双星の雫   作:千両花火

59 / 163
Act.55 「選んだ先の運命」

「赤い瞳……?」

 

 片目だけ開かれたアイズの瞳。ヴォ―ダン・オージェの証である金色の瞳ではなく、まるで宝石のような紅玉の瞳。即座にシールは自身のヴォ―ダン・オージェで解析しようとするが、その結果は驚くべきことにエラーであった。赤い瞳の奥底が覗けない。ヴォ―ダン・オージェの力に絶対の自信を持つシールにとって、それは信じられないことであった。

「なんだというのですか、その瞳は……?」

「………」

 

 アイズは応えない。

 その代わりに、じっとシールをその赤い瞳に捉え続ける。そんなアイズに声が届く。耳からではなく、脳裏に直接響く声だった。

 それは、愛機の『レッドティアーズtype-Ⅲ』のコア――レアからのものだ。深層領域で会話したときと同じく幼いながらも、確かな意思を感じさせる力強い声だ。

 

 

―――おはよう、アイズ。

 

 

「レア……」

 

 

―――『L.A.P.L.A.C.E.』の発動を確認……開放率はおよそ三割。『type-Ⅲ』を封印したままだからこんなものだね。

 

 

「それで十分だよ、ありがとう」

 

 

―――でもあまり時間はないよ。限界まで一分。それであのシールを撤退させる。できるよね?

 

 

「ボクとレアなら、当然」

 

 

―――だね! 私がフォローするよ。それじゃ、いこっか。

 

 

「うん!」

 

 

 ふっと、なにかが憑依するような感覚。同時にアイズの意識に、レアの意識が重なる。コアと操縦者の表層意識がリンク。二心同体の境地へと至る。

 

 今このとき、アイズと『レッドティアーズtype-Ⅲ』は文字通りの人機一体の存在へと昇華された。

 

 人と機械の身体に、二つの意思が宿る。それは正しく束が望んだ、人とISの可能性の到達点の一つ。人だけでも、ISだけでもたどり着けない。二つの道が重なった先にあるISの真の姿――。

 

「なにをごちゃごちゃと!」

 

 シールが接近してくる。これまでは抗うことも難しかったその金色の瞳に映る自身すら認識しながら、アイズはゆっくりとそれを迎え討つ。

 

 

―――右。

 

 

 呟くようなレアの言葉が聞こえると同時にアイズが迎撃態勢を整える。そして、その後にシールがレアの言うように右側面から回り込むように接近戦を仕掛けてくる。

 

 

―――右手刺突から旋回による翼の二連撃。

 

 

 シールが右手の細剣を突き出してくる。その細剣の側面を軽く叩いて受け流し、ウイングユニットによる攻撃が放たれる前に間合いから離脱。結果、これまで脅威だった翼の斬撃が空振りに終わる。

 

 

―――正面。ハイペリオン・ノックス、シザーモードで迎え撃って。

 

 

 即座に『ハイペリオン・ノックス』を変形。巨大なハサミ型のシザーモードへと変形させる。同時にウイングユニットを前面に繰り出してのシールの突撃を受け止める。それどころか、シザーモードの二つの刃に挟み込まれるように自ら武器を差し出す形となる。シールがぎょっとする気配を感じながらも、その隙を逃さずに挟み込む刃に力をかけてウイングユニットの一部を圧切する。

 

「なにが、なにが起こっている……!?」

 

 明らかに先読みの対応をされていることにシールが動揺する。ヴォ―ダン・オージェは正常に稼働している。それなのに、アイズの動きを解析しているのに、その予測が悉く躱されている。まるで、未来でも予知しているかのようにアイズの対処が早い。いや、早すぎる。これでは、本当に―――。

 

「私が動く前に、……なぜ!?」

 

 

―――動揺してる。勝機……パンドラを!

