真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「女の方の卑弥呼が来ると騒動が終わった後も甚大な被害が残る」「合わせ鏡、はっきりいってオーバーキルだもんなぁ」


それでは、どうぞ。


第十四話 騒動の後に

翌朝、腕にくっついている愛紗を見ながら思う。

・・・この布団を押し上げている二つの凶器の威力は、すさまじかった。

まさか押しつぶされて窒息しかけることになるとは・・・。

 

「・・・ポニーテールもいいけど、ストレートも良いなぁ」

 

流石に寝るときも髪を縛っているのはどうか、と言うことで寝る直前に髪留めを解いたのだが、流石は美髪公と言ったところか。

窓から入ってくる月の光で、きらきらと輝いているように見えた。

 

「さて、と。そろそろ時間かな。・・・おーい、愛紗、起きろー」

 

「う、ん・・・ん? ・・・ぎ、ギル殿っ・・・!」

 

寝台から降りてズボンを穿いたあたりで愛紗の身体を揺すって起こす。

最初は寝ぼけ眼だった愛紗も、俺を認識した瞬間に覚醒した。

身体を起こしながら布団を身体に巻きつけているところを見るに、恥ずかしいのだろう。

 

「そんなに慌てなくとも。昨日全部見た仲じゃないか」

 

「そ、それとこれとは話が別ですっ!」

 

「そういうもんか。・・・ほら、服。下着は・・・諦めてくれ」

 

「え? ・・・こ、これは・・・」

 

愛紗がいつも身に着けている服を渡す。

下着は・・・まぁ、いろいろな物で濡れていて、穿ける状態じゃないだろうな。

 

「どうする? 愛紗さえいいなら、愛紗の部屋から着替えくらい持ってくるけど・・・」

 

「~っ! 自分で行きます!」

 

・・・わーお、ノーパンで走ってったよ、愛紗。

流石は関羽だなぁ。大胆と言うか恥ずかしがると後先考えないというか・・・。

 

「取りあえず、俺も着替えて仕事に行かないとな」

 

・・・その前に、シャワーでも浴びるかな。

余談ではあるが、愛紗は奇跡的に誰にも見つからずに部屋までたどり着いたらしい。

顔を真っ赤にして「私はなんてはしたないことを・・・!」と後悔する愛紗はおもしろ・・・可愛かったと言っておく。

 

・・・

 

「・・・なんだか、久しぶりに政務をした気がする」

 

「いきなりどうしたの、お兄さん?」

 

書類に筆を走らせつつ呟くと、対面に座る桃香が首を傾げる。

 

「何故かは分からないんだけどな。とにかく、こうして政務をするのが久しぶりに感じる、って話」

 

「でも、ちょっと前も朱里ちゃんたちとやってたよね?」

 

「そうなんだよ。・・・あ、そっか、桃香と政務をするのが久しぶりだから、そう感じたのかも」

 

「わ、私っ?」

 

「ああ。・・・うん、きっとそうだ。あー、すっきりした」

 

なんだかこう、胸の辺りにあったもやもやが消えた気がする。

改めて思えば、桃香と一緒に政務なんて本当に久しぶりだ。

そんなことを考えながら手を動かしていると、すぐに書類は片付けられた。

いやー、政務能力上がってるね。

 

「ん、ふー・・・! 終わったぁ!」

 

「お疲れ、桃香。・・・あ、そういえば、桃香に渡すものがあったんだよ」

 

「ふぇ? なんだろ、新しいお仕事だったらいやだよ?」

 

「はは、心配しなくても、仕事じゃないよ。・・・ほら、これ」

 

宝物庫から取り出した包みを桃香の前に置く。

首をかしげて頭の上に疑問符を浮かべている桃香に説明するべく、包みを解きながら口を開く。

 

「ほら、昨日露天の前で女の子たちと一緒に盛り上がってたじゃないか。その時の髪留め、買っておいたんだよ」

 

あの騒ぎの最中に物を買うのは至難の業だったが、何とかやりきった。

自分で自分に良くやったと言ってやりたいほどの手際だったといっておこう。

 

「えっ!? こ、これ、買ってくれてたの!?」

 

