駄目だろう。こんなナリでも、この四人は子供じゃないんだ。

こっちの常識がちょっと足らんだけなのだから、一緒に入浴はまずい。

そして、ミケたちと入浴なんてしたら絶対に何かある。

一人でミケたちの面倒を見ることは不可能なのだ。

 

「・・・やっぱり、桃香たちと入ってもらおうかな。それでお風呂の入り方が分かったら、俺と一緒に入ろうな」

 

ま、今はこういっておけば納得するだろう。

後はなんだかんだ言ってごまかしていけばいい。

そのうち一緒に入ると言っていたことも忘れるだろう。

 

「しかたないのにゃ。とーかと一緒にお風呂はいるのにゃ」

 

「その後はにぃにぃとなのにゃ」

 

「おう、分かった分かった」

 

そういえば、この娘たちに、こっちでの常識とか教えておかないとなぁ。

この前、「けんじょーひんにゃ!」と四人が持ってきたさまざまな食べ物が、店のものを狩りと称して強奪してきたものだと知ったときは驚いたものだ。

金を払うという常識すらなかったことに気づき、慌ててその辺は教育したが・・・まぁ、これからも根気強くやっていくしかないだろう。

朱里や雛里も協力してくれるらしいし、後で紫苑にも協力を要請しておこう。

 

・・・

 

「あぅあぅ~、ギルさん、ありがとうございました!」

 

「気にするなよ。俺も、四人のうち二人を受け持ってくれて助かったんだから」

 

あの後、満足したらしい四人は連れてきた量産型たちとともにどこかへ消えていった。

・・・おそらく、南蛮にでも帰ったんじゃなかろうか。

まぁ、そんなこんなで今は明命と二人、日も暮れた城内を歩いている。

 

「それにしても、今日は嬉しいことが沢山あってよかったです!」

 

「そうか? なら、また今度美以たちが遊びに来たときは明命にも声をかけるよ」

 

「は、はいっ」

 

「いい返事だ」

 

ぽんぽんと明命の頭を軽く撫でる。

さて、この後はどうするかな。

・・・そうだ、明命をつれて晩飯でも食べに行くかな。

そう思いつき、頭に手を載せたままの明命に視線を戻す。

 

「なぁみんめ・・・い?」

 

「あぅあぅあぅあぅ・・・」

 

すると、なにやらあぅあぅとつぶやきつつふらふらしている明命が視界に入った。

おいおいどうしたって言うんだ、この娘。

 

「大丈夫か、明命?」

 

「あぅあぅ・・・はっ!? あ、えと、だ、大丈夫です!」

 

「ならいいんだけど。そうそう、今日の晩飯、一緒に食べないか? もちろん、先約があったりするなら良いんだけど・・・」

 

「はぅあっ!? お、お食事ですか!?」

 

「ああ。どうかな?」

 

「え、えと、あぅ、ご、ごめんなさーい!」

 

そういうと、明命はだだっ、と走り去ってしまった。

台詞は気の抜けたものだったが、速度は流石隠密の将というべきか、かなりの速度だった。

敏捷高そうだなぁ、呉の隠密の人たち。

 

「・・・ま、一緒に食事するのが嫌だっていう感じの逃げ方じゃなかったし、良いか」

 

どっちかって言うと恥ずかしくて、という感じだろう。

明命と亞莎には大体あんな感じの対応をされるので、あんまり気にはしていない。

詠のツン子モードをなんでもない顔でスルーで切るようになった俺に、あんまり隙はない!

 

「仕方ない。一人寂しく食事とするとしようか」

 

・・・少しだけ寂しいので、今日の晩御飯は豪勢に行こうかな。

えーっと、あっちに確か、結構良いもの出す店があったはず。

ふふふ、こういうときにカリスマやら黄金率は使うものなのさ!

