双星の雫   作:千両花火

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Act.148 「宿命収束点」

「月を、……堕とす?」

 

 言われた言葉の意味が理解できずに、アイズが呆けた声を出す。いや、意味はわかる。だが、それを受け入れようとすることができなかった。いったいなにを言っているのだ、というのが素直な感想だ。だが、それを言った人間がマリアベルというだけで、その子供の戯言のような言葉は呪詛のように思えてしまい背筋が凍るような錯覚を感じてしまう。

 

「そんなこと、できるわけない!」

 

 だけど、この人ならもしかしたら―――そんな嫌な予感を振り払うように叫ぶ。

 実際、月を堕とすなどできるはずない、というのは常識だ。あれだけの大質量を動かすなど、スターゲイザーをもってしても不可能だ。

 しかし、それでも不安がぬぐえないのは、アイズの身内に“本当にできそうな人間”がいることだった。―――篠ノ之束。アイズにとって姉同然、そして師であり共犯であり、親友。セシリアの次に付き合いが長い、自他ともに認める世界最高の天才。その時代をあっさりと無視してオーパーツ級の技術をぽんぽん作り出すことから“天災”とも呼ばれる人物だ。

 そんな束なら、「月? うん、堕とせるけど?」などとあっけらかんと言ってのけそうではある。どうすればそんなことができるのか、アイズには想像もできないが、束ならば簡単に実行可能なプランを提示してしまえそうだ。

 そして、そんな束が、自分に並ぶかもしれないと忌々しそうにしながらも認めた人物がマリアベルなのだ。それを証明するように、無邪気そうな笑顔でアイズへと語りかける。

 

「あら、結構簡単よ?」

「えっ」

「ふふ、あなたなら見えるんじゃないかしら?」

「見える……?」

「だってほら、現在進行で、―――――月を落としているんだから」

 

 その言葉に、アイズは思わず視線をシールとマリアベルから外して月へと向ける。高高度にいるため、地上よりも大きく見える月を凝視し、ヴォ―ダン・オージェによる解析を試みる。

 この瞳ならば月の起伏まで完璧に視認できるが、そもそもアイズにとって月は身近に感じるものだった。幼い頃からずっと星空と月を見上げてきたアイズにとって、それは親愛すら感じる光景だ。

 

 ……そのはずであった。

 

「え……?」

 

 すぐに異変を察した。なにかがおかしい。いつも見ていたはずの月なのに、どこかが違うのだ。ほんの少し、なにかが擦れ違っているいるかのような違和感を覚えた。

 いったいなにが、と焦るアイズがそれに気付いたとき、―――血の気が引いた。

 

「え、あ……え?」

 

 唇が震え、驚愕に目を見開く。

 それを受け入れることを躊躇う。その意味を悟ったとき、それがもたらすであろう未来が見えてしまった。未来予知能力など使わなくとも、それがどういう結果を生み出すのかアイズは理解できてしまった。

 それはまさに、深淵を覗いてしまった恐怖そのものであった。ありえるはずのない、あってはいけない異変だった。それが、今目の前にあるのだ。

 

「ど、どうして……!」

「うふふ、理解できたようね?」

「いったい、……いったいなにをしたのッ!?」

 

 それは恐怖を超える怒りから発せられた言葉だった。アイズにとって、マリアベルが行った行為はまさに冒涜そのものだった。

 “月面のズレ”が意味することを、アイズは理解してしまった。

 

「月の公転を止めたの!?」

「ブレーキをかけただけよ? まぁ、このままだといずれそうなるわ」

「なんて、ことを……!」

 

 そう、信じられないが、信じたくもないが………マリアベルは月の公転にブレーキをかけたのだ。いったいどんな力をもってすればそんなことができるのかわからないが、マリアベルの反応からしてそれは間違いないだろう。

 アイズが見た光景は、地球から見える月面がズレているという、本来ならあり得ざるものだった。月は常に同じ面を地球へと向けているため、違う面が見えることなどありえない。今はまだほんのわずか、しかし、確実にその歪みは現れていた。

 

「ね、簡単でしょう? 少し動きを抑えるだけで、いずれ月は地球に落ちるわ」

 

 マリアベルの言葉は真実だった。

 月は常に地球に落ち続けている。それなのに地球に落ちないのは、地球に引かれる力と、地球から遠ざかろうとする力がほぼ釣り合っているためだ。月は毎秒約1kmという速度で動いており、この速度で遠ざかろうとする月は、同時に地球との引力で落ちていく。地球が球形であることで生まれる奇跡のようなバランスで月という衛星は存在している。

