双星の雫   作:千両花火

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Act.65 「混迷戦場」

 鉄の葬列が夜の海上を進む。

 

 物言わぬ命の宿らないヒトガタが、命を奪う禁忌の兵器を携えてただひたすらに前進していた。頭部にある目に相当する部分から不気味な赤い光を灯し、生命の鼓動には程遠い機械音を発しながら動いている。

 それはまるで悪魔か、または死者の群れか。その数は、夜の闇に紛れてもはや知る由もない。ただ、夜の闇から這い出るようにひとつ、またひとつと学び舎の明かりに群がる害虫のように引き寄せられていく。

 希望で溢れるはずの学生の学び舎をただ蹂躙するためだけに、魂の宿らない人の形を模したモノが進んでいく。

 抵抗を数で押しつぶし、ただ破壊を目的としたその群れに、脆弱な人間たちはただ震えるだけだろう。

 

 

 

 ―――――――!

 

 

 

 ビュン、と空気を切り裂く音が走った。同時に、そのヒトガタの群れの中を縫うように一筋のオレンジ色の軌跡が出現する。

 その光の筋に反応を示したその瞬間―――――。

 

「jvfkiejfo---!?!??!」

 

 先頭にいた一体が不快な機械音を発してはじけた。そして次々に、その光の軌跡の周囲にいた機体が食い破られるかのように損壊し、爆発して海の藻屑と変わり果てた。その未知の現象を受け、残された機体が散開する。しかし、残った機体の無機質な目に映ったものは、迫り来る無数のミサイルだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 たった一撃で陣形を破壊され、残された機体も状況が把握できないようにその場に停滞している。先の一撃で破壊された機体はそのまま夜の海へと消えていき、二度と上がってくることはなかった。

 そんな様子を冷静に見ながら、簪が構えていたレールガンを再び量子変換して拡張領域へと格納した。

 

「『神機日輪:玉』、正常稼働、………効果最大確認」

「相変わらずすっごいわねぇ」

 

 簪の放った先制の初撃の威力に、鈴は感嘆の声を上げる。一夏も苦笑してたった一射で無人機の群れを薙ぎ払った攻撃に冷や汗を流した。

 数で劣るIS学園側としては、まず先制攻撃で第一陣に大打撃を与えたかった。そこで選択したものが、簪の機体『天照』による一撃であった。

 武装の威力を劇的に増幅させる『神機日輪』第三の権能『玉』を使用してのレールガンの狙撃であった。ただでさえ、恐るべき弾速を誇るレールガンに、最大出力での攻性エネルギーを付加しての一撃だ。レールガンに直撃すれば木っ端微塵、そしてその軌跡の周辺はまるで暴風のようなエネルギーが渦巻き、範囲内のもの全てを食いちぎる悪魔の一撃と化した。

 あまりにも威力が高く、模擬戦でも全面的に使用禁止となっているこの力は、無人機を相手にしてその力を存分に発揮していた。もともと対無人機用に開発されたのが『神機日輪』だ。対多数の無人機戦においてまさに絶大な性能を見せつけた。簪は便宜上、この能力使用による増幅攻撃を『エクシードバースト』と呼称している。

 

「『神機日輪』、再チャージ」

 

 続けて第二射のチャージを開始する。初撃のレールガンは弾速の早さから先制攻撃に使ったが、貫通力が高い故に面制圧には適さない。一度散開されれば効果は落ちてしまう。だから追撃に選択したものが、『山嵐』の誘導ミサイルによる範囲爆撃であった。

 

「フルドライブ……全ミサイルエリアロックオン」

 

 前面に展開した『神機日輪』のリングユニットが金色の粒子を凝縮する。初撃のレールガンのエクシードバーストで陣形は破壊した。今なら立て直す前に面制圧が可能だ―――!

 

「フルバースト」

 

 ミサイルを魔弾へと変えての全弾一斉発射。無人機プラントで使用したときは威力を抑えたが、今回は最高威力での使用だ。一発でも命中すれば、直撃した機体は木っ端微塵、さらに近くにいた機体すら巻き込んでの大爆発を起こす。それが四十八発もの数となって同時に降り注ぐのだ。悪夢としか思えない惨状の出来上がりだった。

 一発一発が爆発するたびに無人機が無慈悲に破壊され、運良く灰にならなかった部分はそのまま海へと落下していく。夜中でありながら、昼間かと思うほどの凄まじい光量を発しながら破壊の炎を生み出し、轟音を発してすべてを呑み込んで消えていく。

 その効果を生み出した簪を含め、一夏も鈴も冷静にそんな様子を見据えている。

 

