双星の雫   作:千両花火

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Act.82 「新時代の洗礼(後編)」

 模擬戦とはいえ、この緊張感は実戦さながらのように全身にのしかかる。

 楯無は静かに目の前の三機を見据えてランスを握る手に力を入れた。

 

 デモンストレーションも兼ねるためか、目の前の三機は学園に送られてきたセミパッケージ三種の装備だ。高機動型にレオン、近接型にリタ、そして砲撃型にシトリー。カタログスペックを見た限りではこれらはオーソドックスでありながらハイスペックな装備だ。基本に忠実、それでいて応用も利くという万能タイプ。前衛に近接、後衛に砲撃、そして遊撃に高機動とフォーメーションも基本的なものだ。

 しかし、基本というのはつまり一番性能を発揮できるということでもある。量産機に求められるものを最大限に発揮していると見るべきだろう。

 

 対する楯無たちの三機はどれこれも特殊装備を活かす戦いをする機体だ。いうなれば集団での連携よりも単機の戦力を活かすほうが強いという特性持ちだ。

 白式の零落白夜は下手をすれば味方すら巻き込むし、天照の神機日輪の過剰攻撃力も然り。ミステリアスレイディの水操作は応用力があるが、それでも連携向きというものではない。

 楯無たちが取るべき戦術は連携を分断して各個撃破となるだろう。しかし、それが一番難しいだろう。結局のところ出たとこ勝負となる場合が多くなると見ていた。

 

「簪ちゃんは後方援護、一夏くんは前衛をお願いできるかしら」

「わかった」

「わかりました」

「私は中距離から状況に応じてフォローに入るわ」

 

 現状ではそれくらいしかできないだろう。あとは状況に応じて対処するしかない。とにかく、今は目の前の三機の戦いから得られるものはなんでも得ることが求められるのだ。

 

 お手並み拝見しよう、と思った矢先に、――――――目の前にブレードが迫っていた。

 

 

 

「作戦は決まった? じゃ、さよなら」

 

 合図も待たずに突撃してきたリタが手にした高周波ブレード【プロキオン】を楯無に向けて振るっていた。

 

「ッ!?」

 

 それを水の防壁で咄嗟に防ぎながらバックブーストで距離を取る。いきなりの奇襲に面食らったが、そのリタの背後ではレオンとシトリーも攻撃体勢に入っていた。

 

「なっ、いきなり!?」

「実戦に合図なんてあるわけないだろ」

 

 一夏の抗議の声をレオンが一蹴する。

 事実、セプテントリオンの部隊訓練の際は終了の合図はあっても開始の合図なんて存在しない。だからリタの奇襲も、それを当然のように続くレオンもシトリーも至極当然の行動だった。

 そして楯無もそれに納得する。なるほど、確かに実戦を想定して作られた部隊だ。こういった心構えから違う。セプテントリオンの三人は、ISに競技なんてイメージは欠片も抱いていないのだろう。そんなリアリストのような姿勢が、今は見習うべきものなのだ。

 

「やるわよ二人とも!」

「判断が早い。さすが。だからまずあなたを斬ろうと思うけどいかが?」

 

 リタが獲物に狙いをつけたように執拗に楯無を追ってくる。一見すればスタンドプレーだが、その機動は後方からのシトリーの援護射撃の射線を一切遮っていない。リタの機動の隙間を縫うようにレーザー射撃が飛んでくる。やや遅れて戦闘態勢に入った簪と一夏がこれらの連携を分断しようと動くが、それをレオンが妨害する。高機動型の機動力を活かして二人を牽制し、一時的にではあるが楯無への援護を不可能にする。

 

 

(本気で取りに来てるわね……!)

 

 

 開戦早々に見せた鮮やかな連携に楯無も賞賛する。なるほど、奇襲から指揮官を狙って一時的に二対一に追い込む術が鮮やかだ。まるでアイズとセシリアのコンビを相手にしているようにあっとう言う間に劣勢に追い込まれていく。あの二人と比べればアイズのような理不尽なまでの直感はなく、セシリアほど精密な射撃ではないにせよ、その練度は恐ろしく高い。

 並の操縦者なら即斬られて終わっていただろう。

 

 だが――――更織楯無を取るには、まだ甘い。

 

 

「舐めすぎよ、お嬢さん」

 

 リタの斬撃に合わせて水を操作し、一瞬で絡め取る。その隙を逃さずガラ空きの胴体部へ蒼流旋を突き立てようと渾身の力で放つ。

 それを視認したリタは絡め取られた武器を手放し、即座に後方へ回避。ここで躊躇いなく武器を捨てることができる判断力は流石だが、一対一で楯無を破るにはまだ足りない。

 

