それでは、どうぞ。
「はっくしょん!」
「どうした、ギル。風邪か?」
「・・・いや、違うと思う。誰か、噂でもしてるのかなぁ」
俺は、一刀に誘われて昼飯を食べに街まで出てきた。
一刀はこっちに来てからというもの、男の友達がいなかったらしい。
なので、俺が暇しているとこうしてよく昼食なんかに誘われる。
「そりゃ、ギルは大人気なんだから噂くらいされるだろ」
冗談交じりにそういった一刀は、ずずず、とラーメンを啜る。
「あまりほめるなよ。照れるだろ」
「少しは照れてる顔をしてからそう言ってくれ」
こちらを恨めしそうに見てくる一刀に、すまんな、と言ってから、俺もラーメンを啜る。
「・・・それにしても、暑いな・・・」
「そうか?」
「・・・英霊って暑いのとか感じにくいんだっけ?」
「そうみたいだな。・・・でもま、最近暑すぎて政務とか大変みたいだし・・・」
「あー・・・それについてはギルに感謝してる。ギルがいなかったら、いろいろと仕事がとまってたと思う」
「どういたしまして。・・・どっかにレジャー施設でもあればいいんだけどな。時代が時代だし・・・」
「レジャー施設ねぇ。川なら近くにあるけど。というかまず、水着っていう概念がないらしいし」
「みたいだな。服を着たままか、全裸か。・・・すげえ二択だよな」
「同意するよ」
「・・・水着、作ってみるか」
話をしているうちに、俺は月と詠の水着姿を見てみたくなったのだ。
「えっ!?」
「素材はわからんが・・・代用品が無いか服屋の人に聞いてみようぜ」
「そうだなぁ・・・やるだけやってみるか!」
「その意気だ」
代金を払い(一刀の分は俺が払った。何でも、魏の三羽烏の食費で大変らしい。南無)、服屋へと向かう。
「はぁ、強くてしなやかで、水に濡れてもすぐ乾き、普通の布のように肌に張り付いて邪魔になったりもしない素材・・・ですか?」
「やっぱり、心当たりとかは無いか」
「申し訳ありません、ギル様」
「いや、興味本位だったから、気にしないでくれ」
一刀がいろんな服を注文し、その注文どおりに仕立て上げたという職人の腕をもってしても、あの素材は再現できないか。
うーん、と頭を抱えていると、服屋の息子の暑気あたりを見に来たという華佗に出会った。
貂蝉つながりで知り合った彼は
「一刀か。それにギルも。どうしたんだ? 涼しい服の相談か?」
「実は・・・これこれしかじかの」
「かくかくうまうまか。なるほど・・・」
・・・通じるんだ、あれで。
「確かに難しい問題だな・・・」
「華佗でも心当たりは無いか・・・。いろいろなところを旅してきたって聞くから、もしかしたらと思ったけど・・・」
「いや、無いことはないぞ」
「本当か!?」
「ああ。だが、厳しい道のりになる。・・・それでもやるか?」
・・・
華佗から聞いた素材のありか。
貂蝉と卑弥呼、そして華佗の三人でようやく倒したという龍の皮が水着の素材となりえるらしい。
「とりあえず、龍の元へは
「・・・いきなり宝具かよ」
「当たり前じゃないか。幻想種の龍と戦うんだぞ。消耗は避けたい」
「ギルにそういわれると、倒せるかどうか不安になってくるんだけど」
「安心しろって。・・・最悪、お前だけでも帰すから」
「安心できねえよ! むしろ不安が増すじゃねえか!」
「まったく、わがままだなぁ」
「そういう問題か!?」
「まぁまぁ。後は・・・人手だな。一刀の知り合いで、秘密が守れる奴に心当たりは?」
「・・・何人か」
「よし、そいつらのところへ行こう」
・・・
この時間ならあそこにいるな、とつぶやく一刀についていくと、兵士の宿舎にたどり着いた。
宿舎に入ると、いたのは一般の兵士たちだった。
「お、大将!」
「どうしたんスか?」
「ああ、ちょっとな・・・」
「って、ギルさままでいるじゃないですか!? 何事ですか!?」
「頼みごとがあるんだが・・・一刀、こいつらってお前が以前話してた・・・」
「ああ・・・
「なるほど、信用できるな。いいか・・・」
兵士たちに簡単に内容を説明する。
水着という下着のようなかたちをした水遊び用の服を作りたい。
しかし、そのためには龍の皮を手に入れる必要があり、そのための人手を集めている。
それから一刀にバトンタッチ。彼らの魂を揺さぶる説得ができるのは一刀だけだ。