「うまくいった、かな」

「そうね、十分すぎるほどの上出来でしょ」

「しかし本当に恐ろしいな。でも、これで整った。行くぜ!」

 

 壊滅状態の敵陣を睨んでいた三人が一斉に動き出す。ブーストをかけ、トップスピードに乗ったまま敵陣の中央へと突っ込んだ。崩れた陣形でこの三人の突撃を迎撃することなどできるはずがない。気づいたときにはもう遅かった。

 

「オラァ!」

「落ちろ!」

 

 鈴の発勁が唸り、一夏の斬撃が走った。そしてその二人の後方から簪が荷電粒子砲とビームマシンガンで弾幕による援護射撃を行っている。未だ立て直せていない敵陣をさらに混乱させるように三人が一丸となって進み、どんどん残存戦力を撃破していく。鈴の発勁はもちろん、一夏の斬撃も零落白夜によるものだ。ほぼ一撃で敵機を撃墜していくために凄まじい速度で殲滅していく。

 

 そう、はじめからこれがこの三人の狙いだった。

 

 時間稼ぎが目的と理解しつつ、士気を高め、守勢にならないために選択した行動は、――――敵第一陣の即時殲滅であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「頼もしいわね、本当に」

 

 IS学園の主要施設に張られたシールド前には楯無を中心とした防衛隊が展開していた。シールド内にすぐに退避できるルートを確保しつつ、ここで敵主力を迎え討つ算段であったため、ここには学園側の主力となるべく、教師陣や上位成績の生徒からの選抜が待ち構えている。

 最前線の三人の役目はこの主力部隊の援護、つまり敵勢力の攪乱と戦力の集中を防ぐ時間稼ぎだ。そのため、一夏たちは決して背後に敵を通すなというオーダーを受けているわけではない。むしろある程度は通して戦況のコントロールをするべきなのだ。

 三人編成の変則部隊であるが、その指揮を任された簪もそれをちゃんと理解しているし、一夏も鈴も愚鈍ではないためにちゃんとそれをわかっている。だが、それでもあの三人が選択したのは殲滅戦であった。そしてそれは見事に成された。貫通高威力射撃から面制圧爆撃、そこへ接近しての残存戦力の確実な撃破。流れるように戦果を上げる攪乱部隊に賞賛する声と歓声が上がる。

 やはり実戦をくぐり抜けてきた経験は大きいのだろう。前線の三人は明らかに戦いに対する躊躇いがない。そして自分たちの役目をしっかりと理解している。あれなら安心して任せられる。もちろん、あの三人に頼りっぱなしになるわけにはいかない。

 

「全員、構えなさい。ここからが本番よ」

 

 そう、問題はここからなのだ。先程殲滅したものは、ただの斥候だ。こちらの戦力を見るための様子見に過ぎない。だからこそ即時殲滅を選択したというのもあるが、ここから先の戦いのためにもなるべく数を減らしておきたかったというのが大きい。

 戦術的にも、第二陣からが本隊だ。数もこの程度ではあるまい。

 

「あの三人だけに負担はかけられない。前衛が攪乱してくれているうちに、確実に一機ずつ撃破しなさい」

 

 そして本隊の反応が現れる。その数、第一陣のおよそ五倍だ。しかも広範囲にわたって展開しており、先程のような密集を狙っての大量撃破ができない。正念場は、ここからなのだ。はじまってすらいない。

 

「目標は前衛の周辺エリア。間違っても当てないで! 砲撃隊、撃て!」

 

 一部の機体に搭載した砲撃武装が敵本隊めがけて放たれる。撃破ではなく、攪乱役の三人への援護射撃だ。さらに味方本隊の前線には近接装備の機体を中心に迎撃の構えを見せている。

 そして、砲撃と攪乱三機の攻撃をかいくぐり、爆炎を抜けて無人機が一機、二機と続けて現れる。そのまま接近してくる無人機に対し、楯無は水を纏わせた蒼流旋を掲げ、大声で号令をかける。

 

「迎え撃つ! 私に続けぇっ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「あっちも始まったか……!」

 

 一夏は無人機を零落白夜で切り裂きながら、横目で本隊同士の交戦を確認する。よく確認はできなかったが、一瞬先頭に立つ楯無が戦っている様子が見えた。

 あの楯無が本隊の前線指揮をしている限りそうそう崩れることはないだろうが、この物量に油断はできない。一夏も、鈴も、簪も、もはや本隊を気にする余裕もない。あたり一面敵だらけ。どこをむいても不快な無人機の顔が見えるのだ。

