真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「飲み会に誘うとやばいことになるランキング第一位」「雪蓮だろ。酔ってるときに南海覇王で首を切られたことがある。物理的に」「あっぶねー・・・。サーヴァントじゃなかったら死んでただろ・・・」「個人的には春蘭に吹き飛ばされて無事な一刀のほうが不思議なんだけど」


それでは、どうぞ。


第十九話 飲み会に

「今日も今日とて鍛錬だ。そらがんばれ」

 

「ちょ、まっ、呂布将軍と手合わせとか殺す気ですかたいちょー!」

 

「大丈夫。大切な副長を殺すわけ無いだろ。それに、恋だって手加減してくれてるし」

 

「これで手加減してるとか・・・ひゃあぁっ!? ちょ、今防いだら体浮きましたよ!?」

 

「まぁ副長はちっこいからなぁ。浮くだろ」

 

「当然のように言わないでくださいっ!」

 

ある日の訓練のこと。

そろそろ副長の実力も上がってきたということで呂布隊の隊員と手合わせをお願いしていたのだが、途中で恋が参戦。

いつもどおり俺と手合わせした後、恋が副長に興味を持った。

強い? と聞いてくるので、じゃあ手合わせする? と聞き返してみるとこくりと首肯。

そんなわけで、こうして副長は恋と手合わせしているのである。

・・・まぁ、さすがに本気の恋とは一瞬も持たないので手加減してもらっているが。

 

「・・・ふ」

 

「く・・・うわっ!?」

 

何度か恋の攻撃をしのいだものの、さすがに副長も限界が来たのか剣を弾き飛ばされ、しりもちをついたところに軍神五兵(ゴッドフォース)を突きつけられていた。

 

「・・・参りました」

 

「・・・ん」

 

副長の降参の声に、恋が突きつけていた軍神五兵(ゴッドフォース)を戻す。

観戦していた場所から立ち上がり、二人の下へ。

 

「お疲れ、副長」

 

「あーうー・・・まだふらふらします・・・」

 

拾った剣を副長に手渡しながら、恋に礼を伝える。

 

「恋、ありがとな」

 

「・・・別に良い」

 

「助かるよ。・・・で、どうよ、副長は」

 

「ふくちょー、頑張れば強くなる。流石ギルのふくちょー」

 

「お、そういってくれると嬉しいな。副長、これからはもうちょっと段階あげていこうか」

 

「うぅ、隊長がそういうなら頑張りますー・・・」

 

「ん、偉い偉い」

 

背中に盾と剣をしまった副長が俺が出した手をつかむ。

よっと、と引き上げると、副長は服についた土を払った。

 

「うー、でも流石は呂布将軍ですねー。あれで手加減してるっていうんだからずるいです」

 

「ん、恋は強い」

 

・・・自分で強いって言えるのは、恋を含めて少ししかいないだろう。

 

「さて、残りの時間はどうするかな」

 

へばってる副長は当然休憩させるとして・・・。

 

「呂布隊の人たちはまだ大丈夫だよな?」

 

俺の遊撃隊の兵士たちも結構なレベルになってきたので、恋の部隊と組み手をしてもらっているのだ。

かなりの精鋭ぞろいなので、遊撃隊のやつらも良い訓練になるだろう。

 

「ぜんぜん平気。でも、ギルの部隊はちょっと疲れ気味」

 

「だろうなぁ。・・・この辺で、いったん休憩を入れようか」

 

「いいと思う」

 

「よし・・・おーい、休憩にしようかー!」

 

「応!」

 

「お、おー!」

 

上が呂布の部隊で、下が遊撃隊である。

やっぱり、声にも疲れが出てるな。その場で座り込んでぜいぜいと呼吸を整えてるやつもいるし。

 

「恋どのぉー・・・お? ギルもいるですか」

 

「ん? ・・・ねねか。元気だな」

 

「ねねはいつでも元気なのですぞ! ・・・おっとと、目的を忘れるところだったのです。これどうぞ、です恋どの!」

 

「ん、ありがと」

 

そういってねねが渡したのは汗を拭くための布と水だった。

・・・マネージャーみたいだな、ねね。

 

「うー、私もお水ほしいです・・・」

 

「はいはい、ほら、どうぞ」

 

宝物庫から水筒を取り出し、副長に渡す。

まさか本当にもらえるとは思っていなかったのか、副長は驚いた表情を浮かべつつ水筒を受け取る。

 

「ど、どうも。・・・それ、本当に便利ですよね」

 

いいなぁ、と言うめでこちらを見つめながら、副長は水筒に口をつける。

 

「ごく・・・んー、冷たくておいしーです」

 

「そうだろうな。キリマンジャロの雪解け水らしいし」

 

副長はキチンと睡眠をとっているみたいなので、涙が止まらなくなる、なんてことは無いようだ。

 

「ん? おー、恋、ねね、それにギルやないか!」

 

「・・・霞もきた」

 

「みんなして訓練か! ウチも混ぜてーな!」

 

「・・・ん」

 

「俺は別に構わないよ」

 

まぁ、たぶん相手するのは副長だろうし。

 

「よし、そろそろ休憩終わりにしようか! ほらほらみんな、再開するぞー!」

 

ぞろぞろと立ち上がり、再び先ほどのように二人一組になる兵士たち。

 

「んー、じゃあ次は俺と恋が手合わせして、霞は副長とやってもらおうかな」

 

「お、副長とやるのは初めてやな。よろしゅうな!」

 

「は、はい! よろしくお願いしますっ」

 

休憩したおかげか大分ましになった副長が背中の剣と盾を抜いた。

さて、俺も恋と手合わせするかな。

 

・・・

 

「・・・おつかれ」

 

「おーう・・・おつかれー・・・」

 

恋との試合の後、訓練の終了を告げる。

霞と打ち合っていた副長もようやく解放されたと大きく息を吐いていた。

 

「お疲れ様です、ギルさん」

 

「・・・お疲れ」

 

「あれ? 月に詠。どうしたんだ、こんなところで」

 

横からの声に振り向いてみると、なぜか月と詠がいた。

 

