真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「子供の頃、傘はエクスカリバーだったよな」「俺は村正だった」「折り畳み傘は仕込み刀だな」「流石忍者・・・」


それでは、どうぞ。


第十三話 二人も子供に

魏と呉に書類を渡してきたと朱里に報告してから、自室へ戻る。

そして、宝物庫の中から薬と名のつくものをすべて取り出す。

 

「・・・こんなにあったのか」

 

足の置き場もないほどに敷き詰められた薬たち。

昨日の騒ぎを聞きつけたキャスターから頼まれ、若返りの霊薬があるならば疲労回復に効果のある薬もあるだろうと言われて、それっぽいのをいくつか見繕っておくことになったのだ。

何でも、研究して量産するらしい。目指せ栄養ドリンクとか言っていたが・・・。

ついでなので、どんな薬があるかも確認しておこうと思い、こうしてすべての薬を外に出している。

 

「しっかし・・・これは、時間が掛かりそうだな・・・」

 

取りあえず一番近いところにある瓶を手に取る。

・・・なになに? 飲むと巨大化する薬? 

巨人と戦うときに使用してください、とか書いてあるけど・・・巨人と戦うこと、あるかなぁ。

こっちは・・・お、怪我の回復を促進する薬だって。

これは便利そうだな。

 

「・・・く、これは若返りの薬か」

 

いくつかの薬を確かめて宝物庫にしまっていく。

その途中で手に取ったのは昨日の騒動の原因、若返りの薬だ。

後で詳しく調べるために、机の上においておく。

 

「さて、次は・・・っと」

 

しばらく薬を確認していくと、どたどたと足音が聞こえる。

 

「ギルおにーちゃーん!」

 

「ん? ああ、璃々。どうした?」

 

突然扉を開けて入ってきた璃々。

 

「あのね、あのね、一緒に遊ぼ?」

 

「そだな・・・。うん、暇だし、いいぞ」

 

薬を調べるのは、また後日にもできるだろうし。

 

「わーい! 早く行こっ」

 

「おいおい、引っ張るなって」

 

引っ張られつつ、床に宝物庫の入り口を展開し、放置していた薬をすべて宝物庫に戻した。

・・・ここで、きちんと確認していれば良かったなぁと後悔するのは、一時間ほど後のことである。

 

・・・

 

「おーい、ギルー? いるかーい?」

 

主のいない部屋に、声が響く。

 

「・・・あれ? いないのかな。休みって聞いてたんだが」

 

声の主であるキャスターは、首をかしげながら部屋の中へ進入する。

 

「お、あの瓶はもしかして、疲労回復の薬かな?」

 

そう言って、机の上から瓶を三つ手に入れるキャスター。

 

「書置きでも残しておけばいいかな。・・・さて、早速帰って研究するか」

 

鼻歌でも歌いそうなほどに上機嫌で部屋を後にしたキャスター。

自分の研究所兼工房に戻る道すがら、華琳と一刀に出会った。

 

「ん? おや、曹操と北郷じゃないか」

 

「あら? あなたは・・・ああ、魔術師だったかしら?」

 

「こんにちは、キャスターさん」

 

「ああ、こんにちは。・・・二人とも、顔色が悪いね」

 

キャスターが指摘すると、一刀がははは、と苦笑いをする。

 

「珍しく仕事が立て込んでて。華琳と一緒に徹夜だよ」

 

「ほう」

 

「んで、これから軍事演習を見に行くんだけど・・・ふぁーあ・・・」

 

「疲れてるみたいだね。・・・あ」

 

キャスターは自分が持っている瓶のことを思い出した。

 

「なら、これを飲むといい」

 

「・・・なんだこりゃ?」

 

「栄養ドリンク、といえば君には分かりやすいかな」

 

「何でそんなものがあるんだよ」

 

「ふふ、ギルからの頂き物でね。宝具級の霊薬だから、効果は期待していいと思うよ」

 

「・・・そ、そっか」

 

少し引き気味に、キャスターから薬を受け取る一刀。

華琳も、躊躇しつつ受け取る。流石に疲れを感じているらしい。

 

「それじゃ、私はこれを研究して量産しないといけないから、失礼するよ」

 

「あ、ああ! ありがとな!」

 

「はは、礼ならギルに言いたまえ」

 

白衣を翻して去っていくキャスターに手を振った後、一刀は手元の瓶に目を移す。

 

「ま、栄養ドリンクって言うなら飲んでおくか」

 

キャップをひねり、ラベルも見ずに一気に飲み干す一刀。

それを見て華琳も一気に飲み干す。

すべて飲み干した瞬間、一刀は思わずのどを押さえて咳き込む。

 

「げっほ! げっほ! まっず!」

 

「これは・・・水が欲しいわね」

 

「あ、ああ。どこかに井戸は・・・って、おおおおお?」

 

「ちょっと一刀。何を変な声を・・・あ、あら・・・?」

 

・・・

 

「ほらほら、ギルおにーちゃん、こっちだよー!」

 

「ああ、ほらほら焦らない焦らない。焦って走るとまた転ぶぞー」

 

「だいじょう・・・わひゃっ!?」

 

「おっと! ・・・言わんこっちゃない」

 

くるくると回りながら走っていた璃々が、予想通り転びそうになったので支える。

 

「えへへ・・・ありがと、ギルお兄ちゃん」

 

俺に支えられた璃々が、はにかんで顔を赤らめる。

ははは、こやつめ。いっちょまえに照れてるのか。

 

「危ないからこのまま抱っこしていくぞー」

 

「わーい!」

 

きゃっきゃと喜ぶ璃々を抱き上げながら、街を歩いていく。

 

「あっちだよー!」

 

「あっちに何かあるのか?」

 

「あのね、いっつも遊んでるおともだちがいるのー!」

 

「へえ」

 

璃々の友達か。

ちょっと楽しみかな。

 

「ギルお兄ちゃんのことお話したらね、会いたいってみんないってたのー!」

 

「そっか、なんか緊張するな」

 

しばらく璃々の言うとおりに街を歩いていくと、子供たちの騒ぐ声が聞こえてきた。

この近くにある広場で遊んでいるんだろう。子供たちが遊べるような場所はそこしかないからな。

 

「こっちだよー!」

 

「まてよー!」

 

「うふふ、私に追いつけるかしらっ?」

 

追いかけっこをしてるのかな。

 

「あ、いたー! ・・・ってあれ? なんか知らない子がいるー」

 

「知らない子?」

 

「うん。あの金髪の女の子と、黒い髪の毛の男の子ー」

 

・・・んんー? 

あれ、あの金髪ドリルには見覚えが・・・。

 

「まてよー、そうそうー!」

 

「あははっ。ほら、こっちよこっち!」

 

そうそう? ・・・そ、曹操!? 

 

「まてまてー! かずと、頑張れよー!」

 

「おう!」

 

かず・・・と・・・? 

