真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「市民プールとかにあるたこ焼きの自販機、すっげえ驚いた記憶がある」「フライドポテトとかもあったよな。久しぶりに食いたいなぁ」「華琳と流々たち料理の得意な娘たちを集めれば出来そうだけどな」


それでは、どうぞ。


第十八話 母娘とプールに

「ギルおにーちゃーん!」

 

「こら、璃々っ」

 

夏も終盤に差し掛かり、うだるような暑さから開放されてきたある日のこと。

城の通路を歩いていると、背後から璃々の声が。

その更に後ろから、紫苑の声も聞こえる。

 

「どうした、璃々。紫苑も」

 

「あのね、あのね、お兄ちゃんと一緒にわくわくざぶーんにいきたいの!」

 

「わくわくざぶーんに?」

 

そういえば、紫苑と璃々には都合がつかなかったから、わくわくざぶーんの試遊にはきてなかったんだっけ。

 

「もう、璃々、ギルさんに変なことを言わないの」

 

「あのね、おかーさんは今日お仕事お休みで、一緒にきてくれるの! ギルおにーちゃんは、今日おひまですか!」

 

首をかしげながら元気にそう聞いてくる璃々に癒されつつ、頭の中で今日の予定を思い起こす。

・・・うん、特に問題はないな。

 

「ああ、俺は大丈夫だよ。紫苑、俺も一緒に行って良いかな?」

 

「ええ、ギルさんが来てくださったら、璃々も喜びますし・・・」

 

でも、本当に大丈夫なのですか? と不安そうにする紫苑に、大丈夫大丈夫、と笑いかける。

 

「よし、行こうか、璃々!」

 

「うんっ! ほら、おかーさんも早くっ」

 

「ふふ、引っ張らなくても大丈夫よ、璃々」

 

俺と紫苑は、璃々に引っ張られながらわくわくざぶーんへと向かった。

 

・・・

 

「わぁー・・・!」

 

「あら・・・」

 

水着に着替えた璃々と紫苑は、わくわくざぶーんのプールを見て驚きの声を漏らした。

やっぱり、はじめて見た人は驚くよなぁ。

 

「すごーい!」

 

「ああほら、璃々、準備運動してからな」

 

なんとか璃々をたしなめ、柔軟体操をしておく。

足がつったりしたら大変だからな。

 

「よし、それじゃあゆっくり入ろうか」

 

一応子供用の浅いプールもあるが、人は確か20センチ水深があれば溺れるらしいからな。

気をつけなくては。

 

「うんっ。・・・ふわぁ、あったか~い!」

 

「あら、ほんとね。お風呂より少しぬるいくらいかしら?」

 

「ああ。冬場でも泳ぐのに問題ないのはこれくらいかと思ってね。これ以上温度を上げると風呂になっちゃうから」

 

その後は、璃々の手をとって泳ぎの練習をしたりしていたのだが、しばらくするとウォータースライダーに興味を持ち始めた。

 

「あのおっきい竜は何~?」

 

「あれはな・・・まぁ、説明するより乗ったほうが早いな。いこうか、璃々」

 

「うんっ」

 

「あら、じゃあ、璃々をお願いしますね、ギルさん」

 

「ああ、任せてくれ」

 

プールサイドで一休みするらしい紫苑に手を振り、階段を上る。

 

「ふわー・・・ここからすべるのー?」

 

「そうだよ。俺と一緒に滑ろうか。俺の脚の上においで」

 

「わかった!」

 

よいしょ、と俺の脚を跨ぐように乗った璃々の腰に手を回し、滑り出す。

最初はあまり早くないものの、すぐに周りの景色が線になるくらいの速度になる。

 

「はやーい!」

 

「はやいだろー!」

 

二人してはしゃぎながらいくつかのカーブを曲がり、プールに着水する。

水面から顔を出すと、璃々がもういっかい、とせがんでくる。

 

「そうだ。紫苑と一緒に乗ったらどうだ?」

 

「おかーさんと?」

 

「ああ。紫苑も璃々と一緒に滑ってみたいって思ってるぞ」

 

まぁ、本音は紫苑にもウォータースライダーを体験してほしいっていうのがあるんだが。

なんていうか、はしゃぐ紫苑を見てみたいというか・・・。

そんなことを考えながらプールサイドに戻ると、驚きの光景が広がっていた。

 

