双星の雫   作:千両花火

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Act.30 「雫が流れ、すべてが終わる」

「ラウラちゃん、目を……!」

 

 特殊装備をISにインストールする間、アイズとセシリアは機体調整作業を行っていた。スペックデータ自体はもらっていたため、それを元にOSをパッケージ換装後のものへと再調整をする。あとは実際にインストールした装備と合わせ、細かい調整をする必要があるが、前もってできる作業はすべて終えていれば最低限の時間で戦闘行動が可能となる。

 

 しかし、そうしている間にも戦況は大きく動いていた。

 

 束が作った先行試作型第五世代機をラウラが乗ってきたことには驚いたが、ラウラならば任せられると信じた。多少振り回されているようだったが、それでもあの『オーバー・ザ・クラウド』をあそこまで制御できるラウラはやはり優秀な操縦者であった。

 しかし、未だ状況はこちらが不利。しかも、指揮官機と思しきあの白いISまで現れた。さらなる増援がないとも限らない中、実質ラウラだけで戦線を維持している。他の四人も必死になって戦っているが、補給を受けないことには機体のほうが持たない。その分までラウラが抑えてくれているが、あんな高機動を取り続ければラウラの体力はみるみる減っていくだろう。

 

 それだけでなく、ラウラは多数の敵機を相手取るために左目のヴォ―ダン・オージェまで使い始めた。確かに複数同時に戦うことにはあの目は優れた力を発揮するが、そのリスクは計り知れない。アイズのものよりも安定性があるとしても、ラウラはこれまで扱いきれていなかった力だ。

 用意のいい束のことだからあの機体にもAHSが搭載されているはずだが、それでもリスクは残る。長時間の戦闘は確実にラウラを追い込んでいくだろう。

 

「………アイズ、心配なのはわかりますが、作業を続けてください」

「っ、わ、わかってる……!」

 

 セシリアに注意され、意識を再び自機へと向ける。そう、今ラウラの心配をしても、ラウラを助けられない。今飛び出せばラウラが必死になって稼いだ時間を無駄にする。

 今アイズができることは、インストールを終えたとき、すぐに戦線へと復帰できるようにできるかぎり調整をすることだ。

 それがわかるから、アイズは悔しくて歯を食いしばりながらも機体の調整を再開する。

 

「運動パラメータ更新、レッドティアーズ最新データと同期、ハイペリオン、イアペトスを一時破棄、パッケージ追加兵装アームへ腕部操作を接続………コネクト。……反応が重い? なら重量調整オートリファイン開始、インストール後に設定数値を固定。さらに全サブアーム可動域をプラス3に設定」

「火気管制システムをセミオートに。BT兵器操作のみマニュアルに。バランサーチェック……っ、許容エラーを確認。ブルーティアーズのダメージ数値をパッケージに転送、ハーモナイザー起動、機体バランサー再設定」

 

 間違えないようにこうした調整は声に出して行う。セシリアも同様に小声で手順を言いながら同じように調整を行っている。

 

 二人のティアーズの本来の専用パッケージは『ストライクリッパー』、『ストライクガンナー』の比ではない。大きさも、機体そのものを包み込む第二の外装といえるアーマーとなる。機動力の向上だけでなく、装甲強度、武装、レーダー、そのすべてを向上させる。そのハイスペックを実現しているため、機体調整もよりシビアなものが要求される。単純に機体重量が増えただけでも機動のための各設定数値の再調整が必須となる上、火気管制システムもマニュアルだけでは到底動かせないほどの大火力兵装へと変わる。普通なら、十分に時間をかけて不備がないよう最適データを更新しつつ調整するべきものだが、そんな時間は今の二人にはない。しかし、最低限の調整をしなければ操縦に対して機体が追随しなくなる。ただでさえ二人の反応速度は高い。戦闘において操縦イメージとのズレは命に関わる。

 アイズもセシリアも、束から習ったOS調整を思い出しながら必死にデータに目を走らせる。

 

 あと二分、それはアイズとセシリアにとってもひとつの勝敗を決する戦いの時間であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「くらええええぇぇっ!!」

 

 ラウラの咆哮と共に体当たりをするように無人機の頭部を掴み、即座に斥力場を瞬時に高出力で発生させる。掌部デバイスから生み出された斥力によって頭部をそのまま吹き飛ばす。それでもまだ動く無人機に対し、もう片方の掌部デバイスを胴体部に当て、同じように破砕する。