髪飾りと俺の顔を交互に見ながら驚きの声を漏らす桃香。

それから、そっと髪留めを手に取り、ほわぁ、という声を出しながらそれを眺める。

 

「良かったら、受け取ってくれるか、桃香」

 

「で、でも、今日は何か特別な日とかじゃないよ・・・?」

 

「そんなに難しく考えるなよ。桃香が気に入ってたみたいだから、買ってあげたいって思っただけだよ」

 

「・・・うぅ、もう、そういうの、駄目なんだよ?」

 

そう言っておずおずと髪留めを手にして、自身の髪を留める桃香。

バレッタのような髪留めは、桃香の後ろ髪を柔らかくまとめた。

 

「うん、いいね。似合ってるよ、桃香」

 

「そ、そうかな。・・・えへへ、ありがと」

 

照れながら礼を言ってくる桃香を撫でて、立ち上がる。

 

「よし、それのお披露目も含めて、街に昼飯を食べに行こうか!」

 

「うんっ! 行こう、お兄さん!」

 

「急に元気になったな。そんなに腹減ってたのか?」

 

「ふふっ、違うもーん」

 

上機嫌に腕を絡めてくる桃香に若干の疑問を抱きながら、街へと繰り出す。

腕を組んだまま歩く桃香は鼻歌なんか歌いながら屋台を眺めている。

昼間だからか、屋台や飯店からいつもより強く匂いが流れてくる。

このあたりは比較的ラーメンの屋台が多く、それぞれの店がしのぎを削っている。

それだけにラーメンのレベルは高く、昼時となればどの屋台にも行列ができる。

 

「ふわぁ・・・みんな、いっぱい並んでるね、お兄さん」

 

「ああ、この辺で食べるのはちょっと難しいかもな」

 

並んでいる間に昼休みが終わってしまいそうだ。

・・・仕方がない。少し歩くが、もう二つほど通りを越えたところにある飯店に行こう。

あそこなら、店も広いし客の回転もまずまずだ。それほど並ばずに食べられるだろう。

そのことを桃香に伝えると、明るい返事と共に首肯を返してくれた。

 

「そういえば、昨日はありがとな、桃香」

 

「へ? な、なにかしたっけ、私」

 

「ほら、子供の世話、手伝ってくれたろ」

 

あの時はライダーと多喜、そして桃香と祭にほとんどの子供を預けて城へと向かってしまった。

事件が一通り終わった後子供たちの様子を確認しに行くと、つかれきった様子の多喜とその隣に立つライダーから、子供たちは無事家に帰った、と報告された。

ライダーと多喜にはその場で礼を言って置いたが、祭と桃香はその場にいなかったので今こうして礼を伝えているわけだ。

・・・祭には、後でお礼と共に酒でもプレゼントしよう。

 

「あ、そのこと。・・・良いよ、お礼なんて。私もみんなと遊べて楽しかったから」

 

「それでも、お礼は言わせてくれよ。あの時は本当に助かった」

 

「・・・ふふ、どーいたしましてっ」

 

「・・・お、あそこだあそこ」

 

桃香と話をしながらしばらく歩くと、その飯店に着いた。

予想通り広い店内にはいくつか空きがあるようだ。

 

「おっきいねぇ~!」

 

「だろ。多分、この街で一番大きいと思う」

 

大きな口を開けて驚く桃香を軽く引っ張りながら店に足を踏み入れる。

ちょうど二人がけの席が空いていたのでそこに座り、採譜を机の上に広げる。これで二人一緒に見れるだろう。

 

「んー、今日はラーメンの気分だなぁ、やっぱ」

 

さっきまで屋台のラーメンのにおいを嗅いでいたので、気分は完璧にラーメンだ。

 

「桃香は決まったか?」

 

採譜から顔を上げて桃香を見てみると、桃香も顔を上げていて、俺とばっちり目が合う。

 

「えへへー、私もラーメンかなー」

 

「ん、了解。・・・すいませーん!」

 

店員を呼び、注文を伝える。

ラーメン二人分ならばすぐに来るだろう。

 

「にしても、最近は桃香も仕事の速度があがったじゃないか。慣れてきたのか?」

 

