「ふ、ふふ……ついに完成したわ」
「そ、そうだね、おねえちゃん。とうとう出来たね……!」
人の気配が少なくなった夏期休暇中のIS学園の技術棟の一室で、姉妹の歓喜の声が響いた。二人の目の下には隈ができており、据わった目はホラーのようだ。ふたり揃ってもとからくせっ毛だが、髪もボサボサ、活発系美少女とおとなしめ美少女の姉妹はやや残念美少女みたいな風貌に変わっていた。
そんな二人の背後では同じ作業を手伝っていた布仏姉妹が仲良くすやすやと寝息を立てていた。
「私と簪ちゃんの姉妹愛溢れる結晶!」
「いや、溢れてないし」
「もはや原型すらわからない『打鉄・更織姉妹スペシャル』!」
「そんな名前じゃないから」
連日の徹夜作業でアッパー系姉の楯無は変な方向に迷言を口にして、ダウナー系妹の簪による無感情なつっこみが入る。
そしてそんな二人の目の前には生まれ変わった『打鉄弐式』があった。姉妹の和解後、楯無が倉持技研から灰色な手段まで用いて国の認可付きで手に入れたこの機体を夏休みの大半を使って改造したのだ。連日データ取りと改良を繰り返す試行錯誤の繰り返し、コンセプトは変わらずも、より高みに至るために理論と実証を何度も思案し、精査する。模擬戦も幾度となく行った。
中身だけでなく、見た目も大きく変わった。特に目に付くのは、背中に取り付けられているまるで日輪のような大きなリング。新しい機体の象徴であり、最大の武装でもあるその特殊装備は、見るものになにか神聖なものを感じさせるほどの威容を持っていた。
楯無と簪、そして布仏姉妹の四人で考案したそれは、現存するISを見渡してもなかなかお目にかかれない万能武装である。理論的には、攻撃も防御も回避もこれさえあれば事足りる。すべてを賄う究極の万能兵装と、それを操るほとんどフルスクラッチの新型IS。更織姉妹和解の証であり、姉妹の持てるすべてを結集して作り上げた傑作。データ上のスペックではあのティアーズにも勝るとも劣らない機体である。
そう、あくまでデータ上では。
「確かに完成したわ………未完成機が、ね」
「これ以上は、どうしても、どうやっても……無理」
姉妹揃ってガクリと項垂れる。
そう、それは完成とは言えなかった。
確かに理論的にはこれ以上ないほどのものを考え、データも揃えた。しかし、それを実現させる技術だけが足りなかった。例えるなら、空を飛ぶ飛行機の形は考えついても、それをどう活かし、どう動かせばそれが実現されるのかがわからないのだ。これをイメージするように動かせれば理論通りの働きができるのだと確信しているのに、それの動かし方がわからない、要因と結果、その間を結びつける過程だけが足りない。ハイスペックを追求した結果、それは更織のどんな力を使っても実現できないものが必要となってしまった。
更織家のもつコネをフル活用しても、これを解決してくれる人も研究所もなかった。当然、楯無や簪にもできなかった。夏休み中は機体の改造と、研究を重ねていたが、どうしてもこれだけは解決できなかったのだ。
「どうしよう、おねえちゃん……!」
「どうしようって……もうどうにもなんないわ。少なくとも今のままじゃ」
「だよ、ね……」
「だから、頼れるところに協力をお願いするしかないわね」
「頼れるところ?」
しかし、パイプを持つ研究所や高名な技術者にも相談したが、答えはすべて「無理」というものだ。そもそも簪たちの考えた案は「机上の空論」と切って捨てられたほうが多かった。
だから、この問題を解決してくれるもの………いや、そもそも話をちゃんと聞いて力になってくれるところなんてないのではないか、というのが簪の率直な感想だった。
「あるじゃない。………カレイドマテリアル社が」
「っ!? ………で、でもあそこは」
アイズ、セシリア、そしてラウラとシャルロットが所属する魔窟とすら呼ばれる超技術企業。IS関連でも、近年になって参入したにも関わらず、現在ではほぼトップといっていいほどまでの著しい成長をした大企業だ。