 

 

 レアに言われるまでもなく、シールが見せた隙を逃すつもりのないアイズは即座に残った最後のBT兵器を操る。

 

「いけっ! レッドティアーズ!」

「しまっ……!?」

 

 シールの死角……真後ろからの突撃。如何にヴォ―ダン・オージェとはいえ、見えなければその性能を発揮しきれない。ハイパーセンサーで視野を補っているとはいえ、あくまでそれは補助的なもの。真の力は目視しなければ発揮することはできない。ほかならぬ、同じ瞳を持つアイズだから突くべき弱点もわかっていた。

 シールはその反応速度を活かしきれずに、これまでよりほんのわずかに対処が遅れる。突撃したレッドティアーズがかすめていくが、このBT兵器をギリギリで躱すことは、すなわちパンドラの間合いに入るということである。

 

「ぐううう!」

 

 すぐさまパンドラによる攻撃がシールを襲った。絡みつくように絶大な切断力を誇る鋼線が『パール・ヴァルキュリア』の装甲を微塵切りにしていく。同時にシールドエネルギーに継続ダメージを与え、みるみるうちに『パール・ヴァルキュリア』のエネルギーが減少していく。

 シールはすぐさま捕らえられたウイングユニットをパージして離脱。しかし攻防一体、機動力の増強も担っていた機体の象徴であり主武装である翼を失ったことで、その戦闘能力は半減する。シールは歯噛みしながら、アイズを睨みつける。

 

「アイズ、ファミリア……! あなたは……!」

「………」

 

 向けられるシールの憎悪とも思える重々しい念を受け止める。それでも、アイズは退けない。できることは、すべてを受け止めても己の意思を貫き通すことだけだ。

 わずか数秒でも、永遠のように見つめ合っていたアイズに不意にレアから声が届く。

 

 

 

――――アイズ、もう限界。

 

 

「うん、もう大丈夫。ありがとう」

 

 

―――またね。

 

 

 

 ふっとレアの意識が遠のく。それと同時に人機一体となっていた状態から、ISを纏う普段の状態へとシフトする。コアと意識を融合させていると言っていい能力である『L.A.P.L.A.C.E.』が解除され、アイズの眼も再び金色へと戻る。

 

「か、はぁっ……! はぁ、はっ……!」

 

 トランス状態だった反動からか、体力が抜け落ちていくような疲労がアイズを襲う。体中の細胞が酸素を欲して、結果荒い呼吸を繰り返しながら滝のような汗が流れ出る。まるでマラソンを全力疾走したかのような疲労に、これ以上の戦闘は厳しいと嫌でもわかってしまう。しかも、シールのヴォ―ダン・オージェを封殺した切り札は既に使用限界だ。シールもかなり消耗させることができたが、このまま戦闘が継続すれば泥沼の消耗戦は確実……それどころか互いに相討ちも有り得る。

 それでも、ここまでの戦果を上げたことは上出来といえる。

 

 信じられないことだが、この能力はもともと戦闘用ではないのだ。だから戦闘行為における使用は本来想定外な使い方だった。それをアイズは戦闘に転用したのだ。

 

 束をして、もはや魔法の域とまで言わしめた完全なヴォ―ダン・オージェの上位互換とも言える情報解析統合能力。ヴォ―ダン・オージェでは、“絶対に”実現し得ない領域にまで達した、人とISが揃って初めて発現する擬似的な未来予知システム。アイズとレッドティアーズのみに許された、人智を超越した禁忌の能力。

 それがアイズとレッドティアーズの切り札、『L.A.P.L.A.C.E.』―――

 

Laws

All the whole of creation

Prediction

Lead

All over

Conbine

Expression

 

 ――――『全領域統合演算式による森羅万象の法則予知』能力。確固とした情報から算出される未来予測を可能とする、ヴォ―ダン・オージェを遥かに上回る規格外のリアルタイム演算予測。そしてこの能力のキーとなるのが、『ラプラスの瞳』と呼ばれる真紅の瞳。

 ISでなければこのシステムを発現できず、そしてアイズでなければこの瞳を発現できない。

 

 無論、その負荷もヴォ―ダン・オージェの比ではない。そのために本来はこの能力を操るために『type-Ⅲ』が存在する。しかし、今回はそれを使用していない。だから能力も限定して発揮している。にもかかわらずにこの有様だ。

 完全に格上だったシールを圧倒し、わずか一分でアイズは戦闘困難なほどに消耗した。如何に扱いにくいものか、いや、いかに人が扱うに過ぎた力かは、一目瞭然であった。

 

 

「……シール、お願い……退いて」

「なにを……!」

「これ以上、ここで戦っても無意味だよ。ボクとの決着は、意味がなきゃいけないんでしょ?」

「………ッ!」

 

 シールはギリリと歯軋りをしてさらに力強くアイズを睨む。

 

「約束する。あなたとは、ちゃんと決着をつける。それまでボクは死なないし、あなたとまた会うまで、誰にも負けない」

「その約束に、いったいなんの意味があるというのです?」

「意味、ね。ないかもしれないけど、でも………」

 