「お願いしますっ。今日だけでいいんで、一緒に遊びませんか!」

 

「ごめんなさい、さっきも言いましたけど、今日は娘と・・・」

 

「そんな嘘つかないでくださいよおねえさぁん。ね、今日だけだから!」

 

・・・・すげえ。ナンパだ。

というか、子持ちだっていっても信じてもらえてないぜ、紫苑。

三人ぐらいの青年に囲まれている紫苑は、笑顔ながらも困ったような表情をにじませている。

とりあえず、ここで何か考えているより助けるのが先か。

俺は璃々と一緒にプールサイドに上がり、紫苑の元へと向かう。

 

「おかーさーん!」

 

「おーい」

 

俺と璃々が声をかけると、紫苑と青年たちがこちらを見る。

紫苑は俺を見つけるや否や、こちらに駆け寄ってきた。

 

「あ、あなたっ!」

 

・・・なんて、爆弾発言をしながら。

 

「ひ、人妻っ!?」

 

「本当に子持ちだったのかよ・・・」

 

「し、信じられない」

 

ひしっ、と俺の腕に抱きついてくる紫苑に驚いているのは、俺だけじゃなかったようだ。

三人の青年も三者三様の驚きをあらわにしていた。

 

「・・・えーと、すまんな」

 

「あ、いえ、その、こちらこそ・・・」

 

意外と話のわかる青年たちだったらしい。

声をかけてみると、ぺこりと会釈しながら去っていった。

 

「・・・っていうか、紫苑。あなたって・・・」

 

「あまりことを荒立てないようにするには、ああするのが良いと思って・・・」

 

「ま、いいけどね」

 

いくら紫苑が将だとはいえ、専門は弓だ。

近接戦闘もできるのかもしれないが、成人男性三人を相手にしては不安もあるのだろう。

・・・というか、女性が男性三人に囲まれれば大体恐れるだろう。

 

「すみません・・・」

 

「いいよ。あなたって言われるのも、悪くないってわかったしな」

 

「そういっていただけると、うれしいです」

 

俺の腕へ絡めた手にきゅっと力を入れながら、紫苑はお礼を言ってくる。

 

「よし、もうこの話は終わり! 紫苑、璃々がお願いがあるらしいんだけど」

 

「え? ・・・なにかしら、璃々」

 

「あのね、あのね、璃々と一緒に、滑り台滑ってほしいの!」

 

「あら、私と?」

 

「うんっ!」

 

「というわけだからさ。璃々と一緒に行っておいでよ」

 

俺は出口で待ってるから、と二人を送り出す。

璃々に手を引っ張られながら、紫苑は階段を上っていく。

・・・さて、滑り台のゴールに行きますか。

 

・・・

 

「きゃあー!」

 

「あはははー!」

 

黄色い声とともに、人がすべる音がする。

・・・そろそろゴールかな。

 

「わー!」

 

ざぱーん、とプールに着水した二人は、すぐに水面に顔を出した。

 

「楽しかったー! ね、おかーさん!」

 

「ええ、そうね・・・っ!」

 

璃々に笑顔で応対していた紫苑が、急に俺に抱きついてきた。

 

「ど、どうした紫苑」

 

とりあえず冷静に返してみたものの、真正面から抱き疲れているためかなり巨大なサイズの双丘が・・・! 

 

「む、胸が・・・」

 

胸? と思わず紫苑の胸に目がいってしまう。

俺の胸で潰れているそれは、かなりやわらかそうで・・・って、あれ、肌色の面積が多いような・・・。

 

「紫苑、水着は!?」

 

「わ、わかりません・・・。滑っていたときは確実にあったのですが・・・」

 

「璃々、ちょっとおいで!」

 

「んー、なーにー?」

 

泳ぎを教えた成果か、ちゃぽちゃぽとゆっくり泳いでくる。

 

「その辺に、紫苑の水着が浮いてないか?」

 

「おかーさんのー?」

 

きょろきょろとする璃々にあわせて、俺もきょろきょろと周りを見渡す。

紫苑は恥ずかしがっているのか、顔をうつむかせたままだ。

いつも笑顔でのほほんとしている印象の強い紫苑なだけに、こうして恥ずかしがってうつむいている姿は新鮮に見える・・・じゃなくて。

やっぱり衆人環境の中で胸を大開帳したのが堪えているのか、水着が見つかるまではこうしているつもりらしい。

 