「あの、ギルさんの部隊と、恋さんの部隊が合同で訓練をすると聞いて、応援にきちゃいました」

 

「別に、ボクはどうでも良かったんだけどね。月が行くって言うから、仕方なくきたのよ」

 

詠の言葉はかなり冷たいが、顔を見ると真っ赤なので、たぶんツン子モードなんだろう。

ツン子モード時の詠の言葉は大体照れ隠しだと思って良い。

 

「はい、ギルさん、お水です」

 

「お、ありがとう」

 

月から水筒を受け取ると、隣に立っていた詠がん、と布・・・もうタオルでいいか。タオルを差し出してくる。

 

「ありがと、詠」

 

「・・・どういたしまして」

 

そっぽを向いてはいるが、顔は嬉しそうだ。ニヤニヤとしている。

・・・素直じゃないなぁ。そこもかわいいんだけど。

 

「お、なんやなんや、月に詠もきたんか!」

 

「あ、霞さん。お疲れ様です」

 

「・・・お疲れ、霞」

 

「なんや懐かしい顔ぶればっかりやなぁ!」

 

・・・そういえばそうだな。

華雄がいないのを除けば、董卓軍再集合である。

霞と初めて手合わせしたときや、華雄に絡まれたこと、反董卓連合のことが頭の中にフラッシュバックしてくる。

うぅむ、懐かしいなぁ。あれからなんだか十年ぐらいたっている気分だ。

 

「・・・そういえばそうですね。なんだか洛陽にいたときのことを思い出します」

 

微笑みながらそういった月に、霞がそうや! と何かを思いついたのか声を上げた。

 

「このままみんなで飲みにでも行くか! この面子で飲むことなんか無かったからなぁ!」

 

「お、いいねえ」

 

それは面白そうだ、と賛成する。

 

「・・・いく」

 

「恋どのが行くのなら、ねねもついていくのですぞー!」

 

「私も、行ってみたいです」

 

「月が行くなら、ボクもいくわ」

 

「うむうむ、これで全員出席だな。・・・よし、なら店と酒はこっちで押さえておこう。みんな準備を整えて、またここに集合ってことで」

 

「おう!」

 

「・・・わかった」

 

「はいです!」

 

「はい、ギルさん」

 

「分かったわ」

 

五人から返事を聞いた俺は、よし、それじゃ解散! と遊撃隊と副長を解散させた。

副長には今日結構がんばってもらったので、ちょっとだけお小遣いをあげておいた。

これでおいしい酒でも飲んでもらえば嬉しいのだが。

 

「よし、とりあえず店に行くかな」

 

あの人数で騒いでも大丈夫で、品数も豊富といえば・・・あそこがいいかな。

 

・・・

 

とある酒場に、元董卓軍の兵士たちと将たち(華雄除く)が集合していた。

全員そろった後、霞の音頭で乾杯をした。

その後はみんなわいのわいのと飲んだり食べたりしている。

 

「へぅ、ふらふらします・・・」

 

「・・・早いな」

 

二杯目にしてすでに酔いが回っているらしい月が、えへへぇ、と笑う。

そして、隣にいる詠の口に直で酒を飲ませようとする。

 

「ほらえーちゃん、もっと飲まないとぉ」

 

「え、ちょ、月!? 人はそんなに飲めな・・・わぷっ!?」

 

「あー、ほらほら。やめて、それ以上いけない」

 

月を抱えあげてひざの上へ。

これで詠に絡んだりは出来ないだろ。

 

「た、助かったわ・・・月って絡み上戸だったのね・・・」

 

「へぅ、ギルさんはなしてくらさい。えーちゃんがぜんぜん飲んでないんですよぉ・・・」

 

「はいはい、じゃあ俺に酌してくれよ」

 

「いいですよぉ」

 

妙に語尾の延びた言い方で了承した月は、とくとくと俺の杯に酒を注いでいく。

 

「えへへぇ、出来ましたー」

 

「えらいえらい。・・・なぁ、なんか退行してないか?」

 

「・・・ボクもこんなになった月ははじめて見るわ」

 

詠ですら見たことないくらい酔ってるのか・・・酒に弱すぎるだろ、月。

でも俺の蔵のワインを三杯飲んでもこんなには酔わなかったような・・・。

 

「んく・・・あ、これ結構きついやつじゃない。まったく、霞ったらこんなに強いの頼んで・・・」

 

詠が月の飲んでいた酒に口をつけてそう言った。

・・・なんだ、そういうことか。

 

「って、あれ、月がいねえ」

 

「や、やめるのですっ。ねねはそんなにお酒強くな・・・れ、恋どのぉ~」

 

詠と話している間にひざの上から月が消えたと思ったら、ねねの悲痛な叫びが聞こえた。

視線をそちらに向けると、笑顔でねねに酒を飲ませようとしている月がいた。

 

「ああもう、次はねねか」

 

再び絡み始めた月を抱きかかえ、膝の上へ強制連行。

 

「あれ? ギルさんが一人、ギルさんがふたーりー・・・?」

 

「・・・これ、駄目じゃないか?」

 

「駄目っぽいわね」

 

俺の言葉に即答する詠。

なんというか、今の月からは駄目っぽいオーラしか感じない。

 

「・・・ゆえ、もう酔った?」

 

「お、恋。・・・どうもそうみたいだ。結構強い酒らしくてな」

 

「・・・へろへろ」

 

「みたいだな。ほら月、水だぞー」

 

「ふぁい? ・・・んく、んく・・・」

 

宝物庫から水筒を取り出し、月の口に当てると、素直に水を飲んでくれた。

はふ、と息を吐いた月は、少し落ち着いたようにも見える。

・・・酔い覚ましの効果もあるんだろうか、この水。

 

「ふわっ!? 月の次は霞なのですかっ! やめるのです! ねねの口にはそんな量のお酒入らないのですっ」

 

「はっはっはー! 大丈夫や! いけるって!」

 

・・・月の次は霞に絡まれてるのか、ねね。

 

「はいはい、そこまでにしておきなさい馬鹿」

 

「あいたっ。なんや、詠か」

 

