真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「隊長、今日はお腹が痛いので訓練お休みしますね」「・・・まぁ、仕方ないか」「隊長、今日は月に一度のあの日なので訓練お休みしますね」「・・・ふむ、まぁそれも仕方ないか」「隊長、今日もあの日なのでお休みしますね」「月に二度起きてるぞ。大丈夫なのか・・・?」
もちろん、その後嘘がばれて大変なことに。


それでは、どうぞ。


第十六話 副長と訓練に

「うぅ、おかーさん、男の人はみんな狼って本当だったんだね・・・」

 

「ちょっと待て。肩を震わせながらそんなことを言ったら勘違いされるだろうが」

 

えぐえぐ、と嘘泣きをする響に軽い突込みを入れる。

響は叩かれた頭をさすりながら布団から起き上がり、はにかむ。

 

「えへへ、じょーだんじょーだん。・・・まぁ、狼って所は本当だけどー」

 

「あー、それについては言い訳しない。・・・ほら、さっさと着替えろ」

 

「はーい!」

 

夜が明け、起きる時間となったのでもぞもぞと布団から這い出た響に服を渡す。

昨日のうちに濡らした布で身体を拭いてはいるものの、できるなら風呂に入ったほうがいいだろう。

 

「時間に余裕があるなら、風呂に行っておけよ?」

 

「お風呂でもう一回戦?」

 

「・・・勘弁してくれ」

 

真顔でそんなことを言ってくる響に、肩を落として答える。

昨日の晩も、疲れを知らないという言葉がぴったりな響によって、全く疲れが取れないまま朝を迎えてしまったのだ。

・・・睡眠時間が二時間取れていればいいほうだろう・・・。

というか、同じくほとんど寝ていない響がこんなに元気なのはなんでなんだろうか。

 

「そっかー。じゃあ、お風呂でするのはまたの機会だねー。・・・よっと。お風呂いってきまーす」

 

いつの間にか用意していた風呂道具一式を持って、響は部屋を飛び出していった。

 

「それじゃあまた後でー!」

 

「おう。転ぶなよー」

 

「はーいっ!」

 

最後まで元気に答えて去っていった響を見送った俺は、一旦部屋に戻る。

今日は兵士たちの訓練が入っていたはずだ。

いろいろと用意してから行かなくてはならないだろう。

 

・・・

 

「・・・」

 

「ごめん、俺腹の調子が・・・」

 

「だいじょうぶ」

 

「何がっ!?」

 

訓練場に到着した俺を迎えたのは、軍神五兵(ゴッドフォース)を持った恋だった。

とりあえず逃げようとしたのだが、すぐにつかまってしまった。なんてこった。

 

「今日は・・・軍神五兵(ゴッドフォース)の新しい力を試す」

 

「・・・新しい力?」

 

「そう。今まで二つの形しか使えなかったけど、もう三つ使えるようになった」

 

・・・あー、軍神五兵(ゴッドフォース)にはそういえば五つの形態があるんだよな、そういえば。

矛と砲しか最初は使えなかったみたいだけど、新しく使えるようになったのか。

 

「だから試したかったけど、ギルじゃないと受け止めきれないから」

 

「んー、そういうことなら仕方がないか」

 

そう言って俺はエアを取り出す。

どんな形態が飛び出すか分からないので、鎧も装着しておく。

 

「よし、これでいいな」

 

あの呂布が軍神五兵(ゴッドフォース)を使ってくるというのだから、これくらいの用心は必要だろう。

 

「・・・それじゃ、行く」

 

そう言って軍神五兵(ゴッドフォース)を手に恋が駆け出す。

迫る恋から気をそらさずに、思考を働かせる。

新しい三つの形態とは何か。

いつでもエアで対応できるように構えていると、恋がその名を呟いた。

 

「『一撃(けん、あわせる)無追(ことかなわず)

 

長剣の形態・・・! 

遠距離の形態ではないからエアならば対応できる、が・・・。

 

「無駄」

 

「むっ・・・!?」

 

一切視線を動かさずに俺の攻撃を弾いた・・・? 

 

「・・・なんだか分からないけど・・・ぎるの動きが分かる」

 

まさか・・・直感スキル!? 

ちょっと待てよ反則過ぎないか・・・! 

だが、恋の反応からしてランクはC程度。

ある程度予見できる、くらいのものだろう。

 

「せいっ!」

 

ならば、まだ何とかなる! 

 

「・・・流石ぎる。もうほとんど読めなくなってきた」

 

何度か打ち合った後、距離を取った恋は、ふとそんなことを言ってきた。

そのままくるりと剣を回すと、再び形態変化の言葉を紡ぐ。

 

「『二刀(これ、ふれる)神速(ことあたわず)』」

 

長剣が縦に別れ、双剣となる。

次は双剣の形態か。手数を増やして、追い込みに来るか・・・? 

