双星の雫   作:千両花火

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本編とは直接関わらない番外編です。

キャラ崩壊、少々の義姉妹百合描写があります。ご注意ください。


幕間
Act-Extra2 「金眼三人娘(前編)」


「思ったより時間かかっちゃったね……毎度毎度、健康診断っていうか、完全に精密検査だったけど」

「仕方ありません。私と姉様は、この目のことがありますし」

 

 カレイドマテリアル社の本社にて行われる健康診断にやってきたアイズとラウラは疲れた身体を解しながら正面ロビーでくつろいでいた。今回は健康診断をしてこいと言われ、アヴァロン島からわざわざやってきたのだが、行われたのは健康診断ではなく何時間もかけて行われた精密検査であった。

 それもそのはず、アイズとラウラは確認されているだけでも世界で三人しかいないヴォーダン・オージェの完全適合体。ラウラは片目のみであるが、人造生命体として定着した成功例で、アイズは後天的に定着した唯一の成功例だ。実験サンプルを取るようで気分はよくないが、それでも二人の安全性を確保するためにも定期的な検査は必須であった。

 もちろん、この二人の検査資料は最高レベルの秘匿情報とされており、二人を検査した医療チームもイリーナの信頼がおける数少ない人員だけで構成されている。過去に社に入り込んで泳がせていたスパイがこの情報を持ち出そうとした結果、束とイリーナの怒りを買って闇に葬られている。一応生きてはいるらしいが、社会的にも裏社会的にも完全に抹殺した。きっと死んだほうがマシだった。

 ともかく、そのために病院ではなく本社でこうした検査は行われるのであるが、長い時間拘束されていた二人にとっては退屈な時間であった。もちろんそれが必要だと理解しているので文句など言わなかった。だが愚痴は言う。

 

「島に戻る便は明日かぁ……それまでどうしよっか、ラウラちゃん」

「姉様は予定などはないのですか?」

「うーん、特にないんだよねぇ、ここだとテストパイロットのお仕事もできないしね」

「そ、それではどこか遊びにいきませんか? 姉様、よ、よろしければ私と、デ、デートなど……!」

「あ、いいね! そういえばラウラちゃんと二人きりで遊びにいったことってなかったよね? じゃあどこか遊びにいこっか?」

「は、はい! エスコートいたします姉様っ!」

 

 緊張して敬愛する姉をデートに誘ったラウラはその返事に目を輝かせてアイズの手を取った。有事以外は基本的にアイズは目を封印している。もちろん、AHSシステムを使えば視力を得ることはできるが、日常生活は既に視力を無しに過ごすことが普通になっている。アイズ曰く「リスクもゼロじゃないし、頼りすぎるのはよくない」とのこと。だからこうしたお出かけは必然的に誰かがアイズの手を握ってエスコートすることになる。そしてその役目を与えられたラウラは嬉しそうにアイズの細い指と自身の指を絡めた。

 

「じゃ、いこっか。ラウラちゃん」

「はい、姉様!」

 

 仲良くエントランスから出て行く姉妹に萌えた愛好会メンバーが静かに写真を撮っているが、二人は気づかない。悪意には敏感だがこうした視線には少々鈍かった。後日、その写真がカレイドマテリアル社姉妹愛好会のデータベースへと登録され、多くの会員たちを悶えさせることになる。

 

 

 

 ***

 

 

 

「姉様、どうやら近くに話題のアイスクリーム屋があるようです」

「お、じゃあ次はそこだね! うまうま。あ、ラウラちゃんも、はい、あーん」

「あ、あーん」

 

 仲良くワッフルを食べながら次の甘味に胸をときめかせるアイズ。二人が選んだのは普通の女子高生らしいこと、をテーマにおいしいものを買い食いすることであった。鈴がよく「JKは放課後にお菓子を買い食いするのがデフォなのよ、うけけ」と言っていたためである。

 ラウラが観光雑誌を片手に慣れないイギリスの町を先導し、アイズがニコニコしながらラウラに手を引かれてついていく。片や眼帯、片や目隠しをした美少女二人の姿は否応にも目立つが、あまりにもほのぼのした空気に皆微笑ましくそんな二人を見やっていた。