「なんや、じゃ無いわよ。ねねはチビなんだから、あまり飲ませたら駄目じゃない」

 

「チビいうなです!」

 

「チビじゃない。胸もボクよりまな板の癖に」

 

「決闘を申し込むのです!」

 

・・・詠、フォローしにいったのかねねを怒らせに行ったのかどっちだよ・・・。

兵士たちもほほえましく眺めるだけで止める気ゼロだし・・・仕方ない、恋に頼むか。

 

「恋、二人を止めてきてくれ」

 

「・・・わかった」

 

そういうと、恋はきしゃー、と両手を挙げて威嚇しているねねの首根っこをつかみあげた。

 

「はーなーしーてーくーだーさーれー! 恋どのぉ、こやつには一発ぶち込まないと気がすまないのですっ」

 

「喧嘩、だめ。・・・みんな仲良く」

 

「ふんっ。いい気味よね。そんなに簡単に持ち上げられるなんて、チビの証よ!」

 

・・・ん? 膝の上の月がまたまたいなくなって・・・あ、詠の後ろにいた。

すごく良い笑顔してるな、あの娘。

 

「えーちゃんも、ギルさんには簡単に持ち上げられたりするよね?」

 

「え? ・・・ゆ、月?」

 

「ちょっと言いすぎな詠ちゃんには、お仕置きが必要かな?」

 

「ちょ、それって凪しか食べない激辛の・・・もがっ!」

 

容赦無く蓮華を詠の口の中に突っ込む月。

・・・こわっ。酔うと黒月のエンカウント率が上がるのか。気をつけよう。

っていうか、あの激辛麻婆豆腐どこから持ってきたんだ・・・? 

 

「おーう! ギル、飲んどるかー!?」

 

「飲んでるよ、霞」

 

霞がやってきて俺の肩に手を回してきた。酒臭い。

・・・次絡まれるのは俺か。

 

「あんまり飲みすぎると明日に響くぞ」

 

「明日は午後からやから大丈夫やもーん」

 

「・・・上機嫌だな」

 

もーん、とか・・・。

 

「そら上機嫌にもなるわ。月のおもろいところも見れたしなっ」

 

「ああ・・・あれは確かに面白い」

 

辛さに悶絶している詠に水を渡す月を見ながら、二人してくすくすと笑う。

周りで騒ぐ兵士たちも、楽しそうに笑っている。

いつもの月からは想像できないぐらいにはっちゃけている姿は、なんだか新鮮で面白かった。

 

「・・・月って意外に容赦ないんだな・・・」

 

いまだに涙目な詠を見て薄く笑う月を見つめながら、そんなことを思う。

酔ってるときに怒らせないように気をつけないと・・・。

 

「ギルしゃん、飲んでまふかぁ?」

 

ぼーっとしながら飲んでいたからか、月の接近に気づかなかった。

・・・って、いつの間にか霞がいない!? 逃げたか、あいつ! 

 

「・・・月、朱里みたいになってるぞ」

 

とりあえず月に声をかける。

だが、月はそんなことお構いなしといった感じに俺の足元へと近づいてくる。

 

「お膝、失礼しましゅね」

 

絶望的な呂律のまま、そういって月は俺の膝の上によじ登ると、俺と対面するように座った。

そのまま俺に抱きつき、んー、とかむにゃむにゃ、とか言いながら俺の体に頬を摺り寄せていた。

 

「ギルさんの・・・匂いがしまふ・・・むにゃ」

 

「寝た・・・だと・・・?」

 

酔うとこんなに自由人になるのか、月って。

 

「・・・たぶん、明日二日酔いだろうなぁ」

 

・・・その日の酒盛りは、深夜になってねねが酔いつぶれたため、お開きとなった。

 

・・・

 

「へぅ・・・頭いたいれふ・・・」

 

「うー・・・舌と頭が痛い・・・」

 

昨夜はあの後酔いつぶれたねねを恋に任せ、酔いに酔ってふらふらになった霞を部屋へ送り届けた後、月と詠を抱えて自室へ戻った。

寝る前にとりあえず水を飲ませてみたが、やっぱり二日酔いになったようだ。

 

「大丈夫か二人とも。ほら、水でも飲んで」

 

「へぅ、ごめんなさいギルさん。・・・ありがとうございます」

 

「うぅ、ありがとギル・・・」

 

水を飲んだ後、布団の中でもぞもぞと動く二人。

 

「にしても、詠はともかく月が二日酔いになるとは思わなかった」

 

なんというか、酔いはしても酔いつぶれないように自重しそう、というか・・・。

 

「ちょっと、ボクはともかくって何よぉ・・・」

 

寝台にうつぶせに倒れている詠がだるそうに口を開く。

 

「・・・辛いなら突っ込み入れなくてもいいんだぞ?」

 

「・・・いつもよりあんたの優しさが身にしみるわね・・・」

 

「そりゃどーも。・・・気分は大丈夫か?」

 

「んー、最悪一歩手前、って感じかしら・・・頭と舌が絶望的に痛いだけね」

 

「ごめんね、詠ちゃん。昨日は無理させちゃって・・・」

 

「良いのよ、月があんなに酔うって自分でも知らなかったんだし、誰が悪いわけでもないわ」

 

「・・・ありがとう、詠ちゃん」

 

台詞だけ聞くと良いシーンなんだが、二人とも寝台に倒れこんでぐでんぐでんになっているためなんだかしまらない。

・・・今日は一日介抱で終わりそうだな・・・。

仕事は・・・仕方ない、明日に回すしかないだろう。

 

「ギルさーん! 月ちゃんが倒れたって本当っ!?」

 

「っ!? うっっっさいわね! 大声出すんじゃないわよっ」

 

「へぅ・・・詠ちゃんも、大声ださないでぇ・・・」

 

何か変な情報を与えられたのか、大声で叫びながら入室してきた響の口を塞ぎながら、今日は大変な一日になりそうだと心の中でため息をついた。

 

・・・

 

あの後、昼過ぎにはだいぶマシになったという二人は、軽い昼食を取って午後からの仕事へ出かけていった。

まぁ、無理しないようには言ってあるし、響と孔雀がそばについていてくれるらしいから、一応は安心していいだろう。

 

