双星の雫   作:千両花火

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Chapter7 鉄の葬列編 
Act.63 「抗う力と意思」


 夏休みを終え、IS学園にも多くの学生が戻ってきた。世界中から生徒が集まるこの学園特有の学校風景に懐かしさすら感じながら生徒たちは和気あいあいと一月ぶりに再会した学友たちと笑い合っている。

 そんな生徒たちから離れた整備室の一角に一夏はいた。この夏休み、いろいろと話せない体験をしてきた一夏であったが、その経験が一夏の意識にもなにかしらの変革を促したようだ。本人には自覚はなくとも、その顔つきは夏休み前とはまったく違っていた。なにか覚悟を決めたような、そんな心構えが一夏の雰囲気を変えていた。それはただでさえ視線を集めていた一夏に新たな魅力を付加させていた。今なら顔付きだけで簡単に女の子を落とせそうだ。

 しかし、本人はいたって真面目に目の前のディスプレイを睨んでいる。そんな一夏の横では簪がさまざまなデータを打ち込みながら一夏に説明をしていた。

 

「…………おおまかな説明はこんなもの。わかった?」

「正直に言えば、五割くらい………だな」

「無理もない。こんなものを寄越してきた博士がおかしいだけ」

 

 二人の目の前には大きなコンテナが鎮座しており、そのコンテナに大小様々なコードが接続されている。なにかしらの新型機か装備のようだが、それにしては大きさもかなりのものだ。通常のISがまるまる三機は入りそうなほどの大きさで、この整備室の一角を陣取っている。

 

「博士がお土産って言ってたときはもっと可愛いものを想像してたけど………なに、この、……怪獣?」

「あの人のやることだからな。まぁ普通じゃないとは思ってたよ。それにしても………まさに怪獣だな、これ」

 

 先日、カレイドマテリアル社所属の四人を残してIS学園へと戻ってきた一夏たちであったが、そのときこれからの戦いに必要になるとしていろいろな戦力の増強プランをもらった。そのうちのひとつがこれだ。

 いろいろと裏工作を経て、先程IS学園へと届けられたコンテナは束が一夏のために用意した贈り物だった。一夏に渡されたのは『白式』の強化プランとして、『白式』をサポートするための専用支援装備であった。

 『白式』自体は大幅な強化ができない状態であるため、追加装備を用意すると聞かされてはいたが、これは装備なんてレベルのものではない。もはやもう一機の『白式』とでもいうような代物だった。イメージとしてはティアーズのような大型のパッケージに近いが、あれよりも遥かに規格外といえるものだ。調整だけでも一夏の手に余るとして急遽簪に協力を仰いだのは英断であった。

 そして簪も実物を目の当たりにしてつい先日知り合った世界最高峰と言われる変人、もとい、天災、いや、天才の科学者の篠ノ之束が作り上げたこれはもはや現在のISの流れに革命を起こすものだと思えた。

 

「………『白式』は弱点も多いけど、それを補って余りあるほどの力、『零落白夜』がある。下手に機体を改造するより、こうした強化をするほうが理にかなっているのは確か」

「それに一応機体のプログラムをいじって多少燃費も解消されたしな」

「今の一夏には意思次第で零落白夜の出力をコントロールできるから、よほどの長期戦でない限りあまり燃費のことは気にしなくてもいい。………まさか出力変化と形状変化を使えるようになっていたのには私も驚いた」

「それしか、素人の俺が強くなる道がなかったからな」

 

 苦笑する一夏だが、その努力と成果には簪も素直に尊敬の念すら覚えた。確かにセシリアをはじめとした面々との模擬戦の経験や、多くのアドバイスを受けたためというのも大きいだろう。しかし、そこからしっかりと自身に合った強さを見出し、具現化した様は見事というしかない。

 セシリアや鈴が口を揃えて『末恐ろしい才能』だと一夏を評する理由がよくわかる。これでISに乗って半年程度など信じられない。そう簡単に追い抜かれるつもりもないが、近いうちに並ばれるかもしれない。そんな危機感すら抱くほどだ。

 

「私も負けてられないね」

「いや、俺からしたらあの『天照』のほうこそチートなんだが」

 

 アイズや鈴みたいな近接物理型には相性が悪いとはいえ、ビームやレーザーの無効化、さらには反射も可能で挙句には通常武装の威力を跳ね上げることもできる特殊装備『神機日輪』。無人機プラントへの強襲作戦のときには、この力で地下基地をまるごと貫いたらしい。攻撃、防御共に恐ろしい能力を持つ簪の『天照』は、もはや第三世代機を凌駕している。