 確かにただの言葉でしかないだろう。律儀に約束を守る間柄でもない。むしろ騙し討ちすら許される敵同士。それは今回の戦いでよくわかった。

 それでも、このシールと出会い、戦うことが運命だというのなら。それを言葉にすれば、その運命は二人をより縛り、結びつける。

 

「ボクも、あなたも。……逃げないし、逃げられない」

「…………いいでしょう。その言葉、努努忘れないことです」

 

 シールが戦闘態勢を解除してゆっくりと後退していく。アイズも、束もそれを追うことはしない。すぐにここから脱出しなければならないのは、むしろこちらなのだ。撤退してくれるならそれを追撃する意味はない。

 

「………その瞳を持つ限り、私からも、戦いからも逃げられない。それが、あなたの運命――」

 

 そんな、呪いのような言葉を残してシールが撤退していく。

 完全に反応が遠ざかったことを確認して、ようやくアイズも警戒を解いた。その途端にぐったりしながら、膝をついてしまう。

 

「く、うぅ……っ」

「無茶しすぎだよ。いくらなんでも」

「ごめんなさい……」

「でも」

「え?」

 

 少し怒ったような声から一転して、今度は楽しげな声をあげる束。顔は隠しているが、その素顔はニコニコと満面の笑みを作っていることだろう。

 

「コアとの会話、コード『type-Ⅲ』を封印したまま『L.A.P.L.A.C.E.』の限定発動、そしてコアとの意識リンク………アイちゃん、君はどこまで私をワクワクさせれば気が済むんだい? ん?」

「え? あの?」

「さぁ、帰ったらたっぷり付き合ってもらうよ? コアのデータ取りと、アイちゃんとのシンクロ係数の関係……うっひょー! テンション上がってキター!」

「た、たばねさぁ~ん!」

 

 子供のように無邪気にはしゃぐ束に、アイズは泣き笑いのような顔でぐったり項垂れてしまう。そんなアイズを優しく抱えながら、束は再び『フェアリーテイル』の虹色の羽を展開して地上へと向かっていく。もう満足に力の入らないアイズはおとなしく抱きしめられている。

 

「うう、束さんの研究に役立つのは嬉しいけど、………また一週間くらい缶詰ですか?」

「さすがの束さんも疲労困憊の女の子にそんな無茶はさせないよ。………たっぷり休んで、栄養をとってから付き合ってもらうから大丈夫! 三食昼寝付きだよ!」

「うぅ~、嬉しくない優しさかも」

「それより、身体はホントに大丈夫? アイちゃんとレッドティアーズは前例がないことばかりやってくれるからね。リスク管理も難しいから、けっこう心配なんだぞい?」

「ボクは、ボクのできることしかしてないですよ」

「そのできることが、規格外なんだよ。アイちゃんは昔から奇跡を起こすのが得意みたいだからね」

 

 アイズ自身は自分が特別だなんて思ったことはない。むしろ、生きていることが幸運だ、とやや悲観的な価値観を抱いていたりする。しかし、束をはじめとした周囲の人間から見れば、地獄の底から這い上がり、笑顔と夢を失わずにいるアイズは十分に特別な人間だった。もっとも、それはもちろんアイズだけでなく、アイズを支えてきた多くの人間たちがいてこそのものだ。

 もっとも、そんな境遇を受け入れ、今へとつなげているアイズの純粋さこそ、彼女の美点であろう。

 

「奇跡じゃ、ないです」

「ん?」

「レアは、ここにいる。それがボクとレアにとっての真実……ボクとレアは、出会うべくして出会った。今は、そう思えます」

「………」

「束さん。この子は、レアは、………束さんを“お母さん”と言ってました。ボクは、そんなレアが羨ましいって思いました。ボクには、誇れる母なんていなかった。レアみたいに、笑顔で自慢できるお母さんが欲しかった」

 

 それは、アイズの切実な願いなのだろう。その言葉には、悲しさや虚しさといった感情が見え隠れしていた。

 

「ボクも、束さんがいたから今、こうして生きてます。ボクを、ボクにしてくれたのはセシィだけど………ボクに生きる術を与えてくれたのは、束さんです」

 

 喪失した両目の視力を回復させるために、束がゼロから開発したのがAHSシステム。

 そして、アイズの願うように、セシリアの隣に立てるように未調整だったレッドティアーズをアイズ専用機に改修したのも束だ。この二つがないだけで、今のアイズは間違いなくいなかった。もし束に出会わなければ、アイズはおそらくセシリアにただ守られるだけの存在だったし、簪や鈴といった友や、妹となったラウラにも出会うことはなかった。