水着を着ているときに起こるうれしはずかしハプニングの話やらを聞いているうちに兵士たちは興奮してきたらしい。
「それで北郷さま。その水着に使うのが・・・」
「そう。さっきも言ったが・・・龍の皮だ」
伸縮性に飛んでいて、濡れても丈夫。華佗から聞いた話では、龍の皮が最適だと聞いていた。
その話を出したとたん、彼らの顔は曇った。
・・・流石に、龍に挑むというのは尻込みするか・・・。
「厳しくはあるが・・・ギルも協力してくれる! みんなで協力すれば、絶対にできるはずだ!」
「分かったッス! 俺、水着のために頑張るッス!」
だが、そういって立ち上がったのは魏の兵士のみだった。
・・・流石に、俺が一緒だからと言っても尻込みしてしまうか。
サーヴァントのことを知らない一般の兵士たちの俺への認識は、「飛将軍呂布と張り合える将」といったものだろう。
宝具の存在を知らないのならば、そんなものだ。
「やっぱり、厳しいか?」
「龍・・・ですよね? いくらなんでも、相手が悪すぎるというか・・・」
「みんな、情け無いッスよ! 水着姿の女の子のために、頑張りましょうよ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・みんな」
一人というのはまずいな。
龍の皮を剥いだり、肉を切ったりする人員は多いほうがいい。
「大丈夫だ」
「え?」
「ぎ、ギル様・・・?」
「俺には、龍に勝つ秘策がある。みんなには、その手伝いをしてもらいたいんだ」
「秘策・・・本当ですか?」
「ああ。・・・ただ、ここでそれを説明することはできない。きてくれた者だけに、俺の秘密とともに教えよう」
「・・・みんな、無理は言わない。挑めると思った人だけ、門のところに集合してくれ」
俺と一刀はそういった後、宿舎を出た。
・・・
「みんな・・・!」
「大将。二人だけに良い思いはさせませんよ」
「そういうことですね。ギル様の秘策、私も信じようと思います」
「お供しますよ、地の果てまで」
「袁紹さまのおっぱいのために!」
「顔良さまのおっぱいのために!」
「よし・・・なら、みんなで龍を倒し・・・龍の皮を手に入れるぞーっ!」
「おおおーーーっ! !」
そういって腕を突き上げる兵士たちとともに、林の中へと入っていく。
「これは・・・!」
「黄金の船・・・!?」
「で、でも、何で森の中に船が・・・?」
「そうッスよね。川も近くにありませんし・・・」
「ちっちっち。違うんだよ」
「どういうことですか、北郷さま」
「これは、空を飛ぶんだ」
一刀がそういったと同時に、兵士たちが絶叫する。
以前一刀もそんな感じの反応をしていたのを思い出す。
「龍は空を飛ぶからな。こちらも同じ土俵に立たなければならないだろう」
「す、すげーっ!」
「どこで手に入れたんですか、こんなもの!」
「実はな・・・」
兵士たちに他言無用だと前置きして、俺の秘密を話す。
英霊という人間を超えた存在であること、その英霊を英霊たらしめるものが『宝具』と呼ばれるもので、俺の宝具である蔵から取り出したものであることを話した。
「・・・す、すげえ・・・」
「そんな人と、一緒に戦ってたんですね・・・」
「ま、それ以外は人間と同じだから、気にしすぎるなよ?」
「了解ッス!」
「よし、じゃあ乗り込め! 龍のいる山まで、一直線だ!」
「おーーっ!」
・・・
高速で飛ぶ飛行船。
雲が渦巻き、雷が轟いている山まで一直線に飛ぶ船の中で、最終確認をしていた。
「いいか、この飛行船には戦闘能力は無い」
「じゃあ、どうやって・・・」
「おいおい、あせるなよ。・・・無いなら、付け足せばいいんだ」
「おおっ!」
「なんと・・・」
そう思いついた俺は、雷を操る宝具やら砲弾を発射する宝具やらを組み込み、この飛行船を戦闘船に仕立て上げた。
「だから、みんなには砲撃を担当してほしい」
「分かったッス!」
「ここに全員の担当を書いておいた。それぞれの場所に説明書は置いておいたから、到着までに見ておいてほしい」
と言っても、引き金を引く、とか簡単なものなんだけど。
後は少し注意事項を書いておいただけだ。
・・・
「ギル! 見えたぞ! 龍だ!」
外の様子を見ていた一刀が、操縦している俺に向かって叫ぶ。
「分かった。総員、戦闘準備! 龍が見えた!」