 確かに強力という言葉でも足りないほどの圧倒的な性能を持つ『オーバー・ザ・クラウド』であるが、常に一機しか攻撃できないという点で不利な状況を覆せずにいた。遠距離への斥力場は防御にしか使えず、いちいち密着しなければ破壊することができない。それを既にわかっているのだろう、無人機は執拗に遠距離からの射撃でラウラを追い詰めようとしてくる。隙を見て一機を倒せたが、そのときにはすでに包囲されている。

 その包囲網を『オーバー・ザ・クラウド』の性能にまかせた強引な機動によって抜け出す。しかし、それを繰り返す度に敵機の包囲は厚くなり、そしてラウラの体力が削られる。

 

「ぐ、が、ぐぅぅ……!」

 

 いつの間にか口の中に血の味がする。度重なる高速アクロバット飛行にとうとう身体が悲鳴をあげ始めた。しかも今は左目のヴォ―ダン・オージェも使用している。AHSのバックアップを受けているとはいえ、だんだんと目が重く感じてくる。そして頭の痛さも、気のせいではないだろう。

 しかし、今このヴォ―ダン・オージェを解除すればラウラは落ちる。『オーバー・ザ・クラウド』の機動は、すでにこの目の反応速度に頼らなくては制御できないほどの速さを維持している。

 

「まだ、私は……終われない! 終わるわけには……!」

 

 敵の狙いは完全にラウラへと集中している。鈴たちも必死に援護してくれているが、ラウラの速さに追随できる機体は存在していなかった。

 

「くそっ、速すぎて援護もなにもできない……!」

「泣き言言う前に機体を動かしなさい! 一機でもいいから引き付けるのよ!」

「ダメ! もう残弾が……!」

「ラウラ逃げて! このままじゃ……!」

 

 この四人ももう限界だった。意思と気合は十分でも、それを表現するための機体がもう限界なのだ。シャルロット、簪の機体はすでに弾切れが目前。一夏もエネルギーの底がもう見えている。零落白夜を発動するだけの余力がない。

 ただひとり、近接武器と己の格闘の技量のみで戦う鈴だけが獅子奮迅の勢いで必死にラウラの援護をしようと焼け石に水だと理解しながらも無人機に攻撃を仕掛けつづけている。しかし、それも無意味だった。

 今、この拮抗状態はラウラひとりで作り出しているに等しかった。それが鈴たちには辛い。悔しくてたまらないが、機体の消耗を超えて戦う術など存在しない。生身の身体は気合で動かせても機体そのものの限界を越えられない。

 

「くそが……!!」

 

 口汚く自身の不甲斐なさを罵るように言った鈴が唇を噛み締める。最近になってずっと感じていたことだが、鈴の機体『甲龍』の反応がやたらと鈍く感じる。集中すればするほど、鈴のイメージより遅く機体が動く。鈴の操縦者としてのレベルが一段階上がった証明でもあるが、この状況でそれはただ鈴を苛立たせるだけであった。

 そう、鈴だけは、あの高速機動をするラウラが遠目ではあるが見えていた。動体視力という点ではセシリアやアイズにも勝る。だから機体スペックが劣る『甲龍』でもティアーズを相手にある程度は戦えていた。己の技量とセンスだけで、その差を埋めていた。

 だが、その技量もセンスも、この状況では嬲り殺しにされるラウラを見つめることしかできない。鈴の目には、苦しげに呻きながらも、血を吐きながらも必死に戦うラウラが映っていた。

 

 出会いこそ最悪だったが、今の鈴にラウラを疎ましく思う理由はない。いつまでも過去の喧嘩を根に持つほど器量の狭い女ではない。むしろ今のアイズと仲睦まじい様子は微笑ましいとすら思っている。友達、と言ってもいいくらいには心を許したつもりだ。

 

 そんなラウラに頼るしかない現状が悔しくてたまらない。どんどん傷ついていくラウラを庇うことすらできない自分が情けない。

 

 気がつけば噛んだ唇が切れて血の味がしていた。その錆鉄のような血の味が鈴の意識を興奮状態から引き戻す。窮地にこそ頭を冷やす。鈴が熱しやすい自己に戒めていることだ。

 

 

 

――――落ち着け、テンパるのは後、今はできることを探す……!