 

「みんなー! いーれーてー!」

 

あまりの驚きに硬直していると、璃々が俺の腕から飛び出していき、その子供たちの輪の中へと走っていった。

 

「あ、璃々だー!」

 

「いいよー、一緒にあそぼー!」

 

「あれー? おにーちゃんは誰ー?」

 

慌てて璃々を追いかけると、子供たちに気づかれた。

わらわらと俺の周りに集まってくる子供たちは、思い思いの言葉を俺にかけてくる。

 

「あのね、璃々の知り合いのお兄ちゃんなのー!」

 

「お兄ちゃん?」

 

「お兄ちゃんだー!」

 

「あそぼー! お兄ちゃんっ!」

 

「あ、ああ、そうだな。遊ぼうか」

 

子供たちの勢いに押されつつ答えていると、先ほど璃々が見たことないと言った二人が近づいてきた。

 

「・・・あなた、名前は?」

 

「俺はギル。よろしくな」

 

「私は曹操よ。よろしくね」

 

「俺はほんごうかずと! よろしくな、ギル!」

 

・・・やっぱりか。この二人、華琳と一刀だ。

何で若返っているのか・・・は、やっぱり、あの霊薬を飲んだのだろう。

でも、どこで手に入れたのだろうか。あれはきちんと宝物庫の中に・・・あれ。

 

「そういえば・・・机の上におきっぱなしだったかも・・・」

 

そうだよ、あの時『床の』薬は片付けたけど、『机の上の』薬は・・・やばい。片付けてない! 

多分キャスター辺りが持っていったのを渡されたんだろう。薬を飲むときはきちんとラベルを読みなさい! 

というか、日本語が読めない華琳はともかく、一刀は読めるだろうに。なぜ読まずに一気なんてことを・・・。

 

「そ、そうか。二人とも、よろしくな」

 

取りあえず、元通りに戻る薬を飲ませないとな・・・。

 

「よーし! じゃあ、探検に行くぞー!」

 

「おー!」

 

「探検!?」

 

広場で遊ぶんじゃないのか!?」

 

「あのね、ギルお兄ちゃんがいるなら、ちょっととおくにあそびにいってもいいかなって。・・・だめなの?」

 

そう言って上目遣いにこちらを見上げてくる璃々。目じりには涙が溜まっている。

・・・むむ、璃々め。こんなに小さい頃からそんなテクニックを見につけているとは・・・お兄さん将来が心配です。

 

「くっ、それは反則だぞ。・・・分かったよ、璃々。ただし! きちんと俺の近くにいること! それが条件だ!」

 

「わーい!」

 

広場で遊んでいれば、薬を飲ませる機会もあったんだが・・・。

街に出れば、おそらく子供の世話で手一杯になるだろう。その状況で子供二人に薬を飲ませるのは至難の業だ。

・・・取りあえず、子供を見失わないようにしないとな・・・。

 

「はぁ・・・どうしてこうなった」

 

・・・

 

「あ、おい! そっちは危ないぞ!」

 

「大丈夫だよー!」

 

「大丈夫じゃないから注意してるんだ!」

 

ああ、四方八方に子供が散らばる! 

 

「・・・何やってんだ、ギル」

 

「多喜! ライダー! ・・・助かった」

 

ライダーのほうは子供に人気があるし、多喜は子供の扱いが上手い。

二人に協力してもらえれば助かる。

 

「助かるって・・・いやな予感しかしないな」

 

「おーい、みんな! ライダーと多喜が遊んでくれるみたいだぞー!」

 

「あー! 仮面のお兄ちゃんだー!」

 

「わー、多喜のお兄ちゃんだー!」

 

・・・ちなみに、だが。

多喜は子供・・・それも男子に妙な人気があり、ほとんど全員に真名を預けている。

多分、このあたりの子供すべてに真名を預けてるんじゃないだろうか。

 

「・・・流石は特級保育士。大人気だな」

 

「なんだその称号! うれしくね・・・うおお、まとわりつくなっ!」

 

「諦めろー、マスター。いつもの流れだろ?」

 

・・・いつもの流れなんだ。

子供たち、特に男の子が多喜とライダーにまとわりついているのを見ていると、背後からぽやっとした声が聞こえた。

 

「あれ? お兄さん、何してるの?」

 

「桃香か! 助かった、こっちに来てくれ!」

 

こちらに声をかけてきた桃香の手を引っ張って、俺のほうへ引き寄せる。

 

「わわわっ。な、なに、そんな急に・・・! 私にも心の準備ががが・・・」

 

「この子達の相手をしてくれ!」

 

「で、でもでもお城に帰ってからなら・・・はえ? 相手?」

 

「ああ。ちょっと俺一人じゃ捌ききれなくてな。頼むよ」

 

これで女の子も大丈夫だろう。

 

「お姉ちゃん、髪飾り見よー!」

 

「これ、綺麗だよね!」

 

「むー、お兄さん、帰ったら・・・え? あ、うん、そうだね。・・・ほわぁ・・・ほんとに綺麗だなぁ」

 

子供たちに引っ張られ、露天の髪飾りに釘付けになる桃香。・・・後でお詫びとして買っておくか。

・・・うん、まぁ、楽しそうならいいか。

 

「みんな楽しそうだね、ギルお兄ちゃん!」

 

「ん、ああ」

 

俺の元に残っているのは、俺に興味を持ってくれた子供たちだけだ。

よしよし、さっきは三十人近くいて混乱していたが、八人程度なら何とかなるか。

 

「しかし・・・周りに人が増えてきたなぁ」

 

妙な騒ぎになっているのを聞きつけたのだろう。周りには暇を持て余しているおばちゃんやらが興味深そうにこちらを覗いている。

 

「・・・よし、城に行こうか!」

 

この人数だ。下手に街で遊ぶよりは城でまとめて相手したほうが楽だろう。

城の兵士たちにも事情を話せば何とかなるだろう。

・・・それに、子供化した華琳たちの問題もあるしな。

 

「お城ー!」

 

「お城を探検だー!」

 

「お姫様もいるのー?」

 

桃香に女子を、ライダーと多喜には男子を半分ほど担当してもらって、城へと向かう。

 

・・・

 

「・・・なんじゃそやつらは」

 

「お、祭だ。・・・ゆけっ、子供たち!」

 

祭を発見してすぐに子供たちをけしかける。

ノリの良い子供たちは俺の声に反応して祭へと突撃していく。

 

「わーい! いけいけー!」

 

「唐突に何をっ!? こら、ギルっ、説明せい!」

 

「ふははー、暇だろ、祭。子供の世話ぐらいしてもばちは当たらない」

 

「ひまだろー!」

 

「ひまなんだろー!」

 

「ぬぬう、こら、引っ付くなっ」

 

祭はまとわりつく子供たちを鬱陶しげにしながらも、あまり乱暴に扱わない。

まぁ、祭は妙に面倒見がいいからな。子供たちを任せても大丈夫だろう。

幸い中庭は広い。子供たちが走り回ろうと、ある程度は大丈夫だ。

 

「おーい、曹操、一刀ー!」

 

「呼んだかしら、ギル」

 

「よんだかー?」

 

二人が近づいてきて俺を見上げる。

 

「ああ、呼んだ。この薬を」

 

「何を騒いでいる!」

 

飲んでくれないか、と続けようとしたそのとき、声が響いた。

・・・この声は・・・。

 

「春蘭かっ!」

 

「そうだ! 私だ! ・・・それで、なぜ城に子供がいるのだ!」

 

腕組みをして仁王立ちの春蘭は、隣に秋蘭を連れて階段の上からこちらを見下ろしている。

まずい。このまま春蘭が暴走すると、確実に面倒くさいことに・・・! 

