双星の雫   作:千両花火

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Chapter 3 『銀の福音』奪還作戦編
Act.25 「平穏と再会の海」


「海だー!」

 

 トンネルを抜けるとそこは海。青く、どこまでも広がる大海がバスから見える景色一面に広がっている。IS学園一年生は今日から三日間、臨海学校が行われる。朝早くから楽しみにしていた生徒たちがわいわいと騒ぎながらバスに揺られ、目的地でもある海が見えたとき、盛大に歓声が上がる。

 

「海はどこにいっても雄大ですねぇ」

「姉様、起きてください。もうすぐ到着します」

 

 窓から見える景色を眺めるセシリアの肩に頭をのせて眠っていたアイズに、逆隣に座っていたラウラが声をかける。アイズはこうした乗り物移動のときは景色を楽しめないために、はじめはラウラやセシリアと談笑していたのだが、眠気に負けてぐっすりと熟睡していた。

 

「ううん……ほんとだ、海の匂い……」

「おはようございます姉様。おしぼりをどうぞ」

「ん、ありがとラウラちゃん」

 

 眠気を拭うようにもらったおしぼりで顔を拭くアイズ。甲斐甲斐しく世話を焼く妹となったラウラが嬉しそうにアイズのそんな様子を見ている。あの一件以来、すっかりアイズに懐いたラウラは今ではクラス公認の目隠し姉妹として知られるようになった。むしろ最近のラウラはアイズと一緒にいるときには、元気良く振られている尻尾を幻視できるほどアイズにべったりだった。不良ウサギから忠犬にジョブチェンジしたようだ。

 ついこの間も仲良く水着を買いに行ったくらいだ。セシリアも同行するべきかと思ったが、せっかく妹ができてなんだかんだいって浮かれているアイズを見て二人で行かせることにした。

 そのあと簪がアイズを誘いにきたが、もうラウラに先を越されたと知るや否や、すぐに追いかけていった。相変わらず同性には異様にモテるアイズにセシリアは苦笑するしかなかった。あとでアイズが帰ってきたときに聞けば無事に簪も合流できたらしい。そのときに一夏とシャルロットが仲良くデートしていたという土産話も聞いた。一夏も相変わらずのようだ。

 

「ほらアイズ、まだ眠そうですよ」

「んー」

「まったく、はしゃいで眠れなかったなんて小学生じゃあるまいし」

「だってこういうみんなで旅行ってはじめてだもん」

 

 よほど浮かれているのか、このアイズはいつもより幼く見える。普段から小柄でロリータボイスなので年齢より幼く見られることが多いアイズだが、やはりはじめて友達との遠出にウキウキしているのだろう。最近はいろいろあったので、こうした気兼ねなく楽しめる旅行は本当に楽しみだったのだろう。

 

「ボク、行楽でいく海もはじめて。死にそうになって泳いだことはあるけど」

「姉様……」

 

 あの事件でアイズの過去を垣間見たラウラが辛そうな顔をする。ラウラにとって決して忘れることができないアイズの過去は思い出しただけでいたたまれない気持ちにさせてしまう。

 そんなラウラの気配の変化を察したアイズが、自身の失言を悟る。すぐにそれを忘れさせるようにラウラに笑いかけた。

 

「ラウラちゃん、いっぱい楽しい思い出を作ろうね」

「は、はい、姉様!」

 

 妹分ができたからか、最近のアイズはやたらお姉さんぶることがある。そうしたちょっと背伸びをしている姿がまた可愛いと評判だったりする。この学園でも「アイズ愛好会IS学園支部」が設立されるのはそう遠くないかもしれない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 宿泊場所である旅館に荷物を置いた生徒たちはすぐさま水着に着替えて海へと向かう。一日目は自由時間ということで、ほぼ全ての生徒が海水浴へと向かった。

 セシリアもあまり泳ぐ気はないが、せっかくなので自身のパーソナルカラーでもある青い水着に着替えてビーチパラソルの下で優雅にカクテルジュースを飲んでいる。いかにもお嬢様というそれは、セシリアに似合いすぎる光景であった。

 パーカーを羽織っているが、見ればすぐにわかるほどのモデルのような完璧な肢体は同性から羨望の眼差しを集めてしまう。

 そんなセシリアの隣では鈴がいて楽しく雑談しているようだが、彼女の体型はセシリアと比べるといろいろと残念なので周囲の人間から意図せずともため息が漏れる。そんなやつらには鈴が「ガルルル」と威嚇するように唸っていた。とはいえ、鍛え抜かれてスレンダーな身体は十分に魅力的といえるのだが、比べる相手が悪かった。