 もし、この外へと飛んでいこうとする力が小さくなればどうなるだろうか。結果は明らかだ。地球へと引かれる力のほうが大きくなり、いずれ月は地球へと落ちる。

 無論、これはあくまで机上の空論。誰にも実証などできないことだった。技術的にも不可能としていたことだ。月ほどの質量の動きを制限するなど、まともな方法では不可能だ。

 しかし、目の前の魔女は容易くそれを証拠付きでできると示してしまった。このまま月の公転速度が落ちれば、いずれ修正不可能な歪みとなって地球への落下という最悪な結末を迎えてしまうだろう。

 

「あなたは、……! あなたはいったいなにがしたいんだッ!!?」

 

 理解できないマリアベルの蛮行にアイズが叫ぶ。怒りなのか、恐怖なのか、アイズ自身でもわからない。これまで何度も感じていたことだが、マリアベルが何を考えているのか、何が目的なのかまったく理解できない。

 そもそも、月を堕としてどうする? 地球に深刻なダメージを与えて、いったいどんなメリットがあるというのだ。

 

「だから言ったでしょう? 最後の、最高の舞台を用意するって!」

 

 マリアベルは少し不満そうに頬を膨らませている。せっかく用意した最高の舞台が気に入ってもらえなくて拗ねる子供のようだった。

 

「あなたは眼がいいからわかるでしょうけど、私がしたのは月にちょっとしたブレーキをかけただけ。だから、今ならまだ“加速”させれば元通りよ?」

 

「……え」

 

「もちろん、私がいる限りそんな真似はさせないし、それができるであろう篠ノ之束はこの上で預かっているわ」

 

「ッ!?」

 

「だから、こういうことよ。―――“月を堕とさないためには、私を倒して篠ノ之束を救わなくてはいけない”。……ね? シンプルでわかりやすいでしょう?」

 

 アイズは満足そうに笑うマリアベルの笑顔をぶん殴りたいと本気で思った。なるほど、わかりやすいことは認めよう。マリアベルがいる限り月が正常軌道に戻ることはないし、それに対処できる唯一の可能性となる束は既にマリアベルの手中にある。アイズ達がこの状況を打開するには、マリアベルを、さらに彼女を守るであろうシールを含めた敵をすべて倒し、束を救出するしかない。たとえ束を救出したとしても、マリアベルがいる限り月が戻ることもない、ということだ。怒りでどうにかなりそうだった。

 

「ああ、当然、ダラダラと時間をかけるつもりもないわ。今から六時間。それまでにどうにかできなければ、衛星軌道ステーションを篠ノ之束ごと爆破するわ」

 

「んなッ!?」

 

「ふふ、がんばってね。あなたとセシリアが来れば、他に何人でも連れて来てもいいわ。十分に勝算のあるメンツをそろえることね………ん?」

 

 瞬間―――“真下から”放たれたレーザーがマリアベルに撃ち込まれた。正確無比なその狙撃を、しかしマリアベルはほんのわずかに動いただけで回避する。完全に死角を突いたはずのその狙撃が誰によるものなのか悟ったマリアベルが楽しそうに笑みを浮かべて視線を下へと向けた。

 雲のそのさらに下……わずかな雲の隙間ではあるが、そこに射線を通したスナイパーがマリアベルを睨みつけていた。その手には長大なスナイパーライフルが握られており、狙撃が失敗したことに舌打ちしながらも第二射を狙っていた。

 

「不意をつくいい狙撃だわ、セシリア。有無を言わさない超遠距離の索敵外からの狙撃……いい容赦のなさよ。吹っ切れたみたいね」

 

 挨拶すらする前に仕掛けたセシリアに、むしろ褒めるような言葉をかけるマリアベル。その様子を見たセシリアはさらに不機嫌そうな表情を浮かべた。当然、セシリアの狙撃に気付いていたアイズもまた同時に仕掛けようとしたが、シールに牽制されて動くことすらできなかった。

 今、この瞬間がマリアベルを不意打ちで倒す絶好の機会だった。これに失敗した以上、もうマリアベルの思惑に乗るしかなくなってしまった。

 

「じゃあアイズちゃん? セシリアと一緒に上までおいで。ラスボスらしく、シールと一緒に決戦の舞台で待っていることにするわ」

「私は同意したわけではないのですが」

「それじゃあ待っているわよ。あんまり焦らすとこの子も寂しがっちゃうから、なるべくはやく来てね?」

「私は寂しがってなど――――ー……」

 

