双星の雫   作:千両花火

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Act.20 「惹き合う強者たち」

 IS学園の一大イベントである学年別トーナメントの開催。今年は特例として二人一組のタッグ戦という特別ルールで行われるが、そのトーナメントの注目度は変わらずに高い。

 三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果を確認する為に企業や国の関係者が多く集まっている。この日ばかりは観客席も空きが無いほど混雑しており、その注目度の高さが知れるものであった。

 そして、二年、三年の前座という意味合いのある一年生の部だが、今年は少々違った。各国の代表候補生が集まり、世界初の男性適合者までいる今年の一年の部は話題性も多くあった。

 その中でも特に高いのはやはり織斑一夏、シャルロット・ルージュペア。そしてイギリスと中国の代表候補生が組むセシリア・オルコット、凰鈴音ペアであった。一夏の場合、その話題性は今更言うまでもなく、セシリアと鈴も次代を担う存在として名高い操縦者である。アイズや簪はあまり表に出なかったためにほぼ無名の選手という見方がほとんどであった。

 しかし、IS学園の生徒、特に一年生の間ではアイズの実力は広く知れ渡っているために、やはり注目の選手であった。

 

 喧騒で包まれる観客席とは違い、選手達はそれぞれの控え室で最終調整を行っていた。既にセシリアと別れたアイズも、簪と共に機体のチェックを行っている。

 簪の機体は一部はまだ未完成だが、戦闘行動をするには十分な域までには組みあがっている。簪とアイズが二人で作り上げた機体。簪はこの機体に対する思い入れはすさまじいものがあり、この機体でアイズと戦い抜くことを決意している。

 

「………もう名前が変わったんだね、シャルロットさん」

「イリーナさんは仕事早いから。まさか三日後には改名されるとはボクも思わなかったよ。絶対灰色な手段使ったよ……」

 

 三日前、シャルロットが女子生徒用の制服を来て再び転入してくるという騒動があった。そのとき、彼女は自己紹介でこう言った。

 

―――今まで、お騒がせしました。僕の名前は、シャルロット・ルージュです。

 

 それはもう大騒ぎだった。デュノア社の子息かと思いきや、カレイドマテリアル社ご令嬢へとクラスチェンジしているのだ。その経緯については流石にごまかしていたが、それでもシャルロットはどこか吹っ切れたような顔をしていたらしい。それがその場で見えなかったアイズはちょっと残念だった。

 その後にシャルロットに話を聞いてみたところ、イリーナとはもう何度か話したらしく、意外と気が合ったようで、すんなりと縁組の話がまとまったということだ。個別にイリーナにも聞いたところ、どうも本気で気に入ったらしく、しっかりと社のご令嬢として教育する気になったらしい。イリーナには後継者がいなかったから、本格的に後継を作るのかもしれない。

 だからこそこんなスピードでシャルロットの身を奪ったのだろう。普通なら、時間がかかって然るべき案件だが、蛇の道は蛇、この手の世界の渡り方は正道、裏道、回り道すべてを知っているイリーナからすれば朝飯前だったのだろう。

 このシャルロットの転身はまさに夢のようなものだった。もしシャルロットが将来カレイドマテリアル社を継ぐことになれば、アイズの上司になるのであろうか。どこか不思議な未来予想図にアイズも苦笑するしかなかった。

 

「それに、ボーデヴィッヒさんも……」

「そうだね、まさか箒ちゃんと組むとは、びっくりだなぁ」

 

 特にアイズは箒がどれだけISに無関心なのか本人から聞いているだけに出場していること自体に驚いた。ちょろっと聞いたところ、ラウラと相方になる人物がいないために仕方なく組むことになったらしい。その際、二人の間で「なにもしない」という条件で一致したとか。ラウラはラウラで邪魔をしてほしくない、箒は箒でそもそもなにもする気がない。そんな利害の一致だという。

 タッグ、と呼ぶことに疑問があるチームだった。

 

 そしてそんな二人は一回戦第三試合で一夏とシャルロットと戦うことになる。抽選の結果とはいえ、一回戦から目玉となる試合が揃ったものだ。

 

「まぁ、今はとにかく、セシィと鈴ちゃんに勝たないと、ね。正直、最強の敵だと思う」

「遠距離のセシリアさんに、中・近距離の鈴さん。相性もいい……」

「それによく一緒に模擬戦してたから、連携の練度も高いし、……あの二人、けっこう性格も合ってるんだよね」

 