 

 

「ここの六階ですね」

「人の気配がたくさんだねー」

 

 やってきたのはやや郊外に立地しているショッピングモールだった。その中でも一際大きな建物の六階にあるアイスクリーム店が目的だ。平日なのだが最近流行りのスポットだけあってそれなりに多くの人がいる。ラウラがゆっくりアイズの手を引きながら進み、エスカレーターで六階へ。六階は飲食フロアで、そこらからおいしそうな匂いをアイズの嗅覚がしっかり捉えていた。

 

「さすが人気店、たくさん並んでますね」

「こういうのに並ぶのも買い食いの醍醐味だって鈴ちゃんが言ってた」

「それではこちらに。最後尾は…………ッ!!?」

「あれ、どったのラウラちゃん? ……ん、なんか知ってる気配が……」

 

 息を呑むラウラの気配に不審に思ったアイズだが、よくよく周囲に気を回してみるとアイズもここ最近感じたことがある気配があることに気付く。

 

「…………って、あれ? こ、この気配、それにこのナノマシンの疼きは……」

 

 瞳の中のナノマシンが共鳴現象を起こしたように反応している。AHSシステムで調整、制御しているため、ラウラとアイズのヴォーダン・オージェ同士が過剰反応することは抑えているため、必然的にそれ以外の個体との共鳴となればその人物が限られる。というか一人しかいない。

 

「こ、こここの感じはまさか………!?」

「な、ななななんでここに!?」

 

 アイスクリーム店に並ぶ列の最後尾、白い髪に白い肌、そして白い服、すべてが白に統一されたその人物は、まるで天使のような汚れのない純白を見せつけている。そのあまりにも人外級の美に多くの人がその人物に視線を送っている。

 だが、ラウラは驚愕と敵意を乗せてその人物を睨みつけた。

 

「なんでここにいるんだ……!?」

「うるさいですね、もう少し静かに並べないんで、……す、か………」

 

 振り返った人物がラウラとアイズを見つめて目を見開く。表面上はいつものポーカーフェイスだが、内心では焦りまくっているその人物………亡国機業幹部にしてヴォーダン・オージェの人造完全適合体であるシールは内心を押し隠して冷ややかな視線を二人へと向けた。その瞳は戦ったときのような金色の輝きは宿しておらず、穏やかな琥珀色をしている。

 

「あなたたちですか。試作品と模造品が揃ってなにをしているのです?(しまった、アイスに気を取られて感応を見逃してた……迂闊な!)」

「こっちのセリフだぞ、テロリスト風情が並んでアイスを買いにでもきたのか?」

「あ、そうなんだ? なんか親近感」

「くだらない仲間意識をもたないでくれますか?(くっ、ということはこの二人もここのアイスを……? まさかエンカウントするとは、早くこの場から離脱、いえ、しかしアイスを買わずには、いやしかし……)」

「ふん、アイスを買いにきたのは事実だろうに。一人でアイスの買い食いとは寂しい限りだ。その点私は姉様と一緒だがな!(ドヤァ)」

「なにを偉そうにしているのやら。私は任務中です。さっさとさりなさい。見逃してあげましょう。(くそっ、やっぱりこんな任務受けなきゃよかった! しかしオータム先輩ならともかく、まさかプレジデントの勅命を断るわけにも……!)」

「なんだか少し………、ううん、かなり親近感わくんだけど……。亡国機業って秘密結社の割には楽しそうな職場なのかな?」

「ふん、ブラック企業もいいところだろうに」

「侮辱しているのですか? 我々のプレジデントは福利厚生にはうるさいのです。規定外の残業や休日出勤もしっかり禁止する優良企業です(まぁ、プレジデントの遊び好きには少し困りますけど)」

「悪の秘密結社が残業禁止って……で、でもうちの会社だって優良だよ! イリーナさん怒らせたら怖いけど! めっちゃ怖いけど! 泣きそうなくらい!」

「ああ、あの暴君ですか。有名ですからね、悪名高くて(まぁ、うちのプレジデントも相当ですけど……うっ、やはり是が非でもアイスを買って帰らねばなにをされるかわからない……! オータム先輩の二の舞にはなりたくないのです!)」

