魔法少女リリカルなのは~黒き迅雷の軌跡~   作: イナズマ

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はやての言葉に違和感。
おかしいかもしれないです……


第2話 機動六課

「さてと……やっと着いたか……」

 

 海風に吹かれながら目の前の建物を見上げる。さすがに新設された組織とあって建物はきれいであった。自分が所属する部隊とはえらい違いにげんなりする。まあ、部隊の規模が大きくなく、管理局本部におかれているから仕方のないことではあるのだろうけど。

 

「……結局、昨日のあれから準備やらなんやらで殆ど寝れなかったし……マリック局長、今度会った時覚えてろよ……」

 

 体調は万全とは言えず、目もちかちかする。模擬戦をやった暁には気を失ってしまうだろう。いや、やらないけど。

 これだけ独り言が多いと周囲の人から変人扱いされるだろう。だが、生憎あたりに人はいない。もっとも、彼がもう少しユーモアな男だったのなら、「誰もいないなんて、機動六課なのに機動してないじゃん」などと身も凍る冗句の一つもかましたのだろうか。

 ともあれ俺は一人、ゆっくりと機動六課へと足を進めて行った。

 

 

 

 

 コンコンと音をたてながら部屋のドアを叩く。

 

「は~い、開いてますよ」

 

「お邪魔します」

 

なまり、と言ったか。少し妙なイントネーションの入った声に違和感を覚えながらも、静かにドアを開け、部屋に入る。そこには、一人の茶色の髪の毛をした少女とも呼べそうな年頃の人がいた。データで見たように、やはり若い。自分と大差ない歳で部隊長をやるなど大したものだ。

 

「ん?見ない顔やね」

 

頭上にハテナが浮かぶその人の反応。そこから察するに、うまくコンタクトがとれていないらしい。不手際もいいところだ。

 

(局長とかゲンヤさん、俺の写真とか送って無いのかよ…)

 だが今は自己紹介が先だと、簡単な挨拶をする。

「今日から配属予定のライセンサー所属アーク・グライド一等空佐です。よろしくお願いします」

 

「ああ、君がナカジマ三等陸佐からの。初めまして。機動六課の部隊長の八神はやてです」

 

 二人はお互いに挨拶すると、突然後ろのドアが開いた。

 

「はやて、入るよ?」

 

 そう言って入って来たのは金髪の女性と栗色の長い髪の女性だった。 入るよと言っておきながらもう入って来てる!と思ったのは、言わずもがな。どれだけフリーダムな職場なんだ、ここは。

「あ、あれ?……フェイト、か?」

 

 入って来た二人の中には、見慣れた顔があった。金髪の方だ。事前に渡された機動六課のメンバーリストに名前が入っていたため、いつか顔を合わせるだろうとは思っていた。だが、六課に入ってからものの10分で会うとは思わなかった。

 

「ア、アークッ!?」

 

 フェイトの顔に一瞬驚愕の表情が浮かぶが、すぐにそれはいかにも怒っているというものに変わる。あ、やばい。と本能的に理解するが体と口が動いてくれなかった。無論、口は言い訳のために使う。 フェイトがヒールをカツカツと鳴らしながら近づいてくると、右手を上げてその頬をはたいた。部屋に響く良い音が鳴る。

 

「痛ッ!!」

 

 別に痛くはないのだが、反射的に口に出してしまう。何が起こったか分からないが、とりあえず叩かれたことは理解した。わかってんじゃん。

 

「アークなんて……最低よ!!」

 

 そう怒鳴って、フェイトは部屋を出ていってしまった。

 

「…………」

 

 他の二人は珍しい物を見たかの様な顔で出て行くフェイトを見送り、次に不思議そうな顔をしてこちらを見る。

 部屋は、非常に気まずい雰囲気となった。 初日から面倒事をやらかしてしまった。

 

「あ、えっと……その……なんや、仕切り直しちゅうわけやけど、自己紹介頼むわ」

 

 はやてが誰の為なのか、渡し舟をだす。これがなかったら、このまま流れ解散というような事態になりかねなかった。

 俺は一度咳払いをすると、まだ挨拶をしていなかった女性の方へと向き直る。

 