「ちっ」

「それに、簪ちゃんと一夏くんを相手に一人は無謀なんじゃないかしら?」

 

 リタが目線だけで二人を抑えているレオンを見る。

 恐ろしい零落白夜の奔流ともいうべき変幻自在の攻撃を辛うじて回避しているが、その隙を突くように簪が狙撃で狙っている。楯無を速攻で倒そうとしたように、一夏と簪も速攻でレオンに狙いをつけたようだ。

 

「なるほど、いい判断」

「冷静ね? いくら最新鋭機とはいえ、量産型で抑えられるほどあの二人は弱くないわ」

 

 喋っている間も狙ってくるシトリーの狙撃を防ぎながら楯無も攻勢に転じようとする。確かに隙のない連携だが、それだけで倒せるほど更織楯無は甘くない。戦闘エリア内を少しずつ侵食させていた水を一斉に操作。リタの四方八方から襲いかかる。

 

「あ、やばいかも」

 

 それでもリタはぼんやりとした声を崩さない。焦る様子を見せないリタに訝しむが、構わずにリタを倒そうとけしかける。

 リタは後方へと離脱、だがそこも当然攻撃範囲内だ。しかし問題なくリタを捕らえられると思った矢先にリタの離脱コースの水が爆発により散らされる。後方から放たれたグレネードによる爆発だ。シトリーの援護でまんまと楯無の攻撃範囲から逃れたリタが新たにブレードを展開して大きく迂回するように回り込む。同時にシトリーも逆方向へと動く。どうやら今度は挟撃が狙いらしい。

 

「その程度……っ!?」

 

 しかし、急遽シトリーが銃口を一夏へと向ける。今の一夏はレオンを追撃して背を見せている状態だ。シトリーには気づいていない。いや、そうなるようにレオンに誘導されている。

 

「一夏くん、回避!」

「なにっ!?」

 

 背後から狙われていると気付いた一夏がぎょっとして振り返る。簪がフォローしようとするも、レオンから放たれたビームマシンガンの斉射を受けて援護が間に合わない。

 そして弾速の早いレールガン【フォーマルハウト】が放たれる。ビームやレーザー系統では零落白夜で対処されることを見越しての武器選択だ。

 あわてて回避しようと身をひねる一夏であったが、肩部アーマーにレールガンの直撃を受けて体勢を崩してしまう。さらに追撃をかけようとシトリーが狙いをつける。

 そして同じタイミングでレオンが継続して簪を牽制して足止め、楯無も背後に回り込んでいたリタが踏み込む隙を狙っていたために一夏の援護に向かえない。

 

 

―――――援護のタイミングを悉く潰されてる……! そしてあっちはアイコンタクトすらなしで援護できてるッ。

 

 

 楯無はチーム戦の恐ろしさを実感する。

 機体性能で見れば専用機であるこちらが上だ。だから一対一ならほぼ間違いなく勝てる。だが連携の練度はセプテントリオン側が遥かに上だ。

 楯無たちは行動を見て、そして援護が必要だと判断して動いている。しかしレオンたちは互いが互いの隙を潰し、有効打を作る技術が巧い。状況によって全員がアタッカーであり、デコイであり、セーフティでもある。状況に応じて最適な者が最適なポジションにシフトすることで楯無たちの戦況判断より早く次の行動へと移している。

 結果として楯無たちはいいように翻弄されてしまっている。確かにこのレベルの連携は一朝一夕では会得できないだろう。

 

「その程度じゃシャルは渡せないな」

 

 体勢を崩した一夏へ向けて容赦のない追撃が入る。

 レールガンによる三連バーストショット。一夏は気合と根性でそのうちの二つを回避するが、三つ目の弾が直撃。シールドエネルギーを大きく削って吹き飛ばされる。

 

「くそっ!?」

「右に注意」

「……ッ!?」

「ごめん、やっぱ左だった」

 

 口先で嫌がらせのようなフェイントを入れつつ、いつの間にか距離を詰めていたリタがトドメをさす心算で突撃してくる。まずいと思った楯無と簪が動こうとするも、やはりシフトチェンジしたレオンとシトリーによって援護行動を妨害されてしまう。

 結果、まんまとリタが一夏を間合いに捉えた。

 

「斬り捨て、許してね」

「くっ……舐めるなァッ!!」

 