 なにより無人機や、カレイドマテリアル社製の機体くらいしか大出力兵装を使うためのウェポンジェネレーターが搭載されていない。ごく一般的なISの常識では、未だ単体での高出力ビーム兵装はエネルギー供給に問題があり技術が追いついていないというのが現状である。無人機はその特性から、カレイドマテリアル社製の機体は束がいることで既に数世代先の技術が積み込まれているが、これらはあくまでごく一部の例外である。それにもかかわらずに簪の機体には大出力エネルギーの対抗策が完成されているのだ。言うまでもなく、それはその数世代先の、そのさらに先の技術といえる。明らかに対無人機を想定された機体であった。

 

「博士には感謝してる。これを使いこなせれば、きっとアイズも守れる」

「……本当にアイズが好きなんだな」

 

 苦笑しながら一夏が言うと、簪は本当に幸せそうな笑みを見せた。そんな笑顔を見せられれば、一夏はもう茶化す気も起きなかった。

 

「それはそうと、今は一夏のほう。これを使いこなすには相当の時間がかかるよ」

「だよなぁ。実機訓練にも気を遣いそうだもんな」

「まずはスペックを頭に入れること。それから少しづつ訓練していけばいい」

 

 こうした情報処理や整理といった作業においては簪は誰よりも長けていた。もともと『天照』の前身となる『打鉄弐式』の調整をたったひとりで行ってきた経験も今の簪にはプラスになっていた。複雑極まる『白式』の追加支援装備の調整を無駄なく的確に行っていた。

 

「すまないな、簪がいて助かった」

「気にしなくていい。私もいい経験になる」

「悪い。なにか飯でもおごらせてもらうよ」

「それは箒さんにしてあげて。彼女、いろいろ悩んでいるみたいだし」

「……そう、だな」

 

 箒は戻ってから普段通りの生活を送るようにしているが、どこかぼーっと考え事をすることが増えた。表情には憂いの色が浮かんでいるが、同時に以前よりも雰囲気が柔らかくなった。これまで抱え込んでいた不安が解消されたが、同時にこれからのことを悩むようになった。それは他人がどうこう言えることではないが、一夏なら箒の悩みを聞いてやるだけでも箒のためになるだろう。

 

「とにかく、実機訓練はなるべく少数で、人目につかないように行うほうがいい。そのあたりも博士が手を回してくれたみたいだから、なんとかなる」

 

 オーバースペックな試験装備の使用のために完全秘匿環境での慣熟訓練ができるよう、カレイドマテリアル社からIS学園へ要請をかけるという形でイリーナが手を回していた。かなり強引な手を使ったために、アリーナの使用時間も限られるが外部から完全に遮断された環境下での使用ができる。もちろんまっとうなIS学園の職員はいい顔はしないが、それも仕方ない。

 

「博士も、アイズも、セシリアさんも、焦ってる」

「やっぱ、そうだよな。こんなのを渡すくらいだ。俺でもそれはわかる」

「事情がなきゃ、こんな化け物級の装備を渡したりしない。きっと、最悪を想定してる」

「最悪………それって」

「亡国機業の、直接的な侵攻」

 

 一夏がそれを聞いて冷や汗を流す。よくよく見れば簪も肩が震えていた。

 それはつまりどれだけの数がいるかもわからない無人機の大群を相手にするということだ。確かに今の一夏でも無人機単体に負けることはないが、その数がまさに暴力的だった。あのプラントを直接見ただけに、亡国機業が世界でどれだけの無人機を製造しているのか想像もできない。そしてあの圧倒的な数で押し寄せる物言わぬ機体の群れは、さながら黄泉路へと誘う葬列とすら思える。

 そしてそれらを統率するシールやマドカといった凄腕の操縦者も敵にいるのだ。

 

「………戦力の増強が急務ってことか」

「そして、敵はこちらの事情なんて考えないってこと。過去にここを襲撃したことからも、決してあいつらの狙いはカレイドマテリアル社だけじゃない。ここだって十分に狙われる危険がある。………まぁ、一番危険なのは、あの島だろうけど」

「だからセシリアたちはここにいないわけだしな」

 

 二学期が始まって三日経つもセシリアたちは未だに戻ってきてはいない。どれだけの数があるかは不明だが、貴重なはずのプラントのひとつを潰したのだ。なにかしらの報復行為がされると予想してその備えとしてアヴァロン島へ滞在したままになっている。

 しかし、その気になればイギリスから日本まで短時間で移動できる技術も当然のように持っているために学園からでも火急の時にはすぐさま行動することができるらしい。だから学園に戻ることも特に大きな問題ではないので、そう遠くないうちに復学するとは言っていた。