 そのシールの言葉が言いきられる前に途切れてしまう。いや、言葉だけじゃない。気が付けばその瞬間にマリアベルとシールの姿が消えていた。

 さすがにもう慣れたもので驚愕こそしなかったが、すぐに周囲を観測して予兆すら視えなかったことを再確認して苦々しい顔を浮かべた。何度見ても、マリアベルの能力が掴めないことに小さくない焦りが生じてしまう。

 一切視線を外してはいなかった。だというのに、まるでフィルムが切り取られたかのように唐突に視界が一変したのだ。ずっとマリアベルの能力を警戒していたアイズは瞬きすらせずに凝視していたというのに、なにも視認できなかったことに眉を顰める。だが、わずかだが収穫もあった。この見かけは瞬間移動のような能力は、マリアベル本人だけでなく、任意で別の対象にも及ぶことが確定した。もちろん、これは悪い情報であった。ますますマリアベルのISの持つ能力の謎が深まってしまった気分だった。

 行先は間違いなく衛星軌道ステーションだろう。

 どうやら本気で先ほどの与太話にも笑い話にもならない最悪なシナリオを実行する気らしい。

 

 高ぶった精神を落ち着かせるように一度眼を閉じて、深呼吸をしつつ再びゆっくりと瞼を開ける。

 深紅色を宿していた瞳は金色へと戻り、同時にレッドティアーズも第三形態を解除する。少し無理をして能力行使をしていたので、瞼が酷く重く感じてしまうが、アイズはその疲れを無視して通信をつなげる。

 

「セシィ」

 

『ええ、コアリンクしていたので、会話は聞いていましたわ』

 

「どうする?」

 

『行きましょう、今すぐに』

 

 セシリアからの返答はアイズとまったく同じ意見だった。

 

「異議なし。ボクたちで決着をつけよう」

 

 実際に、時間はない。六時間と言っていたが、気分屋のマリアベルが本当に待つ保証もない。そして本当に待ってくれているとしても、たったそれだけの時間で部隊を再編制して突入するにはあまりにも短い。なにより、まだ戦闘は終了していないのだ。それならば、今動ける戦力で勝負に出るしかない。

 ドレッドノートパッケージの推進力で急上昇してきたセシリアが、ほんのわずかに速度を落とし、そこでアイズが滑り込み、複座となっているもうひとつの空いている操縦席へとするりと入り込む。

 

「ん、少し被弾した?」

「ええ、ですが、大気圏の離脱に問題はありません」

 

 ドレッドノートパッケージの一部が融解していることからどうやらかなりの手練がいたようだ。無人機では傷一つつけられないだろうから、おそらくは敵の有人機であろうと予測をつけた。しかし、問題ないというのも本当だろう。外殻を焦がした程度で落ちるドレッドノートではない。ひたすら火力を詰め込んだシャルロットのものより、セシリアのこれは特別製だ。

 

「それなら……ッ、セシィ、下!」

「!」

 

 アイズの警告に従い、即座に回避行動を取るセシリア。そして下から放たれた炎の矢を回避する。つい先ほども受けた奇襲に、セシリアが襲撃者の正体を悟り、首だけで振り返ってソレを視認した。

 セシリアの視線の先にいたのは、半壊し、機能停止寸前にまでダメージを受けた一機のISであった。武装のほとんどが破壊され、装甲も穴だらけになっているという、明らかに致命的なダメージがあるその機体を無理矢理に駆り、攻撃を仕掛けてきたらしい。その操縦者であるスコール・ミューゼルは殺意の込められた眼でセシリアを睨みつけている。

 

「しつこいですね」

「セシィ、あの人は……」

「ゾディアックまで使ったんですがね。きっちり破壊しておくべきでしたか。しかし……結果は変わりません」

 

 ドレッドノートの巨体を反転させ、わずかにスピードを落として相対する。後ろ向きに上昇するというアクロバットな機動を維持したまま、セシリアは武装を起動する。確実に落とすために、生半可な威力ではなく、持ちうる中でも最大威力を持つ狙撃銃を展開した。

 

「コール【サジタリウス】、コール【タウルス】」

 

 ドレッドノートパッケージを構成するユニットが起動。二つの武装がパージし、変形展開しながら合体。長大な砲身を持つライフルが二つ合わさったような異質な大型ライフルへと変貌する。そのライフルがドレッドノートへのアームへと接続される。