 

 微妙に外面と内心がそれぞれ噛み合っていない会話を繰り広げる三人。傍目は目を引く美少女三人の醸し出す空気に若干引いている。一部興奮したように息遣いを荒くしている人間もいたが、三人は外野など完全に眼中になかった。

 仲のいい友達同士でじゃれているようにも見えるが、この三人、それぞれ殺し合いにも等しい争いをした面子である。

 アイズはシールに最低二十回は剣で切りつけられているし、アイズもシールを突き刺したこともある。ラウラはシールに嬲られたことから反逆的な目をしている。さらにいえばアイズとラウラも命懸けの戦いをしたことが姉妹になる馴れ初めだ。

 

(くっ、しかし本当にパシリでアイスを買いにきたなんて言ったら舐められる! なんとかこいつらを追っ払わないと……! たしかオータム先輩からこうしたときの恫喝を教わっていましたね……!)

 

 動揺から少し混乱気味のシールは一番参考にしてはいけない同僚の助言を思い出していた。幹部の中では一番下っ端であるが、先輩幹部である面々も癖の強い人物ばかりである。チンピラのようなオータム先輩、クールにしているようでキレやすい瞬間沸騰器みたいなマドカ先輩。そしていかにも大物オーラを纏っていてなんだかんだで一番頼りになるスコール先輩。そしてこの面々の頂点に立ついつもニコニコしている天使のような悪魔、プレジデント:マリアベル。

 よく一緒に仕事をするのはオータム先輩だからか、彼女を見習ってシールは意味もわかっていないのに中指を立てる。

 

「なんですか、やる気かコラァ。いい根性してるじゃないですかァ」

「うわっ、すっごい口調変わった!」

「下がってください姉様! こんなやつ、私が追い払ってやります! これでも元軍人です!」

「(あれ、まったくひるんでない。話が違うじゃないですかオータム先輩ィ! こうなったら実力行使で……!)」

 

 護身用のナイフを服の下で握るラウラ。それに対抗してシールも腰元へと手を当てている。そこにはなにか不自然な膨らみがあった。形からしてナイフのようだ。アイズは見えていなくても二人が殺気立ったことを感じ取って慌てて間に入る。

 

「やめてぇ! アイスのために争わないでェ!」

 

 一番ズレていたのはアイズだった。

 アイズはまるで物語のヒロインのような悲壮感溢れる声とモーションで二人を止めようとする。それは演技派女優も賞賛するほどの感情が込められた動きだ。周囲のギャラリーはくだらない理由なのにアイズの動きで少し感動してしまうくらいだ。

 

 

「お客様、店頭ではお静かにしてください」

 

 

「「「あ、はい。すいません」」」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 果たして、三人は無事にアイスを買うことができた。

 シールは大量にお土産として買い込んでいたので、それをアイズが指摘すると疲れきったようなシールが「社長命令なので」と真実を告げるとアイズとラウラが揃って爆笑してシールをイラつかせたりしていた。そしてそのアイズとラウラは買ったアイスを互いに食べさせ合っており、間接キスなど当たり前なその仲睦まじい様子にシールはよくわからない苛立ちを覚えたりと、相変わらず三人の不協和音の掛け合いが続いた。

 警戒心こそ消えていないが、今日はオフのためか、それぞれISを起動させての戦闘などする気もなく、ただただ互いに不毛な会話を繰り広げている。唯一、シールに戦う気がないと気配で察しているアイズだけは楽しそうにニコニコしている。そしてそんな姉の姿を見て場違いな嫉妬心をシールに向けるラウラが歯軋りしながらシールを睨みつけ、シールはどこ吹く風で受け流して、自分と一緒にいても敵意を見せないアイズに訝しげな視線を送っている。まるで噛み合わないトライアングルがそこにはあった。

 