 当然、セシリアたちもなにもしていないわけじゃない。対無人機戦のための新装備や、機体そのもののさらなるチューンを施すという。

 

「あのセシリア達がそこまで警戒してるんだぜ? あいつら、この学園でもどれくらいの位置だと思う?」

「…………セシリアさんとアイズは、IS学園最強と言われてるおねえちゃん……生徒会長と互角以上。本人が言ってたから間違いない。シャルロットさんやラウラさんも、間違いなく上位」

「そんなやつらが揃ってああだからな。そりゃあこっちも不安にもなるさ」

「だからこそ、一夏にこれを託したんでしょう? 表向きは白式の追加パッケージってことらしいけど、そんな可愛いものじゃないし」

「…………これ、公式戦じゃ使えないだろ」

「どう考えても実戦しか想定されてないよ。文字通り、命懸けの」

 

 一夏は改めて手元の資料に目を向ける。白式追加兵装『白兎馬』。小さく見積もっても白式の三倍以上ある大きさの体躯を持つ追加兵装で、これまで聞いたことのない武装、機能、運用方法を持つ未知の代物である。まさに怪獣というにふさわしいオーバースペック兵装だ。

 だが、しかしそれでも、安心などできなかった。

 敵として明確にその存在を確認した亡国機業の戦力は、なんといってもその数だ。数多の巨大な組織や軍隊、そして国すら裏から繋がっているとされるその生産力はもはや脅威だ。おそらくドイツにあったプラントも、数あるうちのひとつでしかないだろう。

 いったい何体の無人機が製造され、実戦配備できるのか想像できない。だが、その数はおそらく百や二百じゃ済まないだろう。標準的なタイプの無人機ならば、強力な武装にさえ気をつければこの学園でも中堅から上級者クラスになれば一対一での勝率は多分にある。だが、逆を言えば数の暴力で攻めてくる相手に、その程度のことしかできないのだ。たった一機に勝っても、それではダメなのだ。

 圧倒的な数の相手に、対多数戦で戦えるほどの力量があって初めて対抗できる。プラント襲撃の際には狭い空間内での戦いだったから少数で攻めたこちら側が有利だっただけだ。もし、なにもない広い空間で包囲されれば、敗北は必至だった。

 しかも、敵方には様々なタイプの新型機の製造まで確認されている。戦力差は圧倒的に負けているのだ。その差を埋めるべく、様々な手を打っている。

 

「そのひとつが、これってわけか」

「私の『天照』だって、普通は身内じゃないのにここまでの機体は提供しない。味方になり得る人物だったから、ここまでしてくれた。アイズのためっていうのも、間違いじゃないけど。あの人たちは情だけじゃなにもしない。情と利があったから力をくれた」

「…………」

「だからこそ、それは信頼にほかならない」

 

 情だけでもなく、利もあると判断したからこそ、その人物を信じたという証左になる。そうでなければ、ヤバイ技術を集めた機体を与えることなどしない。簪はそのあたりの理由もちゃんとわかっている。

 

「私は信頼に応えなきゃならない。そして、一夏も」

「力をもらった責任ってやつか」

「私たちは、力を欲した。でしょ?」

「そうだな」

 

 簪にとってきっかけはアイズを守るためだが、それは今も変わっていない。そして、アイズの目指すものを、アイズの往く道を守る防人でありたい。そのために力を欲した。

 それが『天照』。『神機日輪』という、対粒子変移転用集約兵装を持つ機体。

 そして一夏にも与えられたのだ。一夏の守りたいものを守るための力、そしてそれはカレイドマテリアル社にとっても有益だと判断されたから、一夏は世界最高峰の技術から生み出されたこれを手にできた。

 

「使いこなしてやるさ。こいつを……!」

「よし、ならあたしが手伝ってやろうじゃない」

「うおっ!?」

 

 いきなり背後からかけられた声に一夏がビクッと驚いて振り返る。そしてやはり、そこにいたのは鈴であった。作業机の上に腕を組んで立っており、まるで仁王像のような威圧感を出す少女はニヤリと笑って一夏を見下ろしている。

 

「あたしも協力してお礼ってことでちょっとお土産もらったしね。それに今の一夏ならずいぶん愉しい勝負ができそうね。今はセシリア達もいないことだし、この三人で徹底的に鍛えようじゃない。とりあえず新装備の試験がてら三人でバトルロイヤルでも……」

「おまえはただ戦いたいだけだろ」

「それ以外なにがあんのよ」

 