 

「はっ・・・!」

 

恋は先ほどと同じように踏み込み、距離を詰めてくる。

それに反応しようとした瞬間。

 

「なっ!?」

 

「遅い・・・!」

 

すでに、目の前に恋が迫っていた。

慌ててエアを振るうも、弾けるのは一つの刀のみ。

もう一つはかわすしかない。

 

「・・・いきなり速くなった・・・?」

 

これまでの経験から、軍神五兵(ゴッドフォース)は一つの形態につき、いくつか有利な効果が付与されると考えていいだろう。

急に速度が上がった、と言うことは・・・敏捷のステータスに補正が掛かったのか。

おそらく、ランクにして一つほど。

 

「・・・考える暇は・・・ない・・・!」

 

「くっ!」

 

迫る二刀に、必死にエアをあわせていく。

途中エアだけでは対応できないときは、鎧の防御力を信じて刀の腹に手刀を入れているが、この猛攻ではそう長くは持たないだろう。

一気に勝負をつける必要がある。

最後の一形態が何か分からないのに勝負をかけるのは不安だが、このままでは最後の形態を見る前に終わってしまう。

思い切りエアを振って恋を引き離し、バックステップで距離を取る。

 

「エア、目覚めろ・・・!」

 

魔力を流し込み、エアの刀身を回転させる。

 

「一気に勝負をかける!」

 

地面を蹴り、一足で彼我の距離をつめる。

二刀の速度にかなわないのなら、一撃の重さで勝負するしかない。

片手で振るう刀では、この一撃を防いで反撃することは不可能だろう。

そのまま押し込められれば、おそらく勝てる・・・が、やはり不安は最後の一形態だ。

近距離形態ばかりだから、もしかしたら遠距離のものが出てくるかもしれない。

・・・今それを考えていても仕方がないか。

 

「はあああああああああああああ!」

 

「っ・・・!」

 

恋は二刀をあわせ、防ぐことを選んだようだ。

 

「ふっ!」

 

「はっ・・・!」

 

エアと二刀がぶつかる瞬間。

恋の口が、何かを呟いて・・・。

 

「な・・・」

 

「これが、最後の形態」

 

そう言って、恋は振り下ろした体勢のままの俺に、一撃を放つ。

隙だらけの胴体に突き刺さったその一撃は、呆けていた俺の意識を目覚めさせるには十分だった。

一旦距離を取って最後の形態の全貌を確認する。

 

「『金剛(たて、くだけ)盾腕(ることなかれ)』」

 

「『盾』の形態・・・」

 

手甲と盾が一体化したようなその形態は、魔力を通したエアですら防ぐ防御力を持っているようだ。

おそらく、Bランクまでの対人宝具ならば問題なく防ぐだろう。

更にあれは盾としてだけではなく、攻撃の際にも役立つ。

何もつけていない拳よりも、手甲で保護された拳のほうが威力は高い。

 

「・・・ふぅ、なるほどな」

 

そこまで思考した俺は、構えをとく。

恋も軍神五兵(ゴッドフォース)を矛の形態に戻し、同じように構えをといた。

 

「ありがとう、ぎる」

 

「なに、構わないよ。俺もいい訓練になった」

 

だいじょうぶ? と言いながら、恋は俺の腹を撫でる。

自分で殴ったとはいえ、優しい恋は気にしたのだろう。可愛いやつめ。

 

「ああ、このくらい大丈夫だよ」

 

そう返しながら恋の頭を撫でる。

心配そうに俺の腹を撫でる恋と、そんな恋の頭を撫でる俺と言う奇妙な組み合わせが出来上がり、周りの兵士も何事かとこちらをちらちら見ている。

 

「・・・さて、そろそろ俺は行くよ」

 

居心地が悪くなった俺は、そう言って離れようとする。が。

 

「・・・だめ。お腹手当てしないと」

 

「と、言われても」

 

今まで撫でていた腹の部分の服を掴んで、逃がさない、と目で語る恋。

・・・多分、折れないだろうなぁ。

 

「分かったよ。医務室に道具があるだろうから、行こうか」

 

「ん」

 

短く答え、こくりと頷いた恋が服を離して隣に並び、俺の腕に抱きつくように自分の腕を絡めてきた。

 

「そんなことしなくても逃げないって」

 

「・・・いちおう」

 

「そっか」

 

妙に弾んだ声で答える恋に、それ以上追求もできず、医務室までの道を歩き始めた。

 

・・・

 

「行くのです、ギルガメ号!」

 

「お、おう?」

 

俺の肩に乗るねねが前方を指差しながら奇妙な名称を俺につけて命令を下す。

とりあえず返事しつつも、どこに行けばいいんだろう、と頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。

 

「・・・とりあえず、訓練場まで戻る」

 

手当てを終えて医務室から出た後、俺の服の裾を握って隣を歩いている恋が、ぼそりと呟いた。

 

「ん、そうするか」

 

他にも将はいるとはいえ、恋も訓練の担当武将だ。

戻って兵士たちに訓練をつけなくてはいけないのだろう。

 

「いつ乗っても高いですなー」

 

「だろう? ・・・どうだ、楽しいか、ねね」

 

ゆさゆさ、とわざと揺らしてみると、いつものような小難しい声ではなく、はしゃぐ子供のような声できゃっきゃと喜んだ。

何だろう、いつもの態度がちょっとそっけないからか、なんだか楽しくなってきたぞ・・・? 

