双星の雫   作:千両花火

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Act.73 「流転の戦場」

「くそがっ、どうなってやがる!?」

 

 亡国機業側の旗艦であるステルス潜水艦の一室で目が覚めたオータムは、起きて早々に出くわしたトラブルに悪態をついた。

 鈴にやられた傷はISの絶対防御を超えてオータムの身体に大きなダメージを刻み込んでいた。はっきり言って立つことも苦しいくらいボロボロの状態だった。内側に衝撃を徹す浸透勁を何度も受けたせいで肋骨は折れ、内蔵にも痛手を受けている。負けたことは悔しいが、本当ならずっと安静に寝ていなければならないところだ。

 だが、そうも言っていられなくなった。急遽、艦内に非常警報が流れ、緊急事態を告げてきたのだ。

 オータムは痛む身体に無理をさせながら看護室から飛び出ると近くを通りかかった部下に声をかけた。

 

「おい! なにが起きたァ!?」

 

 怯えと困惑の色を見せる潜水艦の乗組員を脅すように問いただす。その乗組員の男性は混乱しながらもオータムの問に完結に答える。

 

「む、無人機が……」

「あぁ? 無人機がどうした?」

「無人機が暴走して、艦内を破壊しています……!」

「あ? ………んだとぉッ!?」

 

 そのとき、艦内が大きく揺れた。そして爆発音まで聞こえてくる。オータムは驚愕と混乱を思考から斬り捨てると即座に走り出す。身体が軋んだが、今は無視した。無人機の暴走が本当なら、このままでは間違いなく海の藻屑だ。

 

「聞こえるかぁ!? マドカとシールはどうした!?」

 

 オータムはISを通じてこの艦の艦長へと通信をつなぐ。あちらもかなり混乱しているようだが、3秒以内に返答が来る。

 

『気づいたか……!? まだあの二人は帰投していないが、サイレントゼフィルスは撃墜されたようだ』

「マドカはやられたか……。シールは?」

『まだ戦闘中だ! それよりまだ動けるなら格納庫の暴走機をなんとかしてくれ!』

「今向かってるよド畜生!」

 

 オータムは走りながらISの状態を確認する。リカバリーモードで多少は回復したが、シールドエネルギーはおよそ二割。鈴と甲龍に負わされたダメージは未だに残っており、武装も半分以上が死んでいる。オータムは無意識のうちに舌打ちをしてしまう。

 

「撤退するレベルだな、クソが。だが、もう少し付き合ってもらうぜ、アラクネ……! ここじゃあ撤退する場所すらねぇんだからよぉ!」

 

 オータムはアラクネ・イオスの腕だけを量子変換させて格納庫へと繋がる扉を殴り飛ばす。その勢いのまま中へと飛び込み、広い空間へ出た瞬間にIS装甲を全身に纏う。ボロボロの姿のアラクネ・イオスが再びオータムの鎧と化す。

 

「クソッタレな状況だな、えぇおい!?」

 

 予備として残していた無人機の一部が起動し、周囲の動体を狙ってマシンガンを発砲している。格納庫内は既に火の海だ。不幸中の幸いは主武装であるビーム砲が装備されていなかったことくらいだ。もし待機状態でも装備されていれば今頃この潜水艦は沈んでいる。とはいえ、このまま放置していれば同じ結果となるだろう。

 

「勝手に動いてんじゃねぇぞコラァ!」

 

 オータムに反応して暴走機が攻撃態勢を取るが、その前にオータムが急接近。主武装であり象徴でもある八本の特殊腕は鈴に破壊され残り三つとなっていたが、それだけあれば十分だった。

 懐に入ると同時にパイルを起動。密着状態から正確に無人機の動力部を貫き、強制的に停止状態に。

 この艦内部で爆発させるわけにはいかないためにかなり慎重に処理をする。さらに残る暴走機に向かってブーストする。そのまま体当たりで暴走機を隔壁へと押しやると再びゼロ距離のパイルで動力部を破壊する。

 動きを止めた暴走機を苛立たしげに投げ捨てると残る無人機へと目を向ける。今のところ動く様子は見られないが、こんな状況では信用などできるはずもない。

 

「…………艦長、聞こえるか。暴走機は破壊したぞ」

『そうか、感謝する。サイレントゼフィルスは二番艦が回収したそうだ。あちらは無人機はもう搭載していないからこちらのようなトラブルはないだろう』

「そうか。ならこっちはすぐに未起動の無人機の起動プログラムを凍結させろ。三分でやれ。時間までに間に合わない機体は海底に破棄しろ」

『おまえはどうする?』

「まだ外であの問題児がはしゃいでんだろ? しょーがねぇから私が回収に行くしか……ねぇーだろうがよぉ…………がふっ、げほッ!」

『おい、どうした!? 大丈夫なのか!?』

「げはっ、ごほっ……! あー、気にすんな、ちょっとむせただけだよ」

 