べ、別にショックを受けたから美味しいもの食べて癒されようとかそんなわけじゃないんだからねっ。

 

・・・

 

「ふぅ、満足だ」

 

高級料理店で食事したのだが、何を隠そうこの店のオーナーは俺なのだ。

俺を・・・最終的には華琳すら満足させるための料理を、金に糸目をつけずに作らせている。

そのおかげか、それなりに金を持っていないとこれない店になってしまったが。

 

「・・・さて、腹も膨れたし、何しようかな」

 

夜にはキャスター先生の魔術講座が待っているが、それまでは暇だ。

・・・帰って仮眠でもとるか? いやいや、別に夜起きてまで何か用事があるわけでもないし・・・。

 

「あれ、俺ってもしかして、一人のときの暇つぶしがない人間なのか・・・」

 

そういえば、こっちでの暇つぶしは月たちと一緒に過ごすか仕事してるかだったからなぁ。

一人で時間をつぶしたことがあんまりないような気がする。

たまに一人の時間があっても、すぐに何かに巻き込まれてたし。

 

「何か、趣味を見つけるか」

 

とりあえず、実用的な趣味だといいな。

例としてあげるなら、家庭菜園とか、裁縫とか。役に立つものだ。

今の俺に役に立つものといえば・・・なんだろう。

 

「後で宝物庫の中を覗いてみるか」

 

いろいろなものの原典やらそれらの派生作品やらが入っている宝物庫なら、何かいいものが入っているかもしれない。

 

「部屋に戻って、早速捜索だな」

 

そう決意して、自室へと帰った。

部屋に戻ってからは、魔術書を探して取り出してみる。

これからキャスターに魔術を習うわけだし、それに魔術でいろいろなものが作れるだろうと思ってのことだ。

 

「お、魔術書」

 

さまざまな魔術が記述してある魔術書がぽんぽん出てくる。

おーおー、これはすごい。後でキャスターの下へ持って行ってみよう。

 

・・・

 

「・・・おいおい、これまさか、全部ギルの宝物庫の中に?」

 

「ああ。どうだ? 何か良さげなのあるか?」

 

「良さげもなにも、全部魔術書としては完璧なレベルだよ。こっちは治癒系統の魔術書、こっちは錬金術・・・おや、こっちには水魔を召還し続ける魔道書まであるじゃないか!」

 

「へぇ・・・」

 

そこまでの物とは・・・いや、正直思ってた。

だって宝物庫だもの。しかも、神様が若干いじくった疑いのある。

最近宝物庫の中には何でもあるんじゃないかと思い始めたところだ。

 

「・・・とりあえず、私でも教えられそうな錬金術からいってみようか」

 

「おーす。先生、よろしくお願いします」

 

「それじゃあ・・・お、良いのがそろってるじゃないかこの魔術書」

 

こうして、パラケルスス先生の魔術講座が始まったのだった。

内容は錬金術から始まり、なぜか黒魔術を経由して治癒の魔術へと至った。

治癒の魔術の内容は、医術と合わさった方法なんかを学んだが、キャスターの怪我の治し方は賢者の石を使ったごり押しらしい。

怪我を治すという指向性を持たせた賢者の石を発動させ、怪我を治していく。

病気の場合も同様らしい。病気を治すという指向性を持たせた賢者の石を患者に飲ませ、体内で発動。

そのとき、患部の特定などで医療の知識を使うらしいが、正直魔力さえあればなんとかなる方法だとキャスター本人が言っていた。

 

「さて、この水魔を召還し続ける魔道書をちょっと使ってみたい気分ではあるが・・・なんだか洒落にならない気がするので今日のところは辞めておこうと思う」

 

たぶんそれが正解だと思います、先生。

というか、水魔を召還し続ける魔道書って・・・螺湮城(プレラーティーズ)教本(・スペルブック)じゃないか?