悠々と空を飛ぶ龍へと接近すると、龍もこちらに気づき、この船に匹敵する速度で迫ってくる。
「ちっ、流石に早いな・・・!」
だが、幻想種の龍とは少し違うようだ。
やはり、世界が違うからか、一般の人間でも数十人集まれば倒せる。
「とりあえず様子見だ! 呉の! 砲弾を発射してくれ!」
「応!」
魔術によってそれぞれの部屋と会話ができるようになっており、俺の目の前にはそれぞれの国の兵士たちと通信するための宝石がある。
そのうちの赤い宝石から呉の兵士の元気な応答が帰ってくると同時に、龍に向かってミサイルのような砲弾が放たれる。
これは宝具ゆえの威力であり、砲弾も魔力で構成されているため、龍の体でも効果はあるだろう。
「ギャオオオオオオオオオオオオッ!」
龍はその弾丸をいとも簡単によけた。
「やっぱり一筋縄ではいかないか・・・」
皮に傷をつけない様にしつつ、きちんとダメージを与えないといけないとは・・・。
龍は黄金の船の隣をすれ違うように通り過ぎると、すぐに転進し、船の後ろについた。
「ギル様っ! 龍が後ろにつきました!」
「ああ、見えてる! 蜀の! 目くらましを!」
船の後部に取り付けたのは目くらましようの閃光弾のようなものだ。
急激に発光する火薬やらを配合した弾を、いくつか背後で爆裂させる。
背後で爆裂するので、自分たちにはあまり影響が無い、というのが利点だ。
「やりました!」
目くらましを食らった龍は、雄たけびを上げながら暴れだす。
「よし、袁紹の兄弟は龍に向けて電撃を発射しろ!」
「了解だ! 兄者!」
「分かっている、弟者!」
金色の宝石から聞こえてくる会話の後、龍へ向けて雷が発射される。
袁紹の兄弟が担当しているのは、雷を起こす宝具を利用した雷発射装置だ。
一人が標準を定め、もう一人が鎚のようなものでスイッチを刺激する。
すると、宝具から発生した雷が金具に先導され、標準の方向へと電撃を発射できるのだ。
龍の皮に傷をつけないようにと取り付けたものだったが、何とか機能しているようだ。よかったよかった。
「兄者、当たったぞ!」
「ああ、弟者、直撃だな」
さらに混乱し、高度を下げた龍へと追撃をかける。
「魏の! 網を落とせ!」
「了解ッス!」
船の下部に取り付けたのは、網である。
ただの網ではない。
人間以外、特に四足歩行の存在に対してかなりの捕縛力を誇る縄だが、龍には効果が薄いようだ。
もがきながら高度を落とすものの、拘束には至らない。
だが、これだけ行動を妨害すれば、安全に倒せるだろう。
「董の! 光線を!」
「おうともさ!」
ヴィマーナには、元々太陽光をエネルギーに転換する装置がついていた。
それを攻撃用に転用したのがこのレーザー発射装置だ。
「よし、あたったぞ!」
光線は見事に龍を直撃した。
顔面を焼かれた龍は地面へと墜落し、しばらくじたばたとした後、動かなくなった。
「よ、よっしゃあああ!」
俺の隣で支援をしていた一刀が歓声を上げる。
宝石からも、兵士たちの喜びの声が聞こえる。
「よし、船を下ろして龍から素材を剥ぎ取るぞ」
水着に必要な皮と、華佗に頼まれた龍の肉。頼まれてはいないが、華佗に対する感謝の気持ちとして龍の内臓も持って帰ろう。雷で焼け焦げてないと良いんだけど。
そんなことを考えながら、船を地面ぎりぎりに下ろす。そこからはしごを下ろし、全員で龍の元へと向かう。
みんなの手には、龍を解体するための道具が握られている。
「皮は丁寧に剥ぐんだぞー」
「部位ごとに分けてくれよ。そうすれば、蔵に入れられるから」
「・・・ギルがいてくれてよかったなぁ」
「どうしたいきなり」
一刀が遠い目をしながら泣き始めたので、あわてて理由を聞く。
「いや、ギルがいなかったらたぶん道中で三人はいなくなってただろうし、龍と戦ってる途中で暴露大会が開かれただろうし・・・」
「・・・頭でも打ったのか?」
「失礼な。まぁ、とにかく感謝してるってことだよ」
「ありがとさん。・・・お、皮はそこの風呂敷にまとめて・・・そうそう。
肉も台車に載せ、宝物庫へ。・・・そろそろ、
内臓は部位ごとに分けて箱の中へ。一つ一つが大きいので、箱もそれなりに大きくなる。
・・・まぁ、宝物庫はかなりの容量を誇るから、問題は無いだろう。
「よし、全部乗せたな。帰ろうか」
「おう!」