 超長距離高出力レーザースナイパーライフル【サジタリアス】、そして大口径マテリアルライフル【タウルス】。レーザーと実弾、この二つで同時に狙える特殊狙撃ライフルを構える。トリガーへと指をかけ、スコールの駆る半壊したIS【ゴールデンドーン】へと狙いをつける。スコープ越しに見えるスコールの表情に不可解な思いを抱きながら、悪鬼のように殺意を向けるそれに向け、躊躇なくトリガーを引いた。

 静かに引かれた引き金とは対照的に、二つの銃口からレーザーと実弾が同時に発射される。どちらか一方だけならもしかしたら防げたかもしれないが、的確に狙ってくる二種類の狙撃を同時に対処できる余力はもはやスコールには残されてはいなかった。炎の単一仕様能力で防ごうとするも、レーザー狙撃をほんのわずかに減退させただけで、その瞬間に実弾の狙撃に貫かれた。

 落ちていくスコールを感情のこもらない目で見つめつつ、絶対防御が発動して戦闘不能になったことを今度こそ確認したセシリアは何事もなかったかのように複合ライフルを再変形、再合体させドレッドノートを巡航形態へと戻すと再び衛星軌道ステーションへと向けて飛翔する。

 

「……すごい殺意だったけど、なにかあったの?」

「さぁ。身に覚えのないことですが……あれはおそらく恨みではなく、ただ私が邪魔だったんでしょう。忌々しいほどに、ね」

「それって」

「あの人絡みでしょう。ですが、それこそ私には関係ありませんわ。どのような事情があれ、私達がすることは変わらないのですから」

「……ん」

 

 少しだけ思うこともあるが、アイズもセシリアの言葉に同意する。ほんの少し裏事情を知ってしまったアイズは、落ちていくスコールを見てほんのわずかに眉を堕とした。アイズは、なんとなくではあるがスコールがなにを考えていたのか、わかるような気がしたから。

 しかし、すぐさまその考えを頭から追いやる。ただの感傷であるし、相手に対しても失礼だろう。どのみち、アイズがやることは変わらないのだ。

 視線を背後から前へ―――この蒼穹の果てへと向ける。もはや見据えるのは目の前に立ちふさがる宿敵だけだった。

 

「ドレッドノートでこのまま大気圏を突破します。衛星軌道ステーションに乗り込みますよ!」

「うん! ボクたちで決着をつけよう……今度こそ!」

 

 そして、二人を乗せたドレッドノートが宙へと飛翔する。

 向かう先は蒼穹の果て、宙に浮かぶ占拠された衛星軌道ステーション。待ち受けるのは魔女と告死天使。

 それは数多の因縁の終着点。そしてアイズとセシリア、二人にとっても自身のアイデンティティの根幹に関わる宿命の相手との決着の舞台。

 カレイドマテリアル社と亡国機業。この先の未来すら賭けた最後の戦い。そんなすべての運命を背負い、ついに双星は最後の決戦の場へと誘われた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「セシリアたちが先に上がった? あいつら、自分たちだけで決着をつけるつもりね?」

 

 火凛から通信で現在の戦況を知らされた鈴は舌打ちしながら宙を睨みつけた。まだ地上では戦闘が継続しているが、戦況はセプテントリオン側へと傾いている。それなりに負傷者も被害も出したが、残っていた大型機はすべて鈴が破壊した。あと厄介なのはマドカといったエース級の有人機と、島の外周部に残る無人機群、そして敵の増援として近づいきているという艦隊くらいだろうか。少なくとも、今鈴の目の前にあるD2カタパルトエレベーターの本体を破壊することは現状では不可能だろう。

 

「だったらあたしもつれていくべきでしょーが! あいつめ、あたしを上手く使えって言ったのに!」

『だからじゃないかなぁ。鈴音がそこにいるだけで抑止になるし』

「その信頼はうれしいけど、あたしは戦いたい。あいつらと一緒に」

 

 火凛がなだめるように言うが、鈴はそれでも根に持っているように地団駄を踏む。確かに鈴をD2カタパルトエレベーターの守護に回すだけでその防備は鉄壁となるだろう。戦略拠点となる防衛という意味では鈴を残した意味も、鈴本人も理解している。世界でわずか四機しか確認されていない第三形態移行機を駆る鈴がそこにいるだけで強力な抑止力となるだろう。たとえ大型機が襲ってきても今の鈴なら鎧袖一触だ。

 だが、自分がここいることの戦略的な意味を理解してなお、鈴は戦友と同じ戦場を望む。もともと防衛は性に合わないし、それにいくらあの二人でも敵があの魔女では厳しいだろう。