 

 

 

 あと数分でセシリアたちが復帰する。そうなれば戦況はこちらに傾くはずだ。制圧装備とやらがどんなものかも知らない鈴だが、あの二人のことだからプロミネンスのようなとんでもないものだろう。

 しかし、その数分が遠い。ラウラの様子を見る限り、長くは持ちそうにない。しかし、ラウラがいなければとっくに自分たちは落とされている。

 ラウラの負担を減らすためには、まずあの高機動をやめること、そうできる状況を作ることだ。だが『甲龍』のスペックではあれに追いつくことはできないし、複数を相手取るような装備もない。

 

 せめて、無人機をもっとひきつけることができれば、自分が前衛になれれば……と、そこまで考えて気づく。

 圧倒的な機動性を持つラウラと二機連携をする手段は、ある。それこそ、自分が前で盾になり、ラウラが後衛から援護するような形で、だ。

 

 そう思い立ったとき、鈴は叫んでいた。

 

「ラウラ! あたしを使え!」

「なに……!?」

「あたしを対象として能力を使えって言ってんのよ!」

 

 ラウラは鈴の言いたいことを悟る。斥力と引力を使い鈴を使う。その手はたしかにある。

 

「バカを言え! おまえが持たないぞ!?」

「あたしは一番頑丈よ。それに密集地帯での乱戦ができるのはあたしとアイズくらいでしょう!」

「だが……!」

「いいからやれ! このままだとあんたが死ぬわよ!?」

「…………凰、おまえ」

「バカね、鈴って呼びなさい。友達でしょう? あたしの背中、預けるわよ」

 

 鈴が敵機集団のど真ん中へ向けて突撃する。無茶な特攻であった。近づく間もなく迎撃されるのがオチだ。

 そう、『甲龍』の力だけなら。

 

「やれ!」

「くっ……すまない!」

「ぐ、がッ………!」

 

 鈴の『甲龍』が背後から抗えないほどの力を受け、前方へと押し出される。それはまるで瞬時加速でもしたかのように一瞬で敵機との距離を詰める。鈴は軋みそうな身体を無視して力の限りで『双天牙月』で薙ぎ払う。固まっていた三機の無人機のビーム砲を破壊する。さらに目の前に敵機に対し、掌打を放つ。発勁により衝撃が内部へと浸透し、内部を破壊する。

 

「くうっ……!」

 

 その攻撃直後の硬直を狙い、集中砲火を浴びせようとする無人機よりも前に今度は鈴が同じように強い力に引き寄せられる。いきなり離脱されたことにより無人機は攻撃目標を失ってしまう。いつの間にかかなりの距離を離したところで鈴がラウラに抱えられていた。

 鈴は荒く呼吸を繰り返しながらも不敵に笑ってみせる。

 

「ははっ、うまくいったじゃない」

「無茶をしすぎだ……」

「あんたやアイズの癖が伝染ったかしらね。でも、これで時間は稼げる。みなさいよ、ずいぶん警戒してくれたわ」

 

 『オーバー・ザ・クラウド』の『天衣無縫』による斥力を利用した突撃と、引力を利用した離脱。力任せのそれは本来『甲龍』では不可能な速さでのヒットアンドアウェイを実現していた。もちろん、本来想定されている使い方ではない。鈴にかかる負担は想像以上に大きかった。

 だが、このたった一回の特攻に意味があった。無人機はただラウラを追うのではなく、鈴や他の機体にも注意を払うように警戒しはじめた。警戒をすれば慎重になる。慎重になれば時間を費やす。

 それは鈴たちにとってプラスに働く。ほんの一秒でも多く時間を稼げれば、そのぶんだけ有利に働く。

 

「狙い通り。あたしたちにも注意を払えば、慎重にならざるを得ないでしょ。あの指揮官機が警戒すれば、無人機も自然とそうなるはずだしねぇ」

「………感謝する」

「水臭い。よくやった、って言って欲しいわね」

 

 鈴もラウラも口端から血を流しつつもふっきれたような笑顔で頷き合う。

 