 口から垂れる血液を乱雑に拭いながらなんでもなさそうに答える。しかし鈴にやられた傷は明らかにオータムの内蔵を痛めつけている。あのガキ、次はあのドヤ顔をぶん殴ってやると誓いながら、オータムは潜水艦を浮上させるように伝える。

 

「私が出たらD地点まで退避しろ。一時間経って戻らなければ私とシールは諦めろ」

『…………しかし』

「しかし、はいらねぇ。心配すんな、お前の責任にはしねぇよ。私らはテロリストだ。悪党は悪党らしく、見捨てる時は見捨てりゃいいんだよ」

『……了解。しかし、限界まで待たせていただく。ご武運を』

「ありがとよ。……悪いがステルス装備とパッケージをもらうぞ。こんな装備趣味じゃねぇが、まぁしょうがねぇ」

 

 使い捨ての高機動用追加ブースターパッケージとハイパーセンサーから機影を隠すステルス装備を即席で機体に搭載する。アラクネのコンディションを考えれば戦闘は極力避ける必要があるし、なにより時間をかけるわけにはいかない。

 これでも心もとないが、オータムはごく自然に悪条件を受け入れて出撃準備を整える。

 

 そして潜水艦が急浮上する。同時に上部出撃ハッチが開放。

 そこから見える景色は、まさに混沌だ。遠目でも戦場が混乱している様子がわかる。おそらく起動中の無人機は既に暴走しているだろう。一部しか暴走していないなどと楽観視はできない。このタイミングで無人機が暴走するなど、ただのトラブルなどとは思えない。

 ほぼ全機が暴走していると考えたほうがいいだろう。まともなのはおそらく少数しかいない。と、なれば、これから赴く戦場は完全に敵地だ。乱戦となっているのならまだやりようはあるが、まずい事態なのは変わらないだろう。

 そしておそらくシールが一番まずい。無人機のコントロールが離れたのなら、シールは完全に敵中に孤立したも同然だ。シールの強さは知っているが、おそらく単機での脱出は不可能だ。

 生意気な後輩だが、先輩として見捨てるわけにもいかない。ここらで先輩らしいことでもしてやろう。

 そしてなによりプレジデントが可愛がっている。もしここでシールを失えばどんな災厄をもたらすかわかったものではない。

 

「さて、行くとするか。面倒かけさせやがって、あのバカが……………アラクネ・イオス、出るぞ!」

 

 再び戦場を毒蜘蛛が飛ぶ。

 

 今度は襲う側としてではなく、敵地に残った仲間を救出するために。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なんだこれ……?」

「なにが起きてるの……!?」

 

 援護に向かった一夏とシャルロットは目の前に広がる光景に困惑していた。

 無人機が暴れているのは同じだが、その行動が明らかにおかしかった。同士討ちでもするかのように、近くで動くモノに反応して襲いかかる。フレンドリーファイアなどお構いなしにビーム砲を乱射する。ある程度は組織的に動いていた機体が、まるで狂ったかのように周囲に破壊をもたらしている。

 

 戦っていたセプテントリオンやIS学園の防衛部隊もこれには驚愕と混乱が渦巻き、あっという間に泥沼の乱戦へとなっていく。

 

「一夏、止まっちゃダメだ!」

「くっ!?」

 

 シャルロットの声に慌てて白兎馬を急発進させる。数秒遅れていくつものビームが二人を目掛けて発射される。そのうちの数機は同じ無人機のビームに貫かれて爆散した。いったいなにが起きているのかまったくわからない。一夏は混乱しそうになりながらも、とにかくセシリアたちと合流するために周囲の索敵を強化する。

 

「白兎馬、セシリアの位置は?」

『戦域マップに表示しマス』

 

 コンソール前に空間ディスプレイが展開され、セシリアの現在位置を表示する。

 本来ならまだ白兎馬にはセシリアたち、セプテントリオンのメンバーとの共有機能までは未搭載だが、シャルロットのラファールとデータリンクをすることで正確な位置を表示している、

 一夏は白兎馬のナビゲーションを頼りに乱戦区域の突破を試みる。高機動モードでの最速なら中央突破も可能なはずだ。後ろに乗せたシャルロットが援護射撃を行いながら白兎馬の進路を確保する。