「・・・うぅむ、なんだかいまさら眠くなってきたな・・・」

 

朱里のところへ仕事があるか聞きにいったのだが、見事にすべて片付けられていた。

そんなこんなで暇をもてあましているのだが、眠くて仕方がない。

・・・よし、昼寝しよう。

 

「ちょうど中庭にいることだし、木陰で休んでいくか」

 

以前恋に引っ張り込まれたこともあるし、外で寝るのは慣れてる。

そうと決まれば話は早い。

早速木にもたれかかり、目を閉じる。

・・・そよ風が心地よい。これはいい昼寝スポットかもしれない。

 

・・・

 

ギルが木にもたれかかって眠りについてしばらくすると、一人の少女が近づいてきた。

 

「ん? ・・・あれは、ギルですか?」

 

先日の酒盛りのダメージが月と詠の次にひどかったねねである。

彼女も朝方は頭痛で唸っていたが、昼前から復活し、恋が訓練で居らず暇なため、場内を散歩していた。

そして、中庭に足を踏み入れたとき、木陰で眠るギルが目に入った。

 

「むむ、寝ているですか・・・?」

 

訝しげな目をしながら、ねねは寝ているギルに近づいていく。

その様子は、おそるおそる、という言葉が一番合うだろう。

 

「寝ていますなー・・・」

 

なぜかそこでねねはほっと息をついた。

その後、きょろきょろと辺りを見回し、何かを確認した後、人差し指をピンと立ててさらに近づいていく。

視線はギルの顔の辺りに集中している。

 

「・・・つ、つんつん」

 

擬音を口から発しながら、ねねは寝ているギルの頬を突いた。

ギルは小さく唸るだけで起きる気配はない。

 

「むぅ、なんだかつまらないのです」

 

そういいながらも、ねねの指は止まらない。

しばらくつついた後、飽きたのかようやくねねは頬から指を離す。

 

「それにしても、男にしてはきれいな肌ですなー・・・」

 

ぷにぷに、むにむにと大胆に頬をいじり始めたねねがそうつぶやく。

そして、ふと視線を上げると、かなり近くにギルの顔が。

 

「――っ!?」

 

かなりギルに接近していたことに気づき、がばっ、と体を起こし、距離をとるねね。

その息はぜぇぜぇと荒れていた。

 

「ち、違うのですっ。これはギルの頬が気になっただけで、他意は・・・って、ねねは誰に言い訳しているのですかー!?」

 

ねねはしばらく一人であたふたすると、ようやく落ち着いたのか再びギルの近くにいき、腰を下ろした。

 

「・・・なんだか疲れたのです。とりあえず、ここで休んで・・・くぅ・・・」

 

ギルの隣に座ったねねが眠りにつくまで、一分もかからなかった。

 

・・・

 

「・・・む」

 

目が覚める。

座ったまま眠ったからか、間接が少し痛むが、気にするほどでもないだろう。

 

「あれ・・・?」

 

右腕の辺りにほのかな温かみを感じてそちらに視線を向けると、ねねが俺にもたれかかっていた。

・・・珍しいな、ねねがこんなに気を抜いてるなんて。

というか、こんなになつかれてたんだな、俺。嫌われてはいないようで、よかったよかった。

 

「ま、何はともあれこのまま寝かせるわけにはいかないな」

 

座ったままでは体を痛めるだろう。

とりあえず、俺の膝に頭を乗せてっと。

正座ではないが、膝枕だ。

男の膝枕が嬉しいかはわからないが、座ったまま寝るよりはマシだと思う。

下には俺の上着を引いてあるので、服が汚れることもないだろう。

・・・さて、ねねが起きるまではゆったりと過ごすかな。

 

「寝てる間に頭をなでるくらいは良いよな・・・?」

 

帽子を脱がせて、ねねの髪を梳かす様に撫でる。

あー・・・いつもツリ目だったからきつい印象を持ってたけど、寝顔がとてつもなくかわいいぞ。

小動物的可愛さというか・・・頬を突っつきたくなるような可愛さだ。

 

「つんつん」

 

・・・気がついたら頬を突っついていた。

な、何を言ってるかわからねーと思うが以下略。

 

「・・・ねねが可愛いのが駄目なんだ、うん」

 

そう思うことにしよう。

 

・・・

 

すっかり太陽も真上に昇り、じりじりと気温も上がってきた。

ねねもこれでは暑かろうと宝物庫を開いて中の風を開放し、そよ風を生み出してみると、これがなんとも心地よい。

思わずもう一度寝そうになったくらいだ。危ない危ない。

 

「・・・んみゅ」

 

そしてねねが可愛い。思わず襲いそうになったくらいだ。危ない危ない。

・・・ちょっと腹がすいてきた。

昼は何を食べようか。・・・最近同じところばかり行ってる気がするから、たまには違うところで食べてみようかな。

そうだ、流流に何か作ってもらおうかな。あの娘、暇だと良いんだけど。

 

「ふぁ・・・寝てしまったのですか・・・?」

 

「おはよう、ねね。ゆっくり眠れたか?」

 

寝ぼけ眼のねねに話しかけると、ねねは目をこすりながらゆっくりと答える。

 

「それはもうゆっくりと眠れたのです・・・ん? えっ!? な、何でギルがねねを膝枕してるですかっ!」

 

初めは完全に覚醒していなかったから気づかなかったのか、しばらくして自分が枕にしているのが俺の膝だと理解した瞬間にがばっと起き上がってしまった。

少しだけ残念である。

 

「いやほら、座ったままだと体痛めるだろ。大丈夫、変なことはしてないよ」

 

そういいながら、よいしょ、と立ち上がる。

うーむ、座りっぱなしだったからか背骨が鳴る鳴る。

 

「・・・服まで敷いてくれているのです」

 

「ん、なんかいったか?」

 

「なんでもないのですっ」

 

そういいながら立ち上がったねねは、地面に敷いていた上着を拾い、土を払って返してくれた。

 

「ありがと、なのです」

 