「どうして私とこんな話などできるのです? 私が何度あなたを殺そうとしたかわかっているのですか?」

「三回くらいだっけ?」

「姉様、回数など問題ではありません。大丈夫です姉様、私が姉様を守ります!」

「うるさい模造品ですね、今日はオフだと言ったでしょう? 襲う気はないから殺気をしまってもらえませんか?」

「オフなのにパシリしてるんだ? 大変だね」

「その本当に同情するような目をやめてもらえます?」

「かわいそう」

「やめろっつってんだろぅがァ! この三下がァ!」

「ねぇ誰に教わったの? その喋り方」

「くっ、やっぱりひるまない。やっぱりオータム先輩の助言は役に立たない」

「オータム? あの鈴が『私の獲物だ、また今度遊んでやるんだ』とか言ってたやつか。やたらと気に入ってたぞ?」

「(オータム先輩、あなたが一番舐められているじゃないですか。自信満々に「こうすりゃビビるぜ!」って言ってたのに)」

 

 シールは内心で役に立たないオータム先輩をディスりはじめていた。先輩面するくせになんたるザマだ、大口叩くくせに負けっぱなしだし、使えない先輩だ……とけっこうヒドイことを思いながら買ったアイスを取り出してペロリと舐める。人気店だけあってなかなかに美味い。ドライアイスで保存しているとはいえ、はやく帰って先輩やボスに渡さなくては、と思いながらも食べることをやめない。

 隣では相変わらず姉妹が仲良くアイスを食べて微笑んでいる。戦っているときは二人とも鬼のような形相で敵を圧潰すような気合を向けてくるというのに、こういう姿はごくごく普通の少女のようだ。いや、シールも普通の少女の定義がイマイチわかっていないので確証はもてないが、なんとなくこういうものなのだろうと感じていた。

 それに、そんなものは幻想みたいなものだ。この瞳を持つ限り、そんな日常を謳歌することなどできないのだから。

 

「姉様、ほっぺにクリームが」

「ん、ありがとラウラちゃん。指出して、舐めてあげる」

「は、はい!」

 

 つーかなにやってんだこの姉妹。アイズの頬についたクリームを掬ったラウラは、顔を紅潮させながらおずおずとアイズに差し出した。そっしてごく自然にその手を取り、指を口に含むアイズ。そのまま指チュパをはじめた。

 

 マジでなにやってんのこの姉妹………とシールは本気でドン引きしながら蔑むような目を向けている。

 

「ん? どうしたの? やってほしい?」

「ダ、ダメです姉様! 姉様の舌は私だけのものです!」

「いやボクの舌はボクのものだけど……? でもなんかラウラちゃん可愛い!」

 

 飛び火してきた甘ったるい会話にシールがため息をつきながら心底思う。なんで自分はこんなやつにこだわっているのだろうか、と。姉妹ごっこに興じる試作品と模造品……シールにとってアイズとラウラはその程度の存在のはずだ。なのに、こうした姿を見ると、なんだか、そう、よくわからないが、胸のあたりがムカムカするような、そんな意味のわからない苛立ちを感じてしまう。

 いったいこの気持ちはなんなのだろう。これがオータム先輩の言っていた「リア充爆発しろ」の心理なのだろうか。

 

 そんな現実逃避の思考をしていたシールであったが、そろそろめんどうな現実と向き合おうと視線を真正面へと向ける。

 そもそも、オフとはいえ、敵対しているこの二人といつまでも一緒にいる必要などない。馴れ合いなどする間柄ではないのに、今もこうして並んでいることには理由があった。

 

 それは目の前にいるいかにもな格好をした銃を持った不審人物……。

 

 

「うるせぇぞ! 騒いだらぶっぱなすぞ! おーう!?」

 

 

 どうやらこの建物、現在進行形で強盗の立てこもり被害にあっているようだ。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 特に意味のない挑発と探りをラウラとシールが入れながら建物の出口へと向かっていた。オフといえど敵同士、建物から出ればそこでサヨナラとなる運びであった。さすがにフレンドリーなアイズでも、これ以上シールを引きとめようとは思わないし、ラウラはずっと警戒しっぱなし、シールはあからさまに迷惑そうな態度をとっている。それでも出口まで同行したのは、ただすぐに別れることが逃げるみたいでなんとなく癪だった、なんてどうでもいい理由だった。