「ギルおにーちゃーん! あったよー!」

 

ちゃぽちゃぽ、と璃々が手に水着を持ちながらこちらに泳いでくる。

 

「あ、ありがとう、璃々」

 

素早く水着を受け取った紫苑は、手早く水着を装着した。

 

「お、お恥ずかしいところをお見せしました・・・」

 

「いやいや、眼福というかなんというか・・・」

 

まさか、こんなイベントに遭遇するとは思わなかったが・・・。

 

「? おかーさん、ギルおにーちゃん、どーしたの?」

 

そんなことを聞いてくる璃々に、俺と紫苑は苦笑を返すしかなかった。

 

・・・

 

うれしはずかしハプニングの後、俺たちは再び三人で遊び始めた。

璃々は泳ぐのがお気に入りらしく、後ろに進む俺を追いかけてちゃぱちゃぱと泳いでいる。

その近くで、紫苑はニコニコ微笑みながら璃々を見守っている。

 

「よしよし、上手だな、璃々は」

 

「えへへー。璃々、じょうずにおよげてる?」

 

「ああ、泳げてる泳げてる。・・・よし、ちょっと休憩しようか」

 

そろそろ休憩しないと璃々の体力的にもまずいだろう。

そう判断した俺がそういうと、紫苑もそうですねとうなずく。

 

「はーい、きゅーけーしまーす!」

 

おや、意外だな。

もうちょっとごねるかと思っていたら、素直にプールサイドに向かったぞ。

 

「・・・なんか、これが成長か、って感じするなぁ」

 

「あら、ようやく璃々の父になる気になりました?」

 

「・・・そういう冗談、あんまり好きじゃないなぁ」

 

そういって背後にいる紫苑に振り向くと、紫苑はいつものような微笑みを顔に浮かべていた。

 

「冗談ではありませんよ。今まで一緒にすごしてきて、あなたとなら・・・と思ったのは嘘でも冗談でもありません」

 

さ、とりあえずは水からあがりましょう? と言いながら俺の手を引っ張る紫苑。

俺は、先ほどの紫苑の発言のことで頭がいっぱいで、それからどうやって城まで戻ったのかは覚えていない。

覚えているのは、璃々がばいばーい、と手を大きく振っているのと、妙な笑みを浮かべて小さく手を振っている紫苑だけだった。

 

「・・・ふぅ」

 

とりあえず、寝台に転がる。

・・・今日は紫苑の一言のせいで、なんだか変に眠い・・・。

 

「ギルさん」

 

夢の中。

紫苑にのしかかられ、呼びかけられる夢を見ている。

・・・夢にしては妙にリアルだ。

呼びかけられる声、声とともに届く吐息。

 

「し・・・おん・・・?」

 

「はい。私です」

 

なんだ? 俺、そんなに欲求不満だったのか・・・? 

月や詠たちじゃなく、紫苑を夢に見るとは。

 

「ふふ、寝ぼけているのね」

 

そういって、紫苑は俺の頬に手を伸ばし・・・って、あれ? 

寝ぼけて・・・

 

「し、紫苑っ!?」

 

驚きで完全に覚醒した。

おお、なんだこりゃ。すげえ状況だな。

仰向けに寝てる俺にのしかかるように四つんばいになっているからか、紫苑の胸が俺の胸にあたって潰れている。

うおお、愛紗や桃香よりも強力な兵器だ・・・! 

 

「あら、ようやくお目覚めですか? おはようございます」

 

「おはよう、じゃない! ・・・どうしたんだよ、いったい」

 

混乱も落ち着いてきたので、冷静に返すことができた。

そんな俺に、紫苑はゆっくりと話し始めた。

 

「いえ、ギルさんは昼間の話を冗談だと思っているらしいので、本気だって証明しにきました」

 

「証明って・・・まさか、璃々の父にってやつか・・・」

 

「ええ。璃々の父・・・すなわち、私の夫にということですから」

 

「・・・璃々は、良いって言ってるのか?」

 

「聞かなくてもわかりますわ。璃々があんなに懐いた殿方は、今まで見たことありませんから」

 