 

「・・・ねね、楽しそう」

 

ぼそり、と恋が呟く。

はしゃいでいるねねには聞こえなかったようだ。

 

「みたいだな」

 

「すきなひとと、一緒にいるから」

 

「はは、恋のこと大好きだもんな、ねねは」

 

俺がそう言うと、恋は首を振った。

・・・? 

 

「・・・んー、ちょっと違う」

 

「え?」

 

どういうことだ、と聞こうとしたが

 

「ついた」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

訓練場に戻ってきてしまったため、会話が打ち切られてしまった。

まぁいいか、と自分の中で結論を出し、ねねを降ろす。

 

「むぅ。もう終わりなのですか」

 

名残惜しそうにこちらを見上げるねね。

また今度な、と頭を撫でてやると、しばらくくすぐったそうに撫でられた後

 

「っ! も、もういいのですっ! やめろですっ」

 

と、顔を真っ赤にしたねねに手を払われてしまった。

うぅむ、ねねのデレタイムは終わりか。残念。

 

「さて、訓練に入るか」

 

そう言って俺の隊へと向かう。

大戦が終わってから街の警備くらいでしか動いていないが、俺の遊撃隊は一応残っている。

それの訓練があったのだが、恋との仕合でのごたごたでしばらく放置してしまっていたのだ。

 

「あ、隊長」

 

「よう。遅れて済まんな」

 

「いえいえ、全然構いませんよ。と言うか何で戻ってきたんですか?」

 

「・・・よし、副長は俺と手合わせな。隊員たちはいつもどおりに訓練を始めててくれ」

 

「隊長、私も隊員たちと同じ訓練がいいです」

 

「遠慮するなよ。ほら、今日こそはいろいろと叩き込まないといけないからな」

 

主に俺に対する敬意とか。

 

「えー」

 

「えーじゃない」

 

「あれ? お兄様じゃん。どしたの?」

 

嫌がる副長をたしなめていると、蒲公英がやってきた。

手には影閃を持っているので、おそらく身体を動かしにでも来たんだろう。

それを見た副長の目がきらりと光り、次の瞬間副長は蒲公英に泣きついていた。

 

「うわーん! 馬岱さまー! 隊長が嫌がる私に無理やり襲い掛かってこようとするんですー!」

 

「え? ・・・えぇー? お兄様、そんな趣味が・・・?」

 

「ないぞ。と言うか副長の言ってることは半分嘘だ」

 

「そなの?」

 

首を傾げる蒲公英に、そうだ、と頷きを返す。

ふぅん、と興味なさげに頷いた蒲公英に、副長が畳み掛ける。

 

「この人、隊長権限で私にあんなことやこんなことを・・・!」

 

「やってないぞ」

 

「あー、うん。大体分かってきたよ、この副長さんのこと」

 

気の抜けたように返事を返す蒲公英。

副長は小さく舌打ちをすると、蒲公英からすっと離れた。

 

「・・・もう、隊長ってば全然焦らないんですね」

 

「こういう事態には慣れてるからな。・・・そうだ。蒲公英、これから時間あるか?」

 

「へ? 私? ・・・あるけど」

 

きょとんとした顔で首を縦に振りつつそう言った蒲公英に、俺は話を切り出した。

 

「なら、副長に稽古つけてやってくれないか?」

 

えっ、と言う驚きの声が蒲公英と副長の両方から聞こえてくる。

 

「ほら、流石に俺と副長が戦うと実力に開きがありすぎるからさ」

 

副長の実力は武将でたとえるなら・・・んー、真正面から明命とぶつかってギリギリ負ける、位だと思う。

流石に愛紗や春蘭といった人外クラスとは打ち合えないみたいだ。

 

「確かに、隊長よりは馬岱さまのほうがお優しいですよね」

 

「あれ、前言撤回したくなってきた。副長、やっぱり俺と二人でやろうか」

 

「も、もちろん隊長もお優しいですよ。なに言ってるんですか、いやですね、もう」

 

一瞬焦ったような表情をした副長が、取り繕うようにそう言った。

・・・聞かなかったことにして、蒲公英と副長の手合わせを見学することに。

蒲公英は影閃を構え、副長はそれなりに装飾された剣と盾を構える。

ちなみに、副長の剣と盾はあの抜くと七年の時が経ったりするあのマスターなソードに瓜二つで、盾は某王国の盾と瓜二つだ。

ええ、俺の趣味全開です。

以前遊撃隊を任されたとき、副長の武器は俺が用意しようと思ったわけですよ。

その時はまだ副長とは会ったことがなくて、どんなものを用意するかは決まっていなかった。

初めて副長と会ったとき、武器はどんなのがいい? と聞いたら。

 