 そうして正面ロビーにやってきた三人が見たものは、銃を手に客に怒声をあげる複数の覆面を被ったいかにもな男たち。きゃーきゃーと悲鳴が響く中、三人だけはいたって冷静に、なんの動揺もなく人質として集められた集団の中でアイスを食べ始めた。理由は単純、暇だったからだ。

 アイズは気配や声の質で強盗犯たちが内心焦りと恐怖を感じており、人質を確保しているのも単なる強気になるためというところを見抜いていた。少なくとも、撃つ気がないことは手に取るようにわかっていた。

 ラウラは完全にその強盗犯たちがロクな訓練も受けていない素人だとわかっていた。多人数の利点も活かしきれない稚拙な人員配置、そもそも銃の構えからしてなっていない。あれでは撃っても肩を痛めるだけだ。素人集団と判断し、その気になれば制圧する算段を頭の中で整えながら穏便に済ませるために救助を待つことにしている。

 シールはその気になれば簡単に制圧する自信があったが、下手に騒ぎを起こすのはまずいために静観に回った。指名手配こそされていないが、これでもテロリストだ。必要以上に目立つ真似はしたくなかった。

 

 ゆえに、三人は怯える客たちの中で、まるで強盗犯たちを舐めているかのような態度でおしゃべりに興じていた。シールも暇つぶし程度に会話していたのだが、そのけだるそうな感じが人生舐めてる小生意気な小娘みたいで周囲の人間をイラつかせていた。甘ったるい姉妹にもイラついている人、そして萌えている人が多数いたりする。

 

「………ずいぶん時間がかかりますね、警察は無能ですか。とっとと突入して確保すればいいものを」

「いろいろ事情があるんじゃないの? なんかこの人たちもここに逃げ込んできたっぽいし、とりあえずこのショッピングモールのお客さんの避難から、でしょ」

「けっこう広いから、概算で一時間ほどか。そのあと交渉で二時間から五時間………それで応じなければ長期戦に持ち込んでの突入か?」

「時間かかりそうだねー。まぁお土産に買ったお菓子でも食べてよっか。あとで買い直さないとね」

「………さすがに、アイスは保ちませんね。仕方ありません、こちらも買い直しです」

「もったいないから食べちゃえば?」

「…………食べます? さすがに一人でこの量はきついので」

「食べる食べるー! やったね! おごってもらうのも醍醐味だって鈴ちゃんが言ってた!」

「おごりません。お金はもらいます。今月はまだ給料日まで遠いのです」

「安月給なの?」

「ウチは歩合制です」

「意外だけどどうでもいい情報だ! ………てか実力主義なんだ」

「清く正しいブラック企業、がモットーらしいので」

「矛盾してるぞ」

「きっとあれだよ! 福利厚生はホワイトだけどやってることはブラック、みたいな? ………あれ、なんかそれだとウチもそんな感じかも」

「えと、まぁ、たしかにうちの会社もまっとうではありませんけど………」

 

 考えてみればカレイドマテリアル社も相当なものだ。秘匿事項が多すぎるし、その内容は爆弾級のものばかりだ。男でも反応する新型コアとそれに対応する全領域対応型量産機、ISに実装可能なサイズの量子通信機器、ISコア生成エネルギーを励起剤として大出力エネルギーを産み出し供給するある意味第二エンジンともいえるエネルギージェネレーターなどなど、世に出したら激震が走る技術が山ほどある。それにアヴァロン島自体がもう明るみに出たら問題ばかりの場所だ。

 そもそも、トップが暴君なんて呼ばれている時点でいろいろとアレだ。

 

 話している内容はちょっとグレーだったが、アイスやお菓子を食べながら三人で話す様子はそのへんにいる年頃の少女のようである。もっとも、ビジュアルはキャラが立ちすぎている三人であったが。

 そもそも、この三人にはストッパーがいなかった。なんだかんだでこの三人、天然属性持ちであった。ツッコミ役がいないこの状況では、誰もそのズレた態度に気付かない。

 

 なので、我慢を超えた強盗犯のひとりがとうとう突っ込んだ。

 

 

 

「てめぇらさっきからうるせぇぞ!? その態度舐めてんのか!? 舐めてるよなぁコラァ!」

 

 