 直撃したら落とされていたであろうリタの一撃を雪片弐型で受け止める。力任せになんとか押し切ると、そのまま零落白夜を発動。それを見たリタが即座に離脱しようとするが、距離を詰めたこの好機を逃す気のない一夏は燃費の多い大技を出す決意をする。

 

「伸びろ零落白夜!」

 

 出力が上昇し、巨大なブレードとなって零落白夜がリタへと襲いかかる。それだけなら捉えきれなかったであろうが、しかしそこからさらに零落白夜が変化する。

 

 巨大なエネルギーの刀身が幾重にも分かれ、一転して鞭のようにしなりながらリタを追尾する。多方向からの予測できない変則機動で襲いかかってくる零落白夜の群れにさすがに表情を変える。

 ワイヤーブレードのように追尾してくる分離した零落白夜の数は全部で八つ。それらがすべてリタに食らいつこうとするように襲いかかる。

 

 それはさながら大蛇が獲物を狙って這いよるが如く。――――零落白夜・八岐大蛇の型。

 

「あ、これやばい」

 

 最大の好機のはずが最大の危機へと変わってしまったことでさすがに焦りが見える。そしてこの好機を楯無も簪も逃さない。それぞれがレオンとシトリーを抑えることで一夏対リタのまま援護を許さない。

 

「甘く見たわね、一対一なら一夏くんに分があるわ」

「邪魔はさせない」

 

 セプテントリオンの要が連携だとわかっているために即座に分断、各個撃破を狙うのは当然であった。そして形は整った。

 一対一の純粋な機体性能差は歴然だ。

 

「がっ、ぐうううう!!」

 

 八つの頭のうち、二つがリタに食らいつく。急激に減少していくシールドエネルギーを見たリタは即座に装備していたセミパッケージの強制排除を実行する。外部を覆っていた装甲が弾け、零落白夜の顎からなんとか逃れる。

 素体フレームのみとなったリタが辛くも離脱すると、そんなリタを守るようにレオンとシトリーが合流する。

 

 楯無と簪も一夏と合流、図らずも仕切り直しの形となる。

 

「無事かリタ?」

「痛い。てかふざけた攻撃力なんだけど……シールドエネルギーが残り一割切った」

「うーん、やるね。さすがシャルのお気に入り。ちょっとは認めてもいいかな」

 

 単機の性能、そして能力の高さはさすがに専用機というだけはある。量産機であるフォクシィギアでは再現できない特化型の能力とその破壊力は脅威だ。

 そして楯無、簪の機体もやりにくい能力が揃っている。火力の高いビーム・レーザー兵器は簪の天照には通用せず、楯無のミステリアスレイディの水操作は応用力があり攻め手の底が見えない。

 

「さすがはお嬢様たちの戦友、か」

「私たちより強いかもね」

「頼もしい、んだけ、ど」

 

 一夏たちを賞賛するも、三人の目は一切笑っていない。

 この三人、シトリーはまだましな程度だが、楯無の想像通りタイプは違えどそれぞれかなりの負けず嫌いで好戦的な性格をしており、たとえ負けても問題ない試合でも死に物狂いで勝ちにくる。当然今回もそうだ。

 最低限の連携は見せたし、一夏たち個々の戦闘力もわかった。あとはこの模擬戦で計ることはそう多くない。だからここで終わっても任務内容としてはまったく問題ない。

 

 だが、そんなもので納得などするはずもない。

 

「レオン、こっからはもういいでしょ?」

「……リタはやる気みたいだけど、いいの?」

「いいんじゃないのか。専用機持ちと戦える機会なんて今までなかったからな。俺も少し挑戦してみたい」

 

 そうしてレオンとシトリーも装備していたセミパッケージを解除する。戦闘能力を格段に落すような行動に一夏たちも怪訝そうにするも、その意図はすぐにわかった。

 

「私たちセプテントリオンの正隊員にはひとつ、専用装備が与えられている」

「今から見せるのは、そういう代物だ」

「もうちょっと付き合ってね」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 おおよそ互角という結果に楯無はいろいろと思うところがあったが、とりあえずは満足するものが得られたことに安堵する。

 個々の性能は専用機が上だが、特殊装備なしの量産機が連携技術のみでその差を埋められるとわかっただけでも収穫だった。

 

 

(対策は急務ね……おそらく専用機でもフォクシィギア三機を同時に相手にすればまず負けるわ)

 

 

 個人の力量にもよるが、少なくともこのレオン達のレベルの操縦者ならば専用機といえども三機を相手にすれば勝てる可能性が著しく低下する。現在進行でこの量産機の数が増加していることを考えれば、これまでのIS、専用機の優位性は五年もすれば完全になくなるだろう。