「うん、そんな感じかなぁ。・・・それに、今日はお兄さんもいたし、ね」

 

「俺が?」

 

聞き返すと、桃香は小さく頷いた。

 

「うん、お兄さんとお仕事してると、こう、背筋がぴしっとなる、っていうか」

 

「はは、変に緊張させちゃってるかな」

 

「ううん、そんなことないよ」

 

そう言って首を振る桃香は、静かな笑みを顔に浮かべていた。

俺も釣られて笑顔になる。・・・和むなぁ。

 

「お待たせしましたーっ!」

 

しばらく見詰め合っていると、店員の元気な声が割り込んできた。

豪快に置かれたどんぶりからは、美味しそうな良い匂いが届いてくる。

早速箸を取り、いただきます、と手を合わせてから食べ始める。

ふぅ、ふぅ、と息を吹きかけてから麺を口に運ぶ桃香を微笑ましく眺めながら、ラーメンを片付けていく。

 

「ぷはー、ご馳走様でした」

 

「はふぅ、あ、ご馳走様でしたっ」

 

俺たちはほぼ同時にラーメンを食べ終わり、同じように挨拶をする。

 

「・・・ふふっ、美味しかったね、お兄さん」

 

「ああ、ここははずれがないからな」

 

少し休んだ後、代金を払って店から出る。

桃香は相変わらず俺の腕に抱きついたままで、周りからの視線を集めている。

 

「次はどこに行こうか、桃香」

 

「んー・・・お昼休みはまだまだあるし・・・。そうだ! お兄さん、私の部屋に来ない?」

 

「桃香の部屋に?」

 

「うんっ。あのね、華琳さんから、珍しいお茶を貰ったんだ。それ、一緒に飲みたいな、って」

 

「へえ、そうなんだ。・・・じゃあ、お邪魔しようかな」

 

「行こうっ、お兄さん!」

 

そう言って俺の腕を引っ張り走り出す桃香。

強引だなぁ、と苦笑しつつ桃香にあわせて走る。

 

・・・

 

「座って待ってて、お兄さん。今お茶を入れてくるからね」

 

桃香は部屋に入るなりそう言って奥へと消えていった。

取りあえず椅子に座って一息つく。

奥からはかちゃかちゃと食器の音が聞こえてくる。

・・・しばらく待って、やることもないから桃香を手伝おうかと立ち上がりかけたとき、盆を持った桃香が戻ってきた。

 

「お待たせ、お兄さん。・・・どうぞ。美味しいかどうかはちょっと自信ないけど」

 

「ありがとう、いただくよ。・・・うん、大丈夫。美味しいよ、桃香」

 

これは良いな。一口飲んだだけで、かなり良い茶だというのが分かる。

 

「ふふ、良かった」

 

安心したようにため息をついた桃香も、湯飲みに口をつける。

 

「・・・ほんとだ。美味しいね」

 

ふう、と息をつきながら湯飲みを卓に置いた桃香。

茶を飲みながらまったりとしていると、そだ、と桃香が口を開いた。

 

「今日、お仕事終わったら暇?」

 

「ん、特に予定は・・・あー、どうだろ」

 

今日は月か詠が来るかもしれんな。

 

「後で月たちに聞かないと分からないかなぁ」

 

「・・・あの、ね。今日の夜は、空けておいて欲しいの」

 

「何か用事か?」

 

「うん。ちょっと、大事なお話」

 

そう言ってから、桃香は急に立ち上がる。

 

「そろそろいこっか、お兄さん」

 

「ああ、もうそんな時間か」

 

「・・・お仕事の後、お願いね?」

 

「分かった。開けておこう」

 

早めに終わらせて、月たちに言っておくか。

 

・・・

 

月と詠、さらに孔雀にも今日は用事があるといっておき、部屋で桃香を待つ。

政務中に、日が沈んだらお邪魔するね、と言われたのでこうして待っているのだが・・・。

 

「・・・暇だな」

 

一人、何もせずに人を待つのがこれほど暇だとは。

寝台の上に背中から倒れこみ、天井を仰ぎ見る。

 

「・・・あー、桃香・・・早く、こないかなぁ・・・」

 