 

…………。

 

………。

 

「…………ん? ボクたち?」

「なんですか、今いいところなのです。邪魔をしないでください」

「こっちは気にせず強盗していろ。そしてさっさと捕まれ。それまでおとなしくしておいてやるから」 

 

 完全に舐めきった態度である。銃を向けてもこの三人はわずかも怯まない。今更銃口を向けられたくらいでビビるようなヤワな経験はしていない。この三人を脅したかったらプラスチック爆弾でも持って来いというレベルだ。

 

「ガキがいい気になってんじゃねぇぞ!? わかってんのか、ここには仲間が十八人も……」

「十八人だそうです」

「バカなのですか? 自分から戦力をばらすとは」

「気配からエントランスにいるのはさらに六人。あとはちょっと遠いね、……この建物に配置されてるみたいだけど」

「おそらく屋上に五人前後、各フロアに二名の配置……ってところか。計画性はあまりないな、どこかを襲撃しようとして失敗してここに逃げ込んだクチか?」

「武装はカラシニコフですか。音からして、整備が行き届いていない粗悪品のようですね。暴発の危険性もありますよ?」

「おそらく横流し品だな。最近、この界隈で新顔の武器商人がいるらしい。うちの諜報部の報告書にそんな記載があったぞ。まぁ、一週間後には殲滅されるだろうが」

「あー、このへんもうちの社長の縄張(シマ)だからねー。どこの馬の骨とも知らないやつが武器密売してるとか知ったら、命(タマ)取りにくるんじゃない? しかも懐刀使って………あーあ、ボク知~らないっと」

 

 片目を眼帯で隠したラウラが、もう片方の目だけで軽く威圧するような視線で刺しながらニヤリと笑う。

 どこまでも真っ白な人外の美しさを持ったシールが、嘲笑を込めて見下している。

 一見すれば人畜無害そうな雰囲気の目隠しをしたアイズが、この異常な状態の中で似つかわしくない無垢な笑みを、恐ろしい言葉と共に浮かべている。

 

 はっきり言って怖い。強盗犯に人質にされているにもかかわらずにここまで平然としているこの三人がまるで人間ではない別種の生き物のように感じられるほどに。その精神が少女のソレでないことが、まるで少女の皮を被ったなにかに見える。

 そしてラウラとシールが苛立ちからほんの少し殺気を込めて周囲を威圧すると、それだけで強盗犯たちはビクッと身体を跳ねさせて身を守ろうという防衛本能のままに銃口を向けた。他の人質となった客たちが悲鳴をあげるが、それでもこの三人は揺るがなかった。恐慌状態に陥りかけていることを悟ったアイズがやれやれと首を振った。

 

「あー、なんかちょっとまずい空気かも」

「もう私が制圧します。姉様はごゆるりとお待ちください」

「いや、ボクがやるよ! ボクがお姉さんだからね! 妹を守るのは姉の務めだもんね!」

「…………面倒ですね、もう私が制圧します。これ以上は時間の浪費です。早く茶番を終わらせてアイスを買い直さないと……」

「じゃ、皆でやろっか。そのほうが早いし」

 

 そのアイズの言葉を合図に、三人が一斉に立ち上がる。そしてアイズとラウラがそれぞれ目隠しと眼帯に手をかけた。

 

「被害が大きくなるからISは禁止ね」

「この程度の輩に使うまでもないでしょう」

「ナイフだけで十分です、姉様」

 

 アイズが目隠しを取り去り、ラウラも眼帯を外す。そしてシールは一度ゆっくりと目を閉じると、カッと力強く見開いた。

 そして、強盗犯たちが、それを見る。見てしまう。

 

「とりあえず全員を無力化する。そうすれば終わる」

「じゃ、やろっか。シール、今だけは共闘でいいね?」

「仕方ありませんね。足でまといにはならないでくださいよ?」

 

 そこにあるのは、五つの金色の瞳。

 まるで満月のようなそれは、超常の輝きを放ち視界にあるもの、すべてを射抜いた。

 

 




後編は近日に。

書き終わってから思ったけど、出ていないのにオータム先輩の存在感がするのはなんでだ?(笑)

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