「ラウラ、あたしたちを使う素振りを見せながら速度は抑えて攪乱……シャルロット、あんた残弾は?」

「もう、無茶しすぎだよ……。残弾はもうほとんどない。僕は弾幕は張らずに要所要所で援護射撃するよ」

「その分は私が担う。レールガンは尽きたけど、荷電粒子砲はまだ撃てる余力は残ってる」

「一夏、あんたは……」

「わかってる。俺も、もう零落白夜を使う余力はない。残りエネルギーを全て機動に回して、敵機を引き付ける」

 

 今ならラウラだけでなく全員を警戒している。ラウラの負担も少しは減るだろう。

 ラウラが左目を閉じる。標準装備であったAHSである程度は暴走を制御していたが、ラウラ専用に合わせていない未調整であったためにまだヴォ―ダン・オージェを持て余していた。あのままでは消耗の度合いが加速度的に増していき、いずれは落とされてる前に自身が壊れるとわかっていたラウラは若干の余裕ができたおかげで左目を再び封じた。

 

 注意が全員に分散されたことで時間も稼ぎやすい。いずれ押し切られるのは明白だったが、その前に切り札が来ると信じている面々に恐れはなかった。各々ができる限りのことを必死に行う。

 

 そしておよそ一分が過ぎたころ、待ちに待った回線が繋がる。未だ妨害されているためにややノイズが混じるが、近距離通信のためにしっかりと全員にそれが届いた。

 

 

『全員、射線上から退避を―――』

 

 

 五人が送られてきた射線情報から即座に離れる。そして次の瞬間、いつか見たときと同じ光の奔流が真下から放たれた。極太のビームは無人機を飲み込み、乱戦状態にあったラウラたちと敵機を分断する。

 

「これはあのときの……!」

 

 鈴と一夏には、これも見覚えのあるものだった。無人機襲撃事件において、アリーナの遮断フィールドすらやすやすと消し去った強力なビーム砲。しかし、以前と違うのは、それは二条の光線であったことだ。あんなめちゃくちゃなものが二つも装備したのか、と思うも、その予想を遥かに超えるセシリアとブルーティアーズtype-Ⅲが姿を現した。

 身を隠していた場所の木々はさきほどのビームによって吹き飛ばされ、そこに二つの巨大な砲門を向けた機体が姿を晒していた。

 

 ………いや、あれはISなのだろうか。そう思わずにはいられないほどにそれは常軌を逸していた。

 

 まず大きさ。通常のブルーティアーズのおよそ三倍以上はあろうかという巨体。装甲の形状などの意匠は同じだが、その巨大なパッケージがブルーティアーズtype-Ⅲを覆っていた。よくみれば、それは『ストライクガンナー』と思しき部分が多々見受けられた。そしてさらに背部には四つの巨大なドラム缶のような円柱状のものが搭載されており、装甲の下にあるジェネレーターが唸りを上げている。

 ISという鎧を、さらに覆う鎧。そんな印象を抱かせるそれは上部に装備されたビーム砲『プロミネンスⅡ』を格納すると今度は左右から二種類の重火器を展開させた。それがそれぞれ中心にいたブルーティアーズtype-Ⅲの両腕に接続され、セシリアの動きに連動して砲身が向けられる。

 右手には長大なスナイパーライフル、左手には重厚なガトリング砲。そして背部の巨大なブースターが起動し、瞬く間にその巨体が空へと上がる。

 

「『プロミネンスⅡ』正常稼働……さらに全兵装の起動を確認」

 

 これだけの大火力を制御するシステムだけでもおそろしく精巧な代物だ。そのぶん不備が起きやすいが、あえて一部の兵器をマニュアルにしている。それはシステムの負荷を緊急起動のリスクを考えて軽減するためだ。その分セシリア自身の技量が問われるが、普段からビット十機と本体の同時操作をやっているセシリアにとってそれは「ちょっとキツイかな」くらいの難易度だ。

 

「みなさん、時間をありがとうございます。あとは任せて下がってください」

 

 その言葉に反論する声はない。全員がもう満身創痍なのだ。特にラウラは鈴と簪に支えられながらなんとか意識を保っているような状態だ。全員が大なり小なり傷を負っているので、これ以上無茶をする理由もない。

 

「まかせたわよ、セシリア。あたしたちは下がるけど、そうね。一言だけ言っておこうかしら」

「なんですか?」

「美味しいとこ持っていきやがって。………あとはまかせた」

 