 

「ちくしょー、あたしだってなぁ、筋肉ばっかつけたかったわけじゃないんだよ!」

「鈴さん、鍛えることはいいことじゃありませんか」

「だまれこのもぎたてメロンめ! 女はなぁ、胸じゃないんだよ!」

「同感ですから私を睨むのはやめてほしいのですけど」

 

 少し離れたところではシャルロットと箒という、これまたクラスで上位に入るスタイルを誇る二人を連れた一夏が海へと入っていく様子が見えた。ああいうのをリア充、というのだろうかとセシリアは最近覚えた言葉を思い浮かべていた。

 

「さぁ姉様、こちらです」

「足元気をつけてね、アイズ」

 

 そうしていると、今度はラウラと簪に手を引かれてアイズがやってくる。美少女二人に甲斐甲斐しく世話をされながらやってくるアイズもリア充かもしれない、と割とどうでもいいことを思い浮かべながらセシリア達が三人を迎えた。

 アイズはラウラとおそろいのフリルがたくさんついた可愛らしい水着を着ており、アイズが黒、ラウラが白という色違いのものだ。簪は少しおとなしめのワンピースタイプのものだが、シンプルなそれは簪によく似合っている。

 鈴と体格はほぼ一緒なアイズが意外にも出るところは出ている姿を見てまたも鈴が歯ぎしりをする。が、隣のラウラを見て一転してドヤ顔を浮かべている。調子のいい女である。

 

 流石に海水浴にまで目隠しは無粋と思ったのか、アイズは目隠布を取り去って素顔を晒している。目は閉じられているが、こうしてみるとごくごく普通の少女のようだ。

 

「可愛い水着ですね、アイズ。ラウラさんが選んだのですか?」

「いえ、選んだのは簪です」

 

 ラウラが律儀に答える。このラウラ、アイズの長年のパートナーということでセシリアにも敬意を持って接するようになっていた。初対面や喧嘩のときとのギャップが凄まじく、まだちょっとラウラの敬語に慣れないセシリアだった。

 そんなセシリアに簪が困った顔を浮かべて言う。

 

「………危なかった」

「なにがです?」

「ラウラ、はじめはスクール水着を買おうとしてた」

 

 簪の暴露にセシリアと鈴もジト目でラウラを見る。確かに似合うだろう。ラウラもアイズも、下手をすれば小学生といって通りそうなくらいにロリ属性持ちだ。だからといってそれはない。簪のフォローに拍手したいくらいであった。

 

「う……クラリッサが水着ならこれだと……」

 

 またてめぇかクラリッサ。いつかゆっくりお話をしなければなるまい。……セシリアは顔も知らぬ相手にそんなことを考えながら、ラウラの世間知らずを徐々に矯正していかなくては、と決心する。このままではアイズにまで被害が及びそうだ。

 そんな中、よくわかっていないアイズだけが首をひねっていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「やぁっ!」

 

 振り下ろした木刀が見事にスイカに命中し、綺麗に真っ二つとなる。スイカに向かうまで最短距離で一直線、間合いにぴったりの距離での停止、そして正確な角度での振り下ろし。スイカ割りはこうするんだ、というような見事な実演であった。

 

「てかさ、アイズってもともと目が見えなくて気配察知が超能力級で、おまけに剣の扱いも慣れてるんだからスイカ割りなんてむしろ得意分野なんじゃないの?」

 

 一人目のアイズであっさり終わったスイカ割りを見た鈴の感想である。たしかにアイズにとって普段の生活の延長でしかないだろう。それでもはしゃいでいるアイズを見るとやってよかったと誰もが思う。

 ラウラは「流石です姉様!」と絶賛しているし、簪も「アイズすごい!」と褒め称えている。

 

 このまま終わるのはつまらない、としてセシリアがフォークを投擲してスイカに突き刺すという曲芸を披露。負けじと鈴も発勁でスイカを爆砕するという無駄な技量を見せつけ、食べる前にスイカを木っ端微塵にしてしまう。

 そんなバカ騒ぎでも、アイズにとっては初めてとなる体験だった。ずっと笑顔で、楽しくはしゃぐアイズに、それを見ていたセシリアも嬉しそうに微笑んでいる。

 こんな風に無邪気に笑うアイズを見るのは久しぶりだ。やはり同年代の友をたくさん作ったことが大きいだろう。

 