 まったく無意味な進撃を繰り返す無人機との乱戦は組織的な行動がなされない分、突発的な事故も起きやすい。一夏とシャルロットも慎重に、かつ迅速に戦域を駆け抜けようと集中する。

 

 なにが起きているのかはわからない。誤作動なのか、なんらかの策略なのか、情報が少なすぎて判断できないが、こういうときこそ孤立するのはまずい。個人で判断ができない以上、統率できる人物の判断を仰ぐことが最善だった。

 すなわち、セプテントリオンを率いるセシリアか、IS学園の生徒会長である楯無のどちらかだ。千冬という判断も間違いではないが、戦闘区域の半分は未だにジャミングがかかっているために通信可能区域を探す手間がかかる。ならば通信可能で居場所がはっきりわかるセシリアと合流することが確実だ。

 

「鈴と簪は?」

「鈴さんはラウラが確保してる。簪さんは学園側にいるよ」

「わかるのか?」

「僕たちの部隊は全員がリアルタイムで情報共有してるからね」

「ならまずは自分たちのことだな。……急ぐぞ! しっかりつかまってろ!」

「援護は任せて!」

 

 シャルロットが一夏の背後からスナイパーライフルを構える。下手に攻撃をして攻撃対象にされることを警戒して進路上の敵機のみを最低限の射撃で射抜く。無秩序に破壊活動をする無人機を撃破することは難しくなかった。回避や防御よりも攻撃を優先しているのだ。脅威度は高いが、隙も大きい。

 

 問題は流れ弾が多すぎることだ。弾、というにはいささか威力が高すぎるビームだったが。

 

 予想もできないタイミング、場所からビームが放たれ、それは友軍機であるはずの無人機が射線にいようがおかまいなしに飛んでくる。

 一夏もそんな予想外の被弾を懸念して周囲の索敵を白兎馬に強く命じて疾走させている。シャルロットの機体には現状ではビームを防ぐ武装は搭載されていない。

 零落白夜を纏う『朧』という強力無比な防御能力を持つ白兎馬も現状はその能力を使えるコンディションではない。

 つまり、地雷だらけ危険地帯のど真ん中を突っ走るに等しい状況なのだ。

 

「贅沢は言ってられないな……最短最速で行くぞ!」

 

 覚悟を決めて一夏は白兎馬の出力を上げる。無意味な破壊をもたらす光の柱の間をすり抜けるようにわずかもスピードを緩めずに閃光となって戦場を貫く。

 

「でもけっこう離れてたからまだ距離がある…………なんとかルートが確立できれば……あれ?」

「どうした?」

「隊長からオーダーがきた」

「隊長……セシリアか? なんだって?」

「『道を作る。今すぐ低空飛行せよ』 ……ッ!? 一夏、急降下!」

「お、おう!?」

 

 表情を変えて慌てて叫ぶシャルロットの勢いに圧されながら白兎馬を降下させて海面ギリギリまで高度を下げる。そしてそれを見計らったかのようなタイミングで前方、IS学園側から巨大な閃光が発せられた。

 それは無人機が持つビーム砲が可愛くみえるほどの大出力のビームだ。夜の闇を太陽が照らしていると思えるほどの光量を持つ青白く輝く巨大な光の塊がまっすぐに戦場を貫き、射線上にいた無人機をすべてスクラップにしながら水平線の彼方へと消えていった。

 

「おいシャル、あれってまさか……」

「プロミネンスのビームだね……撃ったのは、まぁ、ね」

「道を作るってこういうことかよ! 相変わらずお嬢様のくせにやることが過激だなあいつは!?」

 

 文句を言いながらも戦場に強引に造られた道を一直線に突き進む。無茶苦茶な方法であったが、これで一夏とシャルロットは最短距離で有軍部隊との合流を果たせる。

 

「…………一夏、僕たちが合流したら防衛戦を下げるみたい。このままIS学園まで突っ切って!」

「わかった。……しかし、やっぱ量子通信はすごいな。こんなジャミングがかかってても通信できるなんてな」

 

 一夏の言葉にシャルロットはただくすくすと笑う。

 確かにシャルロットもはじめは驚いたものだ。どんな状況下でも高速かつ長距離を盗聴不可能な通信を可能とする量子通信。もともとISコアネットワークのシステムのひとつだったらしいが、それを実用させ、さらにISに搭載できるサイズのものとなるとカレイドマテリアル社しか製造不可能、しかもこれはまだ公には出回っていない代物だ。その恩恵を実感して一夏は羨ましそうに口にする。実際、セシリア達と通信できるシャルロットがいなければ一夏は完全に孤立していた。