「そうですね・・・特にこだわりはないですが、今まで剣を使っていましたし、できれば剣がいいです」

 

と言うことだったので、初めはエクスカリバーもどきを作ろうとしていた。

だが、こういうのを作ろうと思うんだけど、と副長に相談すると

 

「すいません・・・私、こんなに大きい剣に慣れていないので、ちょっと難しいと思います」

 

と言われてしまったので、設計図を変更。

更に副長から片手で扱えるような盾も欲しいと言われた。

・・・このあたりで副長の遠慮が若干なくなってきているのには気づかず、そういうもんか、と盾も製作することに。

そのとき、剣と盾、で思いついたのは緑の勇者だった。

おお、そういえば彼は片手で剣と盾を操っていたなぁ、と言うところまで考え付いたら、後は勢いだった。

宝物庫の中からできるだけ軽い材料を集め、孔雀とキャスターの魔術加工と華琳に教えてもらった鍛冶屋の親方の技術によって、副長でも片手で扱える剣と盾が出来上がった。

出来上がった後、あれ、やりすぎた? と言う疑問が頭をよぎったが、いやいや、自分の右腕になってもらう人だし、これくらいはしないとと無理やり自分を納得させた。

そして、いざ副長に剣と盾をプレゼントすると

 

「・・・こんなに素晴らしいもの、いただけませんよ」

 

と言われたので、いろいろと説得して、受け取って貰うことができた。

そのとき、剣と盾を胸に抱いて

 

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」

 

「ああ、そうしてもらえると、頑張って作った甲斐があるというものだ」

 

と、安堵の笑みを浮かべながら伝えると、副長は

 

「・・・きゅん」

 

と、頬を染めつつ奇妙な擬音語を呟く珍しい副長を見られたのも今は昔。

今は無表情で俺へ口撃(誤字にあらず)を仕掛けて来るような部下になってしまったが、まぁ、桂花に比べたら可愛いものだ。

・・・あれ、部下としてそれはどうなんだろう。

まぁいい。

とにかく、そんな過去を経て、伝説の退魔の剣もどきと王国の盾は副長の手にあるのだ。

切れ味は普通の剣よりも遥かに上だし、盾は簡単な魔術ならば防ぎきるほどの防御力を有している。

さらに背中には剣を収め、盾を装着できるようにした鞘を背負っている。

 

「・・・行きますよ、馬岱さま」

 

「うん、どこからでもどうぞ」

 

いつもの蒲公英は鳴りを潜め、真剣な表情で副長を見つめている。

副長もいつもの無表情に近い顔に見えるが、良く見ると目が若干釣りあがっている。

二人とも、お互いの一挙手一投足に注意して神経を尖らせているようだ。

 

「行きますっ!」

 

「こいっ!」

 

剣と盾を手に、副長が駆け出す。

左手に持った剣を蒲公英目掛けて振り下ろす。

蒲公英はそれを危なげなく受け流すと、気合の声と共に槍を突き出す。

 

「ふっ・・・!」

 

盾を構えてそれを防ぐと、副長は剣をふるって牽制し、バックステップで距離を取る。

おお、副長の戦いはしばらく見たことなかったけど、腕が上がってるじゃないか。

 

「やるね、副長さん」

 

「まぁ、いつも隊長に苛められているので、このくらいは」

 

「なるほどね。流石はお兄様の隊の副隊長」

 

「褒められても手加減はできませんよ? 未熟者ですので」

 

「期待はしてない・・・よっ!」

 

「ですよ・・・ねっ!」

 

一言二言言葉を交わすと、二人は地面を蹴り、お互いの距離をつめる。

槍と剣が交差する。

副長は盾で槍を防ぎ、蒲公英の顔ギリギリに刃をつきたてていた。

蒲公英は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐににっ、と笑う。

 

「強いなぁ、副長さん」

 

「いえ、まぐれですよ」

 

武器を背中に仕舞った副長が、苦笑しながら言う。

謙遜しなくていいよー、と笑う蒲公英。釣られて副長も笑顔になっていた。

それにしても、強くなってたんだなぁ、副長。

 

「ふぅ・・・隊長、今日は疲れたので休んでていいですか」

 

汗を拭いながら、こちらに歩いてくる副長は、そんなことを言い出した。

・・・まぁ、かなり疲れてるみたいだし、今日くらいはいいかな。

 

「ああ、副長は隊員たちの訓練を見ててくれ」

 

「了解です」

 

そう言ってテクテクと隊員たちが訓練を続けている場所へと歩いていく副長。

どうやら隊員たちは蒲公英と副長の戦いを見ていたらしく、慌てて訓練を再開している。

 

「ほらほら、私たちを見ている暇があるなら少しでも強くなってくださいよ」

 

ぱんぱん、と手を叩いて兵士たちを注意すると、副長は隊員たちに指導し始める。

 

「さて、俺も訓練を見ないとな。ありがとな、蒲公英」

 