 

 もうこの模擬戦の目的は達成したといっていい。ここで終了となってもまったく問題はない。

 だが、どうやら目の前の三人はまだやる気らしい。

 

「どうやら今度はそっちが挑戦したいらしいわね」

 

 量産機単機で専用機に勝つ。性能差を考えれば難しいが、レオン達は試したいようだ。そしてそのための本来の装備を使うらしい。もともとIS学園に与えられたのは基本となる三種のみ。局地対応や特殊性の高い装備は未だ不明だが、おそらくは存在する。

 

「面白いじゃない。見せてもらいましょうか、セプテントリオンの力を……!」

 

 楯無の言葉に応えるように三人は散開、レオンは楯無へと向かい、リタは一夏、シトリーは簪へと挑む。一転して完全な一対一の構図となり、各々が目の前の敵機に集中する。

 

「おねーさんの相手はあなたかしら?」

「そうですね、まぁ男としての意地もあるんで、そう簡単に負けないですよ」

「ふふん、胸をかしてあげるわ。勝てたら本当に触らせてあげてもいいわよ?」

「やる気でた!」

 

 レオンは自分に与えられた専用装備【ベテルギウス】を展開。大型バックパックで爆発的な推進力を生み、そして右腕に接続された大型パワーアームに搭載された巨大な凶器―――暴力がそのまま形となったような、連なる刃を回転させ、相手をすり潰す粒子コーティングチェーン・ソーを起動させる。

 防壁や重装甲を真正面から削り取るために作られた対装甲近接回転連層刃【ベテルギウス】。現状でこれで破壊できない装甲はほぼないと言える破壊力に特化した装備である。

 

「物騒なものを!」

「押し潰れろッ!」

 

 青く光る連なった刃が回転して迫る光景は楯無をしても背筋が凍るような恐怖がある。いったいどこのホラー映画の殺人鬼だ。そんな大型装備を軽々と振るってくるレオンはやはりセプテントリオンにふさわしいぶっ飛び具合だと思ってしまう。

 ミステリアスレイディの水の装甲を瞬時に凍らせ、氷の盾として展開。相手の攻撃力を計るためにあえて防御を試みる。

 

「そんなもので!」

 

 ……が、堅牢な防御を誇る氷の装甲はベデルギウスの前にあっさりと砕け散る。ただただ破壊力に特化させた武装に開発者の正気を疑うが、まともに喰らえば白式の零落白夜とは違い物理的に一撃必殺に成りうる威力だった。

 

「……だけど、それでおねーさんを倒せると思われるのは心外だなぁ」

 

 真正面からの潰し合いなら負けるだろうがどんな状況でも対応できる汎用性の高さがミステリアスレイディの長所だ。楯無は蠱惑的な笑みを浮かべながらレオンを誘うように全周に水のテリトリーを展開する。

 

「残念だけど、君ではまだ私には勝てないかな。――――来なさい、遊んであげるわ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「今度は逃がさねぇぜ」

「逃げる? 私がすることは斬るだけ」

 

 一夏にリベンジをするリタは目を剣呑に輝かせて手に持ったプロキオンを投げ捨てる。そして新たに拡張領域から展開して手にとったのは鞘に納刀されたブレードだった。

 それを左手で持ち、右手を添えながら一夏へと向きなおる。

 

「零落白夜を希望する」

「なんだって?」

「今度は避けない。真正面からぶった斬る」

「……面白ぇ」

 

 一夏はリタの希望通りに零落白夜を発動。腰だめに構え、居合のように振り抜くことで斬撃を飛ばすという遠距離技を放つ。この半年で射程距離もコントロールも遥かに上がった零落白夜による飛ぶ斬撃はまっすぐにリタへと迫る。

 それが直撃するかどうかというとき、リタの腕が動いた。

 

 いったいいつ抜いたのかわからないほどの神速の抜刀。刀を振り切った状態でようやく視認できた一夏は、その結果に目を丸くした。

 

「斬られた、のか?」

 

 放った零落白夜の斬撃が一閃によってかき消されるという光景に目を疑った。当たれば大ダメージというこの能力によって生成したものを斬るという発想など今まで有り得ないものであった。

 

「この刀は、なんでも斬る。エネルギーすら斬る」

 