 

 相変わらず頼もしい戦友たちに、一夏は脱帽する思いだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 相も変わらずに頼もしいと思われているセシリアだが、内心では強い困惑に支配されていた。それでも隊長としての責任感から頭を冷静に保ち、最適な指揮を思考し続けていた。

 だが、情報が少なすぎる。突然暴走状態となった無人機は全体のおよそ八割。暴走機を一機確保して、それを束が解析してくれているが、わかったことは無人機のシステムがおかしくなったということだけ。詳細は未だに解析中だ。

 対処としてはあまりよくないが、セシリアは部隊を集結させることを決めた。最終防衛戦としていたIS学園本隊前と海上に敷いたセプテントリオンによる第二防衛戦を統合させ、戦力を集中。動きが不透明な無人機群に対し、援護がしやすいようにと考慮した結果だ。

 もちろん、大出力兵装を持つ相手に過度の密集は危険だが、セプテントリオンのメンバーが小隊規模で拡散的に前衛を受け持つことで即時対応を可能とする陣形を維持する。

 シャルロットからの連絡でもうじき一夏と一緒に合流することもわかっている。鈴もラウラがスターゲイザーへと退避させた。これで要救助者はすべて確保したことになる。

 

 …………ただ、一人を除いて。

 

 セシリアがもっとも気にかけている存在――――半生を共に生きた最愛の少女であるアイズ・ファミリアの安全だけが確認できていない。アイズは未だにシールと戦闘中だ。

 できることならすぐにでもアイズのもとへと行きたいが、現状がそれを許さない。不確定の戦況を判断するのは、隊長であるセシリアの役目なのだ。それを放棄することはできない。

 それに、アイズは強い。シールが相手でもそう簡単にやられることはないだろう。この状況を素早く掌握し、アイズを確保すればよい。

 

 

 

 

 

 

―――――そう思っていたセシリアの希望的な思考は、束の声によって消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

『セッシー、まずいわ、これ……っ』

「束さん?」

 

 通信してきた束の声はひどく不安そうだった。束のその声は、自分の予想外の事態に陥ったときのものだった。束はややうろたえたように声を震わせながらセシリアにそれを告げた。

 

『暴走じゃない。誰かがコントロールを奪取してる……あいつらじゃない、第三者の介入だよ』

「……なんですって?」

『暴走は擬態。その【誰か】の指示に従って動いてる。なにか目的がある…………急げセッシー! こんな状況でこんなことをしでかすくらいだ、絶対いいことじゃないだろうね。そいつらがなにをするつもりかわからないけど、なにもさせるな!』

 

 切羽詰ったような束の声に、セシリアも意識を変える。

 

 無人機の暴走が、仕組まれていた?

 

 同士討ちする行動すらしているのだから、おそらく亡国機業側がやったことじゃない。もしそうだとしても、それはあまりにも無意味な行為だからだ。

 なら、考えられるのはIS学園側でもなく、カレイドマテリアル社側でもなく、……まったく違う第三勢力の仕業だというのか。

 しかし、そんなことが可能な組織がいるのか。いや、この思考は今は必要ない。必要なのは一刻も早くその【誰か】が仕組んだ狙いを暴き、それを防ぐことだ。束が言うように、悪い予感しかしない。こんな事態、完全に予想外、想定外だ。

 セシリアはスターゲイザーから送られてくる広域マップを表示する。敵無人機の動きが一機一機、リアルタイムで表示されている。さらに暴走機と思しき機体と、暴走していないと見られる機体を判別、全ての機体の動きを表し、戦域を俯瞰する。

 

 束が言うように【誰か】の意思が介在するのだとしたら、なにかしら統一性や傾向が見られるはずだ。セシリアは戦場の動きを把握して全体像を掴もうとする。

 

 ……たしかに、暴走しているようでもある一定のリズムが感じられる。主戦場から少しづつ外へと拡大、未だ海上は混沌とした密集地だが、ゆっくりと外側へ膨らむように広がっている。

 しかしその広がりは、しだいにまたある一点へと収束していくように………。

 

 

「……まさか」

 

 

 セシリアの優秀な頭脳が、その未来予測を描く。

 この動向、そして向かう先にある場所は―――――IS学園アリーナ。

 

 アイズとシールが戦っている場所だった。

 

 

「こいつらの、狙いは……!」

 

 

 なぜ気づかなかった。

 たしかに単体で圧倒的な戦闘能力を発揮するヴォーダン・オージェに勝てるものなどそうはいない。だが、それは必ずしも無敵の力ではないのだ。ちゃんと攻略法だって存在する。