ああもう、ああいえばこういうというのはこのことか。

どうしても引いてくれないらしいな。

 

「ああもう、据え膳食わぬはなんとやら、だな。わかったよ、紫苑」

 

俺の頬に添えられている紫苑の手を取り、ため息とともにそう伝える。

 

「こうまでして紫苑が気持ちを伝えてくれたんだから、俺も応えないとな」

 

「ふふ、潔いですね」

 

「それに・・・紫苑も璃々も好きだからな。応えないって選択肢はない」

 

「ありがとうございます。・・・今日は、たっぷりかわいがってくださいね?」

 

妖艶に微笑んだ紫苑と口付けしながら、俺、明日大丈夫かな、と少しだけ心配になった。

 

・・・

 

朝、紫苑に起こされる。

 

「ギルさん、起きてください。もう朝ですわ」

 

「ん、ああ・・・。もう朝か・・・」

 

のそり、と上半身を起こす。

・・・ああ、太陽が眩しい・・・。

 

「そういえば、俺の部屋で一晩過ごしたみたいだけど・・・璃々は大丈夫なのか?」

 

「璃々は桔梗に任せています。安心してください」

 

微笑みながらそう言ってくる紫苑に、そっか、と返して寝台から降りる。

さて、紫苑とともに布団に篭るのもなかなかのものだったが、残念なことに今日はお仕事があるのだ。

 

「ふぅ・・・悪いけど、風呂入ってくるわ」

 

「あら、私をおいていかれるのですか?」

 

「・・・勘弁してくれよ」

 

いそいそと用意をした紫苑が隣に立つ。

腕を組んで、さ、行きましょ? とでも言いたげに笑いかけてくる紫苑。

 

「・・・わかったわかった。降参だ」

 

風呂場で再び絞られた後、二人で璃々を迎えにいった。

 

「それじゃ、紫苑、璃々、またな」

 

そう言って手を振る。

 

「またねー、ギルおにーちゃーん!」

 

「ふふ、また後で」

 

さて、まずは政務か。

 

・・・

 

「・・・」

 

さらさらさらーっと筆を滑らせる。

政務室には俺と・・・なぜか、星がいた。

 

「・・・ぷはー」

 

「・・・」

 

しかも、政務の手伝いをするでもなく酒を飲んでいる。

なんでここにいるんだろ? 

酒を飲むだけならここじゃないほうが良いだろうし、政務を手伝いに来たようには見えない。

・・・今は俺だけだから良いけど、愛紗が来たら怒られないか? 

 

「・・・む、酒が・・・」

 

「なぁ、なにやってんだ?」

 

酒が切れたらしい星ががっかりしたような声で呟いたので、思わず声を出してしまった。

・・・いや、別に無視しようと思ってたわけじゃないんだが。

 

「見てわかりませぬか? 酒を飲んでいるのです」

 

「いや、それは見てわかったよ。何でここで飲んでるんだ?」

 

「ははは、いやなに、ギル殿の仕事ぶりを肴にしようかと思いまして」

 

「・・・仕事、手伝わせるぞ」

 

「あっはっは、ご勘弁を。せっかくの休みに仕事・・・しかも政務なんて、明日の仕事に響いてしまいますので」

 

「だったら変な冗談は言わないことだ。・・・これが終わったら昼でも奢ってやるから、大人しくしててくれよ?」

 

「おお、そこまで言われてしまったら、大人しくしているしかありませんな」

 

現金なやつだ。

こちらを見てはいるものの本当に大人しくしている星に内心でため息をつきながら、俺は政務を進めていった。

 

・・・

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせて挨拶する。

・・・食事の間は特に変わったこともなく、他愛もない話をしているだけだった。

というか、星はメンマ丼に夢中だったので、碌な会話もできなかったというのが正しいのだが。

二人分の料金を払い、店を出る。

 

「さて、昼休みもまだあるし・・・どこか行くか?」

 

「それも良いですな。そうだ、お勧めの店があるのですが、いかがでしょうか」

 

「・・・酒だな?」

 

「おや、ギル殿はいつの間に私の心を読めるように?」

 

それも英霊としての力ですかな? と笑う星。

 

「まぁいいや。行ってみようか。昼から酒を飲んでみるのも悪くはないか」

 

「ギル殿も分かっておりますな。ささ、行きましょう」

 