顔を真っ赤にして、そっぽを向きながらもきちんとお礼を言うねね。

こういうのがあるから、少し冷たくされても可愛いと思えるのだ。

 

「どういたしまして。さて、俺は昼食べに行くけど、一緒に食うか?」

 

「いいのですよ。特に予定も無いですし、ご一緒するです」

 

「よっしゃ。とりあえず厨房に行ってみよう。流流がいるかもしれないしな」

 

「了解なのですっ」

 

厨房までの道中、肩車したり高い高いをやってみたりと、ねねが喜びそうなことをやりながら歩いていた。

ねねがはしゃいでいたようなので、何よりだと思う。

 

・・・

 

「あ、にーちゃんだ!」

 

「よう、季衣。お、流流もいるな」

 

「へ? ・・・あ、にーさま! お昼ですか?」

 

厨房に行くと、季衣と流流がいた。

季衣は卓について料理を待っていて、流流は料理の準備をしているところだった。

 

「ああ、いい具合に腹が減ったから、流流がいたら何か作ってもらおうかなって思ってたんだ。頼めるかな」

 

「はいっ! 大丈夫です。もともと多く作る予定でしたから、余裕ありますよ」

 

「そっか。じゃ、俺とねねの分も頼んで良いかな?」

 

「はい! じゃあ、座って待っててください」

 

「了解」

 

言われたままに、卓で座って待っていることにしよう。

季衣の向かいに座ると、ねねが隣についた。

しばらく季衣や流流たちと話をしていると、流流の料理が運ばれてくる。

 

「おぉ~・・・上手なのです」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

ねねの言葉に、照れた様子を見せる流流。

季衣はすごいでしょー、となぜか胸を張っている。

 

「それじゃ、いただこうかな」

 

「はい、どうぞ召し上がれっ」

 

いただきます、と言って全員が食べはじめる。

む、いつもどおりうまい。

 

「おいしいよ、流流」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

「むむっ・・・これはおいしいのです。ま、認めてやってもいいのです」

 

「えらそー」

 

偉そうに言い切ったねねに、季衣がジト目で突っ込みを入れていた。

そんなやり取りをしているうちに、出された料理はすべて片付いてしまった。

・・・七割季衣が食べたことについてはもう突っ込みを入れないことにしている。

恋、鈴々、季衣の三人が大食いしていても大して驚かなくなったあたり、慣れって怖いなぁと思う。

 

「ごちそうさま。おいしかったよ、流流。ありがとな」

 

「お粗末さまです。そういってくださると、作った甲斐があります!」

 

「それじゃあ、俺はそろそろ行こうかな。ねねも一緒に訓練所行くだろ?」

 

「いくのですっ。恋どのが今日もいるはずなのですっ」

 

「ん、じゃ行こうか」

 

もう一度流流にお礼を言ってから、厨房を出た。

ねねを再び肩車して、訓練場まで向かう

さて、今日も副長は元気にやってるだろうか。

 

・・・

 

「ちょ、なんか昨日と同じような展開に・・・ひゃっ!? ちょ、関羽さま手加減をお願いしますっ」

 

「手加減は十分しているではないか。その証拠に、副長はきちんと防げているだろう?」

 

「でも防ぐたびに浮いてるんですけどっ!?」

 

「体重が足らんな。きちんと食事は取っているのか?」

 

「私の所為っ!? そして太れとっ!?」

 

おーおー、やってるやってる。

今日は愛紗と打ち合ってるみたいだな。

うんうん、いろいろな人と戦うのはいい経験になるだろう。

 

「恋どのー!」

 

ねねはねねで恋の方へと走っていったし、俺は二人の手合わせでも見学してるかな。

 

「ふっ!」

 

「くっ・・・せいっ!」

 

防いだ一瞬の隙を突き、副長が剣を突き出す。

 

「ほお」

 

愛紗はそれを危なげなく防ぐが、次の瞬間副長は愛紗の横を前転しながら通り過ぎる。

剣を防ぐために自分で視界をさえぎってしまった愛紗からしてみれば、いきなり視界から消えたように見えただろう。

・・・動きがまんま緑の勇者なんだが、装備からしてあれなんだし、突っ込みは入れないようにしよう。

副長はそのまま愛紗の背後を取り、下から鋭く切り上げる。

 

「これでっ・・・!」

 

「甘いっ!」

 

しかし、それも愛紗に防がれてしまった。

っていうか、今ほとんど後ろ見ないで防いだぞ・・・。

さすが愛紗というべきか・・・。

 

「まだまだっ!」

 

「させるかっ!」

 

防がれても諦めずに副長が剣を振るうが、先に愛紗が剣を弾き、隙だらけの副長の首に偃月刀を突きつけた。

 

「・・・参りました」

 

副長のその言葉で、手合わせは終了となった。

 

「お疲れ、副長、愛紗」

 

「あ・・・ギル殿」

 

「たいちょー! 何なんですかこの強敵率っ。ありえないですっ」

 

俺に気づいた副長が、かなりの速度で抱きついてくる。

少し泣いているようで、目じりには涙が浮かんでいた。

 

「まぁ、手加減されてるとはいえ呂布と関羽と手合わせしてあそこまで動けるんだ。かなり上達してきてるってことだろ」

 

「そのとおりです。以前よりもかなり力を挙げていますね。特に最後の奇襲は驚きました」

 

副長をなでて励ましていると、偃月刀を持った愛紗が近づいてそう言って来た。

 

「ありがとうございます。・・・まぁ、昨日みたいに防ぐだけって言うのも情けないし、成功するかはともかく、やってみるかって感じだったんですけど」

 

「それであそこまで思い切ったことが出来るなら大したものだ」

 

「よかったな、副長。恋に続いて愛紗も褒めてくれたぞ」

 

「は、はい。かなりうれしいです」

 

「ま、これからはちょっと段階あげていくから、頑張っていこうな」

 

そういって肩を叩くと、副長は背筋を正して

 

「はい。遊撃隊副長として恥ずかしくないような力量を持って見せます!」

 

なんていってくれた。

うむ、隊長としてはうれしい限りだ。

 