その技術力は、『ティアーズ』や『オーバー・ザ・クラウド』を見ればわかるだろう。ただでさえ、あっさりと最先端の先をいくスペック、『ブルーティアーズtype-Ⅲ』の特殊ビット、『レッドティアーズtype-Ⅲ』に搭載されたAHSシステム、そして引力と斥力を操る『オーバー・ザ・クラウド』。それらの規格外のISを生み出したもはや伝説といっていい企業。
期待の斜め上をいくものを次々に生み出すこの企業は魔窟とすら言われ、技術部には頭のネジが五、六個は外れたマッドしかいないともっぱらの噂だ。その中でも最高の頭脳を持つという謎の総責任者はかの天才、篠ノ之束に勝ると言われている。(大正解である)
「無理だよ……たしかにアイズやセシリアさんとは知り合いだけど、そんなことで……」
「大丈夫だって。と、いうかね、もう話は通してるんだな、これが!」
「え?」
「けっこう苦労したけど、おねえちゃんの総力を結集してカレイドマテリアル社技術部責任者に打診してね。快く技術協力を引き受けてくれたってわけ!」
「ほ、ほんとに!?」
「もちもち。というわけで簪ちゃんはイギリス行きだよ。さすがに機密の塊だから技術部には入れないけど、本社のほうで機体を見てくれるって!」
「おねえちゃんすごい!」
「えっへん! もっと褒めていいのよ、簪ちゃん」
「すごいすごい!(……これでアイズに会いにいける!)」
姉を尊敬の眼差しで見つめる簪。機体の技術協力を受けられることもそうだが、カレイドマテリアル社所属のアイズに会えるかもしれないことに恋する心が踊った。不謹慎なようでも、簪にとってアイズ・ファミリアという少女は原動力であり、戦う理由でもある。だから簪にとってそれがなによりも大事なことだった。
そんな妹の心中を察している楯無はちょっと寂しい気もしたが、可愛い妹が嬉しそうにしている姿をみるといろいろ頑張った甲斐もあるというものだ。
ちなみに楯無はカレイドマテリアル技術部責任者のメールアドレスを暗部である更織家の力すべてを使って手に入れたのだが、逆を言えばそれしか手にする情報がなかったといえる。楯無からしてみれば、更織の力でもこれだけ秘匿されるその存在のほうが恐ろしいと感じていた。
まともに申し入れをしても時間もかかるし拒否される確率のほうが高いと判断した楯無は直接メールを送りつけるという賭けに出たのだ。
正体不明の天才科学者を相手に楯無は一世一代の大勝負に臨む心持ちでメールを送信した。
そのときのメールでのやりとりはこのような感じである。
『はじめまして。カレイドマテリアル社技術部の謎の天才科学者様にお願いがあってご連絡させていただきました』
Re:『なにかな君は? いきなり失礼なやつだな、とりあえずもてなしてやるから一昨日おいで』
この返信の時点で楯無は相手への遠慮をやめた。
『私の可愛い可愛い妹のためにあなたの力をかして欲しいんです。だって天才なんでしょう?』
Re:『そんな義理はない。一昨日おいで』
『生憎ですが、義理はあるはずです』
Re:『どんな義理があるってのさ?』
『私の妹は、お宅のアイズ・ファミリアの嫁です』
Re:『なんだとぅ!? アイちゃんに手ぇ出すなんて、どこのどいつだ!?』
『私の可愛い可愛い可愛い妹よ! 私も泣く泣く可愛い妹をアイズちゃんにあげるんですからね! なにがなんでも協力してもらいますからね!』
Re:『ぐぬぬ……ッ! 私が認めない限り交際なんて許さんぞ! 直接見聞してやるよ泥棒猫め!』
『ありがとうございます。気に入っていただけたら協力をしていただきます』
Re:『そんなことになればいくらでも魔改造してあげるよ! アイちゃんの嫁になれるやつがそういるとは思えないけどね! あはははは!』
………などというやりとりがあったらしい。もちろん楯無が送ったメール文は意訳であるが、某天才ウサギはほぼ本文そのままである。ちなみに技術部責任者のアドレスを使ったために、このやりとりは非公開ではあるが、正式なカレイドマテリアル社技術部からの返事という扱いになる。
これを知ったイリーナが束に雷を落としたのは言うまでもない。
こうして簪は知らぬまに世界最強のチートに目をつけられることになった。
更織簪の試練のときは近い。
***
「………報告は以上です。この襲撃での被害総額はおよそ28800ポンドになります」