 

「まて、春蘭! これは説明すると長く・・・」

 

「あら? 春蘭じゃない」

 

「なんだきさ・・・か、華琳様っ!?」

 

俺が事情を説明しようとしたとき、再び話しをさえぎられた。

・・・なんで小さくなった華琳のことを・・・って、そうか。小さい頃から一緒だったんだっけ、あの三人。

 

「華琳様が小さく・・・なるほど、先日の薬の所為か?」

 

春蘭の隣に立っていた秋蘭が、冷静に推理する。

 

「ふふ、秋蘭たちが大きくなると、こんな風になるのね。・・・面白いわ。ちょっと、私の部下は他にもいるのよね?」

 

「え? え、ええ」

 

「なら、その子たちを見に行きましょう。ついてきなさい、春蘭、秋蘭」

 

そう言って城の中へと向かう華琳。

 

「待てかり・・・」

 

「ギルお兄ちゃん、いっちゃだめー!」

 

慌てて三人を追いかけようとしたら、璃々に止められた。

 

「ちょ、璃々! あの三人を止めないと・・・」

 

「だめなのー! 今日は璃々と遊ぶの!」

 

「く・・・なら、一刀だけでも・・・っていねえ!?」

 

一刀だけでも元に戻せば、華琳のストッパーにできるかもしれない、と思って振り返ると、そこには誰もいなかった。

近くにいた少年たちを捕まえて一刀を知らないか、と聞くと

 

「一刀ならあっちに行ったよー?」

 

少年の一人がそういいながら訓練場へ続く道を指差す。

・・・ああもう! 一刀って意外とマイペースなんだな・・・。

 

「璃々、おんぶと肩車、どっちが良い?」

 

「んーとね、かたぐるま!」

 

「よっしゃ!」

 

璃々がどうしても離してくれそうにないので、いっそのこと連れて行くことにする。

肩の上に璃々を乗せ、桃香と祭、そしてライダーと多喜に子供たちを任せて走り出す。

・・・騒ぎだけは起こしてくれるなよ・・・! 

 

・・・

 

北郷一刀は初めて見る城に興奮していた。

 

「おー! 剣だ!」

 

「あん? ・・・おいセイバー、子供が迷い込んでる」

 

「ほう。これ、少年よ」

 

「ん? おおっ、兵士だ!」

 

呼び止められた一刀は、セイバーと銀を見て感動したような表情を見せる。

 

「見たところ一人のようだが・・・迷子か?」

 

「迷子じゃないよ! 探検してるんだ!」

 

「探検って・・・しゃーねー、ギルあたりに預けるか。あいつなら子供の扱い上手いだろ」

 

ため息をつきつつセイバーに提案する銀。

セイバーもそのほうがいいと思ったのか、首肯を返す。

 

「そうするか。・・・少年、名を何と言う?」

 

「俺の名前はかずと!」

 

「かずと? ・・・おいおい、セイバー、こいつ・・・天の御遣いじゃないか?」

 

「なるほど、若返りの薬か。昨日の騒ぎのことは聞いていたが・・・本当にあるとはな」

 

「ギルも多分探してるだろうし、連れてってやろうぜ」

 

「そうしようか。ほら、北郷。ギルのところへ連れて行ってやろう」

 

そう言ってセイバーが一刀の手を引く。

一刀は特に抵抗することなく連れられ、訓練場から出て行く。

 

「マスター、おぬしは他の兵士に声をかけてギルを探してもらってくれ」

 

「おう。悪いけど、そいつのお守りは頼んだ!」

 

そう言って銀は駆け出す。

さて、とセイバーは呟きながら、城内を歩き始める。

ある程度なら魔力をたどっていけるが、サーヴァントが七体いて、マスターもいる以上あまりあてにしないほうがいいだろう。

 

「キャスターならば、個別に嗅ぎ分けるくらいはできるのだろうが・・・。ま、無いものねだりだな」

 

「おー! おっちゃん、あれ剣だよな!」

 

「おっちゃん・・・。ん、ああ、確かに剣だが・・・北郷にはまだ早い」

 

「えー・・・」

 

セイバーの返答に、不満そうな声を漏らす一刀。

 

「良いか? 子供は剣を持つより親の手伝いをして・・・む?」

 

諭そうと口を開いたセイバーだが、いつの間にか一刀の気配がしないことに気づいた。

周りを見渡すが、どこにもその姿はない。

 

「しまった・・・!」

 

子供から目を離すなど、迂闊・・・! と呟きながら、通路を走り始めるセイバー。

必死の形相で城の通路を走るセイバーは、他の兵士たちに何か起こったのかと思わせるのに十分であった。

 

・・・

 

「一刀っ!」

 

「かずとーっ!」

 

訓練場へとたどり着き、声をかける。

・・・が、兵士たちがこちらを見るだけで一刀の姿は見えない。

 

「ここじゃないのか・・・?」

 

「あれ? ギル様じゃないですか。どうなさったんですか?」

 

「お前は・・・龍討伐のとき一緒だった、蜀の」

 

「お久しぶりです。どうやら北郷様を探しておられるようですが・・・」

 

「ああ。その、ややこしいんだが、子供になった一刀を探しててな」

 

俺の言葉に少し考え込んだ蜀のは、あ、と何かを思い出したような顔をして、口を開いた。

 

「子供・・・ああ、それなら、さっき銀と正刃が黒髪の少年を連れてどこかへ行きましたが・・・」

 

いきなり有力な手がかりが見つかった。

少し焦りながら蜀のを問い詰める。

 

「どっちに向かった!?」

 

「どっち、といわれると分かりませんが・・・政務室と厨房のある方向へと行きました」

 

訓練場から出て少し行くと、分かれ道がある。

確かそのまままっすぐ行くと厨房で、右に曲がると政務室へと続く階段があるはずだ。

おそらく蜀のは分かれ道までは見ていたが、それ以降は見ていなかった、ということだろう。

 

「・・・俺を探してくれているなら政務室にいった可能性が高い、か」

 