だんだんと、意識が・・・遠く・・・。

 

「・・・お、お兄さーん? ・・・ね、寝てる?」

 

耳に響く声と、寝台から伝わる振動で、目が覚める。

いまだに覚醒しきっていない頭では、何が起こったのか理解できていない。

かろうじて感じるのは、ぎ、と言う寝台が軋む感覚と、顔に掛かる何かさらさらとしたもの。

 

「ん・・・ちゅ・・・」

 

そして、口に何かぬるぬるとしたものがくっついたような感触がして、意識が急に覚醒してゆく。

な、なんだ・・・!? 

 

「う・・・ん・・・おぅっ!?」

 

「ひゃんっ!」

 

慌てて上半身を起こすと、頭にごっ、と衝撃が走る。

何か、硬いものに頭をぶつけたようだ・・・! 

 

「いたた・・・って、桃香?」

 

「はうぅ・・・痛いよぉ、お兄さぁん」

 

「わ、悪い。寝てたか・・・!」

 

「ううん、いいの。遅刻しちゃったのは私だから」

 

お互いに頭を抑えながら謝りあう。

・・・そうか、桃香の頭にぶつけたのか。

桃香はしばらく頭を抑えてしゃがんでいたが、ようやく痛みが引いたのか涙目になりながら立ち上がる。

 

「うぅ、いきなり出鼻をくじかれちゃったね」

 

「すまんな。・・・で、話しがあるんだっけ?」

 

「あ・・・うん。そうなの」

 

こほん、と桃香はわざとらしく咳払いする。

 

「あ、あのね? ・・・愛紗ちゃんと、した、の?」

 

「ぶっ!」

 

「わわっ!?」

 

真剣な顔でいきなり直球な質問が来たので、思わず吹き出してしまった。

桃香はそんな俺の様子に一瞬びっくりしたようだが、すぐに真面目な表情に戻った。

 

「そ、それで・・・どうなの?」

 

寝台に座る俺に、桃香が詰め寄ってくる。

思わず後ろに仰け反ってしまう。・・・凄い気迫だな。

 

「ああ・・・その、したよ」

 

「・・・そう、なんだ」

 

しゅん、とした表情をした桃香だが、次の瞬間、すぐに何かを決意した表情に変わる。

 

「お兄さんっ」

 

「ん、なん・・・むうっ!?」

 

勢い良く飛び込んできた桃香の唇が、俺の唇に触れる。

しかし、勢いが良すぎたのか前歯同士もぶつかってしまう。

 

「いっつぅ!」

 

「あたた・・・」

 

俺を押し倒したまま、桃香は口を押さえる。

かくいう俺も口を押さえる。・・・く、至近距離からの突撃がこれほどまでに痛いとは・・・。

 

「ご、ごめんね、お兄さんっ。怪我とかしてない!?」

 

「大丈夫だ、桃香。・・・そっちこそ、唇切ってないか?」

 

どれどれ、と桃香の唇を見る。

・・・良かった、切れてはいないようだ。

 

「え、えへへ・・・。失敗しちゃった」

 

「失敗しちゃったって・・・やっぱり、あれは」

 

「・・・う、うん」

 

桃香は頷くと、次はゆっくりと顔を近づけてくる。

・・・おー、まつげ長いなぁ、なんて場違いなことを思っていると、唇に柔らかい感触。

 

「ふぅっ・・・お兄さぁん・・・」

 

甘い声を上げながら、桃香が口付けてくる。

ある程度すると満足したのか、桃香は一旦口を離す。

 

「・・・お兄さん、好きだよ」

 

「桃香・・・」

 

「ご、ごめんね、答えも聞かないで、こんな事・・・。でも、もう抑えられなくて・・・!」

 

「ちょ、桃香、おちつ・・・むぐぅっ」

 

・・・この後、桃香の呼吸が苦しくなるまで口付けされた。

 

「・・・ぷはぁっ!」

 

「ぷは!」

 

呼吸を整えていると、桃香が口を開く。

 

「・・・お兄さん・・・」

 

「そんなに切なそうな声を上げるなよ。・・・よっと」

 