いつもどおりのイーリスの声が響くが、その内容は凄惨なものだ。
カレイドマテリアル本社の会議室には、総勢三十名に及ぶ幹部たちが顔を合わせていた。場の空気は重く、中でもイリーナは機嫌の悪さを隠そうともせずに舌打ちまでしている。被害総額は日本円換算でおよそ五百万円程度。幸い、人的被害もなく、秘匿レベルの高い情報は守秘できたが、それでも少なくない被害である。
そんな中で場違いなほど若い人物――IS試験部隊隊長を務めるセシリアが挙手をする。
「社長、よろしいですか?」
「ああ、どうした?」
「今回のことで、おそらく『フォクシィ・ギア』の情報が漏れました。男性適合できる新型コアまではバレていないとは思いますが、おそらくなんらかのアクションが出るかと」
「だろうな……仕方ない、予定よりもいくらか早いが、『フォクシィ・ギア』を発表する。………いいな、束?」
モニター越しに参加していた束が「あいよー」と軽く返事をする。確かに予定外ではあるが、想定外ではないためにそれほどまで痛手ではない。深刻なのは、別のことだ。
「しかし、『アヴァロン』への襲撃は今後も予想されます。敵のステルス性は、こちらの防衛レベルをもってしても厳しいレベルです」
「ふむ……束?」
『あれからずっと警戒レベルは上げてる。海洋探知、音波、振動、そして衛生監視までアクティブにしてる。これを掻い潜れるなら見てみたいね』
「とはいえ、防衛戦力は心許ない、というのが本音です。今は試験部隊がいますが、あれは切り札ですし、そうそう出せる部隊ではありません」
「真っ向から攻められれば、いくら察知しても意味はない、か」
「いっそ、『アヴァロン』を明かしますか?」
「それも手だが、そうなると今以上に干渉が増える……IS委員会もそろそろ目障りになってきたからな。あのボンクラども。うちの技術を搾取することしか頭にないバカが……!」
『アヴァロン』を明かせばいろいろな諜報機関がその目を光らせるだろう。そしてそれは間接的に『アヴァロン』に襲撃をかけた組織にも目が向けられることになる。自身を囮にした牽制である。しかし、これは当然様々な組織の干渉が多発することになる。下手をすればそのカレイドマテリアル社の技術が奪われる恐れもある。
どれがベターなのか判断に迷うが、ベストがわからない以上、ベターと思える選択を話し合う。
「………あまり好きではないが、現状維持がベターか。どうしても防衛主体にならざるを得ない」
イリーナがそう締めくくると、重役たちも仕方ないというように頷く。
「ただし、計画は少し早める。それと……イーリス」
「承知しております。亡国機業と関わりのあると思しき組織のリストアップを急ぎます」
「頼む。………皆、これからおそらくさまざまな干渉が起きるだろう。しかし、皆の目標、目的はぶれてはいないはずだ。我らが目指すのは、こんなくだらない世界ではない」
くだらない、と言い切るイリーナに、全員が賛同するように頷いている。セシリアさえもそうだ。
「これからが正念場だ。私の考えに賛同してくれた同志たちよ、これからもよろしく頼む」
***
「セシリア」
「はい?」
会議を終えて退室しようとしたセシリアがイリーナに呼び止められた。イリーナはセシリアを手招きすると、会議室に残るようにと合図を送る。やがてイリーナとセシリア以外が退室すると、先程とは打って変わってだらけたようなイリーナが面倒くさそうに足を組み、頬杖をする。
「おまえに表の仕事だ」
「表……候補生としての仕事ですか?」
裏では極秘試験部隊隊長、そして表では国家代表候補生。それがセシリアの役目だ。裏事情がいろいろと大変なときに候補生の仕事などあまり気乗りはしないが、それも責任なので仕方あるまい。やるからには常に最高を目指すのがセシリアだ。
「それで内容は?」
「候補生同士の模擬戦を申し込まれた。政府のほうで承認した以上、やるしかないわけだ」
「ふむ、まぁそういうことでしたら仕方ないでしょう。しかし、珍しいですね」