あぶねえな。暴走したらエアが必要になるレベルだぞそれ。

あれ、でも召還した奴がきちんと制御してれば問題ないのか。

 

「さて、今日の授業はこのくらいにしておくかな」

 

「ありがとうございました。・・・ふぅ、授業なんて久しく受けてなかったから、なんだか疲れたなぁ」

 

「はっはっは、君や北郷にとっては、懐かしいものではないか?」

 

「懐かしいっちゃ懐かしいけど・・・はぁ、仕事のほうが精神的には楽だ」

 

この魔術講座だって理解できてないわけじゃない。

ハイスペックなこの頭脳のおかげで、きちんと理解している。

たぶん、ちょっと魔術を使ってみろといわれたら使えるぐらいにはなっているだろう。

だけどまぁ、現代に生きていた身としては、「授業」というもの自体に何かしらの精神的圧力を感じるように出来ているのだろう。

 

「・・・今日は部屋に戻ってゆっくり休むとするよ」

 

朝からちょっとどたばたしてたしな。

 

「・・・いやぁ、部屋に戻ってもゆっくり休めるかどうか」

 

「は? なにを・・・って、まさか」

 

「そのまさかっぽいね。今マスターから念話でいつまで授業やってるのかとお叱りが来てるから。今はギルの部屋で待機中らしい」

 

「・・・一人?」

 

「・・・侍女組大集合スペシャル、らしい」

 

「ぐ、ぐおおお・・・」

 

神様! 俺何かしましたかね!?

いや嬉しいよ? 嬉しいけどさぁ・・・ぐぅ、いや、みんなの好意を受け入れてきた結果だというなら自業自得だろう。

 

「そうだ・・・世界のすべてを背負った英雄王の力を持つ俺が、女の子の気持ちも背負えなくて英雄王を語れるか!」

 

「おお、よく言った!」

 

「ふふふはははは・・・! 少しくらい寝なくても問題はないさ・・・!」

 

翌朝、元気に仕事をする侍女組と、何かを呻きながら手だけは猛スピードで仕事をする英雄王がいたそうだ。

 

・・・

 

「ぐぅ・・・大分辛い・・・」

 

月たちの相手をした後、そのまま眠らずに政務室で仕事をしていた俺は、昼休みに少しでも寝ておこうとしていたところを恋とねねに襲撃され、昼寝も出来ずに午後の訓練へと向かうことになった。

 

「た、隊長? 大分目が怖いんですけど・・・大丈夫ですか?」

 

いつもは俺を馬鹿にしたような言動しかしない副長ですら心配してくる始末である。

今の俺はかなり心配されるような体調らしい。

 

「大丈夫だ・・・こんなんでも、副長くらいなら軽く葬れる」

 

「葬れる!? 葬る気でいるんですかたいちょー!」

 

「ははは、冗談に決まってるじゃないか」

 

「目! 目が笑ってません! い、いやー! この隊長怖いです! 遊撃隊の皆さん助けて! この人いつもの数百倍怖いで・・・って、誰もいない!? 逃げましたね・・・って、こっちこないで・・・っきゃー!」

 

・・・おっとっと、気を失っていたようだ。

ええと、遊撃隊の訓練をしに来たところまでは覚えているんだが・・・あれ? 何で副長が目の前で体育座りしているんだろうか。

 

「う、ぐすっ、隊長がいじめる・・・」

 

「おい、どうした副長。何で泣いてる」

 

「うぇぇ・・・たいちょー、元に戻ったんですね・・・」

 

怖かったよぉ、と泣きじゃくる副長に、何があったのかを聞き出してみた。

どうやら、俺は半分寝ながら副長をボコボコにしたらしい。

両手に宝具をもち、ありえないぐらい的確に隙を突いて来たとのこと。しかも高笑いしながら。

それは確かに怖い。良く生き延びれたものだ。

そう言ってみると、どうやら俺は寝ぼけていても「訓練」ということを忘れてはいなかったようで、きちんと峰で攻撃していたようだ。それでも十分痛いだろうけど。

しかも、滅茶苦茶上機嫌に改善点を教えてくれるという意味の分からない状態に陥っていて、それが恐怖を何倍にも高めていた、と。

 

「ええと・・・ごめんな、副長」

 

「・・・うぅ、傷とか残ってたら責任とってくださいね」

 

「ああ、その点は大丈夫だ。霊薬でも何でも使って、怪我は残らないようにするから」

 

「・・・そういうことじゃないんですけど、まぁいいです。よいしょ」

 