少年一刀がお腹が減ったと言い出したら、セイバーの性格上厨房に行く可能性もある。

・・・どうする。選択を間違えればかなりの時間ロスになる。

 

「政務室だ!」

 

分かれ道を右に曲がり、階段へと走る。

確か政務室には今・・・愛紗と紫苑がいるはず。

紫苑なら子供の扱いもなれたものだろうから、足止めしてくれていることを願おう。

 

・・・

 

北郷一刀は剣につられてセイバーから離れ、再び迷子となっていた。

 

「あれ? おっちゃんがはぐれた」

 

高い場所にあるので取れなかったが、本物の剣を見られたという満足感を覚えながら、一刀は鼻をひくひくとさせた。

 

「なんか良いにおいがする」

 

匂いのする方へと歩くと、厨房へとたどり着く。

厨房のすぐそばには食堂があり、当番を終えた兵士たちが早めの昼食を取っていた。

 

「おー・・・うまそー」

 

食堂へと足を踏み入れた一刀は、すぐそばで食事をしていた兵士の近くへと歩み寄る。

 

「ん? ・・・兄者、子供がいるぞ」

 

「なんだと? ・・・弟者、この少年、どこかで見たことがあるな」

 

「むむ・・・いや、兄者。俺は見覚えがないな」

 

「そうか・・・ならば、多分俺の勘違いだろう。少年、腹が減ったのか?」

 

金色の鎧を着た兵士が、一刀に優しく声をかける。

その声に一刀が首肯すると、兄者、と呼ばれたほうが新しく定食を持ってきて一刀の目の前に置いた。

 

「少年よ、たくさん食べるといい」

 

「おー! ありがと! いただきまーっす!」

 

「なんとも旨そうに食べる少年だ」

 

一刀が食事を取り終わり、少し落ち着いた頃。

弟者と呼ばれた兵士が口を開いた。

 

「それで・・・少年よ。少年は迷子か?」

 

「迷子じゃないよ。お城の中を探検してるんだ!」

 

「ふむ・・・なるほど、迷子だな」

 

「そうなのか、兄者!?」

 

ぼそぼそと小声で会話する二人。

 

「ああ。子供が一人で城の中に入れるはずがないだろう」

 

「確かに・・・ならば、兵士として少年を親の元へ届けねば!」

 

「ああ! よし、少年よ。取りあえず城の外まで送ろう」

 

「えー。まだ城の上のほうとか行ってないんだけど」

 

「むむ・・・ならば、城の中を案内しよう。・・・弟者、その間に他の兵たちに連絡しておいてくれ」

 

「うむ、了解した、兄者。・・・それでは少年、兄者の言うことを良く聞くのだぞ」

 

「分かった!」

 

元気に答えた一刀と共に立ち上がり、兄者と呼ばれた兵士は通路を歩き始める。

 

「さて・・・まずはいろいろと聞きながら歩いていったほうがいいだろうな」

 

どこかの兵士の息子、と言うこともありえるし、と続けながら歩き始めた兵士に、一刀は素直についていっている。

食事を貰ったからか、なついたらしい。

これではぐれる事はないだろう、と安心して歩く兵士。

その後ろでは、興味深そうに周りを見渡しながら、落ち着かない様子の一刀が歩いていた。

 

・・・

 

「いねえ!」

 

「・・・どうしたのですか、ギル殿」

 

「あ、おかーさんだー!」

 

「璃々? ・・・ギルさん、なにやら急いでいらっしゃるようですけど・・・どうなさいました?」

 

「いや、ここに子供が来なかったか? 黒髪の男の子なんだが」

 

「うーん・・・ここには、私たち以外にはねねしか来ていませんが」

 

その子供がどうかしたのですか? と愛紗は首をかしげながら聞いてくる。

 

「いや、来てないならいいんだ。邪魔したな」

 

そう言って部屋を後にする。

厨房のほうだったか・・・! 

 

・・・

 

部屋から飛び出していったギル。

その後ろ姿を見ていた愛紗は、うぅん、と唸りながら口を開く。

 

「・・・ギル殿、何か焦っていらっしゃるようだったが・・・」

 

「そうねえ。・・・そうだ。愛紗ちゃん、ギルさんのこと、手伝ってあげたら?」

 

「だが、まだ仕事が・・・」

 

突然の紫苑の提案に、渋る様子を見せる愛紗。

あと少しとはいえ仕事が残っている以上、一人だけこの場を去るわけには行かない。

 

「これくらいなら、私一人でも何とかなるわ。それに、もう少しで詠ちゃんも来るし」

 

「し、しかし・・・」

 

「いいのよ。こういうときに良い印象を与えておかなきゃ、何時までたっても進展しないわよ?」

 

「なっ・・・! そ、その、私はギル殿のことをそんな風には・・・!」

 

さらに続く紫苑の言葉に、愛紗は顔を赤くして反論する。

だが、紫苑は年上の余裕でそれを受け流し、柔らかい笑みを浮かべて口を開く。

 

「うふふ。隠さなくてもいいのに。ほら、早くおいきなさい。早くしないと、他の娘に取られちゃうかもしれないわよ?」

 

「~っ! す、すまん! 後は任せる!」

 

「ええ。行ってらっしゃい」

 

ようやく折れた愛紗が部屋を飛び出していくのを見送った紫苑は、柔らかい笑みのまま書類を手に取る。

 

「それにしても、璃々はギルさんに懐いていたわねぇ・・・。そろそろ、璃々もお父さんが欲しい頃かしら?」

 

・・・

 

頭上の璃々のはしゃぐ声を聞きながら、城の通路を疾走する。

兵士たちがぎょっとした顔をして道を開けてくれるのに心の中で感謝しつつ、厨房へ向かう。

 

「一刀!」

 

「かーずとーっ!」

 

訓練場と同じように、兵士たちの視線が俺と璃々に集中する。

近くにいた兵士を捕まえ、黒髪の少年が来なかったか聞いてみると、なんと袁紹の所の兵士が連れて行ったという。

タイミングの悪い・・・! 

 

「ありがとう! 璃々、掴まってろよ・・・!」

 

「はーいっ!」

 

璃々の足をしっかりと掴んで、廊下を走る。

 

「へぅ・・・!? ぎ、ギルさん・・・!?」

 

「おっとと・・・! 月か」

 

曲がり角へ差し掛かったとき、月とぶつかりかけた。

ぺたん、と尻餅をついた月に手を差し出し、立たせる。

 

「どうなさったんですか? お急ぎのようでしたが・・・」

 

「えーっとだな・・・すまん、後で絶対に話すから!」

 

「えっ!? あ、ぎ、ギルさんっ!?」

 

「じゃーねー! 月おねーちゃーん!」

 

「え・・・えぇぇ~?」

 

背後で月の戸惑う声が聞こえたが、今は気にしないことにする。

すまん、月。後でちゃんと説明するから・・・! 