「あはは、いーよいーよ。私も勉強になったし。それじゃね、お兄様ーっ!」

 

そう言って駆け出す蒲公英。

その後姿に手を振り、見えなくなったところで俺も兵士たちの元へ。

しばらく副長と一緒に隊員たちの訓練を見て、解散となった。

 

・・・

 

とある案件のため、三国の王と将たちが一つの部屋に集まっていた。

そのすべての王と将たちの視線は、前に立つ俺に向けられていた。

 

「ええと、みんなに資料行き渡ってるか?」

 

足りない、と言う言葉が聞こえないので、そのまま続けることに。

 

「書いてあるとおり、巨大リゾート施設を作ろうと思う!」

 

一刀がある日俺に相談してきた、「リゾート施設の建設」だが、とりあえずの草案ができたとのことでこうして会議にかけることに。

まぁ、温泉がありそうなところを近くに発見したので、そこを中心にスパリゾート施設を建造しようと思っている。

目指せわくわくざぶーん。

 

「りぞーと施設と言うのは、民たちに娯楽を提供する施設・・・と言うことでいいのよね?」

 

「ああ。温泉を作ったときの技術を使えば作成はそう難しくないと思う。大戦が終わった今、民たちにもこういった娯楽が必要だ」

 

天下一品武闘会やライブなんかもあるが、こんな風に常時楽しめる娯楽もいるだろう。

 

「ふぅん・・・なるほど、建築に掛かる費用なんかもちゃんと準備してあるのね」

 

手元の資料を見た雪連がそう言いながら笑う。

うむ、俺の黄金律やらで資金に不安はないし、宝物庫にある材料も使うので建築資材にも困ることはない。

後は動力だが、それはキャスター組と甲賀の協力によって宝具で代替することが可能だ。

どこにも隙のない完璧な計画だと自負している。

 

「そうね・・・それで、この基礎工事の欄に書いてある作業員が二人しかいないのはどういうこと?」

 

「っていうか、ギルの兄さんは分かるけど、何でウチまで作業員に入ってるん!?」

 

「ほら、ドリルって二人しかいないじゃん」

 

華琳と真桜の質問に、俺の隣に立つ一刀が答える。

ドリル? と首を傾げる二人に、ほら、と指を立てて説明を始める。

 

「地面を掘る道具だよ。真桜の武器は前ライブ会場を作るときに地面が掘れるって分かったから整地に使いたいんだ」

 

「俺のエアは温泉を掘り当てるのに使う。・・・まぁ、本当はそういう専用の機械があればいいんだが・・・」

 

弱めとはいえ大地に真名解放なんて不安でしかないが、まぁ大丈夫だろう。

 

・・・

 

「と、言うわけで! このあたりを整地しよう」

 

「ちょっとまちぃ! こんな広さを掘らせるつもりかい!」

 

「当たり前だろう。ほら、基礎工事は大切なんだ。しまっていこー!」

 

真桜の抗議を流し、事前に決めておいた場所に移動する。

エアを突き立て真名解放すると、一瞬で温泉が噴き出す。

 

「おー、出た出たー」

 

「ちょ、熱っ、ギルの兄さん、熱いって!」

 

諦めて地面を掘っていた真桜が、降り注ぐ温泉から逃げ惑う。

 

「はっはっは! 大丈夫大丈夫! 火傷しない温度に調整してるから」

 

「それでも熱いもんは熱いんや!」

 

安全圏へと逃げた真桜が、螺旋槍を振り回しながら抗議してくる。

俺は魔力解放で薄い膜を作って防いでいるので、こうして笑っていられるわけなのだが。

 

「よし、ランサー! やっちゃってくれ!」

 

「はっ! 総員、作業を開始せよ!」

 

「応!」

 

前回と同じように、数百人規模で増幅したランサーが温泉の周りに土台を作成していく。

真桜一人では流石に間に合わないので俺も一緒になって基礎工事をしていき、その後からランサーたちが大雑把に土台を作っていく。

そして、雇った作業員たちが細かい調整を行っていく。

うむ、今のところ順調で完璧である。

この様子なら、一月もあれば完成するだろうか。

・・・いや、このペースなら半月で完成するだろう。

 

・・・

 

と、言うわけで約半月。

完成間近のわくわくざぶーんにやってまいりました。

 

「うわぁ、すごいな。注文どおりだ」

 

流石に現代風の建築物にはできないので、城と同じような外観にしてある。

扉を開け中に入ると、巨大レジャー施設わくわくざぶーんの全貌が見えてくる。

まずは受付とその先にある男女別の更衣室。料金を払った後、更衣室で水着に着替えてもらう。

一応貸し出しもしているので、水着を持っていなくても遊ぶことができるようになっている。

 

「おお、広いな」

 

更衣室に入ってみると、かなり広い空間が広がっている。

・・・誰もいないとはいえ女子更衣室へは入れないので、そこは後で真桜にでも確認してもらうことにしよう。

で、水着に着替えた後はプールやらウォータースライダーやらが目の前に広がる。

湧き出した温泉を適温にして循環させているので、常に温水プールである。

これから秋になっていくので、温水でなければ辛いだろう。

 