 鈴の言葉に微笑む。ああやって軽口を叩くのも鈴の気遣いだろう。全員が下がっていく姿を確認してからセシリアは敵機へと銃口を向ける。この装備を使うからには、下手をすれば味方機にも被弾させてしまうかもしれないために敵機しかいないことがありがたい。

 

「よくも、好き勝手にしてくれましたね………すべて鉄屑にしてさしあげます!」

 

 それは対多数戦装備、というレベルはとっくに超えていた。

 高機動パッケージ『ストライクガンナー』の真の姿、強襲制圧パッケージ『ジェノサイドガンナー』。その名の通り、殲滅を目的とした重火力・高機動を実現させた火器集約機動要塞とも言うべき機体。

 

「残り三十五機………五分も要りませんね」

 

 侮りもせず、過信もせずにそう判断する。あと気がかりなのは奥にいるあの白い機体だが、あれについては対処を任せている。セシリアはただこの血の通わない鉄屑を処理することだけを考えればいい。

 

「さぁ行きますよ、ブルーティアーズ! すべてを蹴散らしなさい!」

 

 その巨体が大出力のブースターの推進力を受けて進む。一度スピードに乗った機体はそのまま高機動を維持しつつ、両手の火器だけでなく各部に備えてある様々な兵装を展開する。

 

 右腕部、高出力スナイパーライフル『スターライト・レティクル』。

 

 左腕部、徹甲レーザーガトリング砲『フレア』。

 

 外部装甲追加兵装、速射式電磁投射砲『フォーマルハウトⅡ』、近接掃射砲『スターダスト』。

 

 そして主砲である高エネルギー収束砲『プロミネンスⅡ』が二門。

 

 それらを同時に起動。散開しようとする敵無人機を捉える。狙いはある程度つけられればいい。完全に散開する前にセシリアは起動させた火器すべてのトリガーを引く。

 

 まるで雷でも走ったかのように閃光が襲い、敵機を貫き、爆散させる。それにとどまらず、機体を貫き、さらに後方の機体までも貫くそれらの弾丸はどこまでも命を狩ろうと迫る死神のようであった。

 

 『ジェノサイドガンナー』の武装の特徴は、ほぼすべての重火器が貫通力に特化しているという点にある。どんな装甲でも、隔壁でも、たとえ他の機体を盾にしようとすべてを撃ち貫き、殲滅する。それが『ジェノサイドガンナー』の持つ制圧力。一斉射により、残存する無人機の半数を大破、他にも不特定多数に中破のダメージを与える。

 効果を確認したセシリアは『プロミネンスⅡ』をパージ。ジェネレーターの出力を最大にしてもそれぞれ二発しか撃てない兵器だが、効果は最大を得た。

 残る敵機はすでに散開してセシリアを包囲して集中砲火を浴びせようとしているが、既に手遅れだ。セシリアに狙われた時点で逃げ場などありはしない。

 

「『C.W.B』起動、パージ」

 

 背部に搭載されていた四つの円柱状のユニットが切り離され、それがまるでビットのようにセシリアの意のままに飛んでいく。否、それはまさしくビットであった。

 

 

 『Container Weapon Bit』

 

 コンテナ・ウェポン・ビット。ミサイルや大口径バルカンなどを詰め込んだ砲台とも言うべきコンテナを誘導兵器とする規格外のビットである。そのコンテナが展開、バルカンの銃口が現れ、セシリアの背後に迫っていた敵機に弾幕を浴びせる。無論、受ければただですむような攻撃力ではない。

 さらにコンテナ一機につき、十二発のミサイルが発射される。誘導性は高くないが、近距離で爆発を受ければ動きも鈍る。その隙を逃さずセシリアが得意の狙撃で仕留めた。

 

 セシリアがふと白い指揮官機へと意識を向けると、五機ほどの無人機を伴い離脱しようとしているところであった。賢明な判断だろう。だが、そうはさせない。

 

「アイズ!」

 

 セシリアの言葉に答えるように、海面が爆ぜた。水しぶきが吹き上がり壁となり、そしてその中から真紅の機体が躍り出る。セシリアと同じように、ISを更に覆う大型の鎧をまとった巨大な機体、レッドティアーズtype-Ⅲの強襲突破パッケージ『カラミティリッパー』がその姿を現した。