セシリアの規格外の強さは候補生というレベルではない。それは他国の関係者もよくわかっているはずなのだ。だから昔はよくこうした交流戦のようなものはあったが、最近では恐れをなしたようにセシリアとの戦いを避けるようになっていた。交流戦とはいえ、国同士の戦いであるためにそう何度も黒星を作りたくないという思惑だろう。
「まぁ、因縁のある相手だろうしな」
「どなたです?」
「申し込んできたのは、中国だ」
「………なるほど、鈴さんですか」
中国代表候補生、凰鈴音。かつてセシリアが倒した相手であり、IS学園では特に親しく付き合っている友人だ。個人的にセシリアが一番心を許している友でもある。もちろん、アイズは別格であるが。
性格はさっぱりしており、裏表がなくわかりやすい。しかし、その小さな身に宿した闘争心は仲間内でも随一であり、格闘戦ではアイズに並ぶ強者だ。セシリアとブルーティアーズtype-Ⅲとは相性がいいために、未だに劣勢に追い込まれたことすらないが、鈴の潜在能力の高さは認めるところである。タッグトーナメントではパートナーとして組んだ仲でもある。
「ふふ、リベンジマッチのつもりですか鈴さん………いつですか?」
「一週間後に、うちの本社のほうのアリーナを使う。まぁ、適当にやっておけ。勝敗は別に問わんが……負ける気はないんだろう?」
「当然でしょう。私は誰が相手でも負ける気はありません」
「ああ、それともう一件……束が馬鹿をした」
「またですか? 今度はなにをしたんですかあの人」
束が馬鹿をするのはもう慣れているように驚きもしないセシリア。イリーナも同様のようで、ため息をつきながら説明する。
「口車に乗せられて日本の候補生の機体の技術協力をすることになった。あのバカ、カレイドマテリアル社技術部総括者として返事しやがった。反故にするのは社の信用に関わる。本来はそんな馬鹿な真似はしないが……仕方あるまい。せっかくだから借りでも作らせる」
「はぁ………まぁ、それならまだマシなほうじゃないですか。ところで、その日本の候補生って……」
「ああ、なんていったか………たしか日本の対暗部組織の娘だ」
「簪さんですか。……楯無会長がいろいろしましたかね……?」
簪の性格を考えると、考えたのも実行したのも姉の楯無だろうと予想する。あの姉バカがなにかしたのだろう。(大正解である)
「当然『アヴァロン』に入れるわけにはいかん。本社のほうで模擬戦と同日にセッティングした」
「そちらのほうはアイズに任せていいでしょう。むしろアイズに会わせろって言ってきそうですし」
「せっかくだ。シャルロットとラウラも連れていけ。表向きは候補生の技術交流とでもしておけばいい。当日のセキュリティレベルは上げておくが……」
「わかりました。こちらも念には念を入れておきます」
外部から人を入れるというのは、それだけで不穏材料の流入になる。鈴や簪ならば大丈夫だと思うが、その関係者に紛れてスパイが入り込もうとするなど日常茶飯事だ。だから同日にして警戒日を絞るというのだろう。
「まぁ、ちょうどいいタイミングかもしれません。鈴さんなら……もしかしたら、私も本気を出せるかもしれません」
「傲慢な台詞だと気づいているか?」
「ええ。しかし、私の自信は決意でもあります。私は、………誰にも負けません」
誰もが見惚れるような笑顔をもって、セシリアは絶対の自信を現した。
***
「うぅ、アイズに会えるのは嬉しいけど、なんで単身で渡英なんだろ……」
イギリスのとある空港に周囲をきょろきょろと見渡しながら不安そうにしている一人の少女がいた。大きなボストンバックを肩にかけ、眼鏡の奥の瞳は初めて訪れた異郷の地に落ち着かなさを感じて揺れているようだ。
姉の楯無によれば、「あちらが簪ちゃん一人をご指名だって。がんばってね」とのことらしい。なにががんばれなのか未だに理解できないが、簪一人で訪ねることも技術協力の条件らしい。
出発間際の姉のどこか戦いに赴く兵士を見送るような眼差しが簪の不安を増長させていた。
これがアイズとの交際を認められるかどうかの瀬戸際であることを、簪本人は知らない。むしろそんな話になっていることすら想像の外である。