 

「だから、思うんです。ボクも………束さんが、お母さんならよかったって」

「…………」

「だから、レアが羨ましい。束さんを、嬉しそうにお母さんって呼ぶ、あの子が羨ましいんです」

 

 アイズの本心だった。もともと、家族といったものにまったく縁のない身の上だ。信頼できる友には恵まれたが、やはりどこかで親から子に与えられるような無償の愛に飢えていた。

 ただ無条件に寄り掛かれるような安心感を与えてくれる人、それがアイズにとっては束だったのだ。

 

「だからかな。自分の先にも後にも続く命に対して無関心なシールが許せなかった。本当の親をどうでもいいって思ってるボクに、そんな資格はないのかもしれないけど、それでも愛情を抱けない、抱こうとしないことが、どうしようもなく悲しかった」

 

 きっと、それはないものねだりみたいな子供っぽい我侭なのだろう。アイズはそう自嘲気味に呟いた。

 

「あ、ごめんなさい。束さんまだ若いのに失礼なこと言っちゃって……!」

「………ふふっ、あはははは! いやぁ、まったくだよ! 異性とデートすらしたことないのに、おっきな子供ができちゃうとか!」

「えへへ、ごめんなさい」

「でも、ちょっと嬉しかった」

「え?」

「私はね、恨まれる覚悟をしていたんだ」

 

 その声は、アイズが初めて聞くものだった。普段のハイテンションで、エキセントリックな声ではなく、どこか諦観しているかのような、そんな疲れきった声だ。束がこんな声を出していることに、アイズは思った以上に混乱した。

 

「私がISを生み出したのは、空を飛ぶため……そして、あの空の向こうへ―――どこまでも続く宇宙へと行くために……それがはじめの理由」

 

 それはアイズも聞いた話だ。そして今でも共感する願いだった。

 

「でも、宇宙は広いから……寂しくないように、どんなときでも一緒にいる存在が必要だと思った。だから、ISコアに人格を得る可能性を与えた」

 

 素敵な考えだ。アイズは純粋にそう思った。しかし、それを語る束の声には悲しさがあった。

 

「そして私は………みんなにも、私の夢を共感して欲しかった。今にして思えば、これが間違いだったのかもしれないね。結果、ISは世界に受け入れられた。宇宙を目指すパートナーではなく、人が争うための兵器としてね」

 

 束の願いは裏切られ、ISは空を目指すものではなく、逆に上から押さえつける力として利用されてしまった。そして、それを変えるために、兵器としてのISに対抗するために、束はISを兵器として生み出した。それは苦渋の選択だったとはいえ、束にとっては忌まわしいことでもあった。結局、束の夢を利用した人間たちと同じことをしてしまったのだから。

 

「だから、私はISに恨まれると思ってた。生みの親である私が、歪めちゃったから」

「それでも!」

 

 アイズが叫ぶ。束に、これ以上懺悔のような言葉を言わせないために、自らの夢を否定させないために。

 

「たとえ戦うことも、それもISの持つ無限の可能性のひとつです!」

「可能性の、ひとつ……」

「ISは、これから生まれていくんです。そして、いつかみんなが、レアみたいに自分で選ぶんだと思います」

 

 意思を持つということは、選ぶということ。アイズはそう思っている。だから、アイズは昔から今までずっと選んできた。見たい夢があったから、そのための道を選び続けてきた。

 だからISも同じ。意思を持つのなら、ISも自分のあり方を選ぶはず。アイズはそう言っていた。

 レアは、アイズと共にあることを選んでくれた。ブルーティアーズも、セシリアについていくだろう。甲龍は、鈴と共に飽くなき強さを目指すかもしれない。だからこそ、操縦者に呼応するかのように進化しているのだ。

 

「あ、もしかして同じ夢を見ることが条件なのかも? 『type-Ⅲ』の発現って」

「……っ!?」

 

 それは束も考えたことがない仮説だった。全てのISが可能性を持ちながら、それでも未だに二機しか至っていないISの進化の先。その条件は操縦者とコアとの適合だと考えていたが、それだけでは説明できなかった。しかし、ISコアの意思が、操縦者の行先に自らの進化の姿を見出しているのだとしたら―――。

 

「興味深い。うん、興味深い、ね……!」 

 