「うんうん、きちんとウォータースライダーも機能してるな」

 

これなら明日にでも開けそうだ。

よし、後でみんなにためしに遊んでもらうとしよう。

 

・・・

 

「うわー・・・!」

 

「すごいなぁ、これは」

 

わくわくざぶーんに足を踏み入れたみんなから、感嘆の声が漏れる。

とりあえず、水着姿の月たちを見れただけでだいぶ満足している。

そういえば、孔雀や響の水着姿は初めて見るな。

 

「おぉー、これがぷーる、ってやつだね、ギルさん!」

 

いち早く着替えて出てきた響が、準備運動もそこそこにプールへと飛び込んでいく。

おー、はしゃいでるなー。

 

「鈴々も行くのだー!」

 

「おい鈴々! 準備運動・・・って、聞いてねえな」

 

響と同じくプールに飛び込んだ鈴々は、響となにやら戯れているようだ。

・・・まぁいいか。いざとなったら引き上げてやれば良い。

 

「お、ギル。ギルは泳がないのか?」

 

更衣室から、水着に着替えた一刀が出てきた。

一刀の言葉に、どうしようかな、と答える。

一応水着は持ってきているが・・・そうだな、俺も少し遊んでみるかな。

そうと決まれば話は早い。早速宝物庫にある水着に換装しよう。

 

「・・・それって、鎧だけじゃなかったんだな」

 

俺の早着替えを見た一刀が、何かを諦めたような顔でそんなことを言ってくる。

その気持ち、分かるぞ。ちょっと光ったら着替えが完了してるとか、どこの魔法少女だよって感じだよな。

 

「あ、ギルさん。水着ということは・・・一緒に遊べますね!」

 

着替えを終えて出てきた月は、輝かんばかりの笑顔でこちらに駆け寄ってきた。

詠と孔雀も一緒に出てきたようだ。

しばらくすると全員着替えを終えて更衣室から出てきたので、みんなには適当に遊んでもらって、後で報告書をあげてもらうことになっている。

 

「さて、早速泳いでみるか」

 

準備運動をして、早速プールの中へ。

おお、温かいな。これなら冬でも遊べるな。

 

「ほら、月もおいで」

 

「へぅ・・・あ、温かいですね」

 

ちゃぽん、とプールに入ってきた月が呟きをもらす。

 

「よいしょっと。おお、ほんとだ。温かいねえ」

 

続いて入ってきた孔雀も、同じように呟く。

 

「っていうか、宝具ってこんなことに使っていいのかしら・・・」

 

最後に入ってきた詠が、全く・・・と言いながら入ってくる。

いいじゃないか。戦いに使うだけじゃ寂しいだろう。

 

「・・・まぁ、あんたがいいなら良いんだけど」

 

ついっ、と恥ずかしそうに顔を背ける詠。

そんな詠の頭を撫でてから、ウォータースライダーへと向かう。

 

「わひゃー!」

 

叫び声の後に、どぼーん、と言う着水の音。

声からして、どうやら明命が遊んでいるようだ。

 

「ぷはっ! ・・・あ、ギル様!」

 

「よお、明命。楽しんでるようだな」

 

「はいっ。とっても楽しいです!」

 

もう一度乗ってきますね! と言ってウォータースライダーの階段を上り始める明命。

 

「俺も滑ってみるかな」

 

「あ・・・わ、私も一緒に・・・いいですか?」

 

「もちろん。一緒に滑ろうか」

 

月の手を引きながら階段を上る。

わひゃー! ともう一度聞こえてきたので、明命がまた滑ったのだろう。

階段を上りきった俺はウォータースライダーに腰掛ける。

 

「月、こっちおいで」

 

「へぅ、し、失礼します」

 

俺の足の上に座った月の腰に手を回し、座ったままの姿勢で前に進む。

完全に水の上へと進むと、ウォータースライダーの上を勢い良く滑っていく。

 

「おぉー!」

 

「わ、きゃーっ!?」

 

龍を模したウォータースライダーを縦横無尽に滑っていく。

二人で滑っているからか、速度はなかなかのものだ。

その速度を保ったまま、プールへと突っ込む。

 

「ぷはっ」

 

「ぷはぁっ!」

 

「あははは! いやぁ、久しぶりだったけど楽しいねえ」

 

「はふ。楽しいですね!」

 

水の中から顔を出した俺たちは、お互いに笑いあう。

いやぁ、なかなかのものだった。

そんなことを思いっていると、くいっ、と手を引かれる。

 

「ん? 詠?」

 

「ぼ、ボクも・・・」

 

ボクも、って。

・・・ああ、なるほど。

 

「分かった。一緒に乗ろうか」

 

「っ、そ、そうね。アンタが一緒に乗りたいっていうなら、別にいいケド」

 

「ああ、詠と一緒に乗りたいんだ。いいか?」

 