 

・・・

 

「・・・な、なんだったんでしょう・・・?」

 

ギルが通り過ぎた後。

月は後で話してくれると言っていたし、今は仕事に集中しなければ、と自分を納得させ、再び通路を歩き始める。

璃々ちゃんを肩車して、あれだけ急いでいたのだから、また何か厄介ごとに巻き込まれてるのかなぁ、と心配しながら歩いていると、前方から人影が迫ってくるのに気づいた。

 

「あれ? 愛紗さん」

 

「む? ああ、月か。・・・その、ギル殿を見なかったか?」

 

愛紗は月を見て立ち止まると、少し気まずそうにギルの行方を尋ねた。

 

「ギルさんですか? それなら、この道をまっすぐ走っていかれましたが・・・」

 

「そ、そうか! ありがとう!」

 

「いえ。・・・あの、どうかしたんですか?」

 

「あ・・・。その、だな」

 

再び走り出そうとした愛紗が、顔を曇らせながら動きを止める。

何か言いにくい事があるような表情をしているのを見て、月は何か事情があるのだろうとあたりをつける。

 

「いえ、やっぱりいいです。・・・大体、分かりましたから」

 

「そ、そうか? ・・・すまないな、月」

 

それでは、失礼する、と月に告げて、再び走り始める愛紗。

 

「・・・急いでたみたいだし、多分ああいう訓練なんだろうなぁ。足止めしちゃって、悪いことしたかも」

 

自分は訓練に参加しないから分からないけど、城内を逃げる犯人を追いかける訓練のような物かな、と自分の中で結論付ける。

そして、走り去る愛紗の背中を見ながら、月は一人気合を入れなおしていた。

 

「それにしても・・・」

 

一方、走る愛紗は、先ほどの月の発言を聞いて感心していた。

 

「私の顔を見ただけで、私がギル殿をお慕いしていることがわかるとは・・・流石は、ギル殿の主にして恋人だな」

 

自分で放った言葉に自分で照れながら、よし、と気合を入れなおす愛紗。

 

「今日、ギル殿に想いを伝えよう・・・!」

 

些細なすれ違いから盛大な勘違いをしつつ、愛紗は城内を疾走する。

 

・・・

 

「おー!」

 

「どうだ、少年。城壁から見る街は素晴らしいだろう」

 

「うんっ。凄い高い!」

 

兄者と呼ばれる兵士に連れられ、一刀は城壁に来ていた。

一刀が城壁からの景色に感動していると、弟者と呼ばれた兵士がやってきた。

 

「弟者! どうだ、兵士たちから情報は得られたか?」

 

「すまない、兄者。どうも兵士たちの子供ではないようだ。情報が全然集まらん」

 

「ならば・・・やはり、街まで連れて行ったほうがいいのだろうか」

 

「そうするべ・・・」

 

「あら? あなたたち、何をしてるんですの?」

 

そうするべき、と続けようとしたそのとき、その背後から甲高い声が聞こえてくる。

 

「・・・兄者、凄くいやな予感がするのだが」

 

「ああ、弟者。ろくなことにならない予感がひしひしと・・・」

 

「おー! すっげ! 金髪ドリル!」

 

「んん? ・・・子供じゃありませんの。あなたたちの子供でして?」

 

「あ、もしかしたらこの子、さっき兵士さんに聞いた迷子じゃないですか?」

 

甲高い声の主・・・麗羽が一刀を見つけると、興味深そうにじろじろと眺め始める。

そして、その背後に侍る斗詩が少年を見て思い出したようにそう呟いた。

 

「迷子? ・・・そうですわね、暇ですし、私が親探しを手伝ってあげても良くてよ!」

 

「・・・どうするんだ、兄者。袁紹様がかかわるとろくなことにならない気が・・・」

 

「少年には悪いが、ここは離脱したほうがよさそうだ」

 

そう言ってこそこそと離れていく兵士。

それに気づくことなく、麗羽は少年を質問攻めにしていた。

 

「それで? あなたの名前を教えなさい」

 

「俺? 俺はかずと! よろしくな、ドリルおばさん!」

 

「おばっ・・・! く、こ、子供の言うことですわね・・・!」

 

「ははは! 麗羽様、言われちゃいましたねぇ」

 

「お黙り猪々子さん! ・・・取りあえず、兵士の子供ではないようですし、街まで連れて行けば何とかなるでしょう」

 

「あれ、兵士さんたちはどこに・・・あ! 待ってくださいよ、麗羽様ー!」

 

「ほらほらー! 早く来ないと置いてくぜ、斗詩ー!」

 

「あーん、もう、置いてかないでよー」

 

半分泣きそうになりながら小走りに二人に追いつこうとする斗詩の頭からは、兵士のことなどすっぽ抜けていた。

 

・・・

 

「く・・・! 常に一手遅れてるな・・・」

 

「いって、ってなーに?」

 

「えーっと、先を越されるってこと」

 

「ほほーっ」

 

頭上で得心している璃々をあやしながら、俺は城壁の上で考え込んでいた。

先ほど城壁の見張りをしている兵士から聞いた話では、一刀は袁紹のところの兵士から、麗羽たち袁紹軍の三人に連れて行かれたらしい。

あの三人・・・特に、麗羽が絡んだ場合はやばい。多分兵士二人は逃げ出したのだろう。正しい判断だ。後で拳骨してやろう。

 

「幸いここは見晴らしがいい。あの派手な金髪ドリルなら千里眼で・・・!」

 

目に魔力を集中させると、遠くの町並みの細部まで見ることができる様になる。

城壁の上を歩きながら町を見渡していると、大通りの飯店近くに輝く金髪が見えた。

 

「あそこか!」

 

きゃっきゃとはしゃぐ璃々を落とさないようにしながら、街へと飛び出した。

 

・・・

 

「まてえええええええ!」

 

「なっ!?」

 

城門から街に出ようとした瞬間、横合いから叫び声と共に斬撃が襲ってきた。

慌てて肩に乗る璃々を抱えるようにして反対側に飛び込む。

 

「くっ・・・春蘭!? なんだ、いきなり!」

 

「はっはー! とぼけても無駄だ! 今日は何でも、見つけた英霊と戦って良い日と聞くじゃないか! ならば、いまだ決着のついていない貴様を襲うのは当然だろう!」

 

・・・やばいぞ、何を言っているのか分からない・・・! 

いつも春蘭の思考回路は理解できないが、今日は輪をかけて理解できない! 

なんだその「見つけた英霊と戦って良い日」って! 

 

「ちっ・・・華琳と秋蘭はどこに・・・って、すでに観戦モードに入ってる・・・!」

 

どこから持ってきたのか饅頭と共に観戦する気満々で木陰に座る二人を発見したので、璃々を避難させる。

さすがに璃々を肩車しながら戦える相手じゃない。

 

「行くぞ! ギルっ!」

 

「ああもう! 来るならこい!」

 

エアを抜き出し、回転させる。

手加減とか言ってる場合じゃない。最速で無力化させて、華琳を元に戻す! 