 呆れる一夏の言葉に、しかし鈴は笑って応えた。

 

「あいつらぶっ倒すのも、大事なもん守るのも、結局は強くなきゃできないでしょーが。相手は話し合いなんてしてこない。向けてくんのは暴力よ。なら対抗するには力しかないじゃない」

「………世知辛い真実だ」

「でも事実。今の私たちにできることは、強くなること」

「やるわよ。一夏、簪。力が全てとは言わないけど、力のない者は願いを押し通すことさえできないんだからね」

 

 暴論のようでも、それが今の現状であった。話さなきゃわからないこともある。かつての簪と姉の楯無との関係のようにそれで解決できることもある。だが、これから立ち向かう相手は、そんなものが意味をなさないのだ。

 それを理解している三人は、力強く頷いてアリーナへと向かっていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「理論値を超えました。なおも適合数値の上昇が止まりません」

「…………うっひゃー、私はまだアイちゃんを過小評価してたみたいだねぇ」

 

 カレイドマテリアル社の誇る頭のおかしい天才たちが集まる技術部の極秘ラボでは、多くの研究員がこの実験に興味を示し、そして示された結果に大興奮だった。その中で、実験の統括をしていた束は、目の前の光景から目を離せずにいた。その口元ははっきりと笑っている。

 

「アイちゃん………間違いなく世界最高のIS適合者だね…………悲しいけど」

 

 この実験の目的は第三形態の状態によるコアとのシンクロ係数の最高値の計測だった。ティアーズは世界で二機しか存在しない第三形態移行可能機。そしてアイズは個性を獲得したコアと会話するまで意識をリンクできる操縦者。この二つをかけあわせたとき、どうなるのか。それはIS技術者なら注目せずにはいられないお題目であった。

 そして、今目の前では第三形態へと移行したレッドティアーズがいた。第三形態は第二形態と違い、可逆型の進化だ。通常形態から、一時的に第三形態へと変化する。その理由は、第二、第三では形態変化の意味が違うためだ。

 そもそも、なぜ形態が変化するのか。第一形態は機体と操縦者がただ一緒になっただけの状態だ。ISという機体が、人間とリンクするために最低限の調整をしただけだ。それが初期フィッティング。

 そして第二形態は、その操縦者とシンクロするように、適した進化をした形態だ。格闘戦が得意なら近接特化寄りに、素早く動くなら機動特化よりに。操縦者の長所を伸ばしたり、また短所を補うようにより適した進化をしたものが第二形態。この第二形態が、おおよその意味で完成系と言える。

 そしてその先が第三形態。適正な第二形態以上のものとなれば、それはすなわち潜在能力の開放にほかならない。言わば、火事場のバカ力と呼ばれる、普段はリミッターがかかっている部分の発現だ。だからあくまで一時的な形態変化なのだ。

 今のレッドティアーズは各部の展開装甲が開放され、普段は装甲内部にあるエネルギーラインが赤く発光している。それはさながら身体を巡る血脈のようだ。装甲の形状も一部が変化しており、その中心で佇むアイズは自然体で変化したレッドティアーズを纏っている。

 

 コアとの会話ができるようになったアイズは、今では文句なしに世界最高のIS適合者だ。単純な戦闘能力でいえば、セシリアやシールといった面々には一歩譲るかもしれないが、ISコアとの適合値でいえばこの二人すら軽々と上回る。そして適合値の高さは、可能性の大きさと直結する。ISコアと深く繋がることで、未知の領域の力を覚醒させることだってあるのだ。現に、アイズの奥の手中の奥の手である『L.A.P.L.A.C.E.』など、もはや魔法としか思えないものを発現させている。

 そして、今現在のアイズの潜在能力を示したひとつの結果がこれであった。

 

「信じられない……っ、適合ランク換算、計測不能って……!」

「…………もう、完全に文字通りの意味で、人機一体の領域ってことだよ」

 

 よくよくみれば、バイザーで隠れているアイズの表情だが、かすかに見える口元は笑っていた。ときおり、無邪気に笑い声すらあげていることから、おそらく本人は意識リンクでコア人格『レア』と楽しくおしゃべりしているのだろう。束が実験中は適当におしゃべりしていていいよ、と言ったのでおそらくはそのとおりにしている。本人は相変わらず、無邪気に自身の力を自覚しないまま周囲を驚かせている。