 包囲されているということだが、同時にフレンドリーファイアを避けるために強力なビーム砲の使用の制限に成功している。無人機たちも三人を落とそうと近接武装を中心とした迎撃を行っているためになんとか戦えている状態だ。十機のうち半数以上は本隊のほうへと素通りさせてしまっているが、たった三機による足止めなら上出来といえる。

 だが、それでも数が多い。乱戦に持ち込み、一夏と鈴ですでに十機以上を破壊しているがまったく減ったように見えない。先の見えない戦いはストレスが溜まるが、集中力を切らせばすぐに集中砲火を浴びることになる。

 

「うっとうしい鉄屑が!」

 

 一夏の隣では乱戦に強い鈴がまさに獅子奮迅の勢いで戦っている。機械如きに鈴の格闘能力を超えることはできず、接近戦を挑んだ無人機はそのすべてが海の藻屑と成り果てている。時折襲いかかってくるビームは龍鱗帝釈布で受け流し、それ以外のマシンガンやバルカンなどの実弾は双天牙月と龍爪を盾にして防ぐ。あまりの物量に回避ではなく防御を中心に対応しているが、威力の大きいものや危険性の高いものはしっかりと単一仕様能力『龍跳虎臥』によって回避している。

 一夏の白式はそこまで防御が得意ではないために回避優先だ。ある程度のものは零落白夜を盾にして防げるので、常に零落白夜を発動状態にして戦い続けている。出力変化と形状変化を会得していなければこんな戦い方もできなかっただろう。

 そんな二人のやや後方から簪が援護する。セシリアには及ばなくても、危険度の高い敵機から射撃で牽制し、二人が守勢に回らないように必至に戦況をコントロールしている。乱戦になった以上、もう『神機日輪:玉』のエクシードバーストは使えない。チャージする時間などもはや存在しないからだ。

 しかし、そんなことは初めからわかっていた。だからこそ、初手で切り札である『玉』によるエクシードバーストの二連撃を使ったのだ。どうせ使えなくなる機能なら初っ端に盛大に使ってやろうという魂胆だった。

 

「っ! 二人とも下がって!」

 

 だが、それでも『天照』の力はこれだけではない。『神機日輪』も、万能型の装備なのだ。簪はビーム無効化フィールドを作り出す『剣』モードにてビームの集中砲火を受け止めようと前に出る。

 鈴と一夏がさっと簪の背後に下がると同時に五つのビームが浴びせられた。その全てを『天照』は受けとめ、拡散、無効化させた。できれば『鏡』モードで反射したかったが、許容キャパシティを読み違えると防ぐどころか貫通しかねないので確実に防御に回った。

 そしてビームを無効化した瞬間、背後から再び鈴と一夏が飛び出て攻撃後の隙を晒した敵機に向かっていく。

 攻撃と防御の分担をしっかり分けて戦うことでうまい具合に噛み合っていた。なにより簪の『天照』の存在が大きい。敵主武装であるビーム砲を無効化できるために最前線での戦闘が維持できる。

 

「私がいる限り、一夏と鈴さんへの直撃なんて通さない……!」

「そしてあたしたちがいる限り!」

「簪を狙わせはしねぇよ!」

 

 遠距離からの大出力兵装を無効化されれば当然接近戦を仕掛けてくるわけだが、それは同時に近接型である一夏と鈴の間合いだ。簪に近づこうとする機体を優先的に狙い、それが功を奏して前衛と後衛で相互援護の関係が成り立っていた。

 実際には綱渡りに等しい連携だった。この三機のうち、一機でも欠ければ待っているのは全滅だ。三人は必死に鼓舞し合ってどんどん襲いかかってくる無人機を相手取っていた。

 こうして最前線で攪乱しつつ数を減らせば、IS学園側の主力部隊が楽になる。時間を稼ぐ分だけ全員の援護に繋がる。

 

「一夏、左っ!」

「わかってる!」

 

 無人機が特攻してくる。こういう戦術もアリなのも無人機の特徴のひとつだろう。自らを使い捨ての駒にする玉砕前提の特攻はそれだけで脅威だ。以前の一夏ならばそれだけで落とされていたかもしれない。

 

「舐めるなよ……!」

 

 だが、それも当然過去の話だ。

 一夏は零落白夜の出力調整をしながら、切っ先をまっすぐに向ける。そこで出力を一気に上昇させながら槍のイメージで以て発動させる。

 瞬間、特攻してきた無人機に槍のように伸びた零落白夜のエネルギー刃が貫いた。さらにそれだけでなく、貫いた無人機の内部から破壊するように矛先が分離し、十字に刃が発生する。それはさながら十字架に貼り付けにされた咎人か。