星についていくと、一軒の店が見えてくる。

 

「ここです」

 

そういって店の中に入っていく星の後に続くと、店の中はかなりすいているようだった。

まぁ、昼から酒を飲もうとする人はそんなに多くないだろうから、それも当たり前なんだが。

 

「へぇ、いろいろとあるんだなぁ」

 

おや、焼酎なんてものもある。

おそらくこれは一刀と華琳が作ってたやつだな。

 

「店主、いつものを二つ持ってきてくれ」

 

「あいよ!」

 

「・・・すごいな。いつもの、で通じるんだ」

 

「ええ。ここには結構通っておりますので」

 

おー、かっこいいな、星。

・・・まぁ、いつもの、で通じるほど通っているって言うのは少し引っかかるところがあるが、今は言わないでおこう。野暮だしな。

 

「おまちどう!」

 

すぐに注文したものがやってくる。

これは・・・? 

 

「私のお勧めの酒でございます」

 

それから星はこの酒について説明してくれた。

今までワインしか飲んだことのない俺だったが、この星お勧めの酒はなかなかにおいしい。

ふむ・・・これからはワイン以外の酒も飲んでいかないといけないなぁ。

 

「どうでしょう、ギル殿?」

 

「うん、おいしいよ。俺こういう酒はあんまり飲まないから大丈夫かと思ったけど、飲みやすい」

 

「はっはっは、そういっていただけると、勧めた甲斐があるというもの」

 

昼からの酒も、悪くはないかもな。

・・・星や桔梗たちのように飲んだくれるのはちょっと考えものではあるが。

 

・・・

 

午後は調練である。

今日も副長をいじめ・・・げふんげふん、鍛え上げるために訓練場へ向かう。

 

「・・・ん?」

 

その準備のために立ち寄った武器庫の前で、変なものを見つけた。

・・・いや、変な人、というべきか・・・。

そこにいたのは、星、朱里、雛里の三人だった。

 

「なんと、軍師殿は・・・ひゃんっ!?」

 

「むぐ、むちゅ・・・星ひゃん?」

 

「ああ、いや、すまない。次は・・・」

 

「ぴちゃ、むぐ」

 

「これはなかなかに淫靡な眺めであるな・・・」

 

・・・なにやってんだろ。二人して、星の指を舐めたりなんかして。

しかし気まずい。武器庫に訓練用の模造刀やらをとりにいきたいのだが、そのためには三人の前を通らなければならない。

終わるまで待つか? いや、でもそれだと訓練の時間が・・・。

 

「どーしよっかなぁ」

 

腕を組んでうーんとうなる。

というか、ああいうことをするなら部屋でやれば良いのに。

何でこんな人目につく場所で・・・まさか、そういう趣味の・・・? 

そんなことを考えながらどうしようとうろうろしていると、お約束のように小枝を踏んでしまった。

ぱきっ、という小気味良い音が鳴り、三人がこちらに気づく。

 

「・・・や、やぁ」

 

とりあえず片手を挙げて挨拶。

しばらく三人は固まっていたが、いの一番に星が再起動を果たしたらしい。

 

「これはこれは。ギル殿」

 

星の言葉に、残る二人も再起動し、赤かった顔をさらに真っ赤にする。

 

「は、はわわっ! こ、こここれは、その・・・!」

 

「あわわ・・・! ち、ちがくて、えっと・・・」

 

と一通りあたふたした後、星の手から本を奪い

 

「ごめんなさぁぁぁーい!」

 

「はうぅぅぅぅー・・・!」

 

二人して、走り去ってしまった。

 

「・・・なんだったんだ?」

 

「はっはっは、ちょっとした練習ですよ、ギル殿」

 

そういって、星は妖しい笑顔を浮かべ

 

「まぁ、すぐに分かるでしょう」

 

なんて、意味深な言葉を残して去っていった。

 

「・・・とりあえず、模造刀を取りに行かないと」

 

武器庫から訓練に使う道具を持ち出しながら、ずっと頭の上には疑問符が浮かんでいた。

ほんと、なにやってたんだろ。

 

・・・

 

「あ、隊長。遅かったですね。何かあったんですか?」

 

訓練場につくと、俺に気づいた副長がそう声をかけてきた。

俺が遅かったからか、他の隊員たちは走りこみなんかの道具を使わなくてもできる訓練を始めてくれていたようだ。

 