 冷静に見えてけっこう感情的なところがあるセシリアに、感情的に見えて冷静さを失わない鈴。いい按配で似通っている二人だ。熱くなるとき、冷静になるときをしっかりわかっている。そういう人ほど、怖い。

 

「それに、もうボクの隠し武器も鈴ちゃんにバレてるからね。まだ見せてないのはあるけど……」

「セシリアさんは、当然それも全部知っている?」

「そ。ボクもセシィの手の内を知っているようにセシィもボクの手の内を全部知ってる。武装としての奇襲はおそらく通用しない。奇策を練るなら、運用方法でなんとかしないと」

「でも、私の機体は、知らない」

「つい最近までデータすらなかったからね。簪ちゃんの機体データはまったくないはず……それが強みだね。だから一回戦であの二人と戦えるのはむしろ好都合だったかも」

 

 さすがのセシリアもつい先日に完成した機体の情報など持ってはいまい。試験運用は十分とはいえないが、可能な限りバグは取り除いた。ほぼ100%に近い仕上がりとなっているはずだ。

 とはいえ、さすがに急ピッチで作業をしたために一部の武装が間に合わなかったため、カレイドマテリアル社製の武装をいくつか積んである。機動プログラムは束から教わっていたアイズがいたために申し分ないが、そうしたソフトの反面、ハードの面ではやや不安要素が残る。それを既存の武装で補っているため、やはり簪の機体も切り札を除き、武装を要とすることはできなくなり、運用方法の構築が必要となる。

 

「間違いなく、セシィの援護を受けた鈴ちゃんが突っ込んでくる。鈴ちゃんの発勁打撃は防御を無効化するから、必ず回避や受け流す必要がある。それに不可視の衝撃砲っていう牽制武器もあるから、インファイターとしてはこの学園でも間違いなく上位に食い込むはず。……それに、まだ切り札を持ってる気がする」

 

 好戦的なのにどこか冷静さを失わない理性のある肉食獣、鈴からはそんな印象を受ける。そういう人物はなにかしら切り札を隠していることが多い。

 それはセシリアも同じだ。アイズにとって一番知っている相手だが、それでもセシリアはアイズの知らない切り札を隠している気がしてならない。

 アイズが、そうであるように。

 

「セシリアさんは、きっと学園でも最強といっていい実力……」

「楯無センパイの本気はわからないけど……セシィが負けるとは思えないしなぁ」

 

 典型的な遠距離射撃型であるにも関わらず、接近戦すらこなすオールラウンダー。ほとんどの人間はそもそも近づくことすらできずに撃ち落とされる。一夏戦では一夏の力を見るために近接武装も使っていたが、完封することも簡単だったはずだ。

 レーザーによる狙撃は百発百中であり、最大十機を同時展開できるビットによるオールレンジ攻撃は対多数戦でも有効な武装だ。そしてビットには特殊装備を付加させているため、多彩な戦術運用が可能。

 弱点はやはり接近戦だが、そのためにはビットすべてを掻い潜っていかなければならない。しかも接近すればするほどセシリアの狙撃の命中率が上がり、回避も難しくなる。

 

「ヒットアンドアウェイしかない。可能な限り、一撃の威力をあげる」

「そのために、前衛の鈴ちゃんを倒さないと。まずボクが鈴ちゃんとやりあうから、簪ちゃんはセシィの援護射撃を妨害して」

「任せて」

「……とはいえ、鈴ちゃんはそう簡単に倒せる相手じゃないし、なによりボク達がそう考えてることも、あっちもわかってると思ったほうがいい」

 

 よく知る者同士が戦うというのは腹の探り合いだ。傾向がわかっているからこそ対策がわかる。対策を取られるとわかっているからこそ、奇策を用いる。奇策を用いる可能性を捨てられないからこそ、常に奥の手を用意しておく必要がある。

 アイズにしてみれば初見の相手と戦うほうがまだやりやすかった。セシリアのハイスペックさを知っている分、まともに戦っても強いのに策を練られるとどんな手でくるか予想がしにくい。本社では研究部所属の非公開IS実験部隊を率いていたために部隊運用のノウハウも心得ている。鈴をどうやって運用してくるかによって対策が変わる。基本的に先の予想を大きく外れることはないだろうが、それでも油断はできない。