 きっと、はじめから高い資質があった。そしてそれだけでなく、ヴォーダン・オージェを移植され人工的に強化されたこともある。そこで地獄のような日々から這い上がってきた精神力、空への渇望を宿す意思、そのために敵と認識したものを容赦なく倒す思考。何度も挫折と壁を乗り越えて純粋培養された夢追いの意思は、他に類を見ないほどの強固な精神となってアイズに宿っている。もちろん時には迷う。だがその芯が揺らぐことはない。

 皮肉にも、平穏とは程遠い激動の半生がアイズを世界最高のIS適合者へと押し上げた。

 

「それなのに、アイちゃんは笑うんだね」

 

 痛みと引き換えに手にしたモノ。しかし、それでもアイズは感謝している。

 

「悲しい、けど………きっとアイちゃんはそうは思ってないんだろうね」

 

 それを証明するように、アイズはずっと笑っている。本当に、幸せそうに。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 星の天蓋。アイズとレアは、この空間をそう名づけた。データ世界なのか、精神世界なのか、アイズとレアがリンクしたときに二人が出会うこの場所で、二人はゆっくりとくつろぎながら会話していた。

 今回は実験中はずっとレアと意識をリンクさせているアイズは、表の騒動とは関係なくおしゃべりを満喫していた。

 完全に潜在能力を開放させる形態となっているため、レアと話す時間も普段よりたっぷりある。

 

 

『アイズは、いつでも楽しそうだね』

「そうかな?」

『もちろん、怒るときも悲しむときも多いけど、でも結局アイズは、なんでも受け入れてる気がするよ。私には、そう伝わってる』

 

 アイズの精神を糧にここまでレアは成長した。その言葉には大きな説得力があった。

 

「レアがそう感じているなら、そうなのかな……」

『繋がっている私に嘘はつけない。でも、だからこそわからないこともある』

「ん? なにが?」

『私もコアだから、コアネットワークを通じて人を知ることができる。その中でも、やっぱりアイズはおかしいよ。普通なら発狂してもおかしくない経験しているのに、その過去を受け入れている。普通じゃそんな割り切ったりできないんじゃないかな? アイズは私たちとは違って、もともと機械じゃないんだから。人間って機械みたいにキレイに割り切れない生き物なんでしょう?』

「……そうかもね。でも、ボクはそんなんじゃない。ボクは過去より未来を取ったんだ」

『望む未来を手にするために、どんな過去でも受け入れたの?』

 

 それはレアにとって純粋な疑問だ。リンクしているとはいえ、すべてがわかっているわけじゃない。まだレアが理解しきれない部分は多くある。これはそんなひとつの疑問だった。

 

「もちろん、呪うくらい憎む過去だってあるよ。でも、ボクは見たい夢があるだけ。そしてその夢は過去じゃなくて、未来にある。それだけだよ」

『じゃあ、未来を過去のようにされたら、どうするの?』

「そんなの決まってる。……………全力で抗う。そうしなきゃ、なにも守れない。なにも、貫けない。傍観していたら、なにも変われない。それが、ボクが過去で学んだものだから。ボクの我侭だとしても」

『だと、しても?』

「ボク自身の自慢できる過去なんて……………夢だけなんだから」

 

 そこではじめてアイズは表情を曇らせた。それは、自嘲しているかのような顔だ。似合わない顔だ、とレアは思った。

 

「あとは、もらったものばかり。セシィや束さん、みんなから。ボクはもらってばかりだ。でも、ボク自身がもってるものは驚く程少ないんだ」

『………』

「ボク自身が持ってるものなんて………もう、夢くらいしかないんだ」

『アイズって…………やっぱりバカ』

「知ってる」

『そういうとこも、バカ。バカバカ、バーっカ』

「うぅ、そこまで言わなくても………」

『そんなバカなアイズには、…………やっぱり私がいないとダメだね』

「うん、よろしくね」

『わかってたけど、アイズって自分のことにはけっこう天然だよね』

「そうかなー? でもレアだって!」

『アイズには負けるよ。だってある意味、アイズは私のオリジナルだし?』

「でもレアのほうがなんかしっかりしてるような………うっ、自分で言ってて落ち込みそうになるよ~」

 

 二心同体ともいえる境地にあるアイズとレア。束が目指したその先へ往く二人は、しかしどこまでも無自覚に、ただ笑い合っていた。

 




新章開幕。今はまだ平穏ですが、とうとうIS学園が火の海になるときも近くなってきました。

とりあえず序盤は一夏、鈴、簪などのメンバーが頑張ります。更織姉妹の共闘なども描きたいなーと思ってます。
白式の新装備のお披露目も近いです。怪獣、と呼ばれるにふさわしいブッ飛んだものを考えてます。

最近は暑くなってきました。健康にはご注意ください。

ではまた次回に!

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