 抜刀式コーティングブレード【ムラマサ】。どんなものでも斬ることができるブレードというリタの希望をもとに作られた切断特化型の特殊長刀。さらに脚部にはローラーダッシュを可能とする対地用ローラーブースター。その脚部のローラーが回転し、地を滑るように駆けて一夏へと向かっていく。

 零落白夜の応用技こそあれど、基本的に近接一辺倒な一夏もリタの突撃に合わせて迎撃体勢をとっている。

 疾走していたリタが跳躍、バカ正直に真正面から一夏へと飛びかかる。

 

「抜刀一閃」

「舐めるな!」

 

 腕が霞むほどの疾さで振り抜かれたその一閃を一夏が顔をしかめながらも受け止める。ギィィン! という激しい衝突音が響き渡る。

 

「おお、受け止めた。なかなか」

「これでも近接戦がウリなんでな……!」

 

 リタの抜刀による斬撃を始めて受けたが、とにかく疾い。気がつけば振り切られているのでこれまでの経験と勘で刀の軌道を判断していた。不意や隙を突くような鋭さはアイズが上だが、疾さは間違いなくリタが上だ。

 

「面白ぇ……!」

 

 一夏は歓喜する。間違いなくリタはこれまで戦って来た中でも上位に食い込む操縦者だ。しかも自分と同じおかしいまでの近接特化型。リタとの戦いは間違いなく自身の血肉となる。なによりアイズと鈴が離脱したことで同じ近接型の仮想敵がいなかったこともあり、リタとの出会いに心から感謝した。

 

 ――――リタを倒せば、自分はまだまだ強くなれる。

 

 その思いを胸に、一夏は雪片弐型を握り締める。

 

「ぶった斬ってやるぜぇッ!!」

「斬る、斬る、ただ斬る。斬らさらせ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「あーあ、熱くなっちゃって」

「あなたはいいの?」

「私は確かに負けず嫌いだけど、あの二人ほど熱血じゃないし、模擬戦の収穫はあったから」

 

 シトリーはレオンやリタと違い、装備を展開せずに簪と一緒に他の四人の戦いを眺めていた。はじめは臨戦態勢だった簪もシトリーに戦意がないことを悟るや、一緒になって他のデータ収集を行いながら見学に回っていた。

 

「それに私の装備はあの二人みたいなタイマン向けじゃないし。私は本来は斥候とかが役目だし」

「そうなんだ。気になるけど、なら仕方ないかな」

「これからはお世話になるし、いずれ、ね」

「楽しみにしておく。………それと聞きたいことがあるんだけど」

「ん?」

「アイズは、あっちじゃどうしてる?」

 

 興味津々、という目をする簪を見てシトリーがぼんやりとなにかを思い出したように手を叩いた。

 

「ああ、あなたがアイズの言っていた“簪ちゃん”か。思い出した。よく話は聞いてるよ」

「そ、そうなの?」

 

 アイズが自分のことをなんと言っているのか、気になってしょうがない簪はぐいっと身を乗り出しながら聞き入っている。シトリーは内心で「また女の子を落としたんだ」などと思いながら苦笑しつつ返答する。

 

「可愛くて頼りになる、大事な友達だって」

「………」

 

 簪はにへら、とだらしなく頬が緩むことを抑えられない。アイズに想われていることが嬉しくて今にも富士山に登って頂上からアイズへの愛を太陽に向かって叫びたいくらいに舞い上がっていた。

 

「あと情報解析もすごいって聞いてる。よければ一緒にデータ解析とかして欲しいかな。うちだとあの二人がアレだから、バックアップは私の役目だし」

「うん、いいよ。カレイドマテリアル社子飼いの部隊の技術力には私も興味がある」

「ふふ、あなたとは仲良くできそうね。こっちにいたときのシャルの話とか、聞きたいわ」

「私も、もっとアイズの話が聞きたい」

「そうだね、それじゃあアイズが無自覚で落とした女の子の数とか」

「なにそれ気になる……!」

 

 

 激しい戦いを見ながら和気藹々と談笑する簪とシトリー。

 それぞれの形は違えど、概ね好意的にセプテントリオンの三人はIS学園に馴染んでいくことになる。

 




次回から再びアイズ編となります。その後は次章へと移る予定です。

再びアイズとシールの運命が動き出します。そしてセシリアとマリアベルの邂逅も近い予定です。

この物語も通算で100話が見えてきました。せっかくなので記念として番外編を書こうと思ってます。それについてのアンケートを活動報告に載せましたのでよければお気軽にどうぞ。

この章が終えればまた物語がどんどん加速していく予定です。

ご要望、感想お待ちしております。それではまた次回に!

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