 

「最終的には出たとこ勝負、かな」

「大丈夫……アイズは私が守る」

 

 アイズの小柄な身体を後ろから簪が抱きしめる。既に二人にとっては日常となるスキンシップだった。アイズも簪を信頼しきっているようにその小柄な身体を預けている。

 

「ん、じゃあボクは簪ちゃんを守るよ」

「うん」

「がんばろう、簪ちゃん」

「うん!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 良くも悪くも学生レベルの一回戦第一試合が終わり、続く第二試合の開始時間となる。

 観客は次なる試合に胸を躍らせ、静かにその時を待っていた。おそらく一年では五指に入る四人の激突。事実上の決勝戦とまで言われるその試合がついに開始される。

 

『大変お待たせいたしました。続いて第二回戦を開始いたします』

 

 場内アナウンスが響き、観客が歓声をあげる。このトーナメントを見に来ていた各国の高官や企業の幹部たちも、その試合を注視して見守っている。

 

『第一ピットより、ブルーティアーズtype-Ⅲ搭乗セシリア・オルコット、甲龍搭乗凰鈴音ペア』

 

 すべてを撃ち貫く雫とすべてを打ち砕く龍が解き放たれるようにアリーナへと姿を現す。互いに並ぶようにアリーナ中央へと着地し、それぞれの主武装を構えて相手を待つ。

 二人の登場に会場のボルテージはますます高まっていく。実力もさることながら二人の人気の高さも見て取れる。

 

『第二ピットより、レッドティアーズtype-Ⅲ搭乗アイズ・ファミリア、打鉄弐式搭乗更織簪ペア』

 

 もうひとつの赤い雫と、新生の機体が現れる。

 アイズと簪はセシリアと鈴と相対するようにアリーナの中央へと着地する。

 

「セシィ、こうして“本気”で戦うのはいつ以来だっけ?」

「一年ほど前に、私がアイズのプリンを間違って食べてしまった時の喧嘩以来じゃないですか?」

「ああ、そんなとこともあったっけ」

「あのときのアイズは怖かったですよ? 微塵切りにされましたものね」

「セシィだってボクを蜂の巣にしたじゃん。お互い様だよ」

 

 懐かしい昔話をする二人でも、バイザーに隠れた目は戦意に溢れている。一方のパートナーたちも開戦前の火花を散らす。

 

「それがあんたの機体?」

「そう、……アイズと一緒に作った、私の宝物」

「ふぅん……面白そうね。あんた、自己主張少ないけど実はかなり強いでしょ?」

「どうかな……あなたと戦えるくらいには、強いんじゃないかな?」

 

 好戦的な鈴に簪も挑発を込めて返す。

 四人の視線が交錯して高揚した戦意が溢れる。そして、それを解き放つ時がついにくる。四人が一斉に戦闘態勢へとシフトしたとき、開戦を告げるアナウンスが流れる。

 

 

『一回戦第二試合………開始!』

 

 

 

 ***

 

 

 

 開始直後、両チームが共に同じ動きでフォーメーションを構築する。セシリアと簪は全速で後方へと離脱し、鈴とアイズが全速でそれを追うように突撃する。両者ともにあわよくば開始直後の強襲で後方支援を倒す算段であっただろうその行動は鈴とアイズの一騎打ちを生み出した。

 アイズと鈴はまったく同じタイミングで武器を投擲。「ハイペリオン」と「双天牙月」、二つの大型武器が激突し、一瞬の後に弾かれ、持ち主の手に戻る。互いに出鼻を挫こうとした武器の投擲は不発に終わり、真正面からの激突へつながっていく。

 

「せぇい!」

「やぁっ!」

 

 一瞬の交錯で火花が舞う。

 アイズは鈴の一撃を受け流して捌く。間違っても受け止めてはいけない。そうなれば発勁を叩き込まれて腕が使い物にならなくなる。

 

「相変わらず巧く捌くわね!」

 

 鈴は楽しそうに獰猛な笑みを見せて連撃を仕掛ける。両手に持つ武器だけでなく、蹴撃も含めてくる。蹴りでも発勁打撃ができる可能性を捨てきれないアイズは鈴の脚にも注意を払って慎重にひとつひとつを捌いていく。