「い、良いわよ。ほらっ、さっさと行くわよっ」

 

悪い、ちょっと詠ともう一回乗ってくる、と月に伝える。

先ほどと同じように階段を上り、足の上に詠を乗せる。

 

「ふやっ!? へんなとこ触んないでよっ!」

 

「変なとこって・・・ただ手を回しただけだろ」

 

「ううううるさいわねっ。も、もうちょっと・・・その・・・」

 

「大丈夫大丈夫。ほら行くぞー」

 

「ちょっ、大丈夫じゃな・・・っきゃー!?」

 

「あっはっはー!」

 

俺の笑い声と詠の絶叫がウォータースライダー内に木霊する。

腰にまわした俺の手に、詠の手が重ねられる。

そして、プールに着水。

 

「ふぅっ」

 

「ぷはっ」

 

水面に顔を出し、大丈夫だったかー、と声をかける。

 

「あ、う・・・うん」

 

そう答えた詠は、プールに顔半分まで沈め、ぷくぷくと気泡を発生させ続ける。

恥ずかしがってるのか、と思いながら詠を引き上げる。

ばたばたと暴れるものの、しばらくするとおとなしくなる。

 

「お、おかえりギル」

 

「ただいま。いやー、これは良いな。楽しいよ」

 

プールサイドで座っている孔雀に迎えられ、硬直している詠をベンチに座らせる。

 

「じゃ、次はボクだね」

 

そう言って俺に抱きついてくる孔雀。

・・・なんだか凄く自然な流れでもう一度乗ることになっているが、まぁいいや。

 

「ん、良いぞ。行こうか」

 

同じように足の上に孔雀を乗せ、滑り出す。

 

「おーっ、ははっ、早いなぁ!」

 

いつものクールさはなりを潜め、腕を振り回しそうなほどに喜ぶ孔雀。

なんだかとても新鮮である。

 

「わーっ!」

 

ざぱーん、と着水するときまで孔雀のハイテンションは続いていた。

 

「あははっ! いやー、楽しいねえ、ギル!」

 

「そこまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があったよ」

 

楽しそうな表情のまま、孔雀はベンチへと戻る。

詠の様子を心配したのか、月もベンチに座っていた。

 

「あ、お帰りなさい、ギルさん」

 

「ただいま。いやー、楽しいな」

 

「そうですね。これなら皆さんにも良い娯楽になると思います」

 

はぅはぅと顔を真っ赤にしながらベンチに寝転ぶ詠を撫でながら、月は微笑む。

・・・と言うか、詠の症状がさっきより悪化してる気がするけど・・・大丈夫か? 

 

「あ・・・詠ちゃんは大丈夫ですよ。ちょっとギルさん分を摂取しすぎただけですから」

 

・・・なんだその謎成分。

まぁ、詠の親友である月が大丈夫と言っているのなら大丈夫なのだろう。

 

「なぁ、ギル」

 

一息ついていると、一刀が話しかけてくる。

 

「ん? どうした一刀」

 

「あの・・・ちょっと俺、席をはずすからさ。なんかあったらフォローよろしくな」

 

「ああ、そういうことか。構わないぞ。行って来い」

 

一刀にそう返すと、一刀はそそくさと更衣室へと去っていった。

・・・っていうか、あれ? あっちって・・・。

 

「まぁいい。深くは考えるまい」

 

こうして、リゾート施設、わくわくざぶーんでの一日は過ぎていった。

 

・・・

 

ある日。

月は、一人で歩いているギルを見つけた。

 

「あ・・・ギルさん」

 

急ぎの仕事もないし、少しだけお話をしようかな、とギルに近づいていくと・・・。

 

「ギルおにーちゃーん!」

 

「あ・・・」

 

背中に璃々が飛び乗ったのを見て、足が止まる。

 

「お、璃々か。どうした?」

 

「あのね、おかーさんがお仕事だから、ギルおにーちゃんとあそぼーとおもって!」

 

「そっかそっか。よーし、俺も暇だから、遊ぼうか」

 

「わーい!」

 

そこまで聞いて、月は踵を返す。

璃々ちゃんとギルさんの邪魔をしちゃいけないよね、と独り言を呟きながら、仕事へと戻る。

また夜には会えるし、と自分に言い聞かせながら通路を歩いた。

 

・・・

 

時は進んで昼。

 

「はふ。休憩ですね」

 

昼食をとりに厨房へと向かう。

厨房へと近づいていくと、誰かの声が聞こえてきた。

 

「おにーさま、もう少しでできますからね!」

 

「ああ、悪いな、わざわざ作ってもらっちゃって」

 

「い、いえ! おにーさまになら、いくらでも作っちゃいますよ!」

 

「そっか。ありがとな、流流」

 

「流流ー! にーちゃんのだけじゃなくて、ボクのもねー!」

 

「分かってるよ、大丈夫だって」

 

話し声からして、ギルさんと流流ちゃんたちがいるみたいだな、と月はあたりをつける。

厨房を覗いてみると、想像通り三人がいた。

ギルと季衣は席についており、流流が調理している。

どうしようかな、と悩んでいると、ギルが月を見つける。

 