「よーし、つぎは水泳に挑戦だー!」

 

 元気良く海へと向かうアイズは本当に微笑ましい。セシリアは自分がなんだかアイズの母みたいなことを考えていることに少し自嘲してしまう。アイズは自分が守らなきゃ、と幼い頃の決意が今も続いているからだろうか、と冷静に分析するが、最後にはアイズが笑っているんだからなんでもいい、といつもの結論に達する。

 学園生活なんて、はじめは大丈夫かと心配していたが、アイズにとってはしっかりプラスになったようだ。もちろん、セシリア自身も得たものはたくさんある。もしかしたら、この入学はイリーナの気遣いだったのかもしれないな、と思う。仏頂面をするイリーナが簡単に想像できてクスクスと笑ってしまう。

 

 今だって、アイズがあんなふうに海ではしゃいで―――――。

 

 

 

 

「あぶぶべごばぁっ!!?」

 

 

 

「……って、なに溺れていますのー!?」

「姉様っ!?」

「アイズ!!」

 

 漫画みたいな溺れ方をしているアイズを見た瞬間にセシリアが走り出す。同時にラウラと簪も既にスタートダッシュを切っていた。まるで競争するかのように三人は海へと飛び込み、アイズに向かって一直線に泳いでいく。

 ほとんど同時にアイズの手足を掴んで海中から引きずり上げるとそのまま三人で岸へと連れて行く。引き上げられたアイズがゴホゴホと咳き込みながら海水を吐き出す。どうやら冗談でもなく完全に溺れていたらしい。

 慌てふためく三人をどかして鈴が適切な処置を施し、なんとか落ち着いたアイズに全員がほっと安堵した。

 

「けほけほっ、し、死ぬかと思った……」

「アイズ、てっきり私は泳げるものだと……」

 

 こういうのもなんだが、過去に荒波の海の中を泳いで逃げたという逸話からてっきり泳ぎはできると思い込んでいた。

 

「うーん、ボクもびっくり………こんなに難しかったっけ?」

 

 どうやら過去のあれは火事場のバカ力だったようだ。それともヴォ―ダン・オージェが海を泳ぎ切る適切な対処情報まで与えていたのだろうか。

 

「とにかく、見えない状態で一人で海に入るのは危険すぎます。これからは誰かしらが一緒につくようにしませんと」

「その前にまず泳ぎ方からでしょ」

「アイズ、私が教えるからね」

「姉様、私も手伝います」

 

 そうして今度はやや浅い場所で簪に手を握られてバタ足の練習を始めるアイズ。ラウラは横からアイズに適切なやり方を教えている。あれではどちらが姉と妹かわからないが、ラウラも簪も嬉しそうなのは確かだ。

 

「まったく……でも、あれならまぁ大丈夫ですかね」

「アイズもあれでなかなかの天然だしねぇ、ああやってあの二人がくっついていたほうが、心配事はなくなるんじゃない?」

「鈴さん、あなたは読心術でもあるのですか?」

「あんたのアイズに対する過保護っぷりは理解してるつもりよ」

 

 いつの間にか隣に座っていた鈴にジト目を向ける。この鈴という存在はセシリアが一番親しくしている友人だが、どうにもつかみどころがない。未だに鈴の本性というべきものが見えない。

 わかることは、凰鈴音という人物は激しい気性でありながら、他者への気遣いを忘れない。そしてそれはいつも核心を突くということだ。

 

「本来ならあの二人みたいにつきっきりで世話したいんじゃない?」

「そうですね、否定はしませんよ」

「でも、あんたっていっつもアイズにはどこか一歩下がってるからね。まぁ、相部屋じゃどんだけイチャついてるかは知らないけど、こういうときのあんたってアイズを見守るのが常じゃない」

「よく見てますね。あとイチャついてなんていませんよ」

 

 相部屋でやっていることは一緒に風呂に入ったり一緒に寝たりするくらいだ。別に普通だ、とセシリアは言い切る。おはようとおやすみのキスもするがそれも普通だ。

 

「それってさ、アイズに友達作らせたかったんでしょ? 普通なら、あたりまえみたいなことを、あの子にあげたがっているみたいに見えるけど」

「………」

「なんか、まるでお母さんよ? そういうアンタ」

「………同年代なんですけど、ね。私はただ……」

 

 鈴の指摘にセシリアは苦笑するしかない。それは言われなくても、自覚していたことだ。セシリアの願いは、昔から変わっていない。

 

 願っているのは、たったひとつだけだ。

 