簪の目的は未完成の専用機『打鉄・更織姉妹スペシャル(仮)』を完成させるべく技術協力を得ることと、愛しのアイズに会うことである。技術協力は若干不安要素があるが、アイズには事前に連絡を入れておいたので大丈夫だろう。むしろアイズも嬉しそうに「待ってる」と言っていたことが簪には嬉しい。そのときのアイズの声だけでご飯三杯はいける。
そんな大好きなアイズの力になるためにも、どうしても技術協力は欲しい。構想自体は練っているので、あとはそれを実現するための技術のみ。姉が調べたカレイドマテリアル社の技術部総括責任者は天才科学者であると同時に性格破綻者みたいとのことなので、きっと一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、そんなことくらいでは今の簪は引くつもりはない。
アイズのためなら、頭を下げるどころか土下座だってしてみせる覚悟を持って渡英した。
「えっと………ここから本社へは……」
事前に調べたアクセスマップを見ながら不慣れな光景を見渡していく。候補生である簪も世界共用語たる英語くらい読むことも話すこともできる。考えてみれば、IS学園に入学する外国籍の生徒は皆、日本語に精通している。こうした語学に通じていることも候補生たる資格のひとつであろう。
「まずは案内板を探して………あれ?」
空港内の案内板を探していた簪の視界に、なにやら目を引く人物が横切った。赤いチャイナ服風の上着に、ホットパンツという格好で、健康的な足を惜しげもなく晒している。そしてなによりそのトレードマークであるツインテールをゆらゆらと揺らしながらトコトコと歩く少女が一人。
獰猛な肉食動物を思わせるような野性的な表情を浮かべ、どこかウキウキしたように鼻歌まじりに歩くその人物を、簪はよく知っていた。
「鈴さん?」
「ん………あれ、簪じゃない。なにやってんのこんなとこで」
簪にとってもそうだが、鈴にとっても意外だったようで、二人は目をパチクリとしながらしばらく互いを見つめ合っていた。
「なに、とうとう我慢できなくなって愛しのアイズに会いにきたの?」
「うっ、間違ってはいないけど……カレイドマテリアル社に技術協力をしてもらいにいくの」
「ふぅん? なら目的地は一緒ってことね」
「そうなの? 鈴さんはなんで?」
「私は、アイズじゃなくてセシリアに用があってね」
「セシリアさんに?」
わざわざ夏休みも終盤のこの時期に訪れる用事とはなんなのか。簪は聞いてみようかと思ったが、その前に勝手に鈴のほうから楽しそうに話してくれた。
「以前の交流戦で負けたってのは知ってるでしょ? そのリベンジマッチよ。明日、候補生の交流戦って名目でセシリアとヤルのよ」
「ああ、候補生がときどきやるあれか……嬉しそうだね」
「そりゃあそうよ。あたしはいつかあのスカシた面を歪めてやりたいと常々思っていたのよ。ふふふ、見てなさいセシリア……今回はあたしが勝たせてもらうわ」
鈴は力強く拳を握り締めながらそう宣言をする。
大した自信だ。簪から見ても、以前なら鈴はセシリアに及ばないと言い切れるほどの差があったが、それをここまで言い切るということはそれなりの秘策でもあるのだろうか、と興味を向ける。
「ちょうどいいわ。あんたも見ていきなさいよ。あたしがセシリアに勝つ瞬間をね」
「勝つかどうかは別として、確かに興味あるな……」
どちらも実力者なだけに、その対戦カードは大いに興味がある。もしかしたら、専用機の改造になにかしら得るものもあるかもしれない。
かくして二人はアイズやセシリアが所属するカレイドマテリアル社へと向かう。
表向きは、平穏に。
そして裏では騒乱が渦巻く魔窟へと足を踏み入れるのであった。
あけましておめでとうございます。今年もがんばって作品を執筆していきたいと思います。
年末の忙しさに疲れ果てましたが、新年になりまた楽しく書いていきたいと思います。
次回は鈴ちゃんvsセッシー開幕です。原作ヒロインでもっとも強化されている二人の対決となります。
その後は山場となる全員参加の大事件発生、夏休み編がどんどん長くなりますが、お付き合いいただけると幸いです。
それではまた次回に!