「今日から六課に配属されたライセンサー所属アーク・グライド一等空佐です。よろしくお願いします」

 

 デジャブを感じさせる自己紹介。これしかできないのだから文句を言われても困る。

 

「あ、初めまして。機動六課でスターズ分隊の隊長をしている高町なのはです」

 

 お互い挨拶を済ませたのもつかの間、はやてとなのは、二人して首を傾げ始める。

 

「ライセンサー?アーク・グライド?」

 

「ん?」

 

 ライセンサーという単語を聞きなれないのか、と思いもしたが自分の名前を出されるとそうではないらしい。

 だが、嫌な予感だけはする。なんか、こう、悪い噂されているみたいな。

 

「あ、黒き迅雷!」

 

「違います」

 

 即答。嫌な予感は正解だった。即答できたのは知り合いから散々いじられたからなのであるが。

 というか何故高町なのはがそれを知っているのか、疑問でならない。

 

「ああ、言われてみれば。黒い髪に同色のライセンサーの制服。噂の黒き迅雷やな。グッジョブや、なのはちゃん!」

 

 なにがグッジョブだ。

 

「にゃはは、たまたま覚えてたんだよ!その有名な黒き迅雷さんが来てくれるなんて心強いね」

 

「……そうだね」

 

 なんかもう駄目な気がした。フェイトにビンタされたうえ、痛い通り名でいじられるとかライフがもたん。

 

「冗談はさておき、機動六課は人材が足りてないのも事実。ゲンヤさんの人選に感謝しきれへん。新人もいるし、一切無駄が裂けない状況でオーバーSの魔導士が配属されたのは心強い。期待してるで、アークくん」

 

「それは、まぁ、八神部隊長のご期待にそえるよう頑張っていきますよ」

 

 表面上では、そういうことになっている。いや、実際ゲンヤさんだってそう思っている。だが、なぜか上層部の意向が絡んでいるのが疑問でならない。

 

「その八神部隊長っての、やめてくれへん?歳も同じでなのに」

 

 いや、あなた達がフレンドリーなだけでしょ、と突っ込まずにはいられないが、そこはこらえる。確かに、歳も同じなのだからそれには賛成できる。というかあちらさんはすでに名前で呼んでいるし。

「あ、そうだ。フォワードのみんなにも紹介しなきゃだから訓練所に行かない?」

 

 お互い挨拶もひと段落したところでなのはがひとつ提案をしてきた。

 

「そうだな……挨拶は早めに済ませて置いたほうがいいからな。そうしよう」

 

 はやてに一礼をし、なのはに連れられて訓練所に足を運ぶ。

 

 

 

 

 

「そういえばさ……言いたくなければいいんだけど……フェイトちゃんと何かあったのかな?」

 

 さりげなくなのはが聞いたそれは、至極答えづらい質問だった。しかし先ほどのこともあったので聞きたくなるのは当然で、答えられないと言うのもなんだ。

 

「えっと、まぁ……俺が約束をすっぽかしたんだ……言い訳じゃないけどさ、その日から長期任務が入っちゃって……それで……こんな感じ…………」

 

「にゃははは、だからか……。連絡とか埋め合わせはしなかったの?」

 

 ギクッ!!と、身体が見て分かる程大きく跳ねる。しかし気付いてか否か、なのははその事に何も言わない。マリックに機動六課のメンバーリストを見て、フェイトとの約束をすっぽかしたのを気づいたとは他人に言っていいことではないだろう。もちろん、言い訳は何通りか考えてはいたが、口が動かなかったのでは仕方がない。

 

「……連絡は、できなかったんだ。なんせ、いきなりだったからな……でも、埋め合わせはするつもり……」

 

 さすがにフェイトには悪いことをしたと思っていた。いくら任務だからといって、約束を破ったのは俺だ。謝罪と埋め合わせと、またビンタを食らうのは避けられないだろう。

 

「はぁ、初日から前途多難だ……」

 

 その言葉になのはは苦笑するばかりであった。


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