「私は、アイズにたくさん幸せになって欲しいだけですよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 生粋のイギリス人であるセシリアと、もともと国籍不明でもイギリス育ちのアイズは夕食で箸を使った食事に初挑戦をして、四苦八苦しながらなんとか完食。他の人の倍以上の時間がかかった上に正座をして足が痺れるという最悪なコンボを食らい、ふたり揃って悶絶していた。

 普段は完璧なセシリアのこういう姿は珍しいのか、何人かが写メに撮っていたりするが、アイズはまたもラウラと簪の介抱を受けていた。なんだこの差は、とちょっと恨めしく思うセシリアであった。

 その後は少し疲れた様子でみんなと温泉に向かう。これも初体験のアイズはわくわくしながらはしゃいでいた。

 温泉ではラウラや簪と仲良く洗いっこをしていたが、ちゃんとアイズがセシリアの背中も流してくれたのでセシリアは上機嫌だった。そんな面々の身体を見てはまたも鈴が歯ぎしりしながら睨んでいたのは、もう全員がスルーしていた。

 そして温泉から上がると簪に浴衣を着付けてもらい、ほかほかしながら部屋へと戻る。途中で卓球台があったので、明日は風呂に入る前にやってみようとまたひとつ楽しい思い出作りの予定ができる。さすがにアイズは無理じゃないか、という懸念もあったが、アイズは気配察知だけでテニスのラリーができるので本人も乗り気だった。

 

 そんな風にはしゃいでいるアイズを微笑ましく思いながらセシリアがふと何気なく視線をずらす。ちょうど玄関ホールを横切るルートで、今しがたやってきたと思しき旅行客の姿を視認して――――。

 

 

 

 

 大きなカボチャ型のカバンを背負い、髪を赤く染めた束と目があった。

 

 

 

 

「ぶふぅっ!!?」

「ちょ、なによセシリア!?」

「セシィ、どうしたの?」

 

 いきなりのことについ吹き出してしまったが、これはまずい。束の存在を知られるわけにはいかない。なんとかうまい言い訳を考えながらチラリと束を見ると、ドヤ顔で小さく手を振っていた。ムカつく、あのムカつくドヤ顔は間違いなく束だ。いったいなにをやってんだあのウサギ、と内心で盛大に罵声を浴びせておく。

 

「な、なんでもないですよ。ちょっと思い出し笑いですから………おほほ」

「……? ん、あれ、この気配って、たば……むぐっ」

 

 束の気配を察知したらしいアイズを慌てて抑える。アイズはじっと束の方へと意識を向けている。アイズも完全に気付いたようだ。

 

「あ、ボクちょっと用事を思い出した。みんな、先に部屋に戻ってて」

「アイズ、私と一緒に行くという約束でしょう? すみません皆さん、ちょっと外しますね。社のほうに定期連絡がありますので」

 

 セシリアが三流以下の言い訳をするアイズのフォローを入れて、二人そろってその場を離れる。少々不審に思われたが、なんとかなったようだ。そのときはもう束の姿はなかったが、携帯電話に宿泊部屋の番号らしい四桁の数字だけがメールで送られていた。

 その部屋番号を探し、一番奥の部屋までたどり着く。部屋の前にはハロウィンのように顔型にくり抜かれた小さなカボチャがおいてあった。この部屋に間違いないようだ。

 

 コンコン、とノックをして扉を開け、すぐに部屋に入り扉を閉める。あまりこうした場面を見られたくないためであったが、これではまるで逢引のようであった。

 中は灯りが消えたままで、窓から入る月明かりが部屋にいた束の姿を照らしていた。その束の気配を感じ取ったアイズが、まっすぐに束に向かう。

 

「束さんっ!」

「アイちゃーん!!」

 

 アイズと束が同時に駆け出し、部屋のど真ん中で今時もう見ないような感動の再会シーンを演じる二人にセシリアが苦笑する。どこかわざとらしいのに、少し感動してしまうのはあの二人だからだろうか。

 

「感動的ですねぇ」

「っ!? イ、イーリスさんもいらしてたんですか……!? 気配消して背後に立たないで欲しいのですけど」

「ふふ、まだまだですね」

 

 いつの間にか部屋にいたイーリスにセシリアが吃驚するも、束のお目付け役なのだろうと納得する。

 しかし、カレイドマテリアル社の抱える世界最高の科学者と世界最高の護衛を寄越すとは、なにか重大なことでもあるのだろうか、とセシリアが緊張する。そんなセシリアの様子を見て察したイーリスが苦笑して真実を告げた。