 無論、あの二人にとっては運命とも言える戦いであろうこともわかっている。それを邪魔するつもりはないが、それでも助力することは間違っていないだろう。あの二人の因縁の決着は、そのままカレイドマテリアル社と亡国機業の決着とイコールだ。

 このまま指をくわえてみているわけにはいかない。

 

「抜け駆けはあいつらの得意技。でも、それはこっちも同じってね。それはあんたらも同じでしょう?」

 

 そう言って鈴は視線の先にいる二機のISへと視線を向ける。

 そこにいたのは、ラウラと簪であった。簪の天照は多少の被弾はあれど、未だに万全の状態に近い。しかしラウラのオーバー・ザ・クラウドは大分ダメージを受けているようで既に半壊に近い有様だった。しかし、操縦者であるラウラはまったく衰えた様子を見せない戦意の込められた力強い眼差しを鈴へと向けていた。

 

「ラウラ、あんた確かあの姿を消すやつと戦ってたはずでしょう? あいつはどうしたの?」

「逃げられた。斥力ソナーにも反応がなかったから離脱したか、もしくは……」

「報告にあった、あの魔女さんの能力かしら? なんか自機だけじゃなくて対象もとるらしいし。対象を取るバフとか、なかなかにチートね。……まぁいいわ。いるとすれば、きっと同じ上でしょう。……それにしてもラウラ、結構てこずったみたいね?」

「退け、などとは言うまい? 姉様が戦っているというのに、私が大人しく退くなどとは思ってはいまい?」

「当然でしょ? とりあえず、急いで補給とできる限りのリカバリーをしてきなさい。準備には少し時間がかかるでしょうから」

「……準備?」

 

 簪がどういうことかと視線だけで疑問を投げかけてくる。それを鈴は自分の背後を示しながらニヤリと笑った。

 

「せっかくいいものがあるんだから、これを使いましょう」

「……話は聞いていたけど、これが」

「ふふん、本当の軌道エレベーター。D2カタパルトエレベーターよ。これを使えば宇宙まであっという間よ、というか、行先はまさに衛星軌道ステーション。最終面までショートカットよ!」

「なんでお前が偉そうなんだ、鈴。ディストーション理論すら理解していないくせに」

「うるさいわね。あたし達にドレッドノートがない以上、こいつを使うしかないわ。先生、カタパルトを使うわ! 用意をお願い!」

『はいはい、そうなるだろうとは思ったよ。十分後に飛ばす。それまでに準備しておいで』

 

 エレベーターやら、カタパルトやらの話はまったく理解していなかったが、簪は要点だけを簡潔に言葉にして確認を取った。

 

「これでアイズのもとへ行けるの?」

「そうなるわね」

「なら、いい――――アイズ、今そばにいくからね……邪魔者は、みんな……」

「姉様、すぐにラウラが参ります。姉様の敵は、すべて私が……!」

「うふふ」

「ははは…!」

「………え、今更だけどあたしがこいつらを引率するの? マジで?」

 

 

 かくして、ここでも宙への道が拓かれた。

 宙へと上がる光の柱。鈴、ラウラ、簪。この三人もまた、決戦の場へ―――最後の戦いへと向かっていく。

 マリアベル、シール、そしておそらくは姿を消したというクロエ。そしてマリアベルの見せた能力を考えるに、無人機がいてもおかしくない。

 シールとクロエも強敵には違いないが、なによりマリアベルの力が未知数だ。最低でもシールに並び、もしかしたらそれ以上の脅威となる存在だ。この面子でも確実に勝てるなどという保証はない。命を落とす危険すらあるだろう。

 そしてアイズとセシリアはもちろんそれを理解しているだろう。いや、覚悟して臨んでいるというべきか。

 そしてそれは最後の決戦の舞台に上がる最低限の資格といってもいいだろう。

 

「行くわよ。覚悟はいいわね?」

「聞くまでもない」

「そんなものはとっくに決めている」

 

 そして三人もまた、同じ覚悟を携えて戦場に向かう。それは理解しているからだ。

 

 戦うこと―――それだけが、望む未来を勝ち取るための唯一の方法なのだ、と―――。

 

 

 




最終決戦パーティ決定。

(味方)
セシリア・オルコット【ブルーティアーズtype-Evol】
アイズ・ファミリア【レッドティアーズtype-Ⅲ】
凰鈴音【甲龍】
ラウラ・ボーデヴィッヒ【オーバー・ザ・クラウド】
更識簪【天照】
???

(敵)
マリアベル【リィンカーネーション】
シール【パール・ヴァルキュリア】
???
???



少し短いですが今回はここまで。それではまた次回に!



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