 束の声に明るさが戻る。無邪気な子供っぽい声だが、それが束らしいそして束が元気になれば、アイズも嬉しい。

 

「そうだね、もともとそのつもりだったけど………本格的に目指してみようか。宇宙を……!」

「おー、ついに!」

「でも、必ず邪魔が入る。今の世界は、宇宙へ出ることを認めないだろうからね」

 

 ISは宇宙進出のためのパワードスーツ。どの教科書にも載っていることだが、それはすでに過去のものだ。世界から見れば、今のISは世界の軍事バランスを左右する重要な存在。それが自分たちの上へと行くことは、すなわち制空権を取られるようなものだ。宇宙へISが出る。それは思っている以上に、世界の反発を招くことだ。

 

「そのために、まだまだ戦わなきゃね。戦いではなく飛ぶために、そのために戦う。きっと矛盾してるのかもしれないけど」

「でも、束さんだけじゃない。ボクだって同じです。………ボクの夢は、束さんの夢。だからボクは、そのために今でも戦っているし、これからもそう」

 

 だから、今も、そしてこれからもアイズは剣を取る。たとえ世界を相手にしても、自分たちの夢を叶えるために。

 

「………そうだね、あの日から、それは変わってない」

「シールの言葉じゃないけど、もし運命があるんだっていうなら………同じ目を持ったことが、ボクとシールを結ぶ運命」

 

 今回の戦いでアイズはそれをはっきりと意識した。確かに、シールと出会い、戦うことはアイズの運命かもしれない。でも、もしそうなら。

 

「そして、同じ夢を持ったことが、ボクと束さんが出会った運命………そう思えば、ステキじゃないですか?」

「運命、ね」

 

 束はそんな不確かな非論理的な考えは好まない。しかし、アイズの言うように、アイズと出会ったことは束にとっての大きな分岐点となったことは確かだ。それは偶然であったとしても、今の束を形作る一番のファクターだった。

 なら、それは確かに運命と呼べるものかもしれない。

 

「なかなか胸キュンな運命もあったもんだね。ま、嫌いじゃないかな。乙女心をくすぐるね!」

「ですよね! 胸キュンですよね!」

 

 ここにセシリアがいればつっこみが入っていたであろうハイテンションな会話を繰り広げる二人。どこか波長が似ている部分があるためか、アイズは束のこうしたノリに素で付き合う稀有な人物だった。敵陣からの脱出途中であるにも関わらずに、つっこみ不在のこの状況では二人の天然系を止めるものはない。

 そんなファンタスティックな会話をしながら、二人は基地の外へと続く脱出口を翔け上がる。

 

「みんなはもう脱出したみたいだね。さ、私たちもこんなとこからはオサラバだよ!」

「いろいろあったけど……二人も救出したし、みんなも無事みたいだし、よかった」

 

 アイズの心境としてはショックなことが多い今回の作戦であったが、みんな無事ならそれでよいと思うことにした。自分のことは、あとでゆっくり整理すればいい。

 シールのいったように、足掻いても逃げられない。いつかまた、確実に自身の過去と向き合うときがくる。それがはっきりわかっただけでも、今は十分だった。

 

「でも、本当に運命ってあるのかも………」

「ん? どしたの?」

「いえ、なんでも……」

 

 未来に生き、そのためにこの命を使うと決めているアイズ。それでも、過去は容赦なく襲いかかってくる。シールは、いうなればアイズの過去が人の形となった存在といえる。

 

 未来に生きることは、過去を生き抜くこと。そして過去は変えられないもの、逃れられないもの。

 

 そんな過去の因縁を断ち切ること――――それが、アイズの戦いとなる。

 

 

「でも、ボクは負けない」

 

 

 アイズは立ち向かう。それが運命でなく、ほかでもない自分自身で選んだ生き方なのだから。




出張があり投稿が遅れました(汗)辛い一週間だった……。

ちなみに『L.A.P.L.A.C.E.』のバクロニムはなんちゃってネーミングなのでロマンだけ感じ取ってください(苦笑)詳しい説明は次回になります。

そして今回はアイズと束の関係に焦点を当ててみました。これが次章の前フリとなります。

後始末と今回のアイズの切り札の説明回を挟んで、束さんを中心とした過去編に移る予定です。本編開始から数年前の束さんとアイズ、セシリアとの出会いを描きます。

その後はまた怒涛の展開を予定しています。いったいいつ終わるんだ、マジで。

地道に頑張っていきます。ではまた次回に!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。