一刀はそれからだ! 

 

「てやぁぁぁぁ! 死ねええええ!」

 

「死ねぇぇ!?」

 

殺す気で来てるよこの娘! 

上段から襲い来る七星餓狼をエアで弾く。

その隙を逃さずに一歩踏み出し、左手で拳を作って春蘭に叩き込む。

 

「が・・・ふっ・・・!」

 

「・・・まさか」

 

左手を突き出した格好で少し固まる。

春蘭は拳が当たる直前、身体を後ろに引いて威力を弱めた・・・と言うか、ほとんど受け流した。

少し呼吸を乱したが、それ以上のダメージはないだろう。

おいおい、恋はともかく、春蘭も英霊に食いつく化け物か。

天の鎖(エルキドゥ)は・・・速度的に無理だろうな。

 

「なかなかやるではないか! 楽しいぞ、ギル!」

 

再び上段から振り下ろされる七星餓狼をエアで受け止める。

回転する刀身が七星餓狼とぶつかり合って火花を散らす。

後で怒られるのを覚悟で七星餓狼を折ろうと力を籠めると、右下から膝蹴りが跳んできた。

 

「ちっ・・・!」

 

ダメージはないが、衝撃がわき腹に走り、エアに籠めた力が霧散する。

つばぜり合いの状態から脱した春蘭は、返す刀で俺の左わき腹に向けて切り上げる。

 

「せやああああああ!」

 

「はあっ!」

 

左手を刀身に叩きつけて軌道をずらす。

切り上げた体勢で隙だらけの春蘭に当て身をしようと手刀を振るう。

 

「甘いっ!」

 

「ぐっ・・・!?」

 

だが、春蘭からの頭突きを食らい、手刀の狙いは狂い、春蘭の右肩に当たる。

一瞬の空白の後、二人とも手元に引き戻した剣を振るう。

甲高い音を立ててお互いの武器がぶつかり合う。

春蘭の野生的勘がここまでのものとは思っていなかったな・・・! 

お互いに一歩ずつ離れた後、春蘭がこちらに突っ込んでくる。

 

「はあああああああああああああああ!」

 

それを受け止めようとエアを構えたそのとき・・・俺の目の前に、黒い影が割り込んできた。

その黒い影は春蘭の七星餓狼を受け止め、弾いた。

 

「貴様・・・!」

 

「愛紗・・・?」

 

「はい、ギル殿。助太刀に参りました」

 

「助かる。・・・どうも何か勘違いされているようでな」

 

「ええ、最初は割り込むつもりなどなかったのですが、どうも様子が違うようでしたので」

 

青龍偃月刀を構えた愛紗が、こちらに背を向けたままそう説明してくれた。

礼を言ってこの場から離脱しようとしたとき、今度は城門のほうから小さい影が突撃してくる。

 

「にゃにゃーっ! お兄ちゃん発見なのだー! 覚悟するのだー!」

 

「鈴々っ!? ・・・まさか、鈴々もあの間違った噂を聞いて・・・!?」

 

一瞬考え込んだ間に、鈴々の丈八蛇矛が振り下ろされていた。

 

「く・・・! 開け!」

 

宝物庫を開き、宝具の頭だけを出して鈴々の攻撃を防ぐ。

くそ、これは不味いぞ・・・! 

 

「あーっ、見つけたよ、お姉さまっ!」

 

「ホントかっ!? ギル、行くぞぉっ!」

 

「翠っ!? 蒲公英も!」

 

不味い! これは昨日と同じことになる流れか・・・! 

しかも、最悪な方向に強力になってるし! 

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

蒲公英の背後に宝物庫の入り口を展開して、鎖で絡め取る。

 

「ふわっ!? ちょ、ずるくない!?」

 

「ずるくない! 後で何かおごるからそこで黙ってろ!」

 

「・・・なら、いいかな。ごめんねー、お姉さまー」

 

「ちっ、蒲公英が脱落か。・・・鈴々、本気で行くぞ」

 

「おうなのだ! お兄ちゃんはとっても強くなったから、本気で行くのだ!」

 

宝物庫から原罪(メロダック)を取り出して備える。

 

「ギル殿! ・・・こら、鈴々! 翠! ギル殿に迷惑を・・・っく!」

 

こちらに声をかけようとした愛紗だが、襲い来る春蘭の攻撃を受けてそれど頃ではなくなってしまったようだ。

 

「余所見をするなど、余裕だな、愛紗ぁ!」

 

「く、はああああ!」

 

・・・愛紗は春蘭の相手でいっぱいいっぱいのようだし、この二人は俺一人で何とかしないといけない、か。

二人を迎撃しようと剣を構えた瞬間、風を切る音が聞こえた。

 

「これは・・・恋か!」

 

必中無弓(ゆみ、きそうかちなし)の矢が飛んでくるのを察知して、その場から離れる。

着弾した矢は光の粒子となって消え、恋の手元へ戻っていく。

 

「・・・鈴々、翠。・・・ギルは、恋が倒す。引っ込んでて」

 

「にゃにゃ! 鈴々が先に見つけたのだ!」

 

「後から来たんだから、偉そうにするなよ!」

 

「・・・なら、三人でやる。文句ない?」

 

「にゃにゃっ。それならいいのだ!」

 

「よっしゃ! 行くぜ、鈴々、恋!」

 

「・・・行く」

 

どんどん状況が悪くなっていく・・・! 

恋が参加したのは辛いな。宝具を持つ恋は、唯一俺に攻撃を通すことができるし・・・。

 

「・・・ぉぉぉぉぉぉおお」

 

いざ、と武器を構えて間合いを計っている最中。

遠くから、雄たけびのような声が聞こえてきた。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおお」

 

だんだんと近くなるその雄たけびは、あの壁の向こうから聞こえるような気が・・・。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

突撃(ロース)! 突撃(ロース)! ・・・あーっ、やっぱり、ギルだー! 何してるの? シャオも混ぜてー!」

 

「シャオ!? それに・・・バーサーカー!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「・・・じゃま、するな」

 

「ふーん、そういうこと。・・・やっちゃえバーサーカー! ギルと遊ぶのを邪魔する悪い子に、お仕置きよっ!」

 

シャオが命令すると、バーサーカーは鈴々たち三人に突っ込んで行った。

・・・殺さないよな? 取りあえずシャオには手加減するように注意して、今度こそ街へと向かう。

他のサーヴァントたちに迷惑が掛かってなきゃいいんだけど・・・。

 

・・・

 

街で一刀を探し回る。

璃々はさっきのごたごたで華琳に預けたので、行動に制限がなくなった。

華琳はともかく、秋蘭なら子供二人を守るくらい簡単だろう。

 