 

「今度は逃がすもんか……! ここで倒す!」

 

 アイズは鬼気迫る顔で白い機体へと迫る。普段の底抜けに明るく、小動物のような表情はなりを潜め、そこに見て取れるのは純粋な怒りであった。

 仲間が戦う姿を見ているしかなかった時間は、たとえそれが最善だと理解していてもアイズにとって拷問に等しかった。そんなとき、多数で嬲るように無人機を操っていたこの目の前の機体には並々ならぬ敵意を抱いた。だからこそ、制圧力に勝るセシリアを信じてアイズはこの指揮官機へ強襲を仕掛けたのだ。本当ならすぐにでも戦いたかったが、ここで逃がすほうが遺恨を残すというセシリアに諭され、アイズは歯を食いしばって機会を伺っていた。

 

 そして、それは来た。

 

 セシリアによって殲滅寸前となったところで、離脱の動きを見せたのだ。護衛はわずか。この機を逃すわけにはいかない。アイズはセシリアに言われるまでもなく、機体ブースターを起動させていた。

 

 

「邪魔だよ、どいてっ!!」

 

 目の前に立ちふさがってくる無人機を見て叫ぶ。両腕に備えられた巨大なブレードが長大なものへと展開し、その刀身が光を纏う。それを軽く振るっただけで無人機が真っ二つに切断される。切り口は鋭利な刃物によるものとは違い、赤熱し融解したように切り裂かれている。刀身部にエネルギーを流すことでその熱量で切り裂く、実体剣とエネルギー刃をかけあわせたハイブリットソード『ハイペリオン・ディオーネ』。

 そしてそれだけにとどまらず、パッケージの装甲部から生えるように四つのサブアームが起動して、同じようにブレードを展開する。合計六つの巨大なブレードを纏うように構え、機体全体を回転、すれ違いざまにさらに二機を輪切りにする。

 

 その直後を狙い、残る二機が側面からビーム砲を発射する。普通ならば回避コースをとるべきだが、アイズは無視してあくまで一直線に向かう。サブアームが折りたたまれ、ブレードが収納されると同時に今度はエネルギー粒子がまるで衣のように機体全体を纏った。

 流動する粒子が流れるように外部装甲を覆い、そこへ直撃したビームが同時に拡散して弾かれる。それは受け止めた、というよりも受け流した、というべき防御方法であった。

 

 『オーロラ・カーテン』―――束が作った試作流動粒子装甲。簪が使用したREFのように真正面から防御するのではなく、つねに流動させた粒子の波によってエネルギーを散らし、攻性のベクトルを受け流して無効化する特殊なエネルギー装甲。敵中突破を主眼においた『カラミティリッパー』に試験装備されたものだが、効果は抜群であった。

 

 人間ならば驚いていただろうが、あくまで無駄な砲撃を繰り返す無人機を同じように真っ二つにして破壊する。これで無人機は消えた。残りもセシリアが駆逐するだろう。

 

 あとは、目の前のこの機体だけ。

 

 だが、ここで思わぬ動きをそれが見せた。なんと、離脱を中断して応戦する構えを見せたのだ。しかも、アイズはその機体から操縦者の並々ならぬ敵意を感じ取っていた。

 まただ、アイズに対し、この操縦者は異常な執着心を見せる。アイズもそれがわかっている。しかし、アイズとて引く理由などない。

 

「逃げる気はない、ってこと……? 受けて立つ!」

「……………!!」

 

 あくまでなにも語らない白いIS操縦者に対し、アイズは全力でぶつかる。

 

 巨大なブレードが振るわれ、白い翼が羽撃く。赤と白の激突は、かつての再現のようだった。

 

 作戦が開始されてから、二時間。戦いはついに最終局面を迎えていた。




ティアーズ無双の始まり。パッケージはロマンと思っている巨大追加装甲としています。いったい束はなにを作る気なのかと言いたいほどの機体になった(汗)

あと何気なく鈴ちゃんにも強化フラグがたちました。ヒロインたちはかっこよくしたいと思いながら書いてますが、鈴ちゃんは特に男前にしたかった(笑)

次回で戦闘は終了です。それではまた次回。

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