「うんうん、その意気だ」

 

「えへへ、がんばりますっ」

 

なんだか、こんなににっこり笑った副長は初めて見た気がする。

 

・・・

 

「ちょっとギル」

 

「・・・おい、机の上の書類が飛び散ったんだけど」

 

「そりゃそうでしょ。机の上に降り立ったんだから」

 

「城壁の上に行こうぜ。久しぶりに・・・キレちまったよ・・・」

 

「まぁ、落ち着きなさい」

 

誰の所為だよ、と言いつつ散らばった書類を集める。

卑弥呼も手伝ってくれたので、すぐに元通りに。

・・・というか、手伝うくらいなら初めから散らかさないようにしてほしいところである。

 

「で、何の用だ?」

 

ちょうど休憩にしようと思っていたので、卑弥呼の分も含めて二人分のお茶を入れながらそう問いかける。

すると、卑弥呼はため息をつきながら口を開く。

 

「もうね、弟がうるさくて」

 

「へえ、なんて?」

 

「・・・まぁ、とにかくうるさいのよ」

 

詳しく聞いてみようと思ったのだが、卑弥呼は目をそらしながら言葉を濁した。

 

「どううるさいんだよ」

 

「うるさいっ。あんたは気にしなくて良いの!」

 

「なんて理不尽」

 

「まぁ、たとえば・・・いい年してその丈はどうなの、とか」

 

その丈というのはそのミニスカのことだろうか。いや、それしかないだろう。

 

「あれ、そういえば卑弥呼っていくつ?」

 

「・・・」

 

ごにょごにょ、と耳打ちしてくる卑弥呼。

 

「え・・・」

 

「他言無用よ」

 

「了解」

 

もし他人に言ったとしても信じてもらえるかどうか・・・。

 

「ほかのやつらに話そうものなら・・・平行世界ごとぶち抜くわ」

 

「そこまで心配しなくても、誰にも言わないから」

 

「・・・そう。なら、いいんだけど」

 

卑弥呼は前のめりになっていた体を戻し、椅子にもたれ掛かると、湯飲みを手に取りお茶に口をつける。

 

「後はね」

 

「まだあるのか」

 

というか、言いたくないんじゃないのか? 

そんな俺の心の声をよそに、卑弥呼は再び口を開く。

 

「そろそろまともに仕事してくれとか、服は脱ぎ散らかさないようにとか、お前はわらわの母上かっ、って思わず突っ込んじゃったわよ」

 

「え、合わせ鏡で?」

 

「んなわけないじゃない。いくら殴られなれてる弟でも消し炭になるわ」

 

「・・・殴られなれてるんだ」

 

なんだか、卑弥呼に殴られている弟くんが容易に想像できてしまう。

がんばれ、まだ見ぬ卑弥呼弟よ。違う世界で絡まれてる俺もがんばるから! 

 

「何遠い目してるのよ。・・・まぁいいわ。で、そんな日々に嫌気が差したわらわは、家出を決意したわけよ」

 

「はぁ」

 

「で、泊めなさい」

 

「・・・部屋、余ってるかなぁ」

 

「余らせるのよ。何なら、何人か並行世界に送っても良いわ。一秒でドジャァァァンしてあげる」

 

なんてことを言いやがる。

そんな大統領感覚で人を平行世界に送るのはやめてくれ。

 

「それだけはやめてくれ。・・・とりあえず、そこに座って茶でも飲んでてくれ。仕事終わらせたら、空いてる部屋が無いか朱里にでも聞きにいこう」

 

「さっすがギル! 話がわかるわね!」

 

・・・

 

「空き部屋、ですか・・・?」

 

「ああ。卑弥呼が家出してきてな。部屋を用意しないと何をしでかすかわからん」

 

「それは一大事です・・・! ・・・で、でも、今日すぐに使える部屋なんてありませんよぅ・・・」

 

魔法使い卑弥呼=危険人物というのは朱里の頭の中でも通用する等式らしい。だいぶ慌てている。

だが、焦りと反比例するように段々と尻すぼみになっていく朱里の声。

だが、慣れた俺からしたら普通にしゃべっているのと変わらずに聞き取れる。

 

「なんと・・・」

 

「将の人たちやここで働いている人たちでほとんど埋まっていますし、後は物置となってる場所ですし・・・」

 

「・・・んー、それなら仕方ないな。ありがと。別の方法を考えてみる」

 

「はい・・・。申し訳ありません、お力になれずに」

 

「気にしなくて良いよ。そんな泣きそうな顔しないで」

 

「はわわ・・・あ、ありがとうございまふっ!」

 

頭を撫でると、いつもどおり照れる朱里。

やっぱり可愛い。

 

「それじゃあな。・・・あ、そうそう。時間があったら俺の部屋にでも遊びに来てくれよ。最近会えてないし」

 

「は、はわっ! そ、それは、えと・・・か、必ず行きましゅっ」

 

「そんなに緊張しなくても」

 

苦笑しながら、俺はきびすを返す。

 

「それじゃ、また」

 

「はいっ」

 

・・・

 

「部屋、ねえや」

 

「あっそう。残念ね、こうして世界は消えていくのよ」

 

政務室で待ったりしている卑弥呼に部屋が空いてないことを伝えると、そんな言葉が返ってきた。

なんてことを言うんだ、この魔法使いは。

 

「あ、そうだわ。部屋が無いなら、あんたの部屋に行けばいいのよ。わらわを泊めなさい」

 

「卑弥呼がそれで良いなら俺は別に構わんが」

 

「じゃ、そういうことで。ほら、早速案内しなさい」

 

「はいはい」

 

適当に返事をしながら、執務室を出る。

隣に並んだ卑弥呼が、何かを呟いているのに気づいたが、何を言ってるかまでは聞こえなかった。

 

「ほら、ここだ」

 

「邪魔するわ」

 

部屋の前に着くと、卑弥呼は勝手に扉を開けて入っていってしまった。

俺も後ろから続いて入ると、すでに卑弥呼は寝台に倒れこんで寛いでいた。

 

「・・・順応早すぎだろ」

 