「すまんな。ちょっとした用事で、準備が遅れて」

 

「そうだったんですか。もう用事は終わったんですか?」

 

「ああ。もう大丈夫だ」

 

なんだ、心配してくれたのか、と少し嬉しく感じたが、副長はかなり不満そうな顔をしていた。

 

「・・・えぇー」

 

「なんだよ、そのいやそうな声」

 

「だって、隊長が用事でいなくなれば、自主練習ってことでさぼ・・・休めますから」

 

「よし、副長は後で個人訓練な」

 

「ああ、冗談です! やだなぁもう、おちゃめな副長が場の雰囲気を和まそうとやっちゃっただけですから!」

 

焦ったように取り繕おうとする副長。

・・・このやり取り、訓練するたびにやってる気がする。

良くもまぁ、飽きないものだ。

 

「いいや、今日こそは副長をたたきのめ、じゃなく。上司に対する礼儀というのを叩き込まないと」

 

「叩きのめすっていいそうになりませんでしたか?」

 

「なんのことやら。・・・よし、走りこみやめ! 訓練を始めるぞ! まずは二人一組で連携の訓練からだ! ・・・ほら、副長も何人か相手して来い」

 

「・・・む、なにやらうまく話をそらされた気が・・・」

 

副長は最後までぶつぶつ何かを言っていたが、隊員たちからの

 

「副長! 私たちの相手をお願いします!」

 

という声にようやくやる気を出したようだ。

はいはい、と言いながら剣と盾を背中から抜いて構えた。

 

「さて、俺もお仕事しますか!」

 

俺から目をそらしたやつから順に攻撃を仕掛けていく。

はっはっは、俺から目をそらした罰だ。

・・・人はこれを、八つ当たりという。今日もひとつ賢くなった。

 

・・・

 

「ぜ、ぜ・・・ちょ、隊長、今日はやめときません?」

 

「え? 大丈夫だって。俺はまだまだ疲れてないからさ」

 

「あなたの心配をしてるわけではないですよ!?」

 

「そらそら、突っ込みを入れられるならまだまだ元気ってことだ。はりきっていこー!」

 

「せめて休憩を挟んで・・・きゃあぁぁぁっ!? か、風!? 突風が襲って、いやぁぁぁぁっ!?」

 

「おー、飛ぶ飛ぶ」

 

宝具によって起こされた突風を受け、盾を構えたまま副長が吹っ飛んでいく。

すぐに体勢を立て直して着地してるあたり、最初のころからは成長してるんだなぁと感心する。

副長として俺のところに来たときは、一般の兵よりは強かったものの、俺が振るった剣を受け止めきれずに気絶してたからな。

うんうん、こうして部下が成長していくのを見るのは、いいものだ。

 

「あたた・・・まったく、私の自慢のお肌に傷がついたらどうしてくれるんですか、もう」

 

パンパンと服についた土を払いながら、副長が愚痴る。

そんな副長に、俺はできる限りの笑顔で答えた。

 

「大丈夫、傷跡も残さず綺麗に治る薬持ってるから」

 

「この人何回も繰り返す気満々だ!」

 

もちろんだ。何回もやらないと身につかないからな。

 

「そら、次は高速戦闘だ!」

 

「ああもう! 怪我したらちゃんと治してくださいよっ!」

 

吹っ切れたのか、副長は剣と盾を構え、俺の一撃を防ぐ。

お、流石は副長。

この様子なら、来週くらいから星と手合わせさせるのも良いかもな。

 

・・・

 

「ふぃー」

 

あの後、力尽きた副長を部屋まで運び、寝台にぶん投げてから風呂に入った。

副長は明日の朝入るらしい。

・・・明日、風呂に入る体力が残ってれば良いんだけど。

 

「あれ? 扉が開いてる・・・?」

 

部屋を出るときは確実に閉めたはずなのだが、どういうことか中途半端にあいてしまっている。

・・・むむ、もしや侵入者か。

 

「・・・なんてな。月たちが来てるのかね」

 

それで扉を閉め忘れたとか。

まぁいいや。今日も疲れたし、部屋の中にいるであろう侍女組の誰かに癒してもらうとしよう。

 

「ただいまー」

 