「おーっほっほ!」

 

「おーっほっほー」

 

城壁の上から麗羽を見つけたあたりを歩いていると、高笑いが聞こえてくる。

・・・妙に棒読みな笑い声も聞こえてくるが、それはスルーする。

 

「見つけた。・・・って、何やってんだ、あれ・・・」

 

高笑いする麗羽と一刀。そのそばには、大笑いしている猪々子とおろおろしてる斗詩がいた。

・・・あ、斗詩が俺に気づいた。凄く逃げたいが、涙目でこちらに走り寄ってくる斗詩を置いていくわけにも行くまい。

 

「ギルさぁ~ん! 助けてくださいっ。もう無理です! 麗羽様に子供を与えてはいけなかったんです!」

 

「落ち着け、斗詩。何があったんだ?」

 

「それは・・・」

 

かくかくしかじか、と説明された内容を要約すると、子供を見つけた麗羽が親を見つけてやると兵士から引き継ぐ。

そして、街へ出てしばらくすると、何をトチ狂ったのか袁家の作法を教えて差し上げますわ! と一刀に高笑いを教え始める。

妙に乗り気の一刀と、ヒートアップする麗羽。そばで大笑いする猪々子。集まる野次馬。

そんな中で止めようと頑張っていた斗詩だったが、もうどうにもとまらない三人におろおろするしかない状況だった。

そして、俺を見つけて今に至る、と。

 

「・・・お疲れ、斗詩」

 

「うぅ、そう言ってくれるのはギルさんくらいです・・・」

 

っていうか、麗羽って意外と子供好きなんだな・・・。

やっぱり精神年齢が近いからだろうか。

 

「取りあえず、一刀を回収しないとな」

 

「へっ? 一刀って・・・天の御使いのですか!? あの子が!?」

 

「ああ。・・・その、俺の持ってた薬を間違って飲んだらしくてな。ああなっちゃったんだ」

 

「うわぁ・・・お疲れ様です」

 

「ありがとう。さて、一刀を回収するかな」

 

その後、麗羽を正気に戻し、一刀を城へと連れ戻した。

麗羽は最後までぶつぶつ言っていたが、根気良く説得すると「まぁ、ここはギルさんの顔を立ててあげますわ!」と引き下がってくれた。

凄く申し訳なさそうにしていた斗詩の顔が印象的だった。・・・今度、斗詩には何か疲れの取れるものを送っておこう。

 

「ほら、一刀。これを飲んでくれ」

 

「何これ? すげえ緑色だけど。メロンソーダ?」

 

「ああ。ほら、歩き回って喉が渇いただろ?」

 

「うんっ。ありがと、ギル!」

 

そう言ってぐびぐびと薬に口をつける一刀。

味は魔術でごまかしているので、最後まで飲んでくれるだろう。

 

「ぷはーっ! これ、あんまり味が・・・ん、あれ、あれれれれれ・・・?」

 

光に包まれた一刀が、一瞬で元の姿に戻る。

 

「あ、あれ? ・・・俺、何でこんなところに・・・?」

 

「ようやく一人か・・・」

 

それから、一刀に事情を説明しつつ華琳の元へ急ぐ。

いまだに剣戟の音と雄たけびが聞こえるので、多分まだあそこにいるんだろう。

 

・・・

 

「秋蘭、薬を!」

 

「む? ギル。・・・それに、北郷も」

 

「あっ、ギルお兄ちゃん! もー! どこ行ってたのー!?」

 

「すまんな、璃々。・・・さて、これを飲んでくれるか?」

 

そう言って俺は華琳に薬を差し出す。

華琳は訝しげにその薬瓶を見つめ、口を開く。

 

「そんな怪しげなもの飲めないわ」

 

そっぽを向いてしまった華琳にどうしようかという思いを籠めて一刀を見る。

一刀はゆっくりを首を横に振った。・・・どうしようもない、ってか。

 

「あらあら、なんだか大騒ぎね」

 

「紫苑。仕事は大丈夫なのか?」

 

打つ手無しか、と思ったそのとき、紫苑が背後から声をかけてきた。

 

「ええ、すべて終わらせて屋敷へと向かおうとしたらこの大騒ぎですもの。気になっちゃって」

 

「・・・そうだ」

 

紫苑といえば子供の扱いはなれたものだろう。

璃々っていう娘もいるんだしな。

なら、子供と化した華琳に薬を飲ませるための知恵を貸してくれるかもしれない。

 

「紫苑、頼みがあるんだけど・・・」

 

「そのお薬を、華琳ちゃんに飲ませたいのかしら?」

 

俺が口を開くと、紫苑は小声でそう囁いた。

今の状況を見て判断したのだろう。流石は紫苑、鋭いな。

 

「ああ、頼めるか?」

 

「ええ、こういうのは慣れているから。それ、貸してもらえるかしら」

 

そう言って手を差し出した紫苑に、瓶を渡す。

受け取った紫苑はにこりと笑うと、華琳に近づいていく。

 

「・・・大丈夫なのだろうな、ギル」

 

「大丈夫だって。紫苑は優しいからな。きっと上手く飲ませてあげられるさ」

 

心配そうな秋蘭をなだめながら、俺たち三人は紫苑と華琳に注目する。

 

「はーい、このお薬を飲みましょうねー」

 

「ふん、だからそんな怪しい薬は・・・って、ちょっ、何を、もがっ!」

 

優しいのは笑顔だけだった。

紫苑はそっぽを向く華琳を押さえつけ、口を強制的に開けさせ、瓶をねじ込んだ。

そのまま瓶を傾けて中身を流し込み、有無を言わせぬプレッシャーを掛けて薬を飲み込ませる。

・・・こんなに怖い紫苑は、年齢のことを聞いたとき以来だ・・・。

 

「・・・うわぁ」

 

「紫苑は・・・なんだったかな、ギル」

 

「ね、根は優しいんだぜ?」

 

「・・・ふっ」

 

何かを諦めたような笑みを浮かべた秋蘭が、華琳の元へと向かう。

それと入れ違いになるように空の瓶を持った紫苑がこちらへと近づいてくる。

一刀がひぃっ、と短い悲鳴をあげた気がするが、無視することに。

 

「はい、ギルさん。きちんと全部飲ませましたよ」

 

先ほどと変らぬ優しい笑みを浮かべながら、俺に空の瓶を手渡してくる紫苑。

それを宝物庫にしまいながら、ははは、と乾いた笑いを返す。

 

「た、助かったよ、紫苑」

 

「いえ、ギルさんのお役に立てたのなら、嬉しいわ」

 

「でも、その・・・ちょっと強制的過ぎなかったか?」

 

「ふふ、何のことかしら?」

 

あ、やべ、これ以上突っ込んだら俺も不味いことになるな。

 

「・・・いや、なんでもない。今度何かお礼させてくれ」

 