「ひゃんっ」

 

桃香の身体に手を回し、身体の位置を入れ替える。

下に桃香を組し抱く格好となると、桃香を撫でながら口を開く。

 

「桃香の気持ちはわかった。・・・良いんだな?」

 

「ここまでして、駄目なんて言わないよ・・・」

 

「・・・ん、分かった」

 

もう一度口付けてから、桃香の服に手を掛ける。

 

・・・

 

・・・良い天気だなぁ。

 

「何現実逃避してるのよ」

 

「・・・いいじゃないか、それくらい。よし、詠、街に行こう」

 

「ふふふ、ギルさん、まだお話は終わってないですよ? 街に行くのは、それからにしてもらっていいですか?」

 

「ハハハ、モチロンデスヨユエサン」

 

「・・・ここまで来ると、なんだか哀れね」

 

愛紗と桃香ともにょもにょした後のこと。

二人との関係を報告しておかないとな、と月たちを探していると、月、詠、孔雀の三人に捕獲された。

・・・まさか、賢者の石を縄に溶かして編みこんだ捕獲ネットなんてものを持ち出してくるとは思わなかったので、とてつもなく焦った。

そして、月が令呪をチラつかせながら凄く良い笑顔で「正座してください」と言ってきたので、速攻で正座。

久々の黒月到来にガクガクブルブルしていると、月を中心としたお説教を食らった。

要約すると、思いに応えるのはいいけど、私たちのことをないがしろにしないでくださいね、と言った内容だった。

・・・ああ、そっか。桃香と話をするときに月たちとの予定断っちゃったからなぁ・・・。

もちろんそれは謝ったのだが、いまだ何かにお怒りっぽい月さんは俺の精神をがりがりと削っていく。

いつもなら可愛らしい笑顔だなぁ、と思う顔も、背後に立ち上る黒いナニカの所為で般若の顔にしか見えない。

 

「・・・まぁ、これから気をつけていただければ良いですし、もうこのお話は終わりにしましょうか」

 

月がそう言うと、背後にあった黒いナニカはすっと消えた。

・・・あれは、黒い聖杯の中にいたとき並の圧迫感だった。できればもう味わいたくないです・・・。

 

「・・・ありがとう、月。さて、じゃあ今日はみんなへのお詫びも兼ねて、月たちの手伝いをするかな」

 

立ち上がり、足をさすりながら三人に言った。

月は先ほどまでの雰囲気なんてなかったかのように目をきらきらとさせながら

 

「ほんとですかっ!?」

 

と言ってきた。

今にも飛び跳ねそうなくらいの喜びようである。

こんなに喜んで貰えるなら、仕事の手伝いくらい軽いものである。

 

「ああ。寂しい思いさせちゃったようだしな。詠、孔雀、いいだろ?」

 

「べ、別に。アンタがどうしても手伝いたいって言うなら、その、手伝わせてあげてもいいわよ?」

 

「是非。ギルと一緒の時間が増えるのは嬉しいからね」

 

「良かった。それじゃあ行こうか」

 

「はいっ」

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

「ほらほら、詠、置いていくよー?」

 

「ちょっ、孔雀ー!?」

 

今日も侍女組は元気みたいだ。良かったよかった。

・・・あれ、誰か忘れているような気が・・・。

 

・・・

 

「ぽつーん」

 

洗濯をしに水場までやってくると、響が一人で体育座りをしていた。

ご丁寧に口で擬音までつけている。

 

「・・・うわー」

 

「ちょっと、アンタどうにかしなさいよ」

 

「俺任せかよ・・・」

 

「むむぅ、ボクもギルがいったほうがいいと思うけど・・・」

 

「へぅ、響ちゃん泣きそうです」

 

ああもう、行けばいいんだろう行けば! 