 だが、アイズの表情は苦く、鈴は笑っている。

 

 ―――まずい、これは完全にやられた。

 

「ボクの足止めを……!」

「さすがのあんたも、この状況で相方の援護なんてできないでしょう?」

 

 鈴は発勁打撃を決して隙を見せないように放ち続ける。大技を狙わずにただアイズの行動を制限するようことに専念している。いかに受け流しているとはいえ、徐々に発勁のダメージは積もっていく。それがまるで毒のようにじわじわとアイズの体力を削る。

 

「アイズ!」

 

 状況としてはアイズと簪の狙いどおりだが、アイズが鈴に封殺されるとなると話は別だ。鈴はアイズの足止めに専念しており、そんな鈴を倒すのはアイズでも骨が折れる。決定的な隙を見せない限りすぐに倒すのは無理だ。それどころか時間が経てば経つほどアイズが不利になる。

 そして、もともとセシリアを足止めするはずだった簪は、セシリアとの真っ向からの一騎打ちを強いられることになる。アイズがあの状況ではセシリアを足止めするだけでは好転しない。簪は意を決してセシリアへと挑む。

 

「私が倒す……!」

「面白い。あなたがアイズのパートナー足りうるか、試してあげましょう」

 

 簪は腰の両脇から武装を展開する。抱え込むように左右の二つの大型の砲身を手に取り、狙いをつけてトリガーを引く。

 放電しているようなプラズマを纏わせた弾丸が凄まじい速さで発射される。それは空間にオレンジ色の線の軌跡を残して突き進み、一瞬ののちにセシリアをかすめてアリーナの遮断シールドに接触して弾かれた。

 

「レールガン……! しかもそれは……」

「そう、……電磁投射砲『フォーマルハウト』、さすがカレイドマテリアル社製、いい武装」

「なるほど、機体はともかく、専用武器は間に合わなかったようですね。それで代替武器がそれですか」

「手に入れるのにけっこう苦労した」

 

 レールガンの弾速はさすがのセシリアをしても読み違えば直撃も有り得る。いい武器ではあるが、それだけでセシリアを倒せるとは思っていない。

 あっさりと二発目を回避したセシリアが銃口を簪へと向ける。

 

「Trigger」

 

 反撃をしてくるセシリアに簪はさらなる武装を展開して攻撃を加える。一撃の威力は高いが、命中率は高くないレールガンは抑えて使用し、背中に装備した連射型荷電粒子砲『春雷』を起動。もともと搭載を予定されていた中で唯一間に合ったこの『春雷』による牽制射撃を加え、レールガンでセシリアを狙う。

 もちろん、そうやすやすと当たるセシリアではない。六機のビットをパージして簪を囲む。オールレンジによるレーザーを縦横無尽な機動で回避する簪は体勢を崩しながらもセシリアへの攻撃を緩めない。回避するだけならまだしも、反撃までしてくる簪の動きにセシリアは既視感を覚える。

 

「その動き……アイズに習いましたか」

「あなたの射撃の癖と一緒に、ね……!」

 

 機動力が高い打鉄弐式に加え、さらにアイズのレッドティアーズtype-Ⅲの機動データも使っていることで機動に関してはほぼ完璧な仕上がりを見せている。そしてセシリアの射撃の癖、ビット使用時は相手の回避経路を無くしてから最後には狙撃で仕留めようとすることなど、細かく教わっていた簪はなんとかセシリアの土俵である射撃戦での接戦を演じている。

 アイズの過去のセシリアとの対戦データから、ビットの回避機動も十分な情報を得ている。

 

「それでも、甘い」

「っ!」

 

 セシリアが本格的な狙撃体勢へとシフトする。さらに二機のビットをパージして八機のビットによる包囲網を作る。八機のビットはすべてがレーザーを掃射モードで発射し、簪を囲むように弾幕の檻を作り上げる。

 そこへ走る極光。

 威力を高められたレーザーが簪へと迫る。回避ルートは上下左右すべてを潰されている。迷う暇もなくレーザーが簪に直撃、―――。

 

 

「っ……“ERF”、起動っ!」

 

 

 ――――するはずだった。

 