そういいながら扉を開け、暗い部屋の中に浮かぶ人影に視線を向ける。

 

「あわわ、朱里ちゃん、帰ってきちゃったよ、ぱたんって・・・!」

 

「だ、大丈夫だよ雛里ちゃんっ。お布団の中で決めたとおりに・・・」

 

「ん?」

 

月たちの声じゃないな。

これは・・・

 

「こ、こんばんわっ」

 

「あわ、こんばんわ・・・」

 

「朱里、雛里もか。どうしたんだ、こんな遅くに」

 

もう夜中といっても差し支えないほどの時間だぞ。

 

「ま、いっか。俺の部屋にいるってことは何か話があるんだろ? ちょっと待ってろ。灯りつけるから」

 

「はわ、ひ、雛里ちゃん、どうしよう・・・!」

 

「あ、灯りなんてつけられたら、恥ずかしくてお顔を見られないよ・・・!」

 

「ん? 二人とも何を・・・」

 

背後の声に振り向くと

 

「こ、こうなったら・・・えいっ!」

 

「あわわ・・・え、えいっ・・・!」

 

勢い良く抱きついてきた二人が恥ずかしそうに俺の服に顔をうずめていた。

 

「あ、あの、灯りはつけないでください・・・!」

 

「・・・恥ずかしいです」

 

「あーっと、分かった。つけないから落ち着いてくれ」

 

深呼吸して、ほら、と促すと、ゆっくりと呼吸を整えた二人。

この二人はたびたびパニックになるからな。落ち着かせるのは大分慣れた。

 

「ごめんなさい、変な事を言って・・・」

 

「いやいや、気にしてないよ」

 

「・・・ありがとうございます」

 

いつもよりさらに輪をかけて物静かな雛里にどういたしましてと返し、立ったままで話を聞く。

・・・座ろうにも、二人が抱きついて離れないからだ。

 

「あ、あの・・・わ、私・・・いえ、私たちは、ギルさんのことを・・・お慕いしています」

 

「・・・こうしてるだけで、どきどきしてしまうくらい、大好きです・・・」

 

・・・なるほど、とすぐに納得した。

まぁ、暗い部屋で二人して寝台に待機していたのを見たときから予想はできたが・・・。

というか、この世界では気になる異性の部屋にある寝台に待機して想いを伝えるのが主流なんだろうか。

 

「どうか、受け止めてください。・・・今宵限りでもいいんです」

 

「もう、想っているだけではだめなんです・・・」

 

「二人とも・・・」

 

「私たち二人分の想い・・・どうか」

 

「・・・ありがとう、二人とも」

 

いまだ腰に抱きついたままの二人の頭をゆっくりと撫でる。

 

「本当に、俺でいいんだな?」

 

「はい。ギルさんじゃないと、駄目なんです」

 

「・・・ギルさん以外は、考えられないです・・・」

 

「そういってくれると、すごく嬉しいよ」

 

二人をゆっくりと離れさせて、視線を合わせるように屈む。

 

「じゃあ、今宵限りじゃなくて・・・これからもずっと、一緒にいてほしいな」

 

「あ・・・はいっ!」

 

「はい・・・!」

 

元気に返事をした二人は、お互いに手をつなぎ、目配せのあとこくりとうなずき

 

「せーの」

 

声を合わせて、同時に俺に口付けた。

 

「・・・えへへ、二人一緒に、初めての口づけです」

 

「あわわ・・・幸せです」

 

「はは、それは良かった。・・・続き、しても良いかな?」

 

「・・・はい」

 

「・・・だいじょぶです」

 

うなずいた二人を寝台に連れて行き、二人の服を脱がせて下着姿に。

 

「出来る限りやさしくするけど・・・痛かったらごめん」

 

「大丈夫です。ギルさんと雛里ちゃんと一緒なら、痛くても我慢できます」

 

「・・・私も、二人と一緒なら・・・平気です・・・」

 

そういって微笑む二人。

・・・ああもう、駄目だな。

かわいすぎるぞ、二人とも。

 

「今から謝っておくけど、ちょっと自制きかないかもしれない」

 

・・・

 

「・・・ああ、昨日はちょっとがんばりすぎた・・・」

 

やはり二人をいっぺんに、というのはかなりきついな・・・。

二人平等に愛さないといけないし、片方に熱中してると片方がおろそかになっちゃうし。

 