「・・・日帰りで龍を倒すことの恐ろしさにいまさら気づいたんですが、どうしたら良いでしょうか」
「? 何ぶつぶつ言ってるんスか?」
「いえ、何でもありません」
そういって黄金の船へと戻る途中で、真横からタックルされた。
恐ろしくすばやい上にありえないほど気を抜いていたので、ずざざー、と面白いぐらいに地面を横滑りした。恥ずかしい。
「兄なのにゃ! どうしたのにゃ?」
「・・・それは俺の台詞なんだが・・・なんで俺に突撃してきた」
「兄をみつけたからなのにゃー!」
よく見てみると、ミケトラシャムの三人も俺に引っ付いていた。
「そうか、よく考えたらここ、南蛮の近くだ」
美以たちは帰省しているはずだったしな。ここにいても不思議じゃない。
「ま、ついでだ。美以、これから蜀に帰るけど、ついてくるか?」
「にゃ! 当然なのにゃ」
何が当然なのかは分からないが、いつまでも倒れているわけにも行かない。
四人娘を引っ付けたまま、立ち上がる。歩きづらいがしょうがない。この子達と接する上で大切なのは、あきらめることだ。
「・・・大将。あの人、四人の女の子を引っ付けたまま立ちあがったんだが・・・」
「ギルについては、話を聞いただろ? ・・・超人なんだって」
後ろから諦めがたぶんに含まれたため息が聞こえたが、そっちに反応するより美以たちをかまうほうが大変なので、無視した。
「・・・みんな、帰るぞー」
帰りの船の中では、はやいのにゃー! とはしゃぐ美以たちをなだめるのに気をとられ、何度か山に船をぶつけた。
・・・
龍の討伐から帰ってきた後、華佗の根回しのおかげで俺たちは「暑気あたりの民のために、龍の肉を手に入れてきた」ことになっており、半日ほど街を離れていたことについてはお咎めなしだった。
華佗が街のみんなへの分配計画を作っているはずなので、後は華佗と朱里たちに任せてきた。
俺たちは俺たちでやることがあるのだ。
「・・・ギル、皮は?」
「おいおい、英雄王の宝物庫をなめるなよ? 鮮度も品質も一切落ちてないぞ。むしろ上がったといってもいい」
「さっすが、ギルの兄貴!」
兵士たちからの変な呼び名が定着していることをスルーしつつ、服屋へと急ぐ。
皮と注文書を手渡し、職人たちに腕を振るってもらうためだ。
すぐに服屋へと到着し、宝物庫から取り出しておいた皮を渡す。
一刀は一度城に戻って注文書を取りに行っているから、後で酒屋で合流する手はずとなっている。
「・・・水着か」
蜀や呉の将たちの水着のデザインも一刀に一任したため、どんなのが出来るかは見てからのお楽しみというわけだ。
兵士たちもよく頑張ってくれたということで、水遊びの際の警備兵に任命することを、俺と一刀が約束した。
さて、後は酒屋へ向かうだけか。
・・・
「かんぱーい!」
八人の男が、杯をぶつけ、一気に酒を飲み干す。
「っかー! この一杯のために生きてるッス!」
「ははは、おいおい、俺たちはこの一杯のためなんかにあの激戦を潜り抜けたんじゃないぜ?」
「そうですよ! 大将、ギル様、あの約束、忘れないでくださいよ?」
「大丈夫だ。・・・というか、すでに根回しは終わってる」
「なんと!?」
「ふっふっふ。俺の無駄な文官スキルをなめるなよ!」
「すきる? ・・・よく分からないが、ギルの兄貴がすごいのは分かったぜ!」
みんな酔っている所為かテンションが高い。
すっかり出来上がった兵士たちと騒いでいると、華佗がやってきた。
「お、やってるな」
「ん? ・・・華佗か。配給は終わったのか?」
「ああ。暑気あたりの人たちの分はもちろん、他の人たちの分まで確保できた。よくあんなに大量の肉を持って帰れたな」
「あ、あはは。街の人たちのためを思えば、あんな量、どうってこと無いさ! な、ギル!」
「そうだな!」
流石に
それから華佗が龍を倒したときの話を聞いたり、華佗からこっそり龍の唾液から作ったという古の秘薬をもらったりと騒がしいまま夜は更けていった。
・・・とりあえず、月に使ってみるかな。
・・・
「月ー、ちょっとこのお茶飲んでみてー」「へぅ、何ですかこれ?」「いいからいいから」「んくっ・・・はれ? なんだか、暑くなってきましたぁ・・・」
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