「お、月。昼飯か?」

 

「あ、はい」

 

「そっか。流流、一人増えても大丈夫か?」

 

「はい! 元々多めに作ってますし、大丈夫ですよ!」

 

「よし、ほら、月。こっちおいで」

 

「えと、失礼します」

 

ちょこん、とギルの隣に腰掛ける月。

 

「そういえばにーちゃん、前に言ってたわくわくざぶーんってどうなったの?」

 

「ん? ああ、もう一般解放されてるはずだぞ。利用料の調整もついただろうしな」

 

そんな他愛ない話をしながら、四人は楽しく昼食をとった。

 

・・・

 

「よいしょ、っと。じゃあ詠ちゃん、ギルさんたちにお茶を届けに行こうか」

 

「そうね。そろそろあいつらも休憩の時間だろうし」

 

午後の政務が始まってから数時間。

いつもどおりならそろそろ休憩の時間だと言うことで、二人はお茶を淹れて持っていくことに。

 

「失礼します」

 

「はーい、どうぞー!」

 

桃香の声を聞いてから、扉を開ける。

中には、桃香とギル、そしてなぜか鈴々がいた。

 

「そろそろ休憩かなと思って、お茶を持ってきました」

 

「わ、もうそんな時間? お兄さん、休憩にしちゃおっか」

 

「そうだな。鈴々、少し休もう」

 

「分かったのだー・・・」

 

ぐったりとした鈴々がお茶の入った湯飲みを掴む。

 

「ちょっと、何で鈴々がここにいるの? 一番政務室に似合わない将じゃないの」

 

「ああ、ほら、わくわくざぶーんの報告書、鈴々がそんなもの書いたことないって言うからさ。仕事の合間に教えながら一緒に書いてたんだ」

 

「最初は鈴々ちゃんは除外してあげても良いんじゃないかなぁって思ってたんだけど、お兄さんが「将来のためにも、こういうことは教えておいたほうがいい」って言ってね」

 

それもそうだなぁ、って思ったから、一緒にやってるの、と桃香に言われ、詠はふぅん、と納得の声を漏らした。

 

「うぅ、お兄ちゃん、頭が割れそうなのだ~・・・」

 

「そうやってお茶を飲む元気があるうちは大丈夫。これからは武だけじゃ駄目な時代になってくるからな。こうして頭も鍛えないと」

 

「お兄ちゃんはいじめっこなのだぁ・・・」

 

「いじめじゃないぜ。愛の鞭って言うんだ」

 

いじめなのだ、いじめじゃないって、と何度か言い合う二人。

そんな二人を微笑ましく思いながら見ている月と、桃香となにやら話している詠。

しばらくして、休憩の時間も終わり月と詠は飲み終わった後の湯飲みを片付けに戻っていった。

 

「ほら、そろそろ終わるから、頑張っていこー」

 

「りょーかい、お兄さん!」

 

「うぅ~・・・りょーかいなのだー」

 

・・・

 

「あー、今日も働いたなー」

 

腕をぐるぐると回しながら自室への道を歩く。

今日は月が来るといっていたから、多分もう部屋で待っていることだろう。

部屋へ近づくに連れて、月の魔力を感じる。

やはり、すでに部屋で待っているらしい。

 

「すまん、待たせたな、月」

 

そういいながら扉を開けると

 

「お、おかえりなさい、お兄ちゃんっ!」

 

「おおっ!?」

 

あまりのインパクトに、思考がフリーズする。

なんだなんだ。何が起きた。

月が俺を呼ぶときは「ギルさん」だったはずだ。何故いきなり「お兄ちゃん」に!? 

疑問をそのままぶつけてみると、何でも璃々や蒲公英たちに「兄」系統の呼び方をされているのを見て、ちょっと自分も呼んでみたくなったんだそうだ。

な、なるほど。そういわれてみれば、確かに俺を兄と呼んでくれる娘は多い気がする。

 

「おいやでしたらすぐにやめますけど・・・」

 

「・・・いや、今日くらいはその呼び方で」

 

本能が理性をちょびっとだけ上回ったらしい。

「今日だけ」と条件をつける当たり、少しだけ理性も生き残っていたようだけど。

 

「へぅ。分かりました、お兄ちゃん」

 

「ぐっ・・・! これほどまでに強力とは・・・!」

 

とりあえず、お持ち帰りだ! 

 

「ひゃっ、お、お兄ちゃんっ・・・!?」

 

翌日、腰ががたがたになった月に説教されるまで、「お兄ちゃん」呼びは続きましたとさ。

 

・・・




「お兄ちゃんっ」「他には?」「えーと、お兄様?」「あ、結構月のイメージにあってるかも」「兄さん」「んー、それはどっちかって言うと詠っぽいかなぁ」「にーにー」「もうちょっと幼かったらそれでも良かったかもな」「あんちゃん」「ギギギ」


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