 一夏考案の遠距離用形状変化技『十文字槍』。『飛燕』より射程距離はないが、二段構えの発動技であるために突撃してくる相手への迎撃技としては十分な代物だった。

 射程が伸びたその状態でついでとばかりに横薙ぎに振り、周囲にいた二機にも斬撃を浴びせて再び出力をニュートラルへと戻す。

 

「やるわね一夏!」

「まぁな……って鈴、後ろ!」

「お?」

 

 鈴が振り向くと同時に接近してきた無人機の一体がハンマーを振り下ろしてくる。見るからに重量級の武器に、まともに受ければ大ダメージを受けるであろうそれを―――。

 

「ふんッ!」

 

 鈴は無造作に片手で掴み取った。無人機にもし感情があれば、驚愕していただろう。

 重量武器を片手で掴み、受け止めるという光景にはむしろ見ていた一夏のほうが驚いてしまう。しかし、鈴は当然のようにニヤリと笑うとそのまま手に力を入れる。バキン、とハンマーに亀裂が入り、そのまま破壊してしまう。体勢の崩れたその機体にもう片方の腕を胴体部に添え、そっと押し出すように動かす。

 

 バギャン、という破裂音とともに、無人機の胴体が木っ端微塵になった。鈴にとって、浸透勁を叩き込むのに振りかぶる必要すらない。密着すればそれで終わる。

 

「あたしを接近戦で倒すつもりなら呂布でも連れてきなさい」

 

 そう宣い、笑う鈴の威圧感が凄まじい。一夏や簪もわかってはいたが、鈴のインファイターとしての能力はもはや疑いの余地がない。今のように、真正面から敵をねじ伏せるパワーを持ちながら、鈴の格闘家としての高い技量と相まって生半可な腕では瞬殺されてしまう。それは無人機が相手でも例外ではなかった。鈴の技量と甲龍のパワー。まさに龍虎一体の体現といえる存在、それが凰鈴音と甲龍である。

 そんな鈴がまさに龍虎の咆哮のように猛々しく号令をかける。

 

「このままどんどんいくわよ! 気合入れなさい!」

「おまえこそ油断するなよ鈴!」

「飛ばしすぎるのもダメだけど……今は勢いに乗る! 落とせるだけ落とす……!」

 

 まさに破竹の勢いで進む。

 零落白夜に貫かれ、発勁で粉々にされ、またビームはすべて無効化される。三人が連携することで大きな戦果を上げていた。これなら十分に、いや、それ以上に攪乱役としての役目を全うできる。冗談抜きで、この三人と本隊の撃墜数が五分であった。本隊は防御に専念しているとはいえ、異常なほどの戦果だ。

 

 しかし、だからこそ、危険も大きかった。

 

 敵にしてみれば、戦果を上げ続けるこの三人から落すべきなのだから。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「なかなかやりますね」

 

 亡国機業の所有する強襲型ステルス潜水艦がIS学園の領海のギリギリ外側の位置に存在していた。その中の一室で、巨大なモニターに映された戦況を見てシールが感心したように呟いた。同じ部屋にはシールの他にもマドカとオータムの二人もいる。その二人は不機嫌そうにモニターを睨んでいる。

 

「斥候とはいえ、第一陣を短時間で殲滅。そして主力部隊に対しあの数で攪乱を行うとは………」

「けっ」

 

 冷静に分析するシールの言葉にオータムが舌打ちをする。マドカもなにも喋らないが似たようにイラついた表情を隠さない。シールとしてはどうしてこうも怒りやすいのか理解に苦しむが、一応亡国機業の幹部としては先輩に当たるので内心ではため息をつきながらも文句は言わなかった。

 

「このまま数でじわじわ攻めてもいいですが、………時間もかかります。そろそろ私たちも動くとしましょう。あの三機をどうにかしたほうがいいでしょうね」

「ならば織斑一夏は私がやる。おまえたちは手を出すな」

「こっちはあの中国の小娘だ。邪魔すんじゃねーぞ?」

「……どうぞお好きなように」

 

 シールとしてはあの場にアイズ・ファミリアがいなければこだわるような理由もなかった。二人がそれぞれ戦いたいというのなら別に構わない。

 

「なら私は学園の主力部隊に強襲をかけます。ロシア代表の……たしか更織楯無、でしたか。あれを撃破すれば総崩れするでしょう」

 