「あんたのものは大体わらわのもの。わらわのものも大体わらわのものよ」

 

「・・・なんつージャイアニズム・・・」

 

「なんか言った?」

 

「いいや、何も」

 

もう半分以上諦めている。

 

「・・・にしても質の良い寝台ね。さすがは金ぴか王。金かけてるわね」

 

「あー・・・普通の寝台使ってても、いつの間にかだんだんグレードアップしてるんだよなぁ」

 

ちょっとしたホラーである。

市販のものを買ってきてもだんだんと質が上がっていくのだ。何が起こってるのか俺ですら把握していない。

 

「ふぅん。寝てるだけで物の質を上げるって、便利な体してるわねえ」

 

呆れたように呟いた卑弥呼は、しばらく寝台で寝転がった後

 

「街に行くわよ。お供しなさい」

 

「え、やだ」

 

なんか当然のように言われたので、俺の中の悪魔がちょっとからかってやれよ、と呟いた。

そんな悪魔にしたがって断ってみると、卑弥呼の顔は一瞬で悲しそうな表情になり、涙目になってしまった。

 

「えっ・・・?」

 

「嘘! 嘘だって! ちょっとした悪戯心だったんだって! そんな悲しそうな顔をしないで・・・あああ、泣かないでくれぇ!」

 

「・・・な、生意気!」

 

「いてっ」

 

こいつ、魔力を纏わせた足で脛に蹴り入れてきやがった。

地味に痛かったぞ・・・。

 

「・・・いくわよ」

 

「りょーかい」

 

俺は服の袖を握り締めながら歩き始めた卑弥呼に引っ張られるように部屋を後にした。

・・・早く機嫌直さないとなぁ。

 

・・・

 

「・・・ふむ」

 

「もう五分ぐらいそれ見てるけど・・・買おうか?」

 

「ちょっと待ちなさい。わらわの脳内で今会議してるから」

 

「いえっさー」

 

卑弥呼は店頭に並べられている髪飾りを見ながらそっけなく返してきた。

うーむ、何がそんなにも彼女の琴線に触れたんだろうか。

 

「そうだ。なぁ卑弥呼、まだしばらくここにいるだろ?」

 

「そうね。まだちょっと決めらんないわ」

 

「じゃあ、ちょっと饅頭でも買ってくるよ。そろそろ小腹もすくだろ」

 

「・・・良い案ね。頼むわ」

 

「おう」

 

むむむ、と悩む卑弥呼に苦笑しつつ、饅頭屋を目指す。

さて、どこで買おうかなぁ。

 

・・・

 

「はいよ、毎度ありっ」

 

饅頭屋のおばちゃんに見送られながら店を後にする。

さて、これで後は戻るだけだ。

そう思いながら少し歩くと、先ほどの髪飾りを売っていた店の前に戻ってきた。

卑弥呼はどこかな、ときょろきょろ視線を動かすと、なぜか人だかりが出来ている場所があった。

そこへ近づいていくと、聞きなれた声が耳に入ってきた。

 

「おおっ、美人だっ」

 

「なぁ、いいだろ?」

 

「遊びにいこうよ。なっ?」

 

「はぁ、何度言ったら分かるのよ。わらわは一緒に来てる人がいるの。だから、あんたたちには付き合えない。まぁ、一人だったとしてもあんたらにはついていかないけど」

 

・・・あれ、ものの数分で絡まれてる。

まぁ、性格除いたら卑弥呼って美人だからなぁ。しかもミニスカ和服着用中だし。

というか、卑弥呼がさっさと追っ払わないのって珍しいな。

なんか、いつも合わせ鏡で障害をぶっ飛ばして生きてるイメージだったんだけど。

・・・ああ、「人前で魔法を使わない」っていうの、守ってくれてるのか。

 

「おいおい、あんまり調子に乗ってると、俺らも加減できないよ?」

 

「ちょっと遊んでくれるだけで良いんだって!」

 

あ、卑弥呼のこめかみがぴくぴくしてる・・・。

このままだと魔法を使いそうである。

 

「おい、やめろよ」

 

饅頭の袋を持ったまま、俺は男たちに背を向け守るように卑弥呼と男たちの間に割ってはいる。

 

「弱いもの虐めはよくないぞ」

 

「・・・それ、普通女の子を背中に守らないかしら」

 

「え・・・?」

 

「ちょっと待ちなさい。その「何を言ってるの?」という表情をやめなさい。わらわだって、魔法を使うの我慢してるんだから。今はわらわが弱者じゃないの?」

 

「えっ・・・?」

 

「驚きが大きくなってるわよ!」

 

「おいおい兄ちゃん、いきなり割って入って何のマネだよ」

 

背後にいる男たちに声をかけられた。

以前わくわくざぶーんでナンパしていた人たちとは違い、素直に引かないようだ。

ええい、君たちの命がかかっているんだぞ。退け、退くんだ! 

 

「その子には俺たちのほうが早く声掛けたんだぜ。後から来たやつは引っ込んでろよ!」

 

「いや、その人がわらわの連れなんだけど・・・」

 

「そうだそうだ!」

 

「・・・聞いてねえし。あー、鏡に魔力集めたくなってきたなー!」

 

・・・まずい。卑弥呼が爆発寸前である。

ここでぶっ放されたら間違いなくこの区画が消し飛ぶ。

 

「まぁまぁ、落ち着けよ、な?」

 

「ちょっとそこの男三人差し出しなさい。適度に殴って返すわ」

 

「ストレス解消のサンドバッグ代わり・・・だと・・・?」

 

怖い。何が怖いってナンパしてきた男たちをサンドバッグとしてしか見てない卑弥呼が怖い。

 

「てめえ、そろそろよけろ・・・よ!」

 

「あぶねっ」

 

背後からのパンチをかがんでよける。

生身でサーヴァント殴るとか何考えてるんだこの男。手痛めるぞ。

そのまま勢いづいた男は卑弥呼の前までよろよろと出て行った。

 

「良いわ、顔はその位置よ」

 

「は? 何・・・おぶっ!?」

 