最後に目をごしごしと拭ってから、副長は立ち上がった。

ぱんぱんと服に付いた土を払い、剣と盾を拾って背中へと収納。

 

「とりあえず、お昼ご飯、奢ってくださいね」

 

「はいはい、了解だ」

 

・・・

 

「おーいしー! もっと持ってきてー!」

 

「もむもむ・・・こちらも中々美味しいですよ、天和さん」

 

「ちぃにもちょーだーい!」

 

「はいはい、沢山あるんだから取り合わないの」

 

「・・・沢山あるって・・・誰のおかげだと・・・いやまぁ、いいんだけど」

 

昼を奢るのは副長だけのはずだったのだが、いつの間にか天和たちにも食事を奢ることになっていた。

何でも、ずっと仕事を天和たち任せにしたお詫びらしい。

ちょっと忙しいから人和に任せていただけだったのだが、予想以上に天和たちの人気が上がっていたらしい。

相当な仕事が入ったらしく、しばらくは遊べなかったんだよー! と理不尽に怒られたのは先ほどの話だ。

若干納得はいかないが、最近構っていなかったのも事実。

ここはおとなしく奢っておくべきかと諦め、こうして好きに食べさせている。

まぁ、ほとんどの将と同じく、美味しいものを食べることがモチベーションの維持に役立つようなので、投資だと思えば良い。

 

「ほら、ギル。あーんっ」

 

「・・・あーん」

 

まぁ、天和たちに懐かれ、こういうことをされるというのは、中々に嬉しいものである。

アイドルにあーんされるなど、そのアイドルのファンにとっては血涙ものだろう。

というか、姉妹(しすたぁず)のファンに背後から刺されかねないぞ、この状況。

天和、地和、人和の三人は言わずもがなアイドルで美少女だし、副長だって口を開かなければ美少女だ。

副長にも隠れファンクラブのようなものが存在しているようだし、今の俺は相当な数の人間から恨まれても仕方がない状況にいるのだろう。

 

「明日天和さんたちのファンに言っておきますね。隊長が天和さんにあーんされて喜んでたって」

 

「副長、お前、何の恨みがあって・・・」

 

「ふっふっふ、今日のこと、未だ許してはいないのです!」

 

「・・・仕方がない、口封じしておくか」

 

「え!? そんな「ちょっと出かけてくるか」くらいの軽さで殺人予告されてもっ!?」

 

「痛いのは一瞬だけだから。な?」

 

「ちょっと! 宝具出さないでくださいよ! 「な?」じゃないですよ!」

 

やめてくださいよー、とかなり必死に俺を止めようとする副長。

仕方ないなぁ、と宝具をしまう。

ほっと安堵のため息をついた副長に、あまり調子に乗るんじゃない、と軽めにデコピン。

 

「うぅー」

 

「昼飯奢ってやってるんだから、それで満足しておけって」

 

「そうしておきます。・・・隊長、意外と鬼畜さんなんですね・・・」

 

こんな騒ぎのすぐ傍にいながら、姉妹(しすたぁず)の三人は食事に夢中みたいだ。

・・・凄いな、この娘たち。アイドルをやるならば、こんなことくらいで騒いでいられないということか。

口に蓮華を咥えてぶつぶつとつぶやく副長を撫でて慰めつつ、シュウマイに手を伸ばす。

 

「お、やっぱ旨いな、ここのシュウマイ」

 

「・・・隊長、慰め方が雑じゃありません?」

 

「慰めてるだけマシじゃないか?」

 

「じ、自分で言いますか・・・」

 

「ほら、いつまでも不貞腐れてないで、食べろって」

 

「む・・・なんだかごまかされた様な気がしますが・・・まぁいいです」

 

そういって、天和たちに負けないよう、再び料理に手を伸ばし始める副長。

ふむ・・・しかし、天和たちのプロデュース、本腰を入れていかなきゃいけないかなぁ。

 

・・・




「ふんふんふーん」「・・・副長って、隊長にボコボコにされればされるほど機嫌よくなるよな」「・・・そういう趣味なんだろ。愛の形にはいろいろあるんだろうさ」


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