 しかし、その力はISと併用することで恐るべき力を発揮する。アイズやシール、そしてかつてVTシステムとの相乗効果で絶大な戦闘能力を見せたラウラなど、その力は一目瞭然だ。生半可なIS操縦者では瞬殺されるほどその力はIS操縦者としても突出している。

 単機で戦場を圧倒する力、それはしかもリスクはあれど、人が使うことができると証明されている。それまでに、どれほどの命を糧にしようとも、先天的、後天的な成功が可能だと…………ほかならぬアイズとシールが証明しているのだ。

 そして、それは量産すら可能な代物。それも、ラウラという存在が証明してしまった。

 

 ならば、欲しい、はずだ。

 

 世界を一変させたIS、それすらを上回る抑止力となりうる存在を作り出す、その人造の魔眼を。

 

「ヴォーダン・オージェの確保……狙いは、アイズ……、いや、シール、あの二人とも?」

 

 推測でしかないが、ほぼ間違いないと判断できる。

 この状況がなによりの証拠だ。無人機の大半が離反すればシールは戦場で孤立するし、そして今はアイズと一騎打ちの最中だ。ヴォーダン・オージェが欲しい者からすれば、絶好の機会だろう。如何にあの二人とて、絶対的な数の差は覆せない。

 ヴォーダン・オージェがたとえ無敵の力を与えても、使うアイズとシールはあくまでも人間なのだ。生きている生物である以上、長期戦や消耗戦に抗うことなんてできないのだから。

 

 すぐさまアイズに退避するよう通信を入れようとするが、遅かった。

 

 二人が戦っているアリーナが、ビームの砲撃と思しき攻撃で爆散した。おそらくビームの集中砲火だろう。

 セシリアは血の気が引いていく感覚を自覚をしながら、パニックになりそうな頭の中を分割思考を駆使して強制的に冷静な思考を確保する。

 

「ラウラさん!」

『もう向かっているッ!』

 

 セシリアと同じ結論に至ったと思しきラウラが即座に返事をする。そしてレーダーに凄まじい速さで動く機影が反応する。ラウラの『オーバー・ザ・クラウド』だ。ラウラは鈴をスターゲイザーに収容した際に束から状況を聞いていたために、すぐにラウラにとっての最重要である姉の援護へと向かっていた。

 遊撃であるとはいえ、それは完全に独断であったが結果的に最善な行動だった。

 

 ラウラならなんとかしてくれるだろう。伊達に第五世代機の乗り手に選ばれたわけではない。夏休み前よりも遥かに『オーバー・ザ・クラウド』を使いこなしているし、なによりこの状況では満足に動けるのはラウラだけだ。

 セシリアはここから動けない。今ここでセシリアが動けば部隊どころか、IS学園側まですべて崩壊させてしまうリスクが生まれてしまう。指揮官、というのはそれほど重い。

 だが、やれることはある。

 アイズの安全を確保するためにも、セシリアのすべきことはひとつだけだ。セシリアは頭が怒りでおかしくなりそうな状態を必死に抑えながら、その怒りの熱を反転させて氷のような表情で告げる。

 

「セプテントリオンに告げます」

 

 セシリアは部隊員すべての通信を開くと、仲間である隊員たちすら背筋が凍ってしまうような冷淡な声で告げた。

 

「―――――全力戦闘を許可します」

 

 そうしてセシリアもトリガーを引く。

 同時にビットをすべてパージ。スターライトMkⅣとともにレーザーを一斉射撃。全部で十一ものレーザーが寸分たがわずにそれぞれが暴れまわっている無人機の頭部を貫く。

 一瞬で十一機もの敵機を破壊したセシリアが、冷たい視線で次の得物を探しながらオーダーを叫んだ。

 

 

「――――殲滅しなさい!」 

 

 

 

 




更新遅くなりました。九月入っていきなり仕事が忙しくなったんです。残業なんて嫌いだ。


さて、こっから新展開。次章からの第二部に向けた序章となります。


Q.なんかオータム先輩がかっこいいですね? 
A.だって好きですから(笑)


オータム先輩は亡国機業側の清涼剤と思うんだ。そして第二部は亡国機業側のエピソードも多数作る予定です。やっぱ敵サイドも魅力がないとね。

あと一週間もすれば仕事も落ち着くんだが、安定して更新させたいです(汗)

次話はアイズ、シール、ラウラのヴォーダン・オージェ組が主役です。
それではまた次回に!

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