ごっ、と顎を殴って脳を揺らした卑弥呼。

 

「お、おい! 大丈夫かっ」

 

そういって倒れた男に残った二人のうち一人が駆け寄り、声を掛けながら揺すっていた。

 

「やりすぎだ、卑弥呼」

 

「・・・ふんっ。・・・良い、あんたたち。これに懲りたら、人の話はきちんと聞いて、嫌がる女の子にしつこくしないことをお勧めするわ」

 

「てめ、調子乗ってんじゃ・・・」

 

「お、おい、今気づいたけど、あの男って金色の将ってやつじゃ・・・!」

 

「え・・・ちょ、や、やべえ!」

 

二人は俺のほうを見てそういうと、倒れた男に肩を貸しながら逃げていってしまった。

・・・というか、俺ってそんな風に呼ばれてたんだ・・・。

 

「ふぅ。まぁまぁすっきりしたわね」

 

そういう卑弥呼に、やさしめにデコピンする。

 

「いたっ。・・・あによ」

 

「やりすぎ。もうちょっと穏便に済ませられなかったか?」

 

「・・・合わせ鏡をやらなかっただけでも、わらわにとっては最大級のやさしさよ」

 

「あれでやさしいんだ・・・」

 

「それに、わらわは女王よ? 無礼者には、分からせてやらないとね」

 

「・・・こわっ」

 

「大丈夫よ。あんたにはしないから。・・・手合わせ以外では」

 

・・・手合わせでは、やるんだ・・・。

 

・・・

 

あの後、卑弥呼が気に入ったらしい髪飾りを買わされ、俺たちは饅頭を食べながら城に戻った。

 

「さ、なんだか疲れたし、部屋に戻るわよー」

 

「・・・了解」

 

俺も疲れた。

 

「ふぅ。たっだいまー」

 

部屋に入ると、早速寝台に飛び込む卑弥呼。

少しごろごろと転がると、んー、と伸びをしながら立ち上がった。

 

「さて、お風呂入ってくるかな」

 

「いってらっしゃい」

 

どこからか風呂道具を取り出した卑弥呼を送り出し、ふぅ、と一息。

 

「疲れた」

 

何が疲れたってあの髪飾り買って帰るまでの視線で疲れた。

まぁ、みんな悪い印象は持ってなかったみたいだから、迷惑掛けたわけではないだろう。

しばらくそんなことを考えていたら、卑弥呼が戻ってきた。

 

「お、浴衣か」

 

「ん、知ってんのね。そうよ。どう?」

 

「いいね、似合ってる」

 

いつもの束ねた髪ではなく、髪を下ろしているので、それも似合っていた。

 

「どうよ、色っぽいかしら」

 

「とっても」

 

「そう? よかった」

 

「? よかった?」

 

どういうことだ? と聞き返す前に、卑弥呼が行動を起こした。

 

「ええ。ていっ!」

 

「なっ!?」

 

じりじりと距離を縮めていた卑弥呼に飛び掛られ、寝台に押し倒される。

この流れはまさか・・・! 

 

「油断したわねっ。いただいたっ」

 

「むぐっ」

 

ほとんど勢いで俺に口付けした卑弥呼。

前歯があたらなかったのは奇跡と言っていいだろう。

 

「ん、ちゅ、ぷあっ。・・・これが、キスね。・・・思ったよりドキドキするじゃない」

 

「・・・顔真っ赤だぞ。恥ずかしいならこのくらいでやめておけよ?」

 

「ちがうわよ! こ、これは・・・そう! お風呂上りだからよ!」

 

そういいながら、ムキになったのか俺のズボンに手を掛ける卑弥呼。

 

「おおっ!? ちょ、何でそんなに積極的なんだっ」

 

「はんっ、そんなものギルのことが好きだからに決まってんでしょ!」

 

「ここまで勢いに任せた告白は初めて受けたぞっ!」

 

「じゃあわらわの初めてで相殺してあげるわっ!」

 

「何でそんなハイテンション!?」

 

「ほら出てきた。諦めなさい。わらわだって恥ずかしいのよ。男に裸見せるなんて、初めてなんだから」

 

恥じらいながら浴衣をはだけた卑弥呼に迫られて、俺の理性は負けてしまった。

 

・・・

 

「・・・く、まだ入ってる感覚が・・・」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫よ、このくらい」

 

「その、後悔してないのか?」

 

なんか昨日はほとんど勢いみたいなものだったし・・・。

 

「してるわけ無いじゃない。初めて好きになったやつと結ばれたのよ。これで後悔してたら、そいつは頭がやばい子ね」

 

「そっか。なら良いんだ。・・・それにしても、意外だったなぁ。卑弥呼が俺のこと好きでいてくれたなんて」

 

「ふん。わらわはどこかのツン子みたいに分かりやすい顔してないからね」

 

ふいっと卑弥呼が顔をそらしながらそういう。

・・・だが、俺は見逃さなかった。

卑弥呼が顔をそらしつつも頬を赤く染めていたことを・・・! 

 

「・・・ふむ・・・とりあえず、弟に知らせないと」

 

「あれ、家出してるんじゃないのか?」

 

「嘘に決まってんじゃない」

 

「・・・そうですか」

 

「んー・・・ほら、ギル。わらわの事抱きしめなさい」

 

「偉そうに」

 

「偉いもん。ほら、女王を抱きしめられるなんてあんただけなんだから」

 

「そうだな。じゃあ、遠慮なく」

 

寝台に寝転がる卑弥呼を正面から抱きしめる。

全体的にスレンダーな卑弥呼だが、こうして抱きしめると女性特有のやわらかさが感じられる。

 

「ふふ、良い気分ね。幸せだわ」

 

・・・この状態でしばらくいたら、俺を起こしに来た月たちに見られ、ちょっとした騒ぎになったのは言うまでも無い。

 

・・・




「あ、姉さんからの手紙。・・・何々? 「恋人が出来たんだぜ!」ほうほう。・・・え? なん・・・だと・・・?」「はっ、弟君が卑弥呼様からの手紙を読んで戦慄しておられる!」「まさか、凶報だったのか・・・!?」


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