 

「束博士が、久しぶりに会いたくなったそうで………私はその護衛で、抑え役です」

「え、それだけですか?」

「一応、新しい装備も持ってきましたけど、目的はあのとおりです」

 

 月明かりに照らされた部屋の中で抱擁を交わす二人。そんな幸せそうな二人を見れば、セシリアも苦笑して見守るしかない。

 むしろ、ただ再会するためだけにここまでやってくる束の純真さは、セシリアには少し羨ましく思えるほどであった。

 

「会いたかったよアイちゃん、目を使ったんだって? 大丈夫?」

「束さんが作ってくれたこの子があるからボクは平気だよ、束さん」

「もう、無理しちゃダメだぞ? 束さん、心配してここまで来ちゃったよ」

「ありがとう、束さん!」

「…………あの、そろそろいいですか?」

 

 ほっとくといつまでも寸劇を見せられそうだったので控えめに声をかける。本人たちが大真面目にやっているのはわかっているのだが、エキセントリックと天然のコラボは思いのほか相性が良すぎるのである。

 

「おお、セッシーも元気だったかい?」

「はい。おかげさまで。そちらはどうです?」

「イリーナちゃんが暴君無双してたけど、まぁいつもどおり?」

 

 セシリアがイーリスを見れば、とても困った顔をしていた。気苦労の絶えないであろうイーリスになにか差し入れをしようと思うセシリアであった。

 

「はい、お土産。大事に使ってね!」

 

 そう言いながら束はセシリアに端末を投げ渡す。ISへの追加機能をインストールするためのデータのようだ。そのデータを表示してスクロールさせて中身を確認していくと、セシリアの顔が徐々に青ざめていく。

 

「束さん……なんですかこの武装は?」

「束さんの新作だよ! セッシーのために用意したんだけど、気に入らなかった?」

「こんな大口径のレールガン、ISに使えば木っ端微塵です! あとなんですかこれ! 歪曲誘導プラズマ砲? こんなもの世に出たら兵器革命どころじゃないですよ!?」

 

 あまりにも高性能すぎる武装にセシリアの平常心が瞬時に削られる。世界最高峰のレールガンと言われる『フォーマルハウト』が可愛く見えるほどの大型レールガンに、障害物に隠れた対象や死角を狙い撃てる“曲げる”ことを前提とした変則ビーム兵器。以前簪が使った電磁反発領域場発生システム“MRF”を攻性に転用させて作ったものらしいが、いくらなんでもこんなオーパーツ兵器をあっさり作る束の恐ろしさを改めて実感する。

 

「あくまで試作だよ、試作。使いすぎるとオーバーヒートするから気をつけてね」

「いったいどんな場面で使えというのですか、こんなバケモノ武装」

「んー、ほら、中ボスとか」

「なんですか中ボスって」

「つぎに出てきた敵でいいんじゃない?」

「そんないい加減な……とにかく、これは必要とするまで封印します。というより、こんなもの使わざるを得ないときが来ないことを祈りますよ」

 

 少なくともIS相手に使っていい武装ではない。絶対防御すら貫くであろう過剰威力のものに、理論上は背後のものすら狙えるという歪曲砲。明らかに時代を間違えたとしか思えない代物である。

 

「もちろんアイちゃんにもあるからね! これを使えば戦艦だって真っ二つだよ!」

「ありがとう、束さん!」

「ダメです! 全長12メートルのエネルギーブレードって、もう剣と呼べるものを超えていますっ! いつからブレードは遠距離武装になったんですか!? 使用禁止です!」

 

 次々に出てくるバケモノ級の武装にセシリアの平常心は木っ端微塵に砕け散った。ここまで衝撃を受けたのは過去に戦略級超長距離狙撃砲『プロミネンス』を受け取ったとき以来であった。

 こんなものを使えるか、と一喝して、拗ねる束を他所にそのほとんどを封印指定にしてしまう。

 

 

 

 しかし、そう遠くないときにこれらの武装が使用されるとはこのときのセシリアは思いもしなかった。




久々の日常編、そしてバトルへの導入編でした。

今作でも屈指のチートキャラ、束さんとイーリスさんが合流しました。
争乱のフラグにしか見えない(汗)

この話ではラウラは専用機を失ったので福音戦には参加しませんがちゃんと新生した忠犬ラウラの活躍があります。

もう一話ほど挟んでバトルパートへと移っていきます。臨海学校編のバトルはかなりの大規模戦になる予定です。

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