「にしても、いきなりズボンを脱がされたときは焦った」

 

大丈夫です! 予習と練習はしています! とか指より太い・・・どうしよう・・・とか言われて、ああ、星となんかやってたのはこれなのか、とすぐに納得はしたが・・・。

絶対悪ふざけでいろいろ仕込んだだろ、星・・・。

 

「確か二人は今日休みのはず。・・・休ませてあげたほうがよさそうだな」

 

寝台の上ですやすやと寝息を立てる二人。

昨日の疲れだけではなく、仕事の疲れもたまっているのだろう。

結構無茶をしたのだが、こうして幸せそうな顔をして眠っているのを見ると、ほっとする。

 

「あの時はごめんな」

 

そういって二人の頭を撫でつつ、起きるまでこの髪のさわり心地を堪能しようと思う。

・・・あー、何で女の子の髪ってこんなに綺麗なんだろうか。

 

「ん・・・むにゃ・・・?」

 

「あ・・・起こしちゃったか」

 

雛里が目を擦りながら上体を起こす。

それから寝ぼけ眼であたりをきょろきょろと見回し、俺と目が合うと・・・。

 

「~っ! あ、あわわ、その、お、おはようございましゅ!」

 

「おはよ。身体はなんともない?」

 

「は、はひっ! だいじょぶれすっ」

 

「そか。雛里は今日仕事ないんだから、無理せずゆっくり休むんだぞ」

 

初めてした女の子は、翌日が辛い(月談)らしいので、雛里に無理しないようにと伝えた。

 

「とりあえず、服着よっか」

 

「あ・・・」

 

自分が何も着ていないことに気づいたのか、雛里は顔を真っ赤にして布団を体に巻きつけた。

 

「あわわ・・・下着は・・・ひゃんっ」

 

「だ、大丈夫か雛里っ」

 

焦りすぎたのか、寝台から落ちてしまった雛里に声をかけると、頭をさすりながら立ち上がり

 

「ら、らいじょぶれふ」

 

「・・・いや、大丈夫じゃないだろ」

 

思わず突っ込んでしまったが、ゆっくりと下着に足を通し始めたから一応大丈夫なのだろう。

そんなことを思っていると、雛里が先ほどまでいたのとは逆側から声が。

 

「んみゅ・・・? 雛里ちゃん、どうした・・・の・・・」

 

雛里と同じく目を擦りながら起き上がった朱里と、ばっちり目が合った。

それだけですべてを察したのか、無言で顔を真っ赤にしていく。

 

「はわわっ・・・! そ、そうでした、昨夜は・・・」

 

あたふたとした後、朱里は布団の中にもぐってしまった。

よっぽど昨日やったことが恥ずかしかったんだろう。

 

「ほらほら、起きたんなら着替えてお風呂に行って来い」

 

「はわわ・・・」

 

布団を剥ぎ取ると、中で丸まっていた朱里を抱えあげる。

昨日散々触ったが、やっぱりさらさらだ。

 

「あわ・・・あの、ギルさん」

 

「ん? どうした雛里」

 

すでに着替え終えて、風呂の準備を始めている雛里が声をかけてきた。

朱里に下着や服を渡してそれに答えると、雛里は

 

「あの・・・お風呂、一緒に入りませんか・・・?」

 

「・・・風呂でもう一回戦は勘弁」

 

「い、いえ、普通にお風呂に入るだけです・・・! す、すぐにもう一回なんてむりれすっ・・・!」

 

「・・・まぁ、それもいいか」

 

俺も風呂の準備をして、二人とともに風呂場へと向かった。

・・・風呂場では二人に背中を流してもらったり湯船で三人並んでまったりしたりとなかなかに癒された。

 

・・・




「隊長、遅いですねぇ。・・・ああ、兵士の皆さんは走りこみでもやっててください」「はいっ」「私は隊長待ってるんで、私のことは気にせず。・・・あー、遅いですねえ。ま、まさかサボり!? いつも私がサボると怒るくせに隊長はサボってもいいって言うんですかっ!? 横暴です!」「・・・副長、今日もはしゃいでらっしゃるな」「隊長がいないときにおかしくなるのはいつものことだけどな」「いてもおかしいけどな」


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