 違うモニターには水を操り、無人機を撃破していく楯無の姿が映っていた。周囲と比べても明らかにレベルが高い。さすがは国家代表を務めるだけはある。教師陣を含めても頭二つ分くらい抜きん出た実力を見せている楯無を落とせば、自然と戦線は崩れるだろう。シールは無感情に狙いを楯無へと定めた。

 

「同時に新型も投入します。試験データを取ることも命令ですからね」

 

 マリアベルからいくつかの新型無人機を預かってきている。そのどれもがトップであるマリアベルが開発したものだ。組織の頂点に立ちながら、同時に最高の頭脳を持つ存在。シールがただ一人、心の底から臣従を誓った女性だ。そんな彼女が面白そうに今回の襲撃を命じてきたが、シールの興味は未だ薄かった。

 アイズ・ファミリア。シールにとって、その存在がいない戦場などただの作業場でしかないのだ。シールには自分の持つ力に絶対の自信がある。そんな己と対峙する権利があると認める者は、アイズだけだ。それ以外など、もはや興味すらない。

 シールは部屋を退出して、格納庫へと足を進めながら無意識のうちに呟いた。

 

「早く、来てください。私はあなたに会いたい」

 

 その声は、まるで恋人を待ち焦がれるようで―――。

 

「そしてあなたを、―――――否定しましょう」

 

 運命だといえる見えない糸で繋がれたアイズに思いを馳せながら目の前に佇む無人機を見やる。これまで一度も投入していない完全な新型機。マリアベルが作り上げたヒトガタ、偽りのIS。

 そしてシールも、戦いに赴くドレスを纏う。真珠の如き白亜の装甲と、天使を象る機体。完全体のヴォーダン・オージェに合わせて開発された唯一無二の専用機『パール・ヴァルキュリア』。この機体もマリアベルが作り上げたもので、デザインも彼女の趣味が大いに反映されたものである。しかしシールもその人智を超えたと思えるような完璧な造形と美しいその芸術品のようなこの機体は気に入っている。

 そんな機体の背部、ウイングユニットにはこれまでにない新たな装備と思われるユニットが搭載されている。これまでの戦闘データから新たに追加された新装備だ。

 戦力を増強し、強くなっているのは亡国機業側も同じなのだ。

 

 最終調整を行っていると、同じくISを纏ったマドカとオータムも合流してくる。彼女たちの機体も以前よりもチューンがなされて性能が向上している。マドカの機体はともかく、オータムの機体は明らかに以前のものよりも強化されているとわかるほど形状が変化していた。

 

「おいおい、ずいぶん気合入ってんなァ」

「ふん………さっさと出るぞ」

「………行きます。あとは各個の判断であそこを落としましょう」

 

 それぞれ狙いはバラバラ。マドカは一夏を、オータムは鈴を目の敵にしているようだが、シールはこだわる相手がいない以上、学園側の主力のひとつであり、指揮を行う楯無を当面の目標に定めた。

 幹部クラス三人の出撃に、潜水艦が急浮上、海中から海上へ出ると同時にハッチを開き、出撃体勢へとシフトする。

 まずは新型の無人機が次々に起動し、三十機ほどの半数は空へ上がり、そしてもう半数は海へと潜水していく。それを確認した三人がそれぞれ武器を持ちながら夜の闇の中へと飛翔する。

 

「マドカだ。『サイレント・ゼフィルスⅡ』出るぞ」

「『アラクネ・イオス』、オータム、出るぜぇっ!」

「『パール・ヴァルキュリア』………シール、出ます」

 

 三者三様の声を上げて出撃すると、すぐにそれぞれの目標めがけて飛翔する。マドカとオータムは最前線で戦っている三機に向かい、シールは高高度からIS学園本隊へと向かっていく。

 

「アイズ・ファミリアが来る前に掃除を済ませておきましょうか………まずは、あれから」

 

 無人機を相手にして次々と撃破していく水を纏った青い機体『ミステリアス・レイディ』を纏う楯無をヴォーダン・オージェで視認したシールが、機体の象徴である巨大な白い翼を展開して飛翔する。

 

 

 

 

 亡国機業の主戦力の投入に、事態はさらに混迷へと向かっていく―――。




少し短かったけどキリがいいのでここまで。

次回から敵も主力を投入してきます。敵戦力ではマドカもオータムもかなりですが、なによりシールがチート級です。
ぶっちゃけるとシールだけで本隊が制圧できるくらい。楯無会長狙いですが、そもそも会長しか対抗できるやつがいない。

次回ではそれぞれ因縁の対決の開始、そして白式の新装備のお披露目の予定です。

それではまた次回に!

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