「分かりました。楽しみにしていますね」

 

それでは、と去っていった紫苑を見送り、華琳に視線を戻す。

 

「けほっ、けほっ。・・・何かしら、口に妙な苦味が残っているわね・・・」

 

「華琳さま、水です」

 

「ありがとう、秋蘭。・・・んく、んく」

 

水を飲んだ華琳は、きょろきょろと周りを見渡す。

疲れた様子を見せる俺に、体育座りになってぶつぶつと何かを呟く一刀。

そして少し離れたところでは武将とサーヴァントが入り混じって大混戦となっている。

 

「・・・私が気を失っていた間に、何が起こったの・・・?」

 

首を傾げる華琳を見て、俺は苦笑を返すしかなかった。

 

・・・

 

あの「見つけたサーヴァントと戦っても良い」という噂が流れたのは、走り回っていた俺たちが原因だったらしい。

城内を必死の形相で全力疾走するセイバー、そして愛紗に追いかけられる俺。

それらを見ていた兵士が、ああやって英霊に追いついて戦う訓練なんだ、と推測で話をしていたところ、子供化した華琳たちがそれを偶然聞いた。

そして、英霊に興味を持った華琳が春蘭にサーヴァント討伐を命令し、それを言いふらしながら走った春蘭によって鈴々たちにそのことが知れ渡った、と言うことらしい。

 

「・・・はぁ」

 

秋蘭から聞いた話を頭の中で反芻していると、キャスターの部屋に到着した。

取りあえず、疲労回復の薬と若返りの薬を交換し、若返りの薬は宝物庫へ。

これらの薬は何故か使ったそばから宝物庫の中で復活するので、捨てようが何しようが無駄なのだ。

・・・あ、そういえば桃香に買った髪飾り、渡すの忘れてた。

 

「いや、明日にしよう。今日はもう・・・いろんな意味で無理だ」

 

数日分の騒動を濃縮したような数時間のせいで、疲れがやばい。

 

「こんなときこそ、疲労回復の妙薬か。・・・ごく」

 

薬を飲み干した瞬間、身体が軽くなったような感覚がする。

 

「あー、これはいいな」

 

若干の感動を覚えつつ自室に戻る。

・・・ん? 部屋の前に人影が・・・。

 

「あ、お、おかえりなさいませ・・・!」

 

「・・・あれ? 愛紗? ・・・どうしたんだ?」

 

「え、ええと、その・・・ですね・・・」

 

愛紗に声をかけてみると、いつもの愛紗とは違い、なにやらもじもじとしている。

・・・あれ、結構前にもこんな空気が・・・ま、まさかな。

 

「・・・取りあえず、俺に用なんだろ? 立ち話もなんだし、部屋に入ろうよ」

 

「あ・・・は、はいっ」

 

妙に気合の入った返事を返す愛紗の声。

さらに疑惑が確信に変っていくのを感じながら、部屋に愛紗を招く。

 

「好きなところに座っていいよ。今お茶入れるから」

 

「ギル殿っ、お、お構いなく・・・!」

 

部屋においてある椅子に座った愛紗が、慌てた様子でそう言った。

 

「俺もお茶飲みたいから気にするなよ。一人分も二人分も一緒さ」

 

「すみません・・・。ありがとうございます」

 

苦笑しながらそう返して、顔を赤くして俯きっぱなしの愛紗の前にお茶を置く。

自分の分も卓において、愛紗の対面に座る。

 

「それで、俺に用事みたいだけど・・・何か、言いづらいことか?」

 

「い、言いづらいことではないのですが・・・その、心の準備が必要なことでして・・・」

 

・・・俺も鈍くはないつもりなのでこの先の流れが大体わかった。

かといって、もし外れていたらただのうぬぼれの強い奴になってしまうので愛紗の口から言葉が出てくるのを待つ。

 

「私は・・・その、ギル殿のことを・・・お、お慕いしております・・・!」

 

「・・・そっか」

 

予想通り、と言ってしまっては失礼か。

ある程度考えていたことだったので、驚きは少なかった。

・・・まぁ、俺が愛紗に好かれているなんて信じられない、と言う思いはあるが。

 

「・・・嬉しいよ、ありがとう」

 

「っ、あ、ありがとうなんて、そんな・・・」

 

「いつもの凜としてる愛紗もいいけど、そうやって慌ててるのも可愛いよ」

 

「か、可愛いなどと・・・からかわないでくださいっ」

 

「はは、ごめんごめん」

 

そう言って淹れたお茶を一口。

目の前の愛紗は、ちらり、ちらりとこちらを見ている。

 

「・・・あ、そうだ。愛紗、ちょっとおいで」

 

「え? ・・・は、はい」

 

緊張した面持ちでこちらに近寄ってくる愛紗。

手と足が同時に出てしまっているうえに、顔が凄く強張っている。

 

「屈んでくれるか、愛紗」

 

「そ、そそそそんないきなり口でなんてそんな私にはまだ・・・」

 

混乱しながらも姿勢を低くしてくれた愛紗に手を伸ばす。

愛紗は少し身体を震わせたが、俺が頭を触ると少しずつ落ち着いた。

 

「あ、あの・・・ギル殿・・・?」

 

「ん、いやー、愛紗って美髪公って呼ばれるぐらい髪が綺麗だろ? ・・・前々からちょっと触ってみたかったんだよなー」

 

ポニーテールの部分や、前髪を思う存分弄り回す。

愛紗が俺に好意を持ってくれているとわかったからこそできる芸当だ。

 

「あ・・・そ、そういうことだったのですか・・・私はてっきり・・・あ」

 

口を滑らせた、と表情に思いっきり出している愛紗に笑いかけながら、俺は口を開く。

 

「・・・てっきり、何だって?」

 

「い、いえいえいえいえ! 何でもありません!」

 

愛紗は慌てて首を振りながら答えるが、かなり手遅れだ。

もう一度愛紗の頭に手を乗せ、だんだんと下に下ろしていく。

 

「・・・愛紗、目閉じて」

 

愛紗の頬に手を添えながらそういうと、愛紗はそっと目を閉じた。

座っている俺と姿勢を低くして立っている愛紗の顔は同じ高さだ。

少し顔を前に出すだけで、俺の唇が愛紗の唇に触れた。

 

「ん、ふ・・・」

 

しばらく柔らかさを堪能した後、一旦唇を離す。

その後、ほうけている愛紗を抱えて寝台に寝かせると、愛紗はようやく正気に戻った。

 

「ギル殿・・・私はこんなことをするのは初めてですので・・・や、優しくお願いします・・・」

 

「もちろん。・・・それじゃ、力抜いて」

 

ゆっくりと口付けながら、俺は愛紗に覆いかぶさる。

 

・・・




「全力疾走のギルの肩の上ではしゃぐ璃々ちゃん・・・」「将来有望だな」


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