 簪に直撃する直前、そのレーザーが壁に衝突したように受け止められ、拡散して消滅してしまう。これにはさすがのセシリアも驚愕する。

 いつのまにか打鉄弐式の背部に大きなジェネレーターと思しきものが装備されており、そこから光る粒子のようなものを放出していた。

 

「ERF!? そんなものまで用意してましたかっ……!」

「あなたと戦うんだから、当然」

「よくそんな試作品まで……」

 

 簪の機体に積まれた防御用兵器「Electromagnetic Repulsion Field」、通称ERF。電磁反発領域と呼称される防御フィールドの発生装置であり、レーザーの減退を促進させて無効化させる。強力なレーザーといえど、大気中での減退は避けられない。その減退をさせる力場を発生させて防ぐというまさに対セシリアのために用意した武装だ。

 しかし、これは試作品であり、まだまだ運用には問題がある。今回、セシリアには内緒に束にお願いしてデータ取りの条件付きで送ってもらった試作機だが、十分に役目は果たせたようだ。これがなければおそらく今の一撃でやられていた。

 簪はホッと一息つくが、本当の意味での試練はここからだ。

 

「しかし、それはまだ稼働時間が五分程度しかなかったはずでは?」

「………」

「それに、そんなキャパシティを食う使い捨ての兵器に頼れるわけはないのでしょう?」

 

 簪は表情を変えないまでも、内心で舌打ちをする。

 確かに初めてこの武装を聞いたときは反則的な技術力に驚いたが、問題点も多かった。まず拡張領域のキャパシティを多く取ってしまうこと。そして試作機ゆえ、活動時間が五分しか持たないこと。しかも一度起動させ、停止すればもう再起動はできない。つまり、あと五分はレーザーに対して堅牢な防壁を得られるが、それ以降はただのお荷物となってしまう。

 

「さらに言えば、それはあなた自身にも影響を及ぼします。その荷電粒子砲やレールガンすら、威力を妨害してしまう。いえ、試作であれば、あなた自身の機体にも悪影響を及ぼすのでは?」

 

 そう、それが最も問題となるデメリット。まず荷電粒子砲やレールガンといった装備は威力や命中率などの信頼性が落ちるために使用はできない。下手に使うと不具合が出る危険性すらある。

 しかも機体の機動にも影響が出る。本来ならそうした影響を受けないように特殊コーティングを機体に施すのだが、必要最低限しか処理できていないので、機動に若干であるが遅れが出る。

 ならばすぐにでも緊急停止してパージしてしまえばいいのだが、それは同時にセシリア相手にレーザーを防ぐ手段を捨てることになる。

 

「なにも問題はない……ようは、あと五分であなたを倒せばいいだけのこと」

「ERFとはいえ、あくまで減退を急促進させるもの………高威力のものは、防ぎきれませんよ?」

「そんな暇は、与えない!」

 

 簪は武装を変更。右手には訓練機でも使われるオーソドックスとも言える普通の近接ブレード。左手には実弾装備のマシンガン。これまでの武装とは違い、平凡とすらいえる一般的な装備。ERFを搭載したためにこれ以上の武装は積めなかった。しかし、武器としては申し分ない。

 

「あなたは、ここで倒す……!」

「くす……」

 

 制限時間は五分。それを過ぎればこの防御は無意味となり、あの幾条ものレーザーによって貫かれるだろう。

 二体一になれば、アイズも勝目がなくなる。鈴との膠着状態に陥ったアイズを助けるには、簪がセシリアを倒さなくてはならない。

 

 その簪に与えられた時間が、五分。

 

「私が、アイズを守るんだ……!」

「ならば私を倒してその資格があることを示してください。……来なさい、更織簪!」

 

 二対二のタッグ戦は、互いに一対一の戦闘へとなっていた。アイズと鈴は未だに格闘戦による膠着状態のまま、そして簪とセシリアによる一騎打ちがはじまる。

 

 更織簪とセシリア・オルコット。

 

 アイズ・ファミリアのパートナーにならんとする二人の意地のぶつかり合いが始まった。




アイズ対セシリアと思いきや簪対セシリアが始まりました。互いにアイズ大好き同士の戦い、なんかアイズを賭けて戦うみたいな感じに(汗)

次回の主役はなにかとアイズとフラグを立てまくっている簪さんです。それではまた次回!

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