一人で暗いオーラを背負っている響の元へと駆け寄り、声をかける。

 

「きょ、響、おはよう」

 

「んー? ・・・あー、ギルさんだー。えへへー、おはよー」

 

こちらを見上げる響の顔には、弱ったような笑みが浮かんでいた。

 

「どうしたんだ、響。そんな暗い顔して」

 

「んーとね、なんていうのかなー・・・。ほら、私ってアサシンのマスターじゃない?」

 

「そうだな」

 

「やっぱりサーヴァントとマスターって似通うのかさー、私の影だんだん薄くなっていってるって言うか、むしろ私に気配遮断常に掛かってるんじゃないかっていうか・・・」

 

「・・・そ、そんなことないんじゃないか?」

 

不味いぞ、これは。

予想以上に響が落ち込んでいる・・・! 

 

「今日も月とか詠とか孔雀とかギルさんと一緒に遊んでて楽しそうだったしー・・・」

 

・・・あ、違う。

落ち込んでるんじゃないや。拗ねてるよ、この娘。

 

「・・・あれは遊んでたんじゃないんだが・・・」

 

「ぶーぶー。楽しそうだったじゃん。主に月ちゃんが」

 

「あー、うん、そこは間違ってないな」

 

あの時の月はとても楽しそうだった。

令呪をチラつかせているときの笑顔とかもう・・・! 

 

「ぽつーん」

 

「ずーん」

 

「・・・ちょっと、ギルも一緒に拗ね始めたんだけど」

 

「大の大人が膝を抱えているのを見るのは・・・何と言うか・・・」

 

「へぅ、二人とも、何で私を見るんですか?」

 

壁のシミを数えていると、背後で三人が何か話しているのが聞こえる。

だが、そんなことより俺は壁のシミを数えながら地面に「の」の字を書くのに忙しい。

 

「遊びに着たわよー! 見なさい、これ! 弟に作らせたんだけど、どうよ!」

 

「ふぇ? ・・・あ、卑弥呼さん」

 

「何、その格好」

 

「いいでしょー。わらわの弟が一晩で作ってくれたわ」

 

「へぇ、なかなかにあってるじゃないか、侍女服」

 

背後で卑弥呼たちがはしゃいでいるのが聞こえるが、俺は壁のシミを以下略。

取りあえず、話の流れからして卑弥呼が弟にメイド服を作らせたらしい。

 

「・・・で、ギルは何であんなになってんの?」

 

「それはそのー・・・かなり複雑ないきさつがあるようでないような・・・」

 

「どっちなのよ。・・・取りあえず、説明してみ?」

 

「月が黒くなった」

 

「ああ、なるほど」

 

「納得するんですかっ!?」

 

珍しく月が大声で突っ込みを入れている。

 

「しょーがないわねー。わらわが二人とも連れ戻してやるわよ」

 

後ろにいる卑弥呼がだんだん近づいてきているのを感じる。

 

「ちょっと、ギル。わらわ、こんなに可愛い服着てきたんだけど?」

 

「あー、うん、似合ってるー」

 

「似合ってるよー、卑弥呼ちゃーん」

 

俺が気の抜けた返事をすると、響も同様の答えを返す。

目線は二人とも壁に固定である。

 

「うっわ、何こいつら。合わせ鏡していいの?」

 

「ほんとに似合ってるよー。卑弥呼可愛いよ卑弥呼」

 

「な、なによ。そんな棒読みの台詞じゃ嬉しくないんだからっ」

 

どもりながら後ずさる卑弥呼。

嬉しくないと言いつつ嬉しそうである。褒められなれていないのか。

 

「可愛いよー。卑弥呼ちゃんすっごく似合ってるよー」

 

「ちょっと、響まで・・・やめてよ、わらわ、照れちゃうじゃない」

 

「照れる卑弥呼も可愛いよー」

 

「えへへぇ、ホント?」

 

そこまで言うと、卑弥呼はてれっ、とはにかみながらもじもじし始めた。

時折もうっ、とか言いながら俺の肩をどついてくるのはスルーすることに。

 

「・・・だめだね、卑弥呼、篭絡されちゃったよ」

 

「あいつに任せたのが間違いだったわ」

 

・・・




「ほら卑弥呼もこっち来て「の」の字書こうよ」「このはらいの部分を上手にやらないと駄目なんだよー?」「ふふん、メイド服も着こなす卑弥呼ちゃんがやったろうじゃないの!」「・・・うわぁ、あそこだけ混沌としてるねえ」「やってることに生産性がまるでないわね」


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